説明

電子鍵盤楽器の鍵盤装置

【課題】鍵の安定した回動を確保しながら、組立性および分解性を向上させることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】各々が前後方向に延びるとともに後端部に左右方向に延びる支点軸23を有する複数の鍵3と、取付け部32と、鍵3ごとに設けられ、支点軸23を支持するための複数の鍵仕切支持部35とを有する鍵盤シャーシ2と、鍵仕切支持部35と協働して、支点軸23を支持する軸受を構成することにより、支点軸23を中心として、鍵3を回動自在に支持する支点軸支持部42を有し、取付け部32に着脱自在に取り付けられた支点軸受部材33と、を備え、鍵盤装置1の組立時に、鍵3が支点軸23を介して鍵仕切支持部35に係合しかつ鍵盤シャーシ2に保持された状態において、取付け部32は、支点軸受部材33が取り付けられる際に外部に臨み、支点軸受部材33が上方または後方から取り付け可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどに適用される電子鍵盤楽器の鍵盤装置に関し、特に鍵を回動自在に支持する鍵の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子鍵盤楽器の鍵盤装置として、特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤装置は、電子楽器のペダル鍵盤に適用されたものであり、フレームと、このフレームに回動自在に支持され、互いに左右方向に並設された複数の鍵とを備えている。各鍵は、前後方向に延びており、後端部に左右方向に延びる断面円形の支点部を有している。また、フレームの後ろ側の縁部は、鍵の後端部を、その後方から上方にわたって覆うように形成されており、その内側には、鍵ごとに、支点部を支持するための左右一対の支持部が設けられている。各支持部は、1/4円状の円弧曲面を有しており、この円弧曲面によって、鍵の支点部を斜め後ろ上方から支持するように構成されている。また、両支持部の間には、これらの支持部と協働して、鍵の支点部を支持する支点受けピースが取り付けられている。この支点受けピースは、1/2円状の円弧曲面を有しており、この円弧曲面によって、鍵の支点部を下方から支持するように構成されている。
【0003】
以上のように構成された鍵盤装置では、フレーム側の両支持部および支点受けピースの3つの円弧曲面が、鍵の支点部の軸受けとして機能する。これにより、鍵盤装置の各鍵は、演奏時に踏み込み操作された際に、後端部の支点部を中心として、比較的安定して回動する。
【0004】
また、この鍵盤装置では、その組立時におけるフレームへの鍵の取付け作業が次のように行われる。すなわち、まず、フレームの両支持部の円弧曲面付近に、支点部が位置するよう、鍵をフレームにセットする。次いで、フレームの両支持部の間に形成されたガイド溝に、支点受けピースを下方から挿入する。そして、この支点受けピースを、ガイド溝に沿って上方にスライドさせ、支点受けピースの下端部を、フレームの内側に設けられた仕切板と一体の棚板の縁部にスナップ結合させることによって係止する。これにより、支点受けピースがフレームに固定され、鍵がフレームに取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3085033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この鍵盤装置では、フレームに対し、鍵が回動自在にしっかりと取り付けられるものの、組立時におけるフレームへの鍵の取付け作業が煩雑である。すなわち、上述したように、鍵をフレームに取り付ける際には、鍵がセットされたフレームに対し、支点受けピースを両支持部間のガイド溝に下方から挿入する必要がある。この場合、ガイド溝は、フレームの後ろ側の縁部やセットされた鍵、仕切板などによって、前後左右および上側が囲まれた状態になっているため、作業者がガイド溝の位置を容易に視認できないことがある。このため、支点受けピースをガイド溝に挿入する際には、作業者は、ガイド溝をフレームの下方からのぞき込んだり、手探りしたりしながら、ガイド溝の位置を確認し、支点受けピースをガイド溝に挿入しなければならない。特に、多数の鍵に対し、1つずつ支点受けピースを取り付ける場合には、その作業が非常に煩雑であり、鍵盤装置の組立に手間がかかってしまう。また、棚板にスナップ結合によって取り付けられた支点受けピースは、その構造上、外しにくくなっているため、例えば、電子楽器を廃棄処分する際に、鍵盤装置をフレームと鍵とに分解する場合、両者を分解しにくいという問題もある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵の安定した回動を確保しながら、組立性および分解性を向上させることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、各々が前後方向に延びるとともに後端部に左右方向に延びる支点軸を有する複数の鍵と、取付け部と、鍵ごとに設けられ、支点軸を支持するための複数の第1支持部とを有し、複数の鍵を左右方向に並んだ状態に保持する鍵盤シャーシと、第1支持部と協働して、支点軸を支持する軸受を構成することにより、支点軸を中心として、鍵を回動自在に支持する第2支持部を有し、取付け部に着脱自在に取り付けられた支点軸受部材と、を備え、鍵盤装置の組立時に、鍵が支点軸を介して第1支持部に係合しかつ鍵盤シャーシに保持された状態において、取付け部は、支点軸受部材が取り付けられる際に外部に臨み、支点軸受部材が上方または後方から取り付け可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、前後方向に延びる複数の鍵の各々が、後端部に左右方向に延びる支点軸を有していて、これらの鍵を左右方向に並んだ状態に保持する鍵盤シャーシが、鍵ごとに、支点軸を支持するための複数の第1支持部を有している。また、鍵盤シャーシの取付け部に着脱自在に取り付けられた支点軸受部材は、第2支持部を有していて、この第2支持部が、第1支持部と協働して、鍵の支点軸を支持する軸受を構成することにより、その支点軸を中心として、鍵を回動自在に支持する。このように、鍵盤シャーシの第1支持部および支点軸受部材の第2支持部により、鍵の支点軸をしっかりと支持することができ、鍵の安定した回動を確保することができる。
【0010】
また、鍵盤装置の組立時に、鍵がその支点軸を介して第1支持部に係合しかつ鍵盤シャーシに保持された状態において、支点軸受部材が鍵盤シャーシの取付け部に取り付けられる際に、その取付け部が外部に臨んでいる。加えて、この取付け部は、支点軸受部材が上方または後方から取り付け可能に構成されている。これにより、鍵盤シャーシの取付け部への支点軸受部材の取付けの際に、その作業者は、取付け部の位置を容易に視認することができ、その取付け部に対し、支点軸受部材を上方または後方から接近させて、容易に取り付けることができる。また、支点軸受部材は、取付け部に対し、着脱自在であるので、例えば、電子鍵盤楽器を廃棄処分する際に、支点軸受部材を鍵盤シャーシから取り外すことにより、第1および第2支持部による軸受が解消され、それにより、鍵盤シャーシから鍵を容易に取り外すことができる。以上のように、本発明の鍵盤装置によれば、鍵の安定した回動を確保しながら、従来に比べて、組立性および分解性を向上させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、支点軸は、左右の端部が鍵の左右の側壁からそれぞれ突出するように形成されており、第1支持部は、載置面に互いに左右方向に所定間隔を隔てて立設され、互いに対向する左右2つの側壁部と、これら2つの側壁部から互いに対向するように突出し、支点軸の端部の外周面に摺接する左右2つの第1円弧面と、を有し、第2支持部は、第1円弧面に対向しかつ支点軸の外周面に摺接する第2円弧面を有し、載置面に載置された状態で、載置面と支点軸の間に配置されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、鍵盤シャーシの第1支持部が、左右2つの第1円弧面を有する一方、支点軸受部材の第2支持部が、第1円弧面に対向する第2円弧面を有している。また、両第1円弧面が、鍵の左右の側壁からそれぞれ突出する支点軸の端部の外周面に摺接し、第2円弧面が、支点軸の外周面に摺接する。このように、左右2つの第1円弧面と第2円弧面とによって構成される軸受面により、支点軸を3つの円弧面でバランス良く支持することができる。また、左右の第1円弧面が、載置面に立設された左右2つの側壁部から互いに突出するように設けられる一方、第2円弧面を有する第2支持部が、側壁部を介して第1円弧面と一体の載置面に載置された状態で、この載置面と支点軸の間に配置されている。これにより、第1円弧面および第2円弧面を、支点軸の径方向に不動に保持することができ、支点軸を安定して支持する軸受面を容易に構成することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、各側壁部は、支点軸の対向する端面との間に隙間を存するように配置され、各第1円弧面は、その突出する端面が鍵の対向する側壁との間に隙間を存するように配置されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、各側壁部と支点軸の対向する端面との間に隙間があり、また、各第1円弧面の突出する端面と鍵の対向する側壁との間に隙間があるので、それぞれの両者が接することによる摩擦の発生を防止でき、それにより、鍵の円滑な回動を確保することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2または3に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、取付け部および支点軸受部材の一方には、支点軸受部材が取付け部に取り付けられたときに取付け部および支点軸受部材の他方に当接し、第2円弧面を第1円弧面と同心状に配置するための位置決め部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、鍵盤シャーシの取付け部に支点軸受部材を取り付けたときに、取付け部および支点軸受部材の一方に設けられた位置決め部が他方に当接することにより、第2支持部の第2円弧面が、第1支持部の第1円弧面と同心状に配置される。これにより、支点軸を適切に支持する軸受面を、第1および第2円弧面で容易に構成することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、支点軸受部材は、複数の前記第2支持部を有していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、支点軸受部材が、複数の第2支持部を有しているので、その支点軸受部材を鍵盤シャーシの取付け部に取り付けるだけで、複数の鍵の支点軸を支持する軸受を構成することができる。したがって、単一の第2支持部を有する支点軸受部材を、鍵ごとに1つずつ鍵盤シャーシの取付け部に取り付けたり、その支点軸受部材を1つずつ取り外したりする場合に比べて、鍵盤装置の組立性および分解性を、より向上させることができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、鍵盤シャーシは、鍵ごとに、互いに前後方向に間隔を隔てて設けられ、押鍵時に、鍵の横振れを抑制するための前後2つの横振れ抑制部を、さらに有していることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、鍵盤シャーシには、鍵ごとに、互いに前後方向に間隔を隔てた前後2つの横振れ抑制部が設けられているので、押鍵時における鍵の横振れや傾きなどのがたつきを効果的に抑制し、鍵のより安定した回動を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を示す側面図であり、(a)は離鍵状態、(b)は白鍵の押鍵状態を示す。
【図2】鍵盤装置を部分的に示す平面図である。
【図3】図2に示す鍵盤装置を、鍵の後部を中心に拡大して示す斜視図である。
【図4】図3の分解斜視図である。
【図5】(a)は、鍵盤装置の後端部を拡大して示す平面図であり、(b)〜(d)はそれぞれ、(a)のb−b線、c−c線およびd−d線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を示している。同図に示すように、この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた白鍵3aおよび黒鍵3bから成る複数(例えば88個)の鍵3と、鍵3ごとに鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた複数のハンマー4(1つのみ図示)などを備えている。
【0023】
なお、以下の説明ではまず、図1を参照して、鍵盤装置1の構成および動作の概略を説明し、その後で、鍵盤シャーシ2による鍵3の支持構造、および鍵盤装置1の組立時における鍵盤シャーシ2への鍵3の取付け方法について詳述するものとする。
【0024】
鍵盤シャーシ2は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。鍵盤シャーシ2の前部(図1の左部)11、中央部12および後部(図1の右部)13は、互いにリブ(図示せず)で連結された状態で一体に構成され、それぞれが左右方向(図1の表裏方向)に延びる前側取付けレール14、中央取付けレール15および後側取付けレール16を介して、電子ピアノの図示しない棚板上に固定されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ2の前部11、中央部12および後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中央部12」および「シャーシ後部13」と称呼するものとする。
【0025】
シャーシ前部11は、上下方向に貫通する左右2つの係合孔11a(図1では1つのみ図示)を一組とし、白鍵3aごとに設けられた複数組の係合孔11aを有しており、各組の左右の係合孔11aに、対応する白鍵3aの後述する左右の上限位置規制部21が貫通した状態で係合している。また、シャーシ前部11には、係合孔11aの前側の下縁部に、フェルトなどで構成された鍵ストッパ11bが取り付けられている。離鍵状態において、白鍵3aの上限位置規制部21が鍵ストッパ11bに下方から当接することで、白鍵3aの上限位置が規制される。さらに、シャーシ前部11には、白鍵3aごとに、その横振れを防止するための複数の前側ガイド部11c(横振れ抑制部、図1では1つのみ図示)が立設されている。各前側ガイド部11cは、白鍵3aの内側の横幅(左右方向の幅)とほぼ同じ幅寸法を有していて、白鍵3aの内側に下方から挿入されている。
【0026】
シャーシ中央部12は、左右方向に延びる支軸12aを有しており、この支軸12aにハンマー4が回動自在に支持されている。また、シャーシ中央部12には、シャーシ前部11との間に、各鍵3の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ17が取り付けられている。この鍵スイッチ17は、プリント基板17aと、このプリント基板17a上に鍵3ごとに取り付けられたゴムスイッチからなるスイッチ本体17bとで構成されている。そして、この鍵スイッチ17は、プリント基板17aの後端部がシャーシ中央部12に差し込まれるとともに、プリント基板17aの前端部がシャーシ前部13にねじ止めされた状態で、鍵盤シャーシ2に取り付けられている。
【0027】
シャーシ後部13は、鍵3の後端部に設けられた後述する支点軸23を支持することにより、この支点軸23を中心として、鍵3を回動自在に支持する鍵支持部13aを有している。また、鍵支持部13aの下面後端部には、フェルトなどで構成されたハンマーストッパ13bが取り付けられている。さらに、シャーシ後部13には、鍵支持部13aの前側に、鍵3の後端部の左右両側に配置され、鍵3の横振れを防止するための左右2つの後側ガイド部13c(横振れ抑制部、図1では1つのみ図示)が立設されている。
【0028】
また、シャーシ後部13とシャーシ中央部12との間には、鍵3とハンマー4の間に、ほぼ水平な平板部18が設けられている。この平板部18の前端部には、黒鍵3bごとに、その横振れを防止するための複数の前側ガイド部18a(横振れ抑制部、図1では1つのみ図示)が立設されている。各前側ガイド部18aは、白鍵3aの前記前側ガイド部11cと同様、対応する黒鍵3bの内側の横幅と同じ幅寸法を有し、黒鍵3bの内側に下方から挿入されている。
【0029】
なお、平板部18には、ハンマー4ごとに、平板部18の下面から斜め下前方に突出し、弾性材料で構成された複数のレットオフ部材19(図1では1つのみ図示)が取り付けられている。このレットオフ部材19は、押鍵に伴って回動するハンマー4が、その回動中に一時的に係合することにより、鍵3のタッチ感にレットオフ感を付与するものである。
【0030】
鍵3は、所定の樹脂材料(例えばASなど)を射出成形することなどにより、前後方向に延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。白鍵3aの前端部には、左右の側壁から下方に延びかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部21、21(図1では1つのみ図示)が設けられており、前記シャーシ前部11の左右の係合孔11a、11aにそれぞれ貫通した状態で係合している。また、白鍵3aは、上限位置規制部21よりも後方の所定位置に、下方に突出するアクチュエータ部22を有しており、このアクチュエータ部22が、ハンマー4の後述する係合凹部26bに収容された状態で、これに係合している。さらに、鍵3の後端部には、左右方向に延びる支点軸23が設けられている。なお、黒鍵3bについては、白鍵3aの上限位置規制部21およびアクチュエータ部22に相当する部分が、黒鍵3bの前端部の下方に一体に設けられている。
【0031】
ハンマー4は、ハンマー本体24と、このハンマー本体24に着脱自在に取り付けられた錘25とで構成されている。ハンマー本体24は、所定の樹脂材料(例えばPOM(ポリアセタール)など)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。このハンマー本体24は、前後方向に延び、その前半部(図1の左半部)26の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部26aを有しており、この軸受部26aが、シャーシ中央部12の支軸12aに回動自在に係合している。また、ハンマー本体24の前半部26には、軸受部26aの前方に、鍵3のアクチュエータ部22に係合する係合凹部26bが設けられている。この係合凹部26bは、上方および前方に開放しており、鍵3のアクチュエータ部22の下端が係合凹部26b内の底面に当接した状態で、アクチュエータ部22の下部を収容している。さらに、ハンマー本体24の前半部26には、係合凹部26bの下方に、鍵スイッチ17のスイッチ本体17bを押圧するためのスイッチ押圧部26cが設けられている。
【0032】
ハンマー本体24の後半部である錘取付け部27は、右方(図1の表側)に開放する開口部28を有しており、この開口部28を介して、錘25がハンマー本体24に着脱自在に取り付けられている。また、ハンマー本体24の錘取付け部27の所定位置には、上方に突出し、押鍵時に、前記レットオフ部材19に係合する係合突起27aが設けられている。
【0033】
一方、錘25は、ハンマー本体24よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)で構成され、ハンマー本体24の厚さ(図1の表裏方向の厚さ)よりも薄い金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。この錘25は、前後方向に延び、その前半部に、ハンマー本体24の錘取付け部27に取り付けられた被取付け部29を有している。また、錘25は、その被取付け部29から、シャーシ後部13の後端付近まで後方に延び、後端部の縦幅(上下方向の幅)が比較的大きく形成されている。
【0034】
以上のように構成された鍵盤装置1では、図1(a)に示す離鍵状態において、鍵3(同図では白鍵3a)を押鍵すると、同図(b)に示すように、鍵3が後端部の支点軸23を中心として反時計方向に回動する。これに伴い、鍵3のアクチュエータ部22が、ハンマー4の係合凹部26bを下方に押圧する。それにより、ハンマー4は、シャーシ中央部12の支軸12aを中心として反時計方向に回動しながら、スイッチ押圧部26cで鍵スイッチ17のスイッチ本体17bを上方から押圧する。なお、この場合、ハンマー4は、その後端部(錘25の後端部)がシャーシ後部13のハンマーストッパ13bに下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。以上の押鍵動作により、ハンマー4の重量およびトルクに応じた所定のタッチ重さが、鍵3に付与されるとともに、鍵3の押鍵情報が鍵スイッチ17を介して検出される。
【0035】
一方、押鍵した鍵3を離鍵すると、ハンマー4が上記と逆方向に回動し、それに伴い、鍵3が、アクチュエータ部22を介して押し上げられることにより、上記と逆方向に回動する。その結果、鍵3およびハンマー4が、図1(a)に示すように、もとの離鍵状態に復帰する。なお、この場合、鍵3は、その前端部の上限位置規制部21がシャーシ前部11の鍵ストッパ11bに下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。
【0036】
次に、図2〜図5を参照して、鍵盤シャーシ2による鍵3の支持構造、および鍵盤装置1の組立時における鍵盤シャーシ2への鍵3の取付け方法について説明する。図2は、複数(同図では8つ)の鍵3が、左右方向に並んだ状態で鍵盤シャーシ2に支持された鍵盤装置1を部分的に示しており、図3は、図2に示す鍵盤装置1を、鍵3の後部を中心に拡大して示す斜視図、図4は、その分解斜視図である。これらの図に示すように、鍵3の後部31(以下単に「鍵後部31」という)は、それよりも前側の部分に対し、横幅(左右方向の幅)が狭く形成されるとともに、後ろ上がりに若干傾斜している。そして、鍵後部31の所定位置に、鍵3の回動支点としての前記支点軸23が設けられている。
【0037】
この支点軸23は、左右方向に延びるとともに断面円形に形成され、左右の端部23a、23aがそれぞれ、鍵後部31の左右の側壁31a、31aから所定長さ突出している。また、支点軸23のほぼ下半部が、鍵後部31の側壁31aよりも下方に張り出すように形成されている(図5(b)および(c)参照)。そして、前述したように、前記鍵支持部13aにより、各鍵3の支点軸23が支持されている。
【0038】
シャーシ後部13の鍵支持部13aは、シャーシ後部13自体に直接設けられたシャーシ側鍵支持部32(取付け部)と、このシャーシ側鍵支持部32に着脱自在に取り付けられた支点軸受部材33などで構成されている。図3および図4に示すように、シャーシ側鍵支持部32は、平面形状が横長矩形状でかつ前下がりに傾斜するガイド面34(載置面)と、このガイド面34上に互いに左右方向に所定間隔を隔てて並設された複数(図4では9つのみ図示)の鍵仕切支持部35(第1支持部)とを有している。
【0039】
図4および図5に示すように、各鍵仕切支持部35は、隣り合う2つの鍵3、3の鍵後部31、31を仕切るとともに、両鍵3、3の支点軸23、23の互いに対向する端部23a、23aを支持するように構成されている。具体的には、鍵仕切支持部35は、前後方向に延び、ガイド面34に立設された仕切壁部36(側壁部)と、この仕切壁部36の前端部に設けられた支点軸係合部37とで構成されている。仕切壁部36は、対向する支軸23の端面との間に、若干の隙間が存するように配置されている。また、仕切壁部36の後端部には、上方に開放し、支点軸受部材33をねじ止めするための取付け穴36aが設けられている。一方、支点軸係合部37は、仕切壁部36を中心として、その厚さよりも幅広の横幅を有し、ガイド面34から上方に延びるとともに上方に凸に湾曲して後方に延び、側面形状が逆J字状に形成されている。なお、図5(c)に示すように、支点軸係合部37の後端とガイド面34との間の距離Hは、支点軸23の直径よりも若干大きくなっている。
【0040】
また、支点軸係合部37の上部内面には、仕切壁部36から突出し、支点軸23の端部23aの外周面に摺接する円弧面37a(第1円弧面、図5(c)参照)が設けられている。この円弧面37aは、支点軸23の外周面と同じ曲率を有し、ほぼ1/2円状に形成されている。また、支点軸係合部37(円弧面37a)は、対向する鍵後部31の側壁31aとの間に、若干の隙間が存するように配置されている。
【0041】
一方、支点軸受部材33は、鍵盤シャーシ2と同様、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。図4および図5に示すように、支点軸受部材33は、左右方向に延び、自身をシャーシ側鍵支持部32に取り付けるための装着部41と、この装着部41から前方に突出し、互いに左右方向に所定間隔を隔てて並設された複数の支点軸支持部42(第2支持部)とで構成されている。
【0042】
装着部41は、平面形状が横長矩形状の平板部43と、この平板部43の後端部において、上方に若干突出しかつ下方に所定長さ垂下するように形成された後壁部44とにより、側面形状がほぼL字状に形成されている。平板部43には、その長さ方向に沿って、前記鍵仕切支持部35の取付け穴36aに対応するように、上下方向に貫通する複数(図4では8つのみ図示)の孔43aが形成されている。また、後壁部44の前面には、前方に若干突出し、鍵仕切支持部35ごとに、その仕切壁部36の後端面に当接する位置決め部44a(図5(d)参照)が設けられている。
【0043】
支点軸支持部42は、隣り合う左右の鍵仕切支持部35、35間の距離よりも短い所定寸法の横幅を有し、平板部43よりも前方に所定長さ延びている。また、支点軸支持部42の上面には、その前端部に、前下がりの傾斜面42aが設けられ、その後方に、支点軸23の中央部23bの外周面に摺接する円弧面42b(第2円弧面)が設けられている。この円弧面42bは、鍵仕切支持部35の前記円弧面37aと同様の曲率を有し、ほぼ1/4円状に形成されている。
【0044】
以上のように構成された支点軸受部材33は、各支点軸支持部42が、シャーシ側鍵支持部32のガイド面34に載置されるとともに隣り合う左右の鍵仕切支持部35、35間に配置された状態で、シャーシ側鍵支持部32に、複数(図2〜4では3つのみ図示)のねじ45によってねじ止めされている。この場合、図5に示すように、各鍵3の支点軸23は、両端部23a、23aがそれぞれ、左右の鍵仕切支持部35、35の支点軸係合部37、37によって上方から支持され、支点軸23の中央部23bが支点軸受部材33の支点軸支持部42によって下方から支持される。このように、支点軸受部材33の各支点軸支持部42が、対応する左右の鍵仕切支持部35、35の支点軸係合部37、37と協働して、鍵3の支点軸23を支持する軸受を構成し、その軸受面が、支点軸係合部37、37および支点軸支持部42の円弧面37a、37a、42bで構成されている。これにより、鍵3は、支点軸23を中心として回動自在に支持されている。
【0045】
次に、鍵盤装置1の組立時における鍵盤シャーシ2への鍵3の取付け方法について、図4および図5を参照して説明する。まず、鍵盤シャーシ2上において、複数の鍵3を左右方向に並んだ状態に配置する。具体的には、各鍵3の鍵後部31を、図4の矢印で示すように、左右の鍵仕切支持部35、35の間、および左右の後側ガイド部13c、13cの間に上方から通し、その鍵3の支点軸23をガイド面34に載置する。なおこの場合、支点軸23は、左右の支点軸係合部37、37よりも若干後方に位置する。次いで、鍵3を前方へ若干スライドさせ、支点軸23の両端部23a、23aをそれぞれ、左右の支点軸係合部37、37に係合させる。このようにして、複数の鍵3をそれぞれ、所定の支点軸係合部37、37に係合させることにより、それらの鍵3が鍵盤シャーシ2上において左右方向に並んだ状態に配置される。
【0046】
次いで、支点軸受部材33を、図4の矢印で示すように、シャーシ側鍵支持部32に上方または後方から接近させ、各支点軸支持部42を、対応する左右の鍵仕切支持部35、35間に位置させた状態で、ガイド面34に載置する。そして、支点軸受部材33を、ガイド面34に沿って前方にスライドさせ、位置決め部44aを鍵仕切支持部35(仕切壁部36)の後端面に当接させる。この場合、各支点軸支持部42は、その前端部の傾斜面42aで支点軸23を若干持ち上げながら、ガイド面34との間に挿入される。これにより、図5に示すように、各鍵3の支点軸23は、両端部23a、23aが、左右の鍵仕切支持部35、35における支点軸係合部37、37の円弧面37a、37aに支持される一方、支点軸23の中央部23bが、支点軸受部材33の支点軸支持部42の円弧面42bに支持される。
【0047】
そして、支点軸受部材33の平板部43の複数の孔43aに対し適宜、ねじ45を挿入し、シャーシ側鍵支持部32の取付け穴36aにねじ込む。このようなねじ止めにより、支点軸受部材33が、左右方向に適正に位置決めされる。なお、支点軸受部材33またはシャーシ側鍵支持部32に、支点軸受部材33を左右方向に位置決めするための位置決め部を設けてもよい。
【0048】
以上により、支点軸受部材33がシャーシ側鍵支持部32にねじ止めされ、これにより、鍵盤シャーシ2への鍵3の取付けが終了する。なお、鍵盤シャーシ2から鍵3を取り外す場合には、上記と逆の手順で、容易に取り外すことができる。
【0049】
以上詳述したように、本実施形態によれば、左右の鍵仕切支持部35、35の支点軸係合部37、37と、支点軸受部材33の支点軸支持部42とにより、鍵3の支点軸23を支持する軸受を構成するので、その支点軸23をバランス良くしっかりと支持することができる。また、支点軸受部材33の支点軸支持部42が、支点軸係合部37と一体のガイド面34と、支点軸23との間に配置されているので、支点軸係合部37の円弧面37aと支点軸支持部42の円弧面42bとで構成される軸受面を、支点軸23の径方向に不動に保持することができ、支点軸23を安定して支持する軸受面を容易に構成することができる。さらに、鍵仕切支持部35の仕切壁部36と、これに対向する支点軸23の端面との間、および支点軸係合部37と、これに対向する鍵後部31の側壁31aとの間に隙間があるので、これらが接することによる摩擦の発生を防止することができる。さらにまた、鍵3は、前側ガイド11c、18aおよび後側ガイド13cにより、互いに前後方向に間隔を隔てた前後2つのガイドにより、押鍵時の横振れや傾きなどのがたつきを抑制することができる。以上により、本実施形態の鍵盤装置1によれば、鍵3の支点軸23をバランス良くしっかりと支持することができ、鍵3の円滑かつ安定した回動を確保することができる。
【0050】
また、鍵盤装置1の組立時には、支点軸受部材33を取り付けるべき鍵盤シャーシ2のシャーシ側鍵支持部32が外部に露出しているので、その作業者は、シャーシ側鍵支持部32の位置を容易に視認することができ、そのシャーシ側鍵支持部32に対し、支点軸受部材33を上方または後方から接近させて、容易に取り付けることができる。加えて、電子ピアノを廃棄処分する際には、支点軸受部材33を、取付け時と逆の手順でシャーシ側鍵支持部32から取り外すことにより、鍵盤シャーシ2から鍵3を容易に取り外すことができる。以上により、本実施形態の鍵盤装置1によれば、従来に比べて、組立性および分解性を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。鍵盤装置1の組立時に支点軸受部材33を取り付けるべき鍵盤シャーシ2のシャーシ側鍵支持部32については、支点軸受部材33の取付けの際に、外部に露出し、支点軸受部材33を容易に取付け可能であれば、種々の構成を採用することが可能である。また、支点軸受部材33における支点軸支持部42の数は、特に限定されるものではないが、例えば、単一の支点軸受部材33に、1オクターブ分(12個)の支点軸支持部42を設けるようにすることが好ましい。また、実施形態で示した鍵盤装置1の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 鍵盤装置
2 鍵盤シャーシ
3 鍵
11c 白鍵用の前側ガイド部(横振れ抑制部)
13a 鍵支持部
13c 後側ガイド部(横振れ抑制部)
18a 黒鍵用の前側ガイド部(横振れ抑制部)
23 支点軸
23a 支点軸の端部
23b 支点軸の中央部
31 鍵後部
31a 鍵後部の側壁
32 シャーシ側鍵支持部(取付け部)
33 支点軸受部材
34 ガイド面(載置面)
35 鍵仕切支持部(第1支持部)
36 仕切壁部(側壁部)
37 支点軸係合部
37a 円弧面(第1円弧面)
42 支点軸支持部(第2支持部)
42b 円弧面(第2円弧面)
44a 位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が前後方向に延びるとともに後端部に左右方向に延びる支点軸を有する複数の鍵と、
取付け部と、前記鍵ごとに設けられ、前記支点軸を支持するための複数の第1支持部とを有し、前記複数の鍵を左右方向に並んだ状態に保持する鍵盤シャーシと、
前記第1支持部と協働して、前記支点軸を支持する軸受を構成することにより、当該支点軸を中心として、前記鍵を回動自在に支持する第2支持部を有し、前記取付け部に着脱自在に取り付けられた支点軸受部材と、を備え、
鍵盤装置の組立時に、前記鍵が前記支点軸を介して前記第1支持部に係合しかつ前記鍵盤シャーシに保持された状態において、前記取付け部は、前記支点軸受部材が取り付けられる際に外部に臨み、当該支点軸受部材が上方または後方から取り付け可能に構成されていることを特徴とする電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記支点軸は、左右の端部が前記鍵の左右の側壁からそれぞれ突出するように形成されており、
前記第1支持部は、
載置面に互いに左右方向に所定間隔を隔てて立設され、互いに対向する左右2つの側壁部と、
これら2つの側壁部から互いに対向するように突出し、前記支点軸の端部の外周面に摺接する左右2つの第1円弧面と、を有し、
前記第2支持部は、前記第1円弧面に対向しかつ前記支点軸の外周面に摺接する第2円弧面を有し、前記載置面に載置された状態で、当該載置面と前記支点軸の間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記各側壁部は、前記支点軸の対向する端面との間に隙間を存するように配置され、前記各第1円弧面は、その突出する端面が前記鍵の対向する前記側壁との間に隙間を存するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記取付け部および前記支点軸受部材の一方には、当該支点軸受部材が当該取付け部に取り付けられたときに当該取付け部および当該支点軸受部材の他方に当接し、前記第2円弧面を前記第1円弧面と同心状に配置するための位置決め部が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項5】
前記支点軸受部材は、複数の前記第2支持部を有していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項6】
前記鍵盤シャーシは、前記鍵ごとに、互いに前後方向に間隔を隔てて設けられ、押鍵時に、当該鍵の横振れを抑制するための前後2つの横振れ抑制部を、さらに有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−27854(P2011−27854A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171487(P2009−171487)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】