説明

電気二重層コンデンサ

【課題】 分極性電極であるペースト電極の塗工量のばらつきを抑え、静電容量のばらつきを低減した電気二重層コンデンサを提供する。
【解決手段】 電気二重層コンデンサの単位セル1において、硫酸水溶液と活性炭粉末と黒鉛粉末を含んだペースト状のペースト体とした分極性電極3(ペースト電極3)と集電体2の一対がセパレータ4を介して対向配置され、上記ペースト電極3に含有される活性炭粉末(Wac)と黒鉛粉末(Wc)の重量比Wc/Wacを0.005〜0.10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICメモリや小型アクチュエータ等のバックアップ用電源として好適に用いられる電気二重層コンデンサに関し、特に静電容量の特性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層コンデンサは、固体と液体の界面に生じる電気二重層を利用して蓄電するデバイスであり、その蓄電機構は物理的な電荷のやり取りによるものである。そのため、急速充放電、半永久的寿命などの特長があり、主にICメモリや小型アクチュエータ等のバックアップ用電源に使用されている。また、最近ではハイブリッド自動車の補助電源やエネルギー回生用途への利用にも期待されている。
【0003】
電気二重層コンデンサは使用する電解液によって、水系電解液と非水(有機)系電解液のどちらかの2種類に大きく分別することができる。
【0004】
また、電解液によって材質等の細部が異なるが、電気二重層コンデンサ素子の単位セルの構造としては、次のコイン型の電気二重層コンデンサ等に用いられる板状の単位セルと巻回型の電気二重層コンデンサの単位セルがある。図1に、本発明と従来例の電気二重層コンデンサの単位セルの構造図を示す。小型電気二重層コンデンサの代表的なコイン型の電気二重層コンデンサの場合は、図1に示すように、表面に活性炭を主とする分極性電極3を形成した一対の集電体2の間に、ポリプロピレン不織布などからなるセパレータ4を挟んで、周りにガスケット5を配して電気二重層コンデンサ素子の板状の単位セル1が構成される。この単位セル1を必要枚数積層させて、電解液を含浸させた電気二重層コンデンサ素子を金属容器に収容し、キャップと外部封止用ガスケットにより金属容器に密封してコイン型の電気二重層コンデンサ等が製造されている。
【0005】
また、上述の電気二重層コンデンサ素子と比べると比較的大型で大容量の電気二重層コンデンサ素子として、シート状の分極性電極と、集電体、セパレータを積層し、この積層体を渦巻状に巻き回して電解液を含浸させ巻回型の電気二重層コンデンサ素子の単位セルが構成されている。この巻回型の単位セルからなる電気二重層コンデンサ素子に電解液を含浸させ、金属容器に収容し、容器の開口部をキャップで密閉して大容量の電気二重層コンデンサが製造されている。
【0006】
次に、コイン型の電気二重層コンデンサ等に用いられる電気二重層コンデンサ素子の板状の単位セル1で、水系電解液を用いた場合について述べる。水系電解液を用いた電気二重層コンデンサの場合は、電気二重層コンデンサ素子にはイオン透過性で非電子伝導性の多孔性のセパレータ4を介して分離された一対の分極性電極3が配置され、また、この分極性電極3の外側には導電性ゴムなどからなる集電体2が配置され、さらに、この分極性電極3の外周には非導電性ゴムなどからなるガスケット5が配置された構造である。
【0007】
この分極性電極3は、活性炭と硫酸水溶液およびバインダーをよく混練してペースト状のペースト体とした分極性電極3(以下、ペースト電極3という)を、非導電性ブチルゴムの中空円形状のガスケット5と導電性ブチルゴムの円盤状の集電体2とを貼り合わせてできた有底円筒状の内側の空間部(凹部)にスキージを用いて塗工することで構成している。
【0008】
例えば、特許文献1のように、ポリフッ化ビニリデン等の有機バインダーを添加することで、ペースト電極3の充填密度を大きくしているが、有機バインダーを添加することで、電気二重層コンデンサの内部抵抗が大きくなり、急速充電・大電流放電が難しくなっている。そこで、特許文献2では、バインダーを改善することで内部抵抗の低減を図っていることが記載されているが、バインダーを使用しないペースト電極3についての記載はない。
【0009】
また、例えば、特許文献3では、活性炭と硫酸水溶液の電解液とを混練した電極について、電気二重層コンデンサの静電容量の向上を検討しているが、硫酸水溶液の硫酸濃度変化についてのみの検討にとどまっている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−231585号公報
【特許文献2】特開2007−157976号公報
【特許文献3】特開2004−158639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1のように、有機バインダーを添加することで、電気二重層コンデンサの内部抵抗が大きくなり、急速充電・大電流放電が難しくなることから、有機バインダーを含まないペースト電極にも優位な点がある。しかしながら、バインダーを含まない活性炭と硫酸水溶液からなるペースト電極は、潤滑性が悪く、塗工時において、ガスケットと集電体を貼り合わせてできた凹部の縁に未塗工部が発生しやすくなる。この対策として、スキージを用いて塗工する往復回数を増やして実施しているものの、上記ペースト電極ではこの凹部でのペースト体の塗工量のばらつきは大きくなってしまい、この結果として、単位セルの静電容量ばらつきが大きくなるという問題があった。特に、小型の電気二重層コンデンサにおいては、ガスケットと集電体を貼り合わせてできた凹部がより小さくなるため、上記の問題点は顕著に現れる。
【0012】
また、複数個の単位セルを積層して、直列に接続して構成された電気二重層コンデンサにおいては、単位セルの静電容量のばらつきが電気二重層コンデンサとしての静電容量のばらつきに影響を及ぼしてしまう。
【0013】
この発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、単位セルに対するペースト電極のペースト体塗工量のばらつきを低下させ、かつ静電容量のばらつきが小さい電気二重層コンデンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、硫酸水溶液を含んだ一対の分極性電極と一対の集電体がセパレータを介して対向配置された電気二重層コンデンサ素子を有する電気二重層コンデンサであって、前記分極性電極が、有機バインダーを含まず、少なくとも硫酸水溶液と活性炭粉末および黒鉛粉末を含む混合物から構成されたことを特徴とする電気二重層コンデンサである。
【0015】
また、本発明は、前記分極性電極を構成する前記活性炭粉末Wacと前記黒鉛粉末Wcの重量比Wc/Wacが0.005〜0.10であることを特徴とする電気二重層コンデンサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水系電解液を用いたペースト電極に活性炭粉末と黒鉛粉末を含有させることで、塗工時において、黒鉛粉末と電解液の水分子の存在によりペースト体の潤滑性が改善し、ガスケットと集電体を貼り合わせてできた凹部にペースト体を充填しやすくなり、電極塗工量のばらつきを抑えることができる。また、これにより、単位セルの静電容量のばらつきを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明と従来例の電気二重層コンデンサの単位セルの構造図である。本発明の電気二重層コンデンサの単位セル1は、図1のように、集電体2、分極性電極3、セパレータ4、ガスケット5から構成される。分極性電極3(ペースト電極3)および分極性電極3の外側に配置される集電体2は、正極側と負極側とに分けられてセパレータ4で絶縁されている。ここで、セパレータ4を、例えばポリプロピレンの不織布のような多孔質の絶縁シートとすることにより、水系電解液に含まれるイオンの移動を可能とし、充放電可能な構造としている。
【0018】
具体的には、例えば、中空円形状のガスケット5と円盤状の集電体2を貼り合わせ、有底の円筒(凹部)とし、その凹部に、硫酸水溶液と活性炭と黒鉛粉末を含むペースト状のペースト体を塗工してペースト電極3とし、単位セル1の電極の片側を形成する。同様にして、他の電極の片側を形成し、それぞれをセパレータ4を挟んで対向配置させることによって、硫酸水溶液の水系電解液を用いたペースト電極3が封止される。なお、ガスケット5と集電体2の形状は、円形でなく、方形や楕円形等の形状であってもよい。
【0019】
また、ガスケット5には非導電性ブチルゴム等のゴムを用い、集電体2には導電性ブチルゴム等のゴムを用いるとよい。分極性電極3には硫酸水溶液の水系電解液を用いたペースト電極3を用いる。
【0020】
本実施の形態では、硫酸水溶液と活性炭、黒鉛粉末から構成されたペースト電極3を用いる。活性炭には、平均粒子径が4〜14μmのフェノール樹脂系活性炭が好適に用いられ、その他にヤシ殻活性炭等を用いてもよい。黒鉛粉末には、平均粒子径が0.05〜8μmの天然黒鉛、平均粒子径が0.05〜10μmの天然鱗状黒鉛、平均粒子径が0.1〜7μmの人造黒鉛が好適に用いられ、その他にカーボンブラックやケッチェンブラック等を用いてもよい。
【0021】
ペースト電極3に黒鉛粉末を添加すると、ペースト体の潤滑性を改善させることができる。これは、次のことから理由付けられる。一般的に、黒鉛は潤滑性に優れた材料として知られている。これは黒鉛の結晶構造に由来しており、黒鉛は六方晶系の六角板状結晶で亀の甲状の層状物質で、この結晶の層毎の内面は強い共有結合であるが、層と層の間は弱いファンデルワールス力で結合している。この弱いファンデルワールス力で結合された層と隣り合う層との間で、これらの層同士が滑ることで潤滑性を発揮する。また、結晶端部には結合の切れた原子が存在し、遊離結合力を有しているため、この遊離結合力を飽和させないと高い潤滑性は保てないが、水系電解液中の水分子が結合端部に吸着するため、遊離結合力が飽和され、潤滑性を有する。
【0022】
従って、塗工時において、水系電解液には水分子が存在するため、電極のペースト体をガスケット5と集電体2を貼り合わせてできた凹部の縁にまで充填しやすくなり、電極の塗工量のばらつきを抑えることができる。この結果、単位セル1の静電容量のばらつき小さくすることが可能となる。
【0023】
また、本実施の形態において、ペースト電極3に用いる黒鉛粒子の粒径は0.5〜10μmの範囲であることが好ましい。これは、黒鉛粒子の粒径が10μmより大きな場合、ペースト体の塗工時に塗工面が荒れ、塗工ばらつきが大きくなり、これにより、静電容量が小さくなってしまうためである。また、黒鉛粒子の粒径が0.5μmより小さい場合、通常工業的に入手困難であり、ハンドリングの点からも好ましくない。
【0024】
また、ペースト電極3における活性炭粉末(Wac)と黒鉛粉末(Wc)の重量比Wc/Wacが0.005〜0.10であることが望ましく、特に重量比Wc/Wacが0.03〜0.08であることがより望ましい。すなわち、重量比Wc/Wacが0.005以下の場合、黒鉛の添加量が少ないために良い潤滑性が得られず、電極塗工ばらつきは大きく、また、これと同時に、静電容量のばらつきも大きくなり、好ましくない。一方、重量比Wc/Wacが0.10以上の場合、比表面積が小さくて静電容量を大きくするためには寄与しない黒鉛粉末の混合割合が増え、逆に、それによって、比表面積が大きくて静電容量を大きくするためには寄与する活性炭粉末の混合割合が少なくなり、結果として静電容量が低下してしまい、好ましくない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
まず、図1に示すように、内径4.5mmかつ外径6.0mmに打ち抜き成形したリング状シートからなる厚さ0.18mmで非導電性ブチルゴムのガスケット5の下面に、直径6.0mmに打ち抜き成形した円盤状シートからなる厚さ0.18mmで導電性ブチルゴムの集電体2を同心円上に配置し、貼り合わせて凹部を有する凹体を形成した。
【0026】
次に、平均粒子径が5μmのフェノール樹脂系活性炭(Wac)と平均粒子径が1μmの天然黒鉛粉末(Wc)を重量比Wc/Wac=0.002、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、1.4で混合した。さらに、この混合物に40%希硫酸水溶液を加えてよく混練し、ペースト状のペースト体とした。分極性電極となるこのペースト体を上記凹体に、スキージを用いて塗工することによって、ペースト電極3を作製した。この塗工を12回繰り返し、塗工前後の重量変化とそのばらつきを調べた。
【0027】
さらに、上記ペースト体を塗工した凹体を一対用意し、厚さ25μmで直径5.0mmのセパレータを介してそれらを重ね合わせた。上下方向より圧力を加え、この圧力を保持した状態でブチルゴム間を熱圧着し、非導電性ブチルゴムからなるガスケット5のブチルゴムの加硫を促して封止を行い、単位セル1を100個作製した。得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて静電容量とそのばらつきを測定した。
【0028】
(実施例2)
実施例2については、ペースト体を、平均粒子径が5μmのフェノール樹脂系活性炭(Wac)と平均粒径径が0.1、1.0、5.0μmの天然鱗状黒鉛粉末(Wc)を重量比Wc/Wac=0.5で混合して作製した。以下、実施例1と同様に、塗工前後のシートの重量変化とそのばらつきを調べ、単位セル1を100個作製し、得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて電気二重層コンデンサの静電容量とそのばらつきを測定した。
【0029】
(実施例3)
次に、実施例3については、ペースト体を、平均粒子径が5μmのフェノール樹脂系活性炭(Wac)と平均粒径径が0.1、1.0、5.0μmの人造黒鉛粉末(Wc)を重量比Wc/Wac=0.5で混合して作製した。以下、実施例1と同様に、塗工前後のシートの重量変化とそのばらつきを調べ、単位セル1を100個作製し、得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて電気二重層コンデンサの静電容量とそのばらつきを測定した。
【0030】
(比較例1)
次に、比較例1については、活性炭として平均粒子径が5μmのフェノール樹脂系活性炭(Wac)を用い、黒鉛粉末は添加させずにペースト体を作製した。それ以外は実施例1と同様に、塗工前後のシートの重量変化とそのばらつきを調べ、単位セル1を100個作製し、得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて電気二重層コンデンサの静電容量とそのばらつきを測定した。
【0031】
(実施例4)
次に、実施例4については、ペースト体を、平均粒子径が5μmのヤシ殻活性炭(Wac)と平均粒子径が1.0μmの天然黒鉛粉末、天然鱗状黒鉛粉末、人造黒鉛粉末(Wc)を重量比Wc/Wac=0.5で混合して作製した。以下、実施例1と同様に、塗工前後のシートの重量変化とそのばらつきを調べ、単位セル1を100個作製し、得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて電気二重層コンデンサの静電容量とそのばらつきを測定した。
【0032】
(比較例2)
次に、比較例1については、活性炭として平均粒子径が5μmのヤシ殻活性炭(Wac)を用い、黒鉛粉末は添加させずにペースト体を作製した。それ以外は実施例1と同様に、塗工前後のシートの重量変化とそのばらつきを調べ、単位セル1を100個作製し、得られた単位セル1の100個の電気二重層コンデンサについて電気二重層コンデンサの静電容量とそのばらつきを測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、活性炭粉末(Wac)と黒鉛粉末(Wc)の重量比Wc/Wacが0.005以上のペースト電極を用いることで、電極シートにおける塗工量のばらつきを0.04以下に抑えることができた。また、同様に単位セルの静電容量のばらつきも0.01以下に抑えられることが分かった。重量比Wc/Wacが0.10以上では黒鉛粉末の添加量が増えたため、単位セルの静電容量が減少していることが確認され、黒鉛粉末の添加量の上限値は重量比Wc/Wacが0.10とすることが好ましいと分かった。また、活性炭は、フェノール樹脂系活性炭とヤシ殻活性炭とのいずれを用いても、適量の黒鉛を添加することにより、電極シートにおける塗工量のばらつき、静電容量のばらつきともに抑えられることが分かった。
【0035】
(まとめ)
以上、述べたように、ペースト電極を活性炭粉末と黒鉛粉末の混合物から構成し、活性炭粉末(Wac)と黒鉛粉末(Wc)の重量比Wc/Wacを0.005〜0.10とすることで、静電容量の低下を招くことなく、静電容量のばらつきを小さくすることができる。これは、黒鉛粉末が潤滑性に優れた材料であり、活性炭粉末の隙間に黒鉛が容易に入り込むことができるためである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明と従来例の電気二重層コンデンサの単位セルの構造図。
【符号の説明】
【0037】
1 単位セル
2 集電体
3 分極性電極(ペースト電極)
4 セパレータ
5 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸水溶液を含んだ一対の分極性電極と一対の集電体がセパレータを介して対向配置された電気二重層コンデンサ素子を有する電気二重層コンデンサであって、
前記分極性電極が、有機バインダーを含まず、少なくとも硫酸水溶液と活性炭粉末および黒鉛粉末を含む混合物から構成されたことを特徴とする電気二重層コンデンサ。
【請求項2】
前記分極性電極を構成する前記活性炭粉末Wacと前記黒鉛粉末Wcの重量比Wc/Wacが0.005〜0.10であることを特徴とする請求項1記載の電気二重層コンデンサ。

【図1】
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