説明

電極材料および電極材料の製造方法

【課題】リチウムイオン二次電池において、Siと、空隙を有する炭素とから構成される材料を負極活物質として用いることで、充放電時における活物質の膨張収縮に起因する種々の問題の発生を抑制し、かつ高容量を得る電極材料および電極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】Siを主成分とする金属と炭素質材料とからなる複合材料から構成されており、Siを主成分とする金属の粒子径が1〜50nmであり、その金属の含有量が30〜70重量%であり、複合材料のBET表面積が200m/g以上であり、1〜10nmの平均細孔径を有している。炭素とシリカとを主成分としてなるシリカ炭素複合体を合成し、しかる後に、シリカ炭素複合体を電気的に還元することで、炭素とSiとを主成分とする複合材料を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極材料に関し、特に、リチウムイオン二次電池において、負極活物質として好適な電極材料および電極材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題や地球温暖化を解決するために、グローバルな規模で二酸化炭素の発生量の低減が提案されている。自動車業界では、化石燃料であるガソリンや軽油の、いずれ来る資源の枯渇問題と二酸化炭素の排出ガス問題から、バイオ燃料や電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)が導入されつつあり、二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、EVやHEVの実用化のため、モータ駆動用の軽量でエネルギー密度が大きな二次電池の開発が活発化している。
【0003】
現在、軽量でエネルギー密度が大きな二次電池としてはリチウムイオン二次電池があり、携帯電話機やノートPCの電源として、比較的小型、小容量のものがすでに実用化されている。しかし、EVやHEVに搭載される二次電池としては、長時間の使用に耐えうる大容量化、軽量化、低価格化、小型化、安全性等が求められている。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEOD)の「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発」プロジェクトでは、2015年の開発目標を、EV用二次電池の性能で現在の1.5倍、コストで1/7とすることを明確化している。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、バインダを用いて正極活物質等を集電体の表面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を集電体の表面に塗布した負極とが、電解質を含む電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成が一般的であり、従来、リチウムイオン二次電池の負極を構成する負極活物質としては、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。
【0005】
黒鉛系の炭素材料を負極活物質として使用すると、リチウムイオンの炭素結晶中への吸蔵・放出により充放電反応が進行する。最も多くリチウムイオンを取り込む炭素化合物はLiCであり、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論重量容量密度は372mAh/gで、それ以上の容量密度が得られない。
【0006】
炭素より多量にリチウムを取り込むことが可能な、ケイ素やスズを負極活物質として用いた電池は、従来の炭素系負極材料と比較して高いエネルギー密度を達成可能であり、車両用電池の候補として期待されている。例えば、ケイ素(Si)は、充放電において1モルあたり4.4モルのリチウムイオンを吸蔵放出が可能である。このため、Li22Siにおいては、2000mAh/g以上と極めて大きい理論重量容量密度を有する。
【0007】
しかしながら、Siやスズなどの材料から構成された負極活物質は、充放電時における体積の膨張収縮が大きい。例えば、リチウムイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛では1.1倍であるのに対し、Siでは4.1倍にも達する。このように負極活物質が大きく膨張すると、活物質の割れや微粉末化、集電体と活物質との剥離等により、二次電池として十分なサイクル特性や寿命が得られないという問題がある。
【0008】
また、負極活物質としてリチウムと合金可能な金属と炭素との複合材料も提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この提案は、黒鉛の層間に金属をインターカレートする構成の為、サイクル特性は向上するが、重量容量密度を上げることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−250390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、リチウムイオン二次電池において、Siと、空隙を有する炭素とから構成される材料を負極活物質として用いることで、充放電時における活物質の膨張収縮に起因する種々の問題の発生を抑制し、かつ高容量を得る電極材料および電極材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、Siを主成分とする金属と炭素質材料とからなる複合材料から構成されており、前記金属の粒子径が1〜50nmであり、前記金属の含有量が30〜70重量%であり、前記複合材料のBET表面積が200m/g以上であり、1〜10nmの平均細孔径を有することを、特徴とする電極材料が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、炭素とシリカとを主成分としてなるシリカ炭素複合体を合成し、しかる後に、前記シリカ炭素複合体を電気的に還元することで、炭素とSiとを主成分とする複合材料を合成することを、特徴とする電極材料の製造方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、Siを含むアルコキシドと重合性有機物とを混合し、加熱重合させた後、重合物を加熱して炭化し、前記シリカ炭素複合体とする第1の工程と、前記第1の工程で得られた前記シリカ炭素複合体を、溶融塩を用いて電気化学的に還元する第2の工程と、前記第2の工程で得られた還元物を酸洗浄する第3の工程と、を有することを特徴とする電極材料の製造方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記シリカ炭素複合体の電気的な還元を、溶融塩を用いて500〜900℃で行なうことを、特徴とする電極材料の製造方法が得られる。
【0015】
更に、本発明によれば、前記溶融塩がCaCl2、KClまたはLiClから選択される1種以上の塩であることを、特徴とする電極材料の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シリカと炭素とのシリカ炭素複合体を合成し、そのシリカ炭素複合体を電気還元することで、粒子径が1〜50nmのナノサイズのSi粒子と、1〜10nmの平均細孔径を有する空隙を有する炭素との複合材料を電極材料として構成することで、負極活物質の膨張収縮に起因する種々の問題を解決し、サイクル特性が優れ、重量容量密度が大きな、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)に搭載可能なリチウムイオン二次電池の提供が可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法で使用される電気還元装置を示す断面模式図である。
【図3】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法の、電気還元前のシリカ炭素複合体、および、電圧0.68V、0.93V、1.28Vにて電気還元を行った後の複合材料のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法の、0.93V、1.28Vにて電気還元した複合材料、および、それらをフッ酸洗浄した後の複合材料のX線回折結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法の、フッ酸洗浄後の複合材料の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施の形態の電極材料の製造方法により得られた複合材料の細孔分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般的なリチウムイオン二次電池の構成部品は、正極活物質、負極活物質、集電体、セパレータ、電解液、外装ケースから成り、本発明は、負極活物質として好適な電極材料とその製造方法に関するものである。なお、本明細書において、「Siを主成分とする」とは、負極活物質の金属総質量に占めるSiの質量が50質量%以上であることを意味する。
【0019】
負極での充放電の反応性を向上させるためには、Siを主成分とする金属の粒子径が1〜50nmであることが好ましい。従来の製造方法では、1〜50nmサイズの粒子を合成しても電極製造過程で凝縮し、粒子サイズが1μm以上程度に大きくなってしまうが、本発明ではSi原料であるアルコキシドを重合法を用いて炭素中に高分散保持させた後に、Siへ還元することで、Siナノ粒子を炭素中に保持された状態で合成できるため、Si粒子の凝縮によるサイズ増加が抑制できる。
【0020】
また、電池の容量を向上させるためには、高容量活物質であるSiの含有量を多くする必要があり、30〜70重量%であることが好ましい。従来の製造方法では、炭素へシランガス等を用いてSiを蒸着させるため、Si含有量を10重量%以上増やすことが困難で、容量を大きくすることが困難であった。本発明では、出発物質のシリカ原料であるアルコキシドの割合を増やすことで、Si含有量を増やすことが可能であり、電池の高容量化が図れる。
【0021】
また、充放電のサイクル耐久性を向上させるためには、充放電過程でのSiの体積膨張を緩和するために、炭素中のSiの周りに空隙があることが好ましい。本発明の製造方法によると、炭素中でシリカがSiへ還元される際に、酸素が抜けるためにSi周りに空隙が形成され、200m/g以上のBET表面積と、1〜10nmに平均細孔径を有するSiと、炭素との複合材料が構成され、サイクル耐久性の向上が図れる。
【実施例1】
【0022】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明を適用した好適な実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態の電極材料の製造方法のフローを示す。Siを含むアルコキシドとしてTEOS(テトラエトキシシラン)と、重合性有機物としてフルフリルアルコールとを、炭化後のシリカと炭素との重量比が60:40となるように混合し、加熱重合して重合物とし、該重合物を炭化してシリカと炭素とのシリカ炭素複合体を得た。次にSUS製の密閉セルの内部にグラファイトのるつぼを入れ、この中に溶融塩であるCaClおよび電極をセットした。密閉セルは電気炉に入れ、300℃で真空乾燥を行い、塩浴を脱水し、その後アルゴンガスを流通させ、850℃まで温度を上げ、電圧0.68V、0.93V、1.28Vにて電気還元を行った。図2は、使用した電気還元装置の模式図を示す。
【0024】
図3は、電気還元前と電圧0.68V、0.93V、1.28Vにて電気還元を行った後のX線回折結果を示す。図3から、0.93Vの回折結果で、明らかに電気還元前には無かったSi相が認められる。更に、図4は、0.93V、1.28Vにて電気還元したものと、ガラス相成分を取り除くためフッ酸洗浄後のX線回折結果を示す。図4から、フッ酸洗浄前より、洗浄後のSiおよび炭素の回折パターンがより明確になっていることが明らかである。
【0025】
本発明のフッ酸洗浄の効果の原因は不明であるが、不純物が除去されることで、Siおよび炭素の回折効果がより強く得られると推定できる。図5は、フッ酸洗浄後の試料の透過電子顕微鏡像を示す。図5から、カーボンのマトリックス中に粒径約1〜10 nmのSi粒子が認められる。
【0026】
図6は、同試料の細孔分布の測定結果を示す。また、BET表面積を表1に示す。図5、図6、表1から、Siの粒子径が1〜50nmであり、BET表面積が200m/g以上であり、1〜10nmに平均細孔径を有することが明らかである。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを主成分とする金属と炭素質材料とからなる複合材料から構成されており、前記金属の粒子径が1〜50nmであり、前記金属の含有量が30〜70重量%であり、前記複合材料のBET表面積が200m/g以上であり、1〜10nmの平均細孔径を有することを、特徴とする電極材料。
【請求項2】
炭素とシリカとを主成分としてなるシリカ炭素複合体を合成し、しかる後に、前記シリカ炭素複合体を電気的に還元することで、炭素とSiとを主成分とする複合材料を合成することを、特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項3】
Siを含むアルコキシドと重合性有機物とを混合し、加熱重合させた後、重合物を加熱して炭化し、前記シリカ炭素複合体とする第1の工程と、
前記第1の工程で得られた前記シリカ炭素複合体を、溶融塩を用いて電気化学的に還元する第2の工程と、
前記第2の工程で得られた還元物を酸洗浄する第3の工程と、
を有することを特徴とする請求項2記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ炭素複合体の電気的な還元を、溶融塩を用いて500〜900℃で行なうことを、特徴とする請求項2または3記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩がCaCl2、KClまたはLiClから選択される1種以上の塩であることを、特徴とする請求項3または4記載の電極材料の製造方法。


【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−282942(P2010−282942A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137608(P2009−137608)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/鋳型法を利用した革新的リチウムイオン電池負極材料の開発研究に関する研究開発、委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】