説明

電子顕微鏡に使用される直接衝撃検出器および二次検出器を含む装置および方法

サンプル(26)を画像化する電子ビーム(30)とともに使用される装置(10)。装置は、サンプルに入射する電子ビームによって発生する電子顕微鏡信号(32)を検出するように構成されたダウンコンバージョン検出器(14)と、ダウンコンバージョン検出器に隣接し、電子顕微鏡信号を検出するように構成された直接衝撃検出器(16)と、ダウンコンバージョン検出器および直接衝撃検出器を電子顕微鏡信号に選択的に暴露する機構(18)とを有する。また、装置を使用する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、電子顕微鏡で使用される装置および方法に関し、具体的には、電子顕微鏡で使用される直接衝撃検出器および二次検出器を含む装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子顕微鏡では、介在する荷電粒子に敏感なシンチレータスクリーンを用いて高エネルギー荷電粒子を直接的または間接的に検出するために写真フィルムまたは電子像センサー搭載カメラのいずれかが使用される。シンチレータスクリーンは、衝突高エネルギー荷電粒子の画像を、光子に敏感なデバイスで集められる画像に変換する。これらの既存の検出技術は、感度が限られること、分解能が限られること、使い勝手が悪いこと、時間が非効率的であることなど、いくつかの欠点を有する。
【0003】
電子顕微鏡(EM)は、感度が比較的高い、分解能が改善された、タイミングの良い画像を提供するという利点を生かして様々な分野で応用されている。電子顕微鏡の1つの特定のタイプ、すなわち、透過型電子顕微鏡(TEM)は、タンパク質構造の解析に応用されている。X線タンパク質結晶学法は、現在、DNA、RNA/タンパク質複合体、ウイルスなどの巨大タンパク質の三次元構造を決定するための一つの方法である。低温電子顕微鏡(低温EM)が、X線タンパク質結晶学法を補完する技術として浮上している。X線タンパク質結晶学法に優る低温EMの利点は、低温EMが、検討対象とする材料の結晶を成長させるのに多大の時間を必要とするプロセスや、その成長を困難にするプロセスや、あるいは時にその成長が不可能となるプロセスに依存しないことである。分解能に制限があるものの、低温EMは、結晶物質においては可能でないタンパク質相互作用の動的側面を解明するための時間分解実験に使用され功を奏している。
【0004】
低温EMによって特徴付けられる構造の分解能は3つの主要因によって制限される。第1の要因は、試料安定化および放射線損傷に関する難しさである。第2の要因は、統計的分析に必要な非常に大きいデータセットの収集および処理の難しさである。第3の要因は、顕微鏡で形成される電子像(電子顕微鏡信号)における収差である。第3の要因は、本質的に近年克服されている。色収差を本質的に除去するために、計測機構が開発されている。試料安定化および放射線損傷に関する問題は、非常に優れた干渉性および安定性を特徴とする電子顕微鏡と極低温技術とによって部分的に解決されている。放射線損傷は、軽減されるが、電子顕微鏡の応用面において、なお深刻な問題として残っている。関心のある材料の多くは線量の影響をきわめて受けやすい。十分な分解能と信号対ノイズ比(SNR)の画像を得るのに必要な高い顕微鏡倍率とサンプルの線量とは、サンプルを乱すことが多い。最適品質に満たない取得データセットを使用せざるを得ない。
【0005】
電子顕微鏡、特に低温EMにおいて画像を記録するためにフィルムを使用することには問題がある。フィルムは、優れた変調転移と広視野とを提供するが、いくつかの面倒な後収集ステップを必要とする。たとえば、フィルムは、潜像を現像するために処理されてデジタル処理のためにスキャンされなければならない。これらのステップは、時間がかかり、さらなる設備と装置を必要とし、デジタルカメラで周知の即時性を欠いていることになる。フィルムの使用は、前収集段階においてすら困難である可能性がある。たとえば、典型的な透過型顕微鏡にフィルムを装填したり透過型顕微鏡からフィルムを取り出したりすることは、顕微鏡の真空を破ったり再確立したりする必要があるので時間がかかる。前収集および後収集のいずれのステップも、フィルムを曇らせて、詰まらせてさらなる遅れをもたらす方向に導く可能性がある。
【0006】
低温EMにフィルムを使用することについては、特に悲観的である。推測されるように、リボソームのような巨大タンパク質複合体の10Å分解構造を得るためには、最大100000の画像を収集する必要があるかもしれない。同様に、フィルムを適用する場合に3Å分解構造は最大100万の画像を必要とすることになり、検出技術がきわめて非現実的になる。
【0007】
電荷結合素子検出器(CCD)は、電子顕微鏡において検出に使用されることが多くなっている。これらの検出器は、直接的にデジタル出力を提供することによって、装填、取出し、処理、およびデジタル化の時間のかかるステップを克服する。一般に入手可能なCCD検出器は、最大4096×4096画素(4K×4K)の構成を有するが、これらは画素数のみによって予測される最大分解能を実現させるには程遠い。CCD検出器およびCMOS画像センサーなどの他のシリコン画像センサーは、検出効率が最高である範囲内で荷電粒子画像を光子画像に変換するために蛍光シンチレーションスクリーンを使用する必要がある。残念なことに、各荷電粒子事象では、シンチレーションスクリーン内で生成される蛍光スポットのサイズが検出器画素サイズよりも大きい。シンチレータ材料層の厚さを低減することでスポットサイズを小さくすることはできるが、入射一次電子当たりに生成される光子の数が低減されるに伴って感度は低下する。300keVにおいて、典型的なシンチレータ材料からのスポットの半値全幅は約30μmである。しかし、1%での全幅は200μmである。光が大きく広がると、典型的な市販のCCDカメラの実効分解能は各寸法で少なくとも1/2に低下し、4KのCCDカメラの分解能が2K×2Kカメラの分解能にまで低下してしまう。
【0008】
CCDとシンチレータとの光ファイバ結合は、光収集効率を最大にするので現在の設計では最も一般的である。しかし、これは、光散乱の増加をもたらして空間的情報の伝達をさらに悪化させる。また、シンチレータ層の真後ろにある材料は、一次電子の散乱をもたらす可能性がある。散乱された電子の一部は、シンチレータ層に再び入って、やはり分解能を低下させる第1の光のスポットから変位した第2の光のスポットを発生させる可能性がある。さらに、高エネルギー電子はシンチレータおよび光ファイバーに損傷を誘発して性能を低下させ、最終的にはこれらの交換が必要となる。これらの結果のすべては、低温EM作業に望ましい比較的高い加速電圧において一層深刻になる。こうした制限はあるものの、直線光ファイバーバンドル結合カメラは、電子顕微鏡において現在最も広く採用されている検出器である。
【0009】
検出器画素サイズとシンチレータ・スポット・サイズの深刻な不整合から生じる分解能の損失を軽減するために、テーパー光ファイバーや縮小レンズ系が開発されている。テーパー光ファイバー結合は、直線光ファイバー結合に存在する空間歪みおよび不均一性を上回る空間歪みおよび不均一性の増加をもたらす。歪みの増加は数学的に補正することが困難である。結果として、この種の光ファイバーの応用はさほど広く採用されない。
【0010】
画像を縮小するレンズ系は、空間的情報の伝達を維持するために集光効率は低下する。低い電子線量が必要とされる敏感なサンプルの場合、集光効率は非常に高い開口数レンズを採用することによって最大化されなければならない。光収集効率を最大にする画像縮小レンズ伝達系は、大きくかつ高価である。
【0011】
電子顕微鏡用の新しいタイプの検出器が、「Direct Collection Transmission Electron Microscopy」と題する米国特許第7,262,411号明細書(特許文献1)に開示されており、その全内容が参照によって本明細書に組み込まれる。フィルムまたはシンチレータスクリーンを使用せずに直接検出を実現するために、能動センサーが直接衝撃モードにおいて使用される。新しい検出器は複数の能動画素センサーを備え、各能動画素センサーは、光ダイオードのp−n接合を形成するエピタキシャルシリコン層を一次電子が通過するときに発生する二次電子を収集する光ダイオードを含む。これらの検出器は、1個の一次電子に対して高速読み出し、高分解能、および超高感度を実現する。これらのデバイスは、光ファイバーバンドルと同様に直接衝撃の厳しさに耐えるように特に設計されるが、最終的に損傷および/または劣化を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7,262,411号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、電子顕微鏡においてサンプルを画像化する装置および/または方法を技術的に改善する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
サンプルを画像化する電子ビームに使用される装置が提供される。装置は、サンプルへ入射した電子ビームによって発生した電子顕微鏡信号を検出するように構成されたダウンコンバージョン検出器を含む。装置は、さらに、ダウンコンバージョン検出器に隣接し、電子顕微鏡信号を検出するように構成される直接衝撃検出器を含む。装置はさらに、ダウンコンバージョン検出器および直接衝撃検出器を電子顕微鏡信号に選択的に暴露する機構を含む。
【0015】
好ましくは、ただしオプションとして、ダウンコンバージョン検出器は、シンチレータと、複数のセンサー画素と、シンチレータとセンサー画素とを光学的に結合する光ファイバプレートとを備える。シンチレータは、たとえば、YAGシンチレータまたは多結晶シンチレータであってよい。センサー画素としては、電荷結合素子(CCD)またはCMOS画像センサーを使用することができる。ダウンコンバージョン検出器は、電子顕微鏡信号の焦点情報を得て、直接衝撃検出器によって検出を開始する前に電子顕微鏡信号の関心領域を識別するように構成されてもよい。サンプルの画像を伝える一次電子がシンチレータまたはフィルムなどの介在デバイスを使用せずに検出されるように、直接衝撃検出器は複数の能動画素センサーを備えていてもよい。機構は、直接衝撃検出器の上流への電子顕微鏡信号の伝播経路に定置可能なシャッターを備えていてもよい。電子顕微鏡信号が直接衝撃検出器の許容検出範囲を超えることをダウンコンバージョンの検出結果が示すとき、電子ビーム、また結果的には、電子顕微鏡信号は直接衝撃検出器に衝突する前に調整されうる。また、機構は、ダウンコンバージョン検出器と直接衝撃検出器との間で電子顕微鏡信号を誘導するためのステアリングデバイスであってもよい。
【0016】
応用として、ダウンコンバージョン検出器および直接衝撃検出器は、単一のカメラ内に組み込まれてもよい。装置には、過剰線量の電子顕微鏡信号が直接衝撃検出器を損傷しないように全累積線量および瞬時線量の電子顕微鏡信号を測定するためのファラディプレートが使用されてもよい。
【0017】
本発明の別の態様によると、電子ビームを用いてサンプルの画像を生成する方法がさらに提供される。電子ビームは、電子顕微鏡信号を発生するためにサンプルに印加される。電子顕微鏡信号は、ダウンコンバージョン検出器によって検出されて検出結果として得られる。直接衝撃検出器に使用される少なくとも1つの検出パラメータは、ダウンコンバージョン検出器の検出結果に基づいて決定される。電子顕微鏡信号は、この後、検出パラメータを用いて直接衝撃検出器によって検出される。当該方法は、生物学的物質を画像化するために適用されてもよい。検出パラメータは、電子顕微鏡信号の焦点情報とサンプルの関心領域とを含んでいてもよい。当該方法は、さらに、直接衝撃検出器によって電子顕微鏡信号を検出するために電子顕微鏡信号を直接衝撃検出器の方向に導くステップを備えていてもよい。直接衝撃検出器は、好ましくは、検出パラメータが決定される前に電子顕微鏡信号の暴露を阻止される。ダウンコンバージョン検出器および直接衝撃検出器のいずれも、周囲温度以下に冷却されるのがよい。
【0018】
本発明の実施形態では、直接衝撃検出器およびビーム電流測定デバイスはカメラに組み込まれる。直接衝撃検出器は、サンプルへの入射電子ビームによって発生される電子顕微鏡信号を検出するように構成される。ビーム電流測定デバイスは、電子顕微鏡信号の電流を測定する直接衝撃検出器の上流の電子顕微鏡信号の伝播経路に置かれる。装置は、さらに、電子顕微鏡信号の直接衝撃検出器への入射を選択的に防止するように構成された機構を備える。ビーム電流測定デバイスは、電子顕微鏡信号の線量を測定する働きをするファラディプレートを含んでいてもよい。機構は、直接衝撃検出器の上流への電子顕微鏡信号の伝播経路に定置可能なシャッターを含んでいてもよい。
【0019】
本発明の別の態様によると、以下のステップを含む電子顕微鏡におけるサンプルを画像化する方法が提供される。電子ビームが電子顕微鏡信号を発生するサンプルに印加される。ビーム電流検出器が電子顕微鏡信号の電流および線量を検出するために使用される。ビーム電流検出器の検出結果は、電子顕微鏡信号を検出するための直接衝撃検出器の少なくとも1つの検出パラメータを決定する。当該方法は、生物学的物質を画像化するために適用されうる。ビーム電流検出器は、電子顕微鏡信号の電流を測定し、測定された電流に基づいて電子顕微鏡信号の線量を決定する働きをするファラディプレートであることが好ましい。直接衝撃検出器に印加される瞬時線量および全累積線量のいずれも決定されうる。線量が直接衝撃検出器に許容される範囲を超えるとき、直積衝撃が損傷しないように電子ビームの線量は許容範囲に調整される。直接衝撃検出器からの電子顕微鏡信号を阻止するために、電子顕微鏡信号の伝播経路に可動シャッターが定置されてもよい。
【0020】
上記の特徴および利点ならびに本明細書に開示される種々の実施形態の特徴および利点は、以下の説明および図面によってより良く理解される。なお、図面全体を通じて同様の符号は同様の構成部品を指す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ダウンコンバージョン検出器および直接衝撃検出器を含む電子顕微鏡で使用される装置の概略図である。
【図2】図1に示されるようなダウンコンバージョン検出器と直接衝撃検出器の一体化の透視図を示す。
【図3】図1に示されるようなダウンコンバージョン検出器と直接衝撃検出器の相対位置を示す。
【図4】本発明の別の態様による電子顕微鏡に使用される直接衝撃検出器およびビーム電流測定検出器を含む装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
顕微鏡における直接衝撃検出器は、従来の検出および画像化手段に対して数多くの重要な利点を提供する。直接衝撃検出によって、エネルギー・ダウン・コンバージョン技術を使用せずとも画像を形成する一次電子をピクセル検出器に直接衝突させることによってこれらの一次電子を検出することができる。衝突電子は、それらのエネルギーの一部を検出器内に多数の二次電子の形で蓄積する。その後、多数の二次電子がCCDまたはCMOS画像センサーなどの光画像センサーで一般に実施される技術によって検出される。直接衝撃検出の利点として、高感度検出、たとえば10を超える信号対ノイズ比(SNR)での個々の一次電子の検出と、改善された空間分解能とが挙げられる。また、直接衝撃検出では、読み出しおよびデジタル処理機能の高い稼働率と大規模集積化によって比較的速い速度で画像データを収集する。
【0023】
前述の利点は、電子顕微鏡法において数多くの方法で実現することができる。たとえば、超高感度および高空間分解能は、生物学的物質などのきわめて感度の高いサンプル試料の構造および形態の決定にとって特に有効である。高感度の利点は、画像における所与のSNRに対してサンプルの電子線量が比較的低いということである。また、サンプル線量を減らすために比較的高い空間分解能が採用され得る。直接検出器においては、空間分解能が低い検出器と同じ分解能を実現するために低い顕微鏡倍率が要求される。低倍率の動作点は、サンプル線量を減らして安定性の向上などの付加的利点をもたらす傾向がある。
【0024】
直接衝撃検出は、さらに、電子顕微鏡において画像ビーム損傷を受けやすい材料や不安定な材料とともに採用される場合において線量低減に勝る利点を提供する可能性がある。これらの利点は直接衝撃検出器の動作方法に起因する。画像フレームの読み出し前に画素に光生成電荷を蓄積するCCDやCMOS画像センサー等の従来の検出器と違って、直接衝撃検出器ははるかに高速でかつより頻繁に読み出すものとなる。これは、各フレームに許容しがたいレベルの読み出しノイズを導入することなく高速読み出しを提供する単一の一次電子感度が高いがゆえに可能となる。
【0025】
ビーム損傷を受けやすいサンプルの画像を生成する通常の過程では、典型的な積分検出器の場合の単一画像と比べて100の直接衝撃画像が得られる可能性がある。どちらの場合もサンプルの全線量は同じである。直接衝撃検出によって得られる画像は、組み合わせて最終単一画像を作る前に別々に調べて処理される。典型的な処理ステップは、相関分析などの技術、および試料内でのビーム損傷発現の調査を用いた試料画像ドリフトの補正を含み得る。個別のフレームまたはフレームのグループが画像ドリフトに対して補正され、サンプル劣化が発現する前に収集されたフレームのみが使用される。これによって、単一収集の場合に可能な空間分解能よりも高い空間分解能を有する合成画像が得られる。
【0026】
試料画像ドリフトの問題は、線量率を増加させるとともに全線量を一定に保ちつつ暴露時間を短縮することによるCCDやCMOS画像センサーの場合と同様には回避することはできない。これは、サンプル損傷が線量および線量率の両方に依存するからである。すなわち、サンプル上に1平方オングストローム当たり10個の電子があっても、線量率が1e−/Å2・secまたは10e−/Å2・secであるかに応じて損傷の程度が異なる。
【0027】
前述の利点があるにもかかわらず、直接衝撃検出器は、高エネルギー一次電子放射への直接暴露によって時間とともに性能が劣化する。電子顕微鏡で生成される高エネルギー電子および高エネルギーX線は、直接衝撃検出器を形成するために使用される材料の結晶格子構造における転位を引き起こす可能性がある。これらの転位は、構造内で熱的に発生する電荷の割合を増加させることを含む、いくつかの影響をもたらす。熱的に発生する電荷は、暗電流とも呼ばれ、価電子帯から伝導帯ギャップに移動するための十分なエネルギーをランダムに獲得するデバイス内の電子(二次電子)から生じる。バンドギャップを移動する電子は、所望の画像情報を伝達する信号電子と見分けがつかない。一次電子またはX線による格子構造への損傷は、バンドギャップ領域内に新たなエネルギー状態をもたらし、熱的に発生した電荷が乗り越える障壁を下げる。結果として、より多くの暗電流が発生される。温度が一定に保たれ、かつその信号への影響を差し引くことができるとき、暗電流の割合は比較的一定のままであるが、暗電流に関連するショットノイズは差し引くことができない。ショットノイズは最終画像に対するノイズの一因となる。暗電流がさらに深刻になるにつれて、検出器のダイナミックレンジのかなりの部分が使われ始めるかもしれない。
【0028】
図1は、直接衝撃検出器の前述の欠点を軽減すると同時に前述のような利点を持つ装置11を示す。図示されるように、装置は、ダウンコンバージョン検出器の形の二次検出器14を直接衝撃検出器16とともに単一のカメラ11に内蔵している。本実施形態では、ダウンコンバージョン検出器14は、サンプルセットアップ段階中に検出を実施するための調査検出器として使用される。直接衝撃検出器16の起動は、最終データ収集の段階まで回避されてもよい。電子ビーム30がサンプル、すなわち試料26に衝突すると、試料26の画像を伝達する電子画像、すなわち電子顕微鏡信号32が生じてカメラ11に入射する。サンプルセットアップ段階中に、電子顕微鏡信号は、ダウンコンバージョン検出器14の方向に誘導され、これにより電子顕微鏡信号を検出して画像を生成することができる。画像の特性は検出結果と呼ばれ、これに基づいて、試料26および電子顕微鏡信号の焦点、試料26の関心領域の識別、および電子ビーム30の線量などの検出パラメータが決定され、直接衝撃検出器16の所望動作状態を確立することができる。
【0029】
図1に示されるように、電子光学部品34およびアパーチャー36が、電子ビーム30および電子顕微鏡信号32の伝播経路に沿って採用されてもよい。ステアリングデバイス12が、ダウンコンバージョン検出器14と直接衝撃検出器との間に電子顕微鏡信号32を誘導するために採用されてもよい。電子顕微鏡信号32を非常に高速にかつ正確に誘導するために、ステアリングデバイス12としてビーム偏向または画像シフトコイルを使用することができる。ビーム偏向コイルは、機械的動作に関連する振動などの不安定性を防止する。ステアリングデバイス12としてビーム偏向コイルが使用されることが好ましいが、誘導効果を実現する働きをする他の誘導機構が採用されてもよい。
【0030】
好ましくは、ダウンコンバージョン検出器14は、典型的に、光ファイバープレート14bによって互いに光結合された、シンチレータ14aとCCD検出器またはCMOS画像センサー14cとを含む。ダウンコンバージョン検出器14は、直接衝撃検出器16の空間分解能と同様の空間分解能を有していないが、補間法を用いて正確な焦点調節がダウンコンバージョン検出器14によって実現され得る。ダウンコンバージョン検出器14によって得られた検出結果に基づいて二次元高速フーリエ変換(FFT)が実施されてもよく、その後にスペクトルの高周波部分のパワーを計算し電子顕微鏡信号の焦点を調節するステップが続く。焦点が変化すると電子顕微鏡信号がシフトするので、電子顕微鏡信号を再び中心に置いて新たな検出結果を得るために画像シフトコイルが使用され得る。FFTは新たな検出結果に対して実施され、焦点調節に対するスペクトルの高周波部分のパワーのプロットを得るために同じプロセスが何度も繰り返される。その結果、電子顕微鏡信号の焦点を合わせることができ、暴露用の電子顕微鏡信号の位置を要望どおりに調整することができる。
【0031】
電子顕微鏡信号の焦点に加えて、ダウンコンバージョン検出器14の検出結果は電子顕微鏡信号の関心領域を決定するためにも使用することができる。一実施形態では、試料26は、薄膜に孔が規則的に配列された多孔質の炭素膜によって支持されてもよい。ウイルス粒子などの試料26は水溶液中に懸濁される。膜は、溶液中に浸漬され、取り出されて素早く凍結され、膜を低温液体の中に入れることによってアモルファス氷を形成するようにしてもよい。関心粒子は、孔の中に形成された液体の凹凸レンズの中に懸濁される。試料26(この段階で凍結されている)は、顕微鏡真空内に配置され、画像形成中に極低温に保たれてもよい。画像化に適したサンプルは、結晶氷を含むべきでなく適切な粒子数を含むべきである。したがって、調査検出器、すなわち、ダウンコンバージョン検出器14は、アモルファス氷状態の十分な粒子量を含む膜の孔の位置を決定するために使用される。関心領域を識別するために、試料26は、ダウンコンバージョン検出器14の視野に同時に多数の孔と最低限の線量を配分した倍率で焦点を合わせられる。識別された関心領域は、この後、直接衝撃検出器16によってその後の検出のために目録に載せられる。識別された関心領域を画像化するために、電子顕微鏡信号が直接衝撃検出器16の方向に入射しうるように識別された関心領域の1つの孔の座標がシフトされる。孔または孔の一部が直接衝撃検出器16の視野を満たすように倍率が上げられる。電子ビーム30は、試料26に適したレベル、たとえば、生物学的物質の場合に平方オングストローム当たり数個の電子の全線量に調節される。焦点は、孔の深さと多数の氷粒子をサンプリングするために得られた複数の画像とに基づいて調節されてもよい。上記の手順は、目録に載せられたすべての関心領域に対して繰り返されてもよい。粒子の三次元構造を再現するために、ランダム粒子配向で捕らえられた何万もの粒子画像が使用されてもよい。
【0032】
顕微鏡画像は理想的な状況においてさえも検出面の全域で緩やかにドリフトすることが理解される。高精度の作業では、相次いで得られる画像間のドリフトは、画像が加算される前に補正される。ドリフトは一般に一方向であるが、入念な作業では簡単な線形変換よりも精緻な補正を必要とする。画像ドリフト補正の一般的な方法は、後続の画像間の相互相関を計算した後でこれらの画像を加算する前に相関係数を最大にするために1つの画像を繰り返して修正することによって実現される。実際に、画像ドリフト補正は、1〜5秒ごとに実施されてもよい。信号が制限される条件下では、暴露時間が最大化され、均一な暴露を表わす画像はドリフト補正後に同時加算される。高信号条件下では、検出器の飽和を防ぐために短い暴露時間が採用されてもよい。
【0033】
検出パラメータが決定された後、ステアリングデバイス12はダウンコンバージョン検出器14から直接衝撃検出器16の方向に電子顕微鏡信号32を誘導するように操作されてもよい。ステアリングデバイス12によって、直接衝撃検出器16は電子顕微鏡信号32を形成する一次電子を直接検出して比較的高い感度および分解能で試料26の画像を提供することができる。図2および3に示されるように、直接衝撃検出器16およびシャッター18は、取付け面22に配置され、シンチレータ14a、光ファイバープレート14b、および撮像装置14cを含むダウンコンバージョン検出器14の要素は、取付け面20によって支持された単一パッケージ40に組み立てられる。取付け面20および22は、直接衝撃検出器16がダウンコンバージョン検出器14に隣接し、これらの位置が容易に定められて較正されうるように構成される。
【0034】
直接衝撃検出器16を電子顕微鏡信号32の望ましくない暴露から保護するために、電子顕微鏡信号32の直接衝撃検出器16への入射を選択的に阻止するように可動シャッター18が設置されてもよい。これによって、直接衝撃検出器16が電子顕微鏡信号32の過剰線量の頻繁な照射によって損傷を受けることを防止される。図2に示されるように、シャッター18は、直接衝撃検出器16から電子顕微鏡信号32を完全に遮るための位置と直接衝撃検出器16が電子顕微鏡信号32に完全に暴露される位置との間で枢着部を中心として移動可能である。電子顕微鏡信号34bの線量が許容検出範囲内になるように、ファラディプレート24がシャッター18および/またはステアリングデバイス16に関連して使用されてもよい。ファラディプレート24は、直接衝撃検出器16が電子顕微鏡信号32に暴露されているとき、あるいは暴露されていないとき電子顕微鏡信号32の電流を測定する働きをする。図1〜図3に示されるように、ファラディプレート24は直接衝撃検出器16に隣接して設置される。電流が大きすぎるとき、電子顕微鏡信号32が直接衝撃検出器16の方向に誘導される前かあるいはシャッター18が遮断位置から移動される前に、許容範囲を超える電子顕微鏡信号32の線量が許容範囲に調節される。また、ファラディプレート24は、直接衝撃検出器16に入射する電子顕微鏡信号32の全累積線量を監視する働きをしてもよい。ファラディプレート24によって測定される電流とシャッター18の位置とを常に記録して直接衝撃検出器16の累積線量を正確に計算するために、マイクロプロセッサが使用されてもよい。また、マイクロプロセッサは、直接衝撃検出器16に入射する電子顕微鏡信号32の線量が常に適正範囲内または許容範囲内になるように、シャッター18を直接衝撃検出器16から遠ざける前に、ファラディプレート24の電流をチェックするために使用されてもよい。
【0035】
図1〜図3に示されるような装置は、ビーム電流測定デバイス、すなわちファラディプレート24と、ダウンコンバージョン検出器14と、直接衝撃検出器18とを同じカメラ11に内蔵している。本発明は、この特定の構成に限定されないことは理解される。他の配置、たとえば、装置は、ダウンコンバージョン検出器14および直接衝撃検出器16のみを内蔵する単一カメラ、直接衝撃検出器16およびシャッター18のみを内蔵する単一カメラ、あるいは直接衝撃検出器16およびファラディプレート24のみを内蔵する単一カメラを含み、これらも本発明の範囲内にある。
【0036】
図4は、本発明の別の実施形態を示す。図4に示されるように、試料を画像化するために電子ビームに使用される装置は、直接衝撃検出器16に隣接するビーム電流測定デバイスの形態の二次検出器28を含む。また、装置は、電子顕微鏡信号32に暴露される直接衝撃検出器16を選択的に保護するために可動シャッター18を含む。電子顕微鏡信号32の焦点を調節し試料26の関心領域を識別する代わりに、直接衝撃検出器16に照射される電子顕微鏡信号32の線量が決定されるように、検出ビーム電流デバイスが電子顕微鏡信号32の電流を測定する。好ましくは、さらに、二次検出器28は、全累積線量が監視されて制御されるように、直接衝撃検出器16に実際に入射する電子顕微鏡信号32の線量を測定する働きをする。好ましくは、直接衝撃検出器16、ビーム電流測定デバイス28、およびシャッター18が、カメラ13に組み込まれる。装置は、ステアリングデバイス12、電子光学部品34,36をさらに備えていてもよい。
【0037】
直接衝撃検出器16の保守は、高エネルギー電子の入射によって生じる損傷の一部を「修復」するために高温で検出器を焼鈍することを含んでいてもよい。焼鈍はある程度まで役立つだけで、直接衝撃検出器16は最終的に交換を必要とする。したがって、電流測定デバイスおよび/またはダウンコンバージョン検出器をビーム遮断デバイスと組み合わせて一体化することによって、直接衝撃検出器16の寿命が究極的に延び、これによって電子顕微鏡において高感度および高分解能を有する画像を提供することができる。
【0038】
前述の説明は、制限ではなく例示として与えられている。前述の開示を所与として、当業者は本明細書に開示された本発明の範囲および思想に沿った変形形態を推考し得る。さらに、本明細書に開示された実施形態の種々の特徴は、単独であるいは相互の様々な組合せで利用することができ、本明細書に記載された特定の組合せに限定されるものではない。それゆえ、特許請求の範囲は例示された実施形態によって限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを画像化するために電子ビームとともに使用される装置であって、
前記サンプルに入射する前記電子ビームによって発生した電子顕微鏡信号を検出するように構成されたダウンコンバージョン検出器と、
前記ダウンコンバージョン検出器に隣接し、前記電子顕微鏡信号を検出するように構成された直接衝撃検出器と、
前記直接衝撃検出器を前記電子顕微鏡信号に選択的に暴露する機構と、
を備える装置。
【請求項2】
前記ダウンコンバージョン検出器はシンチレータを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記シンチレータはYAGシンチレータを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記シンチレータは多結晶シンチレータを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記ダウンコンバージョン検出器は複数の画素を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記ダウンコンバージョン検出器は電荷結合素子(CCD)を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記ダウンコンバージョン検出器はCMOS画像センサーを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記ダウンコンバージョン検出器は前記電子顕微鏡信号の焦点を合わせるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ダウンコンバージョン検出器は前記サンプルの関心領域を識別するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記直接衝撃検出器は複数の能動画素センサーを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記機構は、前記直接衝撃検出器の上流の前記電子顕微鏡信号の伝播経路に定置可能なシャッターを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記機構は、前記ダウンコンバージョン検出器と前記直接衝撃検出器との間で前記電子顕微鏡信号を誘導するためのステアリングデバイスを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記ダウンコンバージョン検出器および前記直接衝撃検出器は単一カメラ内に組み込まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記ダウンコンバージョン検出器に結合された光ファイバープレートをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記電子顕微鏡信号の全累積線量を測定するように構成されたファラディプレートをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記電子顕微鏡信号の瞬時線量を測定するように構成されたファラディプレートをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項17】
サンプルを画像化するために電子ビームとともに使用される装置であって、
前記サンプルに入射する前記電子ビームによって発生した電子顕微鏡信号を検出するように構成されたダウンコンバージョン検出器と、
前記ダウンコンバージョン検出器に隣接し、前記電子顕微鏡信号を検出するように構成された直接衝撃検出器と、
を備え、
前記ダウンコンバージョン検出器および前記直接衝撃検出器が単一カメラに組み込まれている装置。
【請求項18】
電子ビームを用いてサンプルの画像を生成する方法であって、
a)電子顕微鏡信号を発生するために前記サンプルに前記電子ビームを印加するステップと、
b)ダウンコンバージョン検出器によって前記電子顕微鏡信号を検出して検出結果を得るステップと、
c)前記ダウンコンバージョン検出器の検出結果に基づいて少なくとも1つの検出パラメータを決定するステップと、
d)前記検出パラメータを用いて直接衝撃検出器によって前記電子顕微鏡信号を検出するステップと、
を備える方法。
【請求項19】
前記サンプルは生物学的物質を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記検出パラメータは前記電子顕微鏡信号の焦点情報を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記検出パラメータは前記サンプルの関心領域を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記直接衝撃検出器によって前記電子顕微鏡信号を検出するために前記電子顕微鏡信号を前記直接衝撃検出器の方向に誘導するステップをさらに備える請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記検出パラメータが決定される前に前記直接衝撃検出器が前記電子顕微鏡信号に暴露されることを阻止するステップをさらに備える請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記ダウンコンバージョン検出器を周囲温度以下に冷却するステップをさらに備える請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記直接衝撃検出器を周囲温度以下に冷却するステップをさらに備える請求項18に記載の方法。
【請求項26】
サンプルを画像化すために電子ビームとともに使用される装置であって、
前記サンプルに入射する前記電子ビームによって発生した電子顕微鏡信号を検出するように構成された直接衝撃検出器と、
前記直接衝撃検出器に隣接して設置されるビーム電流測定デバイスと、
前記電子顕微鏡信号が前記直接衝撃検出器に入射することを選択的に防止するように構成された機構と、
を備える装置。
【請求項27】
前記ビーム電流測定デバイスはファラディプレートを含む、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
前記機構は、前記直接衝撃検出器の上流の前記電子顕微鏡信号の伝播経路に定置可能なシャッターを含む、請求項26に記載の装置。
【請求項29】
電子ビームおよび直接衝撃検出器を用いてサンプルの画像を生成する方法であって、
a)電子顕微鏡信号を発生するために前記サンプルに前記電子ビームを印加するステップと、
b)ビーム電流検出器によって前記電子顕微鏡信号を検出して検出結果を得るステップと、
c)前記ビーム電流検出器の検出結果に基づいて少なくとも1つの検出パラメータを決定するステップと、
d)前記検出パラメータを用いて前記直接衝撃検出器によって前記電子顕微鏡信号を検出するステップと、
を備える方法。
【請求項30】
前記サンプルは生物学的物質を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記検出パラメータは前記電子顕微鏡信号の線量を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記線量は前記直接衝撃検出器に印加される瞬時線量を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記線量は前記直接衝撃検出器に印加される全累積線量を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記サンプルに印加される前記電子ビームの線量を設定するステップをさらに備える請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記検出パラメータに基づいて前記直接衝撃検出器からの前記電子顕微鏡信号を選択的に阻止するために可動シャッターを定置するステップをさらに備える請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−530145(P2011−530145A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521340(P2011−521340)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/052309
【国際公開番号】WO2010/014850
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(511027507)ダイレクト エレクトロン エルピー (1)
【氏名又は名称原語表記】DIRECT ELECTRON,LP
【Fターム(参考)】