電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに燃料電池
【課題】発電性能を一層向上させることができる電極−膜−枠接合体を提供する。
【解決手段】膜電極接合体5の周縁部5Eに形成する枠体6を、額縁状のハンドリング部61と額縁状のリーク防止部62とを有するように構成し、各部がそれぞれの機能を発揮できるように、ガラスフィラーを充填したポリプロピレンからなる弾性率が高い熱可塑性樹脂からなるハンドリング部61とガラスフィラーを充填していない弾性率が低い熱可塑性エラストマからなるリーク防止部62とした。
【解決手段】膜電極接合体5の周縁部5Eに形成する枠体6を、額縁状のハンドリング部61と額縁状のリーク防止部62とを有するように構成し、各部がそれぞれの機能を発揮できるように、ガラスフィラーを充填したポリプロピレンからなる弾性率が高い熱可塑性樹脂からなるハンドリング部61とガラスフィラーを充填していない弾性率が低い熱可塑性エラストマからなるリーク防止部62とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える電極−膜−枠接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。MEAは、ハンドリング性の向上のため、その周縁部(外縁部ともいう)を、額縁状に成形された樹脂製の枠体で保持されている。ここでは、前記枠体を備えるMEAを電極−膜−枠接合体という。
【0004】
MEAは、周縁部を前記枠体に支持される高分子電解質膜と、当該電解質膜の両面に形成され且つ前記枠体より内側に配置された一対の電極層とで構成されている。一対の電極層は、高分子電解質膜の両面に形成される白金等の触媒層と、当該触媒層上に形成される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。前記一対の電極層にそれぞれ燃料ガス又は酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱とが発生する。一方、枠体の表面には、セパレータと枠体との間をシールするガスケットが設けられ、当該ガスケットにより、燃料ガス及び酸化剤ガスの外部への漏出が遮断あるいは抑制されている。
【0005】
前記構造を有する燃料電池としては、例えば、特許文献1(国際公開番号WO2009/072291号)に開示されたものがある。特許文献1には、MEAの周辺部において、MEAの一方の面に一次成形体を配置した後、MEAの他方の面に二次成形体を射出成形することにより、一次成形体と二次成形体とを一体化して枠体を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開番号WO2009/072291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池においては発電性能が十分でないという問題があった。
従って本発明の目的は、発電性能を一層向上させることができる電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極−膜−枠接合体によれば、ハンドリング部とリーク防止部とを有するように枠体を構成し、ハンドリング部とリーク防止部とを互いに異なる樹脂材料で構成するようにしている。すなわち、枠体が、主として枠体としての強度及び電極−膜−枠接合体のハンドリング性を担う部分と、主としてクロスリークの防止を担う部分との2つの部分を有するように構成している。これにより、所望のハンドリング性を確保しつつ、燃料電池の発電性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を、一部を分解して模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図1のII−II線断面図である。
【図4】図1の電極−膜−枠接合体のアノードセパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【図5】図1の電極−膜−枠接合体のカソードパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【図6】枠体のハンドリング部が保持部材に保持されている様子を示す側面図である。
【図7】枠体のハンドリング部が図6とは別の保持部材に保持されている様子を示す側面図である。
【図8A】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造工程を、MEAの周縁部と枠体との接合部分を拡大して示す模式断面図である。
【図8B】図8Aに続く工程を示す模式断面図である。
【図8C】図8Bに続く工程を示す模式断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図である。
【図10】図9のIV−IV線断面図である。
【図11A】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造工程を、MEAの周縁部と枠体との接合部分を拡大して示す模式断面図である。
【図11B】図11Aに続く工程を示す模式断面図である。
【図11C】図11Bに続く工程を示す模式断面図である。
【図11D】図11Cに続く工程を示す模式断面図である。
【図12】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の変形例を模式的に示す拡大断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の変形例を模式的に示す拡大断面図である。
【図14】本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体の平面図である。
【図15】図14のA−A断面図である。
【図16】図14のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは従来の燃料電池においては十分な発電性能が得られない原因を鋭意検討した。その結果以下の知見を得た。
【0012】
枠体は、セルの組立時などにおけるMEAのハンドリング性を向上させるために設けられるものであるため、高い強度が求められる。このため、枠体は、例えば、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂にガラスフィラーなどの無機系の補強材を混在させることにより構成されている。しかしながら、ガラスフィラーなどの補強材を混在させた熱可塑性樹脂を用いて二次成形体を射出成形すると、射出圧力により補強材が高分子電解質膜を傷つけて、高分子電解質膜が劣化するおそれがある。高分子電解質膜が劣化した場合、クロスリーク(ガスの短絡)が発生し、燃料電池の発電性能が低下することになる。
これらの点を踏まえて、発明者らは以下の本発明に至った。
【0013】
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体を提供する。
【0014】
本発明の第2態様によれば、前記リーク防止部の弾性率は、前記ハンドリング部の弾性率よりも低い、第1態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0015】
本発明の第3態様によれば、前記第2触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第2ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第2触媒層の周縁部の主面には前記リーク防止部を構成する樹脂材料の一部が混在している、第1又は2態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0016】
本発明の第4態様によれば、前記第1触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第1ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第1触媒層の周縁部の主面には前記ハンドリング部を構成する樹脂材料の一部が混在していない、第3態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0017】
本発明の第5態様によれば、前記ハンドリング部は、熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、熱可塑性エラストマーで構成されている、
第1〜4態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0018】
本発明の第6態様によれば、前記ハンドリング部は、無機系の補強材を含み、
前記リーク防止部は、前記ハンドリング部よりも低い含有率で前記無機系の補強材の含む、第1〜5態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0019】
本発明の第7態様によれば、前記リーク防止部は、前記無機系の補強材を含まない、第6態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0020】
本発明の第8態様によれば、前記ハンドリング部を構成する樹脂材料と前記リーク防止部を構成する樹脂材料とは、少なくとも一種の同一成分を含む、第1〜7態様のいずれか1つに記載に電極−膜−枠接合体を提供する。
【0021】
本発明の第9態様によれば、前記ハンドリング部は、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーで構成されている、
第1〜8態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0022】
本発明の第10態様によれば、第1〜9態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を備える燃料電池を提供する。
【0023】
本発明の第11態様によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に枠体が形成された電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の一部を構成する額縁状のハンドリング部の内縁部とが重なるように、樹脂材料を用いて前記電解質膜の第1の主面側に前記ハンドリング部を形成する工程と、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の他部を構成する額縁状のリーク防止部の内縁部とが重なるように、前記ハンドリング部を構成する前記樹脂材料よりも弾性率が低い樹脂材料を用いて前記電解質膜の第2の主面側に前記リーク防止部を形成する工程と、
を含む、電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
《第1実施形態》
図1〜図5を用いて、本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を説明する。図1は、本第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を、一部を分解して模式的に示す斜視図である。図2は、図1の電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図であり、図3は、図1のII−II線断面図である。図4は、図1の電極−膜−枠接合体のアノードセパレータ側の表面構造を示す平面図である。図5は、図1の電極−膜−枠接合体のカソードパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【0026】
本第1実施形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質形燃料電池である。なお、本発明は高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0027】
図1に示すように、燃料電池は、基本単位構成であるセル(単電池モジュール)10を複数個(例えば60個)積層させて構成されている。なお、図示していないが、積層されたセル10群の両端部には、集電板、絶縁板、及びエンドプレートが取り付けられ、締結ボルトがボルト孔4を挿通されナットで固定されることにより、各セル10が所定の締結力(例えば10kN)で締結されている。
【0028】
セル10は、電極−膜−枠接合体1を、一対の導電性のセパレータであるアノードセパレータ2及びカソードセパレータ3で挟んで構成されている。電極−膜−枠接合体1は、図2又は図3に示すように、膜電極接合体5(以下、MEAという)と、MEA5の周縁部5Eを封止保持するように形成された枠体6とを備えている。
【0029】
アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、それぞれ、図1に示すように、燃料ガスが流通する一対の貫通孔である燃料ガスマニホールド孔12,22,32が設けられている。また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、それぞれ、図1に示すように、酸化剤ガスが流通する一対の貫通孔である酸化剤ガスマニホールド孔13,23,33が設けられている。アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、燃料ガスマニホールド孔12,22,32が連結され、燃料ガスマニホールドが形成される。同様に、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、酸化剤ガスマニホールド孔13,23,33が連結され、酸化剤ガスマニホールドが形成される。
【0030】
また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、図1に示すように、冷却媒体(例えば、純水やエチレングリコール)が流通するそれぞれ二対の貫通孔である冷却媒体マニホールド孔14,24,34が設けられている。これによって、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、これらの冷却媒体マニホールド孔14,24,34が連結され、二対の冷却媒体マニホールドが形成される。
【0031】
また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、図1に示すように、それぞれの角部の近傍に4つのボルト孔4が設けられている。各ボルト孔4に締結ボルトが挿通され、当該締結ボルトにナットが結合することによって各セル10が締結される。
【0032】
アノードセパレータ2の内側の主面(電極−膜−枠接合体1側の面)には、一対の燃料ガスマニホールド孔22,22間を結ぶように燃料ガス流路溝21が設けられている。カソードセパレータ3の内側の主面(電極−膜−枠接合体1側の面)には、一対の酸化剤ガスマニホールド孔33,33間を結ぶように酸化剤ガス流路溝31が設けられている。燃料ガスが燃料ガス流路溝21を通じて後述するMEA5の第1ガス拡散層5C1に供給されるとともに、酸化剤ガスが酸化剤ガス流路溝31を通じて後述するMEA5の第2ガス拡散層5C2に供給されることにより、燃料電池の電気化学反応が生じる。これにより、電力と熱とが同時に発生する。なお、図4において、一点破線は、燃料ガスの流れ方向を示している。また、図5において、一点破線は、酸化剤ガスの流れ方向を示している。なお、図4及び図5では、燃料ガス及び酸化剤ガスの流れ方向が蛇行するように示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料ガス及び酸化剤ガスの流れ方向が直線状となるように、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝31が形成されてもよい。
【0033】
また、アノードセパレータ2及びカソードセパレータ3の外側の主面(背面)には、図示していないが、それぞれ冷却媒体流路溝が形成されている。冷却媒体流路溝は、二対の冷却媒体マニホールド孔24,34間を結ぶように形成されている。すなわち、冷却媒体がそれぞれ供給側の冷却媒体マニホールドから冷却媒体流路溝に分岐して、それぞれ排出側の冷却媒体マニホールドに流通するように構成されている。これにより、冷却媒体の伝熱能力を利用して、セル10を電気化学反応に適した所定の温度に保つようにしている。
【0034】
なお、前記各孔及び各溝は、例えば、切削加工、成形加工により形成することができる。また、前記各マニホールドは、前記構成に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、各マニホールドを、いわゆる外部マニホールド構造としてもよい。なお、図2及び図3では、各孔の図示を省略している。
【0035】
MEA5は、図3に示すように、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜5Aと、当該電解質膜5Aの両面に形成された一対の第1及び第2電極層5D1,5D2(すなわち、アノードとカソードの電極層)とで構成されている。第1電極層5D1は、第1触媒層5B1と第1ガス拡散層5C1との2層構造で構成されている。同様に、第2電極層5D2は、第2触媒層5B2と第2ガス拡散層5C2との2層構造で構成されている。
【0036】
高分子電解質膜5Aは、プロトン導電性を示す固体高分子材料、例えば、パーフルオロスルホン酸膜(デュポン社製ナフィオン膜)で構成されている。第1及び第2触媒層5B1,5B2は、例えば白金族金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とした多孔質な部材であり、高分子電解質膜5Aの第1の主面又は第2の主面に形成されている。
【0037】
第1ガス拡散層5C1は、燃料ガスの通気性と電子伝導性の両方を有し、第1触媒層5B1の主面に形成されている。第1ガス拡散層5C1は、第1触媒層5B1よりも外形サイズが小さく、第1触媒層5B1の周縁部が露出するように第1触媒層5B1の主面に配置されている。すなわち、第1触媒層5B1の周縁部は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第1ガス拡散層5C1の周縁部よりも外側に配置されている。第2ガス拡散層5C2は、酸化剤ガスの通気性と電子伝導性の両方を有し、第2触媒層5B2の主面に形成されている。第2ガス拡散層5C2は、第2触媒層5B2よりも外形サイズが小さく、第2触媒層5B2の周縁部が露出するように第2触媒層5B2の主面に配置されている。すなわち、第2触媒層5B2の周縁部は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第2ガス拡散層5C2の周縁部よりも外側に配置されている。
【0038】
第1及び第2ガス拡散層5C1,5C2としては、例えば、基材として炭素繊維を用いず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分として構成された多孔質部材を用いることができる。また、第1及び第2ガス拡散層5C1,5C2として、例えば、ガス透過性を持たせるために、カーボン織布又はカーボン不織布等を用いて作製された、多孔質構造を有する導電性基材を用いてもよい。
【0039】
枠体6は、図2及び図3に示すように、異なる樹脂材料にて射出成形されたハンドリング部61とリーク防止部62の2つの額縁状の成形体で構成されている。
【0040】
ハンドリング部61は、図6又は図7に示すように、セル10の組立時などにおいて電極−膜−枠接合体1を移動させる保持部材70a又は70bに保持される部分である。このため、ハンドリング部61は、電極−膜−枠接合体1としての形状を維持できる強度、すなわち電極−膜−枠接合体1の撓みや折れ曲がりなどを抑えることができる強度を有している。なお、保持部材70a又は70bに直接保持されるハンドリング部61の被保持部61bの面方向の長さL1が短すぎると、保持部材70a又は70bにより保持されることが困難であるとともに、所望の強度を確保することが困難である。また、特に、被保持部61bの長さL1が7.0mm未満であると、ハンドリング部61の射出成形時に樹脂が流れにくくなり、成形が困難である。このため、被保持部61bの長さL1は、8.0mm以上確保することが好ましい。
【0041】
また、ハンドリング部61は、略L字状の断面を有し、第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上に配置されている。すなわち、ハンドリング部61は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、高分子電解質膜5Aとハンドリング部61の内縁部(内側のエッジ近傍部分)61aとが重なるように、高分子電解質膜5Aの第1の主面側(図3では下側)に配置されている。また、ハンドリング部61は、樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。このハンドリング部61の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上に配置される前に予め行われている。従って、ハンドリング部61の射出成形時の射出圧力が高分子電解質膜5Aに加わることがないので、高分子電解質膜5Aの劣化を抑えることができる。
【0042】
ハンドリング部61の射出成形に用いる樹脂材料は、化学的安定性の観点から、非晶性樹脂ではなく結晶性樹脂であることが好ましく、その中でも機械的強度が大きく且つ耐熱性が高い熱可塑性樹脂であることが好ましい。例えば、前記熱可塑性樹脂として、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックグレードのもの、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリスチレン(PS)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)などが好適である。これらは、数千から数万MPaの圧縮弾性率と、150℃以上の荷重たわみ温度を有しており、前記熱可塑性樹脂として好適な材料である。また、汎用されている樹脂材料であっても、当該樹脂材料に無機系の補強材を混在させることで、強度を強化することができる。無機系の補強材として、例えば、ガラス繊維、ガラスフィラー、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、バイロフィライト、亜鉛華、タルク、マイカ、硫酸バリウム、ケイ酸、ケイ酸塩、カオリンクレーなどが好適である。例えば、ガラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)は、非充填のポリプロピレン(圧縮弾性率1,000〜1,500MPa)の数倍の弾性率を有し且つ150℃近い荷重たわみ温度を有している。従って、前記熱可塑性樹脂として好適に使用することができる。
【0043】
リーク防止部62は、略矩形の断面を有し、第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上に配置されている。すなわち、リーク防止部62は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、高分子電解質膜5Aとリーク防止部62の内縁部62aとが重なるように、高分子電解質膜5Aの第2の主面側(図3では上側)に配置されている。リーク防止部62は、ハンドリング部61とは異なる樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。このリーク防止部62の射出成形は、ハンドリング部61上にMEA5を配置した後に行われ、これにより、リーク防止部62とハンドリング部61とが一体化されて枠体6が構成される。
【0044】
なお、リーク防止部62を射出成形するとき、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部を多孔質である第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在させることが好ましい。これにより、リーク防止部62と第2触媒層5B2との密着性を高めて、枠体6とMEA5との接合力を強化することができる。なお、ハンドリング部61は、予め射出成形するようにしているので、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部は第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在しない。
【0045】
リーク防止部62は、図6又は図7に示すように、組立時などにおいて保持部材70a,70bに保持されない部分である。従って、枠体6の形状を維持するほど強度を強くする必要はないので、リーク防止部62は、ハンドリング部61よりも弾性率が低い(柔らかい)樹脂材料、例えば熱可塑性エラストマーにて形成されている。これにより、セル10を加圧締結する際に、リーク防止部62に近接するMEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレス(局所荷重)を低減することができ、高分子電解質膜5Aの劣化によるクロスリークを防止することができる。また、リーク防止部62の弾性率が低い(柔らかい)ことで、締結荷重に応じた反力が発生しやすくなり、反応ガスのシール性が高くなって、リーク防止効果が高くなる。なお、リーク防止部62を比較的弾性率が高い(硬い)材料で形成した場合には、セル10の加圧締結の際にMEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスが大きくなり、高分子電解質膜5Aが傷つきやすくなる。
【0046】
また、一般的に、樹脂材料の弾性率は、無機系の補強材の量が少ないほど低くなる。従って、リーク防止部62中の補強材の含有量をハンドリング部61よりも小さくすることによって、リーク防止部62の弾性率をハンドリング部61よりも低くすることができる。これにより、リーク防止部62中の補強材によって高分子電解質膜5Aが劣化することを抑えることができ、クロスリークを防止することができる。なお、リーク防止部62は、無機系の補強材を全く含まなくてもよい。これにより、高分子電解質膜5Aの劣化をより一層抑えることができる。
【0047】
なお、リーク防止部62によりMEA5の周縁部5Eの全体を覆うことができるように、リーク防止部62の面方向の長さL3は、4.0mm以上確保することが好ましい。また、リーク防止部62とハンドリング部61との面方向の接合長さL2は、短すぎると、クロスリークが発生するおそれがあるため、1.0mm以上確保することが好ましい。
【0048】
リーク防止部62の射出成形に用いる樹脂材料としては、例えば、オレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー(TPS)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリウレタン系エラストマー(TPU)、ナイロン系エラストマー(TPA)などが好適である。オレフィン系エラストマーは、ポリプロピレン(PP)とエチレン・プロピレンゴム(EPM)又はエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを混合して構成されたものである。スチレン系エラストマーは、ポリスチレン(PS)とポリブタジエン又はポリイソプレンとを共重合させて構成したものである。
【0049】
また、一般的に、同質の樹脂材料同士を接合する方が異質の樹脂材料同士を接合するよりも接合力は強い。このため、リーク防止部62に用いる樹脂材料としては、ハンドリング部61に用いる樹脂材料と同質成分を含むものが好ましい。例えば、ハンドリング部61にガラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)などのオレフィン系熱可塑性樹脂を使用する場合、リーク防止部62にはサントプレーン(AESジャパン製:登録商標)などのオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用することが好適である。また、ハンドリング部61にポリスチレン(PS)を使用する場合、リーク防止部62にはスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を使用することが好適である。
【0050】
次に、電極−膜−枠接合体1の製造方法について説明する。図8A〜図8Cは、電極−膜−枠接合体1の各製造工程を、MEA5の周縁部5Eと枠体6との接合部分を拡大して示す模式断面図である。ここでは、ハンドリング部61は予め射出成形され、MEA5は予め作製されているものとする。
【0051】
まず、図8Aに示すように、MEA5の第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置する。なお、このとき、ハンドリング部61は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部が、第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在することもない。
【0052】
次いで、図8Bに示すように、一対の金型T1でハンドリング部61及びMEA5を挟み、一対の金型T1内に形成されたハンドリング部61とMEA5との隙間に溶融した樹脂材料を流し込む。これにより、図8Cに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62が形成される。また、このとき、リーク防止部62とハンドリング部61とが一体化し、枠体6が構成される。これにより、電極−膜−枠接合体1の製造が完了する。
【0053】
なお、前記射出成形時において、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の一部に混在させることで、リーク防止部62と第2触媒層5B2との密着性が高まり、枠体6とMEA5との接合力が強化される。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、前記射出成形時において、MEA5の周縁部5Eには射出圧力が加わるが、リーク防止部62の射出成形に用いる樹脂材料をハンドリング部61よりも弾性率の低いものとすることにより、MEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスは低減される。従って、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化が抑制され、クロスリークが防止される。
【0054】
本第1実施形態によれば、ハンドリング部61とリーク防止部62とを有するよう枠体6を構成し、ハンドリング部61とリーク防止部62とを互いに異なる樹脂材料で構成するようにしている。すなわち、主として枠体6としての強度及び電極−膜−枠接合体1のハンドリング性を担う部分と、主としてクロスリークの防止を担う部分との2つの部分を有するように枠体6を構成している。従って、ハンドリング部61とリーク防止部62のそれぞれに最適な樹脂材料を選択することで、それぞれの機能を最大限に発揮させることが可能となる。例えば、ハンドリング部61に弾性率が高い樹脂材料(例えば熱可塑性樹脂)を用いることで、所望のハンドリング性を確保することができる。また、リーク防止部62に弾性率が低い樹脂材料(例えば熱可塑性エラストマー)を用いることで、枠体6の製造時(初期)及び燃料電池の発電時(耐久運転時)にMEA5の周縁部にかかる機械的ストレスを低減することができ、高分子電解質膜5Aの劣化を抑えることができる。また、リーク防止部62の弾性率が低い(柔らかい)ことで、締結荷重に応じた反力が発生しやすくなり、反応ガスのシール性が高くなって、リーク防止効果が高くなる。従って、燃料電池の発電性能を一層向上させることができる。
【0055】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記第1実施形態では、ハンドリング部61をアノード側に配置するとともに、リーク防止部62をカソード側に配置したが、ハンドリング部61をカソード側に配置するとともに、リーク防止部62をアノード側に配置してもよい。
【0056】
また、前記第1実施形態では、ハンドリング部61の内縁部61aを触媒層5B1の周縁部上に配置するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ハンドリング部61の内縁部61aを高分子電解質膜5Aの第1の主面上に配置してもよい。同様に、リーク防止部62の内縁部62aも、第2触媒層5B2ではなく、高分子電解質膜5Aの第2の主面上に配置するようにしてもよい。
【0057】
また、前記第1実施形態では、第1触媒層5B1を高分子電解質膜5Aと同じサイズとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1触媒層5B1のサイズを、第1ガス拡散層5C1と同じ、あるいは第1ガス拡散層5C1よりも小さくしてもよい。同様に、第2触媒層5B1のサイズを、第2ガス拡散層5C2と同じ、あるいは第2ガス拡散層5C2よりも小さくしてもよい。
【0058】
また、前記第1実施形態では、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第1ガス拡散層5C1の周縁部と第2ガス拡散層5C2の周縁部とが一致するように配置したが、それらの周縁部を互いに厚み方向と直交する面方向にずらして配置してもよい。
【0059】
《第2実施形態》
図9は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図であり、図10は、図9のIV−IV線断面図である。本第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1Aが前記第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1と異なる点は、ハンドリング部61とリーク防止部62とを一体化するための接合部63を枠体6Aが更に有している点である。
【0060】
接合部63は、樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。この接合部63の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置するとともに、第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62を配置した後に行われる。この接合部63によりハンドリング部61とリーク防止部62とが一体化され、枠体6Aが構成される。
【0061】
なお、接合部63を射出成形するとき、接合部62を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在させることが好ましい。これにより、接合部63と第2触媒層5B2との密着性を高めて、枠体6AとMEA5との接合力を強化することができる。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、接合部63により枠体6AとMEA5との接合力を強化することができるので、リーク防止部62の射出成形は、第2触媒層5B2の周縁部上に配置される前に予め行われてもよい。この場合、リーク防止部62の射出成形時の射出圧力が高分子電解質膜5Aに加わることがないので、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化を一層抑えることができる。なお、この場合、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部は、第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在しないことになる。また、リーク防止部62の射出成形を予め行うようにした場合には、無機系の補強材が高分子電解質膜5Aを傷つけることが抑制されるので、リーク防止部62に無機系の補強材を混在させても、クロスリークを防止することができる。
【0062】
接合部63の射出成形に用いる樹脂材料としては、ハンドリング部61の樹脂材料及びリーク防止部62の樹脂材料と同質成分を含むものが好ましい。これにより、ハンドリング部61とリーク防止部62との接合力を強くすることができる。また、接合部63中の無機系の補強材の含有量をハンドリング部61よりも小さくすることが好ましい。これにより、接合部63中の補強材によって高分子電解質膜5Aが劣化することを抑えることができる。なお、接合部63は、無機系の補強材を全く含まなくてもよい。これにより、高分子電解質膜5Aの劣化をより一層に抑えることができる。
【0063】
次に、電極−膜−枠接合体1Aの製造方法について説明する。図11A〜図11Cは、電極−膜−枠接合体1Aの各製造工程を、MEA5の周縁部5Eと枠体6Aとの接合部分を拡大して示す模式断面図である。ここでは、ハンドリング部61及びリーク防止部62は予め射出成形され、MEA5は予め作製されているものとする。
【0064】
まず、図11Aに示すように、MEA5の第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置する。なお、このとき、ハンドリング部61は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部が、第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在することもない。
【0065】
次いで、図11Bに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62を配置する。なお、このとき、リーク防止部62は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部が、第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在することもない。
【0066】
次いで、図11Cに示すように、一対の金型T2でハンドリング部61、リーク防止部62、及びMEA5を挟み、一対の金型T2内に形成されたハンドリング部61とリーク防止部62とMEA5との隙間に溶融した樹脂材料を流し込む。これにより、図11Dに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上に接合部63が形成される。また、このとき、接合部63によりリーク防止部62とハンドリング部61とが一体化し、枠体6Aが構成される。これにより、電極−膜−枠接合体1Aの製造が完了する。
【0067】
なお、前記射出成形時において、接合部63を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の一部に混在させることで、接合部63と第2触媒層5B2との密着性が高まり、枠体6AとMEA5との接合力が強化される。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、前記射出成形時において、MEA5の周縁部5Eには射出圧力が加わるが、接合部63の射出成形に用いる樹脂材料をハンドリング部61よりも弾性率の低いものとすることにより、MEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスは低減される。従って、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化が抑制され、クロスリークが防止される。
【0068】
なお、前記第1及び第2実施形態では、第1及び第2触媒層5B1,5B2は、図3及び図10に示すように、同じサイズに形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図12及び図13に示すように、第1及び第2触媒層5B1,5B2とは、互いにサイズが異なっていてもよい。図12及び図13は、第1触媒層5B1のサイズを第2触媒層5B2のサイズよりも小さくした例を示している。
【0069】
《実施例》
次に、図14〜図16を用いて、本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体1を説明する。図14は、本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体1の平面図であり、図15は、そのA−A断面図であり、図16は、そのB−B断面図である。
【0070】
本実施例において、ハンドリング部61は、樹脂材料としてガラスフィラーを充填したポリプロピレン(株式会社プライムポリマー社製:R−350G、ガラスフィラー量30wt%)を用いて射出成形した。ハンドリング部61の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上に配置する前に行った。ハンドリング部61の被保持部61bの面方向の長さL1は、A−A断面においては45.5mmとし、B−B断面においては8.5mmとした。ハンドリング部61の被保持部61bの厚み方向の長さH1は、A−A断面においては0.77mmとし、B−B断面においては1.48mmとした。ハンドリング部61のMEA5と接触する部分の厚み方向の長さH2は、A−A断面においては0.40mmとし、B−B断面においては0.88mmとした。ハンドリング部61の断面積は、A−A断面においては37.835mm2とし、B−B断面においては18.740mm2とした。
【0071】
リーク防止部62は、樹脂材料としてガラスフィラーを充填していないサントプレーン(登録商標)101−55を用いて射出成形した。リーク防止部62の射出成形は、ハンドリング部61を第1触媒層5B1の周縁部上に配置した後に、一対の金型T1を用いて行った。リーク防止部62とハンドリング部61との面方向の接合長さL2は、A−A断面及びB−B断面とも、1.0mmとした。リーク防止部62の面方向の長さL3は、A−A断面及びB−B断面とも、4.5mmとした。リーク防止部62の厚み方向の長さH3は、A−A断面においては0.37mmとし、B−B断面においては0.60mmとした。リーク防止部62の断面積は、A−A断面においては1.595mm2とし、B−B断面においては3.000mm2とした。なお、この場合、ハンドリング部61とリーク防止部62との断面積の比率は、最大で24:1、最小で6:1となる。
【0072】
第1ガス拡散層5C1と第2ガス拡散層5C2とは、面方向にずらして配置し、そのずれ量L4は1.5mmとした。
【0073】
なお、前記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明にかかる電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに燃料電池は、発電性能を一層向上させることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 電極−膜−枠接合体
2 アノードセパレータ
3 カソードセパレータ
4 ボルト孔
5 MEA(膜電極接合体)
5A 高分子電解質膜
5B1 第1触媒層
5B2 第2触媒層
5C1 第1ガス拡散層
5C2 第2ガス拡散層
5D1 第1電極層
5D2 第2電極層
5E 周縁部
6 枠体
10 セル
12,22,32 燃料ガスマニホールド孔
13,23,33 酸化剤ガスマニホールド孔
14,24,34 冷却媒体マニホールド孔
21 燃料ガス流路溝
31 酸化剤ガス流路溝
61 ハンドリング部
62 リーク防止部
T1 金型
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える電極−膜−枠接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。MEAは、ハンドリング性の向上のため、その周縁部(外縁部ともいう)を、額縁状に成形された樹脂製の枠体で保持されている。ここでは、前記枠体を備えるMEAを電極−膜−枠接合体という。
【0004】
MEAは、周縁部を前記枠体に支持される高分子電解質膜と、当該電解質膜の両面に形成され且つ前記枠体より内側に配置された一対の電極層とで構成されている。一対の電極層は、高分子電解質膜の両面に形成される白金等の触媒層と、当該触媒層上に形成される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。前記一対の電極層にそれぞれ燃料ガス又は酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱とが発生する。一方、枠体の表面には、セパレータと枠体との間をシールするガスケットが設けられ、当該ガスケットにより、燃料ガス及び酸化剤ガスの外部への漏出が遮断あるいは抑制されている。
【0005】
前記構造を有する燃料電池としては、例えば、特許文献1(国際公開番号WO2009/072291号)に開示されたものがある。特許文献1には、MEAの周辺部において、MEAの一方の面に一次成形体を配置した後、MEAの他方の面に二次成形体を射出成形することにより、一次成形体と二次成形体とを一体化して枠体を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開番号WO2009/072291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池においては発電性能が十分でないという問題があった。
従って本発明の目的は、発電性能を一層向上させることができる電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極−膜−枠接合体によれば、ハンドリング部とリーク防止部とを有するように枠体を構成し、ハンドリング部とリーク防止部とを互いに異なる樹脂材料で構成するようにしている。すなわち、枠体が、主として枠体としての強度及び電極−膜−枠接合体のハンドリング性を担う部分と、主としてクロスリークの防止を担う部分との2つの部分を有するように構成している。これにより、所望のハンドリング性を確保しつつ、燃料電池の発電性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を、一部を分解して模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図1のII−II線断面図である。
【図4】図1の電極−膜−枠接合体のアノードセパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【図5】図1の電極−膜−枠接合体のカソードパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【図6】枠体のハンドリング部が保持部材に保持されている様子を示す側面図である。
【図7】枠体のハンドリング部が図6とは別の保持部材に保持されている様子を示す側面図である。
【図8A】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造工程を、MEAの周縁部と枠体との接合部分を拡大して示す模式断面図である。
【図8B】図8Aに続く工程を示す模式断面図である。
【図8C】図8Bに続く工程を示す模式断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図である。
【図10】図9のIV−IV線断面図である。
【図11A】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造工程を、MEAの周縁部と枠体との接合部分を拡大して示す模式断面図である。
【図11B】図11Aに続く工程を示す模式断面図である。
【図11C】図11Bに続く工程を示す模式断面図である。
【図11D】図11Cに続く工程を示す模式断面図である。
【図12】本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の変形例を模式的に示す拡大断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の変形例を模式的に示す拡大断面図である。
【図14】本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体の平面図である。
【図15】図14のA−A断面図である。
【図16】図14のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは従来の燃料電池においては十分な発電性能が得られない原因を鋭意検討した。その結果以下の知見を得た。
【0012】
枠体は、セルの組立時などにおけるMEAのハンドリング性を向上させるために設けられるものであるため、高い強度が求められる。このため、枠体は、例えば、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂にガラスフィラーなどの無機系の補強材を混在させることにより構成されている。しかしながら、ガラスフィラーなどの補強材を混在させた熱可塑性樹脂を用いて二次成形体を射出成形すると、射出圧力により補強材が高分子電解質膜を傷つけて、高分子電解質膜が劣化するおそれがある。高分子電解質膜が劣化した場合、クロスリーク(ガスの短絡)が発生し、燃料電池の発電性能が低下することになる。
これらの点を踏まえて、発明者らは以下の本発明に至った。
【0013】
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体を提供する。
【0014】
本発明の第2態様によれば、前記リーク防止部の弾性率は、前記ハンドリング部の弾性率よりも低い、第1態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0015】
本発明の第3態様によれば、前記第2触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第2ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第2触媒層の周縁部の主面には前記リーク防止部を構成する樹脂材料の一部が混在している、第1又は2態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0016】
本発明の第4態様によれば、前記第1触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第1ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第1触媒層の周縁部の主面には前記ハンドリング部を構成する樹脂材料の一部が混在していない、第3態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0017】
本発明の第5態様によれば、前記ハンドリング部は、熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、熱可塑性エラストマーで構成されている、
第1〜4態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0018】
本発明の第6態様によれば、前記ハンドリング部は、無機系の補強材を含み、
前記リーク防止部は、前記ハンドリング部よりも低い含有率で前記無機系の補強材の含む、第1〜5態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0019】
本発明の第7態様によれば、前記リーク防止部は、前記無機系の補強材を含まない、第6態様に記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0020】
本発明の第8態様によれば、前記ハンドリング部を構成する樹脂材料と前記リーク防止部を構成する樹脂材料とは、少なくとも一種の同一成分を含む、第1〜7態様のいずれか1つに記載に電極−膜−枠接合体を提供する。
【0021】
本発明の第9態様によれば、前記ハンドリング部は、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーで構成されている、
第1〜8態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を提供する。
【0022】
本発明の第10態様によれば、第1〜9態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を備える燃料電池を提供する。
【0023】
本発明の第11態様によれば、高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に枠体が形成された電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の一部を構成する額縁状のハンドリング部の内縁部とが重なるように、樹脂材料を用いて前記電解質膜の第1の主面側に前記ハンドリング部を形成する工程と、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の他部を構成する額縁状のリーク防止部の内縁部とが重なるように、前記ハンドリング部を構成する前記樹脂材料よりも弾性率が低い樹脂材料を用いて前記電解質膜の第2の主面側に前記リーク防止部を形成する工程と、
を含む、電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
《第1実施形態》
図1〜図5を用いて、本発明の第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を説明する。図1は、本第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を有する燃料電池の構造を、一部を分解して模式的に示す斜視図である。図2は、図1の電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図であり、図3は、図1のII−II線断面図である。図4は、図1の電極−膜−枠接合体のアノードセパレータ側の表面構造を示す平面図である。図5は、図1の電極−膜−枠接合体のカソードパレータ側の表面構造を示す平面図である。
【0026】
本第1実施形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質形燃料電池である。なお、本発明は高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0027】
図1に示すように、燃料電池は、基本単位構成であるセル(単電池モジュール)10を複数個(例えば60個)積層させて構成されている。なお、図示していないが、積層されたセル10群の両端部には、集電板、絶縁板、及びエンドプレートが取り付けられ、締結ボルトがボルト孔4を挿通されナットで固定されることにより、各セル10が所定の締結力(例えば10kN)で締結されている。
【0028】
セル10は、電極−膜−枠接合体1を、一対の導電性のセパレータであるアノードセパレータ2及びカソードセパレータ3で挟んで構成されている。電極−膜−枠接合体1は、図2又は図3に示すように、膜電極接合体5(以下、MEAという)と、MEA5の周縁部5Eを封止保持するように形成された枠体6とを備えている。
【0029】
アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、それぞれ、図1に示すように、燃料ガスが流通する一対の貫通孔である燃料ガスマニホールド孔12,22,32が設けられている。また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、それぞれ、図1に示すように、酸化剤ガスが流通する一対の貫通孔である酸化剤ガスマニホールド孔13,23,33が設けられている。アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、燃料ガスマニホールド孔12,22,32が連結され、燃料ガスマニホールドが形成される。同様に、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、酸化剤ガスマニホールド孔13,23,33が連結され、酸化剤ガスマニホールドが形成される。
【0030】
また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、図1に示すように、冷却媒体(例えば、純水やエチレングリコール)が流通するそれぞれ二対の貫通孔である冷却媒体マニホールド孔14,24,34が設けられている。これによって、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6が、セル10として締結された状態では、これらの冷却媒体マニホールド孔14,24,34が連結され、二対の冷却媒体マニホールドが形成される。
【0031】
また、アノードセパレータ2、カソードセパレータ3、及び枠体6には、図1に示すように、それぞれの角部の近傍に4つのボルト孔4が設けられている。各ボルト孔4に締結ボルトが挿通され、当該締結ボルトにナットが結合することによって各セル10が締結される。
【0032】
アノードセパレータ2の内側の主面(電極−膜−枠接合体1側の面)には、一対の燃料ガスマニホールド孔22,22間を結ぶように燃料ガス流路溝21が設けられている。カソードセパレータ3の内側の主面(電極−膜−枠接合体1側の面)には、一対の酸化剤ガスマニホールド孔33,33間を結ぶように酸化剤ガス流路溝31が設けられている。燃料ガスが燃料ガス流路溝21を通じて後述するMEA5の第1ガス拡散層5C1に供給されるとともに、酸化剤ガスが酸化剤ガス流路溝31を通じて後述するMEA5の第2ガス拡散層5C2に供給されることにより、燃料電池の電気化学反応が生じる。これにより、電力と熱とが同時に発生する。なお、図4において、一点破線は、燃料ガスの流れ方向を示している。また、図5において、一点破線は、酸化剤ガスの流れ方向を示している。なお、図4及び図5では、燃料ガス及び酸化剤ガスの流れ方向が蛇行するように示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料ガス及び酸化剤ガスの流れ方向が直線状となるように、燃料ガス流路溝21及び酸化剤ガス流路溝31が形成されてもよい。
【0033】
また、アノードセパレータ2及びカソードセパレータ3の外側の主面(背面)には、図示していないが、それぞれ冷却媒体流路溝が形成されている。冷却媒体流路溝は、二対の冷却媒体マニホールド孔24,34間を結ぶように形成されている。すなわち、冷却媒体がそれぞれ供給側の冷却媒体マニホールドから冷却媒体流路溝に分岐して、それぞれ排出側の冷却媒体マニホールドに流通するように構成されている。これにより、冷却媒体の伝熱能力を利用して、セル10を電気化学反応に適した所定の温度に保つようにしている。
【0034】
なお、前記各孔及び各溝は、例えば、切削加工、成形加工により形成することができる。また、前記各マニホールドは、前記構成に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、各マニホールドを、いわゆる外部マニホールド構造としてもよい。なお、図2及び図3では、各孔の図示を省略している。
【0035】
MEA5は、図3に示すように、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜5Aと、当該電解質膜5Aの両面に形成された一対の第1及び第2電極層5D1,5D2(すなわち、アノードとカソードの電極層)とで構成されている。第1電極層5D1は、第1触媒層5B1と第1ガス拡散層5C1との2層構造で構成されている。同様に、第2電極層5D2は、第2触媒層5B2と第2ガス拡散層5C2との2層構造で構成されている。
【0036】
高分子電解質膜5Aは、プロトン導電性を示す固体高分子材料、例えば、パーフルオロスルホン酸膜(デュポン社製ナフィオン膜)で構成されている。第1及び第2触媒層5B1,5B2は、例えば白金族金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とした多孔質な部材であり、高分子電解質膜5Aの第1の主面又は第2の主面に形成されている。
【0037】
第1ガス拡散層5C1は、燃料ガスの通気性と電子伝導性の両方を有し、第1触媒層5B1の主面に形成されている。第1ガス拡散層5C1は、第1触媒層5B1よりも外形サイズが小さく、第1触媒層5B1の周縁部が露出するように第1触媒層5B1の主面に配置されている。すなわち、第1触媒層5B1の周縁部は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第1ガス拡散層5C1の周縁部よりも外側に配置されている。第2ガス拡散層5C2は、酸化剤ガスの通気性と電子伝導性の両方を有し、第2触媒層5B2の主面に形成されている。第2ガス拡散層5C2は、第2触媒層5B2よりも外形サイズが小さく、第2触媒層5B2の周縁部が露出するように第2触媒層5B2の主面に配置されている。すなわち、第2触媒層5B2の周縁部は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第2ガス拡散層5C2の周縁部よりも外側に配置されている。
【0038】
第1及び第2ガス拡散層5C1,5C2としては、例えば、基材として炭素繊維を用いず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分として構成された多孔質部材を用いることができる。また、第1及び第2ガス拡散層5C1,5C2として、例えば、ガス透過性を持たせるために、カーボン織布又はカーボン不織布等を用いて作製された、多孔質構造を有する導電性基材を用いてもよい。
【0039】
枠体6は、図2及び図3に示すように、異なる樹脂材料にて射出成形されたハンドリング部61とリーク防止部62の2つの額縁状の成形体で構成されている。
【0040】
ハンドリング部61は、図6又は図7に示すように、セル10の組立時などにおいて電極−膜−枠接合体1を移動させる保持部材70a又は70bに保持される部分である。このため、ハンドリング部61は、電極−膜−枠接合体1としての形状を維持できる強度、すなわち電極−膜−枠接合体1の撓みや折れ曲がりなどを抑えることができる強度を有している。なお、保持部材70a又は70bに直接保持されるハンドリング部61の被保持部61bの面方向の長さL1が短すぎると、保持部材70a又は70bにより保持されることが困難であるとともに、所望の強度を確保することが困難である。また、特に、被保持部61bの長さL1が7.0mm未満であると、ハンドリング部61の射出成形時に樹脂が流れにくくなり、成形が困難である。このため、被保持部61bの長さL1は、8.0mm以上確保することが好ましい。
【0041】
また、ハンドリング部61は、略L字状の断面を有し、第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上に配置されている。すなわち、ハンドリング部61は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、高分子電解質膜5Aとハンドリング部61の内縁部(内側のエッジ近傍部分)61aとが重なるように、高分子電解質膜5Aの第1の主面側(図3では下側)に配置されている。また、ハンドリング部61は、樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。このハンドリング部61の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上に配置される前に予め行われている。従って、ハンドリング部61の射出成形時の射出圧力が高分子電解質膜5Aに加わることがないので、高分子電解質膜5Aの劣化を抑えることができる。
【0042】
ハンドリング部61の射出成形に用いる樹脂材料は、化学的安定性の観点から、非晶性樹脂ではなく結晶性樹脂であることが好ましく、その中でも機械的強度が大きく且つ耐熱性が高い熱可塑性樹脂であることが好ましい。例えば、前記熱可塑性樹脂として、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックグレードのもの、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリスチレン(PS)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)などが好適である。これらは、数千から数万MPaの圧縮弾性率と、150℃以上の荷重たわみ温度を有しており、前記熱可塑性樹脂として好適な材料である。また、汎用されている樹脂材料であっても、当該樹脂材料に無機系の補強材を混在させることで、強度を強化することができる。無機系の補強材として、例えば、ガラス繊維、ガラスフィラー、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、バイロフィライト、亜鉛華、タルク、マイカ、硫酸バリウム、ケイ酸、ケイ酸塩、カオリンクレーなどが好適である。例えば、ガラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)は、非充填のポリプロピレン(圧縮弾性率1,000〜1,500MPa)の数倍の弾性率を有し且つ150℃近い荷重たわみ温度を有している。従って、前記熱可塑性樹脂として好適に使用することができる。
【0043】
リーク防止部62は、略矩形の断面を有し、第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上に配置されている。すなわち、リーク防止部62は、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、高分子電解質膜5Aとリーク防止部62の内縁部62aとが重なるように、高分子電解質膜5Aの第2の主面側(図3では上側)に配置されている。リーク防止部62は、ハンドリング部61とは異なる樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。このリーク防止部62の射出成形は、ハンドリング部61上にMEA5を配置した後に行われ、これにより、リーク防止部62とハンドリング部61とが一体化されて枠体6が構成される。
【0044】
なお、リーク防止部62を射出成形するとき、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部を多孔質である第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在させることが好ましい。これにより、リーク防止部62と第2触媒層5B2との密着性を高めて、枠体6とMEA5との接合力を強化することができる。なお、ハンドリング部61は、予め射出成形するようにしているので、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部は第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在しない。
【0045】
リーク防止部62は、図6又は図7に示すように、組立時などにおいて保持部材70a,70bに保持されない部分である。従って、枠体6の形状を維持するほど強度を強くする必要はないので、リーク防止部62は、ハンドリング部61よりも弾性率が低い(柔らかい)樹脂材料、例えば熱可塑性エラストマーにて形成されている。これにより、セル10を加圧締結する際に、リーク防止部62に近接するMEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレス(局所荷重)を低減することができ、高分子電解質膜5Aの劣化によるクロスリークを防止することができる。また、リーク防止部62の弾性率が低い(柔らかい)ことで、締結荷重に応じた反力が発生しやすくなり、反応ガスのシール性が高くなって、リーク防止効果が高くなる。なお、リーク防止部62を比較的弾性率が高い(硬い)材料で形成した場合には、セル10の加圧締結の際にMEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスが大きくなり、高分子電解質膜5Aが傷つきやすくなる。
【0046】
また、一般的に、樹脂材料の弾性率は、無機系の補強材の量が少ないほど低くなる。従って、リーク防止部62中の補強材の含有量をハンドリング部61よりも小さくすることによって、リーク防止部62の弾性率をハンドリング部61よりも低くすることができる。これにより、リーク防止部62中の補強材によって高分子電解質膜5Aが劣化することを抑えることができ、クロスリークを防止することができる。なお、リーク防止部62は、無機系の補強材を全く含まなくてもよい。これにより、高分子電解質膜5Aの劣化をより一層抑えることができる。
【0047】
なお、リーク防止部62によりMEA5の周縁部5Eの全体を覆うことができるように、リーク防止部62の面方向の長さL3は、4.0mm以上確保することが好ましい。また、リーク防止部62とハンドリング部61との面方向の接合長さL2は、短すぎると、クロスリークが発生するおそれがあるため、1.0mm以上確保することが好ましい。
【0048】
リーク防止部62の射出成形に用いる樹脂材料としては、例えば、オレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー(TPS)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリウレタン系エラストマー(TPU)、ナイロン系エラストマー(TPA)などが好適である。オレフィン系エラストマーは、ポリプロピレン(PP)とエチレン・プロピレンゴム(EPM)又はエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを混合して構成されたものである。スチレン系エラストマーは、ポリスチレン(PS)とポリブタジエン又はポリイソプレンとを共重合させて構成したものである。
【0049】
また、一般的に、同質の樹脂材料同士を接合する方が異質の樹脂材料同士を接合するよりも接合力は強い。このため、リーク防止部62に用いる樹脂材料としては、ハンドリング部61に用いる樹脂材料と同質成分を含むものが好ましい。例えば、ハンドリング部61にガラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)などのオレフィン系熱可塑性樹脂を使用する場合、リーク防止部62にはサントプレーン(AESジャパン製:登録商標)などのオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用することが好適である。また、ハンドリング部61にポリスチレン(PS)を使用する場合、リーク防止部62にはスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を使用することが好適である。
【0050】
次に、電極−膜−枠接合体1の製造方法について説明する。図8A〜図8Cは、電極−膜−枠接合体1の各製造工程を、MEA5の周縁部5Eと枠体6との接合部分を拡大して示す模式断面図である。ここでは、ハンドリング部61は予め射出成形され、MEA5は予め作製されているものとする。
【0051】
まず、図8Aに示すように、MEA5の第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置する。なお、このとき、ハンドリング部61は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部が、第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在することもない。
【0052】
次いで、図8Bに示すように、一対の金型T1でハンドリング部61及びMEA5を挟み、一対の金型T1内に形成されたハンドリング部61とMEA5との隙間に溶融した樹脂材料を流し込む。これにより、図8Cに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62が形成される。また、このとき、リーク防止部62とハンドリング部61とが一体化し、枠体6が構成される。これにより、電極−膜−枠接合体1の製造が完了する。
【0053】
なお、前記射出成形時において、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の一部に混在させることで、リーク防止部62と第2触媒層5B2との密着性が高まり、枠体6とMEA5との接合力が強化される。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、前記射出成形時において、MEA5の周縁部5Eには射出圧力が加わるが、リーク防止部62の射出成形に用いる樹脂材料をハンドリング部61よりも弾性率の低いものとすることにより、MEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスは低減される。従って、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化が抑制され、クロスリークが防止される。
【0054】
本第1実施形態によれば、ハンドリング部61とリーク防止部62とを有するよう枠体6を構成し、ハンドリング部61とリーク防止部62とを互いに異なる樹脂材料で構成するようにしている。すなわち、主として枠体6としての強度及び電極−膜−枠接合体1のハンドリング性を担う部分と、主としてクロスリークの防止を担う部分との2つの部分を有するように枠体6を構成している。従って、ハンドリング部61とリーク防止部62のそれぞれに最適な樹脂材料を選択することで、それぞれの機能を最大限に発揮させることが可能となる。例えば、ハンドリング部61に弾性率が高い樹脂材料(例えば熱可塑性樹脂)を用いることで、所望のハンドリング性を確保することができる。また、リーク防止部62に弾性率が低い樹脂材料(例えば熱可塑性エラストマー)を用いることで、枠体6の製造時(初期)及び燃料電池の発電時(耐久運転時)にMEA5の周縁部にかかる機械的ストレスを低減することができ、高分子電解質膜5Aの劣化を抑えることができる。また、リーク防止部62の弾性率が低い(柔らかい)ことで、締結荷重に応じた反力が発生しやすくなり、反応ガスのシール性が高くなって、リーク防止効果が高くなる。従って、燃料電池の発電性能を一層向上させることができる。
【0055】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記第1実施形態では、ハンドリング部61をアノード側に配置するとともに、リーク防止部62をカソード側に配置したが、ハンドリング部61をカソード側に配置するとともに、リーク防止部62をアノード側に配置してもよい。
【0056】
また、前記第1実施形態では、ハンドリング部61の内縁部61aを触媒層5B1の周縁部上に配置するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ハンドリング部61の内縁部61aを高分子電解質膜5Aの第1の主面上に配置してもよい。同様に、リーク防止部62の内縁部62aも、第2触媒層5B2ではなく、高分子電解質膜5Aの第2の主面上に配置するようにしてもよい。
【0057】
また、前記第1実施形態では、第1触媒層5B1を高分子電解質膜5Aと同じサイズとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1触媒層5B1のサイズを、第1ガス拡散層5C1と同じ、あるいは第1ガス拡散層5C1よりも小さくしてもよい。同様に、第2触媒層5B1のサイズを、第2ガス拡散層5C2と同じ、あるいは第2ガス拡散層5C2よりも小さくしてもよい。
【0058】
また、前記第1実施形態では、高分子電解質膜5Aの厚み方向から見て、第1ガス拡散層5C1の周縁部と第2ガス拡散層5C2の周縁部とが一致するように配置したが、それらの周縁部を互いに厚み方向と直交する面方向にずらして配置してもよい。
【0059】
《第2実施形態》
図9は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構成を模式的に示す平面図であり、図10は、図9のIV−IV線断面図である。本第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1Aが前記第1実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1と異なる点は、ハンドリング部61とリーク防止部62とを一体化するための接合部63を枠体6Aが更に有している点である。
【0060】
接合部63は、樹脂材料を用いて射出成形にて形成されている。この接合部63の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置するとともに、第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62を配置した後に行われる。この接合部63によりハンドリング部61とリーク防止部62とが一体化され、枠体6Aが構成される。
【0061】
なお、接合部63を射出成形するとき、接合部62を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在させることが好ましい。これにより、接合部63と第2触媒層5B2との密着性を高めて、枠体6AとMEA5との接合力を強化することができる。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、接合部63により枠体6AとMEA5との接合力を強化することができるので、リーク防止部62の射出成形は、第2触媒層5B2の周縁部上に配置される前に予め行われてもよい。この場合、リーク防止部62の射出成形時の射出圧力が高分子電解質膜5Aに加わることがないので、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化を一層抑えることができる。なお、この場合、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部は、第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在しないことになる。また、リーク防止部62の射出成形を予め行うようにした場合には、無機系の補強材が高分子電解質膜5Aを傷つけることが抑制されるので、リーク防止部62に無機系の補強材を混在させても、クロスリークを防止することができる。
【0062】
接合部63の射出成形に用いる樹脂材料としては、ハンドリング部61の樹脂材料及びリーク防止部62の樹脂材料と同質成分を含むものが好ましい。これにより、ハンドリング部61とリーク防止部62との接合力を強くすることができる。また、接合部63中の無機系の補強材の含有量をハンドリング部61よりも小さくすることが好ましい。これにより、接合部63中の補強材によって高分子電解質膜5Aが劣化することを抑えることができる。なお、接合部63は、無機系の補強材を全く含まなくてもよい。これにより、高分子電解質膜5Aの劣化をより一層に抑えることができる。
【0063】
次に、電極−膜−枠接合体1Aの製造方法について説明する。図11A〜図11Cは、電極−膜−枠接合体1Aの各製造工程を、MEA5の周縁部5Eと枠体6Aとの接合部分を拡大して示す模式断面図である。ここでは、ハンドリング部61及びリーク防止部62は予め射出成形され、MEA5は予め作製されているものとする。
【0064】
まず、図11Aに示すように、MEA5の第1ガス拡散層5C1に近接して第1触媒層5B1の周縁部上にハンドリング部61を配置する。なお、このとき、ハンドリング部61は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、ハンドリング部61を構成する樹脂材料の一部が、第1触媒層5B1の周縁部の主面に混在することもない。
【0065】
次いで、図11Bに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上にリーク防止部62を配置する。なお、このとき、リーク防止部62は予め射出成形されているので、樹脂材料が無機系の補強材を含んでいたとしても、高分子電解質膜5Aが劣化することはない。また、リーク防止部62を構成する樹脂材料の一部が、第2触媒層5B2の周縁部の主面に混在することもない。
【0066】
次いで、図11Cに示すように、一対の金型T2でハンドリング部61、リーク防止部62、及びMEA5を挟み、一対の金型T2内に形成されたハンドリング部61とリーク防止部62とMEA5との隙間に溶融した樹脂材料を流し込む。これにより、図11Dに示すように、MEA5の第2ガス拡散層5C2に近接して第2触媒層5B2の周縁部上に接合部63が形成される。また、このとき、接合部63によりリーク防止部62とハンドリング部61とが一体化し、枠体6Aが構成される。これにより、電極−膜−枠接合体1Aの製造が完了する。
【0067】
なお、前記射出成形時において、接合部63を構成する樹脂材料の一部を第2触媒層5B2の周縁部の一部に混在させることで、接合部63と第2触媒層5B2との密着性が高まり、枠体6AとMEA5との接合力が強化される。また、多孔質な第2触媒層5B2中に樹脂材料を混在させることで、第2触媒層5B2の細孔量が減少して、反応ガスが第2触媒層5B2中で拡散することが抑制される。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの接触を抑制することが可能となる。また、前記射出成形時において、MEA5の周縁部5Eには射出圧力が加わるが、接合部63の射出成形に用いる樹脂材料をハンドリング部61よりも弾性率の低いものとすることにより、MEA5の周縁部5Eにかかる機械的ストレスは低減される。従って、高分子電解質膜5Aの穴あきや薄層化による劣化が抑制され、クロスリークが防止される。
【0068】
なお、前記第1及び第2実施形態では、第1及び第2触媒層5B1,5B2は、図3及び図10に示すように、同じサイズに形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図12及び図13に示すように、第1及び第2触媒層5B1,5B2とは、互いにサイズが異なっていてもよい。図12及び図13は、第1触媒層5B1のサイズを第2触媒層5B2のサイズよりも小さくした例を示している。
【0069】
《実施例》
次に、図14〜図16を用いて、本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体1を説明する。図14は、本発明の実施例にかかる電極−膜−枠接合体1の平面図であり、図15は、そのA−A断面図であり、図16は、そのB−B断面図である。
【0070】
本実施例において、ハンドリング部61は、樹脂材料としてガラスフィラーを充填したポリプロピレン(株式会社プライムポリマー社製:R−350G、ガラスフィラー量30wt%)を用いて射出成形した。ハンドリング部61の射出成形は、第1触媒層5B1の周縁部上に配置する前に行った。ハンドリング部61の被保持部61bの面方向の長さL1は、A−A断面においては45.5mmとし、B−B断面においては8.5mmとした。ハンドリング部61の被保持部61bの厚み方向の長さH1は、A−A断面においては0.77mmとし、B−B断面においては1.48mmとした。ハンドリング部61のMEA5と接触する部分の厚み方向の長さH2は、A−A断面においては0.40mmとし、B−B断面においては0.88mmとした。ハンドリング部61の断面積は、A−A断面においては37.835mm2とし、B−B断面においては18.740mm2とした。
【0071】
リーク防止部62は、樹脂材料としてガラスフィラーを充填していないサントプレーン(登録商標)101−55を用いて射出成形した。リーク防止部62の射出成形は、ハンドリング部61を第1触媒層5B1の周縁部上に配置した後に、一対の金型T1を用いて行った。リーク防止部62とハンドリング部61との面方向の接合長さL2は、A−A断面及びB−B断面とも、1.0mmとした。リーク防止部62の面方向の長さL3は、A−A断面及びB−B断面とも、4.5mmとした。リーク防止部62の厚み方向の長さH3は、A−A断面においては0.37mmとし、B−B断面においては0.60mmとした。リーク防止部62の断面積は、A−A断面においては1.595mm2とし、B−B断面においては3.000mm2とした。なお、この場合、ハンドリング部61とリーク防止部62との断面積の比率は、最大で24:1、最小で6:1となる。
【0072】
第1ガス拡散層5C1と第2ガス拡散層5C2とは、面方向にずらして配置し、そのずれ量L4は1.5mmとした。
【0073】
なお、前記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明にかかる電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに燃料電池は、発電性能を一層向上させることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 電極−膜−枠接合体
2 アノードセパレータ
3 カソードセパレータ
4 ボルト孔
5 MEA(膜電極接合体)
5A 高分子電解質膜
5B1 第1触媒層
5B2 第2触媒層
5C1 第1ガス拡散層
5C2 第2ガス拡散層
5D1 第1電極層
5D2 第2電極層
5E 周縁部
6 枠体
10 セル
12,22,32 燃料ガスマニホールド孔
13,23,33 酸化剤ガスマニホールド孔
14,24,34 冷却媒体マニホールド孔
21 燃料ガス流路溝
31 酸化剤ガス流路溝
61 ハンドリング部
62 リーク防止部
T1 金型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体。
【請求項2】
前記リーク防止部の弾性率は、前記ハンドリング部の弾性率よりも低い、請求項1に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項3】
前記第2触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第2ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第2触媒層の周縁部の主面には前記リーク防止部を構成する樹脂材料の一部が混在している、請求項1又は2に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項4】
前記第1触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第1ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第1触媒層の周縁部の主面には前記ハンドリング部を構成する樹脂材料の一部が混在していない、請求項3に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項5】
前記ハンドリング部は、熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、熱可塑性エラストマーで構成されている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項6】
前記ハンドリング部は、無機系の補強材を含み、
前記リーク防止部は、前記ハンドリング部よりも低い含有率で前記無機系の補強材の含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項7】
前記リーク防止部は、前記無機系の補強材を含まない、請求項6に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項8】
前記ハンドリング部を構成する樹脂材料と前記リーク防止部を構成する樹脂材料とは、少なくとも一種の同一成分を含む、請求項1〜7のいずれか1つに記載に電極−膜−枠接合体。
【請求項9】
前記ハンドリング部は、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーで構成されている、
請求項1〜8のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を備える燃料電池。
【請求項11】
高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に枠体が形成された電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の一部を構成する額縁状のハンドリング部の内縁部とが重なるように、樹脂材料を用いて前記電解質膜の第1の主面側に前記ハンドリング部を形成する工程と、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の他部を構成する額縁状のリーク防止部の内縁部とが重なるように、前記ハンドリング部を構成する前記樹脂材料よりも弾性率が低い樹脂材料を用いて前記電解質膜の第2の主面側に前記リーク防止部を形成する工程と、
を含む、電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項1】
高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に樹脂製の枠体が形成された電極−膜−枠接合体であって、
前記枠体は、互いに異なる樹脂材料で構成された額縁状のハンドリング部と額縁状のリーク防止部と、を有し、
前記ハンドリング部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記ハンドリング部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第1の主面側に配置され、
前記リーク防止部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記リーク防止部の内縁部とが重なるように、前記電解質膜の第2の主面側に配置されている、
電極−膜−枠接合体。
【請求項2】
前記リーク防止部の弾性率は、前記ハンドリング部の弾性率よりも低い、請求項1に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項3】
前記第2触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第2ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第2触媒層の周縁部の主面には前記リーク防止部を構成する樹脂材料の一部が混在している、請求項1又は2に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項4】
前記第1触媒層の周縁部は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記第1ガス拡散層の周縁部よりも外側に配置され、当該第1触媒層の周縁部の主面には前記ハンドリング部を構成する樹脂材料の一部が混在していない、請求項3に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項5】
前記ハンドリング部は、熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、熱可塑性エラストマーで構成されている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項6】
前記ハンドリング部は、無機系の補強材を含み、
前記リーク防止部は、前記ハンドリング部よりも低い含有率で前記無機系の補強材の含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項7】
前記リーク防止部は、前記無機系の補強材を含まない、請求項6に記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項8】
前記ハンドリング部を構成する樹脂材料と前記リーク防止部を構成する樹脂材料とは、少なくとも一種の同一成分を含む、請求項1〜7のいずれか1つに記載に電極−膜−枠接合体。
【請求項9】
前記ハンドリング部は、オレフィン系熱可塑性樹脂で構成され、
前記リーク防止部は、オレフィン系熱可塑性エラストマーで構成されている、
請求項1〜8のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体を備える燃料電池。
【請求項11】
高分子電解質膜の第1の主面に配置された第1触媒層と、前記第1触媒層の主面に配置された第1ガス拡散層と、前記電解質膜の第2の主面に配置された第2触媒層と、前記第2触媒層の主面に配置された第2ガス拡散層と、を有する膜電極接合体の周縁部に枠体が形成された電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の一部を構成する額縁状のハンドリング部の内縁部とが重なるように、樹脂材料を用いて前記電解質膜の第1の主面側に前記ハンドリング部を形成する工程と、
前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の周縁部と前記枠体の他部を構成する額縁状のリーク防止部の内縁部とが重なるように、前記ハンドリング部を構成する前記樹脂材料よりも弾性率が低い樹脂材料を用いて前記電解質膜の第2の主面側に前記リーク防止部を形成する工程と、
を含む、電極−膜−枠接合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−15041(P2012−15041A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152771(P2010−152771)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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