説明

電気光学装置用多面取り基板及びパネル

【課題】撥液性の薄膜を隔壁に均一に転写することのできる電気光学装置用多面取り基板を提供する。
【解決手段】電気光学装置用多面取り基板10は、複数のパネル11を備え、複数のパネル11のそれぞれには、液滴吐出法により電気光学素子の液状の構成材料が塗布される画素領域を区画する隔壁が形成されており、複数のパネル11のうち少なくとも一部のパネル間には、液状の構成材料に対して撥液性の薄膜を隔壁に転写するための転写ローラを受ける受け部材50が形成されており、受け部材50の高さは、隔壁の高さよりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出法により電気光学素子を形成するための電気光学装置用多面取り基板及びパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電流駆動型の自発光素子であるため、バックライトが不要となる上に、低消費電力、高視野角、高コントラスト比が得られるメリットがあり、フラットパネルディスプレイの開発において期待されている。有機EL素子は、陽極と陰極との間に介在する発光層を備えた電気光学素子であり、順バイアス電流を供給することで、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが再結合する際の再結合エネルギーにより自発光する。有機EL素子の製造方法として、例えば、有機EL素子を構成する発光層の有機材料を溶媒で溶解又は分散させて液状化し、これを液滴吐出装置から画素領域に吐出して乾燥させる液滴吐出法が知られている。液滴吐出法では、液滴の画素領域への着弾性を高めることが重要であることから、画素領域を区画する隔壁の表面を撥液性に表面処理し、被塗布面を親液性に表面処理している。隔壁の表面を撥液性にするための方法として、例えば、特許文献1には、ラミネータを用いて撥液性のラミネートフィルムを隔壁の表面に転写する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−176938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ラミネータでは、転写ローラの両端にある軸受けで力を加えて転写しているため、転写ローラの中央部分に撓みが生じると、転写ローラの中央部分から作用する圧力が相対的に小さくなり、転写ローラの軸受けに近い部分から作用する圧力が相対的に大きくなる。このような圧力差が生じると、ラミネートフィルムを均一な圧力で転写できなくなるため、転写ムラの原因になる。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題を解決し、撥液性の薄膜を隔壁に均一な圧力で転写することのできる電気光学装置用多面取り基板及びパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる電気光学装置用多面取り基板は、複数のパネルを備える電気光学装置用多面取り基板であって、複数のパネルのそれぞれには、液滴吐出法により電気光学素子の液状の構成材料が塗布される画素領域を区画する隔壁が形成されており、複数のパネルのうち少なくとも一部のパネル間には、液状の構成材料に対して撥液性の薄膜を隔壁に転写するための転写ローラを受ける受け部材が形成されており、受け部材の高さは、隔壁の高さよりも低い。斯かる構成によれば、電気光学装置用多面取り基板に形成された隔壁に撥液性の薄膜を転写する際に、転写ローラの中央部付近から作用する圧力により隔壁は高さ方向に圧縮される一方、受け部材の高さ方向の圧縮は制限され、転写ローラの両端付近から作用する圧力が受け止められる。これにより、撥液性の薄膜の転写時に転写ローラから作用する圧力を均等化することができる。
【0007】
本発明に係わるパネルは、液滴吐出法により電気光学素子の液状の構成材料が塗布される画素領域を区画する隔壁と、液状の構成材料に対して撥液性の薄膜を隔壁に転写するための転写ローラを受ける受け部材とを備え、受け部材の高さは、隔壁の高さ以下である。斯かる構成によれば、パネルに形成された隔壁に撥液性の薄膜を転写する際に、転写ローラの中央部付近から作用する圧力により隔壁は高さ方向に圧縮される一方、受け部材の高さ方向の圧縮は制限され、転写ローラの両端付近から作用する圧力が受け止められる。これにより、撥液性の薄膜の転写時に転写ローラから作用する圧力を均等化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係る電気光学装置用多面取り基板の平面図である。
【図2】実施例1に係るパネルの回路構成図である。
【図3】実施例1に係るパネルの製造工程断面図である。
【図4】実施例1に係わる転写ローラの説明図である。
【図5】実施例1に係るパネルの断面図である。
【図6】実施例2に係るパネルの平面図である。
【図7】実施例2に係るパネルの断面図である。
【図8】実施例4に係る電子機器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各図を参照しながら本発明に関わる実施例について説明する。同一符号の部材は同一の部材を示すものとして重複する説明を省略する。また、特に断りがない限り、本明細書において、上下方向は、各図(図2,図8を除く)の±Z方向を意味するものとする。
【実施例1】
【0010】
図1は本実施例に係る電気光学装置用多面取り基板10の平面図である。多面取り基板10には、製品の最終製造段階で相互に分離されることが予定されている複数のパネル11が形成されている。各パネル11には、電気光学装置として機能するための各種部品が実装されており、同図に示す段階では、半製品の状態にある。符号50は、受け部材を示しており、その説明は後述する。なお、多面取り基板10は、母基板と称することもできる。
【0011】
図2はパネル11の回路構成図である。パネル11には、走査線駆動回路16に接続する複数の走査線12と、信号線駆動回路15に接続するとともに各走査線12に交差する方向に延在する複数の信号線13と、各信号線13に並行に延在する複数の電源線14とがそれぞれ配線されている。走査線12と信号線13とが交差する箇所には、走査線12からの走査信号がそのゲート端子に供給されるスイッチングトランジスタ21と、スイッチングトランジスタ21がオン状態のときにスイッチングトランジスタ21を介して信号線13から供給される画素信号を保持する保持容量22と、保持容量22の電位がそのゲート端子に供給される駆動トランジスタ23と、駆動トランジスタ23がオン状態のときに駆動トランジスタ23を介して電源線14に接続する有機EL素子27が配置されている。有機EL素子27は、電気的作用により光の光学的状態を変化させる電気光学素子として機能するものであり、発光作用を担う機能層26を陽極(画素電極)24と陰極(共通電極)25との間に備えている。
【0012】
上述の回路構成により、走査線12から走査信号がスイッチングトランジスタ21のゲート端子に供給されて、スイッチングトランジスタ21がオン状態になると、信号線13から保持容量22に画素信号が供給される。駆動トランジスタ23のオン/オフ状態は、保持容量22の電位に応じて定まり、駆動トランジスタ23がオン状態になると、電源線14から駆動トランジスタ23のチャネルを介して有機EL素子27に電流が流れる。有機EL素子27は、電流に応じた輝度で発光する。
【0013】
図3はパネル11の製造工程断面図を示す。本実施例では、画素領域40から光を取り出す方式として、ボトムエミッションを例示するが、トップエミッションにも適用可能である。多面取り基板10の材質として、適度な機械的強度と光透過性を有する材質が好ましく、例えば、ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子樹脂を用いることができる。多面取り基板10には回路素子層30が形成されている。回路素子層30には、上述の各種回路素子(走査線12、信号線13、電源線14、スイッチングトランジスタ21、保持容量22、及び駆動トランジスタ23)が埋め込み形成されている。回路素子層30の材質として、光透過性を有する絶縁膜が好ましく、例えば、シリコン酸化膜が好適である。走査線12と信号線13とが交差する箇所には、画素領域40が形成されている。画素領域40は、有機EL素子27が形成される領域であり、多面取り基板10側に向けて断面凹状に陥没している。同図に示す例では、有機EL素子27の陽極24が画素領域40に対応して回路素子層30に形成された状態が示されている。陽極24の材質として、正孔注入効果の高い材料が好ましく、例えば、インジウム錫酸化物等の金属酸化物を用いることができる。回路素子層30には、陽極24の一部の表面が画素領域40に露出するように絶縁膜31が形成されている。絶縁膜31には、画素領域40を区画するための隔壁32が形成されている。隔壁32の材質として、適度な柔軟性、耐熱性、及び耐溶剤性を有する絶縁膜が好ましく、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、メラミン樹脂等の高分子材料、ポリシラザン、ポリシロキサン等を含有した有機・無機ハイブリッド材料等が好適である。隔壁32の形成方法としては、リソグラフィ法や印刷法等、任意の方法を用いることができる。例えば、リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法で、絶縁膜31上に隔壁32の構成材料からなる層を形成した後、エッチングやアッシング等によりパターニングすればよい。
【0014】
各発光領域40には、機能層26の液状の構成材料が液滴吐出法により塗布され、更に乾燥及び焼成処理を経て機能層26が形成される。機能層26の構成として、例えば発光層/正孔注入層の積層構造を用いることができる。正孔注入層は、導電性高分子材料にドーパントを含有する導電性高分子層から成るものであり、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含有する3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを構成材料とする。発光層は、エレクトロルミネセンス現象を発現する有機発光物を構成材料とする。なお、液滴吐出法では、電気機械変換方式、帯電制御方式、加圧振動方式、電気熱変換方式、又は静電吸引方式等により微小な液滴を高解像度に吐出する液滴吐出装置を用いるのが好ましい。機能層26の液状の構成材料の粘度は、液滴吐出装置のノズルから吐出可能な粘度であることが好ましく、水性であるか油性であるかは問わない。また、そのような液状の構成材料に固体物質が混入していても構成材料全体として液滴吐出可能な粘度を有していればよい。また、液体の構成材料に含まれる固体物質は融点以上に加熱されて溶解されたものでもよく、或いは溶媒中に微粒子として分散されたものでもよい。
【0015】
機能層26の液状の構成材料を画素領域40へ正確かつムラなく着弾させるため、画素領域40の内部が親液性になるように表面処理し、隔壁32の表面が撥液性になるように表面処理するのが好ましい。親液性とは、液状の構成材料との接触角が相対的に小さい性質を意味し、撥液性とは、液状の構成材料との接触角が相対的に大きい性質を意味する。画素領域40の内部を親液性に処理するためには、例えば、酸素プラズマ処理を実施すればよい。隔壁32の表面を撥液性に処理する方法として、本実施例では、撥液性の薄膜であるラミネートフィルム33を隔壁32の表面に転写する。ラミネートフィルム33は、例えば、数十μm程度の所定膜厚を有するポリエチレンテレフタレート製ベースフィルムにフッ素コーティング剤をバーコーターで塗工し、所定条件(例えば100℃で30秒間)で加熱することにより得られる。
【0016】
図4は、ラミネートフィルム33を隔壁32の表面に転写するためのラミネータの転写ローラ60を示す。同図に示すように、転写ローラ60の両端での撓みは少なく、加圧力が相対的に大きいのに対し、転写ローラ60の中央部分での撓みは大きく、加圧力が相対的に小さい。このような圧力差を吸収するため、本実施例では、図1に示すように、転写ローラ60を受けるための受け部材50を多面取り基板10に形成する。受け部材50は、転写ローラ60の両端付近の圧力を受けることによって、基板側への過大な圧力の作用を制限し、転写ローラ60の圧力を均等化するための部材である。受け部材50の材質としては、隔壁32の材質よりも硬質であることが好ましく、例えば、シリコン窒化膜やシリコン窒化膜が好適である。同図に示す例では、各パネル11の両側にラミネート方向に沿って受け部材50が形成されている例を示しているが、この例に限られるものではなく、転写ローラ60の寸法と各パネル11の寸法との関係を考慮して、複数のパネル11のうち少なくとも一部のパネル間に受け部材50を形成し、加圧ローラ60が及ぼす圧力が均等になるようにすればよい。なお、ラミネート方向とは、ラミネートフィルム33の搬送方向を意味し、図1のY方向に一致する。また、受け部材50は、ラミネート方向に平行な方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)の二方向に格子状に形成してもよい。
【0017】
図5はパネル11の断面構造を示している。但し、同図は、多面取り基板10、回路素子層30、隔壁32、及び受け部材50のみを図示し、他の部材の図示を省略している。また、説明の便宜上、図5に示す隔壁32の形状及び寸法比率は、図3のものと異なる点に留意されたい。本実施例では、隔壁32の高さをD1、受け部材50の高さをD2としたとき、D1>D2の関係を満たすように受け部材50を形成する。但し、隔壁32は、数μオーダーの段差を有する回路素子層30上に形成されているため、その表面の高さ分布は必ずしも均一ではなく、回路素子層30の段差を反映している。隔壁32の硬度は、受け部材50の硬度よりも相対的に柔らかく、そしてその高さD1は、受け部材50の高さD2よりも高いため、ラミネートフィルム33の転写時に転写ローラ60の中央部付近から作用する圧力により隔壁32は高さ方向に圧縮される一方、受け部材50の高さ方向の圧縮は制限され、転写ローラ60の両端付近から作用する圧力が受け止められる。これにより、ラミネートフィルム33の転写時に転写ローラ60から作用する圧力を均等化することができる。
【0018】
上述の工程により、隔壁32にラミネートフィルム33が転写され、更に、各発光領域40に機能層26が形成されると、機能層26及びラミネートフィルム33のそれぞれの露出面に陰極25が全面成膜(べた成膜)される。陰極25は、例えば、カルシウムとアルミニウムの積層膜である。
【0019】
本実施例によれば、複数のパネル11が形成される多面取り基板10の隔壁32に撥液性のラミネートフィルム33を転写する際に、転写ローラ60から作用する圧力を均等化することができる。
【実施例2】
【0020】
図6は本実施例に係わるパネル11の平面図である。本実施例では、一つのパネル11内に受け部材50を形成している。パネル11の寸法が転写ローラ60の寸法よりも大きい場合等には、転写ローラ60から作用する圧力を均等化するために、一つのパネル11内に受け部材50を形成するのが好ましい。同図に示す例では、各画素領域40の両側にラミネート方向に沿って受け部材50が形成されている例を示しているが、この例に限られるものではなく、転写ローラ60の寸法と各パネル11の寸法との関係を考慮して、加圧ローラ60が及ぼす圧力が均等になる位置に受け部材50を形成すればよい。但し、本実施例では、図7に示すように、受け部材50の高さD2は、隔壁32の高さD1以下に制限する。また、受け部材50の硬度は、隔壁32の硬度よりも硬いものが好ましい。また、受け部材50は、ラミネート方向に平行な方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)の二方向に格子状に形成してもよい。なお、本実施例におけるパネル11の回路構成及びその断面構造は、図2及び図3に示すものと殆ど共通しているため、その詳細な説明を省略する。
【0021】
本実施例によれば、大面積のパネル11の隔壁32に撥液性のラミネートフィルム33を転写する際に、転写ローラ60から作用する圧力を均等化することができる。
【実施例3】
【0022】
上述の実施例1,2では、電気光学素子として有機EL素子27を例示したが、本発明はカラーフィルタを有する液晶素子にも応用可能である。
【実施例4】
【0023】
次に、本実施例に係わる電子機器の具体例について説明する。
図8(A)に示すように、携帯電話530は、アンテナ部531、音声出力部532、音声入力部533、操作部534、及び表示部500を備える。
図8(B)に示すように、ビデオカメラ540は、受像部541、操作部542、音声入力部543、及び表示部500を備える。
図8(C)に示すように、テレビジョン550は、表示部500を備える。
図8(D)に示すように、ロールアップ式テレビジョン560は、表示部500を備える。
図8(A)乃至図8(D)に示す表示部500は、実施例1乃至3に記載のパネル11によって構成されている。
【0024】
なお、本実施例に係わる電子機器としては、上述の他、例えば、表示機能付きファックス装置、デジタルカメラのファインダ、携帯型TV、電子手帳、電光掲示板、宣伝広告用ディスプレイ等がある。
【0025】
上述の実施例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0026】
10…多面取り基板 11…パネル 12…走査線 13…信号線 14…電源線 15…信号線駆動回路 16…走査線駆動回路 21…スイッチングトランジスタ 22…保持容量 23…駆動トランジスタ 24…陽極 25…陰極 26…機能層 27…有機EL素子 30…回路素子層 31…絶縁膜 32…隔壁 33…ラミネートフィルム 40…画素領域 50…受け部材 60…転写ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパネルを備える電気光学装置用多面取り基板であって、
前記複数のパネルのそれぞれには、液滴吐出法により電気光学素子の液状の構成材料が塗布される画素領域を区画する隔壁が形成されており、
前記複数のパネルのうち少なくとも一部のパネル間には、前記液状の構成材料に対して撥液性の薄膜を前記隔壁に転写するための転写ローラを受ける受け部材が形成されており、
前記受け部材の高さは、前記隔壁の高さよりも低い、電気光学装置用多面取り基板。
【請求項2】
液滴吐出法により電気光学素子の液状の構成材料が塗布される画素領域を区画する隔壁と、
前記液状の構成材料に対して撥液性の薄膜を前記隔壁に転写するための転写ローラを受ける受け部材と、を備え、
前記受け部材の高さは、前記隔壁の高さ以下である、パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−230802(P2012−230802A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97879(P2011−97879)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】