説明

電極材料、それを含む燃料電池セル、及びその製造方法

【課題】高温大気下で使用可能な新たな電極材料、それを利用した燃料電池セル、その製造方法を提供する。
【解決手段】LaNi1−x−yCuFe3―δ(x>0、y>0、x+y<1)で表される成分を含有する材料は、高温においても比較的高い導電率を示すと共に、熱膨張率の面でも他の材料と組み合わせやすいという利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、それを含む燃料電池セル、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)は、燃料極、電解質層、空気極、集電層を含む複数のセルを有する。SOFCにおいて、セルはセパレータ及びインターコネクタを介して積層される。集電層は、空気極とセパレータ又はインターコネクタとの接続における電気抵抗を低減するために設けられる。
【0003】
特許文献1に記載のSOFCは、空気極とセパレータとの間に配置される接続層を有する。特許文献1では、この接続層の材料として、Ptペースト及び導電性金属酸化物粉末が挙げられている。特許文献1には、導電性金属酸化物粉末として、LaNi1−xFe、La1−xSrCoO等が挙げられている。
【0004】
特許文献2には、空気極材料として、LaNi1−xFeが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−277411号公報
【特許文献2】特許第3414657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Ptは高価なので、汎用品の材料としては不向きである。
【0007】
また、集電層材料としてLa1−xSrCoOを用いたとすると、集電層材料の熱膨張率(熱膨張係数)が18〜20ppm/Kであるので、例えば空気極材料がLa1−ySrCo1−zFeである場合、空気極材料の熱膨張率12.5ppm/Kに比べて非常に大きい。このように空気極材料と集電層材料との熱膨張率の差が大きい場合、空気極からの集電層の剥離及び集電層におけるクラックの発生等の問題が生じる。
【0008】
また、LaNi1−xFeは、熱膨張率が13.4〜9.8ppm/K程度であるものの、大気中かつ600〜1000℃の導電率が700S/cm以下と低い。よって、高温大気下で使用可能な新たな電極材料が求められている。
【0009】
本発明の課題は、燃料電池等の電極に用いることができる材料として、熱膨張率及び導電率の両面において好適な材料等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1観点に係る電極材料は、LaNi1−x−yCuFe3―δ(x>0、y>0、x+y<1)で表される成分を含有。
【0011】
この電極材料によると、熱膨張率が比較的小さく抑えられると共に、高温下においても高い導電率が得られる。
【0012】
この電極材料は、燃料電池セルの電極材料として好適であり、特に集電層の材料として好適である。この電極材料は導電率が高いので、集電層に適用された場合、空気極とセパレータ又はインターコネクタとの接続における電気抵抗を低減することができる。また、空気極と集電層との間で熱膨張率の差が小さく抑えられるので、空気極と集電層との間で剥離又はクラックの発生が起きにくい。
【0013】
空気極に適用される場合、LaNi1−x−yCuFe3―δのみを用いてもよいが、Ce0.9Gd0.12(GDC)のような希土類添加セリアとの混合体で形成してもよい。固体電解質材料の一つでもある希土類添加セリアはペロブスカイト系酸化物と反応しにくいことが知られており、焼成時等に高温に曝されても高抵抗な化合物が形成されない。12ppm/Kというあまり大きくない熱膨張率を有する希土類添加セリアを、LaNi1−x−yCuFe3―δと混合することで、その混合量に応じて混合層の熱膨張係数を更に低減できる。希土類添加セリアと固体電解質との密着性は良好であるため、この混合層とすることで固体電解質との密着性も向上し、熱サイクルによる剥がれの抑制効果を増すことが期待できる。
【0014】
また、この電極材料は、例えば、La、Ni、Cu及びFeを含み、La、Ni、Cu及びFeのモル比がLa:Ni:Cu:Fe=1:(1−x−y):x:yである原料(0<x、0<y、x+y<1)を1200℃以下の温度、好ましくは酸素雰囲気中1200℃以下の温度で焼成する焼成工程を含む製造方法によって、製造可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電極材料は、高温かつ大気下で用いられる電極に用いることのできる材料として適した導電性と熱膨張率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料電池セルの一例の断面図である。
【図2】実施例E1で得られた試料のXRD結果である。
【図3】実施例E1〜E23及び比較例A1〜A6の組成図であり、図中には、各例における試料の熱膨張率及び750℃での導電率が併せて示される。
【図4】実施例F1〜F23及び比較例D1〜D7の組成図であり、図中には、各例における試料の熱膨張率及び750℃での導電率が併せて示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.電極材料>
本発明の電極材料は、LaNi1−x−yCuFe3―δで表される成分を含有する。
x及びyは、x>0、y>0、x+y<1で表される。
【0018】
この材料は、高い導電率及び低い熱膨張率の両方を実現することができる。具体的には、酸素雰囲気中で焼成された場合の材料の導電率は、750℃において、800S/cm以上であってもよく、850S/cm以上であってもよく、880S/cm以上であってもよい。酸素雰囲気中で焼成された場合の材料の熱膨張率は、14.0以下であってもよく、13.5ppm/K以下であってもよい。また、大気雰囲気中で焼成した場合、この材料の導電率は、750℃において、800S/cm以上であってもよく、850S/cm以上であってもよく、880S/cm以上であってもよい。また、大気雰囲気中で焼成した場合の材料の熱膨張率は、好ましくは14.5ppm/K以下である。
【0019】
このような導電率及び熱膨張率を実現するために、x≧0.05であってもよく、x≦0.5であってもよく、0.05≦x≦0.5であってもよく、0.1≦x≦0.5であってもよい。また、y≧0.03であってもよく、y≦0.3であってもよく、0.03≦y≦0.3であってもよく、0.03≦y≦0.2であってもよい。また、δ≦0.4であることが好ましく、δ≧0.0であることが好ましく、0.0≦δ≦0.4であることがさらに好ましい。
【0020】
x≧0.05であることで、より高い導電率が得られる。x≦0.5であることで、さらに高い導電率が得られる。
【0021】
また、y≧0.03であることで、熱膨張率が低く抑えられる。y≦0.3であることで、高い導電率が得られる。
また、δ≦0.4であることで、より高い導電率が得られる。δ<0.0であっても良いが、作製時の酸素分圧を高圧する必要がありコストがかかるため、δ≧0.0であることがより好ましい。
【0022】
高い導電率及び低い熱膨張率の両方を有するので、この材料は、燃料電池に用いられる材料として好適であり、特に燃料電池の電極を形成する材料として好適である。なお、“電極”とは、空気極、燃料極だけでなく、集電層を含む概念である。
【0023】
さらに、この材料はPt等の高価な原料を必須成分として含まない。そのため、安価な電極材料として利用可能である。
【0024】
また、この材料の結晶相は、ペロブスカイト型結晶相を含有することが好ましく、ペロブスカイト単相であることが好ましい。これによって、より高い導電率が実現される。
通常、LaNiOにおけるNiは全て3価である。しかし、一部のNiが2価となる場合がある。2価のNiに由来する異相は、一般式Lan+1Ni3n+1(ただし、nは1、2又は3)で表される。例えばn=3であれば、異相はLaNi10で表され、4個のLa3++2個のNi3++1個のNi2+を含む。電極材料中に異相が存在しない、または存在比が小さい方が、高い導電率が得られる。異相は、XRD(X線回折)において、31.2°〜32.3°にピークを示す。よって、この位置のピークが見られないか、ピークが小さいことが、高い導電率を実現するには好ましい。
また、この材料の結晶相は、ペロブスカイト型結晶相を含有することが好ましく、ペロブスカイト単相であることが好ましい。これによって、より高い導電率が実現される。
【0025】
<2.燃料電池セル>
上記<1.>欄の材料は、電極の形成に用いられる。以下、この材料が集電層として利用されている燃料電池について説明する。
【0026】
本実施形態に係る燃料電池は、図1に示す燃料電池セル1(以下、単に「セル」と称される)と、図示しないインターコネクタとを備える。複数のセル1は積層され、インターコネクタはセル1間に配置される。セル1は、インターコネクタによって、互いに電気的に接続される。
【0027】
セル1は、厚みが0.5〜5mm程度のセラミック薄板である。図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池セル1は、燃料極11、電解質層(固体電解質層)12、空気極13、集電層14を備える。
【0028】
燃料極11の材料としては、例えばNiO−YSZが挙げられる。燃料極11の厚みは、具体的には0.5〜5mm程度である。なお、NiOを含む燃料極11は、還元処理を受けることで導電性を獲得する。
【0029】
電解質層12は、空気極13と燃料極11との間に設けられる。電解質層12の材料としては、例えば、セリア及びセリアに固溶した希土類元素で構成されるセリア系材料が挙げられる。セリア系材料として、例えば、GDC(ガドニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。セリア系材料における希土類元素の濃度は、好ましくは5〜20mol%である。また、希土類安定化ジルコニアも考えられる。
【0030】
また、電解質層12の厚みは、例えば20μm以下である。
【0031】
空気極13の材料としては、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)が挙げられる。空気極13の厚みは、例えば5〜50μm程度である。
【0032】
集電層14は、上述の電極材料を含む。集電層14の厚みは、例えば5〜200μm程度である。集電層14は、例えば、シート状に加工された上述の電極材料を空気極13上に圧着して得られた成形体を焼成することによって作製される。
【0033】
なお、セル1は、さらに他の層等の構成要素を備えてもよいし、各構成要素の形状、材料、寸法等は、変更可能である。
【0034】
<3.電極材料の製造方法>
上記<1.>欄の電極材料の製造方法は、La、Ni、Cu及びFeを含み、La、Ni、Cu及びFeのモル比がLa:Ni:Cu:Fe=1:(1−x−y):x:yである原料を1200℃以下の温度で焼成すること(焼成工程)を含む。この製造方法は、La、Ni、Cu,Feをこの比率で含有する原料を準備することを含んでいてもよい。
【0035】
なお、焼成工程に用いられる原料は、上述の金属の酸化物粉末及び/又は水酸化物粉末を混合することによって得てもよいし、金属アルコキシド若しくは金属硝酸塩を出発材料とする共沈法又は液相合成法によって得てもよい。
【0036】
x、y及びδの好適な範囲については上述したとおりである。すなわち、原料は、La、Ni、Cu及びFeのモル比がLa:Ni:Cu:Fe=1:0.2〜0.92:0.05〜0.5:0.03〜0.3となるように調製されることが好ましい。Ni及びCuは大気中及び高温下で還元されやすい。そのため、本物質の製造においては、δを好適な範囲に調整するために、焼成工程は1200℃以下で行われることが好ましく、焼成工程は、酸素雰囲気中かつ1200℃以下で行われることがより好ましい。
【0037】
また、焼成工程は、1つの処理とみなされてもよいし、温度条件の異なる2つ以上の熱処理を含んでもよい。これらの処理のうちの少なくとも1つの処理において、上述の原料が1100℃以上の温度で熱処理されてもよい。焼成工程は、温度条件が1100℃未満に設定された熱処理を含んでいてもよい。なお、いずれの熱処理においても温度条件は1200℃以下に設定可能である。Feは反応性が比較的低いが、原料が1100℃以上で熱処理されることで、単相のペロブスカイト構造が得られやすい。
【0038】
また、焼成工程の前に、1100℃以上で原料を仮焼する仮焼工程が行われてもよい。仮焼処理が行われる場合に、焼成工程における温度は1100℃未満であってもよい。また、仮焼工程も1200℃以下で行われてもよい。
【0039】
ただし、原料の粒径及びその他の条件に応じて、焼成の温度条件、焼成にかかる時間等は、変更される。
【実施例】
【0040】
[試料の作製及び特性の測定]
i.実施例E1〜E23(酸素雰囲気焼成)
LaNiO3―δにおいて、Fe及びCuを用いた同時置換を行った。Cu元素及びFe元素の比率を変えて、得られる試料の特性を調べた。
【0041】
(i-1)試料の作製
水酸化ランタン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化鉄粉末を110℃で12時間乾燥させた後、表1に示す所定のモル比で秤量した。
【0042】
これらを水媒体にて、湿式混合した後、乾燥させた。その後、篩を通すことにより混合粉体を作製した。
【0043】
次いで、混合粉体を蓋つきのアルミナ坩堝に入れた後、酸素雰囲気中かつ表1に示す所定の仮焼温度で12時間熱処理することにより、固相反応を行い、それぞれペロブスカイト相の仮焼粉末を得た。実施例1における仮焼粉末のXRDを、図2に示す。
【0044】
仮焼粉末を粉砕し、一軸プレスを行った後、CIP(Cold Isostatic Press)によって、成型体を得た。
【0045】
次いで、成型体を蓋つきのアルミナ鞘中に静置した後、酸素雰囲気中かつ表1に示す所定の焼成温度で12時間熱処理することにより、焼結体を得た(実施例E1〜E23)。
【0046】
(i-2)特性の測定
(密度)
焼結体の密度を寸法と密度から算出した、結果は表1に示す通りであった。
【0047】
(導電率)
焼結体から3×4×40mmの試験片を切り出し、直流四端子法にて、大気中で、600〜900℃における焼結体の導電率を測定した。なお、導電率は、焼成体の組成比だけでなく密度にも依存するので、Meredithらの式を元に、山田悦郎著「資源と素材」vol119, No1, p1-8 (2003)を参考にして導出した下記式(1)によって、測定値の密度に依存する部分を補正した。
式(1):λe=((2+0.5φv)×(2−0.5φv))/((2−φv)×(2−2φv))×λc
測定値=λc、
補正後の導電率=λe、
(1−密度)=φv
補正後の導電率は、表1に示す通りであった。
【0048】
(熱膨張率)
焼成体から3×4×20mmの試験片を切り出し、熱膨張率測定装置により、大気中で、40〜1000℃における焼結体の熱膨張率を測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0049】
(酸素不定比量)
一部の実施例については、焼成体の一部を乳鉢にて粉砕して化学分析を行った。得られた元素の重量比から構成元素のモル比及び酸素不定比量δを計算した。結果は表7に示すとおりであった。
【0050】
ii.比較例A1〜A6
LaNiO3―δに対して、Fe又はCuによる置換を行い、酸素雰囲気中での焼成を行った。つまり、Cu元素及びFe元素の比率は、実施例とは異なり、x又はyが0(ゼロ)になるように設定された。
【0051】
具体的には、原料比及びその他の条件を表2の通りとした以外は、上記i.欄(酸素雰囲気)と同様の操作を行って、試料を得ると共に、その特性を測定した。結果は表2の通りであった。
【0052】
iii.比較例B1〜B3
以下の比較例では、同時置換においてCo(コバルト)及びFeを用いて、焼成体を得た。本比較例において、試料の組成は、LaNi1−a−bFeCo3―δで表される。
【0053】
具体的には、原料として水酸化ランタン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄粉末を用い、原料比及びその他の条件を表3の通りとした以外は、上記i.欄(酸素雰囲気焼成)と同様の操作によって、試料を得ると共に、その特性を測定した。結果は表3の通りであった。
【0054】
iv.比較例C1〜C4
以下の比較例では、同時置換においてアルカリ土類金属であるSr(ストロンチウム)及びFeを用いて、焼成体を得た。得られた焼成体の組成は、La1−cSrNi1−a−bFeCo3―δで表される。
【0055】
具体的には、水酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄粉末を用い、原料比及びその他の条件を表4の通りとした以外は、上記i.欄(酸素雰囲気焼成)と同様の操作によって、試料を得ると共に、その特性を測定した。結果は表4の通りであった。
【0056】
v.実施例F1〜F23(大気雰囲気焼成)
水酸化ランタン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化鉄粉末を用い、原料比及びその他の条件を表5の通りとして、試料を得ると共に、その特性を測定した。特に、これらの実施例では、大気雰囲気中かつ表5に示す所定の焼成温度で1時間熱処理することで、焼成を実施した。表5に示す条件以外は、上記i.欄(酸素雰囲気焼成)と同様の操作を行った。結果は表5の通りであった。
【0057】
vi.比較例D1〜D7
実施例F1〜F23と同様に、LaNiO3―δに対して、Fe及びCuを用いた同時置換を行い、大気雰囲気中で焼成した。Cu元素及びFe元素の比率は、実施例とは異なり、x又はyが0(ゼロ)になるように設定された。具体的には、原料比及びその他の条件を表6の通りとした以外は、上記i.欄(酸素雰囲気焼成)と同様の操作を行って、試料を得ると共に、その特性を測定した。結果は表6の通りであった。
【0058】
[結果]
図2に示す通り、実施例E1の焼成体の結晶相は、ペロブスカイト単相であった。また、図示しないが、いずれの実施例E1〜E23、及びF1〜F23、比較例A1〜A6、B1〜B3、C1〜C4、及びD1〜D7においても、結晶相はペロブスカイト単相であった。
【0059】
表1に示す通り、酸素雰囲気中で焼成した実施例E1〜E23では、900℃という高温下でも、680S/cm以上の比較的大きな導電率が得られ、特に750℃では800S/cm以上の導電率が実現された。また、実施例E1〜E23では、14.0ppm/K以下の熱膨張率が実現された。
【0060】
次に、比較例A1〜A6、B1〜B3,及びC1〜C4の結果を参照する(表2〜表4)。これらの比較例は、実施例E1〜E23と同じく酸素雰囲気中で焼成された。ただし、実施例E1〜E23とは異なり、比較例A1〜A6はCu又はFeの単独置換であり、Cu及びFeの同時置換はされていない。
【0061】
表2に示す通り、CuもFeも含まないLaNiO3―δは、導電性が低く、熱膨張率が高かった(比較例A1)。
【0062】
また、Cu単独置換によると(比較例A4〜A6、図3)、表2に示す通り、0.05≦x≦0.2において、比較的高い導電率が得られたものの、熱膨張率が高かった。また、x=0.5において、導電率が著しく小さく、熱膨張率がさらに高くなった。この導電率の低下の原因は、酸素が試料中から抜けることで、キャリアの易動度(mobility)が低下すること、及び試料中の酸素が抜けることで多くのCuが2価になった結果、キャリア濃度が低下したこと、であると考えられる。熱膨張率が高くなったのは、高温で酸素が抜けて体積が増加したからであると考えられる。
【0063】
Fe単独置換によると(比較例A2〜A3、図3)、表2に示す通り、0.3≦y≦0.5において、熱膨張率は低く抑えられた。しかしながら、置換量が多いほど導電率が小さかった。この導電率の低下は、Fe置換のみではCuが存在しないことからキャリア濃度が低下する、もしくはキャリアの易動度(mobility)が低下する、あるいは両方が起こるためと考えられる。
【0064】
表3に示すように、Fe及びCoの同時置換(比較例B1〜B3)では、導電率の向上はほとんど見られなかった。また、これらの比較例では、熱膨張率が大きく、電極材料として好ましい特性は得られなかった。
【0065】
表4に示すように、Sr、Fe、及びCoの同時置換(比較例C1〜C4)では、導電率が非常に低く、熱膨張率は高かった。
【0066】
以上に述べたように、酸素雰囲気中で焼成した実施例E1〜E23では、Fe又はCuの単独置換(比較例A1〜A6)、Fe及びCo(比較例B1〜B3)、Fe、Co、及びSr(比較例C1〜C4)による同時置換と比較して、導電率及び熱膨張率の両面で電極材料として適した物質を得ることができた。
【0067】
次に、大気雰囲気中で焼成した試料について、検討する。
表5に示す通り、大気雰囲気中で焼成した実施例F1〜F23では、900℃という高温下でも、680S/cm以上の比較的大きな導電率が得られ、特に750℃では800S/cm以上の導電率が実現された。また、実施例F1〜F23では、熱膨張率は14.5ppm/K以下、特に14.4ppm/K以下の熱膨張率が実現された。
【0068】
これに対して、表6に示す通り、CuもFeも含まないLaNiO3―δは、大気雰囲気で焼成されることで、導電性が低下した(比較例D1)。
【0069】
また、Cu単独置換によると(比較例D4〜D7、図4)、大気雰囲気で焼成すると、表6に示す通り、導電率が著しく低下した。この導電率の低下は、Feを含まないために焼成中に試料の酸素が抜けてしまい、キャリア濃度とキャリアの易動度(mobility)が低下したためであると考えられる。
【0070】
なお、大気中で焼成した実施例F1〜F23は、Fe及びCo(比較例B1〜B3)、並びにFe、Co及びSr(比較例C1〜C4)による同時置換と比較しても、導電率又は熱膨張率、あるいは導電率及び熱膨張率の両面で、電極材料として優れた特性を示した。
【0071】
以上の説明から明らかであるように、組成がLaNi1-x-yCuFe3―δである材料(実施例E1〜E23,F1〜F23)は、燃料電池に用いられる電極材料として良い特性を示した。つまり、Cu及びFeによる同時置換によって、熱膨張率及び導電率の両方で、燃料電池の電極材料として好ましい特性が得られた。
【0072】
このように優れた特性が得られた理由について、考察する。
【0073】
おそらく、LaNi1-x-yCuFe3―δでは、Niがより電子の多い3価のCuで置換されることによってキャリア濃度が増加し、導電率が向上していると考えられる。
【0074】
一般に、Cuで置換するのみでは、高温の大気中において試料中の酸素が抜けてCuが2価になるので、キャリア濃度が十分に増加することは難しいと考えられる。しかし、同時に置換したFeのギブスエネルギーは、NiやCuのギブスエネルギーより低いので、Feによる同時置換が、試料中から酸素が抜けることを抑制していると考えられる。このため、LaNi1-x-yCuFe3―δにおいてはNiを3価のCuでより多く置換することが可能になると考えられる。
【0075】
一般に、ペロブスカイトの結晶構造を持つ電極材料では、電子が酸素を介して移動するので、酸素が抜けることで欠損が生成されると、キャリアの易動度(mobility)が低下することが懸念される。実施例の材料系においては、おそらく、Feの同時置換により酸素が抜けることが抑制されることでキャリアの易動度(mobility)が維持されるので、大気中及び高温下という、特に酸素が抜け易い条件下における導電率の低下が抑制されていると考えられる。
【0076】
また、ペロブスカイトの結晶構造を持つ材料は、酸素の欠損が生成すると、材料を構成する原子間の距離が広がることで、体積が膨張すると予想される。実施例の材料系においては、おそらく、Feによって、特に酸素が抜け易い大気中かつ高温条件下で酸素が抜けることが抑制されることで、試料と外界とで酸素の出入りが少なくなった結果、熱膨張率が低下すると考えられる。
【0077】
また、酸素不定比量を示すδが小さいほど、3価のCuが生成されることで、キャリア濃度が増し、導電率は上がると考えられる。また、ペロブスカイトを構成する原子の欠損がない完全結晶に近いほど試料中のキャリアの易動度(mobility)が増し、導電率は上がると考えられる。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【符号の説明】
【0085】
1 燃料電池セル
11 燃料極
12 電解質層
13 空気極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaNi1−x−yCuFe3―δ(x>0、y>0、x+y<1)で表される成分を含有する電極材料。
【請求項2】
ペロブスカイト型結晶相を有する、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
x≧0.05である請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
x≦0.5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
y≧0.03である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項6】
y≦0.3である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項7】
δ≧0.0である請求項1〜6のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項8】
δ≦0.4である請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項9】
750℃における導電率が、800S/cmである請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項10】
熱膨張率が14.5ppm/K以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項11】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と、
前記空気極上で前記固体電解質とは逆側に設けられ、請求項1〜10のいずれかに記載の電極材料を含む集電層と、
を備える燃料電池セル。
【請求項12】
La、Ni、Cu及びFeを含み、かつ、La、Ni、Cu及びFeのモル比がLa:Ni:Cu:Fe=1:(1−x−y):x:yである原料(0<x、0<y、x+y<1)を1200℃以下の温度で焼成する焼成工程
を含む金属酸化物の製造方法。
【請求項13】
前記焼成工程における焼成雰囲気が酸素雰囲気である、
請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記焼成工程は、1100℃以上での原料の熱処理を含む、
請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程の前に、1100℃以上で前記原料を熱処理する仮焼工程
を含む請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程の前に、1100℃以上で前記原料を熱処理する仮焼工程を含み、
前記焼成工程は、1100℃未満の温度で行われる、
請求項12又は13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−169240(P2012−169240A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50537(P2011−50537)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【特許番号】特許第4995327号(P4995327)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】