説明

電極合材、及びそれを用いた全固体二次電池

【課題】固体電解質及び活物質の接触を良好に保ち、電池性能を向上させることができる電極合材を提供する。
【解決手段】多孔質活物質にリチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤を充填してなる電極合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極合材、及びそれを用いた全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム電池等二次電池の需要が増加している。
【0003】
現在、リチウム電池の電解質には液体が用いられているが、電解質液の蒸発・漏洩により、電解質液と電極材料が反応する等、その安全性に問題があった。上記問題を解決するため、二次電池の電解質に固体を用いる試みが多く行われている。
【0004】
電解質及び活物質に固体を用いる二次電池(全固体二次電池)では、電極を粉末状固体電解質及び粉末状活物質を混合及び成型して電極を作製するが、粉末の混合物ではイオン伝導パス及び電子伝導パスの欠陥が多く発生し、電池性能が低下する問題があった。加えて、充放電サイクルの繰り返しにより電極全体が膨張収縮して、粒子間の接触が悪くなり、充放電特性が低下する問題があった。
【0005】
特許文献1は多孔質電解質に活物質を充填したリチウム二次電池用電極を開示している。しかし、この電極ではゾルゲル法で合成可能な酸化物系固体電解質しか適用できない。一般に酸化物系固体電解質より高リチウムイオン伝導性を示す硫化物系固体電解質(例えばLiS−P)では上記電極に用いることはできないため、特許文献1の電極では十分な電池性能を得ることができなかった。
【0006】
特許文献2は固体電解質が3次元ネットワークを構成する電極合材を開示している。しかし、特許文献1と同様に、この電極合材には酸化物系固体電解質しか適用できなかった。
【0007】
特許文献3及び4は、無機固体電解質粉末と熱可塑性高分子樹脂を複合化したシート及び硫化物系固体電解質と高分子弾性体を乾式混合した成型体をそれぞれ開示している。これらシート及び成型体も、充放電特性の低下を十分に解決できなかった。
【特許文献1】特開2006−260887号公報
【特許文献2】特開2000−311710号公報
【特許文献3】特開平04−133209号公報
【特許文献4】特開平06−076828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、固体電解質及び活物質の接触を良好に保ち、電池性能を向上させることができる電極合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の電極合材等が提供される。
1.多孔質活物質にリチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤を充填してなる電極合材。
2.前記多孔質活物質が遷移金属酸化物である1に記載の電極合材。
3.前記多孔質活物質がAl、Sn、Si、In又はこれら金属の1以上とLiの複合体である1に記載の電極合材。
4.前記リチウムイオン伝導性無機固体電解質がP、Si及びBからなる群から選択される1以上の元素、Li及びSを含む1〜3のいずれかに記載の電極合材。
5.正極及び負極と、
前記正極と負極の間に挟持されたリチウムイオン伝導性無機固体電解質からなる固体電解質層を含んでなる全固体二次電池であって、
前記正極及び負極の少なくとも一方が1〜4のいずれかに記載の電極合材からなる全固体二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固体電解質及び活物質の接触を良好に保ち、電池性能を向上させることができる電極合材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の電極合材は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤で充填された多孔質活物質からなる。
本発明の多孔質活物質は、その内部に連続した空隙を有する。多孔質活物質の内部にリチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤を充填することで、活物質ネットワークによるイオン伝導性及び電子伝導性を良好にすることができる。また、多孔質活物質は充填されたリチウムイオン伝導性無機固体電解質の連続性を確保できるため、リチウムイオン伝導性無機固体電解質のイオン伝導性を向上させることができる。
【0012】
加えて、多孔質活物質内部の連続した空隙(3次元ネットワーク構造)が、充放電時の膨張収縮を吸収することができるので、本発明の電極合材は電池の充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0013】
多孔質活物質は、好ましくは遷移金属酸化物、若しくはAl、Sn、Si、In又はこれら金属のいずれか1以上とLiの複合体である。
【0014】
多孔質活物質として遷移金属酸化物を用いる場合、遷移金属酸化物としてはLiCoOのようにゾルゲル法で合成可能な酸化物を用いることができる。
遷移金属酸化物を多孔質活物質とする方法は、一般に知られている方法を用いることができる。例えば、基板上にポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の高分子粒子又は単分散粒子を堆積させ、この堆積物中に酸化物前駆体のゾルを充填して、ゾルをゲル化した後、高分子粒子を焼成して取り除くことにより遷移金属酸化物からなる多孔質活物質を作製することができる。
【0015】
多孔質活物質としてAl、Sn、Si、In又はこれら金属のいずれか1以上とLiの複合体を用いる場合、これら金属又は複合体としてはLi−Al,Li−Sn,Li−Si等を用いることができる。また、SiO、SnO等の酸化物あるいはこれらの複合体を用いることもできる。
【0016】
上記金属及び複合体を多孔質活物質とする方法は、コロイド結晶鋳型法等の一般に知られている方法を用いることができる。
例えば、ポリスチレンビーズ(PSビーズ)をエタノール中に分散させ、電気泳動法及び堆積熱処理により基板上にPSビーズを融着させコロイド結晶とする。これを鋳型としてSn−Ni合金めっきを行ないSn−Ni合金骨格を作製し、トルエン洗浄でPSビーズを除去して多孔質Sn−Ni負極活物質が作製できる(第48回電池討論会 予稿講習集 2B13)。
【0017】
リチウムイオン伝導性無機固体電解質は、特に限定されない。例えば有機化合物、無機化合物、又は有機化合物及び無機化合物の混合体からなる材料を用いることができ、好ましくは、P、Si及びBからなる群から選択される1以上の元素、Li及びSを含むリチウムイオン伝導性無機固体電解質を用いる。
【0018】
リチウムイオン伝導性無機固体電解質のうち、特に、硫化物系の無機固体電解質は、イオン伝導度が他の無機化合物より高いことが知られており、特開平4−202024等に記載の無機固体電解質を使用できる。具体的には、LiSとSiS、GeS、P、Bの組合せから成る無機固体電解質に、適宜、LiPOやハロゲン、ハロゲン化合物を添加した無機固体電解質を用いることができる。
【0019】
リチウムイオン伝導性が高いことから、硫化リチウムと五硫化二燐、又は硫化リチウムと単体燐及び単体硫黄、さらには硫化リチウム、五硫化二燐、単体燐及び/又は単体硫黄から生成するリチウムイオン伝導性無機固体電解質を使用することが好ましい。以下、好ましい固体電解質について説明する。
【0020】
リチウムイオン伝導性無機固体電解質は、硫化リチウムと、五硫化二燐(P)及び/又は、単体燐及び単体硫黄から製造することができる。具体的には、これらの原料を溶融反応させた後、急冷することにより製造できる。また、これらの原料をメカニカルミリング法(以下、MM法と示すことがある。)により処理して得られる硫化物ガラス、あるいはこれを加熱処理したものである。
【0021】
硫化リチウムは、特に制限なく工業的に入手可能なものが使用できるが、以下に説明するように高純度のものが好ましい。
硫化リチウムは、少なくとも硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下であり、かつN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下であると、後記する溶融急冷法やメカニカルミリング法で得られる固体電解質は、ガラス状電解質(完全非晶質)である。即ち、硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%を越えると、得られる電解質は、最初から結晶化物であり、この結晶化物のイオン伝導度は低い。さらに、この結晶化物について下記の熱処理を施しても結晶化物には変化がなく、高イオン伝導度のリチウムイオン伝導性無機固体電解質を得ることはできない。
【0022】
また、N−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下であると、N−メチルアミノ酪酸リチウムの劣化物がリチウム電池のサイクル性能を低下させることがない。
【0023】
このように、高イオン伝導性電解質を得るためには、不純物が低減された硫化リチウムを用いる必要がある。
【0024】
高イオン伝導性電解質の製造に用いられる硫化リチウムの製造法としては、少なくとも上記不純物を低減できる方法であれば特に制限はない。
例えば、次の方法で製造された硫化リチウムを精製することにより得ることもできる。
以下の製造法の中では、特にa又はbの方法が好ましい。
a.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを0〜150℃で反応させて水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を150〜200℃で脱硫化水素化する方法(特開平7−330312号公報)。
b.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを150〜200℃で反応させ、直接硫化リチウムを生成する方法(特開平7−330312号公報)。
c.水酸化リチウムとガス状硫黄源を130〜445℃の温度で反応させる方法(特開平9−283156号公報)。
【0025】
上記のようにして得られた硫化リチウムの精製方法としては、特に制限はない。好ましい精製法としては、例えば、国際公開WO2005/40039号等に記載の方法が挙げられる。
【0026】
具体的には、上記のようにして得られた硫化リチウムを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄する。洗浄に用いる有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、さらに、硫化リチウム製造に使用する非プロトン性有機溶媒と洗浄に用いる非プロトン性極性有機溶媒とが同一であることがより好ましい。
【0027】
洗浄に好ましく用いられる非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、有機硫黄化合物、環式有機リン化合物等の非プロトン性の極性有機化合物が挙げられ、単独溶媒、又は混合溶媒として好適に使用することができる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、良好な溶媒に選択される。
【0028】
洗浄に使用する有機溶媒の量は特に限定されず、また、洗浄の回数も特に限定されないが、2回以上であることが好ましい。洗浄は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0029】
洗浄された硫化リチウムを、洗浄に使用した有機溶媒の沸点以上の温度で、窒素等の不活性ガス気流下、常圧又は減圧下で、5分以上、好ましくは約2〜3時間以上乾燥することにより、本発明で好適に用いられる硫化リチウムを得ることができる。
【0030】
は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。尚、Pに代えて、相当するモル比の単体リン(P)及び単体硫黄(S)を用いることもできる。単体リン(P)及び単体硫黄(S)は、工業的に生産され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0031】
本発明において、固体電解質としては、ガラス状固体電解質及び結晶成分を含有する固体電解質の両方が使用できる。必要とする特性に合わせて種類を選定すればよい。また、両方を使用してもよい。
【0032】
上記硫化リチウムと、五硫化二燐又は単体燐及び単体硫黄の混合モル比は、通常50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25である。
特に好ましくは、LiS:P=68:32〜74:26(モル比)程度である。
【0033】
ガラス状電解質である硫化物ガラスの製造方法としては、例えば、溶融急冷法やメカニカルミリング法が挙げられる。
【0034】
溶融急冷法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、ペレット状にしたものをカーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。所定の反応温度で反応させた後、氷中に投入し急冷することにより、硫化物ガラスが得られる。
【0035】
この際の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃、より好ましくは、800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間、より好ましくは、1〜12時間である。上記反応物の急冷温度は、通常10℃以下、好ましくは0℃以下であり、その冷却速度は1〜10000K/sec程度、好ましくは1〜1000K/secである。
【0036】
MM法による場合、PとLiSを所定量乳鉢にて混合し、メカニカルミリング法にて所定時間反応させることにより、硫化物ガラスが得られる。
【0037】
上記原料を用いたメカニカルミリング法は、室温で反応を行うことができる。MM法によれば、室温でガラス状電解質を製造できるため、原料の熱分解が起らず、仕込み組成のガラス状電解質を得ることができるという利点がある。また、MM法では、ガラス状電解質の製造と同時に、ガラス状電解質を微粉末化できるという利点もある。
【0038】
MM法は種々の形式の粉砕法を用いることができるが、遊星型ボールミルを使用するのが特に好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。
【0039】
MM法の回転速度及び回転時間は特に限定されないが、回転速度が速いほど、ガラス状電解質の生成速度は速くなり、回転時間が長いほどガラス質状電解質ヘの原料の転化率は高くなる。
【0040】
このようにして得られた電解質は、ガラス状電解質であり、通常、イオン伝導度は1.0×10−5〜8.0×10−4(S/cm)程度である。
【0041】
MM法の条件としては、例えば、遊星型ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十〜数百回転/分とし、0.5時間〜100時間処理すればよい。
【0042】
以上、溶融急冷法及びMM法による硫化物ガラスの具体例を説明したが、温度条件や処理時間等の製造条件は、使用設備等に合わせて適宜調整することができる。
【0043】
その後、得られた硫化物ガラスを所定の温度で熱処理することにより、結晶成分を含有する固体電解質が生成する。
【0044】
このような固体電解質を生成させる熱処理温度は、好ましくは190℃〜340℃、より好ましくは、195℃〜335℃、特に好ましくは、200℃〜330℃である。190℃より低いと高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、340℃より高いとイオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
【0045】
熱処理時間は、190℃以上220℃以下の温度の場合は、3〜240時間が好ましく、特に4〜230時間が好ましい。また、220℃より高く340℃以下の温度の場合は、0.1〜240時間が好ましく、特に0.2〜235時間が好ましく、さらに、0.3〜230時間が好ましい。熱処理時間が0.1時間より短いと、高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、240時間より長いと、イオン伝導性の低い結晶が生じるとなる恐れがある。
【0046】
このようにして得られた、結晶成分を含有するリチウムイオン伝導性無機固体電解質は、通常、イオン伝導度は、7.0×10−4〜5.0×10−3(S/cm)程度である。
【0047】
このリチウムイオン伝導性無機固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5418Å)において、2θ=17.8±0.3deg,18.2±0.3deg,19.8±0.3deg,21.8±0.3deg,23.8±0.3deg,25.9±0.3de
g,29.5±0.3deg,30.0±0.3degに回折ピークを有することが好ましい。このような結晶構造を有する固体電解質が、極めて高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0048】
導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブのような導電性物質、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロールのような導電性高分子、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0049】
本発明の電極合材は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤を溶媒に分散させた混合液を、上述の多孔質活物質の内部に塗布、ディップ、真空含浸等で充填した後、溶媒を除去することにより作製することができる。
上記方法のほか、リチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤の混合粉末を微粉状にして流動性を付与し、粉末のまま多孔質活物質に充填する方法によっても本発明の電極合材を作製することができる。
【0050】
本発明の全固体二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極間に挟持されたリチウムイオン伝導性無機固体電解質からなる固体電解質層で構成され、正極及び負極の少なくとも一方が本発明の電極合材からなる。
【0051】
図1は本発明に係る全固体二次電池の一実施形態を示す概略断面図である。
全固体二次電池1は、正極10及び負極30からなる一対の電極間に固体電解質層20が挟持されており、正極10及び負極30の少なくとも一方は本発明の電極合材からなる。正極10及び負極30にはそれぞれ集電体40及び42が設けられている。
【0052】
上述したように正極10及び負極30の少なくとも一方は本発明の電極合材からなるが、他方は公知の材料を用いて形成することができる。
例えば正極10は、正極活物質とリチウムイオン伝導性無機固体電解質からなる正極合材を用いて製造することができる。
【0053】
正極活物質としては市販されているものを特に限定なく使用することができ、リチウムと遷移金属の複合酸化物等を好適に用いることができる。具体的には、以下に示す各材料及び各元素の組成比が異なる類似の材料が使用でき、LiCoO,LiNiCoO,LiNiO,LiNiMnCoO,LiFeMnO,LiPtO,LiMnNiO,LiMn,LiNiMnO,LiNiVO,LiCrMnO,LiFePO,LiFe(SO,LiCoVO,LiCoPO,S等が挙げられる。粒径に関しても特に制限はないが、平均粒径が数μm〜10μmのものを好適に用いることができる。
【0054】
上記正極活物質とリチウムイオン伝導性無機固体電解質を所定の割合で混合することにより正極合材が作製される。割合としては、正極活物質の固体重量%(wt%)として、20wt%〜95wt%の割合で用いることができる。より好ましくは、50wt%〜90wt%であり、さらに好適な割合は60wt%〜80wt%である。混合する方法としては、乾燥紛体をメノウ乳鉢等で混ぜる方法の他、有機溶媒に直接加えて混合する方法等を用いることができる。
【0055】
正極10は、上記正極合材を集電体40の少なくとも一部に膜状に形成することで作製できる。成膜方法としては、正極合材及び溶媒からなる混合液を塗布して形成する方法のほか、例えば、ブラスト法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、スパッタリング法、気相成長法、加圧プレス法又は溶射法等も用いることができる。このような方法により成膜することで、正極の空隙率をより小さくすることができ、電子伝導、電子授受及びイオン伝導を改善することができる。
【0056】
負極30は、正極10と同様に作製できる。負極30の作製に用いる負極材としては、電池分野において負極活物質として使用されているものが使用できる。例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素が挙げられる。又はその混合物でもよい。好ましくは、人造黒鉛である。また、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ又は金属ケイ素の金属自体、又はこれら金属と他の元素又は化合物と組合わせた合金を、負極材として用いることができる。
【0057】
固体電解質層20は、粒子状のリチウムイオン伝導性無機固体電解質を、例えば、ブラスト法やエアロゾルデポジション法にて成膜することで製造できる。また、コールドスプレー法、スパッタリング法、気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)又は溶射法等でもリチウムイオン伝導性無機固体電解質の成膜が可能である。
さらに、リチウムイオン伝導性無機固体電解質と溶媒やバインダー(結着材や高分子化合物等)を混合した溶液を塗布、塗工した後、溶媒を除去し成膜化する方法もある。また、固体電解質自体や固体電解質とバインダー(結着材や高分子化合物等)や支持体(固体電解質層の強度を補強させたり、固体電解質自体の短絡を防ぐための材料や化合物等)を混合・組合した電解質を加圧プレスすることで成膜することも可能である。
【0058】
溶媒は、固体電解質の性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えば非水系溶媒が挙げられる。
非水系溶媒としては、例えば、乾燥ヘプタン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)、Nメチルピロリドン、アセトニトリル、及びジメトキシエタン、ジメチルカーボネート等の電解液に用いられる溶媒が挙げられ、好ましくは水分含有量が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下の溶媒である。
【0059】
バインダーとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が使用できる。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体を挙げることができる。
【0060】
この中で好ましいのはポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0061】
集電体40,42としては、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム、又は、これらの合金等からなる板状体や箔状体等が使用できる。
集電体40,42は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。例えば、集電体40には銅箔を使用し、集電体42にはアルミニウム箔を使用してもよい。
【0062】
全固体二次電池は、上述した電池用部材を貼り合せ、接合することで製造できる。接合する方法としては、各部材を積層し、加圧・圧着する方法や、2つのロール間を通して加圧する方法(roll to roll)等がある。
また、接合面にイオン伝導性を有する活物質や、イオン伝導性を阻害しない接着物質を介して接合してもよい。
接合においては、固体電解質の結晶構造が変化しない範囲で加熱融着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の電極合材は、全固体二次電池の電極に使用できる。
本発明の全固体二次電池は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを電力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電池として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の全固体リチウム電池の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 全固体二次電池
10 正極
20 固体電解質層
30 負極
40,42 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質活物質にリチウムイオン伝導性無機固体電解質及び導電助剤を充填してなる電極合材。
【請求項2】
前記多孔質活物質が遷移金属酸化物である請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記多孔質活物質がAl、Sn、Si、In又はこれら金属の1以上とLiの複合体である請求項1に記載の電極合材。
【請求項4】
前記リチウムイオン伝導性無機固体電解質がP、Si及びBからなる群から選択される1以上の元素、Li及びSを含む請求項1〜3のいずれかに記載の電極合材。
【請求項5】
正極及び負極と、
前記正極と負極の間に挟持されたリチウムイオン伝導性無機固体電解質からなる固体電解質層を含んでなる全固体二次電池であって、
前記正極及び負極の少なくとも一方が請求項1〜4のいずれかに記載の電極合材からなる全固体二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−33877(P2010−33877A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194551(P2008−194551)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】