説明

電子鍵盤楽器の鍵盤装置

【課題】 電子鍵盤楽器本体をコンパクト化できるとともに、ハンマーの周辺に配置される他の構成要素のレイアウトの自由度を向上させることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】 前後方向に延び、支点4に揺動自在に支持された鍵11と、支点4の後方でかつ鍵11の上方に配置され、鍵11の押鍵に伴い、鍵11により押し上げられることによって上方に回動するハンマー31とを備える。鍵11は、前側に配置された木製の前側部材12と、後側に配置された金属製または合成樹脂製の後側部材15とを一体に有する。後側部材15は、前後方向に延び、前側部材12に連結された前部16と、前部16の後端部から下方に延びる段部17と、段部17の下端部から後方に延びる後部18とを有し、ハンマー31は後部18に載置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの電子鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤装置は、電子ピアノに適用されたものであり、棚板と、棚板に載置された複数の鍵と、各鍵に設けられたハンマーを備えている。
【0003】
鍵は、前側部材と、その後ろ側に配置された後側部材を有しており、それらはそれぞれ前後方向に直線的に延びている。前側部材は、その後端部が後側部材に載置された状態で、後側部材にねじ止めされている。また、後側部材の後端部には、ハンマー駆動部材が取り付けられており、このハンマー駆動部材は、後側部材から後ろ斜め上方に突出している。また、鍵は、後側部材の前側部材との連結部よりも後ろ側の部分において、棚板上の支点に揺動自在に支持されている。
【0004】
ハンマーは、鍵の後部上方に配置され、離鍵状態において後ろ下がりに延びており、その下端部において、支軸に回動自在に支持されている。また、離鍵状態において、ハンマーの下部が鍵のハンマー駆動部材に当接し、上部が左右方向に延びるハンマーレールに当接しているとともに、鍵が押鍵されるのに伴い、ハンマーは、ハンマー駆動部材によって押し上げられ、上方に回動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭61−41118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この鍵盤装置では、鍵の後側部材が前後方向に直線的に延びており、その上方にハンマーが配置されている。このため、ハンマーの設置位置が高くなり、それに応じて電子ピアノ本体の高さも高くなる結果、電子ピアノ本体をコンパクト化することができない。また、ハンマーの設置位置が高くなることにより、ハンマーの上方のスペースに余裕がなくなるため、このスペースに配置される他の構成要素のレイアウトの自由度が低下する。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、電子鍵盤楽器本体をコンパクト化できるとともに、ハンマーの周辺に配置される他の構成要素のレイアウトの自由度を向上させることができる電子鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に延び、支点に揺動自在に支持された鍵と、支点の後方でかつ鍵の上方に配置され、鍵の押鍵に伴い、鍵により押し上げられることによって上方に回動するハンマーとを備え、鍵は、前側に配置された木製の前側部材と、後側に配置された金属製または合成樹脂製の後側部材とを一体に有し、後側部材は、前後方向に延び、前側部材に連結された前部と、前部の後端部から下方に延びる段部と、段部の下端部から後方に延びる後部とを有し、ハンマーは、後側部材の後部に載置されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、鍵の後側部材の後部は、後側部材の前部の後端部から下方に延びる段部を介して後方に延びているため、段部の高さの分だけ、前部よりも低い位置に位置する。このため、後側部材の後部に載置されるハンマーの設置位置が低くなり、それに応じて電子鍵盤楽器本体の高さも低くなる結果、電子鍵盤楽器本体をコンパクト化することができる。また、ハンマーの設置位置が低くなることにより、その分、ハンマーの上方のスペースに余裕が生まれ、このスペースに配置される他の構成要素、例えば鍵盤蓋や操作パネルなどのレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0010】
また、鍵の前側部材は、木製であるため、アコースティックな鍵盤楽器と同様の良好な外観およびタッチ感を得ることができる。一方、鍵の後側部材は、金属製または合成樹脂製であるため、高い剛性を確保することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、後側部材は、左右の側壁および底壁から断面がU字状に形成されており、底壁の上面に、ハンマーが載置されるとともに、押鍵に伴って下方に復帰回動するハンマーが当接するクッションが取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、鍵の後側部材が、U字状の断面を有し、中空状に形成されているので、後側部材ひいては鍵の剛性の確保と軽量化の両立を図ることができる。また、後側部材の底壁の上面に、ハンマーが載置されるとともに、復帰回動するハンマーが当接するクッションが取り付けられている。この構成により、ハンマーの設置位置をさらに低くすることができ、それにより、電子鍵盤楽器本体をさらにコンパクト化することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置において、鍵の前側部材および後側部材は、上下方向に互いに重なり合った状態で連結され、鍵は、連結された部分において、支点に支持されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、鍵は、前側部材と後側部材が重なり合った部分において、支点に支持されている。このため、鍵は、前側部材および後側部材のいずれか一方で支持されている場合と比較して、支点にしっかりと支持されるので、鍵の安定した動作を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】後側部材を示す側面図である。
【図3】図2の線A−Aに沿う断面図である。
【図4】図1の鍵盤装置を、押鍵状態において示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、実施形態による電子ピアノ1の鍵盤装置2を離鍵状態において示している。同図に示すように、この鍵盤装置2は、鍵盤シャーシ3、多数の鍵11(1つのみ図示)、アクションシャーシ21、および多数のハンマー31(1つのみ図示)を備えている。
【0017】
鍵盤シャーシ3は、プレスにより打抜きおよび折曲げ加工した鉄板などを組み立てたものであり、水平な棚板(図示せず)に固定されている。また、鍵盤シャーシ3の前後方向(図1の左右方向)の中央には、多数のバランスピン4(1つのみ図示)が左右方向に並んで立設されている。
【0018】
鍵11は、多数の白鍵11a(1つのみ図示)および黒鍵(図示せず)から成り、それぞれ、前後方向に延びている。白鍵11aおよび黒鍵の基本的な構成は互いに同じであるので、以下、これらを代表して、白鍵11aの構成を説明する。白鍵11aは、前側に配置された前側部材12と、後側に配置された後側部材15とを一体に有しており、これらはいずれも前後方向に延びている。前側部材12は、断面が矩形の木製のものであり、その上面には合成樹脂製の鍵カバー13が取り付けられている。前側部材12の後部には、上下方向に貫通するバランスピン孔12aが形成されている。また、前側部材12のバランスピン孔12aの部分を含む後端部の下部は、後側部材15との連結部12bになっている。この連結部12bは、左右の側面が面取りされており、それにより、前側部材12の他の部分よりも左右方向の幅が小さくなっている。
【0019】
後側部材15は、金属または合成樹脂の成形品で構成され、図2に示すように、前後方向に延びる前部16と、この前部16の後端部から下方に延びる段部17と、この段部17の下端部から後方に延びる後部18とを有している。後部18は、前部16に対して後ろ下がりに若干、傾斜しており、その後端部は前部16とほぼ平行になっている。
【0020】
図3に示すように、後側部材15は、左右の側壁15a,15aおよび底壁15bから、断面がU字状の中空状に形成されている。また、後側部材15の後部18の底壁15bの上面には、ハンマー31の前端部に対応する位置に第1クッション19aが、ハンマー31の後述するキャプスタン34に対応する位置に第2クッション19bが取り付けられている(図2参照)。これらの第1および第2クッション19a,19bは、例えば、発泡ウレタンで構成されている。また、後側部材15の前部16の底壁15bの中央には、前側部材12のバランスピン孔12aに対応するバランスピン孔16aが形成され、その前後には取付孔16b,16bが形成されている。
【0021】
以上の構成の後側部材15は、その前部16に、前側部材12の連結部12bを上方から上下方向に嵌め込み、取付孔16b,16bに下方から通したねじ16c,16cで固定することによって、前側部材12に連結されている(図1参照)。前述したように、前側部材12の連結部12bの左右の側面が面取りされているため、連結部12bに嵌められた後側部材15の側壁15a,15aと前側部材12の他の部分の側面は、互いに面一になっている。また、鍵11は、前側部材12および後側部材15のバランスピン孔12a,16aを介して、バランスピン4に揺動自在に支持されている。
【0022】
アクションシャーシ21は、中空状のアルミニウムの押出し成形品で構成され、すべてのハンマー31にわたるように、左右方向に延びていて、鍵盤シャーシ3に連結されるとともに、棚板に固定されている。アクションシャーシ21は、ハンマー31を支持するハンマー支持部22と、スイッチ取付部23を一体に備えている。
【0023】
ハンマー支持部22の上部には、上方に開放する円弧状のハンマー支点22aが形成されている。また、ハンマー支点22aの下側には、前方に水平に突出する鍵載置部22bが設けられており、この鍵載置部22bは、鍵盤シャーシ3に載置されている。鍵載置部22bの上面には、鍵ストッパ24が取り付けられている。この鍵ストッパ24は、フェルトまたは発泡ウレタンなどから成る1本の帯状のものであり、すべての鍵11にわたるように左右方向に延びている。
【0024】
スイッチ取付部23は、ハンマー支持部22の上側に配置され、斜め前上がりに延びており、その下面の前端部には、ハンマーストッパ25が取り付けられている。このハンマーストッパ25もまた、発泡ウレタンなどから成る1本の帯状のものであり、すべての鍵11にわたるように左右方向に延びている。
【0025】
ハンマー31は、鍵11ごとに設けられ、棒状の合成樹脂製のハンマー本体32と、このハンマー本体32に取り付けられた重り33,33(一方のみ図示)と、キャプスタン34を備えている。ハンマー本体32の後端部には、下方に開放する円弧状の軸穴32aが形成されている。ハンマー31は、この軸穴32aが前述したハンマー支点22aに係合した状態で、アクションシャーシ21に回動自在に支持されている。重り33,33は、鉄板などで構成され、ハンマー本体32の左右の側面の前端部にそれぞれ取り付けられている。キャプスタン34は、鍵11に対するハンマー31の相対的な角度を調整するためのものであり、ハンマー本体32の軸穴32aよりも前側の部分に進退自在にねじ込まれている。ハンマー31は、鍵11の後側部材15の後部18の底壁15bに、キャプスタン34および第2クッション19bを介して載置されている。また、ハンマー本体32の軸穴32aのすぐ前側には、スイッチ押圧部32bが上方に突出するように設けられている。
【0026】
アクションシャーシ21のスイッチ取付部23には、鍵スイッチ41が取り付けられている。この鍵スイッチ41は、プリント基板から成るスイッチ基板42と、ハンマー31ごとに設けられたスイッチ本体43で構成されている。また、鍵スイッチ41は、スイッチ基板42の後端部を、スイッチ取付部23の基端部に形成された係合凹部23aに差し込んだ状態で、スペーサ44を介し、ねじ45,45によって、スイッチ取付部23に取り付けられている。離鍵状態では、スイッチ本体43に、ハンマー31のスイッチ押圧部32bが下方から対向している。
【0027】
次に、上記の構成の鍵盤装置の動作を、図1および図4を参照しながら説明する。図1に示す離鍵状態では、鍵11は、その後端部において、ハンマー31の重さによりキャプスタン34を介して下方に押圧された状態で、鍵ストッパ24に当接している。この離鍵状態から鍵11が押鍵されると、鍵11はバランスピン4を中心として、同図の反時計方向に回動する。この回動に伴い、鍵11がキャプスタン34を介してハンマー31を突き上げることによって、ハンマー31は、ハンマー支点22aを中心として、同図の時計方向に回動する。その後、ハンマー31は、ハンマーストッパ25に当接する(図4の状態)。また、ハンマー31の回動の途中で、そのスイッチ押圧部32bが鍵スイッチ41のスイッチ本体43を押圧することによって、鍵11の押鍵情報が検出され、制御装置(図示せず)により、検出された押鍵情報に応じて、電子ピアノ1の発音が制御される。
【0028】
その後、鍵11が離鍵されると、ハンマー31は、下方に復帰回動し、左右の側壁15a,15aの間から後側部材15に入り込み、クッション19aに当接することによって緩衝される。その後、ハンマー31は、図1に示す離鍵状態に復帰する。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、鍵11の後側部材15の後部18は、前部16の後端部から下方に延びる段部17を介して後方に延びているため、段部17の高さの分だけ、前部16よりも低い位置に位置する。このため、後側部材15の後部18に載置されるハンマー31の設置位置が低くなり、それに応じて電子ピアノ1の本体の高さも低くなる結果、電子ピアノ1の本体をコンパクト化することができる。また、ハンマー31の設置位置が低くなることにより、その分、ハンマー31の上方のスペースに余裕が生まれ、このスペースに配置される他の構成要素、例えば鍵盤蓋や操作パネル(いずれも図示せず)などのレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0030】
また、鍵11の前側部材12は、木製であるため、アコースティックな鍵盤楽器と同様の良好な外観およびタッチ感を得ることができる。一方、鍵11の後側部材15は、金属製または合成樹脂製であるため、高い剛性を確保することができる。
【0031】
さらに、鍵11の後側部材15が、U字状の断面を有し、中空状に形成されているので、後側部材15ひいては鍵11の剛性の確保と軽量化の両立を図ることができる。また、後側部材15の底壁15bに、ハンマー31が載置されるとともに、復帰回動するハンマー31が当接するクッション19が取り付けられている。この構成により、ハンマー31の設置位置をさらに低くすることができ、それにより、電子ピアノ1をさらにコンパクト化することができる。
【0032】
さらに、鍵11は、前側部材12と後側部材15が重なり合った部分において、バランスピン4に支持されている。このため、鍵11は、前側部材12および後側部材15のいずれか一方で支持されている場合と比較して、バランスピン4にしっかりと支持されるので、鍵11の安定した動作を確保することができる。
【0033】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態は、本発明を電子ピアノに適用した例であるが、これに限らず、電子オルガンやシンセサイザなどにも適用することができる。その他、本発明の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 電子ピアノ(電子鍵盤楽器)
2 鍵盤装置
4 バランスピン(支点)
11 鍵
12 前側部材
15 後側部材
15a 側壁
15b 底壁
16 前部
17 段部
18 後部
19a 第1クッション(クッション)
31 ハンマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、支点に揺動自在に支持された鍵と、
前記支点の後方でかつ前記鍵の上方に配置され、当該鍵の押鍵に伴い、前記鍵により押し上げられることによって上方に回動するハンマーとを備え、
前記鍵は、前側に配置された木製の前側部材と、
後側に配置された金属製または合成樹脂製の後側部材とを一体に有し、
当該後側部材は、前後方向に延び、前記前側部材に連結された前部と、
当該前部の後端部から下方に延びる段部と、
当該段部の下端部から後方に延びる後部とを有し、
前記ハンマーは、前記後側部材の前記後部に載置されていることを特徴とする電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記後側部材は、左右の側壁および底壁から断面がU字状に形成されており、前記底壁の上面に、前記ハンマーが載置されるとともに、押鍵に伴って下方に復帰回動する前記ハンマーが当接するクッションが取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記鍵の前記前側部材および前記後側部材は、上下方向に互いに重なり合った状態で連結され、前記鍵は、当該連結された部分において、前記支点に支持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−70109(P2011−70109A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223050(P2009−223050)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】