説明

電気・電子部品のヒューズ用の材料

【解決課題】本発明は、加工性、電気抵抗が改善され、且つ、350〜360℃の融点を有するヒューズ用の材料を提供すること。
【解決手段】本発明は、Au−Ge−Si三元系合金からなり、これらの元素の重量濃度は、三元系状態図におけるA点(Au:95.9%、Ge:4%、Si:0.1%)、B点(Au:79.9%、Ge:20%、Si:0.1%)、C点(Au:98.4%、Ge:0.1%、Si:1.5%)、D点(Au:93.9%、Ge:0.1%、Si:6%)を頂点とする多角形の領域内にあるヒューズ用の材料である。本発明に係る材料は、加工性が良好であり、電気抵抗も適度に高いことから、電流ヒューズ用途として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサー等の電気・電子部品に内蔵されるヒューズのエレメントを構成する材料に関する。詳しくは、その融点がヒューズ用途において好ましい範囲内にあり、更に加工性に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサー等の電気・電子部品に内蔵されるヒューズは、過電流が流れた際にそのエレメントがジュール熱により溶断することで通電を遮断するようになっている。そして、このような機能を考慮して、エレメントを構成する材料には適切な範囲、具体的には融点が300〜360℃の範囲内にあることが求められる。エレメントの融点が高い場合、ヒューズの作動温度も高温となるが、それでは電子部品が実装された回路基板を損傷させることとなるため、ヒューズ本来の保護装置として作用が期待できなくなるからである。
【0003】
従来、ヒューズ用の材料としては、Sn−Pb系合金が広く使用されてきたが、近年になってPdフリーの材料の適用が求められており、この要求に応える材料として、Au−20重量%Sn合金、Au−3.15重量%Si合金等の適用が検討されている。
【特許文献1】特開2001−28228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Au−20重量%Sn合金は、融点については上記範囲内にあるものの、加工性に乏しいという問題がある。ヒューズのエレメントは、細線形状、薄板形状等の微小サイズへ加工することが必要となり、加工性に乏しい材料では断線、割れが生じ易く歩留まりが低下する。特に、最近の電子部材においては、小型化の要求が強く、これに追従するために実装ざれるヒューズについても細線化、薄肉化が必要であることから、加工性の良好な材料が望まれる。
【0005】
また、Au−3.15重量%Si合金は、実際には融点が上記範囲より若干高く、360℃をやや超えるものであり、積極的に使用できるものではない。更に、この合金は、電気抵抗が低く過電流が流れた際において溶断が遅れる傾向があり、ヒューズとしての機能に問題がある。
【0006】
以上のように、従来のヒューズ用の材料は、使用できない程の大きな問題はないものの、今後のニーズ等を考慮すれば改善が望まれている。そこで、本発明は、加工性、電気抵抗が改善され、且つ、好適範囲(具体的には350〜360℃付近)の融点を有するヒューズ用の材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく検討を行い、Au、Ge、Siを含む三元系合金であって、所定の組成範囲を有する合金を見出し、本発明に想到した。
【0008】
即ち、本発明は、Au−Ge−Si三元系合金からなり、これらの元素の重量濃度は、三元系状態図におけるAA点(Au:95.9%、Ge:4%、Si:0.1%)、B点(Au:79.9%、Ge:20%、Si:0.1%)、C点(Au:98.4%、Ge:0.1%、Si:1.5%)、D点(Au:93.9%、Ge:0.1%、Si:6%)を頂点とする多角形の領域内の比率であるヒューズ用の材料である。
【0009】
本発明に係る材料の組成を示す三元系状態図を図1に示す。本発明で三元系合金を適用するのは、Ge、Siの2つの元素をAuに同時添加することで、従来のAu二元系合金よりも効果的に融点を低下させることができるからである。そして、Ge、Siの添加量を上記領域内の範囲にすることでその融点を好適な範囲内に収めることができる。また、本発明では、Ge、Siの合計添加量を20重量%未満に制限する。融点を調整する手法として合金に添加する元素の含有率が上昇させることも考えられるが、その場合、加工性に影響を及ぼすおそれがある。本発明における添加元素であるGe、Siは、少ない添加量で融点を制御することができ、その上で加工性を確保している。
【0010】
そして、本発明においてより好ましい組成は、上記範囲内においてGeが1〜12重量%、Siが0.4〜4重量%となる領域の組成である。具体的には、図2の三元系状態図において、A点(Au:89.6%、Ge:10%、Si:0.4%)、B点(Au:87.6%、Ge:12%、Si:0.4%)、C点(Au:97%、Ge:1%、Si:2%)、D点(Au:95%、Ge:1%、Si:4%)を頂点とする多角形の領域内の組成である。かかる組成とすることで、電気抵抗および加工性の良い材料として使用でき、また、ヒューズへ適用する際の二次加工も容易となる。
【0011】
本発明に係る合金の製造においては、特段の困難性はなく、通常の合金(Au合金)と同様に溶解鋳造法により製造可能である。また、ヒューズへの加工についても、本発明に係る材料は加工性が良好であることから、押出し加工、線引き加工により任意のサイズに加工可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る材料は、融点の範囲が350〜360℃付近にあり、ヒューズ用途の融点範囲として適正な温度範囲内にある。本発明に係る材料は加工性も良好であり、微小サイズのヒューズを製造するのにも好適である。更に、電気抵抗も適度に高く、この点もヒューズ用途として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態及び比較例について説明する。本実施形態では各種組成のAu−Ge−Si合金を製造し、それぞれの特性を評価・検討した。製造した合金試料は、図3の三元系状態図中のライン上の数点の組成の合金である。試料の製造においては、所定の組成となるように秤量した各金属を溶解・鋳造し、伸線加工してφ0.1mmの線材とした。
【0014】
各試料の評価は、融点、電気抵抗(固有抵抗)、硬度、加工性、溶断特性について行なった。加工性については、伸線加工による断線、亀裂、バリの発生の有無を実態顕微鏡(10倍)で観察して評価した。また、溶断特性の評価は、試料線材に4Aの電流を印加したときの溶断時間を測定し、溶断時間0.5秒未満のものを良品とした。尚、融点については熱分析(TG−DTA)により測定し、電気抵抗はミリオムメーターにて固有抵抗を測定した。表1は、以上の評価結果を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1からわかるように、Au−Ge−Si三元系合金である試料においては、融点が約350〜360℃の範囲にあり、また、加工性及び溶断特性も良好であった。これに対し、Ge又はSiを含まない二元系合金は、融点が360℃を超え、また、加工性又は溶断特性のいずれかに劣るものであった。
【0017】
更に、Au−Ge−Si三元系合金となる試料(No.2〜10)について、材料組織の観察を行ったところ、すべての試料において偏析等の異常組織は観察されず、各相が均一に分散した組織を示した。従って、この合金系においては、線材に加工をする際の阻害要因や、ヒューズとした際に電気抵抗のばらつきの要因を有しない好適な材料であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る材料の組成を示すAu−Ge−Si三元系状態図。
【図2】本発明に係る材料の好ましい組成を示すAu−Ge−Si三元系状態図。
【図3】本実施形態で製造した試料の組成を示す図。
【図4】本実施形態で製造した試料の組織写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au−Ge−Si三元系合金からなり、これらの元素の重量濃度は、三元系状態図におけるA点(Au:95.9%、Ge:4%、Si:0.1%)、B点(Au:79.9%、Ge:20%、Si:0.1%)、C点(Au:98.4%、Ge:0.1%、Si:1.5%)、D点(Au:93.9%、Ge:0.1%、Si:6%)を頂点とする多角形の領域内にあるヒューズ用の材料。
【請求項2】
Au、Ge、Siの重量濃度が、三元系状態図におけるA点(Au:89.6%、Ge:10%、Si:0.4%)、B点(Au:87.6%、Ge:12%、Si:0.4%)、C点(Au:97%、Ge:1%、Si:2%)、D点(Au:95%、Ge:1%、Si:4%)を頂点とする多角形の領域内にある請求項1記載のヒューズ用の材料
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のヒューズ用の材料からなるエレメントを備える電流ヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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