説明

電気化学センサーの製造方法およびそれに用いる導電ペースト

【課題】 センサー毎のバラツキを小さくし、かつ長期間保存してもその性能を維持する電気化学センサーを得る。
【解決手段】 基板上に形成された電極部上に、メディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子ならびに1種または2種以上の溶剤を含む導電ペーストを印刷して乾燥する電気化学センサーの製造方法において、前記溶剤のうち少なくとも1種が250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できるものであることを特徴とする電気化学センサーの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の物質量を定量する為の電気化学センサーの製造方法およびそれに用いる導電ペーストに関し、特に酵素電気化学の原理を利用するバイオセンサーに有用な電気化学センサーの製造方法およびそれに用いる導電ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素を膜上に固定し、膜を電極上に装着する酵素膜型電極は、グルコースセンサーや、ラクテートセンサーとして、臨床検査分野や食品検査分野でも実用化されている。又、基板上にスクリーン印刷法により電極部を形成し、その上に酵素を固定したディスポーザブル型バイオセンサーも、糖尿病患者の増大により、主に血糖値測定用グルコースセンサーとして広く使われている。
【0003】
酵素を固定したバイオセンサーにおいては、メディエータと酸化還元酵素を使用したセンサーが主流であり、メディエータも水溶性であるフェリシアン化カリウムを使用したセンサー、フェロセンなどの非水溶性メディエータを使用したセンサーがある。フェロセンなどの非水溶性メディエータを使用する場合、伝導性物質で形成された電極部上に、有機溶媒に溶かしたメディエータを塗布後風乾によりメディエータを固定したり、カーボンペーストとメディエータを混合し、スクリーン印刷によりメディエータを固定したりする方法がある(引用文献1、2)。
【0004】
基板上にスクリーン印刷する際に使用するカーボンペーストとして、基板との接着機能を発揮するバインダー樹脂を溶解でき、沸点が120〜250℃の範囲である溶剤を用いたものが知られており、例えば特許文献3には、このようなペーストを印刷後乾燥して、基板上に電極部を構成する方法が開示されている。
【0005】
メディエータの固定方法については、導電ペーストに混合して印刷する以外、電極部にゾル・ゲル材料で固定する方法もある(引用文献4)。
【0006】
印刷用導電ペーストの他の例として、水混和性の導電性インクが知られている。例えば、導電材料、酵素、メディエ−タ、結合材(樹脂ポリマ−と水混和性有機共溶媒)を含み、水をベースとする水混和性の分散体として配合し、乾燥時に水及び結合材中の有機共溶媒が除去され、結合材の作用を保持しつつ水不溶性となる水混和性の導電性インクを使用した酵素電気化学の原理を利用したセンサーが開示されている(引用文献5)。
【0007】
しかし、メディエータを固定した電気化学センサーにおいて、メディエータの機能を、センサー毎のバラツキもなく長期間確保することは、電気化学センサー上に酵素を固定したバイオセンサーの性能のバラツキを低減し長期保存性を発揮する上でも重要であり、引用文献1、引用文献2、引用文献4及び引用文献5に示されるようなメディエータの固定方法では、センサー製作時や保存時に、ゾルやゲル中の水分や導電ペースト中の溶媒の蒸発によりメディエータのモビリティが低下し、十分な酸化還元電流が得られないため、センサー毎の性能のバラツキが大きいという問題や長期保存安定性がないという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特表2002−502500号公報
【特許文献2】特開2003−139737号公報
【特許文献3】特表2006−512585号公報
【特許文献4】特表2002−506209号公報
【特許文献5】特開2006−292761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、センサー毎のバラツキを小さくし、かつ長期間保存してもその性能を維持する電気化学センサーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すような手段により上記課題を解決できることを見いだし、本発明に達した。すなわち本発明は以下のものである。
【0011】
基板上に形成された電極部上に、メディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子ならびに1種または2種以上の溶剤を含む導電ペーストを印刷して乾燥する電気化学センサーの製造方法において、前記溶剤のうち少なくとも1種が250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できるものであることを特徴とする電気化学センサーの製造方法。
【0012】
メディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子ならびに1種または2種以上の溶剤を含む電気化学センサー用導電ペーストにおいて、前記溶剤のうち少なくとも1種が250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できるものであることを特徴とする電気化学センサー用導電ペースト。
【発明の効果】
【0013】
電気化学センサーを製造する際に、高沸点溶媒を含む導電ペーストを使用することにより、メディエータを固定した電気センサーの酸化還元電流の減少を抑えることができる。従って電気化学センサー上に酵素を固定したバイオセンサーにおいて、初期性能のバラツキが小さく、長期保存安定性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
本発明の電気化学センサーは、基板としてフィルムを使用することが好ましいがガラスエポキシ樹脂を使用しても構わない。フィルムの材質は、通常手に入れやすいポリエチレンテレフタレートが好ましいが、これに限定するものではない。電気化学センサーとしての強度、取り扱いやすさを考慮して、基板フィルムの厚みは100μm以上、好ましくは250μm以上がよい。本発明においては、基板上に電極部を設ける方法は特に限定されないが、導電性微粒子を含む導電ペーストをスクリーン印刷して製作する方法も好ましく、その場合当該導電ペーストと密着性のよい表面処理、例えば特開2000−289171に示されるようなポリウレタン樹脂を被覆したフィルムを使用することが好ましい。
【0015】
上記の方法で基板上に形成された電極部上に導電ペーストを印刷して乾燥することにより電気化学センサーを製造する。印刷方法は特に限定されないが、スクリーン印刷が簡便で好ましい。スクリーン印刷する導電ペーストとしては、少なくともメディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子および適切な粘性を提供する溶剤を含む必要がある。導電性微粒子としては、カーボンが好ましい。カーボンとしては、導電性カーボンブラックまたは/およびグラファイトを含むものが好ましい。
【0016】
カーボンブラックとしては公知のケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラックなどが知られているが、導電性よりケッチェンブラックとアセチレンブラックが好ましい。
【0017】
グラファイトとしては公知のリン片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛や人造黒鉛が知られているが、導電性よりリン片状黒鉛が特に好ましい。
【0018】
グラファイトとカーボンブラックの配合比は、特に限定しないが導電性や粘性より95:5〜60:40(質量比)が好ましい。カーボンブラックが質量比で5未満の場合、導電性が悪くなり、質量比が40を超えると
粘性が極めて高くなり、分散性、作業性が悪くなる。混合し易さや、表面抵抗を下げる上でより好ましくは90:10〜80:20(質量比)である。
【0019】
バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、マレイン化ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類などが上げられる。これらは、単独又は2種以上併用して使用される。これらのうち、基板フィルムへの密着性の観点からポリエステル樹脂が好ましい。又、必要に応じて、熱硬化促進剤、架橋剤、光開始剤、消泡剤、分散剤などを添加してもよい。
【0020】
メディエータは、酸化還元酵素の電子伝達体として機能するレドックス化合物であれば特に制限はなく、具体的には、フェロセン、フェロセン誘導体、ベンゾキノン、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン、ナフトキノン誘導体、チオニン、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトルサルフェ−トなどが挙げられる。これらのうち、後述する溶剤への溶解性の観点から、非水溶性であることが好ましく、特にフェロセン、フェロセン誘導体、ベンゾキノン、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン、ナフトキノン誘導体、チオニンが好ましい。本発明に使用されるメディエータの導電ペースト中含量は、電子伝達機能から考慮して過飽和であれば問題なく、スクリーン印刷が可能となる粘性であり、電子伝達に必要な電気抵抗性を持つ範囲であればよく、固形成分全体を100質量%としたときに、好ましくは5〜50質量%の範囲に入ればよい。より好ましくは10質量%〜45質量%の範囲で混合された組成であればよい。
【0021】
非水溶性メディエータとしては、試薬として安定なフェロセンを使用することが好ましい。導電ペーストを電極部にスクリーン印刷した場合、センサー毎のバラツキをチェックする上で、表面比抵抗の測定を行なうことが好ましい。同一電極部での印刷回数は特に限定しないが、1回以上であればよい。比抵抗測定において、フェロセン含量が5〜50質量%の範囲であれば比抵抗は5×10−1Ωcm以下となる。好ましくは2×10−1Ωcm以下である。
【0022】
本発明において使用される導電ペーストの溶媒はその種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系などが挙げられるが、スクリーン印刷する場合はエチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、イソホロン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、DBE(インビスタジャパン製)、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレングリコールのモノアルキルエーテルアセテートなどの高沸点溶剤が好ましい。好ましい溶剤の沸点は250℃以上、より好ましくは280℃以上である。具体的には、バインダー樹脂との相溶性がよい溶媒が使用され、1種類の高沸点溶媒を使用してもよいし、2種類以上の高沸点溶媒をブレンドして使用してもよい。具体例を挙げると、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、相溶性が非常によいエチルカルビトールアセテート(沸点217℃)とブチルセロソルブアセテート(沸点188℃)を75/25(質量比)で混合した溶媒と沸点が250℃以上であるメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルや、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)などの高沸点溶媒をブレンドした物を用いる。本発明の特徴である沸点が250℃以上の溶媒の混合比は、導電ペーストの固形成分に対して3〜20質量%添加した物を用いる。
【0023】
3質量%未満では、導電ペースト乾燥時に揮発や溶解できるメディエータ量が少ないので、メディエータのモビリティを低下させてしまう問題がある。20質量%を越えると乾燥性が悪くなり、塗膜がウエットになるので、酵素を安定して固定できなくなる問題が生じる。
乾燥性を良くするために乾燥温度を高くする方法もあるが、塗膜中の高沸点溶剤の残存量をコントロールが困難のため、実用的ではない。
【0024】
本発明に使用される高沸点溶媒の更なる特徴として、使用するメディエータがある程度の濃度以上溶解することである。具体的には、導電ペースト中のメディエータが20℃において24時間放置後に1質量%以上溶解できるものであればよい。好ましくは3質量%以上が溶解するものである。メディエータは、電気化学センサー表面の導電ペーストに含まれる溶媒中に一部溶解し、水溶液サンプルと酵素の酸化還元反応による電子移動を電極部に伝達する。メディエータは高沸点溶媒に溶解した方が、分子レベルで存在しやすくなり拡散移動性が優れるので電子伝達機能も優れる。よってメディエータを固定した電気化学センサーの酸化還元電流値も大きくなり、固定した酵素との酸化還元反応による電子伝達も優れると思われる。
【0025】
本発明において導電ペーストを印刷後、実施される乾燥は、電気センサー表面のタック性(指で押さえて指にペーストが付着する量で乾燥状態を判断)をなくす為に行われる。最適な温度と時間設定が必要であるが、好ましくは温度30℃以上で時間は15分以上であればよい。より好ましくは30〜40℃で30分〜60分の範囲であればよい。
【0026】
これまで説明してきたスクリーン印刷による電気化学センサーの製造方法をまとめると、基板上にまず基準極(又は対極)と作用極をスクリーン印刷で形成する。具体的には銀/塩化銀ペーストやカーボンペーストを印刷し乾燥させる。次に作用極上に導電ペーストをスクリーン印刷して、作用極上にメディエータを固定する。タック性のない乾燥条件である30〜40℃で30分〜60分の範囲で乾燥させる。乾燥後も沸点が250℃以上の高沸点溶媒はセンサー表面に残存し、メディエータのモビリティを確保している。バイオセンサーとするために前記電気化学センサー上に酵素を固定する方法は特に限定しない。例えばペルオキシターゼ酵素を固定する場合は、特開2003−139737で開示される方法で製作しても良い。
【実施例】
【0027】
上記導電ペーストを印刷した電気化学センサーの物理的、電気的な評価方法として、以下の密着性の試験、比抵抗測定、タック性試験、フェロセン溶解度試験、及び酸化電流測定を行った。
【0028】
[密着性の試験方法]
導電性ペーストを厚み100μmのアニール(150℃×2時間)処理PETフィルムに乾燥後の膜厚が5〜10μmになるように25mm幅で長さ200mmのパターンをスクリーン印刷した。これを、ボックスオーブン150℃×30分の条件で乾燥したものをテストピースとした。作成したテストピース用いてJIS K−5400碁盤目−テープ法に準じて、試験板の塗膜表面にカッターナイフで基材に達するように、直行する縦横11本ずつの平行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。その表面にセロハン粘着テープCT−12(ニチバン製)を密着させ、テープを急激に剥離した際のマス目の剥がれ程度を観察し、評価した。100/100は全く剥離しなかったことを表し、0/100は全て剥離してしまったことを表す。ペースト塗膜が凝集破壊して、わずかにセロハンテープの端部に付着する場合は100/100(エッジ部表層剥離)とした。
【0029】
[比抵抗の測定]
導電性ペーストを厚み100μmのアニール(150℃×2時間)処理PETフィルムに乾燥後の膜厚が5〜10μmになるように25mm幅で長さ50mmのパターンをスクリーン印刷した。作成したテストピースを自作電極に印刷面を電極側にしてのせ、その上からさらに厚み3mmのリジットなアクリル板をのせて事務用クリップで圧着した。次に、銀ペーストの場合、4深針抵抗測定器(横河ヒューレットパッカード(株)製ミリオームメーター4328A型)と電極上部をわに口クリップ及び銅線をもちいて接続し、シート抵抗を測定した。カーボンペーストの場合はデジタルマルチメーター(アドバンテストR6341A)で同様に測定した。別途、膜厚をデジタル膜厚計で測定し、これらより比抵抗を算出した。比抵抗は次式にて算出し、単位はΩ・cmで表した。
比抵抗(Ω・cm)=シート抵抗(Ω)×膜厚(cm)
【0030】
[タック性(乾燥性)の測定方法]
導電ペーストをスクリーン印刷で25×200mmのパターンで印刷し、乾燥温度30℃、乾燥時間5分、15分、30分、60分のテストピースを作成した。乾燥膜厚は5〜10μmになるように調整した。このテストピース(塗膜)を人さし指で押えて、指に付着する塗膜量を評価し判断した。指に付着する塗膜量がゼロの場合にタック性無しと判断した。
【0031】
[フェロセン溶解度試験]
フェロセンを各溶媒1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、5質量%の9段階で添加し、十分混合後20℃で24時間放置する。24時間後各濃度のフェロセンが完全に溶けているかどうかを目視でチェックし、フェロセンの溶解度を求めた。
【0032】
[電気化学センサーの酸化電流測定]
製作した電気化学センサーを、リン酸バッファ溶液(pH7付近)に侵漬し、市販ポテンショスタット装置(扶桑製作所製 ポテンショ/ガルバノスタット1112型)に接続し、印加電圧を0.5Vかける。市販スターラを用い300rpmで液を攪拌させる。基準極と作用極間に印加電圧をかけて得られる酸化電流値を求めた。製作した電気センサーの種類により酸化電流値が安定しない場合は、印加電圧をかけて15分後の値を酸化電流値とした。
【0033】
導電ペーストの製造は以下の方法により行った。
あらかじめエチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=75/25(質量比)にポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製バイロン290)を固形分35(質量比)で溶解し、このワニス16.2固形質量部にグラファイトBF((株)中越黒鉛工業所製)13.8質量部、導電性カーボンブラックとしてケッチェンブラックECP 600JD(ライオン(株)製)2.5質量部、レベリング剤としてのMKコンク(共栄社化学(株)製)0.3質量部、分散剤としてのディスパビック−101(ビックケミー(株)製)0.3重量部、メディエータとしてのフェロセン19.9質量部、250度以上の高沸点溶剤としてハイモールPM(東邦
化学工業(株)製)をペーストの固形部に対して5質量部配合し、充分プレミックスした後、3本ロールで3回分散して、導電ペーストを得た。粘度をエチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=75/25(質量比)で希釈して310dPa・sに調整したところ、揺変度は4.2であった。比抵抗は1.2×10−1(Ω・cm)であった。
[実施例1]
高沸点溶媒6種類を、導電性ペースト中に5質量%ずつ添加し混合した。高沸点溶媒添加のないスタンダートも含めスクリーン印刷により電気化学センサーを製作した。各センサーの配合成分や密着性試験、比抵抗性試験、タック性試験、フェロセン溶解度試験の結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
次に各センサーを60℃30分乾燥し、導電性ペースト中に含まれている溶媒(エチレンカルビトールアセテート/ブチルセルソルブアセテート)を蒸発させ添加した高沸点溶媒のみ残存する状態にした。表1より60℃30分乾燥で高沸点溶媒の残存が確認されている。スタンダードも含め各高沸点溶媒が残存する電気化学センサーの酸化電流測定を行った。結果を図1に示す。結果より、高沸点溶媒を添加しないスタンダードと比較して高沸点溶媒ハイモールPMとTOTM添加系の酸化電流値が高い。又表1と併せて比較すると、沸点が250℃以上の溶媒では、フェロセンの溶解度の大きい溶媒程酸化電流値が高い傾向にあることがわかる。
【0036】
[実施例2]
高沸点溶媒ハイモールPM、TOTM及びC16を用い、導電性ペースト中に各高沸点溶媒を5質量%、10質量%、及び15質量%ずつ添加した電気化学センサーを製作し、乾燥条件はタック性の残らない30℃30分で乾燥させ、各センサーの酸化電流測定を行った。全ての検討においてスタンダードと比較した。酸化電流測定結果を図2に示す。結果よりいずれの高沸点溶媒とも、溶媒添加量による酸化電流値の差はほとんどなく、30℃30分の乾燥条件ではハイモールPMの方がTOTM及びC16より酸化電流値が明らかに大きい結果となった。
【0037】
本発明の電気化学センサーの最終目的は、電気化学センサー上に酵素を固定したバイオセンサーへの適用である。そこで、上記条件で準備した各電気化学センサー上に、ペルオキシターゼ酵素を固定しその上にアセチルセルロース膜をコーティングした過酸化水素センサーを製作した。各条件における過酸化水素センサーの感度、再現性、応答をスタンダードと比較した。結果を表2に示す。結果よりハイモールPMとTOTMが、スタンダードと比較して応答において優れた傾向にあることがわかる。スタンダ−ドでは過渡応答(最初に反応シグナルが大きく振れ、その後シグナルが減衰していく応答)が見られシグナルが安定するまで10分以上かかる。ハイモ−ルPMとTOTM添加系電気化学センサーではいずれもシグナルが安定するまでの時間は5分以内である。高沸点溶媒の添加量に対する感度や再現性、応答の差は、TOTM添加濃度が15質量%の場合感度が若干低いことと、C16添加濃度が15質量%の場合再現性が若干悪いこと以外大きな差は見られない。
【0038】
【表2】

【0039】
次に高沸点溶媒ハイモールPM5質量%添加系とスタンダード電気化学センサーを製作し、乾燥条件はタック性の残らない30℃30分および加速試験として60℃30分で乾燥させ、ペルオキシターゼ酵素を固定した過酸化水素センサーを製作した。各条件における過酸化水素センサーの感度、再現性、応答をスタンダードと比較した。結果を表3に示す。スタンダードと比較した場合、ハイモールPM添加系センサーは、初期性能(感度、再現性、応答)と標準液中1週間の保存試験後の両方共明らかに優れている。スタンダードと比較して、ハイモールPMを添加することで、初期性能も向上し保存安定性も向上していることがわかる。尚、スタンダ−ドにおいて、初期性能試験における合格品応答曲線を図3に、過渡応答曲線を図4に、保存試験における感度不良曲線を図5に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
[実施例3]
高沸点溶媒ハイモールPM5質量%添加系とスタンダード電気化学センサーを製作し、乾燥条件もタック性のない30℃30分で乾燥させ、ペルオキシターゼ酵素を固定した過酸化水素センサーを10センサー製作した。比較の為スタンダードも同様10センサー製作した。各センサーの初期感度、応答、再現性をチェックした。標準規格値と比較し合格品の歩留まりを表4に示す。結果よりスタンダードと比べ、高沸点溶媒添加系電気化学センサーを用いたバイオセンサーは、明らかに初期感度のバラツキも低減しており標準規格値と比較した合格数の歩留まりも向上している。これにより電気化学センサーの製作において高沸点溶媒添加の有効性が実証された。
【0042】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、センサー毎のバラツキを小さくし、かつ長期間保存してもその性能を維持する電気化学センサーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】数種類の高沸点溶媒添加系電気化学センサーにおける酸化電流測定値の比較を示したグラフである。
【図2】2種類の高沸点溶媒添加系電気化学センサーにおいて、添加濃度を3段階に変化させた場合の酸化電流測定値の比較を示したグラフである。
【図3】過酸化水素センサー(スタンダード)における初期性能試験での応答の時間変化を表したグラフである。応答が十分であると共に応答時の電極出力が一定である。センサーとして優れた性能を有するものの一例である。
【図4】過酸化水素センサー(スタンダード)における初期性能試験での応答の時間変化を表したグラフである。応答が十分であるが時間の経過と共に応答時の電極出力が変化するものであり、過渡応答性を示している。センサーとして不適なものの一例である。
【図5】過酸化水素センサー(スタンダード)における保存試験(標準液中7日経過)後の応答の時間変化を表したグラフである。応答時の電極出力は一定であるが、応答が不十分である。センサーとして不適なものの一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された電極部上に、メディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子ならびに1種または2種以上の溶剤を含む導電ペーストを印刷して乾燥する電気化学センサーの製造方法において、前記溶剤のうち少なくとも1種が250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できるものであることを特徴とする電気化学センサーの製造方法。
【請求項2】
前記250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できる溶剤が、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系および炭水化物系からなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項3】
前記250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できる溶剤が、導電ペーストの固形成分に対して3質量%〜20質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項4】
前記導電ペーストの導電性微粒子が、カーボンブラックまたは/およびグラファイトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項5】
前記導電ペーストのバインダー樹脂が、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項6】
前記導電ペーストのメディエータが、導電ペースト全固形分成分を100質量%としたときに、5質量%〜50質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項7】
前記導電ペーストのメディエータが、フェロセンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学センサーの製造方法。
【請求項8】
メディエータ、バインダー樹脂、導電性微粒子ならびに1種または2種以上の溶剤を含む電気化学センサー用導電ペーストにおいて、前記溶剤のうち少なくとも1種が250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できるものであることを特徴とする電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項9】
前記250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できる溶剤が、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系および炭水化物系からなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項10】
前記250℃以上の沸点を有し、かつ前記メディエータを20℃で1質量%以上溶解できる溶剤が、導電ペーストの固形成分に対して3質量%〜20質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項8または9に記載の電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項11】
前記導電性微粒子が、カーボンブラックまたは/およびグラファイトであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項12】
前記バインダー樹脂が、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項13】
前記メディエータが、導電ペースト全固形分成分を100質量%としたときに、5質量%〜50質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の電気化学センサー用導電ペースト。
【請求項14】
前記メディエータが、フェロセンであることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の電気化学センサー用導電ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−309602(P2008−309602A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157075(P2007−157075)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】