説明

電極、非水電解質電池、および電動車両

【課題】従来よりも電池性能に優れる非水電解質電池と、その非水電解質電池の一部を構成する電極を提供する。
【解決手段】金属箔10と、金属箔10の少なくとも一面側に設けられる金属多孔体11と、金属多孔体11の空孔に形成される活物質部12と、を備える電極1,2である。この電極1,2における活物質部12は、活物質粉末と固体電解質粉末とを含み、バインダーを含まない。金属箔10と金属多孔体11との間には、両者10,11を密着させる接合層13が形成されていても良い。この電極1,2を用いて非水電解質電池を作製すれば、従来よりも電池性能に優れた電池となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極、およびこれら電極の間に介在される電解質層を備える非水電解質電池の一部を構成する電極、およびその電極を用いた非水電解質電池、並びにその非水電解質電池を備える電動車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充放電を繰り返すことを前提とした電源として、正極と負極とこれら電極の間に配される電解質層とを備える非水電解質電池が利用されている。このような非水電解質電池のなかでも特に、正・負極体間のLiイオンの移動により充放電を行なう非水電解質電池は、小型でありながら高い放電容量を備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、集電体の表面に形成される活物質を含む合材層を備える電池用電極と、その電池用電極を用いた非水電解質電池が開示されている。電池用電極の合材層には、活物質の他にバインダーが含有されており、そのバインダーによって合材層が保形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−187343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、携帯機器の発達に伴い、放電容量などの電池性能に優れる非水電解質電池が求められている。しかし、上記従来の非水電解質電池では、その要求に十分に対応することができなかった。従来の非水電解質電池では、電池に備わる活物質層において電池反応に寄与しないバインダーが含有されているため、放電容量が頭打ちの状態になるなど、一定以上の電池性能を備える電池とすることができないからである。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、従来よりも電池性能に優れる非水電解質電池と、その非水電解質電池の一部を構成する電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、正極、負極、およびこれら電極の間に介在される電解質層を備える非水電解質電池に利用される電極に係る。この本発明電極は、金属箔と、前記金属箔の少なくとも一面側に設けられる金属多孔体と、前記金属多孔体の空孔に形成される活物質部と、を備え、前記活物質部は、活物質粉末(粒子の集合体)と固体電解質粉末(粒子の集合体)を含み、バインダーを含まないことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、金属多孔体の空孔に活物質粉末を含む活物質部が形成されているため、活物質部を保形するためのバインダーを当該活物質部に含有させる必要がない。そのため、本発明電極を用いて非水電解質電池を作製すれば、活物質を含む合材層にバインダーを含む電極を用いた従来電池に比べて高い放電容量を備える非水電解質電池とすることができる。また、上記構成では、活物質部にバインダーが含まれないので、バインダーが活物質粒子の表面に被覆されることもなく、従ってバインダーが活物質粒子の表面を覆って、活物質部における活物質粒子−固体電解質粒子間の界面抵抗が増加する、という不具合も生じない。さらに、上記構成によれば、金属多孔体と金属箔とが集電体の役割を果たし、金属箔から容易に端子を取り出すことができる。
【0009】
(2)本発明電極の一形態として、前記金属箔の一面側と他面側の両方に金属多孔体が設けられており、前記一面側の金属多孔体の空孔に形成される活物質部は、正極活物質粉末と固体電解質粉末とからなり、前記他面側の金属多孔体の空孔に形成される活物質部は、負極活物質粉末と固体電解質粉末とからなる形態とすることができる。
【0010】
上記構成の電極は、バイポーラ型の非水電解質電池の電極として利用することができる。
【0011】
(3)本発明電極の一形態として、前記金属箔と前記金属多孔体との間に、両者を接合する接合層が形成されていることが好ましい。
【0012】
金属箔と金属多孔体との接合手段は特に限定されないが、接合層を介して金属箔と金属多孔体とを接合すれば、長期にわたって両者の密着を確保することができる。接合層として代表的には溶融接合層と拡散接合層を挙げることができる。溶融接合層は、例えば、金属箔上にメッキ層を形成し、メッキ層上に金属多孔体を配置した後、熱処理(雰囲気加熱や超音波加熱など)してメッキ層を溶融させ、その溶融したメッキ層が凝固することで形成される。また、拡散接合層は、例えば、金属箔上に金属多孔体を配置して熱処理し、両者を構成する元素が相互拡散することで形成される。
【0013】
(4)前記接合層を備える本発明電極の一形態として、前記接合層の融点は、前記金属箔および金属多孔体の融点よりも低い形態とすることが挙げられる。
【0014】
溶融接合層を形成する場合、メッキ層の融点が金属箔と金属多孔体よりも低ければ、金属箔と金属多孔体を熱処理で傷めることなくメッキ層を溶融させ、溶融接合層を形成できる。その場合、メッキ層の溶融の結果形成される接合層(溶融接合層)の融点も当然、金属箔および金属多孔体よりも低くなる。
【0015】
(5)前記接合層を備える本発明電極の一形態として、前記活物質部に含まれる固体電解質粉末は、リンを含み、前記金属箔は、リンと合金化する金属元素を含み、前記接合層は、リンおよび前記金属元素を含むことが好ましい。
【0016】
リン(P)は、融点降下剤として働くため、接合層にPを含有させることで、溶融接合層の融点を容易に調整することができる。また、固体電解質にはPを含むものが多いため、接合層にPが含有されていれば、接合層と、接合層に隣接する金属多孔体の空孔に形成される活物質部と、の密着性を向上させることができ、その結果として接合層と金属多孔体との密着性が向上する。さらに、接合層に隣接する金属箔がPと合金化する金属元素であれば、接合層と金属箔の密着性も向上させることができる。このように各部の密着性が高い本構成の電極を用いて非水電解質電池を作製すれば、繰り返しの充放電にも電極を構成する各部の剥離が生じ難く、サイクル特性に優れる非水電解質電池が得られる。
【0017】
(6)前記接合層を備える本発明電極の一形態として、前記金属元素は、ニッケルである形態を挙げることができる。
【0018】
ニッケル(Ni)は高強度で安価であり、Pと合金化するため好ましい。
【0019】
(7)前記接合層を備える本発明電極の一形態として、前記金属箔は、純ニッケルからなることが好ましい。
【0020】
金属箔を純Niとすることで、接合層におけるPとの合金化促進によって金属箔と金属多孔体との接合力を増強できる。また、純Niは固体電解質やLiと反応しないため、好ましい。
【0021】
(8)前記接合層を備える本発明電極の一形態として、前記接合層におけるリンの含有量は、3質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0022】
リンの含有量が3質量%以上であることで、金属箔と金属多孔体(活物質部)との密着性を向上させる効果が得られ易い。一方、リンの含有量が15質量%以下であることで、接合層の導電率が低下、即ち接合層の電気抵抗が増加することを抑制することができる。より好ましいリンの含有量は、7質量%以上10質量%以下である。
【0023】
(9)本発明電極の一形態として、前記固体電解質粉末は、LiSとPとを含む硫化物であることが好ましい。
【0024】
活物質部に含まれる固体電解質粉末には、LiSとPとを含む硫化物系固体電解質や、LiPO,LiPONなどの酸化物系固体電解質を用いることができる(これらの固体電解質にはいずれもPが含まれる)。LiSとPとを含む固体電解質粉末は、高いリチウムイオン伝導性を示す点で好適である。
【0025】
(10)本発明非水電解質電池は、正極、負極、およびこれら電極の間に介在される電解質層を備える非水電解質電池であって、上記本発明電極を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明非水電解質電池は、合材層を備える電極を用いた従来構成の電池よりも優れた放電容量を備える。
【0027】
(11)本発明電動車両は、本発明非水電解質電池を備えることを特徴とする。
【0028】
電動車両は、駆動源としてモータを備える車両のことであり、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車などが含まれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明電極によれば、従来構成の電池よりも優れた放電容量を備える本発明非水電解質電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)は、金属箔の一面に金属多孔体を設けた本発明電極の概略図、(B)は、金属箔の両面に金属多孔体を設けた本発明電極の概略図である。
【図2】(A),(B)は、金属箔の一面に金属多孔体を設けた電極を利用した非水電解質電池の概略図である。
【図3】金属箔の両面に金属多孔体を設けた電極を利用した非水電解質電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図に基づいて、本発明の実施形態を説明する。なお、共通の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
<実施形態1>
≪電極≫
図1(A)に示す電極1は、金属箔10と、金属箔10の一面側に設けられる金属多孔体11と、その金属多孔体11の空孔に形成される活物質部12と、を備える。この電極1は、さらに金属箔10と金属多孔体11との間に接合層13(接合層13は必須ではない)を備える。以下、各構成を詳細に説明する。
【0033】
[金属箔]
金属箔10は、非水電解質電池の集電体として機能する部材である。金属箔10の材質は、Liと合金化する金属でなければ特に限定されない。例えば、金属箔10は、Ni、Ni合金(SUSを含む)、Al、Al合金、Cu、Cu合金などで形成することができる。特に、NiおよびNi合金からなる金属箔10は、高強度で扱い易く、かつ安価であるので好ましい。
【0034】
[金属多孔体]
金属多孔体11は、その内部に多数の空孔を有し、その空孔に後述する活物質部12を保持する部材である。これら空孔は互いに連通している。また、金属多孔体11は、非水電解質電池の集電体の役割も兼ねる。金属多孔体11の材質には、金属箔10に利用できるものと同じものを利用することができる。特に、金属多孔体11の材質と、上記金属箔10の材質を同じにすることが好ましい。
【0035】
金属多孔体11の空孔率、即ち、金属多孔体11の容積に占める空孔の体積割合は、90〜99体積%とすることが好ましい。この範囲の空孔率であれば、金属多孔体11の強度を保ちつつ、金属多孔体11の空孔に十分な量の活物質部12を形成することができる。
【0036】
[活物質部]
金属多孔体11の空孔に配置される活物質部12は、活物質粉末と固体電解質(SE)粉末とを含みバインダーを含まない。なお、活物質部12には導電助剤が含まれていても良い。
【0037】
活物質粉末は、電極1を正極で用いるのか、負極で用いるのかによって、種類を変える。電極1を正極部材とするのであれば、活物質粉末として、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、Liαβ(1−X)(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Bi,Co,Ni,Mnから選択される1種、α≠β、Xは0.5以上)で表わされる物質を用いることが好ましい。例えば、LiCoO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05などが好適である。その他、スピネル型の結晶構造を有する活物質粉末や、オリビン型の結晶構造を有する活物質粉末を用いることもできる。
【0038】
また、電極1を負極部材とするのであれば、活物質粉末として、Li、Si,LiAl,Sn,Si,C,In,LiTiO1,FeS,TiSなどを用いることができる。これら活物質粉末は、ビスマス(Bi)や亜鉛(Zn)などの添加元素を含んでいても良い。
【0039】
活物質粉末を構成する粒子径は、金属多孔体11の空孔よりも小さければ良く、例えば1〜10μmとすることが好ましい。
【0040】
一方、SE粉末としては、例えば、LiS−Pなどの硫化物を利用することができる。その他、Vなどの酸化物を利用することもできる。これらSE粉末を構成する各粒子の平均粒径は1〜10μmとすることが好ましい。特に硫化物は、高Liイオン伝導性であるため好ましい。硫化物は、酸素(O)、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)などの元素を含んでいても良い。
【0041】
[接合層]
金属箔10と金属多孔体11との接合手段は、両者の導通が確保できる接合手段であれば、特に限定されない。例えば、ホッチキス(登録商標)やスポット溶接などで金属箔10と金属多孔体11とを点接触で接合しても良い。しかし、図1に示すように金属箔10と金属多孔体11との間に接合層13を設けて、金属箔10と金属多孔体11とを面接触で接合することが好ましい。
【0042】
接合層13の代表例としては、溶融接合層を挙げることができる。溶融接合層は、金属箔10上にメッキ層を形成し、メッキ層上に金属多孔体11を配置して熱処理(雰囲気加熱や超音波加熱など)してメッキ層を溶融させ、その溶融したメッキ層が凝固することで形成される。
【0043】
メッキ層、即ち溶融接合層は、金属箔10と金属多孔体11よりも融点が低い材料で構成することが好ましい。そうすることで、メッキ層を溶融させるための熱処理によって金属箔10と金属多孔体11が損傷することを防止できる。メッキ層(溶融接合層)の材質としては、例えばAgやNiなどの金属元素を利用できる。その他、金属元素にPを含有させて、メッキ層の融点を下げても良い。メッキ層(溶融接合層)にPを含有させる場合、Pの含有量は、メッキ層全体の3質量%〜15質量%とすることが好ましい。より好ましいPの含有量は、メッキ層全体の7質量%〜10質量%である。
【0044】
ここで、メッキ層(溶融接合層)に利用する金属元素は、金属箔10の主要金属元素(最も含有量(モル数)の多い金属元素)と同じとすることが好ましい。そうすることで、メッキ層と金属箔10との密着性を向上させることができる。
【0045】
金属箔10と金属多孔体11との間に溶融接合層(接合層13)を設ける場合、各部10,11,12,13の組成を次のように選択することが好ましい。
金属箔10の主要金属元素=接合層13の主要金属元素=Pと合金化する金属元素(例えば、Ni)とする。好ましくは、金属多孔体11の主要金属元素もPと合金化する金属元素とする。
活物質部12の固体電解質粉末をP含有物とする。
接合層13の融点降下剤としてPを含有させる。
【0046】
その他の接合層13として、拡散接合層を挙げることができる。拡散接合層は、金属箔10上に金属多孔体11を配置して熱処理(雰囲気加熱や超音波加熱など)することで、両者10,11を構成する元素が相互拡散し、形成される。なお、上記熱処理は、金属箔10と金属多孔体11の融点未満で実施する。
【0047】
≪非水電解質電池≫
上記電極1を利用した非水電解質電池を図2に例示する。図2(A)の非水電解質電池100は、電極1の上に、固体電解質層15と、対極16と、を形成した非水電解質電池100である。例えば、電極1が正極部材である場合、対極16は負極である。
【0048】
固体電解質層15は、気相法により形成しても良いし、粉末成形法で形成しても良いし、固体電解質粉末を含むスラリーを塗布・乾燥させることで形成しても良い。ここで、使用する固体電解質は、電極1の活物質部12に含まれる固体電解質粉末に利用できるものを利用すると良い。
【0049】
対極16も、気相法、粉末成形法、スラリー法など、種々の方法で形成することができる。
【0050】
次に、図2(B)の非水電解質電池101は、二つの電極1,1で固体電解質層15を挟み込んだ構成を備える非水電解質電池101である。この場合、一方の電極1は正極活物質を含む正極、他方の電極1は負極活物質を含む負極である。
【0051】
この非水電解質電池101は、例えば、二つの電極1で固体電解質粉末を挟み込み、圧縮することで作製することができる。その他、両電極1,1の金属多孔体11のそれぞれに固体電解質層を形成し、両固体電解質層を対向して貼り合わせ、加圧熱処理することで、非水電解質電池101を作製しても良い。
【0052】
≪効果≫
電極1を備える非水電解質電池100,101は、活物質部12にバインダーなどの電池反応に寄与しない物質を含まないため、従来の非水電解質電池よりも低内部抵抗で高放電容量となる。また、当該電池100,101は、充放電に伴う活物質部12の体積変化を金属多孔体11で吸収できるので、活物質部12が金属多孔体11から剥離し難い。その結果、金属多孔体11と隣接する部材(接合層13、接合層13がない場合は金属箔10)とが剥離し難い。そのため、当該電池100,101は、従来よりも多数回の充放電を行なうことができる。
【0053】
<実施形態2>
≪電極≫
図1(B)に示す電極2は、金属箔10と、その金属箔10の両面に設けられる金属多孔体11,11と、それら金属多孔体11,11の空孔に形成される活物質部12,12と、を備える。電極2の一方の金属多孔体11における活物質部12には、正極活物質粉末と固体電解質粉末とからなり、他方の金属多孔体11における活物質部12には、負極活物質粉末と固体電解質粉末とからなる。この電極2は、バイポーラ型電池の電極として利用することができる。
【0054】
≪非水電解質電池≫
上記電極2を利用したバイポーラ型の非水電解質電池の一例を、図3に基づいて説明する。
【0055】
図3の非水電解質電池200を作製する場合、例えば、図1(B)の電極2の両面に固体電解質層15,15を形成したユニット3を作製する。作製するユニット3の数は、必要とされる電圧に応じて決定すると良い。
【0056】
次に、ユニット3の両端部を、図1(A)に示す電極1,1で挟み込み、非水電解質電池200を完成させる。ここで、ユニット3を挟み込む電極1の一方は、正極活物質を含む正極部材、他方は負極活物質を含む負極部材である。
【0057】
なお、図3の場合、ユニット3を複数積層すると、対向するユニット3の固体電解質層15同士が重ねられるが、この固体電解質層15は、全てのユニット3の両面にある必要はなく、隣接するユニット3の一面にあって、各ユニット3を積層することで、電極間に固体電解質層3が介在されるようにしても良い。
【0058】
≪効果≫
本実施形態2の非水電解質電池200も、実施形態1の非水電解質電池100,101と同様の効果を有する。
【実施例】
【0059】
以下の構成を備える非水電解質電池を作製し、その電池特性(内部抵抗、放電容量、サイクル特性)を測定した。
【0060】
<非水電解質電池の作製>
≪試料No.1≫
金属箔と金属多孔体とを備える正極部材(電極)を作製した。まず、平均厚さ20μmのNi箔を用意し、80〜90℃、pH4〜5に調整した下記無電解メッキ浴にNi箔を浸漬し、Ni箔の全面に平均厚さ2μmのNi−Pメッキ層を形成した。膜の厚さは浸漬時間により調整することができる。Ni箔の表面に形成されたNi−Pメッキ層におけるPの含有量は8質量%であった。
無電解メッキ浴…硫酸ニッケル;20g/L、次亜リン酸ナトリウム;25g/L、乳酸;25g/L、プロピオン酸;3g/L
【0061】
次いで、Ni−Pメッキ層を形成したNi箔の一面側に、平均厚さが1.4mm、空孔率が98体積%のNi多孔体を配置して、真空雰囲気下、面圧100MPa、200℃×3hの加圧熱処理を施した。この加圧熱処理により、Ni−Pメッキ層が溶融し、Ni箔とNi多孔体とが接合された電極の前躯体が得られた。Ni箔とNi多孔体の間には、Ni−Pメッキ層に由来する接合層が形成された。その接合層のP含有量は、Ni−Pメッキ層とほぼ同じであった。
【0062】
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末(正極活物質粉末)と、LiS‐P粉末(硫化物系固体電解質粉末)と、を体積比で48:52となるように混合し、トルエンを溶媒として、固形分濃度68質量%のスラリーを作製した。このスラリーを上記前躯体のNi多孔体の空孔に充填した。充填にあたっては、グローブボックス内で、前躯体のNi多孔体側にスラリーを塗工し、Ni多孔体の空孔にスラリーを含浸させ、室温で5分間の真空引きを行なった後、面圧540MPaで加圧し、正極電極を作製した。完成した正極電極におけるNi箔の厚さは15μm、空孔に活物質部が形成されたNi多孔体の厚さは0.2mmであった。
【0063】
上記正極電極のNi多孔体側に、LiS‐P粉末を積層し、さらにその上に負極となるIn箔を配置した後、面圧360MPaで加圧し、非水電解質電池を完成させた。これをコイン型ケースに組み込み、コイン型セルとした。
【0064】
作製した非水電解質電池について、カットオフ電圧3.0V〜4.2V、電流密度0.2mA/cmの定電流にて充放電サイクル試験を室温で実施した。ここでは、サイクル毎の放電容量(mAh/cc)を測定し、初期放電容量の80%に低下するまでのサイクル数を調べた。その結果を表1に示す。また、1サイクル目の電池の内部抵抗(Ω・cm)と放電容量も合わせて表1に示す。
【0065】
≪試料No.2≫
試料No.1と同じNi箔を用意し、その一面側に次の組成を有するスラリーを塗工した。そして、スラリーを乾燥させてNi箔上に正極活物質層を形成した正極電極を完成させた。その正極電極の正極活物質層の厚さは、試料No.1の正極電極におけるNi多孔体の厚さとほぼ同じ0.2mmであった。
スラリー…LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末(正極活物質粉末):LiS‐P粉末(硫化物系固体電解質粉末):シリコーンバインダ=47:51:2(体積比)
【0066】
正極活物質層を備える正極電極についても、試料No.1と同様に固体電解質層と負極を形成して非水電解質電池を完成させ、試験用のコイン型セルを作製した。そして、試料No.1と同様の条件でサイクル特性、電池の内部抵抗、および放電容量を調べた。その結果も下記表1に示す。
【0067】
<試験結果>
【表1】

【0068】
表1の結果から、金属箔と金属多孔体からなる正極電極を用いた試料No.1の非水電解質電池は、金属箔上に正極活物質層を備える正極電極を用いた試料No.2の非水電解質電池よりも、優れた電池特性を有することが分かった。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の非水電解質電池は、充放電を繰り返すことを前提とした電気機器の電源、例えば各種電子機器の電源に好適に利用できる他、ハイブリッド自動車、電気自動車などの電動車両の電源としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0071】
100,101,200 非水電解質電池
1,2 電極
10 金属箔 11 金属多孔体 12 活物質部 13 接合層
15 固体電解質層 16 対極
3 ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、およびこれら電極の間に介在される電解質層を備える非水電解質電池に利用される電極であって、
金属箔と、
前記金属箔の少なくとも一面側に設けられる金属多孔体と、
前記金属多孔体の空孔に形成される活物質部と、を備え、
前記活物質部は、活物質粉末と固体電解質粉末を含み、バインダーを含まないことを特徴とする電極。
【請求項2】
前記金属箔の一面側と他面側の両方に金属多孔体が設けられており、
前記一面側の金属多孔体の空孔に形成される活物質部は、正極活物質粉末と固体電解質粉末とからなり、
前記他面側の金属多孔体の空孔に形成される活物質部は、負極活物質粉末と固体電解質粉末とからなることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属箔と前記金属多孔体との間に、両者を接合する接合層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記接合層の融点は、前記金属箔および金属多孔体の融点よりも低いことを特徴とする請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記活物質部に含まれる固体電解質粉末は、リンを含み、
前記金属箔は、リンと合金化する金属元素を含み、
前記接合層は、リンおよび前記金属元素を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の電極。
【請求項6】
前記金属元素は、ニッケルであることを特徴とする請求項5に記載の電極。
【請求項7】
前記金属箔は、純ニッケルからなることを特徴とする請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記接合層におけるリンの含有量は、3質量%〜15質量%であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記固体電解質粉末は、LiSとPとを含む硫化物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
正極、負極、およびこれら電極の間に介在される電解質層を備える非水電解質電池であって、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極を備えることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項11】
請求項10に記載の非水電解質電池を備えることを特徴とする電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−105702(P2013−105702A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250526(P2011−250526)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】