説明

電気分解式塩水滅菌方法及び電気分解式塩水滅菌装置

【課題】
従来の電気分解式滅菌方法及び装置は、処理能力及び滅菌能力が低く、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度を選択的に高めること、またその濃度を自由かつ正確に調節することが不可能である。
【解決手段】
電解液である塩水を、直流電源を用いて電解槽中で電気分解する工程を包含する電気分解式塩水滅菌方法であって、該塩水は、隔膜によって陽極側の塩水と陰極側の塩水に隔てられており、該陽極側の塩水は電解槽から排出された後に、電解槽の陽極側の区画に再度導入され、該直流電源から出力される電流量は一定に維持される、電気分解式塩水滅菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩水を電気分解して滅菌する方法及び装置に関し、延いては同滅菌方法で得られる滅菌塩水に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸イオン等の塩素系活性物質は強い殺菌力を有し、水を消毒する用途に広く利用されている。例えば、プール、銭湯又は水道の水には、次亜塩素酸ナトリウムが添加されている。
【0003】
しかし、次亜塩素酸イオン等の殺菌力は持続性に劣り、水の殺菌力のレベルを一定時間基準値以上に維持するために、次亜塩素酸ナトリウムを常に過剰に含有させる必要がある。その結果、消毒された水に入ったり、これを飲用したりすると、肌荒れ、目の炎症、健康に対する悪影響を被る怖れがある。
【0004】
所定の殺菌効果を維持しつつ人体に対して悪影響を与えない水の消毒方法として、特許文献1には、被処理水を電解合成することにより、被処理水中に次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンを発生させることが記載されている。水には塩分として、Cl、Cl、Cl等が含まれており、これらの溶存塩素を還元して次亜塩素酸イオンを生成させることで、水の消毒が行なわれる。
【0005】
この方法を実施するための滅菌消毒装置は、被処理水が消毒処理される滞留槽を備え、該滞留槽の内部に、陽極と陰極がそれぞれ配置されており、所定の電圧を印加することにより、被処理水を電解合成するように構成されている。
【0006】
しかしながら、水は本来導電性が低く、通電するために高電圧を印加しなければならず、大規模な電源が必要である。また、被処理水の電気抵抗は、電気分解の進行、水の種類及び流量等に依存して変化する。それゆえ、電圧を所定の値に維持、即ち定電圧制御を行ったのでは、滞留層に流れる電流量が増減して不安定になる。その結果、電気分解反応によって生成される活性物質の量も不安定なものになる。
【0007】
また、滞留槽の陽極側で次亜塩素酸イオンが生成すると同時に、陰極側ではアルカリや活性物質も生成し、これらは処理水中にそのまま拡散するため、設備や人体が悪影響を被る怖れがある。また、陰極側で生成したアルカリや活性物質は陽極側で発生する次亜塩素酸イオン等の活性物質と再結合して消毒効果を低減させる。
【0008】
それゆえ、かかる構成では、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度を自由かつ正確に調節することが困難であり、所定の殺菌効果を維持しつつ人体に対して悪影響を与えない消毒水を持続的に提供することはできない。
【0009】
特許文献2には、正極と負極の極間距離を4〜8mmとして、少なくとも一対の正極と負極の組み合わせからなる塩素発生用の電極部と該電極部に通電するための電源部を備え、前記電極部を、被処理水を溜めた水槽部に浸漬したことを特徴とする電解式滅菌装置が記載されている。また、水の導電率が変化しても安定した電解直流値を得るために、直流電源を用い、定直流制御を行うことが記載されている。
【0010】
しかし、本来水に通電される電流量は少量であり、加えて、電極間距離が狭いため水は電極間を通過し難く、処理能力が低い。更に、上述のように、陰極側で発生するアルカリや活性物質が処理水にそのまま拡散するため、滅菌能力が低い。
【0011】
また、近年、船舶のバラスト水を介して海棲生物が国境を越えて各地に輸送され、生態系のバランスに悪影響を与えている。かかる問題の解決策として、バラスト水から海棲生物を除去する必要があり、バラスト水として使用される海水を効率的及び安価に消毒殺菌する方法が求められている。
【0012】
特許文献3には、希塩酸を無隔膜電解槽で電解した電解液を海水に混合することを特徴とする、海水に浮遊する微生物の殺滅方法が記載されている。しかしながら、塩酸は劇物であるため取扱いが困難であり、高価である。また、塩酸を電気分解すれば塩素ガス及び水素ガスが発生するため危険性が高く、排出ガスの処理が煩雑である。更に、使用される電解装置は無隔膜であり、従来の電解式滅菌装置と同様に十分な殺菌能力が得られない。
【0013】
このように、従来の電気分解式滅菌方法及び装置は、処理能力及び滅菌能力が低く、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度を選択的に高めること、またその濃度を自由かつ正確に調節することが不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−5522
【特許文献2】特開2004−82104
【特許文献3】特開2010−23034
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、処理能力及び殺菌能力が高く、かつ、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度を選択的に高め、また自由かつ正確に調節することが可能な電気分解式塩水滅菌方法及び電気分解式塩水滅菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、電解液である塩水を、直流電源を用いて電解槽中で電気分解する工程を包含する電気分解式塩水滅菌方法であって、
該塩水は、隔膜によって陽極側の塩水と陰極側の塩水に隔てられており、
該陽極側の塩水は電解槽から排出された後に、電解槽の陽極側の区画に再度導入され、
該直流電源は定電流制御される、
電気分解式塩水滅菌方法を提供する。
【0017】
ある一形態においては、前記塩水の塩分濃度が0.1%以上である。
【0018】
ある一形態においては、前記塩水が海水である。
【0019】
また、本発明は、上記いずれかの方法により得られる滅菌塩水を提供する。
【0020】
ある一形態においては、前記滅菌塩水は、残留塩素濃度300ppm以上及び酸化還元電位1150mV以上である。
【0021】
また、本発明は、前記いずれかの滅菌塩水を、海水に添加する工程を包含する滅菌された船舶のバラスト水の製造方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記いずれかの滅菌塩水を、船舶のバラスト水に添加する工程を包含する船舶のバラスト水の滅菌方法を提供する。
【0023】
ある一形態においては、前記滅菌された船舶のバラスト水は、残留塩素濃度0.7ppm以上及び酸化還元電位825mV以上である。
【0024】
また、本発明は、直流電源及び該直流電源を定電流制御する手段、
電解液を保持する空間、該直流電源に接続される陽極及び陰極を有する電解槽、
該電解液を収納する空間を陽極側区画と陰極側区画に隔てる隔膜、
該電解槽の陽極側区画及び陰極側区画に保持された電解液である塩水、及び
該陽極側区画の塩水を電解槽から排出して、電解槽の陽極側区画に再度導入する手段、
を有する電気分解式塩水滅菌装置を提供する。
【0025】
ある一形態においては、前記塩水の塩分濃度が0.1%以上である。
【0026】
ある一形態においては、前記塩水が海水である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の方法又は装置は、処理能力及び殺菌能力が高く、かつ、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度が選択的に高められ、また自由かつ正確に調節された、滅菌塩水を提供することができる。この滅菌塩水は、例えば、上記活性物質の濃度を低く調節してそのまま船舶のバラスト水、消毒用塩水又は湯治用塩水等として使用することができる。又は、上記活性物質の濃度を高く調節して、船舶のバラスト水、プール、銭湯又は水道等の水に添加する消毒液として使用することができる。
【0028】
また、本発明の滅菌方法又は装置を使用することにより、いわゆるバラスト水管理条約に規定された水質基準を簡易、迅速かつ安価に充足することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態である電気分解式塩水滅菌装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施例で使用した従来公知の電解槽を示す組立分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一実施形態である電気分解式塩水滅菌装置の構成を示す模式図であり、電解槽1は、電解液を保持する空間を有し、その空間の内部に2つの電極を有する。電極は直流電源2を有する電源システムに接続され、一方は陽極4、他方は陰極5である。電源システムは直流電源2及び定電流制御機能又は定電流制御装置3を備える。
【0031】
電源システムとしては、定電流制御機能又は定電流制御装置がスイッチング電源の外側に付属する形態のもの、又は過電圧保護機能及び過電流保護機能を備えた電源装置等が使用される。コスト等の実用性を考慮すると、過電圧保護機能及び過電流保護機能を備えた電源装置が好ましい。過電圧保護機能及び過電流保護機能を備えた電源装置では、電解液の導電性が低い場合、例えば電解初期又は低塩分濃度の場合は最大電圧(過電圧保護値に至る)で電解が行われ、電解液の導電性が高い場合、例えば電解が進行した後又は高塩分濃度の場合は最大電流(過電流保護値に至る)で電解が行われる。この場合、最大電力(例えば、15V、20Aの電源では300W)以内に収まるように電圧が自動的に制御される。
【0032】
電解槽1は、また、電解液を保持する空間の内部に隔膜6を有する。隔膜6によって、電解液を保持する空間は、陽極側区画7と陰極側区画8に隔てられる。隔膜6は、電気分解される電解液を陰極5側と陽極4側に分離する用途に従来から使用されてきたものであれば、いずれも使用することができる。隔膜6の具体例としては、ポリエステル不織布、ポリフッ化ビニリデン多孔質膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、塩素化エチレン多孔質膜、ポリ塩化ビニル多孔質膜などが挙げられる。
【0033】
更に、隔膜6としては、陽イオン交換膜を使用してもよい。電気分解の効率が向上することがあるからである。陽イオン交換膜の具体例としては、デュポン(株)社製ナフィオン(登録商標)324、同424、及びAGCエンジニアリング(株)社製セレミオン(登録商標)424などが挙げられる。
【0034】
電解槽1は、電解液である塩水が、隔膜6によって陽極側区画7と陰極側区画8に隔てられた状態で、陰極5及び陽極4とそれぞれ接触することができるように構成されていれば足り、図1に示される形態の通りに構成する必要はない。公知の有隔膜電解槽であれば、いずれも本発明に使用することができる。
【0035】
例えば、WO2005/105678の、特に図2には、電解液を保持する容器を兼ねた四角柱形の外側電極とその内側に入る四角柱形の網状内側電極と該外側電極と該内側電極の間に設置された四角柱形の隔膜を有する電解槽が記載されている。かかる構成の電解槽は本発明においても、好ましく使用することができる。
【0036】
電解槽1には、陽極側区画7及び陰極側区画8の両方に、電解液として塩水を保持させる。塩水とは、塩分を含む水をいう。塩分は溶存塩素、イオン化された塩素及び対カチオンを含む水溶性の塩等を意味する。例えば、塩分には、海水に含まれる固形分、食塩、塩化ナトリウムなどが包含される。
【0037】
塩水の塩分濃度は0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上にすることが好ましい。塩水の塩分濃度が0.1%未満であると塩水の通電性が低下し、活性物質の生成効率が低下する。
【0038】
塩水の塩分濃度に上限は特に考えられず、飽和塩水(塩分濃度約27%)であっても使用できる。しかしながら、低温時における塩析の観点から、塩水の塩分濃度は25%以下、特に20%以下であることが好ましい。例えば、塩水の濃度は0.8〜15%、好ましくは1〜10%である。塩水として、海水(塩分濃度3〜4%)をそのまま用いてもよい。
【0039】
電解槽1は、陽極側区画7の塩水を循環させて、繰り返し電気分解することを可能にする循環手段を備える。循環手段は、例えば、タンク連絡ライン9、調整タンク10、戻しライン11及びポンプ12を有する。電気分解が行われた塩水は、一旦電解槽1から排出され、調整タンク10に貯蔵され、ポンプ12で駆動されて、電解槽1の陽極側区画7に再度導入される。
【0040】
調整タンク10は、滅菌塩水取り出しライン13及び、要すれば、塩水導入ライン14を備える。
【0041】
電解槽1は、陰極側区画8に塩水を導入する塩水導入ライン16を備える。電解槽1は、要すれば、陰極側区画8の塩水を排出する排出ライン15を備える。また、同電解槽1は、陰極側区画8の塩水を一旦電解槽1から排出させ、同電解槽1の陰極側区画8に再度導入させる手段を備えてもよい。
【0042】
本発明の電気分解式塩水滅菌方法は上記電気分解式塩水滅菌装置を用いて行うことができる。まず、塩水を、電解槽1の隔膜6で隔てられた陽極側区画7及び陰極側区画8に導入する。塩水の塩分濃度は陽極側区画7及び陰極側区画8で同一であっても相違してもよい。通常は、一種類の塩水を電解槽1の陽極側区画7及び陰極側区画8にそれぞれ導入する。
【0043】
次いで、処理対象である塩水を電解槽1の陽極側区画7に導入し、電源システムを起動して、塩水の電気分解を開始する。塩水は水と比較して導電性が高く、このように電解槽1の陽極側区画7及び陰極側区画8に塩水を導入すると、高電圧を印加しなくても通電を行うことができる。つまり、電気分解時に高電圧を印加する必用は無く、小規模、コンパクトな電源を使用することができる。
【0044】
直流電源2からの電気の供給は、電流量が一定になるように制御して行われる。塩水中に生成する活性物質の量は電解槽1を流れる電流量に依存して決定され、電流量が一定になるように制御することで生成する活性物質の量を正確に調節することが可能になるからである。但し、電解液を流れる電流量は、必ずしも電気分解の開始から終了まで一貫して一定を保つ必要は無く、電気分解の定常状態において電解液を流れる電流量が一定になるように制御されれば足りる。具体的な電流量は、電極面積、塩水の濃度、装置の規模や処理能力、目的とする活性物質の濃度などに応じて変化させてよい。
【0045】
電流量は、陽極4の面積を基準にして電流密度が約0.004〜0.1A/cm、好ましくは約0.06〜0.07A/cm、より好ましくは約0.01〜0.05A/cmになるように調節する。
【0046】
けだし、電流密度が0.06A/cm未満であると電解効率が悪く、所定の温度にするため長時間を要することとなり、0.7A/cmを超えると電解熱が余分に発生し隔膜6等を消耗させることになるからである。
【0047】
電解槽1内の塩水は、溶存塩素及びナトリウムイオン等を含有する。この塩水に通電すると、溶存塩素は陽極側区画7に移動し、ナトリウムイオンは陰極側区画8に移動する。陽極側区画7に移動した溶存塩素は陽極4に接触して還元されて、次亜塩素酸等の活性物質に変化する。陰極側区画8に移動したナトリウムイオンは、陰極5において水が酸化されて生成する水酸化物イオンと共にアルカリ(NaOH)として存在する。
【0048】
本発明の方法では、隔膜6によって陽極側区画7の塩水と陰極側区画8の塩水に隔てられており、各区画7,8の塩水はそれぞれ独立して移動し得る。それゆえ、溶存塩素が還元されて得られる活性種は陽極側区画7の塩水に含まれたまま、ナトリウムイオンを含む陰極側区画8の塩水と分離された状態で移動して、電解槽1から排出される。その結果、陰極側区画8で発生するアルカリや活性物質が、陽極側区画7で発生する活性物質と再結合して、活性物質の濃度が低下する現象が抑制される。
【0049】
また、特に、電解槽1の隔膜6として陽イオン交換膜を使用すれば、陰極5で生成する水酸化物イオン等の陰イオンが隔膜6を通過して陽極側区画7に侵入することが防止され、電気分解の効率が向上し、結果として、溶存塩素を還元して得られる活性種の生成効率が向上する。
【0050】
電気分解に供された陽極側区画7の塩水は電解槽1から排出された後に、タンク連絡ライン9、調整タンク10、ポンプ12及び戻しライン11を通過して電解槽1の陽極側区画7に再度導入される。そこで、一度電気分解に供された塩水が再び電気分解に供される。
【0051】
このように、塩水を電解槽1の陽極側区画7に循環させて繰り返し電気分解することにより、溶存塩素を還元して得られる活性物質が塩水中に蓄積され、濃度が上昇する。その際、電気分解は定電流制御されているため還元反応が定常的に進行し、1回の電気分解により、又は単位電気分解時間において、生成する活性物質の量は一定であり、正確に決定される。
【0052】
塩水に含まれる活性物質の量は、例えば、調整タンク10でモニターすればよい。調整タンク10には、例えば、濃度調節のために、塩水導入ライン14から電気分解していない塩水を導入してもよい。そして、塩水に含まれる活性物質濃度が、意図される用途に適した水準に達した時に、電気分解に供された塩水を、滅菌塩水として、滅菌塩水取り出しライン13から取り出せばよい。
【0053】
つまり、電解槽1に通電する電流量を一定にしておいて、塩水の循環回数を調節すれば、溶存塩素を還元して得られる活性物質の濃度を低濃度から高濃度まで自由に、しかも正確に調節することが可能になる。
【0054】
電気分解中、陰極側区画8の塩水は操作する必要がない。例えば、陰極側区画8の塩水は陰極側区画8に保持されたままにしておいてよい。塩水中に生成するアルカリの濃度が上昇して、危険性又は設備に対する悪影響が発生する前に排出し、新たな塩水に置換してもよい。陰極側区画8の塩水は、一旦電解槽1から排出させ、例えば、冷却等の処理を行った後に、電解槽1の陰極側区画8に再度導入してもよい。その場合、陰極側区画8に導入する前に、新たな塩水を一部混合してもよい。
【0055】
得られた滅菌塩水をそのまま船舶のバラスト水として使用する場合、残留塩素濃度が0.4ppm以上であれば、十分な殺菌効果が得られる。本発明の方法では、残留塩素濃度は遊離塩素濃度と同等になる。好ましくは、船舶のバラスト水としての上記滅菌塩水は、残留塩素濃度0.4ppm以上、より好ましくは0.7ppm以上である。
【0056】
また、船舶のバラスト水としての上記滅菌塩水は、好ましくは、酸化還元電位700mV以上、より好ましくは750mV以上、更に好ましくは、825mV(遊離塩素濃度0.77ppm,pH7.18の場合)以上である。
【0057】
けだし、上記滅菌塩水の酸化還元電位が700mV未満であると、バラスト水中の生物等に対する殺菌力が不安定となり、825mV以上であると、希釈倍率が低く、また、殺菌効果が高くなるため、バラスト水中に残留する遊離塩素濃度を動物プランクトン等の生物、下述する細菌類の死滅に十分な濃度にすることができるからである。
【0058】
尚、2004年2月に国際海事機関により採択された、いわゆるバラスト水管理条約では、排水が許されるバラスト水中の水生生物量が規定されている。その規定による微生物に関する基準値は、病原性コレラ菌1cfu/100ml未満、大腸菌250cfu/100ml未満、及び腸球菌100cfu/100ml未満である。本発明の船舶のバラスト水は上記基準値を満足する。
【0059】
得られた滅菌塩水を船舶のバラスト水に添加する消毒液として使用する場合、3通りの実施形態が考えられる。即ち、船舶のタンクにバラストとして外部から水を導入する際に、導入される水に滅菌塩水を添加する。船舶にバラストとして貯留されているバラスト水に滅菌塩水を添加する。及び、バラスト水を外部に排出する際に滅菌塩水を添加する。船舶のタンクにバラストとして導入される水の種類は通常は海水であるが、特に限定されない。3通りの実施形態のうちのいずれか1種類又は2種類が行われてよく、又は3種類全てが行われてもよい。
【0060】
船舶のバラスト水に添加する消毒液として使用する場合、好ましい実施形態では、滅菌塩水は、残留塩素濃度200ppm以上、好ましくは200〜1000ppm、より好ましくは300〜800ppmである。また、上記滅菌塩水は、酸化還元電位1100mV以上、好ましくは1100〜1200mV、より好ましくは1150〜1180mVである。
【0061】
けだし、上記滅菌塩水の残留塩素濃度が200ppm未満であると、バラスト水の希釈度合が不十分になり、短時間に大容量の処理が不可能となる。1000ppmを超えると電解装置の耐塩素能力を超えるため装置そのものの劣化が激しくなるからである。上記滅菌塩水の酸化還元電位が1100mV未満であると、希釈度合が低くなり短時間に大容量の処理が不可能となり、1200mVを超えると装置そのものの劣化が激しくなる。
【0062】
処理対象である水(例えば、海水)に対するバラスト水消毒液としての滅菌塩水の添加量は、得られるバラスト水中の残留塩素濃度が適量になるように調節すればよい。好ましい実施形態では、バラスト水消毒液としての滅菌塩水は、体積比で100〜500倍量、好ましくは150〜400倍量、より好ましくは150〜300倍量の水に添加されて、バラスト水が製造される。
【0063】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0064】
実施例1
図2を参照して、四角柱形の外塔21(内部の寸法:縦16cm、横16cm、高さ17cm)、電解液と接触する部分に白金をコートしたチタニウム板(縦15cm、横15cm、厚み0.2cm)を4枚四角柱形に配置した外側電極22、ポリフッ化ビニリデン多孔質膜を有する四角柱形(縦14cm、横14cm、高さ0.3cm)の隔膜23、白金をコートしたチタニウム板(縦14cm、横12cm、厚み0.2cm)を4枚四角柱形に配置した内側電極24、及び上蓋25を、図示されるように組み合わせて、電解槽1を作製した。
【0065】
電解槽1の全容積は3600cmである。このうち、陽極側区画7の容積は450cmであり、陰極側区画8の容積は3000cmである。
【0066】
定電流制御装置3として、直流電源ユニット(オムロン社製「S8VM300」)を使用した。電解槽1の外側電極22は電源ユニットの陽極(図示せず)に接続し、内側電極24は陰極(図示せず)に接続した。電解槽1を図1に示す様にラインに接続した。次いで、お台場海浜公園から採取した塩分濃度約1.6%の海水を電解槽1の陽極側区画7及び陰極側区画8に満たして、電気分解式塩水滅菌装置を構成した。
【0067】
滅菌処理対象である上記海水5リットルを準備した。電流量を0.0267A/cmに制御して海水の電気分解を開始した。同時に、電解槽1の陽極側区画7に対し、滅菌処理対象の海水の供給を開始した。供給量は3500ml/分とした。電解槽1を排出した海水は調整タンク10に一旦貯蔵し、約5リットル溜まったところで、再び電解槽1の陽極側区画7に循環させた。調整タンク10において、海水に含まれる残留塩素濃度をモニターした。電気分解時間が5分、海水の循環回数が30回になったところで、残留塩素濃度300ppm、酸化還元電位(ORP)1151mVの滅菌海水5リットルが得られた。
【0068】
電気分解の間、陰極側区画8の海水は排出させず、新たな海水の補給も行わなかった。その結果、pH10.32、ORP−790mVのアルカリ水が生成された。
【0069】
実施例2
滅菌処理対象の海水を8リットル準備し、電気分解時間を8分、海水の循環回数を30回行って、滅菌海水の残留塩素濃度を300ppm、ORP1151mVとすること以外は実施例1と同様にして、活性物質濃度が高い滅菌海水を得た。
【0070】
実施例1及び2で得られた活性物質濃度が高い滅菌海水は、滅菌処理していない海水で150倍に希釈しても、無菌状態を維持することができるため、前述した海洋性物の移動を禁止するバラスト水管理条約のバラスト水処理基準をクリアすることができ、バラスト水に添加する消毒液として最適に使用することができる。
【0071】
換言すれば、本滅菌方法の前処理として、例えばフィルターなどの濾過手段(図示せず)や取水パイプ等の物理的構造手段(図示せず)と併用することによって、
最小径50μm以上の生物の生存個体数がバラスト水1m3当り10未満、
最小径10μm以上50μm未満の生物の生存個体数がバラスト水1ml当り10未満、
コレラ菌のコロニー形成数が、各々、バラスト水100ml当り1未満又は動物プランクトン1g当り1未満、
大腸菌のコロニー形成数がバラスト水100ml当り250未満、
腸球菌のコロニー形成数がバラスト水100ml当り100未満
を満たすように処理しても良い。
【0072】
上記基準は、国際海事機関(IMO)が2004年に採択したバラスト水管理条約において定められる、規制水域に排出される場合のバラスト水浄化規制基準に準じており、(b)膜濾過工程で製造するバラスト水が上記基準を満たす場合、バラスト水を清浄な状態で船体外に排出でき好ましい。
【0073】
尚、最小径50μm以上の生物とは主に動物プランクトンであり、最小径10μm以上50μm未満の生物とは主に植物プランクトンである。バラスト水が上記基準を満たしているか否かは上記バラスト水管理条約に準じた公知の測定方法により評価されることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1…電解槽
2…直流電源
3…定電流制御装置
4…陽極
5…陰極
6…隔膜
7…陽極側区画
8…陰極側区画
9…タンク連絡ライン
10…調整タンク
11…戻しライン
12…ポンプ
13…滅菌塩水取り出しライン
14、16…塩水導入ライン
15…排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液である塩水を、直流電源を用いて電解槽中で電気分解する工程を包含する電気分解式塩水滅菌方法であって、
該塩水は、隔膜によって陽極側の塩水と陰極側の塩水に隔てられており、
該陽極側の塩水は電解槽から排出された後に、電解槽の陽極側の区画に再度導入され、
該直流電源は定電流制御される、
電気分解式塩水滅菌方法。
【請求項2】
前記塩水の塩分濃度が0.1%以上である請求項1に記載の電気分解式塩水減菌方法。
【請求項3】
前記塩水が海水である請求項1又は2に記載の電気分解式塩水減菌方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法により得られる滅菌塩水。
【請求項5】
残留塩素濃度300ppm以上及び酸化還元電位1150mV以上である請求項4記載の滅菌塩水。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の滅菌塩水を、海水に添加する工程を包含する滅菌された船舶のバラスト水の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の滅菌塩水を、船舶のバラスト水に添加する工程を包含する船舶のバラスト水の滅菌方法。
【請求項8】
滅菌された船舶のバラスト水が残留塩素濃度0.7ppm以上及び酸化還元電位825mV以上である請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
直流電源及び該直流電源を定電流制御する手段、
電解液を保持する空間、該直流電源に接続される陽極及び陰極を有する電解槽、
該電解液を収納する空間を陽極側区画と陰極側区画に隔てる隔膜、
該電解槽の陽極側区画及び陰極側区画に保持された電解液である塩水、及び
該陽極側区画の塩水を電解槽から排出して、電解槽の陽極側区画に再度導入する手段、
を有する電気分解式塩水滅菌装置。
【請求項10】
前記塩水の塩分濃度が0.1%以上である請求項9に記載の電気分解式塩水減菌装置。
【請求項11】
前記塩水が海水である請求項9又は10に記載の電気分解式塩水減菌装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−152695(P2012−152695A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14265(P2011−14265)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(504174054)JWSテクニカ株式会社 (4)
【出願人】(510286662)株式会社ガイア (1)
【Fターム(参考)】