説明

電極触媒およびこれを用いた燃料電池

【課題】 金属超微粒子を担持した新たな燃料電池用の触媒を提供する。
【解決手段】 本発明の電極触媒は、(a)微生物乾燥体からなる担体と、(b)前記担体に担持され、触媒活性を有する金属とを、含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒およびこれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、外部から燃料(還元剤)と、酸素または空気(酸化剤)とを連続的に供給し、電気化学的に反応させて電気エネルギーを取り出す装置である。燃料電池としてはアルカリ水溶液型、リン酸型、溶融炭素塩型、固体酸化物型、固体高分子電解質型などの形式が開発されている。これらの燃料電池のうち、固体高分子電解質型の燃料電池が、出力特性がよく、低い作動温度と共に迅速な始動性および応答性を有するので、注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型の燃料電池は、電気を実質的に発生させる膜・電極接合体とセパレータとからなる単位セルが複数個積層された構造を有する。前記膜・電極接合体は、高分子電解質膜を中心に、片面にアノード電極、他の片面にカソード電極が設けられ、3者が密着した構造である。
【0004】
固体高分子電解質型の燃料電池は、常温温度付近で作動する。このような低温で酸化および還元反応を行わせるため、上記両電極に貴金属などの触媒が必要とされる。
【0005】
一方、貴金属などは高価であるため、通常金属粒子を炭素担体などに担持させて触媒として使用する。触媒として高活性化させるためには、金属粒子の表面積を大きくする必要がある。このため、金属超微粒子の粒径を微小化することが試みられている。また、一般に、金属微粒子−担体の製造方法として、溶液中で、金属陽イオンを導電性カーボン微粒子に吸着させ、陽イオンを還元剤で還元して金属超微粒子を生成する方法が知られている。
【0006】
しかし、この方法では、金属陽イオンをカーボン微粒子に吸着させるために還元剤を用いる。還元剤により、カーボン粒子に吸着しない金属陽イオンが溶液中で還元される。このため、カーボン粒子に所望の金属を吸着させるためには、過剰の金属陽イオンを必要とし、収率が悪いという問題がある。一方、溶液中で還元された金属陽イオンが、カーボン微粒子に担持された金属核に凝集し、金属微粒子の粒経が大きくなるという問題もある。
【0007】
これらの問題を解決するために、例えば、金属陽イオンと共に溶液中にホウ素またはリンを添加して、金属超微粒子の粒径を小さくすることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。また、還元剤として水素ガスを用い、常温で徐々に還元する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかし、上記の方法では、両者とも還元剤を用いるので、収率が悪いという問題は残る。また、溶媒を除去しない場合は、残存する金属陽イオンが還元されるという問題も残る。このため、金属微粒子の粒経が大きくなるという問題も残る。また、ホウ素またはリンを添加する場合には、これらは揮発性でないため、除去が容易でないという問題がある。さらに、水素ガスは反応性が低いため、反応時間が長く、生産性に問題がある。
【0009】
このため、還元剤を用いずに、金属超微粒子を直接担体に担持して触媒を生産することも試みられている。金属超微粒子を溶液中で安定化させるために、界面活性剤などの安定化剤が必要とされる。例えば、安定化剤としてポリビニルアルコールを用いたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、界面活性剤などの安定化剤は、触媒活性の低下を起こすことが知られている。また、これらの安定化剤は、揮発性でなく、除去が容易でないという問題がある。
【特許文献1】特開2005−246380号公報
【特許文献2】特開2007−27096号公報
【特許文献2】特開昭56−155645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、金属超微粒子を担持した新たな燃料電池用の触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
燃料電池の触媒に用いる金属含有酸性溶液を、鉄還元細菌で処理すると、鉄還元細菌の表面にナノオーダーの金属微粒子が還元・析出する。本発明者らは、この金属微粒子が細胞表面に生成した細菌を乾燥した乾燥体を燃料電池用の触媒として利用できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0012】
本発明の電極触媒は、(a)微生物乾燥体からなる担体と、(b)前記担体に担持され、触媒活性を有する金属とを、含む。
【0013】
前記微生物乾燥体は、鉄還元細菌の乾燥体である。
【0014】
前記触媒活性を有する金属が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rd)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、およびオスミウム(Os)からなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。
【0015】
上記電極触媒を備えた燃料電池であると好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、従来鉄還元細菌を用いて還元した金属イオンを、金属を回収せずにそのまま電極触媒として用いる。この金属微粒子が表面に生成した細菌を乾燥した乾燥体を燃料電池用の触媒として用いると、従来の燃料電池用の触媒と同等の効果を有する。また、製造も、金属微粒子が表面に生成した細菌を乾燥すればよいので、操作も容易であり、安定化剤の除去なども必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、パラジウムイオンの微生物還元試験後の細胞のTEM写真である。
【図2】図2は、シワネラ オネイデンシスの細胞薄切片のTEM写真及びパラジウム元素マップを示す写真である。
【図3】図3は、エネルギー分散型X線分光(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)分析した結果を表すチャートである。
【図4】図4は、ギ酸ナトリウムを変えた場合のパラジウムの回収率を示すグラフである。
【図5】図5は、初期パラジウム濃度を変えた場合のシワネラ オネイデンシスの表面のTEM写真である。
【図6】図6は、初期パラジウム濃度を変えた場合のシワネラ オネイデンシスの表面のTEM写真と電流−電力曲線を示すグラフである。
【図7】図7は、初期Pd(II)イオン濃度が10mMの細胞乾燥体に炭素粉末を混合したものと、混合しないものの電流−電力曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[鉄還元細菌]
本発明で用いる鉄還元細菌は、電子供与体から電子の供給を受けて、鉄を還元できる細菌である。このような鉄還元細菌としては、例えば、ゲオバクター属(代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス、ATCC(American Type Culture Collection)53774株)、デスルフォモナス属(代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株)、デスルフォムサ属(代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株)、ペロバクター属(代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株)、シワネラ属(Shewanella algae:シワネラ アルゲ、(以下、「S. algae」という):ATCC51181株、Shewanella oneidensis:シワネラ オネイデンシス:(以下、「S.oneidensis」という)ATCC700550株)、フェリモナス属(Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株)、エアロモナス属(Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株)、スルフロスピリルム属(代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株)、ウォリネラ属(代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株)、デスルフォビブリオ属(代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株)、ゲオトリクス属(代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株)、デフェリバクター属(代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株)、ゲオビブリオ属(代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株)、ピロバクルム属(代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株)、テルモトガ属(代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株)、アルカエグロブス属(代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株)、ピロコックス属(代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株)、ピロディクティウム属(代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株)などが例示できる。これらの鉄還元細菌は、嫌気性細菌である。
【0019】
本発明で用いる鉄還元細菌は、当該細菌に適した培地を用いて、増殖・維持を行えばよい。例えばS.oneidensisは、TSB(Trypticase Soy Broth)培地で、S. algaeは、例えば、pHが7.0で、電子供与体として乳酸ナトリウム(32mol/m)が、電子受容体としてFe(III)イオン(56mol/m)が含まれている、クエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて、回分培養して増殖させ、維持する。使用する培地、使用する鉄還元細菌の種類により、適宜選択すればよい。
【0020】
[触媒金属]
本発明で、触媒として鉄還元細菌に生成させることのできる金属は、一般に燃料電池の触媒として使用することのできる金属である。例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rd)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、およびオスミウム(Os)などである。これらの金属は、通常貴金属、白金族に属する金属である。これらは、触媒活性が高く、安定性に優れ、触媒材料として広く用いられている。
【0021】
[微生物乾燥体の製造]
ナノ粒子の生成に用いる金属は、通常、上記金属の酸(塩酸、硫酸、硝酸など)との塩を溶解した水溶液として使用する。水溶液のpHは、7程度であればよい。
【0022】
本発明の電極触媒を製造するために用いる触媒活性を有する金属の水溶液中の初期濃度は、特に制限はなく、用いる鉄還元細菌の数、金属の種類によって適宜選択できる。例えば、1.0〜20.0mM、好ましくは10.0〜20.0mM程度である。
【0023】
本発明の電極触媒を製造するために用いる鉄還元細菌の数は、特に制限されない。一般的に細胞数が少ないほど、処理時間が長くなる。鉄還元細菌の数としては、例えば1.0×1014cells/m〜5.0×1016cells/m、好ましくは1.0×1015cells/m〜1.0×1016cells/m程度であればよい。
【0024】
本発明の電極触媒の製造において、触媒活性を有する金属の塩を水(蒸留水、イオン交換水、純水などを含む)に溶解させて金属イオン水溶液を得る。また、必要に応じて金属イオン水溶液のpHは水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸塩、またはアルカリ土類金属の水酸塩などを用いることで調整してもよい。鉄還元細菌の懸濁液の調製は、まず指数増殖末期に達した鉄還元細菌培養液を、窒素ガスにより嫌気状態にしたグローブボックス内で採取し、遠心分離機で集菌する。集菌した菌液を、緩衝液を用いて所定の濃度に調整する。
【0025】
調製した金属イオン水溶液と鉄還元細菌の懸濁液を嫌気性雰囲気、常温で混合し、スターラーなどによる攪拌などを行って金属イオンを還元し、細胞表面に金属微粒子を生成させる。
【0026】
また、鉄還元細菌は、鉄の還元を行う際には、電子供与体としてギ酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなどの有機酸塩や水素ガスを必要とする。電子供与体は、特に制限はなく、回収する金属の種類によって、適するものを選択すればよい。
【0027】
本発明の電極触媒の製造において、処理時間は特に制限はされない。処理効率を考えると、金属イオンの濃度と使用する鉄還元細菌の数を調整し、30分〜120分程度で細胞表面にほぼ均一に触媒活性を有する金属微粒子が生成するようにすればよい。
【0028】
本発明の電極触媒の製造において、回収されるのは、触媒活性を有する金属微粒子である。また、触媒活性を有する金属微粒子は、鉄還元細菌の表面にナノオーダー(例えば、一次粒子径の平均粒径約4〜7nm程度)の粒子状態で回収される。
【0029】
金属微粒子を生成させた細胞の表面において、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)により観察した場合に、平均粒径として約100nm以上の明らかな凝集塊が観察されない条件を選択すると好ましい。凝集塊を生ずると、触媒の表面積が減少し、電池特性が低下するからである。
【0030】
金属微粒子が表面に付着した鉄還元細菌は、遠心分離などで回収し、洗浄後乾燥する。乾燥は、例えば、30〜50℃で、6〜12時間程度である。
【0031】
上記のようにして得られた微生物乾燥体は、燃料電池の電極触媒として利用できる。燃料電池の電極触媒としては、1種の金属の微粒子を生成させた微生物乾燥体を使用してもよい。あるいは、1種の金属の微粒子を生成させた微生物乾燥体を複数種の金属で準備し、混合して用いることで、多元系金属の触媒として利用できる。また、1種の金属の微粒子を生成させた微生物乾燥体を複数種の金属で準備することで、各金属の混合量を調整することができる。
【0032】
燃料電池等に本発明の微生物乾燥体が利用されているかどうかの確認は、燃料電池の触媒部、あるいは電極触媒などを、公知の核酸抽出方法により核酸が抽出されるかどうかを確認することで行うことができる。あるいは抽出した核酸を核酸分析して、上記の鉄還元細菌の核酸配列を有するかどうかによっても確認することができる。
【0033】
(燃料電池)
本発明における燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用できる。典型的には、前記の膜・電極接合体をセパレータで挟持した構造を有する。膜・電極接合体を挟持するセパレータとしては、炭素板等のカーボン製、ステンレス等の金属製のものなど従来公知のものを用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有すものであるので、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。燃料電池が所望する電圧等を得ることができるように、セパレータを介して膜・電極接合体を複数積層して直列につないだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状等は、特に限定されなく、所望する電圧等などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。本発明の電極触媒は、このような構成を有する燃料電池のアノード電極、カソード電極のいずれかの電極として用いられる。
【0034】
本発明の電極触媒は、極めて簡易な操作で、短時間に製造することができる。また、その製造も、常温、常圧という穏やかな条件で行える。このようにして得られた電極触媒は、従来の電極触媒と同等以上の性能を有し、燃料電池の電極触媒として有用である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において、二塩化パラジウムをイオン交換水に溶解させて所定の濃度に調製して、パラジウム水溶液を調製した。
【0037】
鉄還元細菌(S. oneidensis)の懸濁液の調製は、まず指数増殖末期に達した鉄還元細菌培養液を、窒素ガスにより嫌気状態にしたグローブボックス内で採取し、遠心分離機で集菌した。鉄還元細菌培養液としては、TSB(Trypticase Soy Broth)培地7.5gをイオン交換水250mlに溶解したものを用いた。次に、集菌した菌液をイオン交換水で再懸濁し所定の濃度に調整した。
【0038】
以下の実施例において、細胞乾燥体の製造は以下のように行った。まず、バッフル付き三角フラスコを培養器として用いた。処理温度は、25℃であった。
【0039】
(微生物細菌体の製造例1)
還元細菌シワネラ オネイデンシス(S.oneidensis(ATCC 700550株)をTSB液体培地(30℃、pH 7.2)によって好気的に回分培養した。対数増殖期末期の細菌細胞を遠心分離して、KHPO/NaOH緩衝液(pH 7)で洗浄、再懸濁させ、細胞懸濁液を調製した。電子供与体(ギ酸Na)と細胞懸濁液をネジ口ガラス容器に仕込み、PdCl溶液を接種した。撹拌を行うものにおいては、攪拌しながら、PdCl溶液を接種した。超音波処理においては、約1分間超音波を照射した細胞懸濁液を用いた。実験条件は、嫌気的環境下、温度25℃、溶液pH 7.0、初期液相Pd(II)イオン濃度1mol/m、液相細胞濃度3.2×1015cells/mとした。PdCl溶液を接種して120分経過後の細胞を遠心分離装置(10000rpm、10分)で回収し、金属ナノ粒子が担持した細胞乾燥体を調製した。
【0040】
上記パラジウム生成試験後の細胞のTEM写真を、図1に示す。図1(a)は、撹拌を行ったもの、図1(b)は、細胞懸濁液を超音波処理したもの、図1(c)は、撹拌を行わなかったものの細胞のTEM写真を示す。攪拌処理を行わない場合(図1(c))と比較して攪拌処理を行った場合(図1(a))は多くの細胞に均一かつ高分散にナノオーダーのPd微粒子を析出していることがわかる。一方、超音波処理を行った場合(図1(b))においては細胞に均一にナノオーダーのPd微粒子を析出していないことがわかる。このことから、細胞に均一にナノオーダーのPd微粒子を析出させるためには、撹拌処理が必要なことがわかった。
【0041】
上記パラジウムを析出した、シワネラ オネイデンシスの細胞薄切片を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)により観察し、元素分析によりパラジウム元素マップの作成を行った。結果を図2に示す。図2は、シワネラ オネイデンシスの表面のTEM写真及びパラジウム元素マップを示す写真である。図2の左上側の写真は、TEMによるシワネラ オネイデンシスの表面の状態を示す写真である。この写真から、シワネラ オネイデンシスの細胞表面には、パラジウムの微粒子が多数観察されることがわかった。また、図2の右上の写真は、図2の左側の写真の細胞を元素分析して作製したパラジウム元素マップの写真である。これらから、図2の左上の写真において白色の粒子として確認される部分と、図2の右上の写真においてパラジウムの分布とが一致することがわかる。図2の下の写真は、図2の左上側の写真において四角で囲んだ部分を拡大したTEM写真である。この写真から、細胞表面(図中「1」)の部分と、ペリプラズム空間(図中「2」)にパラジウムが析出していることがわかる。
【0042】
次に、パラジウムを回収した後のシワネラ オネイデンシスの細胞表面部分とペリプラズム空間のTEM像から、エネルギー分散型X線分光(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)分析した。図3は、図2のシワネラ オネイデンシスの細胞表面(図2「1」)部分(図3上)とペリプラズム空間(図2「2」)(図3下)のEDX分析した結果を表すチャートである。図3から、シワネラ オネイデンシスの細胞表面、ペリプラズム空間に析出した粒子には、Pdによるピークが見られることがわかる。すなわち、生成粒子はPdで構成されていることがわかった。ここで、炭素や酸素によるピークは微生物由来の有機物による影響であり、また、銅やオスミウムによるピークは測定時におけるグリットおよび染色による影響である。
【0043】
これらから、粒子径が4〜7nm程度のPdナノ粒子の生成場は主に細胞膜と細胞壁の間のペリプラズム空間であることがわかる。このように、Pdナノ粒子が細胞表面近傍に存在することから触媒としての利用に有利であることがわかった。
【0044】
(パラジウム析出におけるギ酸ナトリウムの影響)
液相細胞濃度:6.7×1015cells/m、初期パラジウム濃度:1.0mMの培養液中で、ギ酸ナトリウムの濃度を、20mol/m、50mol/m、200mol/mとしたものを用いて、パラジウムの析出を評価した。対照実験としてギ酸ナトリウムの濃度を、200mol/mとし、シワネラ オネイデンシスを加えなかったものを用いた。結果を図4に示す。図4において、▲は、シワネラ オネイデンシス静止細胞接種(ギ酸Na濃度:20mol/m)、▼は、シワネラ オネイデンシス静止細胞接種(ギ酸Na濃度:50mol/m)、●は、シワネラ オネイデンシス静止細胞接種(ギ酸Na濃度:200mol/m)、×は、無菌対照実験(ギ酸Na濃度:200mol/m)をそれぞれ示す。また、横軸は、反応時間(分)(図中、「time(min)」)、縦軸は、溶液中のPd(II)濃度(mol/m)を示す。
【0045】
図4から、ギ酸ナトリウム濃度の増加に伴い、60分後における還元率も増加していることがわかる。さらに、60分後の還元率と液相細胞濃度から単位細胞当たりのPd回収量を求めると、ギ酸ナトリウム濃度が20,50,200mol/mにおいてそれぞれ、0.726×10−11mg/cell、1.18×10−11mg/cell、1.54×10−11mg/cellとなり、ギ酸ナトリウム濃度の増加に伴い、単位細胞あたりのPd回収量も増加していることがわかった。
【0046】
(パラジウム析出における初期Pd(II)イオン濃度の影響)
液相細胞濃度:5.9×1015cells/m、ギ酸ナトリウムの濃度:50mol/mの培養液中で、初期パラジウム濃度を1.0mM、5mM、10mM、20mM、としたものを用いて、パラジウムの析出を行った。120分経過後の各初期パラジウム濃度で処理した細胞上に析出したPd微粒子を観察した。結果を図5に示す。図5から、初期Pd(II)イオン濃度が1.00mMにおいてはPd微粒子が充分に析出していないことがわかる。また、初期Pd(II)イオン濃度が5mMにおいてはPd微粒子が凝集しているのに対し、初期Pd(II)イオン濃度を10mMの場合は、粒子径5nm程度のPd微粒子が高分散かつ高密度に析出することがわかった。また、初期Pd(II)イオン濃度が20.0mMにおいては、Pd微粒子が更に高密度に生成し、一部、凝集体が存在することが確認された。これらの結果から、初期Pd(II)イオン濃度の選択することで、Pd微粒子が高分散かつ高密度に析出し、しかも凝集塊を生じないことがわかる。
【0047】
以上の結果から、液相細胞濃度、電子供与体濃度、初期Pd(II)イオン濃度を適宜選択すると、細胞表面に、Pd微粒子を高分散かつ高密度に析出させて、しかも凝集塊を生じさせないことができることがわかる。
【0048】
(電池特性の評価)
液相細胞濃度:5.9×1015cells/m、ギ酸ナトリウムの濃度:50mol/mの培養液中で、初期パラジウム濃度を2.5mM、5mM、10mM、20mM、としたものを用いて、Pd微粒子を析出した細胞を乾燥させ(50℃の乾燥器で、6時間)、微生物乾燥体を得た。この微生物乾燥体を電極触媒として用いて、燃料電池特性を評価した。
【0049】
(電流−電極曲線)
燃料電池用電極のアノードインクは、市販のカーボン担持Pd粒子触媒(パラジウム−活性炭素(Pd 10%))および細胞担持Pdナノ粒子触媒をそれぞれ金属量で8mg測りとり、炭素粉末72mg、10%ナフィオン液1.0ml、水0.4mlと混合することで調製した。カソードインクには、燃料電池用Pt触媒インクを用いた。調製したアノードおよびカソードインクをナフィオン膜に均一に塗布し、乾燥後、テフロン(登録商標)コートされたカーボンペーパーと接合しMEA電極を作製した。その時の触媒量はアノード電極で1.28mg−Pd/cm、カソード電極では0.16mg−Pt/cmとした。また触媒活性面積は、6.25cmとした。評価方法は、燃料(アノード)極側に水素を300ml/minで供給し抵抗Rを変化させながら、電流Iと電圧Vを測定し、電力密度を求めた。
【0050】
結果を図6に示す。図6のグラフにおいて、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は、電力密度(mW/cm)を示す。図6から、粒子径5nm程度のPd微粒子が高分散かつ高密度に析出し、凝集塊を生じていない初期Pd(II)イオン濃度が10mMのもの(4.78mW/cm)が、もっとも電池特性に優れ、市販のPd電極触媒(5.34mW/cm)(パラジウム−活性炭素(Pd 10%),和光純薬工業株式会社製)とほぼ同等(約90%)であることがわかる。Pd微粒子が充分に析出していないが、凝集塊を生じていない、初期パラジウム濃度が2.5mMのもの(1.64mW/cm)は、初期Pd(II)イオン濃度が10mMのものよりは、電気特性が劣ることがわかる。また、凝集塊を生じた初期Pd(II)イオン濃度が5mMの場合(0.626mW/cm)は、最も電気特性が劣っていることがわかる。さらに、高密度にPd微粒子が析出しているが、部分的に凝集塊を生じている初期Pd(II)イオン濃度が20mMのもの(3.27mW/cm)は、初期Pd(II)イオン濃度が10mMのものよりは、電気特性が劣ることがわかる。以上から、Pd微粒子が高分散かつ高密度に析出し、凝集塊を生じていない細胞の乾燥体が電極触媒として優れることが判る。
【0051】
上記初期Pd(II)イオン濃度が10mMの細胞乾燥体に炭素粉末を混合したものと、混合しないものを用いて、上記と同様に、電池特性評価をした。結果を図7に示す。図7のグラフにおいて、横軸は電流密度(mA/cm)を、縦軸は、電力密度(mW/cm)を示す。図7から、細胞乾燥体に混合した。細胞乾燥体に炭素粉末を混合しても(4.78mW/cm)、しなくて(4.66mW/cm)も同等の性能が得られることがわかった。このことから、本実施例の細胞乾燥体は、燃料電池の電極触媒として利用できることがわかる。
【0052】
(触媒有効表面積の評価)
サイクリックボルタンメトリー(CV)(ALS1200A ハンドヘルド電気化学アナライザー(ビーエーエス株式会社製))を用い、市販のPd電極触媒と上記初期Pd(II)イオン濃度が2.5、5、10、20mMの細胞乾燥体の触媒有効表面積を測定した。作用電極には、細胞担持Pdナノ粒子をエタノール水溶液中に分散し、グラッシーカーボン上に0.02
mg/cmとなるように滴下して乾燥させたものを使用した。また、参照電極としてAg/AgCl電極、対電極として白金線を使用した。CV測定は、溶存酸素を窒素ガスで除去した1M HSO水溶液を電解溶液とし、電位走査範囲を−0.3〜1.2V、スイープ速度を50mV/sで行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、細胞表面のPdの比表面積が大きいほど、最大電力が大きいことがわかる。このことから、細胞表面に生成するナノ粒子の比表面積が大きくなる条件を選択すればよいことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微生物乾燥体からなる担体と、(b)前記担体に担持され、触媒活性を有する金属とを、
含む電極触媒。
【請求項2】
前記微生物乾燥体は、鉄還元細菌の乾燥体である、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記触媒活性を有する金属が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rd)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、およびオスミウム(Os)からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1または2に記載の電極触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電極触媒を備えた燃料電池。






【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−113788(P2011−113788A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268556(P2009−268556)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】