説明

電気光学装置

【課題】液晶形成材料の等方相領域における外部電界の有無によるネマティック相の発現
及び消失現象に基く電気光学効果を利用した、中間調表示時においても高応答速度を実現
することができる電気光学装置を得ること。
【解決手段】液晶形成材料の等方相領域において、一対の電極間に印加される電圧に応じ
た前記液晶形成材料からのネマティック相の発現及び消失現象に基づく光透過率の変化を
利用した電気光学装置において、前記制御手段は、中間調表示を行う際には、前記一対の
電極間に印加する電圧を、中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を短時間印
加し、所定の中間調表示とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等方相領域の液晶形成材料における外部電界の有無によるネマティック相の
発現及び消失現象を利用した電気光学装置に関する。更に詳しくは、本発明は、等方相領
域の液晶形成材料において、電界を印加した際のネマティック相の発現現象及び電界を除
去した際のネマティック相の消失現象利用した、中間調表示時においても高応答速度を実
現し得る電気光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置はCRT(陰極線管)と比較して軽量、薄型、低消費電力とい
う特徴があるため、表示用として多くの電子機器に使用されている。従来の液晶表示装置
としては、液晶層に電界を印加する方法で分類すると、縦電界方式のものと横電界方式の
ものとがある。縦電界方式の液晶表示装置は、液晶層を挟んで配置される一対の電極によ
り、概ね縦方向の電界を液晶分子に印加するものである。この縦電界方式の液晶表示装置
としては、TN(Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Alignment)モード、MV
A(Multi-domain Vertical Alignment)モード、ECB(Electrically Controlled Bir
efringence)モード等のものが知られている。
【0003】
また、横電界方式の液晶表示装置は、液晶層を挟んで配置される一対の基板のうちの一
方の内面側に一対の電極が互いに絶縁して設けられており、概ね横方向の電界を液晶分子
に対して印加するものである。この横電界方式の液晶表示装置としては、一対の電極が平
面視で重ならないIPS(In-Plane Switching)モードのものと、重なるFFS(Fringe
Field Switching)モードのものとが知られている。
【0004】
これらの従来の液晶表示装置は、所定方向に配向した液晶のダイレクターの配向方向を
電界により変えて、光の透過量を変化させて画像を表示させるものである。このような従
来例の液晶表示装置の動作原理について図11を用いて説明する。なお、図11Aは従来
例の縦電界方式の液晶表示装置の模式断面図であり、液晶層に外部電場(電圧)を印加し
た時に生じる光学位相差の変化を光学素子として用いた液晶表示装置である。図11Bは
その液相表示装置における光の透過状態を示す図である。図11C、11Dは誘電率異方
性が正のネマティック液晶層における液晶層内のダイレクターの配置状態を示し、電圧無
印加状態(図11C)と電圧印加状態(図11D)を示している。なお、このような従来
の液晶表示装置のほとんどが、ネマティック液晶のような、ネマティック相―等方相の転
移温度未満における液晶のダイレクターを変化させることにより表示装置として利用して
いたものである。
【0005】
図11Aに示すように、従来の液晶表示装置は、アレイ基板ARとカラーフィルター基
板CFとの間に液晶層が挟持されており、アレイ基板ARとカラーフィルター基板CFの
液晶層側にはそれぞれ透明電極が形成されている。そして、アレイ基板AR及びカラーフ
ィルター基板CFのそれぞれ外面(液晶層とは反対側)には偏光板が配置されており、ま
た、アレイ基板AR側の偏光板の外面にはバックライト光源が配置されている。図11B
に示すように、バックライト光源からアレイ基板AR側の偏光板に入射した光は、直線偏
光光に変換され、この直線偏光光は、液晶層を通る間に位相差が付与され、更にカラーフ
ィルター層側の偏光板の透過軸と平行な光のみが透過して視認されるようになる。
【0006】
液晶層内のダイレクターは、電界が無印加状態では透明電極の表面に形成されている配
向膜の作用によって例えば水平方向に配列していたもの(図11C参照)が、電界が印加
された状態では垂直方向に配列する(図11D参照)。このように、電界の無印加状態と
電界の印加状態とでは、液晶層のダイレクターの配向状態が変化するため、液晶層を透過
する光の位相が変化する。そのため、従来の液晶表示装置では、一対の電極によって形成
される電界と偏光板の透過軸との相互作用によって光の透過量を制御することにより、所
定の画像を表示することができるようになる。なお、横電界方式の液晶表示装置は、一対
の電極がアレイ基板ARに形成されているが、一対の電極によって形成される電界と偏光
板の透過軸との相互作用によって光の透過量を制御することにより、所定の画像を表示す
るという点では、前述の縦電界方式の液晶表示装置と相違はない。
【0007】
一方、従来から液晶形性物質として種々の化合物が知られている。例えば下記化学構造
式で表される4−シアノ−4'ペンチルビフエニル(4-cyano-4'pentylbiphenyl)(以下
、「5CB」と表す。)は、24℃以下で固体であり、35℃以上で液体となり、24℃
〜35℃の間で液晶状態として存在している。すなわち、5CBは約35℃において液晶
相と液体相(等方相)との間で互いに相転移する。
【0008】
【化1】

【0009】
5CBは液晶相ではネマティック相として存在している。このネマティック相を加熱し
て行くと約35℃を境に不連続的に等方相に相転移するが、その間に、光学的、巨視的に
は等方相であるが微視的にはネマティック相の性質を示す状態(以下、「擬等方相」とい
う。)が現れる。
【0010】
この擬等方性が現れる温度範囲は約1Kと非常に狭いが、下記非特許文献1には、
(1)キラル化剤を混合したネマティック相の中に高分子の分子ネットワークを張り巡
らせることにより、電界なしの場合における擬等方相はランダムな構造の高分子ネットワ
ークにより広い温度範囲において巨視的には等方相となること、及び、
(2)電界を印加すると、擬等方相に電気光学カー効果によって誘電異方性が現れるた
め、光学的異方性が生じ、電界を取り去ると速やかに元の状態に戻ること、
(3)電界印加−除去時の応答時間は10μsecオーダーであり、従来のネマティッ
ク相の配向方向が変化する際の応答速度が数msec以上であることを考慮すると、非常
に早いこと、
等の優れた電気光学的効果が生じることが示されている。
【0011】
同じく、下記非特許文献1には、更にキラルネマティック相と等方相との間の狭い領域
に現れるブルー相中に高分子の分子ネットワークを張り巡らせると、
(4)ブルー相の発現温度が100K以上広がること、
(5)このブルー相に電界を印加すると、電気光学カー効果によって複屈折現象が現れ
、電界を除去すると複屈折現象が消失すること、
(6)電界印加−除去時の応答時間は、立ち上がり時間及び立ち下がり時間共に10〜
100μsec程度となり、従来のネマティック相の配向方向が変化する際の応答速度よ
りも非常に早いこと、
等の優れた電気光学的効果が生じることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−183937号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「液晶」第9巻第2号(2006年)、第83〜95頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような高速応答性に優れるネマティック液晶の等方性液体相におけるカー効果を利
用したものが特許文献1等に記載されている。ただし特許文献1の電気光学素子は、いず
れも印加する電界の強度によって特性変化が生じることがない、つまり、電気光学素子の
オン−オフ特性のみを利用することを前提とした高速な電気工学素子である。したがって
、その利用も高速な動作が要求される光学的なスイッチ素子ないしカラーシャッター等の
電気光学スイッチ素子に関するものが開示されている。
【0015】
一方、発明者は上記のような現象を利用した表示装置を開発すべく、液晶形成材料の等
方相領域において、外部電界の有無によるネマティック相の発現及び消失現象に基く中間
調による透過光量を任意に取り出すことができる電気光学装置の検討を種々重ねてきた。
その結果、透過率−電圧依存性(T−V)測定から、中間調表示時の応答速度は、単なる
明暗表示時の応答速度に比べて非常に遅くなることが確認された。このような現象は、高
速応答性に優れている上記のような現象を利用した電気光学装置においては全く知られて
いなかった現象である。
【0016】
発明者等は、上述のような外部電界の有無によるネマティック相の発現及び消失現象に
基く中間調表示時における応答速度が遅くなるという問題点は、中間調表示時に一時的に
中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を掛ける、たとえばオーバードライブ
法を採用することにより解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明は、液晶形成材料の等方相領域において、外部電界の有無によるネマテ
ィック相の発現及び消失現象に基く電気光学効果を利用した、中間調表示時においても高
応答速度を実現することができる電気光学装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の電気光学装置は、
液晶形成材料を挟持して対向配置された第1基板及び第2基板と、前記第1基板及び前
記第2基板の少なくとも一方の前記液晶形成材料側に形成された一対の電極と、前記第1
基板及び前記第2基板のそれぞれ外面側に配置された一対の偏光板と、前記一対の電極に
印加する電圧を制御するための制御手段と、を備え、前記液晶形成材料の等方相領域にお
いて、前記一対の電極間に印加される電圧に応じた前記液晶形成材料からのネマティック
相の発現及び消失現象に基づく光透過率の変化を利用した電気光学装置において、
前記制御手段は、中間調表示を行う際には、前記一対の電極間に印加する電圧を、中間
調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を短時間印加し、所定の中間調表示とする
ことを特徴とする。
【0018】
液晶形成材料は、低温では固体になり、高温では液体(等方相)となり、両者の中間で
液晶(例えばネマティック相)となり、液晶形成材料によって決まる温度(相転移温度)
で等方相とネマティック相との間で相転移が生じる。本発明の電気光学装置においては、
液晶形成材料の等方相領域において、一対の電極間に印加される電圧に応じた等方相の液
晶形成材料からのネマティック相の発現及び消失現象に基づく光透過率の変化を利用して
いる。すなわち、一対の電極間に電圧を印加しないと液晶形成材料は等方相のままである
が、一対の電極間に所定の電圧を印加すると等方相の液晶形成材料はネマティック相に相
転移し、このネマティック相は一対の電極間に印加されていた電圧を取り除くと消失して
元の等方相に戻る。
【0019】
液晶形成材料が等方相であると、電気光学的な位相変化が発生しないために、一対の偏
光板によって定まる条件に依存した透過率となる。それに対し、液晶形成材料が等方相か
らネマティック相に相転移すると、電気光学効果が生じるために、液晶形成材料中を透過
する光に位相変化が生じ、透過率が変化する。この液晶形成材料の等方相領域におけるネ
マティック相の発現及び消失速度は、従来の液晶形成材料のネマティック相温度域におけ
るダイレクターの再配向速度よりも大幅に早いため、高応答速度の電気光学装置が得られ
る。
【0020】
しかしながら、液晶形成材料の等方相領域におけるネマティック相の発現及び消失現象
を利用して中間調表示を行う際の応答速度は、単なる明暗表示時の応答速度よりも遅く、
条件によっては従来の液晶形成材料のネマティック相温度域におけるダイレクターの再配
向速度に近くなってしまうことがある。そこで、本発明の電気光学装置では、液晶形成材
料の等方相領域におけるネマティック相の発現及び消失現象を利用して中間調表示を行う
際に、一対の電極間に印加する電圧を、中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電
圧を短時間印加し、所定の中間調表示とするようにしている。
【0021】
本発明の電気光学装置によれば、中間調表示時に一時的に中間調とするために必要な印
加電圧よりも高い電圧を印加する、例えば、オーバードライブ技術を液晶形成材料の等方
相領域におけるネマティック相の発現及び消失現象に利用したため、中間調表示時の応答
速度が向上し、従来の液晶表示装置に比して大幅に応答速度が向上した電気光学装置が得
られる。なお、本発明の電気光学装置は、従来の液晶表示装置で使用されている配向膜を
必要としないという利点も存在する。
【0022】
本発明の電気光学装置においては、前記制御手段は、前記中間調表示の開始時点で前記
中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を印加し、所定の中間調表示になる時
点で前記中間調表示用電圧に切り替え印加するものであることが好ましい。
【0023】
中間調表示の開始時点で中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を印加すれ
ば、電気光学装置の透過率は中間調とするために必要な電圧が印加された時よりも早い応
答速度で上昇するため、短時間で所定の中間調表示の透過率に達する。そのため、本発明
の電気光学装置によれば、より中間調表示時の応答速度が向上し、従来の液晶表示装置に
比して大幅に応答速度が向上した電気光学装置が得られる。
【0024】
なお、このような光透過率が最大となる飽和電圧以上の電圧を印加した際の所定の中間
調表示になる時点は、予め実験的にルックアップテーブルを作成しておき、所定の中間調
表示時にこのルックアップテーブルを参照して一対の電極間に印加する電圧を切り替えれ
ばよい。また、従来の液晶表示装置では、過剰なオーバードライブ駆動はオーバーシュー
ト等の表示不良が生じてしまうため、高精度のオーバードライブ制御が必要とされるが、
本発明の電気光学装置によれば、光透過率が最大となる飽和電圧以上の電圧を印加しても
応答性に影響は少ないため、従来例のものよりも簡易な構成の制御手段ですむようになる

【0025】
本発明の電気光学装置においては、前記制御手段は、1フレームあたりの対応時間内に
、前記中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を時分割で印加し、所定の中間
調表示とするものとすることができる。
【0026】
本発明の電気光学装置によれば、1フレームあたりの対応時間内に、一定波形の電圧の
パルス数を変えることにより容易に所定の中間階調となるように制御することができるよ
うになるので、簡単な構成の制御手段で高精度に所定の中間階調に制御することができる
ようになる。
【0027】
本発明の電気光学装置においては、前記一対の電極はそれぞれ前記第1基板と前記第2
基板とに形成されているものとすることができる。
【0028】
従来の液晶表示装置において、一対の電極がそれぞれ第1基板と第2基板とに形成され
ているものは、TNモード、VAモード、ECBモード等の縦電界方式の液晶表示装置で
あるが、本発明はこのような縦電界方式の電気光学装置としても適用可能である。
【0029】
本発明の電気光学装置においては、前記一対の電極は前記第1基板及び前記第2基板の
一方のみに形成されているものとすることができる。
【0030】
従来の液晶表示装置において、一対の電極が第1基板及び第2基板に形成されているも
のは、FFSモード、IPSモード等の横電界方式の液晶表示装置であるが、本発明はこ
のような縦電界方式の電気光学装置としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1Aは第1実施形態の電気光学装置の1画素のアレイ基板の概要を示す平面図であり、図1Bは図1AのIB−IB線に沿った断面図である。
【図2】図2Aは第1実施形態の電気光学装置の等方相領域における液晶形成材料の状態を示す模式図であり、図2Bは電界を印加した際に発現するダイレクターの配置状態を示す模式図である。
【図3】第1実施形態の電気光学装置のV−T曲線を示すグラフである。
【図4】第1実施形態の電気光学装置の等方相領域における画素電極と対向電極との間に印加する電圧とネマティック相の発現及び消失現象の応答速度の関係を示すグラフである。
【図5】第1実施形態の電気光学装置の等方相領域における画素電極と共通電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を示すグラフである。
【図6】図6Aは通常の印加電圧波形を示す図であり、図6Bは第1のオーバードライブ電圧波形を示す図であり、図6Cは第2のオーバードライブ電圧波形を示す図である。
【図7】図7Aは第2実施形態の電気光学装置の1画素のアレイ基板の概要を示す平面図であり、図7Bは図7AのVIIB−VIIB線に沿った断面図である。
【図8】第2実施形態の電気光学装置のV−T曲線を示すグラフである。
【図9】第2実施形態の電気光学装置の等方相領域における画素電極と対向電極との間に印加する電圧とネマティック相の発現及び消失現象の応答速度の関係を示すグラフである。
【図10】第2実施形態の電気光学装置の等方相領域における画素電極と共通電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を示すグラフである。
【図11】図11Aは従来例の縦電界方式の液晶表示装置の模式断面図であり、図11Bはその光の透過状態を示す図であり、図11Cは電界無印加状態のダイレクターの配置状態を示す模式図であり、図11Dは電界印加状態のダイレクターの配置状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態
は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許
請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用
し得るものである。なお、ここで述べるアレイ基板及びカラーフィルター基板の「表面」
とは各種配線が形成された面ないしは液晶形成材料と対向する側の面を示すものとする。
また、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各層や各部材を図
面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせて表示して
おり、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0033】
なお、以下に述べる各実施形態の電気光学装置は、それぞれ本発明の動作原理を確認す
るためのものであるため、カラーフィルター基板CFのカラーフィルター層としては透明
なオーバーコート層のみを形成したものを用いている。また、以下の各実施形態の電気光
学装置で用いた液晶形成材料は、下記化学式で表される5CBである。この5CBは、誘
電率異方性が正の材料で、約35度において液晶(ネマティック相)相と液体相(等方相
)との間で相転移する。
【化2】

【0034】
[第1実施形態]
第1実施形態の電気光学装置10Aを図1を用いて説明する。なお、図1Aは第1実施
形態の電気光学装置の1画素のアレイ基板の概要を示す平面図であり、図1Bは図1Aの
IB−IB線に沿った断面図である。この電気光学装置10Aは、図1Bに示すように、
互いに対向配置されたアレイ基板AR及びカラーフィルター基板CF間に液晶形成材料L
Cを封入した構成を備えている。
【0035】
この電気光学装置10Aのアレイ基板ARは、透明な絶縁性を有するガラス等からなる
第1の透明基板11の表面上に、アルミニウムやモリブデン等の金属からなる複数の走査
線12が等間隔で平行に形成されており、また、隣り合う走査線12間の略中央には補助
容量線13が平行して形成されており、各画素の形成予定位置の補助容量線13は幅広に
形成されて補助容量電極13aとなっている。なお、走査線12は、TFTのゲート電極
Gの形成予定位置が部分的に幅広に形成されている。
【0036】
また、走査線12、補助容量線13及びガラス基板11の露出部分を覆うようにして窒
化ケイ素や酸化ケイ素等からなるゲート絶縁膜14が積層されている。そして、ゲート電
極Gの形成予定位置のゲート絶縁膜14上には非晶質シリコンや多結晶シリコンなどから
なる半導体層15が形成されている。また、ゲート絶縁膜14上にはアルミニウムやモリ
ブデン等の金属からなる複数の信号線16が走査線12と交差するようにして形成されて
おり、この信号線16からはTFTのソース電極Sが延設され、このソース電極Sは半導
体層15の表面と部分的に接触している。平面視で走査線12と信号線16とによって囲
まれた領域が1画素領域に相当する。
【0037】
更に、信号線16及びソース電極Sと同一の材料で同時に形成されたドレイン電極Dが
ゲート絶縁膜14上に設けられており、このドレイン電極Dはソース電極Sと近接配置さ
れて半導体層15と部分的に接触している。また、ドレイン電極Dは、ゲート絶縁膜14
の表面を補助容量電極13aを部分的に被覆するように、補助容量電極13aの信号線1
6側の両端部が露出するように、延在されている。この場合、ドレイン電極Dと補助容量
電極13aの平面視における重畳部分によって各画素の補助容量を形成することになる。
そして、ゲート電極G、ゲート絶縁膜14、半導体層15、ソース電極S、ドレイン電極
Dによってスイッチング素子となるTFTが構成され、それぞれの画素にこのTFTが形
成されている。
【0038】
更に、信号線16、TFT及びゲート絶縁膜14の露出部分を覆うようにして例えば窒
化ケイ素や酸化ケイ素等からなるパッシベーション膜17が積層され、パッシベーション
膜17の表面はフォトレジスト等の透明樹脂材料からなり表面が平坦となされた層間膜1
8が積層されている。また、パッシベーション膜17と層間膜18には、TFTのドレイ
ン電極Dに対応する位置にコンタクトホール19が形成されている。
【0039】
そして、それぞれの画素毎に、コンタクトホール19の内面及び層間膜18表面を被覆
するようにITO(Indium Thin Oxide)ないしIZO(Indium Zinc Oxide)等の透明導
電性材料からなる画素電極20が形成されている。なお、ここでは、画素電極20の表面
には、通常の液晶表示装置では形成されている配向膜は形成されていない。
【0040】
また、カラーフィルター基板CFは、透明な絶縁性を有するガラス等からなる第2の透
明基板21の表面上にカラーフィルター層に代わる透明なオーバーコート層22が設けら
れている。このオーバーコート層22の表面には、カラーフィルター基板CFの全面に亘
って対向電極23が積層されている。なお、対向電極23の表面には、通常の液晶表示装
置では形成されている配向膜は形成されていない。
【0041】
このようにして形成されたアレイ基板AR及びカラーフィルター基板CFを互いに対向
させ、両基板の周囲にシール材を設けることにより両基板を貼り合せ、両基板間に上述の
液晶形成材料LCを封入する。その後、アレイ基板ARの裏面側に第1の偏光板24を、
カラーフィルター基板CFの裏面側に第2の偏光板25を、それぞれクロスニコル配置と
なるように配置することにより、縦電界方式の第1実施形態の電気光学装置10Aが得ら
れる。なお、この電気光学装置10Aのセルギャップは3μmとされている。
【0042】
この第1実施形態の電気光学装置10Aの動作原理を図2を用いて説明する。なお、図
2Aは第1実施形態の電気光学装置の等方相領域における液晶形成材料の状態を示す模式
図であり、図2Bは電界を印加した際に発現するダイレクターの配置状態を示す模式図で
ある。図2Aに示すように、等方相領域においては、液晶形成材料は等方相(液体)とし
て存在しているため、液晶形成材料を透過する光は何等の影響も受けない。そのため、一
対の偏光板はクロスニコル配置されているため、一方の偏光板を透過してきた直線偏光光
に変換された光は他方の偏光板を透過することができない。しかしながら、一対の電極間
に電圧を印加して液晶形成材料に電界を印加すると、図2Bに示すように、ネマティック
相が発現する。このネマティック相を通過する光は電気光学的カー効果により位相変化が
生じるので、一方の偏光板を透過して直線偏光光に変換された光は、液晶形成材料を透過
する間に位相が変化するため、他方の偏光板を透過することができるようになるわけであ
る。すなわち、第1実施形態の電気光学装置10Aはノーマリーブラック型の電気光学装
置として作動する。
【0043】
[光学応答特性の測定1]
このようにして作成された第1実施形態の電気光学装置10Aの動作特性を確認するた
め、以下のような測定を行った。まず、電気光学装置10Aを恒温槽内で34.7℃〜3
5.2℃まで0.1℃間隔で変化させ、それぞれの温度において、画素電極と対向電極と
の間に印加する電圧を0V〜50Vまで変化させた場合の透過率(T)を測定した。
なお、今回の測定装置は、光学測定装置として大塚電子社製LCD7000を用い、温度
のモニタリング装置として安立計器株式会社製AP529Eを用いた。また光透過率はク
ロスニコル条件で、セル基板面法線に対する45°斜め入射光を直接出射方向で測定した
。その結果の内、温度Tが34.7℃、34.9℃、35.0℃、35.1℃及び35.
2℃の測定結果を電圧−透過率(V−T)曲線として図3に示した。また、35.0℃に
おける画素電極と対向電極との間に印加する電圧とネマティック相の発現及び消失現象の
応答速度の測定結果を図4に示した。
【0044】
ここで使用した液晶形成材料5CBは、34.7℃では、等方相−ネマティック相の転
移温度未満でありかつ固体化しない温度であるから、ネマティック相として存在している
。図3に示した結果によれば、34.7℃では、電圧無印加時に配向膜により配向を規制
していないために生じるディスクリネーションの影響で、光漏れによる透過率が観測され
ている。そのため、画素電極と対向電極との間に印加された電圧が小さい範囲においては
、液晶層内のダイレクターの配向が揃う影響により、電圧無印加時に対して透過率が低下
する傾向を示すが、それ以外では、通常の縦電界方式のネマティック液晶と同じ電気光学
効果を有している。
【0045】
それに対し、等方相−ネマティック相の転移温度以上の温度である35.0℃、35.
1℃及び35.2℃では、電圧無印加時には液晶形成材料が等方相となっているため、光
学的な位相変化が発生しない。そのために、等方相領域における温度T=35.0℃、3
5.1℃及び35.2℃では、クロスニコル配置された偏光板条件に依存した透過率T=
0%となっている。また、温度T=35.0℃の場合、画素電極と対向電極との間に印加
された電圧Vが30V近傍まで透過率T=0%の状態が継続し、電圧Vが30V以上とな
ると電圧Vの増加に対応して透過率が大きくなり、V=約38V付近で透過率Tがほぼ飽
和状態に達している。
【0046】
同じく、温度T=35.1℃の場合、両電極間に印加された電圧Vが42V近傍まで透
過率T=0の状態が継続し、両電極間に印加された電圧Vが42V以上となると電圧Vの
増加に対応して透過率が大きくなり、V=約45V付近で透過率Tがほぼ飽和状態に達し
ている。更に、温度T=35.2℃の場合、画素電極と対向電極との間に印加された電圧
Vが48V近傍まで透過率T=0%の状態が継続している。
【0047】
なお、温度T=34.9℃は、実質的に等方相−ネマティック相の転移温度であると認
められるが、この場合、画素電極と対向電極との間に印加された電圧Vが10V近傍まで
透過率T=0%の状態が継続し、画素電極と対向電極との間に印加された電圧Vが10V
以上となると電圧Vの増加に対応して透過率が大きくなり、V=約22V付近で透過率T
がほぼ飽和状態に達している。
【0048】
従来、このような等方相領域における電圧無印加時及び電圧印加時の液晶形成材料のネ
マティック相の発現及び消失現象の応答速度は、等方相−ネマティック相の転移温度以下
でのダイレクターの配向方向の変化よりも非常に速いものであると見なされていた。ここ
で、35.0℃における画素電極と対向電極との間に印加する電圧とネマティック相の発
現及び消失現象の応答速度を図4を用いて説明する。なお、図4は、温度T=35.0℃
のとき、画素電極と対向電極との間に印加する電圧を0V〜50Vまで変化させた場合の
電圧印加状態とした時からの透過率が最大値の90%に達するまでの立ち上がり時間tr
及び電圧無印加状態としたときからの透過率が最大値の10%まで低下するまでの立ち下
がり時間tfの測定結果を示している。すなわち、立ち上がり時間trは等方相領域にお
けるネマティック相の発現速度を表し、立ち下がり時間tfは等方相領域におけるネマテ
ィック相の消失速度を表している。
【0049】
図4に示した測定結果から、等方相領域における立ち下がり時間tfは広い電圧範囲に
わたって実質的に1msec以下であるが、立ち上がり時間trは、画素電極と対向電極
との間に印加される電圧が40V以上では実質的に1msec以下となっており、電圧が
40V未満では、電圧が低下するに従って立ち上がり時間trが急速に大きくなっており
、約30V以下ではネマティック相が発現していないことが分かる。図3に示した35.
0℃の測定結果から、画素電極と対向電極との間に印加される電圧が約30V〜38Vと
いう電圧範囲は、中間調表示領域に対応することは明らかである。すなわち、図4に示し
た測定結果によれば、従来の一般的な見解と異なり、V−T曲線に示す中間調表示時には
、むしろ従来の予想されていた応答時間より長くなる傾向を示していることが確認された
。それに対し、V−T曲線がほぼ飽和している電圧(38V以上)では立ち上がり時にお
いても非常に短い高速な応答時間を示していることが分かる。
【0050】
次に、第1実施形態の電気光学装置10Aにおいて、35.0℃で100msecの間
、画素電極と共通電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を図5を用い
て説明する。なお、図5は、第1実施形態の電気光学装置10Aの等方相領域における画
素電極と共通電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を示すグラフであ
る。
【0051】
図5に示した結果によれば、第1実施形態の電気光学装置10Aにおいて、画素電極と
共通電極との間に印加する電圧が増加するに従って立ち上がり時間が短くなり、例えば5
0V印加時には実質的に数msecで透過率が飽和状態となる。なお、画素電極と共通電
極との間に印加されていた電圧を除去すると、最初に印加されていた電圧の如何に関わら
ず、直ちに透過率は0%まで低下する。この50Vという印加電圧は、図3の記載から明
らかなように、35.0℃における透過率が飽和状態となる電圧よりも十分に高い電圧で
ある。しかしながら、図5に示した応答曲線によれば、50Vもの電圧を印加しても応答
特性に悪影響は認められない。
【0052】
このことは、第1実施形態の電気光学装置10Aは、液晶形成材料の等方相領域の所定
温度における透過率が飽和する電圧よりも高い電圧を印加しても、応答速度は速くなるが
他の応答特性に悪影響が生じないことを意味するものである。そのため、第1実施形態の
電気光学装置10Aによれば、中間調表示を行う際に、一対の電極間に印加する電圧を中
間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を本来の印加時間よりも短時間印加し、
所定の中間調表示になる時点で中間調表示用電圧に切り替え、本来の印加時間が終わるま
で印加する。つまり、一定期間(例えば、1フレームや1フィールド)単位で通常は所望
の中間調の電圧が印加されているが、この一定期間よりも短い期間に所望の中間調の電圧
よりも高い電圧が印加される。また、中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧
としては所定温度における透過率が飽和するよりも高い電圧を採用してもよい。すなわち
、図5は、図6Aに示すように100msecの間所定の一定置を示す電圧を印加した場
合の応答曲線であるが、図6Bに示したような電圧を印加することもできる。
【0053】
このような一対の電極間に印加する電圧を、短時間所定の電圧よりも高い電圧とした後
に所定の電圧とすることは、オーバードライブとして知られている技術である。第1実施
形態の電気光学装置10Aによれば、このようなオーバードライブ技術を液晶形成材料の
等方相領域におけるネマティック相の発現及び消失現象を利用して中間調表示を行う際に
適用したため、中間調表示時の応答速度が向上し、従来の液晶表示装置に比して大幅に応
答速度が向上する。
【0054】
なお、このような光透過率が最大となる飽和電圧以上の電圧を印加した際の所定の中間
調表示になる時点は、予め実験的にルックアップテーブルを作成しておき、所定の中間調
表示時にこのルックアップテーブルを参照して一対の電極間に印加する電圧を切り替えれ
ばよい。また、従来の液晶表示装置では、過剰なオーバードライブ駆動はオーバーシュー
ト等の表示不良が生じてしまうため、高精度のオーバードライブ制御が必要とされるが、
第1実施形態の電気光学装置10Aによれば、光透過率が飽和する電圧以上の電圧を印加
しても応答特性の大きな変化は起こらないため、従来のものよりも簡易な構成の制御手段
ですむようになる。したがって中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を一定
の電圧とすることも容易に行えるので、この短時間に印加される高い電圧を中間調毎に調
整する必要もない。またこの短時間に印加される高い電圧を複数のパルスとして印加して
もよい。
【0055】
なお、第1実施形態の電気光学装置10Aにおいては、図6Cに示したように、中間調
とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を時分割で印加し、所定の中間調表示とする
こともできる。この方法は、電圧の印加と無印加とを時分割して平均値で印加電圧を表現
する方法である。いわゆるデジタル駆動ともいわれるような方法である。特にこの場合で
は、1フレームあたりで分割、例えば64分割することにより、64/64の場合に透過
率100%の場合に対応するようにすることができる。この方法よれば、一定波形の電圧
のパルス数を変えることにより容易に所定の中間階調となるように制御することができる
ようになるので、簡単な構成の制御手段で高精度に所定の中間階調に制御することができ
るようになる。
【0056】
[第2実施形態]
第1実施形態の電気光学装置10Aとしては、縦電界方式のものを示したが、本発明は
横電界方式のものに対しても適用可能である。そこで、第2実施形態の電気光学装置10
Bとして横電界方式のものに適用した例を図7を用いて説明する。なお、図7Aは第2実
施形態の電気光学装置10Bの1画素のアレイ基板の概要を示す平面図であり、図7Bは
図7AのVIIB−VIIB線に沿った断面図である。また、第2実施形態の電気光学装置10
Bにおいては、第1実施形態の液晶表示装置10Aと同一の構成部分には同一の参照符号
を付与して説明する。この第2実施形態の電気光学装置10Bも、図2Bに示すように、
互いに対向配置されたアレイ基板AR及びカラーフィルター基板CF間に液晶形成材料L
Cを封入した構成を備えている。
【0057】
アレイ基板ARは、透明な絶縁性を有するガラス等からなる第1の透明基板11の表面
上に、アルミニウムやモリブデン等の金属からなる複数の走査線12が等間隔で平行に形
成されており、走査線12はTFTのゲート電極Gの形成予定位置が部分的に幅広に形成
されている。更に、走査線12及びガラス基板11の露出部分を覆うようにして窒化ケイ
素や酸化ケイ素等からなる透明なゲート絶縁膜14が積層されている。そして、平面視で
ゲート電極Gと重なるゲート絶縁膜14上には非晶質シリコンや多結晶シリコンなどから
なる半導体層15が形成されている。また、ゲート絶縁膜14上にはアルミニウムやモリ
ブデン等の金属からなる複数の信号線16が走査線12と交差するようにして形成されて
おり、この信号線16からはTFTのソース電極Sが延設され、このソース電極Sは半導
体層15の表面と部分的に接触している。
【0058】
更に、信号線16及びソース電極Sと同一の材料で同時に形成されたドレイン電極Dが
ゲート絶縁膜14上に設けられており、このドレイン電極Dはソース電極Sと近接配置さ
れて半導体層15と部分的に接触している。走査線12と信号線16とによって囲まれた
領域が1サブ画素領域に相当する。ゲート電極G、ゲート絶縁膜14、半導体層15、ソ
ース電極S、ドレイン電極Dによってスイッチング素子となるTFTが構成され、それぞ
れのサブ画素にこのTFTが形成されている。
【0059】
更に、信号線16、TFT及びゲート絶縁膜14の露出部分を覆うようにして例えば窒
化ケイ素や酸化ケイ素等からなる透明なパッシベーション膜17が積層されている。そし
て、パッシベーション膜17を覆うようにして、例えばフォトレジスト等の透明樹脂材料
からなる層間膜18が積層されている。そして、層間膜18を覆うようにしてITOない
しIZO等の透明導電性材料からなる下電極26が形成されている。層間膜18とパッシ
ベーション膜17を貫通してドレイン電極Dに達するコンタクトホール19が形成されて
おり、このコンタクトホール19を介して下電極26とドレイン電極Dとが電気的に接続
される。そのため、この電気光学装置10Bにおいては、下電極26は画素電極として作
動する。
【0060】
下電極26を覆うようにして、例えば窒化ケイ素や酸化ケイ素等からなる透明な電極間
絶縁膜27が積層されている。そして、電極間絶縁膜27を覆うようにしてITOないし
IZO等の透明導電性材料からなる上電極28が形成されている。図7Aに示すように、
上電極28には複数のスリット状開口29が形成されている。この上電極28は表示領域
の周辺部の額縁領域PFでコモン配線に電気的に接続されている。そのため、この電気光
学装置10Bにおいては、上電極28は共通電極として作動する。スリット状開口29は
例えば長円形状であり、その長手方向は走査線12の延在方向に対して右上がりに約5度
傾斜している。そして、上電極28の表面には配向膜は形成されていない。このような、
第2実施形態の電気光学装置10Bのアレイ基板ARの構成は、配向膜を除いた以外は従
来のFFSモードの液晶表示装置におけるアレイ基板と同様の構成となっている。
【0061】
また、カラーフィルター基板CFは、透明な絶縁性を有するガラス等からなる第2の透
明基板21の表面上にカラーフィルター層に代わる透明なオーバーコート層22が設けら
れている。このオーバーコート層22の表面には、通常のFFSモードの液晶表示装置で
は形成されている配向膜は形成されていない。
【0062】
このようにして形成されたアレイ基板AR及びカラーフィルター基板CFを互いに対向
させ、両基板の周囲にシール材を設けることにより両基板を貼り合せ、両基板間に上述の
液晶形成材料を封入する。その後、アレイ基板ARの裏面側に第1の偏光板24を、カラ
ーフィルター基板CFの裏面側に第2の偏光板25を、それぞれクロスニコル配置となる
ように配置することにより、横電界方式の第2実施形態の電気光学装置10Bが得られる
。なお、この電気光学装置10Aのセルギャップは約3μm、上電極28のスリット状開
口29に挟まれた部分の幅L及びスリット状開口29部分の幅Sは共に約2.5μmとさ
れている。
【0063】
この第2実施形態の電気光学装置10Bの動作原理は、画素電極に対応する下電極26
及び対向電極に対応する上電極28がアレイ基板ARに形成されているが、実質的に第1
の実施形態の電気光学装置10Aの場合と同様である。すなわち、第2実施形態の電気光
学装置10Bは、等方相領域においては、液晶形成材料は等方相(液体)として存在して
いるため、液晶形成材料を透過する光は何等の影響も受けない。そのため、一対の偏光板
はクロスニコル配置されているため、一方の偏光板を透過してきた光は他方の偏光板を透
過することができない。しかしながら、一対の電極間に電圧を印加して液晶形成材料に電
界を印加すると、ネマティック相が発現する。このネマティック相を通過する光は電気光
学的カー効果により位相変化が生じるので、一方の偏光板を透過して直線偏光光に変換さ
れた光は、ネマティック相を透過する間に位相が変化するため、他方の偏光板を透過する
ことができるようになるわけである。すなわち、第2実施形態の電気光学装置10Bはノ
ーマリーブラック型の電気光学装置として作動する。
【0064】
[光学応答特性の測定2]
このようにして作成された第2実施形態の電気光学装置10Bの動作特性を確認するた
め、第1の実施形態の電気光学装置10Aの場合と同様の測定を行った。まず、電気光学
装置10Bを恒温槽内で34.7℃〜35.1℃まで0.1℃間隔で変化させ、画素電極
と対向電極との間に印加する電圧を0V〜100Vまで変化させた場合の透過率(T)を
測定した。その結果の内、温度Tが34.7℃、35.0℃及び35.1℃の測定結果を
電圧−透過率(V−T)曲線として図8に示した。また、35.0℃における画素電極と
対向電極との間に印加する電圧とネマティック相の発現及び消失現象の応答速度の測定結
果を図9に示した。
【0065】
ここで使用した液晶形成材料5CBは、34.7℃では、等方相−ネマティック相の転
移温度未満でありかつ固体化しない温度であるから、ネマティック相として存在している
。図8に示した結果によれば、34.7℃では、電圧無印加時に配向膜により配向を規制
していないために生じるディスクリネーションの影響で、光漏れによる透過率が観測され
ている。そのため、上電極と下電極との間に印加された電圧が小さい範囲においては、液
晶層内のダイレクターの配向が揃う影響により、無印加時に対して透過率が低下する傾向
を示すが、それ以外では、通常の縦電界方式のネマティック液晶と同じ電気光学効果を有
している。
【0066】
それに対し、等方相−ネマティック相の転移温度以上の温度である35.0℃及び35
.1℃では、電圧無印加時には液晶形成材料が等方相となっているため、光学的な位相変
化が発生しない。そのために、等方相領域における温度T=35.0℃及び35.1℃で
は、クロスニコル配置された偏光板条件に依存した透過率T=0%となっている。
【0067】
温度T=35.0℃の場合、画素電極と対向電極との間に印加された電圧Vが40V近
傍まで透過率T=0%の状態が継続し、電圧Vが45V以上となると電圧Vの増加に対応
して透過率が大きくなり、V=約75V付近で透過率Tがほぼ飽和状態に達している。同
じく、温度T=35.1℃の場合、両電極間に印加された電圧Vが55V近傍まで透過率
T=0%の状態が継続し、両電極間に印加された電圧Vが60V以上となると電圧Vの増
加に対応して透過率が大きくなり、電圧Vが100V以上で透過率Tがほぼ飽和状態に達
している。
【0068】
また、35.0℃における画素電極と対向電極との間に印加する電圧とネマティック相
の発現及び消失現象の応答速度の関係を図9を用いて説明する。なお、図9は、温度T=
35.0℃のとき、画素電極と対向電極との間に印加する電圧を0V〜70Vまで変化さ
せた場合の電圧印加状態とした時からの透過率が最大値の90%に達するまでの立ち上が
り時間tr及び電圧無印加状態としたときからの透過率が最大値の10%まで低下するま
での立ち下がり時間tfの測定結果を示している。すなわち、立ち上がり時間trは等方
相領域におけるネマティック相の発現速度を表し、立ち下がり時間tfは等方相領域にお
けるネマティック相の消失速度を表している。
【0069】
図9に示した測定結果から、第2実施形態の電気光学装置10Bでは、等方相領域にお
ける立ち下がり時間tfは広い電圧範囲にわたって実質的に2msec以下であるが、立
ち上がり時間trは、電圧Vが8V以下及び60V以上では実質的に2msec以下とな
っており、電圧Vが8V〜60Vの間では立ち上がり時間trが大きくなっている。特に
電圧Vが15V〜30Vの範囲では立ち上がり時間trは15msec以上と大きくなっ
ていることが分かる。ただ、第2実施形態の電気光学装置10Bにおいては、図8に示し
た35.0℃の測定結果から、上電極と下電極との間に印加される電圧Vが約40V〜7
5Vが中間調表示領域に対応するため、中間調表示領域では立ち上がり時間trは5ms
ec以下であるから、第1実施形態の電気光学装置10Aよりも中間調表示領域の応答速
度は速い。また、V−T曲線がほぼ飽和している電圧(75V以上)では立ち上がり時に
おいても非常に短い応答時間を示していることが分かる。
【0070】
次に、第2実施形態の電気光学装置10Bにおいて、35.0℃で100msecの間
、上電極と下電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を図10を用いて
説明する。なお、図10は、第2実施形態の電気光学装置10Bの等方相領域における上
電極と下電極との間に所定の一定電圧を印加した際の透過率の変化を示すグラフである。
【0071】
図10に示した結果によれば、第2実施形態の電気光学装置10Bにおいても、上電極
と下電極との間との間に印加する電圧が増加するに従って立ち上がり時間が短くなり、例
えば90V印加時にはほぼ数msecで透過率が飽和状態となる。なお、上電極と下電極
との間との間に印加されていた電圧を除去すると、最初に印加されていた電圧の如何に関
わらず、直ちに透過率は0%まで低下する。この90Vという印加電圧は、図8の記載か
ら明らかなように、35.0℃における透過率が飽和状態となる電圧よりも十分に高い電
圧である。しかしながら、図10に示した応答曲線によれば、90Vもの電圧を印加して
も応答特性に悪影響は認められない。
【0072】
このことは、第2実施形態の電気光学装置10Bは、液晶形成材料の等方相領域におけ
る透過率が飽和する電圧よりも高い電圧を印加しても、応答速度は速くなるが他の応答特
性に悪影響が生じないことを意味するものである。そのため、第2実施形態の電気光学装
置10Bにおいても、第1実施形態の電気光学装置10Aの場合と同様に、オーバードラ
イブ技術を適用することより応答速度を速めることができることが分かる。例えば、第2
実施形態の電気光学装置10Bにおいては、中間調表示を行う際に、一対の電極間に印加
する電圧を中間調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を短時間印加し、所定の中
間調表示とすることができる。すなわち、図10は、図6Aに示すように100msec
の間所定の一定置を示す電圧を印加した場合の応答曲線であるが、図6Bや図6Cに示し
たような波形の電圧を印加することもできる。
【0073】
なお、上記第1及び第2の実施形態の電気光学装置では、カラーフィルター基板CFに
カラーフィルター層に代えてオーバーコート層を備えている例を示したが、通常の液晶表
示装置のように各種の色のカラーフィルター層を備えているものとすれば、上記効果を奏
しながらも各種のカラー表示が可能な電気光学装置が得られる。更に、上記第1及び第2
の実施形態の電気光学装置では、一対の偏光板をクロスニコル配置した例を示したが、一
対の偏光板を平行ニコル配置となるように配置することもできる。この場合は、ノーマリ
ーホワイト型の電気光学装置が得られる。また、上記第2実施形態の電気光学装置では、
従来のFFSモードの液晶表示装置と同様の電極配置とした例を示したが、従来のIPS
モードの液晶表示装置と同様の電極配置とすることもできる。また、本実施形態において
は液晶形成材料として誘電率異方性が正のものを用いたが、誘電率異方性が負の液晶形成
材料を用いても構わない。
【符号の説明】
【0074】
10A、10B…電気光学装置 11…第1の透明基板 12…走査線 13…補助容
量線 13a…補助容量電極 14…ゲート絶縁膜 15…半導体層 16…信号線 1
7…パッシベーション膜 18…層間膜 19…コンタクトホール 20…画素電極 2
1…第2の透明基板 22…オーバーコート層 23…対向電極 24…第1の偏光板
25…第2の偏光板 26…下電極 27…電極間絶縁膜 28…上電極 29…スリッ
ト状開口 LC…液晶形成材料 AR…アレイ基板 CF…カラーフィルター基板 TF
T…薄膜トランジスター tr…立ち上がり時間 tf…立ち下がり時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶形成材料を挟持して対向配置された第1基板及び第2基板と、前記第1基板及び前
記第2基板の少なくとも一方の前記液晶形成材料側に形成された一対の電極と、前記第1
基板及び前記第2基板のそれぞれ外面側に配置された一対の偏光板と、前記一対の電極に
印加する電圧を制御するための制御手段と、を備え、前記液晶形成材料の等方相領域にお
いて、前記一対の電極間に印加される電圧に応じた前記液晶形成材料からのネマティック
相の発現及び消失現象に基づく光透過率の変化を利用した電気光学装置において、
前記制御手段は、中間調表示を行う際には、前記一対の電極間に印加する電圧を、中間
調とするために必要な印加電圧よりも高い電圧を短時間印加し、所定の中間調表示とする
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記中間調表示の開始時点で前記中間調とするために必要な印加電圧
よりも高い電圧を印加し、所定の中間調表示になる時点で前記中間調表示用電圧に切り替
え印加するものであることを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記制御手段は、1フレームあたりの対応時間内に、前記中間調とするために必要な印
加電圧よりも高い電圧を時分割で印加し、所定の中間調表示とするものであることを特徴
とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記一対の電極はそれぞれ前記第1基板と前記第2基板とに形成されていることを特徴
とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記一対の電極は前記第1基板及び前記第2基板の一方のみに形成されていることを特
徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気光学装置。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−39369(P2011−39369A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188285(P2009−188285)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(304053854)エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】