説明

電気光学表示装置

【課題】回路構成の複雑化を回避しつつ、2つの表示装置の表示状態を確実に同期させることのできる電気光学表示装置を提供する。
【解決手段】EC素子2と電気泳動素子4とを駆動するための電子回路層6は、EC素子用信号線と、EC素子用信号線に接続された第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14と、電気泳動素子用信号線と、電気泳動素子用信号線に接続された第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15と、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の制御電極および第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の制御電極に接続された共通走査線と、制御電極が第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15に接続された駆動用薄膜トランジスタ16とを備え、駆動用薄膜トランジスタ16がEC素子2の画素電極8に接続され、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15が電気泳動素子4の画素電極12に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック(以下、「EC」と記載する)反応に基づく表示ができるEC層と、電気泳動する帯電粒子(以下、「電気泳動粒子」と記載する)により表示ができる電気泳動層とを重ね合わせて構成される電気光学表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紙媒体と同様の取り扱い性と視認性を有する電子ペーパーやフレキシブルディスプレイ等の表示装置の研究開発が盛んに行われている。このような表示装置を実現するものとして、セル内に封入した電気泳動粒子を電場により移動させ、これにより光の反射状態を変調する電気泳動表示装置が注目を集めている。しかし、電気泳動表示装置は、基本的には印加電圧のオン/オフによって電気泳動粒子の分布状態を2値的に制御するものであるために、少なくとも3原色を必要とするフルカラー表示への対応は、一般的に困難であるとされている。
【0003】
このような背景のもと、特許文献1には、電圧・電流制御に基づくEC反応によって透明領域と着色領域(例えば青色領域)を呈するEC層と、EC層の下部に重ね合わせる形態にて、電界制御によってEC層の着色領域の色と異なる第1の色領域(例えば赤色領域)および第2の色領域(例えば緑色領域)を呈する電気泳動層とを備え、視認側に赤色,緑色,青色、およびこれらの混色の多色表示を行うことが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、顔料を含むマイクロカプセル、または顔料を隔離するための隔壁を、二枚の電極間に挟み作製した電気泳動型表示素子に、二枚の電極間に形成したEC表示素子を重ね合わせた構成からなるカラーリライタブル表示装置が記載されている。この表示装置は、表示に関してメモリ性を有することから、情報の書き替え時のみ、画像書込装置により書込みのエネルギーを与えるだけで良く、表示を維持するエネルギー付与は不要である。従って、情報の書込み後に画像書込装置から表示装置のみを切り離し、紙媒体のように手軽に持ち運んだり、重ねたり、並べたり、手に持って文字情報を読むという使用方法も可能である。
【特許文献1】特開平10−161161号公報(図4)
【特許文献2】特開2004−286977号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2には、電気泳動型表示装置とEC表示装置を重ね合わせるというアイデアとしては記載されているが、現実問題として、(1)2つの表示装置の相対向する個別の画素が合わせて一画素分の色彩を表現しなければならないため、重なり合う画素への信号が確実に同期されていなければない。また、(2)EC表示装置に入射した光がEC表示装置を透過し、電気泳動型表示装置で反射し、再びEC表示装置を透過して初めて表示光として視認されるのであるから、光線の伝搬を妨げるような複雑な回路構成を組むことは、重ね合わせにより構成される表示装置の反射率を落としてしまう結果につながる。
【0006】
したがって、本発明は、回路構成の複雑化を回避しつつ、2つの表示装置の表示状態を確実に同期させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得た本発明の電気光学表示装置は、
第一画素電極と第二画素電極との間にEC材料層を挟持したEC素子を複数備えるEC層と、
第三画素電極と第四画素電極との間に電気泳動粒子を挟持した電気泳動素子を複数備える電気泳動層と、
前記EC素子と前記電気泳動素子とを駆動するための電子回路層と、
を重ね合わせて構成される電気光学表示装置であって、前記電子回路層は、
前記EC素子に表示信号を伝送するためのEC素子用信号線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該第一電極が前記EC素子用信号線に接続された第一のスイッチ用薄膜トランジスタと、
前記電気泳動素子に表示信号を伝送するための電気泳動素子用信号線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該第一電極が前記電気泳動素子用信号線に接続された第二のスイッチ用薄膜トランジスタと、
前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタの制御電極および前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの制御電極に接続された共通走査線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該制御電極が前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極に接続された駆動用薄膜トランジスタと、
を有し、該駆動用薄膜トランジスタの第一電極が接地され、第二電極が前記EC素子の第二画素電極に接続され、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が前記電気泳動素子の第三画素電極に接続されたものである。
【0008】
上記電気光学表示装置において、前記EC素子の第一画素電極が1枚の共通電極で構成され、前記電気泳動素子の第四画素電極が1枚の共通電極で構成され、前記EC素子の第二画素電極と前記電気泳動素子の第三画素電極とが対向しており、前記電子回路層が前記EC層と前記電気泳動層との間に挟まれるように形成される態様としてもよい。
【0009】
上記電気光学表示装置において、前記共通走査線に並行して共通接地線が形成され、前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が、第一容量素子を介して前記共通接地線に接続され、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が、第二容量素子を介して前記共通接地線に接続される構成が好ましく用いられる。
【0010】
上記電気光学表示装置において、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ、及び駆動用薄膜トランジスタが透明薄膜トランジスタで構成される構成が好ましく用いられる。
【0011】
上記電気光学表示装置において、電気泳動層がEC層と電子回路層との間に挟まれるように形成される態様としてもよい。
【0012】
上記電気光学表示装置において、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ、及び駆動用薄膜トランジスに用いられる半導体が有機半導体である構成が好ましく用いられる。
【0013】
上記電気光学表示装置において、電子回路層とEC層、および/または、電子回路層と電気泳動層が、異方性導電膜を介して接続される構成が好ましく用いられる。
【0014】
上記電気光学表示装置において、異方性導電膜が透明異方性導電膜である態様が推奨される。
【0015】
上記電気光学表示装置において、EC層が、シアン色、マゼンダ色、イエロー色の3色によるカラー表示、又は、赤色、青色、緑色の3色によるカラー表示が可能に構成される構成が好ましく用いられる。
【0016】
上記電気光学表示装置において、視認側にタッチパネルが形成される構成が好ましく用いられる。
【0017】
本発明において、「接続」とは電気的に信号を伝搬し得る状態をいい、配線による直接的な接続の他、容量素子や抵抗器などの受動素子を介して接続されている間接的な接続も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、EC層の裏側(視認側とは反対側)に無彩色(グレイスケール)を表示することに適している電気泳動層を配置するため、色要素が豊富化され、EC層のみによるカラー表示では表現できないような階調度の高い、表現豊かなフルカラー画像を表示することができる。また、各EC層は無色透明色が表示可能であるため、電気泳動層による無彩色画像をより一層鮮明に表示することができる。
【0019】
さらに本発明では、EC素子を複数備えるEC層と、電気泳動素子を複数備える電気泳動層と、EC素子及び電気泳動素子とを駆動するための電子回路層とを重ね合わせて構成される電気光学表示装置において、EC素子を駆動する薄膜トランジスタと電気泳動素子を駆動する薄膜トランジスタとを共通走査線により駆動させることにより、回路構成の複雑化を回避しつつ、2つの表示装置の表示状態を確実に同期させることができ、フルカラー表示対応の電子ペーパーやフレキシブルディスプレイの実用化に向けて大きく貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1にかかる電気光学表示装置について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0021】
1.電気光学表示装置の概略構造
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電気光学表示装置の概略断面図である。図1において、電気光学表示装置1は、EC素子2を複数備えるEC層3と、電気泳動素子4を複数備える電気泳動層5と、EC素子2及び電気泳動素子4とを駆動するための電子回路層6とを重ね合わせて構成される。本実施の形態におけるEC層3は、光透過型の表示装置(乃至カラーフィルター)であり、電気泳動層5は、本実施の形態においては光反射型の表示装置であるので、電気光学表示装置1の視認側は、EC層3側である。
【0022】
2.EC素子
上記EC素子2は、第一画素電極7と第二画素電極8との間に、酸化還元反応により着色状態/無色透明状態が選択可能なEC材料層9を挟持して構成されるものである。第一画素電極7又は第二画素電極8の少なくとも一方は、固定電位としてもよいことから1枚の共通電極で構成することが可能であり、本実施の形態においては、第一画素電極7を共通電極とした例について説明し、以降、第一画素電極7を「共通電極7」、第二画素電極8を単に「画素電極8」と記載する。
【0023】
EC材料層9としては、例えば、赤色系材料としてアントラキノン系色素やスチリル系スピロピラン色素、緑色系材料として芳香族アミン系色素やビオロゲン系色素、青色系材料としてビオロゲン系色素やピラゾリン系色素等の有機EC色素をRGB3原色として用いることができる。或いは、シアン系材料として1,4−ジアセチルベンゼン、マゼンタ系材料としてテレフタル酸ジメチル、イエロー系材料として4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジエチルをそれぞれ1−メチル−2−ピロリドンに溶解したものをCMY3原色として用いることができる。なお、無色透明の場合は、視認側において、下地である電気泳動層5から反射される色がそのまま反映されることになる。
【0024】
また、呈色の濃淡は、直流電圧の印加時間と電圧値を変化させることによっても制御可能である。すなわち、印加時間を変化させたり、印加電圧に幅を持たせたりすることにより、呈色の濃淡を制御することも可能である。或いは、複数のEC素子2を一画素とし、一画素内において着色状態にあるEC素子2の個数により呈色の濃淡を調節することも可能である。
【0025】
さらに、一つのEC素子2に対する単位時間当たりの電圧印加時間を調節することによっても呈色の濃淡を制御することができる。例えば1秒間当たりに印加する電圧パルスの数、幅、高さを増減する等の方法を採ってもよい。
【0026】
EC層3は、光透過型表示装置(或いはカラーフィルター)として機能させるため、共通電極7と画素電極8は、透明導電材料により構成することが必要である。透明導電材料としては、酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)等を用いることができる。
【0027】
EC材料層9は、例えば共通電極7上にインクジェット法により塗布することができる。EC材料層9は、スペーサー10を側壁とするセル内に充填され得る液状物でも良いが、取り扱いや製造上の便宜のために、共通電極7と画素電極8との間から流出せずに形状を保持し得る固形状または半固形状とすることが好ましい。
【0028】
1つの画素を構成するのに、必ずしもEC素子2を3つ用いる必要はなく、2つのEC素子2により1画素の単位を構成してもよい。1画素に用いるEC素子2が多ければ、色の重ね合わせにより多彩な呈色が可能であるが、その分、1画素に割り当てるEC素子2が増え、解像度が低下してしまうので、使用目的により1画素の構成を選択することが好ましい。
【0029】
3.電気泳動層
図1において、電気泳動層5は、分散液を封入したマイクロカプセル11を第三画素電極12と第四画素電極13との間に挟持して構成される電気泳動素子4を複数備えるものである。第三画素電極12又は第四画素電極13の少なくとも一方は、固定電位としてもよいことから1枚の共通電極で構成することが可能であり、本実施の形態においては、第四画素電極13を共通電極とした例について説明し、以降、第四画素電極13を「共通電極13」、第三画素電極12を単に「画素電極12」と記載する。
【0030】
分散液は、帯電した電気泳動粒子と色素を溶かした絶縁性液体等からなる。画素電極12により分散液に電圧を印加すると、電荷を有する電気泳動粒子は、その電荷とは逆の極性の電極へ移動する。観測者側の電極(図1においては、画素電極12)に電気泳動粒子が集まると、当該電気泳動粒子の色が表示される。一方、観測者側と反対の電極(図1においては、共通電極13)に電気泳動粒子が集まると、観測者は絶縁性液体の色を視認することになる。すなわち、電気泳動粒子と絶縁性液体の色の差によって表示の切り替えが行われる。例えば、電気泳動粒子が白色、絶縁性液体が黒色に着色されていれば、画素電極12に印加する電圧を切り替えることに白又は黒を表示することができる。もちろん、画素毎に白と黒を切り替えれば、グレースケールの表示を行うことができる。
【0031】
マイクロカプセル11は、ゼラチンとアラビアガムによるコアセルべーションによって作成した壁体物で構成することができる。白色電気泳動粒子を用いる場合は、酸化チタンを好ましく使用することができる。黒色電気泳動粒子を用いる場合は、カーボンブラックを好ましく使用することができる。分散液の溶剤(上記絶縁性液体)としては、トルエンやケロシン等の炭化水素化合物および/またはシリコーンオイルのようなケイ素化合物溶媒を好ましく使用することができる。
【0032】
電気泳動素子4の配列方法は、方眼状に限られず、ストライプ状、ハニカム状などの様々な配置を採り得る。EC素子2の配列方法も、これに合わせて同様の形態を取り得る。
【0033】
4.電子回路層
図1に示すように、本実施の形態においては、EC素子2及び電気泳動素子4を駆動するための電子回路層6は、EC層3と電気泳動層5との間に挟持されている。電子回路層6には、少なくとも3種類の能動素子、すなわち、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15、及び、駆動用薄膜トランジスタ16が含まれる。トランジスタのタイプとしては、電界効果型トランジスタ、バイポーラトランジスタ、サイリスタ、IGBT等を用いることができるが、オフ電流の少ない電界効果型トランジスタを選択することが好ましい。この場合の制御電極はゲート電極であり、第一電極、第二電極は、ソース電極、ドレイン電極のいずれかに相当する。一般的にはソース電極側を接地する、いわゆるソース接地型の回路構成をとることが多い。
【0034】
図2は、上述したEC素子2や電気泳動素子4と、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15、並びに駆動用薄膜トランジスタ16との接続関係を示す電子回路図である。図2において、EC素子2に表示信号を伝送するためのEC素子用信号線21と、電気泳動素子4に表示信号を伝送するための電気泳動素子用信号線22とが、図面縦方向に並列に配線されている。一方、図面横方向には、共通走査線23が配線され、EC素子用信号線21/電気泳動素子用信号線22と共通走査線23によりマトリックス構造が形成されている。共通走査線23には、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の制御電極14g、および第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の制御電極15gが接続される。
【0035】
上記のEC素子用信号線21は、詳しくは、シアン表示用、マゼンタ表示用、イエロー表示用の3つのラインの繰り返し、或いは、赤色表示用、緑色表示用、青色表示用の3つのラインの繰り返しを構成している。3原色を用いれば、フルカラー表示に対応することが可能となるが、本発明を実施するにあたり必須の構成要件ではない。
【0036】
また、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の第一電極14aはEC素子用信号線21に接続され、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の第一電極15aは電気泳動素子用信号線22に接続されている。一方、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の第二電極14bはEC素子2の駆動用薄膜トランジスタ16の制御電極16gに接続され、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の第二電極15bは電気泳動素子4の画素電極12(図1、図2参照)に接続されている。
【0037】
駆動用薄膜トランジスタ16の第一電極16aは接地され、第二電極16bは、EC素子2の画素電極8(図1、図2参照)に接続され、EC素子2の共通電極7(図1、図2参照)は、一定電位を与える電源Vcomに接続されている。共通電極7がマトリックス構造全面に一様に形成されている場合は、電源Vcomは、各マトリックスまで個別に配線されている必要はないが、電気伝導率の良いアルミニウムや銅により個別に配線すれば、共通電極7全体の電位が所定の電位となるまでにかかる時間が短縮される。また、共通電極7がマトリックス構造全体に形成されているのではなく、ライン毎やEC素子2毎に形成される場合であれば、電源Vcomを個別に配線することが必要である。
【0038】
駆動用薄膜トランジスタ16の第一電極16aは、上記のように接地されているが、直接接地でも間接接地でもよい。例えば、容量素子(図示せず)等の受動素子を介在させていてもよい。容量素子を用いた場合は、サージ電流に対して駆動用薄膜トランジスタ16やEC素子2を保護することができる。
【0039】
第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の第二電極14b、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の第二電極15bも、それぞれ接地されているが、接地される際に第一容量素子27,第二容量素子28を介在させていてもよい。第二容量素子28を用いることにより、電気泳動素子4の表示状態を保持することができる。また、第一容量素子27を用いることにより、駆動用トランジスタ16のオンオフ状態を保持し、EC素子2の表示状態を保持することができる。
【0040】
第一及び第二容量素子27,28の接地先は、電気泳動素子4の共通電極13であってもよいが、この場合は、電気泳動層5を貫通するバイアホール(図示せず)を設ける必要があり、電気光学表示装置の製造工程を複雑にしてしまう。
【0041】
図3は、第一及び第二容量素子27,28の他の接地方法を示す回路図である。この回路図によれば、第一及び第二容量素子27,28の接地先を、電子回路層6内に設けられた共通走査線23に並行に設けられた共通接地線24としている。共通接地線24は、電子回路層6内を通して外部で接地することができる。このような共通接地線24を形成すれば、第一及び第二容量素子27,28の接地構造を電子回路層6内に収めることができるため、上記のようなバイアホールを設ける必要もなく、電気光学表示装置の製造工程を簡略化することができる。
【0042】
本実施の形態1における電子回路層6は、EC層3と電気泳動層5との間に挟まれた位置に構成されるため、電子回路層6の光透過率が高いことが好ましい。この観点から、薄膜トランジスタとして透明薄膜トランジスタを用いることが好ましい。本発明において、透明薄膜トランジスタとは、電極材料(薄膜トランジスタが電界効果型トランジスタであれば、ソース電極・ドレイン電極、ゲート電極の各電極材)に、透明酸化物伝導体(上述のITOやIZO等)を使用したものをいうものとする。さらに、ゲート電極と活性層との間に配置するゲート絶縁膜をYOx等の透明絶縁物で構成することにより透明度は高まる。トランジスタの活性層としては、アモルファス酸化物半導体膜(InGaZnO)、電子回路層6の基体としては、PETフィルムを好ましく用いることができる。
【0043】
図1に示すように、EC層3と電子回路層6との接続には、導電性の微粒子(導電性フィラー)を分散させた熱硬化性樹脂によって形成される異方性導電膜17(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いれば、電子回路層6の駆動用薄膜トランジスタ16とEC素子2の画素電極8とを容易に接続することができる。接続の方法は、まず、電子回路層6とEC層3との間に異方性導電膜17を挟んで、ヒーター等で熱を加えながら電子回路層6とEC層3との導通を図りたい場所に異方性導電膜17の垂直方向から圧力を加えることにより、導電性フィラー同士が接触し、異方性導電膜17の垂直方向の接続点18を形成することができる。上記の異方性導電膜17の他、耐熱性の高い異方性導電ペーストを用いることもできる。
【0044】
電子回路層6の駆動用薄膜トランジスタ16とEC素子2の画素電極8とは、最低1点において接続されていればEC素子2の機能は果たすが、電子回路層6の駆動用薄膜トランジスタ16とEC素子2の画素電極8との接点は多い方が良い。画素電極8の材料であるITO等の透明材料は、アルミニウムや銅等に比べて電気伝導性が低い。このため、電子回路層6の駆動用薄膜トランジスタ16とEC素子2の画素電極8との接続点が少ない場合には画素内における呈色のムラや表示遅れが発生してしまうが、接点が多い場合は、画素電極8全体が等電位になるまでの時間が短縮できるため、表示状態を高速で切り替える場合にも対応できる。したがって、異方性導電膜17は点状ではなく線状領域において通電されることが望ましく、画素電極8の一つの辺と同等の長さに亘って配置されることが特に望ましい。
【0045】
上述のように、本実施の形態1にかかる電気泳動層5よりも視認側にある構造、例えばEC層3は、透過型の表示層として機能するものであり、異方性導電膜17においても光の透過を阻害しないようにする必要がある。このため、異方性導電膜17を透明のフィルム材料によって構成することが望ましい。
【0046】
5.電子回路層の駆動方法
次に、電子回路層6の駆動方法について説明する。図1に示したように、EC素子2及び電気泳動素子4はそれぞれ重なるように配置され、電気泳動素子4の表示色とEC素子2の表示色によって、視認側から観察できる色が決定されるので、EC素子2及び電気泳動素子4をタイミングよく所定の呈色をしなければならない。まず、表示の目的とするEC素子2に接続されているEC素子用信号線21に所定の電圧をアドレスし、このEC素子2に対向する電気泳動素子4に接続されている電気泳動素子用信号線22に所定の電圧をアドレスする。この状態で、EC素子2と電気泳動素子4とを同時に呈色させる準備は完了している。
【0047】
次に、共通走査線23にオン電圧(例えば0.7V)を印加し、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の制御電極14g、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15の制御電極15gをオン状態とする。制御電極15gがオン状態になれば、第一電極15a及び第二電極15b間が導通状態となり、電気泳動素子4の画素電極12が所定電位となり、電気泳動素子4が所望の呈色状態となる。また、第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14の制御電極14gがオン状態になれば、第一電極14a及び第二電極間14bが導通状態となり、これにより駆動用トランジスタ16の制御電極16gがオン状態となる。制御電極16gがオンになれば、第一電極16a及び第二電極16b間が導通状態となり、EC素子2の画素電極8が所定電位となり、EC素子2が所望の呈色状態となる。
【0048】
以上のように、本実施の形態における電気光学表示装置では、1本の共通走査線23により電気泳動素子4とEC素子2の駆動タイミングが制御されるため、回路構造上、電気泳動素子4とEC素子2の呈色タイミングがずれることはなく、安定した色又は明るさの表示を行うことが可能となる。また、走査線を共通走査線23の1本としたことにより、各画素の開口率が上がるため、最終的に観者に視認される光量が多くなる。
【0049】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、EC層3と電気泳動層5との間に電子回路層6が挟まれた構成について説明したが、共通走査線23を配置できる方法でれば、電子回路層6はどの層に形成されていてもよい。図4は、本発明の実施の形態2にかかる電気光学表示装置1の概略断面図である。図4に示すように、電子回路層6は、電気泳動層5の下側、すなわち、EC層3とは反対側に形成されていてもよい。この場合は、EC層3と電気泳動層5との間隔が狭くなるため、EC素子2と電気泳動素子4との視差が少なくなり、色むら、色のにじみ等が低減される。ただし、電子回路層6からEC素子2に信号を伝達するため、電気泳動層5中にバイアホール等の穴を設ける必要がある。
【0050】
(実施の形態3)
実施の形態1および2では、EC層3が視認側となる場合について説明したが、電気泳動層5が透明表示可能であれば、電気泳動層5が視認側となるように形成されていてもよい。図5に示すように、透明表示が可能な電気泳動層5としては、凹状のセルを形成し、セルの側壁側に隔壁電極31を配置し、透明な絶縁性液体32と着色された電気泳動粒子33とを用いて電気泳動粒子33を水平方向に動かす、いわゆるインプレイン型の電気泳動層5を使用することができる。この方法によれば、電気泳動粒子33を隔壁電極31に引きつけておくことにより、下部電極34を介して光が透過することが可能となる。
【0051】
(実施の形態4)
上記実施の形態1〜3において第一のスイッチ用薄膜トランジスタ14、第二のスイッチ用薄膜トランジスタ15、及び駆動用薄膜トランジスタ16に用いられる半導体を有機半導体で構成することができる。有機半導体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の透明樹脂の上に印刷により形成することができ、軽量で、大面積、フレキシブルという特徴を有し、電子ペーパー等の用途に好適に用いられる。有機p型半導体としては、ペンタセンが上げられる。ペンタセンは、ベンゼン環が五つ結合した構造の低分子化合物である。電子伝導の原理は、ベンゼン環の二重結合に存在するπ電子が移動することにある。
【0052】
(実施の形態5)
上記実施の形態1〜4において視認側にタッチパネルを形成することもできる。タッチパネルは、マトリックス状に形成された配線等により、指先やペン先等が物理的に接触された位置を検出し、特定することができるものである。例えば、電子ブックにペンの圧力により書き込んだ情報を電子ペーパー上に表示したり保存したりすることができる。
【0053】
タッチパネルを動作原理別に分類すると、軽量で製造コストの低い抵抗膜方式(アナログ抵抗膜方式)、透過率が高い静電容量方式、透過率が高く耐久性が高い超音波表面弾性波方式、透過率が高く誤動作の少ない赤外線遮光方式等が挙げられるが、中でも抵抗膜方式は、製造コストが低く、柔軟性が高いという観点から、電子ペーパーやフレキシブルディスプレイの用途に適した方式である。
【0054】
以上説明したように、本発明の電気光学表示装置によれば、EC層の裏側(視認側とは反対側)に無彩色(グレイスケール)を表示することに適している電気泳動層を配置するため、EC層のみによるカラー表示では表現できないような階調度の高い、表現豊かなフルカラー画像を表示することができる。また、各EC層は無色透明色が表示可能であるため、電気泳動層による無彩色画像をより一層鮮明に表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の電気光学表示装置は、ノートパソコン、PDA、携帯電話、電子ブック、電子新聞、電子文庫等の電子ペーパー、カレンダー、看板、ポスター、黒板等の掲示板、電卓、家電製品、自動車用品等の表示部、ポイントカード、ICカード等のカード表示部、電子広告、電子値札、電子楽譜のほか、外部情報入力手段を用いて表示媒体駆動を行うリライタブルペーパーとしても好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電気光学表示装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる電気光学表示装置の電子回路である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる電気光学表示装置の他の電子回路である。
【図4】本発明の実施の形態2にかかる電気光学表示装置の概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3にかかる電気光学表示装置の電気泳動層の概略断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 電気光学表示装置
2 EC素子
3 EC層
4 電気泳動素子
5 電気泳動層
6 電子回路層
7 第一画素電極(共通電極)
8 第二画素電極(画素電極)
9 EC材料層
10 スペーサー
11 マイクロカプセル
12 第三画素電極(画素電極)
13 第四画素電極(共通電極)
14 第一のスイッチ用薄膜トランジスタ
15 第二のスイッチ用薄膜トランジスタ
16 駆動用薄膜トランジスタ
17 異方性導電膜
18 接続点
21 EC素子用信号線
22 電気泳動素子用信号線
23 共通走査線
24 共通接地線
27 第一容量素子
28 第二容量素子
31 隔壁電極
32 絶縁性液体
33 電気泳動粒子
34 下部電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一画素電極と第二画素電極との間にエレクトロクロミック(以下、「EC」と記載する)材料層を挟持したEC素子を複数備えるEC層と、
第三画素電極と第四画素電極との間に電気泳動粒子を挟持した電気泳動素子を複数備える電気泳動層と、
前記EC素子と前記電気泳動素子とを駆動するための電子回路層と、
を重ね合わせて構成される電気光学表示装置であって、前記電子回路層は、
前記EC素子に表示信号を伝送するためのEC素子用信号線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該第一電極が前記EC素子用信号線に接続された第一のスイッチ用薄膜トランジスタと、
前記電気泳動素子に表示信号を伝送するための電気泳動素子用信号線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該第一電極が前記電気泳動素子用信号線に接続された第二のスイッチ用薄膜トランジスタと、
前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタの制御電極および前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの制御電極に接続された共通走査線と、
第一電極、第二電極、及び制御電極を有し、該制御電極が前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極に接続された駆動用薄膜トランジスタと、
を有し、該駆動用薄膜トランジスタの第一電極が接地され、第二電極が前記EC素子の第二画素電極に接続され、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が前記電気泳動素子の第三画素電極に接続されることを特徴とする電気光学表示装置。
【請求項2】
前記EC素子の第一画素電極が1枚の共通電極で構成され、前記電気泳動素子の第四画素電極が1枚の共通電極で構成され、前記EC素子の第二画素電極と前記電気泳動素子の第三画素電極とが対向しており、前記電子回路層が前記EC層と前記電気泳動層との間に挟まれるように形成される請求項1に記載の電気光学表示装置。
【請求項3】
前記共通走査線に並行して共通接地線が形成され、前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が、第一容量素子を介して前記共通接地線に接続され、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタの第二電極が、第二容量素子を介して前記共通接地線に接続される請求項2に記載の電気光学表示装置。
【請求項4】
前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタ、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタ、及び前記駆動用薄膜トランジスタが透明薄膜トランジスタで構成される請求項2または3に記載の電気光学表示装置。
【請求項5】
前記電気泳動層が前記EC層と前記電子回路層との間に挟まれるように形成される請求項1に記載の電気光学表示装置。
【請求項6】
前記第一のスイッチ用薄膜トランジスタ、前記第二のスイッチ用薄膜トランジスタ、及び前記駆動用薄膜トランジスに用いられる半導体が有機半導体である請求項1〜5のいずれかに記載の電気光学表示装置。
【請求項7】
前記電子回路層と前記EC層および/または前記電子回路層と前記電気泳動層が、異方性導電膜を介して接続される請求項1〜6のいずれかに記載の電気光学表示装置。
【請求項8】
前記異方性導電膜が透明異方性導電膜である請求項7に記載の電気光学表示装置。
【請求項9】
前記EC層が、シアン色、マゼンダ色、イエロー色の3色によるカラー表示、又は、赤色、青色、緑色の3色によるカラー表示が可能に構成されている請求項1〜8のいずれかに記載の電気光学表示装置。
【請求項10】
視認側にタッチパネルが形成された請求項1〜9のいずれかに記載の電気光学表示装置。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−265271(P2009−265271A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113060(P2008−113060)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】