説明

電子顕微鏡及びそれに用いられる絞り板並びに絞り板の製造方法

【課題】
電子顕微鏡の電子光学系毎の機差補正を複雑にすることなく行う。
【解決手段】
電子銃110から放出された電子線を集束するためのコンデンサレンズ111と、不要な領域を除去する絞り孔152と、サンプル141上に微小スポットとして照射する対物レンズ115と、サンプルから発生した信号を検出する検出器130と、信号増幅変換器230と、信号を記憶する記憶部261と、記憶された信号を表示する表示部262と、を備えた電子顕微鏡において、複数の絞り孔152が形成された絞り板150と、絞り板150を移動する対物絞り可動ユニット250と、を備え、複数の絞り孔151から153のうちいずれかを選択可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡及びそれに用いられる絞り板並びに絞り板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡においては、良質な画像を得るために光学条件を調整して最適な分解能や焦点深度としている。最適な分解能を得るため、2段のコンデンサレンズと対物レンズとの間に開き角制御レンズを配置して電子線の開き角を制御することが知られ、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、電子光学系を構成する部品の一つとして絞り板があり、小孔があいており、この小孔が電子線を絞り込むための絞りとなる。この絞りを高精度に加工して寸法ばらつきを抑えることは、電子線の開き角のばらつきを抑えることになり、ひいては分解能などのばらつきを抑えることに繋がる。そこで、支持層上に形成した電子線阻止層に小孔を設けて高精度な絞りとすることが知られ、例えば、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−236563号公報
【特許文献2】特開平6−28992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良質な画像を得るためには光学条件を調整して最適な倍率や走査範囲や分解能とするが、対物レンズと試料の距離(ワークディスタンス)は倍率と、対物レンズ直上の電子線クロスオーバーの走査コイルとの位置は走査範囲、電子線の開き角は分解能と関わりがあるため、機体が異なっていても、これらワークディスタンス,クロスオーバー,開き角は同一の方が好ましい。しかし、特許文献1に記載のものは、一定の開き角を保つためには対物レンズ直上の一次電子線クロスオーバーの位置を変更しなければならないため、走査コイルとの位置が変化して走査範囲が異なってくる。
【0006】
また、レンズを多く追加しているため電子光学系が複雑となり、光学収差の発生原因を増やすこととなる。
【0007】
さらに、特許文献2に記載されているように、単に、電子線阻止層に小孔を設けるものでは、電子線阻止層に小孔を開けた後に支持層に開口部を設ける必要があるため、電子線阻止層と支持層の材質の組み合わせが制約され、電子線阻止層の材料が限定される。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、電子光学系を複雑にすることなく、電子顕微鏡の電子光学系毎の補正(機械毎の補正:機差補正)を行うことにある。また、他の目的は、電子線阻止層の材質に自由度を持たせ、高精度な製造を容易とし、薄くしたシート層に絞り孔を形成しても絞り孔を高精度に加工し、孔径ばらつきを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、電子銃と、該電子銃から放出された電子線を集束するためのコンデンサレンズと、前記集束された前記電子線の不要な領域を除去するための絞り孔と、不要な領域を除去された前記電子線をサンプル上に微小スポットとして照射する対物レンズと、前記サンプルから発生した信号を検出する検出器と、該検出器の出力信号の増幅及び変換を行う信号増幅変換器と、増幅及び変換された信号を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された信号を表示する表示部と、を備えた電子顕微鏡において、複数の前記絞り孔が形成された絞り板と、該絞り板を移動する可動ユニットと、を備え、複数の前記絞り孔のうちいずれかを選択可能としたものである。
【0010】
また、本発明は、電子銃と、該電子銃から放出された電子線を集束するためのコンデンサレンズと、前記集束された前記電子線の不要な領域を除去するための絞り孔と、不要な領域を除去された前記電子線をサンプル上に微小スポットとして照射する対物レンズと、前記サンプルから発生した信号を検出する検出器と、該検出器の出力信号の増幅及び変換を行う信号増幅変換器と、増幅及び変換された信号を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された信号を表示する表示部と、を備えた電子顕微鏡に用いられる絞り板において、それぞれ異なる径とされた複数の前記絞り孔が形成されたものである。
【0011】
さらに、電子顕微鏡に用いられる絞り板の製造方法であって、シリコン単結晶のベース層に熱酸化処理を行い、上面にシート層、下面に第1エッチング保護層を酸化ケイ素として形成し、ドライエッチングにより前記シート層に絞り孔前加工を行い、前記絞り孔前加工の下に熱酸化処理により第2エッチング保護層形成し、ドライエッチングにより前記第1エッチング保護層に前記ベース層の貫通部保護パターンを形成し、前記貫通部保護パターンを基準に異方性エッチングで前記ベース層に貫通部をテーパ状に形成し、SiO2 ウェットエッチングにより前記第2エッチング保護層除去して絞り孔を形成し、スパッタリングにより表層にコート層の形成を行うものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機差に係わらず、電子光学系に最も適した寸法の絞り孔を選択することができるので、対物レンズ直上の一次電子線クロスオーバーの位置を変更することなく、電子光学系に適した一次電子線の開き角を得ることができる。
また、薄くしたシート層に絞り孔を高精度に加工することができ、電子線阻止層の材料が限定されず、孔径ばらつきを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明による電子顕微鏡の構成を示す図である。同図では、電子光学系が設計通りずれなく配置されている。
マイクロプロセッサ260の指示値に基づいて高圧制御電源210で制御された電子銃110で一次電子線191が発生し、レンズ系に進行する。一次電子線191は、アノード絞り122で不要な領域を除去された後、第1コンデンサレンズ制御電源211で制御された第1コンデンサレンズ111により第1クロスオーバー171で集束する。一次電子線191はさらに進行し、対物絞り可動ユニット250で位置制御された絞り板150の絞り孔(中)152で不要な領域を除去された後、マイクロプロセッサ260の指示値に基づいて第2コンデンサレンズ制御電源212で制御された第2コンデンサレンズ112により第2クロスオーバー172で集束する。
第2クロスオーバー172では一次電子線191は、アライメントコイル制御電源213で制御されたアライメントコイル113により走査位置の位置決めが行われ、走査コイル制御電源214で制御された走査コイル114によりサンプル上を二次元的に走査される。
【0014】
一次電子線191はさらに進行し、対物レンズ制御電源215で制御された対物レンズによりサンプル141に微小スポットとして集束される。サンプル141上に一次電子
191の焦点を合わせたときの対物レンズ115とサンプル141との間隔Sは電子光学系の設計値であり、対物レンズ制御電源215の制御状態は電子光学系の設計通りであることがマイクロプロセッサ260内で確認される。サンプル141はステージ140上に保持されており、ステージ140はステージ制御器240によって制御される。
一次電子線191の照射によりサンプル141から発生した二次電子線192は、検出器130で検出され、信号増幅変換器230で信号増幅と変換が行われ、マイクロプロセッサ260を経てコンピュータ261にデジタル情報として記憶され、表示器262に画像として表示される。
【0015】
絞り板150には寸法の異なる絞り孔(小)151,絞り孔(中)152,絞り孔(大)153が3つ形成され、電子光学系が正常に配置されている場合は、絞り孔(中)152が使用されている。
サンプル141に一次電子線191が集束する角度θは開き角181であり、一般に、開き角と分解能には相関関係がある。そのため、開き角が変化することは機差を生じさせることに繋がる。したがって、一定の開き角を維持することは機差をなくする上で重要となる。
また、第2クロスオーバー172は、サンプル141上での走査のため、走査コイル
114にて一次電子線191が走査される位置である。そのため、第2クロスオーバー
172の位置が変化することは走査範囲に変化を及ぼし、機差を生じさせる。したがって、第2クロスオーバー172の位置を保持することが必要とされる。
【0016】
以下、寸法が異なる複数の絞り孔を有する絞り板を用いて電子光学系の機差補正を行う方法を説明する。
図2は、電子顕微鏡の電子光学系に生じた機差の一例を示す図であり、電子光学系が設計値に対して位置ずれを伴って配置している場合を示している。つまり、電子光学系の構成要素は図1と変わらないが、サンプル141上に一次電子191の焦点を合わせたときの対物レンズ115とサンプル141との間隔S′は電子光学系の設計値Sよりも大きくなっており、第2コンデンサレンズ112の位置が対物レンズ115側にずれている。
一次電子線191の進み方については前述と同様であるが、絞り孔(中)152と第2コンデンサレンズ112との距離が図1の場合のよりも離れるため、第2コンデンサレンズ112の位置での一次電子線191の広がりが図1よりも拡大する。そのため、第2クロスオーバー172の位置を保持しても、対物レンズ115の位置での一次電子線191の広がりが図1よりも拡大し、対物レンズ115でサンプル141上に一次電子線191の焦点を合わせると、開き角182は図1の場合の開き角181よりも大きくなり、分解能の変化として機差が発生する。
【0017】
サンプル141上に一次電子191の焦点を合わせたときの対物レンズ制御電源215の制御状態は、電子光学系の設計通りではなく、開き角182は電子光学系の設計値と開き角181よりも大きくなっていることがマイクロプロセッサ260で確認が可能である。なお、第2クロスオーバー172の位置を保持するときには、アライメントコイル113を制御しているアライメントコイル制御電源213の電流値を参照して位置調整を行う。
【0018】
図3は、電子顕微鏡の電子光学系に生じた機差を補正する方法を示す図である。図2と同様に電子光学系が設計値に対して位置ずれを伴って配置している場合で、絞り孔を絞り孔(小)151に変更している。絞り孔を選定するに当たっては、開き角182が電子光学系の設計値と開き角181よりも大きくなっていることからマイクロプロセッサ260が絞り孔(小)151を選択している。
【0019】
絞り孔を絞り孔(小)151に変更すると、第2コンデンサレンズ112の位置での一次電子線191の広がりを縮小することができる。そのため、第2クロスオーバー172の位置を保持しても開き角183が図1の場合の開き角181と同じになり、分解能は変化しない。
【0020】
以上のように、寸法の異なる絞り孔を用いることにより一次電子線の開き角を変更することができ、電子光学系の機差を補正することが可能となる。なお、第2コンデンサレンズ112の位置が対物レンズ115側にずれた場合で説明したが、第2コンデンサレンズ112の位置が第1コンデンサレンズ111側にずれた場合は、絞り孔(大)153を用いれば良い。また、第2コンデンサレンズ112の位置がずればかりでなく、他の構成要素の位置がずれた場合でも、同様に電子光学系の機差を補正することが可能である。
寸法の異なる複数の絞り孔を有する絞り板を用いて電子光学系を構成し、対物レンズの制御状態の実測値と設計値を比較して電子光学系に最も適した寸法の絞り孔を選択することにより、対物レンズ直上の一次電子線クロスオーバーの位置を変更することなく、電子光学系に適した一次電子線の開き角を得ることができる。
【0021】
以下、寸法が異なる複数の絞り孔を有する絞り板の構成および絞り孔の形成工程を説明する。
図4は、寸法の異なる複数の絞り孔を有する絞り板の構成を示し、絞り板150には、絞り孔を3つ形成している。絞り孔(小)151の寸法d1,絞り孔(中)152の寸法d2,絞り孔(大)153の寸法d3の大小関係は、d1<d2<d3となっている。
【0022】
図5は、絞り板の構成を示す断面図であり、絞り板300は、絞り孔310を形成した第1の材質からなるシート層301と、絞り板300の機械的強度を保持し、シート層
301を支持する第2の材質からなるベース層302と、絞り板300の電子線透過を阻止するコート層303から構成されている。
シート層301に形成された絞り孔は直径20μmであり、シート層301は材質が酸化ケイ素(SiO2 )であり、厚さは1μmである。ベース層302は材質がシリコン
(Si)であり、厚さは200μmである。
コート層303は材質がプラチナ(Pt)であり、厚さ0.3μmである。なお、シート層301(材質:酸化ケイ素 SiO2 )やベース層302(材質:Si)とコート層303(材質:Pt)との密着性を向上するために、間にバインダー材としてTiを厚さ0.05μm 挿入している。これらは半導体加工によく用いられる材料であり、特に高精度な加工に適している。
【0023】
次に絞り板の形成工程を説明する。
図6は絞り板の形成工程の図であり、図6(a)は加工前の状態で、ベース層302となるSiである。ベース層302の精密加工のため材質を単結晶とし、絞り板の機械的強度の確保と加工効率の点から厚さを約200μm前後としている。
【0024】
加工の第1工程として図6(b)に示すように、シート層301の形成および第1エッチング保護層305の形成を行う。絞り孔310を加工するシート層301をSiの熱酸化処理を行い、上面にSiO2 として形成する。同時に下面も熱酸化処理が行われ、第1エッチング保護層305もSiO2 として形成される。熱酸化条件は、酸化温度:1160℃,酸化時間:387min である。これにより、Si全面に厚さ2.0μm の酸化膜が形成される。
【0025】
第2工程として図6(c)に示すように、絞り孔前加工を行う。シート層301に絞り孔310のパターンを形成する。絞り孔310の形状を描画したフォトマスクのパターンをシート層301(SiO2)上に形成したレジストに感光転写して、これをSiO2エッチングマスクとしてドライエッチングによりシート層301に絞り孔310のパターンを転写する。エッチング条件は、SiO2ドライエッチングのエッチングレート:0.2μm/minより、上記酸化膜のエッチング時間を10minが良い。
【0026】
第3工程として図6(d)に示すように、第2エッチング保護層306の形成を行う。後述するベース層貫通部前加工(Siエッチング)の際に、前工程で形成した絞り孔310パターンの下地ベース層302がエッチングされないように第2エッチング保護層306を熱酸化処理によりSiO2 として形成する。熱酸化条件は、酸化温度:1160℃,酸化時間:112min である。これにより、第2エッチング保護層306として厚さ1.1μmの酸化膜が形成される。なお、第1エッチング保護層305については、酸化時間が(2)に加算した499min となり、厚さは2.26μmとなる。
【0027】
第4工程として図6(e)に示すように、エッチングマスク形成を行う。ベース層302(Si)の貫通部307のエッチングのための保護パターンを形成する。(b)絞り孔前加工と同様、フォトマスクのパターンをドライエッチングにより第1エッチング保護層
305に転写する。エッチング条件は、SiO2 ドライエッチングのエッチングレート:0.2μm/minより、上記酸化膜のエッチング時間を11.3minが良い。
【0028】
第5工程として図6(f)に示すように、ベース層貫通部前加工を行う。エッチングマスクのパターンを基準に、Siエッチングでベース層に貫通部307を形成する。Siエッチングは、高精密でテーパ加工が可能な異方性エッチング(ウェットエッチング)が望ましい。なお、後述の絞り孔形成のために、ここでのエッチングは貫通直前の厚さ20
μmを残して終了する。Siウェットエッチングの条件は、エッチング液:水酸化カリウム水溶液(KOH)、エッチング液温度:67℃でエッチングレートが0.52μm/minとなる。厚さ20μmのSiを残すためこの工程でのエッチング量は185μmとなり、これよりエッチング時間は356min となる。なお、KOHに対するSiとSiO2 のエッチングレート比は230:1であるため、本工程でのSiO2エッチング量は0.80
μmとなる。
【0029】
第6工程として図6(g)に示すように、絞り孔形成を行う。(d)第2エッチング保護層306を除去して絞り孔310を形成する。第2エッチング保護層306の除去は
SiO2 ウェットエッチングにより行い、ベース層貫通部前加工で残したSiをエッチングストッパとして利用する。これにより、絞り孔前加工で転写したパターンが形成され、絞り孔310の形状が完成する。上述のSiエッチングにより、第2エッチング保護層
306の厚さは0.3μmとなっている。これを除去するために、エッチング液:SiO2エッチャント(フッ化水素水+フッ化アンモニウム)でウェットエッチングする。エッチングレートは0.1μm/min であるから、エッチング時間を3minが良い。
【0030】
第7工程として図6(h)に示すように、ベース層貫通部加工を行う。貫通部307の底面に残っているSiを除去する。ベース層貫通部前加工と同様のウェットエッチングを行う。この工程で絞り板の形状が完成する。前述のベース層貫通部前加工と同条件で、
Siの残りが20μmなのでエッチング時間は38.5minとなる。ここでのSiO2 のエッチング量は0.09μmとなる。したがって、最終的なシート層の厚さは1.07μmである。
【0031】
最後に第8工程として図6(i)に示すように、コート層303の形成を行う。形状加工の完了した絞り板の全面にPt膜を形成する。Pt膜はスパッタリングにより成膜した。なお、ベース層302(Si)およびシート層301(SiO2 )とPt膜の密着性を向上させるためにTi膜を介して成膜した。また、Pt膜の厚さは0.3μm とした。これは、3keVの電子線透過を阻止するには十分な厚さである。
【0032】
以上のように、厚さ1μmに薄くしたシート層301に絞り孔310を形成することにより、孔径のばらつきを0.4μm 以下に抑えることができ、絞り孔を高精度に加工することができる。また、最終工程に電子線阻止層としてコート層303を形成するため、電子線阻止層の材料が限定されない。そのため、任意の材料を電子線阻止層として形成すること可能となる。
【0033】
なお、ベース層302(Si)およびシート層301(SiO2 )とコート層303
(Pt)の間にバインダー材としてTiを使用したが、密着性を向上する材料であれば他の金属膜でも良く、CrやNiなどが望ましい。
コート層303としてPtを使用したが、電子線の透過を阻止する非磁性材料であれば他の金属や導電性非金属でも良く、Auであっても良い。
【0034】
また、シート層301の材質は酸化ケイ素(SiO2 )としたが、これはベース層302の材質シリコン(Si)との密着性が良いためである。同様にシリコンとの密着性の良い材料である窒化ケイ素(Si34)をシート層301としても良い。このとき、KOHに対するSiとSi34のエッチングレート比は1000:1以下と小さくなるため、ベース層302の貫通部307をエッチングしているときのシート層301のエッチングは極度に抑えられる。したがって、第3工程,第6工程が省略できる。
【0035】
さらに、ベース層302(Si)の貫通部307をエッチングにKOHによる異方性エッチング(ウェットエッチング)を採用しているが、TMAHなどの他の異方性エッチング(ウェットエッチング)や、硝酸と沸酸の水溶液などの等方性エッチング(ウェットエッチング)や、ドライエッチングが望ましい。
さらに、ベース層302としてSiを使用したが、シート層301と異なる材料の非磁性材料が望ましい。
さらに、1つの絞り板に1つの絞り孔としたが、エッチングマスクの形状を変えることにより、同じ製造方法で1つの絞り板に複数の絞り孔を形成することが容易に可能である。さらに、寸法が異なる複数の絞り孔として1つの絞り板に形成することが望ましい。
【0036】
なお、図4において示した寸法の異なる複数の絞り孔を有する絞り板150の寸法の異なる絞り孔の形成は、第2工程において、絞り孔151,152,153の形状を描画したフォトマスクのパターンをシート層(SiO2 )上に形成したレジストに感光転写して、これをSiO2 エッチングマスクとしてドライエッチングによりシート層に絞り孔151,152,153のパターンを転写すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態による電子顕微鏡の構成を示す図。
【図2】一実施の形態において、電子光学系に生じた機差を説明する図。
【図3】一実施の形態において、電子光学系に生じた機差補正を説明する図。
【図4】本発明の一実施の形態による絞り板を示す斜視図。
【図5】本発明の一実施の形態による絞り板を示す断面図。
【図6】本発明の一実施の形態による絞り板の形成を示す工程図。
【符号の説明】
【0038】
110 電子銃
111 第1コンデンサレンズ
112 第2コンデンサレンズ
113 アライメントコイル
114 走査コイル
115 対物レンズ
141 サンプル
150,300 絞り板
151 絞り孔(小)
152 絞り孔(中)
153 絞り孔(大)
181 開き角θ
191 一次電子線
192 二次電子線
230 信号増幅変換器
250 対物絞り可動ユニット
260 マイクロプロセッサ
301 シート層
302 ベース層
303 コート層
305 第1エッチング保護層
306 第2エッチング保護層
307 貫通部
310 絞り孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃と、該電子銃から放出された電子線を集束するためのコンデンサレンズと、前記集束された前記電子線の不要な領域を除去するための絞り孔と、不要な領域を除去された前記電子線をサンプル上に微小スポットとして照射する対物レンズと、前記サンプルから発生した信号を検出する検出器と、該検出器の出力信号の増幅及び変換を行う信号増幅変換器と、増幅及び変換された信号を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された信号を表示する表示部と、を備えた電子顕微鏡において、
複数の前記絞り孔が形成された絞り板と、該絞り板を移動する対物絞り可動ユニットと、を備え、複数の前記絞り孔のうちいずれかを選択可能としたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、複数の前記絞り孔は、それぞれ異なる径とされたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、複数の前記絞り孔は径の大きさ順に配置されたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の電子顕微鏡において、前記絞り板は、前記絞り孔が形成されるシート層と、前記シート層を支持しテーパ加工されたベース層と、を備え、最表層に電子線透過を阻止するコート層が設けられていることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
電子銃と、該電子銃から放出された電子線を集束するためのコンデンサレンズと、前記集束された前記電子線の不要な領域を除去するための絞り孔と、不要な領域を除去された前記電子線をサンプル上に微小スポットとして照射する対物レンズと、前記サンプルから発生した信号を検出する検出器と、該検出器の出力信号の増幅及び変換を行う信号増幅変換器と、増幅及び変換された信号を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された信号を表示する表示部と、を備えた電子顕微鏡に用いられる絞り板において、
それぞれ異なる径とされた複数の前記絞り孔が形成されたことを特徴とする絞り板。
【請求項6】
請求項5に記載の絞り板において、前記絞り孔が形成されるシート層と、前記シート層を支持しテーパ加工されたベース層と、を備え、さらに最表層に電子線透過を阻止するコート層が設けられていることを特徴とする絞り板。
【請求項7】
請求項5に記載の絞り板において、前記絞り孔が形成され材質がシリコンとされたシート層と、前記シート層を支持しテーパ加工され材質が酸化ケイ素または窒化ケイ素とされたベース層と、を備え、さらに最表層に電子線透過を阻止するコート層が設けられていることを特徴とする絞り板。
【請求項8】
電子顕微鏡に用いられる絞り板の製造方法であって、
シリコン単結晶のベース層に熱酸化処理を行い、上面にシート層、下面に第1エッチング保護層を酸化ケイ素として形成し、
ドライエッチングにより前記シート層に絞り孔前加工を行い、
前記絞り孔前加工の下に熱酸化処理により第2エッチング保護層形成し、
ドライエッチングにより前記第1エッチング保護層に前記ベース層の貫通部保護パターンを形成し、
前記貫通部保護パターンを基準に異方性エッチングで前記ベース層に貫通部をテーパ状に形成し、
SiO2 ウェットエッチングにより前記第2エッチング保護層除去して絞り孔を形成し、
スパッタリングにより表層にコート層の形成を行うことを特徴とする絞り板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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