説明

電子鍵盤楽器の鍵盤装置

【課題】簡単な構成でかつ比較的低コストで製造でき、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を、長期間にわたり安定して得ることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】複数の鍵2と、各々が係合突起11bを有し、対応する鍵2に連動して回動する複数のハンマー5と、不動のホルダ28と、弾性材料で構成され、押鍵時および離鍵時におけるハンマー5の回動の途中に、係合突起11bが一時的に係合し、押鍵時に鍵2のタッチ感にレットオフ感を付与する複数のレットオフ部品6と、を備え、複数のレットオフ部品6の各々は、ホルダ28から、ハンマー28が回動する際の係合突起11bの回動経路Kに向かって延び、ハンマー5の回動に伴って係合突起11bが係合することにより、押鍵時に圧縮され、離鍵時に撓ませられるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの電子鍵盤楽器に適用され、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有する電子鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なアコースティックピアノでは、その構造上、押鍵中における鍵のタッチ重さ(静的荷重)の変化、具体的には、タッチ重さの急激な増加およびその直後の急激な減少が生じることにより、演奏者がピアノを弾くときのタッチ感において、いわゆるレットオフ感が得られる。鍵のタッチ感は、ピアノを弾く上で、また表現力に優れた演奏を行う上でも非常に重要であり、したがって、電子ピアノなどの電子鍵盤楽器でも、アコースティックピアノと同様のタッチ感を得られることが好ましい。そのため、レットオフ感を付与するレットオフ機能を有する種々の電子鍵盤楽器の鍵盤装置が開発されており、従来、例えば特許文献1または2などに開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1の鍵盤装置は、左右方向に並設されるとともに、各々が後端部において回動自在に支持された複数の鍵と、これらの鍵の下側に鍵ごとに回動自在に設けられ、対応する鍵の1回の打鍵における押鍵および離鍵に連動して、上下方向に回動する複数のハンマーと、これらの鍵およびハンマーの後方に配置され、鍵のタッチ感にレットオフ感を付与するためのレットオフユニットなどを備えている。このレットオフユニットは、ハンマー側に突出するジャックと、このジャックを回動自在に支持するとともに、自身も回動自在に支持されたジャックホルダと、このジャックホルダおよびジャックをそれぞれ所定方向に付勢する第1および第2弾性部材などで構成されている。
【0004】
この鍵盤装置では、鍵が押鍵されると、それに連動して、ハンマーが上方に回動し、このハンマーがジャックに下方から当接するように係合する。この場合、ジャックがジャックホルダと一体となって、第1弾性部材の付勢力に抗して後方に回動し、ハンマーがさらに上方に回動することによって、ジャックとの係合が解除される。このように、鍵の押鍵中に、ハンマーがジャックに一時的に係合することにより、そのハンマーに回動方向と逆方向に荷重が一時的に作用することで、鍵のタッチ重さが急激に増加および減少し、それにより、タッチ感にレットオフ感が付与される。この押鍵後に鍵が離鍵されると、それに連動して、ハンマーが下方に回動し、元の位置に復帰する。この場合、その復帰回動の途中において、ハンマーがジャックに上方から当接するように係合することによって、ジャックが第2弾性部材の付勢力に抗して下方に回動し、ハンマーがさらに下方に回動することによって、ジャックとの係合が解除される。
【0005】
一方、特許文献2の鍵盤装置は、上記引用文献1と同様の複数の鍵およびハンマーと、これらの後方に、ハンマーごとに配置され、鍵のタッチ感にレットオフ感を付与するための板ばねなどを備えている。この板ばねは、前後方向に水平に延びるとともに、後端部が所定形状の取付体に固定されている。具体的には、この取付体は、板ばねの上面および下面にそれぞれ接する第1および第2支点部を有しており、第1支点部が第2支点部よりも板ばねの自由端である前端寄りの所定位置に設けられている。
【0006】
この鍵盤装置では、鍵が押鍵されると、それに連動して上方に回動したハンマーが、板ばねの前端部に下方から当接するように係合する。この場合、板ばねは、第1支点部を支点として上方に撓み、ハンマーがさらに上方に回動することによって、板ばねとの係合が解除される。このように、鍵の押鍵中に、ハンマーが板ばねに一時的に係合することにより、特許文献1の鍵盤装置と同様、鍵のタッチ重さの急激な増加および減少により、タッチ感にレットオフ感が付与される。この押鍵後に鍵が離鍵されると、それに連動して、ハンマーが下方に回動し、元の位置に復帰する。この場合、その復帰回動の途中において、ハンマーが板ばねの前端部に上方から当接するように係合し、それにより、板ばねが押鍵時と異なり、第2支点部を支点として下方に撓み、ハンマーがさらに下方に回動することによって、板ばねとの係合が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3862858号公報
【特許文献2】特許3767153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1の鍵盤装置では、レットオフ感を付与するためのレットオフユニットが、互いに回動自在に連結されたジャックおよびジャックホルダ、ならびに第1および第2弾性部材などで構成されるので、全体として部品点数が多く、しかも構造が複雑である。そのため、鍵盤装置の製造コストが高くなってしまう。一方、特許文献2の鍵盤装置では、押鍵および離鍵により、板ばねが互いに異なる支点で上下に撓むので、板ばねの材質などによっては、長期間の使用に伴い、板ばねの撓みによるばね性が低下したり、板ばね自体が変形したりすることがある。このような場合には、押鍵中の適正なタイミングでかつ十分なレットオフ感を得られなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成でかつ比較的低コストで製造でき、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を、長期間にわたり安定して得ることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有する電子鍵盤楽器の鍵盤装置であって、左右方向に並んだ状態で、各々が回動自在に設けられ、押鍵時および離鍵時に互いに反対方向に回動する複数の鍵と、各々が係合部を有し、鍵ごとに回動自在に設けられ、対応する鍵に連動して回動する複数のハンマーと、不動のホルダと、弾性材料で構成され、ハンマーごとにホルダに取り付けられ、押鍵時および離鍵時におけるハンマーの回動の途中に、ハンマーの係合部が一時的に係合し、押鍵時に鍵のタッチ感にレットオフ感を付与する複数のレットオフ付与部材と、を備え、複数のレットオフ付与部材の各々は、ホルダから、ハンマーが回動する際の係合部の回動経路に向かって延び、ハンマーの回動に伴って係合部が係合することにより、押鍵時に圧縮され、離鍵時に撓ませられるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、1回の打鍵における押鍵時および離鍵時に、鍵が互いに反対方向に回動し、これに連動して、対応するハンマーが回動する。また、押鍵時および離鍵時におけるハンマーの回動の途中に、ハンマーの係合部が、対応するレットオフ付与部材に一時的に係合する。このレットオフ付与部材は、弾性材料で構成されており、自身が取り付けられたホルダから、ハンマーが回動する際の係合部の回動経路に向かって延びている。そして、レットオフ付与部材は、ハンマーの回動に伴って係合部が係合することにより、押鍵時に圧縮され、離鍵時に撓ませられる。
【0012】
このように、押鍵時には、回動するハンマーが、レットオフ付与部材に対し、これを圧縮するように係合するので、その反作用として、ハンマーには、レットオフ付与部材からの反発力が作用する。これにより、ハンマーの回動が抑制され、その際の回動抵抗によって、鍵のタッチ重さが急激に増加する。そして、ハンマーがさらに回動し、レットオフ付与部材に対する係合が解除されると、上記の回動抵抗が消失することによって、鍵のタッチ重さが急激に減少する。以上のようなタッチ重さの急激な増減により、鍵のタッチ感にレットオフ感が付与される。一方、離鍵時には、押鍵に伴い、上述したように回動したハンマーが、元の位置に復帰回動する途中に、レットオフ付与部材に一時的に係合し、これを撓ませる。この場合、レットオフ付与部材からハンマーに作用する回動抵抗は、押鍵時に圧縮されるレットオフ付与部材からの反発力による回動抵抗に比べて大幅に小さい。したがって、復帰回動中のハンマーが、レットオフ付与部材に係合しても、そのハンマーは、回動がほとんど抑制されることなく、迅速に復帰回動し、それに伴い、鍵も、押鍵前の位置に迅速に復帰回動することができる。
【0013】
以上のように、比較的簡単な構成のレットオフ付与部材を用いて、鍵のタッチ感にレットオフ感を付与するので、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有する電子鍵盤楽器の鍵盤装置を、簡単な構成でかつ比較的低コストで製造することができる。また、上記のレットオフ感は、レットオフ付与部材をハンマーで圧縮することによって得られるので、板ばねを撓ませる従来に比べて、レットオフ感を長期間にわたり安定して得ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、複数のハンマーの各々は、左右方向に延びる軸線を中心として、押鍵時に上方に、離鍵時に下方に回動するように構成されており、各レットオフ付与部材は、回動経路に向かって延びる本体部を有し、本体部は、その中心線と、ハンマーの係合部が係合する位置を接点とする回動経路の接線との為す角度のうち、上側の角度が下側の角度よりも小さくなるように配置されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ハンマーが、左右方向に延びる軸線を中心として、押鍵時に上方に、離鍵時に下方に回動する。また、ホルダに取り付けられたレットオフ付与部材の本体部は、ハンマーの係合部の回動経路に向かって延び、本体部の中心線と、係合部が係合する位置を接点とする上記回動経路の接線との為す角度のうち、上側の角度が下側の角度よりも小さくなるように配置されている。このように、レットオフ付与部材の本体部を、ハンマーに対して上記のように配置することにより、レットオフ付与部材のハンマーによる前述した押鍵時の圧縮、および離鍵時の撓みを容易に実現することができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材は、本体部の先端に、本体部よりも小さい横断面積を有するくびれ部を介して設けられ、ハンマーの係合部が係合する頭部を、さらに有していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、レットオフ付与部材において、回動するハンマーの係合部が係合する頭部が、本体部の先端にくびれ部を介して設けられている。このため、頭部に外力が作用すると、くびれ部において撓みが生じやすく、それにより、頭部が本体部に対して傾きやすい。
【0018】
押鍵時に、回動するハンマーの係合部が、レットオフ付与部材の頭部に係合すると、ハンマーからの外力が、レットオフ付与部材の頭部を押圧するとともに、くびれ部を介して本体部を押圧するように作用する。また、この押圧直後、ハンマーの係合部は、レットオフ付与部材の頭部を押し上げ、本体部に対して上側に傾かせながら、頭部との係合が解除される。上述したように、頭部は、本体部に対して傾きやすいので、頭部に係合したハンマーの係合部が、頭部から円滑に外れる。以上のようなハンマーとレットオフ付与部材との係合およびその解除により、鍵ごとのばらつきが少なく、安定したレットオフ感を得ることができる。
【0019】
一方、離鍵時に、ハンマーの係合部が、レットオフ付与部材の頭部に係合すると、ハンマーからの外力が、くびれ部において撓みが生じるように作用する。具体的には、レットオフ付与部材の頭部に係合(当接)したハンマーの係合部は、頭部を押し下げ、本体部に対して下側に傾かせながら、頭部から円滑に外れる。このように、離鍵時にレットオフ付与部材に係合したハンマーは、レットオフ付与部材からの回動抵抗をほとんど受けることなく、円滑かつ迅速に係合が解除され、それにより、前述したハンマーおよび鍵の迅速な復帰回動を確保することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材には、くびれ部の上下にそれぞれ、上側スリットおよび下側スリットが形成され、下側スリットは、上側スリットよりも深くかつ下方に向かって幅が大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、レットオフ付与部材のくびれ部の上下にそれぞれ、上側スリットおよび下側スリットが形成されているので、ハンマーの係合部がレットオフ付与部材の頭部に係合した直後に、くびれ部における撓みが上下方向に生じやすく、それにより、両者の係合が迅速に解除される。特に、下側スリットが、上側スリットよりも深くかつ下方に向かって幅が大きくなるように形成されているので、くびれ部における撓みは、離鍵時に下方に回動するハンマーがレットオフ付与部材に係合するときに、より大きくなる。これにより、前述した請求項3の作用効果を、より効果的に得ることができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材には、くびれ部の左右にそれぞれ、左側スリットおよび右側スリットが形成されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、レットオフ付与部材のくびれ部の左右にそれぞれ、左側スリットおよび右側スリットが形成されているので、ハンマーの係合部がレットオフ付与部材の頭部に係合したときに、くびれ部における撓みが、上下方向に加えて、左右方向にも生じやすく、それにより、両者の係合が迅速に解除される。これにより、前述した請求項3の作用効果を、より一層効果的に得ることができる。
【0024】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材の頭部の左半部および右半部の一方が、切り欠かれていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、ハンマーの係合部がレットオフ付与部材の頭部に係合したときに、くびれ部における撓みが、上下方向に加えて、頭部の切り欠かれていない側にも生じやすく、それにより、両者の係合が迅速に解除される。これにより、前述した請求項3の作用効果を、より一層効果的に得ることができる。
【0026】
請求項7に係る発明は、請求項2ないし6のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各ハンマーは、前後方向に延びるとともに後端部において回動自在に支持されており、係合部は、ハンマーの長さ方向の中央から上方に突出していることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、係合部が、ハンマーの長さ方向の中央から上方に突出しているので、係合部をハンマーの回動支点の付近またはハンマーの先端付近に設ける場合に比べて、ハンマー周辺の大幅な設計変更を行うことなく、しかも、押鍵時における適切なタイミングでレットオフ感が得られるように、レットオフ付与部材を比較的容易に設置することができる。
【0028】
請求項8に係る発明は、請求項3ないし7のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材の本体部は、その長さ方向に沿って延びるとともに下方に突出し、互いに左右方向に間隔を隔てて配置された左右一対のリブを有していることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、レットオフ付与部材の本体部に、その長さ方向に沿って延びるとともに下方に突出する左右一対のリブが設けられているので、本体部自体を上下方向に撓みにくくすることができる。例えば、本体部が上下方向に撓みやすいと、押鍵時に回動するハンマーの係合部が、レットオフ付与部材の頭部に係合し、外れる際に、くびれ部に加えて本体部も撓むことで、その外れるタイミングが遅くなり、それにより、安定したレットオフ感を得られないことがある。したがって、上記構成のリブを本体部に設けることにより、ハンマーの係合部が、レットオフ付与部材の頭部に係合した後、適切なタイミングで外れ、それにより、安定したレットオフ感を得ることができる。
【0030】
請求項9に係る発明は、請求項3ないし8のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各ハンマーの係合部は、レットオフ付与部材の頭部よりも大きい左右方向の幅寸法を有していることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、回動するハンマーの係合部がレットオフ付与部材の頭部に係合する際に、その頭部の左右方向の幅全体にわたって、ハンマーの係合部が係合する。これにより、レットオフ付与部材の頭部は、ハンマーの係合部が係合し始めてから外れるまでの間、毎回所定の同じ動きを行うので、毎回同一の安定したレットオフ感を得ることができる。また、レットオフ付与部材の取付け位置が、適正な位置に対して左右方向に若干ずれていても、その取付け誤差を吸収しながら、レットオフ付与部材の頭部とハンマーの係合部との上記の係合を確保することができる。
【0032】
請求項10に係る発明は、請求項3ないし9のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各レットオフ付与部材の本体部は、くびれ部および頭部よりも高い硬度を有していることを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、レットオフ付与部材の本体部が、くびれ部および頭部よりも硬度が高く、比較的硬く構成されているので、この本体部をホルダに取り付けることにより、レットオフ付与部材をホルダにしっかりと安定して取り付けることができるとともに、その取付け精度を向上させることができる。
【0034】
請求項11に係る発明は、請求項1ないし10のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、ホルダおよび複数のレットオフ付与部材が、一体に成形され、ホルダが各レットオフ付与部材よりも硬い所定の硬質材料で構成されていることを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、ホルダと複数のレットオフ付与部材を一体に成形するので、両者を別個に作製し、レットオフ付与部材をホルダに取り付ける場合に比べて、これらの製造効率を高めることができる。すなわち、複数のレットオフ付与部材がホルダに支持された成形品を、効率よく製造することができる。また、ホルダは、レットオフ付与部材よりも硬い硬質材料で構成されているので、ホルダを不動な状態に安定して設置でき、それにより、レットオフ付与部材の適切な位置への配置を確保することができる。
【0036】
請求項12に係る発明は、請求項1ないし10のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、ホルダは、複数のハンマーに対応し、互いに所定間隔を隔てて並ぶように形成された複数の取付け孔を有し、複数のレットオフ付与部材は、各々が、可撓性を有する材料で構成されかつ所定間隔よりも長い所定長さを有する連接部を介して、隣り合うように接続された状態で、一体に成形され、各レットオフ付与部材が、各取付け孔を介して、ホルダに取り付けられていることを特徴とする。
【0037】
この構成によれば、ホルダには、ハンマーに対応し、互いに所定間隔を隔てて並ぶように形成された複数の取付け孔が設けられている。また、複数のレットオフ付与部材は、各々が、連接部を介して、隣り合うように接続された状態で、一体に成形されている。このような複数のレットオフ付与部材を一組として一体に成形された成形品(以下「セット品」という)において、隣り合うレットオフ付与部材同士を接続する連接部は、可撓性を有する材料で構成され、ホルダの隣り合う取付け孔間の所定間隔よりも長い所定長さを有している。これにより、例えば、電子鍵盤楽器の機種ごとに、ホルダにおける取付け孔間の間隔が異なったり、設計変更などにより、ホルダにおける取付け孔間の間隔が変更されたりする場合でも、隣り合うレットオフ付与部材間の連接部を、取付け孔間の間隔に応じて適宜、撓ませることで、レットオフ付与部材間の間隔を調整しながら、セット品の各レットオフ付与部材を、取付け孔を介して、ホルダに取り付けることができる。このように、機種の異なる電子鍵盤楽器に対し、セット品を共通化することができるとともに、ホルダにおける取付け孔間の間隔の変更にも、柔軟に対応することができる。
【0038】
請求項13に係る発明は、請求項12に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、一体に成形された複数のレットオフ付与部材は、ホルダにおける複数の取付け孔の総数よりも少ない所定数のレットオフ付与部材を有する成形品で構成されていることを特徴とする。
【0039】
この構成によれば、前記セット品が、ホルダにおける複数の取付け孔の総数よりも少ない所定数のレットオフ付与部材を有しており、ホルダに取り付けるべきレットオフ付与部材の数に応じて、複数のセット品を用意し、これらをホルダに取り付けることにより、必要な数分のレットオフ付与部材をホルダに取り付けることができる。また、セット品のレットオフ付与部材の数が、ホルダにおける取付け孔の総数よりも少ないので、取付け孔の総数と同数のレットオフ付与部材を一体成形する場合に比べて、上記セット品をコンパクトに構成でき、それにより、保管や取り扱いを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す側面図、(b)は、(a)の一点鎖線円内を拡大して示す図である。
【図2】レットオフ部品を示す斜視図である。
【図3】レットオフ部品を示す図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図である。
【図4】ハンマーの係合突起に対するレットオフ部品の配置状態を説明するための説明図である。
【図5】1回の打鍵における押鍵および離鍵の一連の動作を順に示す図であり、(a)は、押鍵時にハンマーがレットオフ部品に係合したときの状態、(b)は、押鍵時にハンマーがレットオフ部品から外れたときの状態、(c)は、離鍵時にハンマーがレットオフ部品に係合したときの状態を示す。
【図6】図5の(a)〜(c)にそれぞれ対応し、レットオフ部品を中心に示す拡大図である。
【図7】鍵ストロークに応じたタッチ重さの推移を、押鍵の開始時から離鍵の終了時にわたって示す図である。
【図8】レットオフ部品の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8のレットオフ部品を示す図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図である。
【図10】複数のレットオフ部品を一組とするセット品を説明するための説明図であり、(a)はホルダへの取付け前の状態、(b)はホルダに取り付けられた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示している。この鍵盤装置1は、演奏時にアコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有するものである。
【0042】
なお、ここで、アコースティックピアノとしてのグランドピアノのタッチ感におけるレットオフ感の発生について、簡単に説明する。グランドピアノでは、押鍵が開始されると、鍵およびアクションなどがともに回動し、鍵のタッチ重さがゆるやかに増加する。鍵がある程度押し下げられると、アクションのジャックが、レギュレーティングボタンに当接することにより、アクションの回動が抑制され、その際の回動抵抗によって、鍵のタッチ重さが急激に増加する。そして、ジャックが、ハンマーを突き上げ、レペティションレバーから抜けるという動作であるレットオフにより、上記の回動抵抗が消失することによって、鍵のタッチ重さが急激に減少する。その後、鍵が押し下げの下限位置に達することにより、タッチ重さが再度、急激に増加する。以上のような押鍵時におけるタッチ重さの変化、特にレットオフの前後におけるタッチ重さの急激な増減による感覚が、演奏者のタッチ感にレットオフ感として感じられる。
【0043】
図1に示すように、鍵盤装置1は、左右方向(図1(a)の表裏方向)に並んだ多数の鍵2(黒鍵を省略し、白鍵を1つのみ図示)と、これらの鍵2を下方から支持する鍵盤シャーシ3と、この鍵盤シャーシ3の後端部(図1(a)の右端部)に連結され、鍵2の押鍵情報を制御装置(図示せず)に伝達するためのアクション(後述するハンマー5および鍵スイッチ25など)を支持するアクションシャーシ4と、鍵2ごとに設けられ、アクションシャーシ4に回動自在に支持された多数のハンマー5(1つのみ図示)と、ハンマー5ごとに設けられ、鍵2のタッチ感にレットオフ感を付与するための多数のレットオフ部品6(レットオフ付与部材、1つのみ図示)などを備えている。
【0044】
鍵盤シャーシ3は、プレスによる打抜きおよび折曲げ加工した金属板などを、井桁状に組み立てたものであり、図示しない棚板上に固定されている。また、鍵盤シャーシ3の前後方向(図1(a)の左右方向)の中央には、多数のバランスピン7が左右方向(図1(a)の表裏方向)に並んで立設されており、各バランスピン7が、対応する鍵2の後述するバランスピン孔2cに遊挿されている。なお、図1(a)には、2つのバランスピン7、7が記載されているが、前側(同図の左側)のバランスピン7が、白鍵としての鍵2に係合し、後ろ側のバランスピン7が、省略した黒鍵に係合している。また、鍵盤シャーシ3の前端部には、鍵2ごとに、前後2つのガイドピン8、8が立設されており、これらのガイドピン8、8が、鍵2の後述するガイドピン孔2d、2dに遊挿されている。
【0045】
鍵2は、前後方向に延びるとともに矩形状の横断面を有する木製の鍵本体2aと、その前半部の上面および前面に接着された合成樹脂製の鍵カバー2bで構成されている。鍵本体2aの前後方向の中央部には、前記バランスピン孔2cが形成されており、鍵2は、このバランスピン孔2cを介して、バランスピン7に回動自在に支持されている。また、鍵本体2aの前端部には、前後2つのガイドピン孔2d、2dが形成されており、これらのガイドピン孔2d、2dが、上記ガイドピン孔8、8にそれぞれ係合することにより、鍵2が回動する際の左右方向のぶれが防止される。
【0046】
ハンマー5は、前後方向に延びる棒状のハンマー本体11と、その左右両側面の前端部に取り付けられたおもり板12(右側のもののみ図示)とを有している。ハンマー本体11は合成樹脂で構成され、一方、おもり板12は鉄などの金属材料で構成されている。ハンマー本体11の後端部には、後方斜め下に開口した円弧状の軸受け11aが形成されており、ハンマー5は、この軸受け11aがアクションシャーシ4の後述する支点軸部22bに係合することによって、アクションシャーシ4に上下方向に回動自在に支持されている。
【0047】
また、ハンマー本体11の長さ方向の中央には、ハンマー本体11とほぼ直交し、上方に所定長さ突出するとともに、レットオフ部品6の後述する頭部34よりも大きい左右方向の幅寸法(例えば10mm)を有する係合突起11b(係合部)が設けられている。後述するように、この係合突起11bの上端部が、ハンマー5の回動の途中に、前記レットオフ部品6に一時的に係合する。さらに、ハンマー本体11の後端部には、軸受け11aの前側に、上向きの凸状に形成されたスイッチ押圧部11cが設けられている。また、ハンマー本体11の下面後端部には、キャプスタン13がねじ込まれており、ハンマー5は、このキャプスタン13を介して、対応する鍵2の上面後端部に載置されている。
【0048】
アクションシャーシ4は、アルミニウムなどの金属材料の押出し加工による中空の押出成形品で構成され、すべてのハンマー5にわたるように、すなわち鍵2の並び方向である左右方向に延びていて、鍵盤シャーシ3に連結されるとともに、棚板上に固定されている。このアクションシャーシ4は、背壁21と、この背壁21とによって縦長の中空部22aを形成するハンマー支持部22と、背壁21とによって、ハンマー支持部22の上方に直角三角形状の中空部23aを形成するとともに、前方斜め上に延びるスイッチ取付部23などを有している。
【0049】
ハンマー支持部22は、その前側上端部に、前方斜め上に若干突出するとともに上方に開口した円弧状の支点軸部22bを有しており、この支点軸部22bに各ハンマー5の軸受け11aが回動自在に係合している。また、ハンマー支持部22の前側中央部には、階段状に前方に延びるとともに、鍵盤シャーシ3の後端部に載置されたシャーシ連結部22cが形成されている。このシャーシ連結部22cの前端部に設けられた複数の連結ねじ24(1つのみ図示)によって、アクションシャーシ4が鍵盤シャーシ3に連結されている。なお、シャーシ連結部22cの前後方向の中央部には、すべての鍵2にわたるように左右方向に延び、離鍵状態における各鍵2の下面後端部を下方から支持するフェルト22dが設けられている。
【0050】
スイッチ取付部23には、ハンマー5側に、各鍵2の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ25が取り付けられている。この鍵スイッチ25は、プリント基板からなるスイッチ基板25aと、このスイッチ基板25aのハンマー5側に、鍵2ごとに取り付けられたゴムスイッチからなるスイッチ本体25bとで構成されている。鍵スイッチ25は、スイッチ基板25aの後端部が、スイッチ取付部23の基部に形成された係合凹部23bに差し込まれるとともに、スイッチ基板25aの前端部とスイッチ取付部23との間にスペーサ26を介してねじ止めされている。
【0051】
また、スイッチ取付部23は、その中空部23aから前方斜め上に延びる延設部23cを有しており、この延設部23cの先端部には、ハンマー5側に、ハンマー5の上方への回動を規制する、発泡ウレタンなどで構成されたストッパ27が設けられている。さらに、延設部23cの鍵スイッチ25とストッパ27の間には、プラスチック製(例えばABS製)のホルダ28を介して、前記レットオフ部品6が設けられている。
【0052】
ホルダ28は、すべてのハンマー5にわたるように左右方向に延びるとともに、所定形状の横断面を有しており、スイッチ取付部23の延設部23cにねじ止めされている。また、ホルダ28の下端部には、ハンマー5ごとに、多数の取付け孔(図10参照)が、ホルダ28の長さ方向に並んだ状態で設けられている。そして、各取付け孔を介して、レットオフ部品6がホルダ28に取り付けられている。
【0053】
図2および図3は、レットオフ部品6を示している。このレットオフ部品6は、所定の弾性材料(例えば、スチレン系の熱可塑性エラストマーなど)から成る所定形状の成形品で構成されており、両図に示すように、レットオフ部品6自体をホルダ28に取り付けるための取付部31と、この取付部31から前下がりに延びる本体部32と、この本体部32の先端に、くびれ部33を介して設けられた頭部34とを有している。
【0054】
取付部31は、上方に開放する中空部31aを有するブロック状に形成されており、上端部の左右両側にそれぞれ、水平に延びる係止片31b、31bが設けられるとともに、下端部の前後左右にそれぞれ、係止凸部31cが設けられている。レットオフ部品6がホルダ28に取り付けられた状態では、取付部31がホルダ28の取付け孔に貫通し、係止片31bおよび係止凸部31cがそれぞれ、取付け孔の上側縁部および下側縁部にそれぞれ係止される。これにより、レットオフ部品6は、ホルダ28にしっかりと取り付けられている。
【0055】
本体部32は、取付部31の下端部から前下がりに所定長さ延びており、先端ほど、横断面が若干小さくなるように形成されている。また、本体部32の下部には、本体部32の長さ方向に沿って延びるとともに下方に突出し、互いに左右方向に間隔を隔てて配置された左右一対のリブ32a、32aが設けられている。これにより、本体部32は、上下方向に撓みにくくなっている。
【0056】
頭部34は、左右方向の所定の幅寸法(例えば5mm)を有するとともに、前側に凸に湾曲するように形成されており、本体部32の先端上部に、本体部32よりも小さい横断面を有する前記くびれ部33を介して設けられている。このくびれ部33の上下にはそれぞれ、上方に開放する上側スリット33aおよび下方に開放する下側スリット33bが設けられている。下側スリット33bは、上側スリット33aよりも深くかつ下方に向かって幅が大きくなるように形成されている。また、くびれ部33の左右にはそれぞれ、左方に開放する左側スリット33cおよび右方に開放する右側スリット33dが設けられ、両者33c、33dは左右対称に形成されている。なお、頭部34の先端面に形成された比較的浅い溝34は、ハンマー5の係合突起11bと頭部34との潤滑を確保するために、頭部34の先端面に塗布されるグリースなどの潤滑剤を、長期間保持するためのものである。
【0057】
以上のように構成された鍵盤装置1では、1回の打鍵による鍵2の回動に連動して、ハンマー5が、後端部の支点軸部22bを中心として上下に回動する。具体的には、ハンマー5は、押鍵時に上方に回動し、押鍵後の離鍵時に下方に回動する。この場合、ハンマー5の係合突起11bの先端部は、図1(b)に示すように、支点軸部22bを中心とする円弧状の経路(以下「回動経路K」という)を通るように移動する。そして、ハンマー5の回動の途中において、係合突起11bが、レットオフ部品6の先端部、すなわち頭部34に一時的に係合する。
【0058】
図4は、ハンマー5の係合突起11bに対するレットオフ部品6の配置状態を示している。同図に示すように、レットオフ部品6が、取付部31を介してホルダ28に取り付けられた状態において、本体部32が、ハンマー5の係合突起11bの回動経路Kに向かって延び、頭部34が、回動経路Kの内側に若干突出するように配置されている。またこの場合、レットオフ部品6の本体部32は、回動経路Kに対し、次のように配置されている。すなわち、本体部32の外形横断面の中心を通る中心線Cと、頭部34が回動経路Kと交差する位置、すなわちハンマー5の係合突起11bの先端部が頭部34と係合する位置を接点Sとする回動経路Kの接線Tとの為す角度のうち、上側の角度αが、下側の角度βよりも小さくなるように、本体部32が傾斜した状態に配置されている。
【0059】
次に、図1および図5〜7を参照しながら、鍵盤装置1の1回の打鍵における動作について説明する。図1に示す離鍵状態から、演奏者が鍵2の前端部を押し下げ、押鍵すると、鍵2がバランスピン7を中心として、同図の反時計方向に回動するとともに、これに連動して、ハンマー5がキャプスタン13を介して押し上げられ、支点軸部22bを中心として、同図の時計方向に回動する。この場合、鍵2のタッチ重さは、図7のAに示すように、緩やかに増加する。なお、図7の横軸である鍵ストロークは、離鍵状態(押鍵開始前)における鍵2の前端部の高さを基準とし、その基準位置からの鍵2の押下げ距離である。
【0060】
鍵2をさらに押鍵すると、鍵2およびハンマー5がさらに回動する。そして、図5(a)に示すように、ハンマー5の係合突起11bが、レットオフ部品6に係合する。具体的には、図6(a)に示すように、係合突起11bが、レットオフ部品6の頭部34に係合し、この頭部34を押圧するとともに、くびれ部33を介して本体部32を押圧することにより、レットオフ部品6が圧縮される。この場合、その反作用として、ハンマー5には、レットオフ部品6からの反発力が作用する。それにより、ハンマー5の回動が抑制され、その際の回動抵抗により、鍵2のタッチ重さは、図7のBに示すように、急激に増加する。
【0061】
また、上記の押圧直後、ハンマー5の係合突起11bは、レットオフ部品6の頭部34を押し上げ、本体部32に対して上側に傾かせながら、頭部34との係合が解除される。なおこの場合、レットオフ部品6に設けられた上側および下側スリット33a、33b、ならびに左側および左側スリット33c、33dにより、くびれ部33における撓みの自由度が高く、そのため、ハンマー5の係合突起11bがレットオフ部品6の頭部34から円滑に外れる。
【0062】
図5(b)および図6(b)に示すように、係合突起11bが頭部34から外れ、両者11bおよび34の係合が解除されると、ハンマー5の上記回動抵抗が消失する。これにより、鍵2のタッチ重さは、図7のCに示すように、急激に減少する。
【0063】
以上のように、押鍵時におけるハンマー5のレットオフ部品6に対する係合およびその解除により、タッチ重さが急激に増減し、その結果として、鍵2のタッチ感にレットオフ感が付与される。
【0064】
その後、ハンマー5がストッパ27に当接し、それとほぼ同時に、鍵2が押下げの下限位置に到達し、押鍵が終了する。この場合、鍵2のそれ以上の回動が阻止されるため、鍵2のタッチ重さは、図7のDに示すように、再度、急激に増加する。
【0065】
なお、以上の押鍵により、ハンマー5のスイッチ押圧部11cが鍵スイッチ25のスイッチ本体25bを押圧し、ON状態にすることによって、鍵2の押鍵情報が制御装置に伝達される。そして、この制御装置により、伝達された押鍵情報に基づいて、電子ピアノの発音が制御される。
【0066】
上述した押鍵が終了した状態から、演奏者が鍵2から指を離し、離鍵すると、鍵2が押鍵時と反対方向に回動し、図1に示す元の位置に復帰する。この鍵2の復帰回動に連動して、ハンマー5も、押鍵時と反対方向に復帰回動する。この場合、ハンマー5が、元の位置に復帰回動する途中に、ハンマー5の係合突起11bが、レットオフ部品6に係合する。具体的には、図5(c)および図6(c)に示すように、係合突起11bの先端部が、レットオフ部品6の頭部34に斜め上から当接し、これを押し下げる。この場合、くびれ部33において撓みが生じやすいため、係合突起11bは、頭部34を押し下げ、本体部32に対して下側に傾かせながら、頭部34から円滑に外れる。
【0067】
このように、離鍵時にレットオフ部品6に係合したハンマー5は、レットオフ部品6からの回動抵抗をほとんど受けることなく、円滑かつ迅速に係合が解除され、それにより、ハンマー5および鍵2が迅速に復帰回動する。なお、離鍵時における鍵2のタッチ重さは、図7に示すように、押鍵時に比べて全体的に小さく、離鍵開始直後に急激に減少した後、緩やかに減少する。
【0068】
以上詳述したように、本実施形態によれば、押鍵時および離鍵時におけるハンマー5の回動の途中に、ハンマー5がレットオフ部品6に一時的に係合する。この場合、押鍵時には、ハンマー5の係合突起11bが、レットオフ部品6の頭部34を押圧することで、レットオフ部品6を圧縮し、頭部34の押圧直後、頭部34から円滑に外れる。これにより、タッチ重さが急激に増減し、鍵2ごとにばらつきがなく、安定したレットオフ感を、タッチ感に付与することができる。このようなレットオフ感を得るために、比較的簡単な構成のレットオフ部品6を用いているので、アコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有する鍵盤装置1を、簡単な構成でかつ比較的低コストで製造することができる。また、板ばねを撓ませることでレットオフ感を得る従来に比べて、レットオフ感を長期間にわたり安定して得ることができる。
【0069】
一方、離鍵時には、ハンマー5の係合突起11bが、レットオフ部品6の頭部34に斜め上から当接し、くびれ部33を撓ませながら、頭部34から円滑に外れる。したがって、復帰回動中のハンマー5が、レットオフ部品6に係合しても、そのハンマー5は、回動がほとんど抑制されることなく、迅速に復帰回動し、それに伴い、鍵も、押鍵前の位置に迅速に復帰回動することができる。
【0070】
また、ハンマー5の係合突起11bが、ハンマー本体11の長さ方向の中央から上方に突出するように設けられ、レットオフ部品6が、スイッチ取付部23の鍵スイッチ25とストッパ27との間に設けられている。鍵盤装置1と同じタイプで、係合突起11bおよびレットオフ部品6を有しない従来の鍵盤装置では、ハンマー5の回動を確保するために、比較的大きなスペースが設けられている。したがって、そのスペースに、係合突起11bおよびレットオフ部品6を設けるので、ハンマー周辺の大幅な設計変更を行うことなく、しかも、押鍵時における適切なタイミングでレットオフ感が得られるように、レットオフ部品6を比較的容易に設置することができる。
【0071】
また、ハンマー5の係合突起11bは、レットオフ部品6の頭部34よりも左右方向の幅寸法が大きいので、頭部34に係合する際に、その頭部34の左右方向の幅全体にわたって係合する。これにより、レットオフ部品6の頭部34は、ハンマー5の係合突起11bが係合し始めてから外れるまでの間、毎回所定の同じ動きを行うので、毎回同一の安定したレットオフ感を得ることができる。また、レットオフ部品6の取付け位置が、適正な位置に対して左右方向に若干ずれていても、その取付け誤差を吸収しながら、レットオフ部品6の頭部34とハンマー5の係合突起11bとの上記の係合を確保することができる。
【0072】
図8および図9は、レットオフ部品6の変形例を示している。なお、両図では、前述した図2および図3に示すレットオフ部品6と同じ部分については同一の符号を付し、詳細な説明は省略するものとする。
【0073】
図8および図9に示すように、この変形例のレットオフ部品6Aは、レットオフ部品6に対し、くびれ部33の左側および右側スリット33cおよび33dが省略されるとともに、頭部34の右半部が、内側に凸に湾曲するように切り欠かれている。この切欠き部34bが頭部34に形成されていることにより、押鍵時にハンマー5の係合突起11bが頭部34に当接した直後に、くびれ部33における撓みが、切除部34bと反対の左側に生じやすい。それにより、ハンマー5の係合突起11bが頭部34に当接した後、係合突起11bが頭部34から円滑に外れる。なお、この作用、効果を十分に確保するために、上記の切欠き部34bは、本体部32の下部の各リブ32aの幅寸法以上に切りかかれていることが好ましい。
【0074】
また、複数のレットオフ部品6を一組とするセット品として、レットオフ部品6を成形してもよい。図10(a)は、上述したレットオフ部品6Aが、左右方向に複数個(例えば12個)連なるように成形されたセット品6Bを示している。このセット品6Bは、互いに隣接する2つのレットオフ部品6A、6Aが、連接部35を介して接続された状態で、一体に成形されている。連接部35は、可撓性を有する材料で構成されるとともに、ホルダ28の互いに隣接する取付け孔28a、28a間の間隔よりも長い所定長さを有しており、2つのレットオフ部品6A、6Aの係止片31b、31bを接続するように設けられている。
【0075】
このように構成されたセット品6Bは、図10(b)に示すように、レットオフ部品6Aがそれぞれ、取付け孔28aに上方から挿入された状態で、ホルダ28に取り付けられる。またこの場合、セット品6Bの各連接部35は、ホルダ28の取付け孔28a、28a間よりも長い分、上方に凸に撓む。
【0076】
このようなセット品6Bを採用することにより、例えば、電子ピアノの機種ごとに、ホルダ28における取付け孔28a、28a間の間隔が異なったり、設計変更などにより、ホルダ28における取付け孔28a、28a間の間隔が変更されたりする場合でも、隣り合うレットオフ部品6A、6A間の連接部35を、取付け孔28a、28a間の間隔に応じて適宜、撓ませることで、レットオフ部品6A、6A間の間隔を調整しながら、セット品6Bの各レットオフ部品6Aを、取付け孔28aを介して、ホルダ28に取り付けることができる。このように、機種の異なる電子ピアノに対し、セット品6Bを共通化することができるとともに、ホルダ28における取付け孔28a、28a間の間隔の変更にも、柔軟に対応することができる。また、単一のセット品6Bにおけるレットオフ部品6Aの数を、ホルダ28の取付け孔28aの総数(例えば88)よりも少なくすることにより、セット品6Bを比較的コンパクトに構成でき、それにより、保管や取り扱いを容易に行うことができる。
【0077】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。本実施形態では、レットオフ感を得るためのレットオフ部品として2種類の形状のレットオフ部品6および6Aを例示したが、これらの形状はあくまで例示であり、押鍵時に圧縮され、離鍵時に撓ませられるような形状のものであれば、種々の形状のレットオフ部品を採用することができる。
【0078】
また、レットオフ部品6が取り付けられたホルダ28は、スイッチ取付部23の延設部23cにねじ止めしたが、例えば、ホルダ28のねじ止め孔を、前後方向に延びる長孔状に形成することにより、レットオフ部品6とハンマー5の回動経路Kとの距離を変更することが可能となる。これにより、レットオフ感を生じさせるためのタッチ重さの急激な増減の大きさを、容易に調整することができる。
【0079】
また、レットオフ部品6(以下、レットオフ部品6Aも含む)において、二色成形などにより、本体部32および取付部31が、くびれ部33および頭部34よりも高い硬度を有するように、同一材料または異なる材料で構成してもよい。この場合には、レットオフ部品6を、ホルダ28にしっかりと安定して取り付けることができるとともに、その取付け精度を向上させることができる。
【0080】
また、ホルダ28とレットオフ部品6を一体に成形してもよい。この場合には、ホルダ28およびレットオフ部品6を別個に作製し、レットオフ部品6をホルダ28に取り付ける場合に比べて、これらの製造効率を高めることができる。すなわち、複数のレットオフ部品6がホルダ28に支持された成形品を、効率よく製造することができる。ただしこの場合、二色成形などにより、ホルダ28をレットオフ部品6よりも硬い硬質材料で構成することが好ましい。これにより、ホルダ28を不動な状態に安定して設置でき、それにより、レットオフ部品6の適切な位置への配置を確保することができる。
【0081】
また、実施形態で示した鍵盤装置1の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 鍵盤装置
2 鍵
5 ハンマー
6 レットオフ部品(レットオフ付与部材)
6A レットオフ部品(レットオフ付与部材)
6B セット品
11 ハンマー本体
11b 係合突起(係合部)
22b 支点軸部(軸線)
28 ホルダ
28a 取付け孔
31 取付部
32 本体部
32a リブ
33 くびれ部
33a 上側スリット
33b 下側スリット
33c 左側スリット
33d 右側スリット
34 頭部
34b 切欠き部
35 連接部
K 回動経路
C 中心線
T 接線
α 上側の角度
β 下側の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコースティックピアノに近似したレットオフ感を付与するレットオフ機能を有する電子鍵盤楽器の鍵盤装置であって、
左右方向に並んだ状態で、各々が回動自在に設けられ、押鍵時および離鍵時に互いに反対方向に回動する複数の鍵と、
各々が係合部を有し、前記鍵ごとに回動自在に設けられ、対応する鍵に連動して回動する複数のハンマーと、
不動のホルダと、
弾性材料で構成され、前記ハンマーごとに前記ホルダに取り付けられ、押鍵時および離鍵時における前記ハンマーの回動の途中に、当該ハンマーの前記係合部が一時的に係合し、押鍵時に当該鍵のタッチ感にレットオフ感を付与する複数のレットオフ付与部材と、
を備え、
前記複数のレットオフ付与部材の各々は、前記ホルダから、前記ハンマーが回動する際の前記係合部の回動経路に向かって延び、当該ハンマーの回動に伴って当該係合部が係合することにより、押鍵時に圧縮され、離鍵時に撓ませられるように配置されていることを特徴とする電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記複数のハンマーの各々は、左右方向に延びる軸線を中心として、押鍵時に上方に、離鍵時に下方に回動するように構成されており、
前記各レットオフ付与部材は、前記回動経路に向かって延びる本体部を有し、
当該本体部は、その中心線と、前記ハンマーの前記係合部が係合する位置を接点とする前記回動経路の接線との為す角度のうち、上側の角度が下側の角度よりも小さくなるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記各レットオフ付与部材は、前記本体部の先端に、当該本体部よりも小さい横断面積を有するくびれ部を介して設けられ、前記ハンマーの前記係合部が係合する頭部を、さらに有していることを特徴とする請求項2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記各レットオフ付与部材には、前記くびれ部の上下にそれぞれ、上側スリットおよび下側スリットが形成され、
当該下側スリットは、前記上側スリットよりも深くかつ下方に向かって幅が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項5】
前記各レットオフ付与部材には、前記くびれ部の左右にそれぞれ、左側スリットおよび右側スリットが形成されていることを特徴とする請求項4に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項6】
前記各レットオフ付与部材の前記頭部の左半部および右半部の一方が、切り欠かれていることを特徴とする請求項4に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項7】
前記各ハンマーは、前後方向に延びるとともに後端部において回動自在に支持されており、
前記係合部は、前記ハンマーの長さ方向の中央から上方に突出していることを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項8】
前記各レットオフ付与部材の前記本体部は、その長さ方向に沿って延びるとともに下方に突出し、互いに左右方向に間隔を隔てて配置された左右一対のリブを有していることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項9】
前記各ハンマーの前記係合部は、前記レットオフ付与部材の前記頭部よりも大きい左右方向の幅寸法を有していることを特徴とする請求項3ないし8のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項10】
前記各レットオフ付与部材の前記本体部は、前記くびれ部および前記頭部よりも高い硬度を有していることを特徴とする請求項3ないし9のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項11】
前記ホルダおよび前記複数のレットオフ付与部材が、一体に成形され、当該ホルダが当該各レットオフ付与部材よりも硬い所定の硬質材料で構成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項12】
前記ホルダは、前記複数のハンマーに対応し、互いに所定間隔を隔てて並ぶように形成された複数の取付け孔を有し、
前記複数のレットオフ付与部材は、各々が、可撓性を有する材料で構成されかつ前記所定間隔よりも長い所定長さを有する連接部を介して、隣り合うように接続された状態で、一体に成形され、前記各レットオフ付与部材が、前記各取付け孔を介して、前記ホルダに取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項13】
前記一体に成形された複数のレットオフ付与部材は、前記ホルダにおける前記複数の取付け孔の総数よりも少ない所定数の前記レットオフ付与部材を有する成形品で構成されていることを特徴とする請求項12に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−262129(P2010−262129A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112661(P2009−112661)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】