説明

電文伝送装置及び電文伝送方法

【課題】誤った電文の送信を防止するための新たな仕組みを提案すること。
【解決手段】電文伝送装置1によれば、処理部10により、送信電文が生成されるとともに送信電文に一意に対応する電文として検証電文が生成される。そして、変調部20により第1変調処理及び第2変調処理が行われ、送信電文の搬送波成分と検証電文の搬送波成分との合成搬送波信号が生成される。そして、送信電文の周波数帯域成分が送信用フィルタ部30により抽出され、送信部40によりレールに送信される。一方、変調部20から出力された合成搬送波信号は復調部50により復調処理され、送信電文及び検証電文が取り出される。そして、検証電文に対する第2照合処理と送信電文に対する第1照合処理とが処理部10により行われる。そして、第2照合処理の照合結果、及び、第1照合処理の照合結果の何れかが不適合であれば、送信部40の送信電文の送信の停止制御が処理部10により行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電文伝送装置及び電文伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電文を伝送するシステムとして、例えば、鉄道分野では自動列車制御システム(ATC(Automatic Train Control))が知られている。ATCでは、電文伝送装置の機能を果たす地上装置が、閉塞区間毎に設けられた軌道回路(レール)に、当該軌道回路の識別符号や、先行列車が在線する閉塞区間までの開通区間数等の情報を格納した電文を繰り返し伝送する。列車に搭載された車上装置は、閉塞区間を通過する間に当該閉塞区間の軌道回路(レール)から電文を受信し、受信した電文に基づいて発生したブレーキパターンに従ってブレーキを動作制御することで、車両の速度制御を実現する。
【0003】
このような電文伝送システムにおいて、電文伝送装置内で故障や異常等が発生した場合には誤った電文が伝送され得るため、いわゆるフィードバック照合を行う技術が知られている(例えば特許文献1)。フィードバック照合は、電文を送信するとともにフィードバックし、生成時の電文と比較・照合することで、電文に誤りがないかどうかを検証する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−307534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電文単位で電文の照合を行うフィードバック照合の場合には、送信しようとする電文全体がフィードバックされるまで照合を待つ必要があるため、1電文の送信を完了した後でなければ電文の照合を行うことができない。そのため、最低でも1電文分の誤った電文が送信先に送信されてしまう。
【0006】
例えば、上述したATCにおいては、1電文といえども誤った電文が車上装置側で採用されることは大事故につながりかねず、従来のフィードバック照合の手法だけをそのまま適用することは、安全性の面で問題があった。
【0007】
また、送信電文をフィードバックして照合する従来の手法では、電文に通番などの伝送毎に変化する情報が含まれない場合、同じ電文が繰り返し送信される故障を検出できず、故障が潜在化するおそれもあった。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、誤った電文の送信を防止するための新たな仕組みを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、
送信電文(例えば、図2の送信電文)を生成する送信電文生成手段(例えば、図1の処理部10)と、
前記送信電文に基づき予め定められた生成規則に従って前記送信電文に対応する検証電文(例えば、図2の検証電文)を生成する検証電文生成手段(例えば、図1の処理部10)と、
所定の電文送信用周波数の信号を前記送信電文に基づき所定の電文用変調方式で変調してなる送信電文搬送波成分と、前記電文送信用周波数とは異なる所定の検証用周波数の信号を前記検証電文に基づき所定の検証電文用変調方式で変調してなる検証電文搬送波成分とを合成した合成搬送波信号を生成する変調手段(例えば、図1の変調部20)と、
前記変調手段により生成された合成搬送波信号から前記電文送信用周波数の信号を抽出する送信電文信号抽出手段(例えば、図1の送信用フィルタ部30)と、
前記送信電文信号抽出手段により抽出された信号を所定の送信先に向けて外部出力する出力手段(例えば、図1の送信部40)と、
前記検証電文用変調方式に対応する復調方式で、前記変調手段により生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号の検証電文搬送波成分で搬送されている検証電文を取得する復調手段(例えば、図1の復調部50)と、
前記復調手段により取得された検証電文と、前記検証電文生成手段により生成された検証電文とを照合する照合手段(例えば、図1の処理部10)と、
前記照合手段の照合結果が不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う抑止制御手段(例えば、図1の処理部10)と、
を備えた電文伝送装置(例えば、図1の電文伝送装置1)である。
【0010】
また、他の形態として、
所与の送信電文に基づき予め定められた生成規則に従って前記送信電文に対応する検証電文を生成する検証電文生成ステップと、
所定の電文送信用周波数の信号を前記送信電文に基づき所定の電文用変調方式で変調してなる送信電文搬送波成分と、前記電文送信用周波数とは異なる所定の検証用周波数の信号を前記検証電文に基づき所定の検証電文用変調方式で変調してなる検証電文搬送波成分とを合成した合成搬送波信号を生成する合成搬送波信号生成ステップと、
前記生成された合成搬送波信号から前記電文送信用周波数の信号を抽出する送信電文信号抽出ステップと、
前記抽出された信号を所定の送信先に向けて外部出力する出力ステップと、
前記検証電文用変調方式に対応する復調方式で、前記生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号に搬送されている検証電文を取得する復調ステップと、
前記取得された検証電文と、前記検証電文生成ステップで生成された検証電文とが不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う抑止制御ステップと、
を含む電文伝送方法を構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、送信電文に基づく予め定められた生成規則に従って、送信電文に対応する検証電文を生成する。そして、電文送信用周波数の信号を変調してなる送信電文搬送波成分と、検証用周波数の信号を変調してなる検証電文搬送波成分とを合成した合成搬送波信号を生成し、当該合成搬送波信号から電文送信用周波数の信号を抽出した上で、所定の送信先に向けて外部出力する。その一方で、検証電文用変調方式に対応する復調方式で合成搬送波信号を復調することで、検証電文搬送波成分で搬送されている検証電文を取得し、取得された検証電文と、生成した時のもとの検証電文とを照合する。そして、その照合結果が不適合の場合は、外部出力を抑止する制御を行う。
【0012】
最終的に外部出力される送信電文搬送波の信号のみを生成するのではなく、その送信電文搬送波に、別の周波数(検証用周波数)の検証電文搬送波を合成した合成搬送波信号を生成する。従って、検証電文搬送波成分で搬送される検証電文に誤りがない状態において、同じ信号の送信電文搬送波成分で搬送される送信電文に誤りが生じるような故障が発生する可能性は極めて低いといえる。そこで、第1の形態等においては、検証電文をフィードバック照合し、不適合の場合に外部出力を抑止することで、誤った送信電文の外部出力を防止することできる。
【0013】
また、第2の形態として、第1の形態の電文伝送装置であって、
前記復調手段が、前記電文用変調方式に対応する復調方式で、前記変調手段により生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号の送信電文搬送波成分で搬送されている送信電文を更に取得し、
前記照合手段が、前記復調手段により取得された送信電文と、前記送信電文生成手段により生成された送信電文とを更に照合し、
前記抑止制御手段が、前記照合手段による前記検証電文の照合結果、及び、前記送信電文の照合結果の何れかが不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う、
電文伝送装置を構成してもよい。
【0014】
この第2の形態によれば、復調部は、電文用変調方式に対応する復調方式で合成搬送波信号を復調することで、送信電文搬送波成分で搬送されている送信電文を取得する。そして、照合手段は、復調手段により取得された送信電文と、送信電文生成手段により生成された送信電文とを照合し、検証電文の照合結果、及び、送信電文の照合結果の何れかが不適合の場合に、外部出力を抑止する制御を行う。検証電文の照合結果ばかりでなく、送信電文そのものの照合結果も考慮して外部出力の抑止制御を行うことで、誤った電文が送信されることを確実に防止できる。
【0015】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の電文伝送装置であって、
前記変調手段が、前記電文送信用周波数よりも高い周波数を前記検証用周波数として用いて前記変調を行い、前記検証電文搬送波成分における前記検証電文1つ分の搬送時間長が前記送信電文搬送波成分における前記送信電文1つ分の搬送時間長より短い前記合成搬送波信号を生成し、
前記送信電文1つ分を搬送する信号の外部出力が完了する前に、前記照合手段によって前記検証電文1つ分の照合が完了することを特徴とする電文伝送装置を構成してもよい。
【0016】
この第3の形態によれば、変調手段は、電文送信用周波数よりも高い周波数を検証用周波数として用いて変調を行い、検証電文搬送波成分における検証電文1つ分の搬送時間長が送信電文搬送波成分における送信電文1つ分の搬送時間長より短い合成搬送波信号を生成する。その結果、送信電文1つ分を搬送する信号の外部出力が完了する前に、照合手段による検証電文1つ分の照合が完了することとなる。すなわち、送信電文全体(1送信電文)の外部出力が完了しないうちに検証電文の照合が完了するため、照合結果が不適合である場合は送信電文の外部出力を速やかに抑止することができる。
【0017】
また、第4の形態として、第3の形態の電文伝送装置であって、
前記変調手段が、前記送信電文搬送波成分において1つ分の前記送信電文が搬送される間に前記検証電文搬送波成分において前記検証電文を繰り返し搬送するように前記合成搬送波信号を生成する(例えば、図7)、
電文伝送装置を構成してもよい。
【0018】
この第4の形態によれば、変調手段は、送信電文搬送波成分において1つ分の送信電文が搬送される間に検証電文搬送波成分において検証電文を繰り返し搬送するように合成搬送波信号を生成する。これにより、1つ分の送信電文の外部出力が行われている期間全体における正しい電文の伝送を保証することができる。
【0019】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態の電文伝送装置であって、
前記検証電文生成手段が、前記送信電文生成手段により生成された送信電文の一部又は全部の複製を少なくとも含めて前記検証電文(例えば、図2の検証電文、図6(1)、(2)の検証電文)を生成する、
電文伝送装置を構成してもよい。
【0020】
この第5の形態によれば、検証電文生成手段は、送信電文生成手段により生成された送信電文の一部又は全部の複製を少なくとも含めて検証電文を生成する。この結果、照合手段による照合は、送信電文の複製部分に対しても行われることになる。従って、検証電文の照合は送信電文の内容を検証することにもなり、送信電文の照合と同等の検証が実現される。
【0021】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態の電文伝送装置であって、
前記検証電文生成手段が、各検証電文を識別する識別情報を含めて前記検証電文(例えば、図6(2)の検証電文)を生成する、
電文伝送装置を構成してもよい。
【0022】
この第6の形態によれば、検証電文生成手段は、各検証電文を識別する識別情報を含めて検証電文を生成する。照合手段が検証電文の照合を行う際に、検証電文の識別情報の変化を監視することで、同じ電文が繰り返し外部出力される故障や異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電文伝送装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図2】送信電文及び検証電文の一例を示す図。
【図3】送信電文の送信及び検証電文の照合のタイミングチャート。
【図4】変形例における電文伝送装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図5】変形例における電文伝送装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図6】変形例における検証電文の一例を示す図。
【図7】変形例における送信電文送信のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。以下の実施形態では、鉄道の保安装置の一種として、レールに電文を流して送信する電文伝送装置に本発明を適用した場合の実施形態について説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0025】
本実施形態では、伝送路(ネットワーク)を流れるデータの単位のことを「電文」と呼ぶ。電文は、例えば「フレーム」であってもよいし、「パケット」であってもよい。
【0026】
軌道回路は、当該軌道回路内に列車が進入した際に、車両の車輪及び車軸でなる輪軸によって左右のレール間が短絡されることにより、当該軌道回路の送端側から送出された信号の軌道回路の受信側での受電レベルが低下することを利用して、当該軌道回路内に列車が在線していることを検知する装置である。
【0027】
本実施形態の電文伝送装置1は、例えば保安システムの一種である自動列車制御システム(ATC(Automatic Train Control))の地上装置の1つとして用いられ、軌道回路毎に設置され、対応する自軌道回路のレールに電文を送出する役割を担う。ATCでは、列車に搭載された車上装置が、閉塞区間を通過する間に当該閉塞区間のレールから電文を受信し、受信した電文に基づいて発生したブレーキパターンに従ってブレーキを動作制御することで、車両の速度制御を実現する。
【0028】
1.構成
図1は、本実施形態における電文伝送装置1の機能構成を示すブロック図である。電文伝送装置1は、処理部10と、変調部20と、送信用フィルタ部30と、送信部40と、復調部50と、通信部60とを備えて構成される。
【0029】
処理部10は、自軌道回路のレールに伝送する電文(以下、「送信電文」という。)を生成する処理回路部である。処理部10は、自軌道回路内を通過した列車に通知しようとする情報(以下、「列車通知対象情報」という。)に基づいて、送信電文と、送信電文に対応する照合・検証用の電文(以下、「検証電文」という。)との2種類の電文を生成する。そして、生成した送信電文及び検証電文を生成送信電文121及び生成検証電文123として記憶部12にそれぞれ記憶させた後、後段の変調部20に出力する。処理部10の機能は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサによって実現される。
【0030】
記憶部12は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、処理部10が電文伝送装置1を制御するためのシステムプログラムや、処理部10が電文の生成や照合を行うための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部12は、処理部10により実行される各種プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアとしても利用される。
【0031】
図2は、本実施形態における送信電文及び検証電文の一例を示す図である。送信電文は、例えば、8ビットのヘッダ部と、40ビットのデータ部と、8ビットのチェック符号部との合計56ビットのデータ列として構成される。
【0032】
ヘッダ部は、電文の先頭に設けられ、例えば電文の開始位置の検出に用いられるフラグや電文の種別等の情報が格納される部分である。データ部は、伝送内容の情報が格納される部分であり、例えば自軌道回路が敷設されている線区やA/B線、軌道回路ID、開通区間数等の情報が格納される。チェック符号部は、電文中のビット誤りを検出するための符号が格納される部分であり、例えばCRC(Cyclic Redundancy Check)符号が格納される。
【0033】
処理部10は、列車通知対象情報に基づいて、所定の生成規則に従って送信電文及び検証電文を生成する。検証電文は、送信電文をもとに、一定の生成規則に従って一意に生成可能な電文であればどのような電文であってもよい。本実施形態では、処理部10は、図2に示すように送信電文の全体を複製することで検証電文を生成する。
【0034】
変調部20は、DSP(Digital Signal Processor)等を有して構成され、デジタル信号処理によって、処理部10から出力された送信電文及び検証電文に基づいた変調処理を行う機能部である。変調部20は、送信電文に係る第1変調処理と、検証電文に係る第2変調処理とを同時に行って、第1変調処理で得られた送信電文の搬送波成分と、第2変調処理で得られた検証電文の搬送波成分とが合成されてなる合成搬送波信号を生成する。
【0035】
より具体的には、第1変調処理は、予め定められた送信電文の搬送周波数(以下、「電文送信用周波数」という。)に対するMSK(Minimum Shift Keying)変調を行う処理でなる。また、第2変調処理は、予め定められた検証電文の搬送周波数(以下、「検証用周波数」という。)に対するMSK変調を行う処理でなる。
【0036】
本実施形態では、検証用周波数は、電文送信用周波数よりも高い周波数を用いる。実用化されている地上装置及び車上装置の電気性能を考慮すると、搬送波周波数を1kHz以下、周波数帯域幅を25〜100Hz程度として、検証用周波数が電文送信用周波数よりも高い周波数となるように周波数帯域を選定する。この場合に、送信電文の伝送速度が25〜100bps(bit per second)程度の値となり、検証電文の伝送速度がこの3〜10倍程度の値となるように帯域選定を行うと好適である。
【0037】
検証用周波数を電文送信用周波数よりも高くすることは、検証電文1つ分の搬送に係る時間長を、送信電文1つ分の搬送に係る時間長より短くさせるためである。第1変調方式及び第2変調方式ともに同じMSK変調を採用するため、周波数の高い検証電文の方が、周波数の低い送信電文よりも搬送時間長が短くなる。このようにすることで、送信電文1つ分の送信が完了する前に、検証電文1つ分の照合を完了させることが可能となる。そして、照合結果が不適合であれば、送信電文の送信を直ちに停止させることにより、送信しようとしていた1つ目の送信電文さえも送信を途中停止させることができ、誤った送信電文の送信を確実に防止する。
【0038】
なお、第1変調方式及び第2変調方式それぞれに採用する変調はMSK変調に限られるものではない。検証電文1つ分の搬送に係る時間長が、送信電文1つ分の搬送に係る時間長よりも短ければ、他の変調方法を採用することとしてもよいし、第1変調方式と第2変調方式とで別々の変調方法を採用することとしてもよい。
【0039】
送信用フィルタ部30は、変調部20から出力された合成搬送波信号から、電文送信用周波数の信号を抽出する信号抽出回路である。送信用フィルタ部30は、低域通過フィルタや帯域通過フィルタといったフィルタ回路によって構成される。送信用フィルタ部30を通過した電文送信用周波数の信号は、送信部40に出力される。
【0040】
送信部40は、送信用フィルタ部30を通過した信号を物理的に自軌道回路のレールに伝達(送信)するための送信器であり、送信用フィルタ部30を通過した信号を外部出力する機能をなす。送信部40は、処理部10から出力される送信制御信号に従って動作し、処理部10から送信停止制御信号を入力した場合は、送信電文の信号のレールへの送信を停止する。
【0041】
復調部50は、変調部20から入力した合成搬送波信号を復調して、送信電文及び検証電文を取り出す検波部であり、DSP(Digital Signal Processor)等を有してデジタル信号処理で復調を行う。具体的には、第1変調方式(電文送信用周波数帯に対するMSK変調)に対応する復調処理を実行して合成搬送波信号から送信電文を取得するとともに、第2変調方式(検証用周波数帯に対するMSK変調)に対応する復調処理を実行して検証電文を取得して、それぞれ復調送信電文125及び復調検証電文127として処理部10に出力する。
【0042】
処理部10は、復調部50から入力した復調検証電文127を、先に記憶した生成検証電文123と照合する第2照合処理を行うとともに、復調送信電文125を、先に記憶した生成送信電文121と照合する第1照合処理を行う。そして、何れかの照合処理において照合結果が不適合と判定された場合は、送信部40に送信停止制御信号を出力して、送信電文のレールへの送信を抑止するように制御する。また、故障通知指示信号を通信部60に出力し、電文伝送装置1の故障を外部装置に通知するように制御する。
【0043】
通信部60は、他軌道回路や中央情報管理装置等の外部装置との間で有線通信又は無線通信を行う通信装置である。通信部60は、故障通知指示信号を処理部10から入力した場合に、電文伝送装置1の故障を外部装置に通知するための故障通知信号を生成して、外部装置に送信する。この機能は、例えば、有線ケーブルを介して通信を行う有線通信モジュールや、無線LANやスペクトラム拡散通信等を行う無線通信モジュール等により実現される。
【0044】
2.動作
図3は、処理部10から電文が出力されてから、処理部10による照合処理が完了して送信部40の送信停止制御が行われるまでの時間の流れを概念的に示したタイミングチャートであり、照合処理については検証電文に着目した図としている。図3では、時間を横軸に示し、各機能部の動作時間を横軸上に時間の帯として示している。
【0045】
先ず、処理部10は、生成した送信電文及び検証電文の変調部20への出力を時刻t1において開始する。そして、変調部20は、処理部10から送信電文及び検証電文を入力すると、第1変調処理及び第2変調処理を時刻t2において同時並行に開始する。
【0046】
変調部20は、第1変調処理及び第2変調処理を行うことで生成される合成搬送波信号を随時出力する。但し、送信電文1つ分の変調は時刻t10までかかるのに対して、検証電文1つ分の変調は時刻t4で終了する。従って、合成搬送波信号には、時刻t2〜t10までの全体に亘って送信電文が含まれているが、検証電文については時刻t2〜t4までの間にのみ含まれていることとなる。
【0047】
そして、送信用フィルタ部30からは、検証電文の周波数帯域成分がカットされた送信電文の搬送波信号が送信部40に出力される。そして、送信部40は、送信用フィルタ部30を通過した信号をレールへ伝達(送信)する。送信部40による信号の送信は、変調部20から合成搬送波信号が出力される限り継続される(時刻t10)。
【0048】
その一方で、復調部50は、変調部20から合成搬送波信号を入力すると、その復調処理を時刻t3において開始する。そして、時刻t5において復調処理を完了すると、取り出した検証電文及び送信電文を処理部10に出力する。
【0049】
処理部10は、復調部50から出力された検証電文の照合処理を時刻t6において開始する。照合処理は短時間で完了し、例えば時刻t7において照合処理が完了する。そして、照合結果が不適合である場合は、送信停止制御信号を送信部40に出力して、レールへの送信を停止させるように制御する。
【0050】
図3では、時刻t6で検証電文の照合処理を開始して時刻t7で照合処理が完了しているが、時刻t7は、送信電文1つ分の送信が完了する時刻t10よりも前の時刻である。すなわち、送信電文1つの送信を開始してから(時刻t2)、完了するまで(時刻t10)の間に、検証電文の照合処理が完了し、不適合と判定された場合には、現在送信中の送信電文自体の送信を途中終了することができる。
【0051】
なお、以上の説明では、復調処理で検証電文全体が復調されてから処理部10が照合処理を行う場合を図示・説明したが、復調部50が検証電文をビット単位で復調する毎に、そのビット単位で照合を行うことにしてもよい。何れの方式で照合を行うにせよ、送信部40による送信電文1つ分の送信が完了する前に、検証電文の照合処理を完了させることができる。
【0052】
また、図示は省略しているが、処理部10は、検証電文の照合処理と併せて、送信電文の照合処理も行う。この場合、処理部10が送信電文の照合処理を完了するのは時刻t10以降となるが、送信電文それ自体を照合することにより照合処理の正確性が向上する。なお、その照合結果が不適合である場合は、処理部10は送信部40に送信停止制御信号を出力して、以降の送信電文の送信を停止させるように制御する。
【0053】
3.作用効果
電文伝送装置1によれば、処理部10により、送信電文が生成されるとともに、送信電文に一意に対応する電文として、送信電文をもとに一定の生成規則(本実施形態によれば全部複製)に従って検証電文が生成される。そして、変調部20により第1変調処理及び第2変調処理が行われ、送信電文の搬送波成分と検証電文の搬送波成分とを合成した合成搬送波信号が生成される。そして、合成搬送波信号に含まれる送信電文の周波数帯域成分が送信用フィルタ部30により抽出され、送信部40によってレールに送信される。
【0054】
その一方で、変調部20から出力された合成搬送波信号は復調部50によって復調処理されて、送信電文及び検証電文が取り出される。そして、検証電文に対する第2照合処理と、送信電文に対する第1照合処理とが処理部10により行われる。そして、第2照合処理の照合結果、及び、第1照合処理の照合結果の何れかが不適合の場合に、送信部40の送信電文の送信を停止させる制御が処理部10により行われる。
【0055】
本実施形態では、電文送信用周波数よりも高い周波数を検証用周波数として用いて変調処理を行う。これにより、検証電文の伝送速度を送信電文の伝送速度よりも大きくすることができ、送信電文1つ分の送信が完了する前に、検証電文1つ分の復調処理を完了させ、ひいては検証電文の照合処理も完了させることができる。そのため、1電文といえども誤った電文が車上装置側で採用されることを防止し、列車運行の安全性を確保することができる。
【0056】
また、検証電文を送信電文と同一の電文としたことで、検証電文の照合処理を行うことで、送信電文の内容に誤りがないかどうかも検証することができる。すなわち、検証電文の照合処理を行う際に、その検証電文に含まれる内容に誤りがないかを列車通知対象情報等に基づいて検査することとしてもよい。その場合には、検証電文の照合処理によって、あたかも送信電文の検証を行ったかのような効果を得ることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、検証電文の照合処理ばかりでなく、送信電文の照合処理も行い、照合結果の何れかが不適合の場合に、送信部50による送信電文の送信を停止させることにしている。このような二重の照合処理による送信制御を行うことで、フェールセーフの原則に則った電文の伝送を実現することができる。
【0058】
4.変形例
4−1.適用システム
上述した実施形態では、鉄道保安システムの一種であるATC等に利用される電文伝送装置を例に挙げて説明したが、本願発明が適用可能な伝送装置はこの限りではない。有線ケーブルなどへの有線通信装置に限らず、無線通信装置に対して適用することも可能である。すなわち、搬送波信号に電文を載せて伝送可能なシステムであれば、本願発明を適用することができる。
【0059】
4−2.電文の照合処理
上述した実施形態では、検証電文の照合処理と、送信電文の照合処理とを両方とも実行するものとして説明したが、送信電文の照合処理を省略することとしてもよい。この場合は、復調部50は検証電文のみを復調するように設計してもよい。
【0060】
また、この場合、図4の電文伝送装置2のように、復調部50に入力される合成搬送波信号のうち、送信電文の周波数帯域成分をカットするフィルタ(検証用フィルタ部70)を、変調部20と復調部50の間に挿入することとしてもよい。
【0061】
4−3.電文の抑止制御
上述した実施形態では、処理部10が送信停止制御信号を送信部40に出力することで、送信部40からの送信電文の送信を抑止する構成について説明したが、次のような構成としてもよい。
【0062】
図5は、この変形例における電文伝送装置3の機能構成を示すブロック図である。
電文伝送装置3では、変調部20と送信用フィルタ部30との間に、スイッチ部80が設けられている。スイッチ部80は、通常時は閉じた状態(ON)となっており、変調部20から送信用フィルタ部30に合成搬送波信号が出力される。しかし、電文の照合結果が不適合の場合は、処理部10からスイッチ切替信号がスイッチ部80に出力され、スイッチ部80は開いた状態(OFF)に切り替えられる。その結果、変調部20から送信用フィルタ部30への合成搬送波信号の出力が遮断され、送信部40による信号の送信が停止される。
【0063】
4−4.検証電文の種類
上述した実施形態では、図2に示したように、送信電文の全体を複製することで検証電文を生成するものとして説明したが、送信電文の一部を複製し、その複製を含む検証電文を生成してもよい。例えば、図6(1)に示すように、ヘッダ部、データ部及びチェック符号部からなる送信電文のうち、ヘッダ部以外の部分を複製して検証電文を生成してもよい。
【0064】
また、検証電文を識別するための識別情報を含めて検証電文を生成してもよい。例えば、図6(2)に示すように、送信電文のヘッダ部の後に、検証電文を識別するための通番を格納する通番部を設け、検証電文を生成する度に順次にインクリメントされる通番を通番部に格納することで検証電文を生成してもよい。
【0065】
検証電文に識別情報が付加されることにより、何らかの故障によって同一の電文が繰り返し送信されるようになった場合も、検出できるようになる。すなわち、故障によっては、本来であれば異なる電文を送信するはずであるのに、同じ電文が繰り返し送信される故障が発生する場合がある。このような場合であっても、照合処理によって、各検証電文に付された識別情報の変化が監視されることとなり、識別情報が変化していなければ異常が発生したと判断することができる。
【0066】
4−5.検証電文の搬送回数
上述した実施形態では、1つ分の送信電文が搬送される間に、検証電文が1回だけ搬送されるものとして説明した。すなわち、送信電文を変調する第1変調処理の間に、検証電文を変調する第2変調処理は1回のみ行うことで、合成搬送波信号を生成することとした。このような構成とするのではなく、送信電文を変調している(第1変調処理)間は、第2変調処理を繰り返し行い、変調されたそれぞれの検証電文を照合処理する構成としてもよい。
【0067】
図7は、この場合における送信電文と検証電文との関係を示す図であり、横軸を時間軸としている。図7では、変調部20により検証電文が繰り返し変調されることで、合成搬送波信号は1つの送信電文を搬送する間に複数の検証電文を搬送する信号となる。そして、送信電文1つ分の送信が完了するまでの間に、それぞれの検証電文の照合処理が行われる。この場合、送信電文1つ分の送信全体の時間における、装置の正常性を保証することができる。
【0068】
4−6.電文の変調方式
上述した実施形態では、周波数偏移変調方式の一種であるMSK変調方式を用いて送信電文及び検証電文に基づく変調処理を行うものとして説明したが、他の周波数偏移変調方式を用いて変調処理を行ってもよい。
【0069】
また、周波数偏移変調方式を用いるのではなく位相偏移変調方式を用いてもよいし、周波数偏移変調方式と位相偏移変調方式とを組み合わせた変調方式を用いてもよい。何れの変調方式を用いるにせよ、検証電文の周波数帯域と送信電文の周波数帯域とを分離することが可能であり、検証電文の伝送速度が送信電文の伝送速度よりも大きくなれば、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0070】
4−7.搬送波周波数の選定
上述した実施形態において選定した変調用の周波数は一例であり、適宜設定変更可能である。例えば、搬送波周波数を数kHz〜20kHzとし、帯域幅を100Hz〜数100Hzとして、検証用周波数が電文送信用周波数よりも高い周波数となるように周波数を選定してもよい。この場合は、送信電文の伝送速度が数100bps程度の値となり、検証電文の伝送速度がこの3〜10倍程度の値となるように周波数を選定すればより好適である。
【0071】
4−8.電文の送信
上述した実施形態では、送信用フィルタ部30を設けることで、変調部20から出力された合成搬送波信号から検証電文の周波数帯域成分をカットするものとして説明した。しかし、検証電文をレールに伝送することについて列車運行上等の問題がない場合は、送信用フィルタ部30を省略し、合成搬送波信号をそのままレールに送信することとしてもよい。
【0072】
4−9.処理部
また、電文の生成処理と電文の照合処理とを1つの処理部10で行うものとして説明したが、電文の生成処理を行う第1処理部と、電文の照合処理を行う第2処理部との2つの処理部を設け、それぞれの処理部が独立して機能するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 電文伝送装置
10 処理部
12 記憶部
20 変調部
30 送信用フィルタ部
40 送信部
50 復調部
60 通信部
70 検証用フィルタ部
80 スイッチ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信電文を生成する送信電文生成手段と、
前記送信電文に基づき予め定められた生成規則に従って前記送信電文に対応する検証電文を生成する検証電文生成手段と、
所定の電文送信用周波数の信号を前記送信電文に基づき所定の電文用変調方式で変調してなる送信電文搬送波成分と、前記電文送信用周波数とは異なる所定の検証用周波数の信号を前記検証電文に基づき所定の検証電文用変調方式で変調してなる検証電文搬送波成分とを合成した合成搬送波信号を生成する変調手段と、
前記変調手段により生成された合成搬送波信号から前記電文送信用周波数の信号を抽出する送信電文信号抽出手段と、
前記送信電文信号抽出手段により抽出された信号を所定の送信先に向けて外部出力する出力手段と、
前記検証電文用変調方式に対応する復調方式で、前記変調手段により生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号の検証電文搬送波成分で搬送されている検証電文を取得する復調手段と、
前記復調手段により取得された検証電文と、前記検証電文生成手段により生成された検証電文とを照合する照合手段と、
前記照合手段の照合結果が不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う抑止制御手段と、
を備えた電文伝送装置。
【請求項2】
前記復調手段は、前記電文用変調方式に対応する復調方式で、前記変調手段により生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号の送信電文搬送波成分で搬送されている送信電文を更に取得し、
前記照合手段は、前記復調手段により取得された送信電文と、前記送信電文生成手段により生成された送信電文とを更に照合し、
前記抑止制御手段は、前記照合手段による前記検証電文の照合結果、及び、前記送信電文の照合結果の何れかが不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う、
請求項1に記載の電文伝送装置。
【請求項3】
前記変調手段は、前記電文送信用周波数よりも高い周波数を前記検証用周波数として用いて前記変調を行い、前記検証電文搬送波成分における前記検証電文1つ分の搬送時間長が前記送信電文搬送波成分における前記送信電文1つ分の搬送時間長より短い前記合成搬送波信号を生成し、
前記送信電文1つ分を搬送する信号の外部出力が完了する前に、前記照合手段によって前記検証電文1つ分の照合が完了することを特徴とする請求項1又は2に記載の電文伝送装置。
【請求項4】
前記変調手段は、前記送信電文搬送波成分において1つ分の前記送信電文が搬送される間に前記検証電文搬送波成分において前記検証電文を繰り返し搬送するように前記合成搬送波信号を生成する、
請求項3に記載の電文伝送装置。
【請求項5】
前記検証電文生成手段は、前記送信電文生成手段により生成された送信電文の一部又は全部の複製を少なくとも含めて前記検証電文を生成する、
請求項1〜4の何れか一項に記載の電文伝送装置。
【請求項6】
前記検証電文生成手段は、各検証電文を識別する識別情報を含めて前記検証電文を生成する、
請求項1〜5の何れか一項に記載の電文伝送装置。
【請求項7】
所与の送信電文に基づき予め定められた生成規則に従って前記送信電文に対応する検証電文を生成する検証電文生成ステップと、
所定の電文送信用周波数の信号を前記送信電文に基づき所定の電文用変調方式で変調してなる送信電文搬送波成分と、前記電文送信用周波数とは異なる所定の検証用周波数の信号を前記検証電文に基づき所定の検証電文用変調方式で変調してなる検証電文搬送波成分とを合成した合成搬送波信号を生成する合成搬送波信号生成ステップと、
前記生成された合成搬送波信号から前記電文送信用周波数の信号を抽出する送信電文信号抽出ステップと、
前記抽出された信号を所定の送信先に向けて外部出力する出力ステップと、
前記検証電文用変調方式に対応する復調方式で、前記生成された合成搬送波信号を復調することで、当該合成搬送波信号に搬送されている検証電文を取得する復調ステップと、
前記取得された検証電文と、前記検証電文生成ステップで生成された検証電文とが不適合の場合に、前記外部出力を抑止する制御を行う抑止制御ステップと、
を含む電文伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−146965(P2011−146965A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6669(P2010−6669)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】