説明

電気化学デバイス及びこれを用いた電池

【課題】 機械的強度の高い電極材料層を有する電気化学デバイスを得ること。
【解決手段】 集電体上に電極材料層を有する電気化学デバイスであって、電極材料層が、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、及びフラーレン類を含有する電気化学デバイス、この電気化学デバイスを電極とする電池。フラーレン類の含有により、電極材料層の機械的強度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の電気化学デバイスに関する。また、本発明は、この電気化学デバイスを電極とする電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達に伴い、小型、軽量、及びエネルギー密度が高い二次電池の開発が望まれている。このような二次電池としてリチウム二次電池が知られている。
リチウム二次電池は、通常、正極、負極、及び電解液を含有する電解質から構成される。正極及び負極(以下、正極及び負極をまとめて電極と呼ぶ場合がある。)は、通常、集電体上に正極活物質又は負極活物質(以下、正極活物質及び負極活物質をまとめて活物質と呼ぶ場合がある。)のような電極材料を含有する電極材料層を積層した構造を有する。リチウム二次電池においては、負極活物質として炭素物質が用いられ、また、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物(例えば、リチウムコバルト複合酸化物)が用いられる。そして、正極活物質又は負極活物質と集電体とを結着させるために、通常、電極材料層にはバインダーが含有される。
【0003】
このような電極は、活物質、バインダー、及び必要に応じて他の材料を溶媒に分散又は溶解した電極材料層形成用塗料を集電体上に塗布し、その後溶媒を除去して集電体上に電極材料層を形成することによって製造されるのが通常である。このようにして製造される電極のうち負極に用いるバインダーとして、カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを用いる技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平4−342966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムは、水に溶解又は分散させることができる。このため、電極製造時に用いる溶媒を水とすることができる。水を溶媒とする電極の製造は、有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)を溶媒とする電極の製造と比較して、環境に与える影響が少ない。従って、環境保護や労働衛生の観点から、上記カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムのような、水溶性バインダーと非水溶性バインダーとを混合したバインダーを用いることが好ましい。
【0005】
しかしながら、上記カルボキシメチルセルロース(水溶性バインダー)及びスチレンブタジエンゴム(非水溶性バインダー)をバインダーとして用いた電極においては、電極材料層の機械的強度をより高くしたいという課題がある。
これは、電極材料層の機械的強度の向上によって活物質層中のバインダーの含有量をより少なくすることができる結果、リチウム二次電池の体積あたりのエネルギー密度が向上するからである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明者は、水溶性バインダー及び非水溶性バインダーの混合物をバインダーとして用いた場合に、電極材料層にフラーレン類を含有させることにより、電極材料層の機械的強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第一の要旨は、集電体上に電極材料層を有する電気化学デバイスであって、電極材料層が、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、及びフラーレン類を含有することを特徴とする電気化学デバイスに存する。
【0007】
また、本発明の第二の要旨は、上記電気化学デバイスを電極とする電池に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的強度の高い電極材料層を有する電気化学デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(実施形態)について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
1.電気化学デバイス
本発明の電気化学デバイスは、集電体上に電極材料層を有する電気化学デバイスであって、前記電極材料層が、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、及びフラーレン類を含有することを特徴とする。
1−1.集電体
集電体とは、一般に、電池や電気二重層コンデンサ等において電気を取り出す端子のことをいう。外部に電流を取り出す端子(集電体)は、電極材料層と接触するように形成されるのが通常である。無論、電極材料層と集電体との間に別の層を設けてもよい。上記別の層を設ける形態の例としては、電極材料層中にフラーレン類を含有させて電極材料層の機械的強度を確保し、上記別の層を用いて電極材料層と集電体との接着性を確保する場合が挙げられる。
【0010】
本発明においては、集電体としては、例えば、電池や電気二重層コンデンサ等で用いられている従来公知のものを用いることができる。
集電体の材料や形態等は、本発明の電気化学デバイスが用いられる用途によって適宜選択される。このため、集電体の詳細については、本発明の電気化学デバイスが用いられる具体的な用途を説明する際に説明する。
1−2.電極材料層
電極材料層は、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、及びフラーレン類を含有する。
(1)電極材料
電極材料としては、一般に、電池の放電時又は充電時に必要に応じて反応を起こすことによって電気の運び手となるイオン又は電子を吸蔵・放出するような物質、又は、電解液との界面で電気二重層を形成するような物質をいう。ここで、電池においては、電極材料のことを活物質と呼ぶのが通常である。このため、本明細書において、本発明の電気化学デバイスを電池に用いる場合について説明する際には、「電極材料」のことを「活物質」と言い換える場合がある。
【0011】
本発明の電気化学デバイスを電池に用いる場合には、正極に用いられる活物質は還元されやすいもの(酸化剤)とする一方で、負極に用いられる活物質は酸化されやすいもの(還元剤)とするのが通常である。例えば、リチウム二次電池においては、正極活物質にリチウム遷移金属複合酸化物(例えばLiCoO2)、負極活物質に炭素性物質(例えばグ
ラファイト)を用いるのが通常である。そして、リチウム二次電池においては、Li塩を有機溶媒に溶解させた電解液を用い、充電時は、リチウムイオンが正極活物質から放出されて負極活物質に吸蔵される一方で、放電時は、リチウムイオンが負極活物質から放出されて正極活物質に吸蔵されるのが一般的である。
【0012】
一方、本発明の電気化学デバイスを電気二重層コンデンサに用いる場合には、電極に含有される活性炭を電極材料とするのが一般的である。
電極材料層全体に対する電極材料の含有量は、通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上とする。この範囲とすれば、電気化学デバイスに求められる所定の性能が確実に発揮されるようになる。一方、電極材料層全体に対する電極材料の含有量の上限は、電極材料層全体の重量からバインダー(非水溶性バインダー及び水溶性バインダー)やフラーレン類等の重量を除いた重量とすればよい。このような観点から、電極材料層全体に対する電極材料の含有量の上限は、通常99重量%以下とすればよい。
【0013】
このように、電気化学デバイスの電極材料としては、この電気化学デバイスが用いられる用途によって所望の材料を適宜用いればよい。これら電極材料の詳細(例えば電極材料の種類)については、本発明の電気化学デバイスが用いられる具体的用途ごとに後程説明する。
(2)フラーレン類
本発明において「フラーレン類」としては、通常、
(イ)フラーレン
(ロ)フラーレン誘導体、フラーレンを有する錯体、金属内包フラーレン(メタロフラーレン)等のフラーレン骨格を有する物質
(ハ)フラーレン類が有する球殻構造同士が直接又は少なくとも1つの原子を介して結合した状態にある複数のフラーレン骨格を分子内に有するフラーレン類、
(ニ)上記(イ)、(ロ)、(ハ)のフラーレン類を任意に混合したもの
を挙げることができる。
【0014】
ここで、フラーレンとは炭素のみから構成される球殻状又は略球殻状分子を指し、フラーレン骨格とは炭素で構成される球殻構造又は略球殻状の構造をいう。なお、上記球殻状又は略球殻状分子及び上記球殻構造又は略球殻状の構造においては、これを構成する炭素の一部が欠損していてもよい。
フラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されないが、C60、C70、C74、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96、C98、C100
又はこれら化合物の2量体、3量体等を挙げることができる。フラーレンとして、上記C60等を1種類単独で用いてもよく、複数種を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0015】
これらフラーレンの中でも好ましいのは、C60、C70、又はこれらの2量体、3量体であり、特に好ましいのはC60及び/又はC70を含む、複数種類のフラーレンを含有するフラーレン類を用いることである。C60、C70は水溶性バインダー及び非水溶性バインダーと均一に混合しやすいという利点がある。また、C60、C70は工業的に得やすい利点もある。
【0016】
上述の通り上記フラーレンは複数を併用してもよいが、併用する場合、好ましいのはC60及びC70をともに用いることである。この組み合わせで用いることにより、分離精製の工程が不要となり、工業的に有利だからである。
このように、C60およびC70を併用する場合、C60:C70の重量比を、通常99:1〜1:99、特に95:5〜10:90、中でも90:10〜20:80の範囲とすることが好ましい。上記範囲内で用いることにより、C60とC70との相互作用が良好となり、分散安定性が向上するからである。
【0017】
フラーレンは、通常、抵抗加熱法、レーザー加熱法、アーク放電法、燃焼法などにより得られたフラーレン含有スートから抽出分離することによって得られる。この際、スートからフラーレンを完全に分離する必要は必ずしもなく、性能を損なわない範囲でスート中のフラーレンの含有率を調整することができる。
フラーレンは、常温(25℃)、常湿(50%RH)では、通常粉末状の性状を有し、その二次粒径は、通常10nm以上、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは50nm以上である。一方、その二次粒径は、通常1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下である。なお、二次粒径とは、フラーレン分子が複数集合した凝集体の粒径をいい、例えば、フラーレン分子が複数集合して形成される微結晶体、この微結晶体が複数集合して形成される微結晶集合体、さらにこの微結晶集合体が複数集合して形成される粒子の粒径が該当する。なお、微結晶体にはフラーレンの非晶質体が含まれていてもよい。
【0018】
フラーレン誘導体とは、上記のフラーレンを構成する少なくとも1つの炭素に有機化合物の一部分を形成する原子団や無機元素からなる原子団が結合した化合物をいう。フラーレン誘導体としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン等を用いることができる。フラーレン誘導体を得るために用いるフラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されず、上記具体的に示したフラーレンのいずれを用いてもよい。
【0019】
本発明で用いるフラーレン誘導体は、フラーレンを構成する1以上の炭素に所定の基が結合していたものである。フラーレンを構成する炭素のうち、所定の基が結合する炭素としては、C60分子を例に取れば、C60分子中の(6−6)結合を構成する2個の炭素原子を好ましく挙げることができる。これは、上記(6−6)結合を形成する2個の炭素原子の電子吸引性が高くなっているからである。結合される基は、(6−6)結合のいずれかの炭素又は両方の炭素に結合する場合が考えられ、両方の炭素に結合する場合は、両方の炭素に同一の基が結合する場合、異なる基が結合する場合、及び、両方の炭素が環の一部となるように環化付加する場合を挙げることができる。
【0020】
環化付加する場合としては、3員環、4員環、5員環、6員環を形成する各種の反応があり、環の構成分子にさらに置換基を有するものを用いることにより様々なフラーレン誘導体を得ることができる。
60分子を例に取ると、3員環形成の付加反応としては(6−5)開環系フレロイドや(6−6)閉環系メタノフラーレンが挙げられる。フレロイドやメタノフラーレンにおいて付加された炭素原子はメチレン基であるが、このメチレン基の2個の水素を所定の置換基で置換すれば、より高次の誘導体が得られる。窒素原子により3員環を形成する場合はアザフレロイドとなり、窒素原子が有する3つの結合手のうち、フラーレン部分に結合する2つの結合手以外の結合手に結合する基を置換することにより多様な誘導体を得ることができる。
【0021】
60分子における5員環を形成する付加としては、ピラゾリン縮合体、オキサゾリジン縮合体、ジヒドロフラン縮合体、ピロリジン縮合体などを形成するものが挙げられる。また、C60分子における6員環を形成する付加としては、ジエン類を付加する反応が知られている。そして、上記5又は6員環を形成する原子に結合する基を置換することによって、より高次の誘導体が得られることとなる。また、5又は6員環においては、環を形成する原子数が多いことから、置換基を導入できる部位も複数あり多様な誘導体を形成することが可能となる。
【0022】
フラーレン誘導体を合成する他の方法としては、以下のような方法を挙げることができる。
例えば、求核付加反応においては、有機リチウム試薬やグリニャール試薬などとの反応により、アルキル基やフェニル基などをフラーレンに導入することができる。また、例えば、同じく炭素求核剤であるシアン化ナトリウムとの反応によれば、シアノ基をフラーレンに導入することができる。このように、導入される基は用いられる試薬により変更する
ことができる。上記求核付加反応や、シアン化ナトリウムとの反応により合成されるフラーレン誘導体は、アニオンとして塩を形成することもできるが、アニオンを求電子剤で捕捉することにより1,2−ジヒドロフラーレン誘導体とすることが多い。プロトンで捕捉すれば1,2−ジヒドロフラーレン誘導体の1置換体を得ることができ、求電子剤の種類によれば第2の置換基としてメチル基やシアノ基を有する1,2−ジヒドロフラーレン誘導体の2置換体を得ることができる。求核付加反応では他にシリルリチウムとの反応やアミンとの反応によりフラーレン誘導体を合成することもできる。
【0023】
また、酸化反応、還元反応によれば水素化フラーレンや酸化フラーレン、水酸化フラーレンを得ることができる。またラジカル反応によりフッ素などのハロゲンを導入することも可能である。
フラーレン誘導体を得るために、フラーレンに直接結合させる基又はフラーレンを環化付加した場合に付加した環を構成する元素が形成する基の式量としては、通常1以上、好ましくは6以上、より好ましくは16以上、さらに好ましくは20以上とする。式量を6以上とすれば、立体的に比較的大きい基(例えば、式量7となるLi)をフラーレン骨格に結合させることができ、フラーレン誘導体が安定化するものと考えられる。また、式量の上限は特に制限されず、上記基がポリマーのような高分子量のものであってもよい。但し、立体障害の点からは、式量を1000以下にすることが好ましく、より好ましくは500以下、さらに好ましくは300以下、特に好ましくは200以下とする。
【0024】
上記フラーレンに直接結合させる基又はフラーレンを環化付加した場合に付加した環を構成する元素が形成する基としては、特に制限はないが、工業的に得やすい点から、水素原子、アルカリ金属原子、カルコゲン原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、及び窒素を含む特性基からなる群から選ばれる1つであることが好ましい。
【0025】
アルカリ金属原子としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、リチウム、ナトリウム、カリウムである。
カルコゲン原子としては、例えば酸素、イオウ、セレン、テルルを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、酸素、イオウである。
【0026】
ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。尚、ハロゲン原子を含む基、例えばヨードシル基を用いてもよい。
脂肪族炭化水素基のうち、脂鎖式炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、エチニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
【0027】
脂肪族炭化水素基のうち、脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、シクロヘキシル基である。
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、スチリル基、ビフェニリル基、ナフチル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基である。
【0028】
複素環基としては、例えばフリル基、フルフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピペリジノ基、ピペリジル基、キノリル基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フリル基、ピリジル基である。
酸素を含む特性基は、酸素を含む基であれば何でもよいが、例えば水酸基、過酸化水素基、酸素(エポキシ基)、カルボニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは水酸基、酸素である。
【0029】
その他、酸素を含む特性基としては以下のようなものが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、メトキシ基、エトキシ基である。
カルボキシル基、エステル基としては、例えばカルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、カルボキシ基、アセトキシ基である。
【0030】
アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロホルミル基、オキサル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、ホルミル基、アセチル基である。
【0031】
また、例えばアセトニル基、フェナシル基、サリチル基、サリチロイル基、アニシル基、アニソイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、アセトニル基、サリチル基である。
硫黄を含む特性基としては、硫黄を含む基であれば何でもよいが、例えばメルカプト基、チオ基(−S−)、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、チオホルミル基、チオアセチル基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、チオカルバモイル基、スルホン酸基、メシル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基、トシル基、スルホアミノ基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メルカプト基、スルホン酸基である。
【0032】
窒素を含む特性基としては、窒素を含む基であれば何でもよいが、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、ヒドロキシアミノ基、アセチルアミノ基、ベンザミド基、スクシンイミド基、カルバモイル基、ニトロソ基、ニトロ基、ヒドラジノ基、フェニルアゾ基、ナフチルアゾ基、ウレイド基、ウレイレン基、アミジノ基、グアニジノ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、アミノ基、シアノ基、シアナート基である。
【0033】
以上述べた所定の基は、さらに他の基で置換されていてもよい。
上記した所定の基のうち、特に好ましいのは、水素原子、ナトリウム、カリウム、酸素、水酸基、アミノ基、スルホン酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ビフェニリル基、エトキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。上記基の中で、酸素は結合手が2つあるが、それぞれの結合手がフラーレンを構成する炭素原子と結合してエポキシ基を形成する。
【0034】
なお、1つのフラーレン誘導体に結合する上記所定の基の種類は、1種が単独であってもよく、2種以上が任意の組合せ及び比率で存在していてもよい。
特に好ましいフラーレン誘導体の例としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、スルホン化フラーレン、ビフェニルフラーレン(単数又は複数のビフェニリル基がフラーレンの球殻構造に結合したフラーレン誘導体)からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。
【0035】
上記所定の基は、フラーレンを構成する炭素原子のうちの1つ以上に結合していればよい。一方、フラーレンに結合する上記基の数は、用いるフラーレン骨格に置換し得る最大数まで可能であるが、通常48個以下、好ましくは36個以下、より好ましくは10個以下、最も好ましくは4個以下である。
上記フラーレン誘導体は、常温常湿(25℃/50%RH)においては、粉末状であり、その2次粒径は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、一方通常1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下である。上記範囲とすることにより水溶性バインダー及び非水溶性バインダーへの分散性が良好になる。
【0036】
なお、本発明においては、フラーレン誘導体は、複数用いてもよく、フラーレン類としてフラーレンとフラーレン誘導体とを併用してもよいことはいうまでもない。複数種類を併用する場合においては、本発明の要旨の範囲内において、組み合わせ及び比率は任意とすればよい。
電極材料層全体の重量を100重量部としたときに、これに対する前記フラーレン類の含有量は、通常、0.0001重量部以上、好ましくは、0.001重量部以上、より好ましくは、0.002重量部以上とする。一方、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、特に好ましくは2重量部以下とする。上記範囲内とすることにより、電極材料層形成用塗料中での非水溶性バインダー及び水溶性バインダーとフラーレン類との分散状態を均一にすることができる。また、フラーレン類の含有量が過度に多いと、フラーレン類を溶解させる溶媒量が非常に多くなって溶媒除去が工業的に困難になる場合がある。また、フラーレン類を過度に添加すると、材料のコストが高くなる傾向もある。
【0037】
電極材料層中に含有されるバインダー(非水溶性バインダーと水溶性バインダーとの合計)100重量部に対するフラーレン類の含有量は、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、さらに好ましくは0.5重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、最も好ましくは2重量部以上である。一方、電極材料層中に含有されるバインダー(非水溶性バインダーと水溶性バインダーとの合計)100重量部に対するフラーレン類の含有量は、通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下とする。
【0038】
上記範囲内とすることにより、溶媒(通常は水)中でのバインダーとフラーレン類の分散状態を均一にすることができ、溶媒(通常は水)除去後のバインダー中にフラーレン類を均一に分散させることができる。また、フラーレン類の含有量が過度に多いと、フラーレン類を分散させる溶媒(通常は水)量が非常に多くなり、溶媒(通常は水)除去が工業的に困難になる傾向にある。また、フラーレン類を多量に添加するとコストが高くなる傾向もある。
(3)水溶性バインダー 、非水溶性バインダー
本発明における水溶性バインダーとは、水に溶解させることができる高分子をいう。例えば、水への常温(25℃)での溶解度が2重量%以上の高分子は、水溶性バインダーとなる。
【0039】
水溶性バインダーとしては、分子鎖中に親水性を有する官能基(例えば、水酸基、カル
ボキシル基、ピロリドン基、アミド基、アミノ基、エーテル基又はこれらを変性した基)を有する高分子が挙げられる。これら官能基は高分子中に豊富に含まれることが好ましい。このような水溶性バインダーとしては、例えば、セルロースエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、スチレン−無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。当然ながら、上記水溶性バインダーの具体例においては、変性体も用いることができる。
【0040】
これら水溶性バインダーのうち、工業的に品質の安定したものが容易に入手でき、取り扱いが安全であり、電極材料との親和性が高いという点で好ましいのは、セルロースエーテル系樹脂である。セルロースエーテル系樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリエチルセルロース、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースを挙げることができる。また、これらセルロースエーテル系樹脂の繰り返し単位に存在する水酸基やカルボキシル基の全部又は一部がナトリウム塩やアンモニウム塩等になっていてもよい。
【0041】
セルロースエーテル系樹脂のうち、工業的に使いやすい点から特に好ましいのは、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースである。
水溶性バインダーの分子量や水に対する溶解度は特に制限されず、これらを選択又は調製する場合には、下記点を考慮すればよい。すなわち、水溶性バインダーを水に溶解したときに電極材料(活物質)との均一な混合ができること、基材(例えば集電体)への塗布に適した粘度を有するようにすること、電極材料層が十分な塗膜強度と接着強度とを有するようにすること、を考慮すればよい。
【0042】
カルボキシメチルセルロースの場合について例示すれば、分子量が以下の溶液粘度を満たすように調整すればよい。すなわち、濃度1重量%の水溶液の粘度が、通常100mPa・s以上、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上と
なるようにする。一方、濃度1重量%の水溶液の粘度が、通常10000mPa・s以下
、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは3000mPa・s以下となるようにする。上記範囲を下回る粘度(すなわち分子量がより低い場合)では、塗布における膜厚の均一性を確保することが困難となる場合がある。また、上記範囲を下回る粘度では、さらに塗膜強度や接着強度が低くなるおそれがある。また、上記範囲を上回る粘度(すなわち分子量がより高い場合)では、水への溶解が困難となる場合がある。また、上記範囲を上回る粘度では、電極材料(活物質)との均一な混合を行うことが困難になる場合がある。
【0043】
水溶性バインダーとしては、上記具体例で説明した物質を1種類単独で用いてもよく、複数種を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
本発明における非水溶性バインダーとは、水に実質的に溶解しない高分子をいう。非水溶性バインダーは、水に全く溶解しないことが好ましいが、本発明の要旨の範囲内であれば、水への多少の溶解(例えば1重量%程度)は許容される。
【0044】
非水溶性バインダーとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレンなどのアルカン系ポリマー;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの不飽和系ポリマー;ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジンなどのポリマー鎖中に環構造を有するポリマー;スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム等、及びこれらゴムの変性体等の合成ゴム;等が挙げられる。
【0045】
他の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチルなどのアクリル誘導体系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニドなどのCN基含有ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ポリマー;ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどが挙げられる。
【0046】
また上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであっても使用できる。
特に、基材との接着性が高く、複雑な工程を用いずに水溶性バインダーと併用できるラテックスを形成しうるという点で、例えば、合成ゴムが好ましい。合成ゴムとして好ましいのは、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム、及びこれらゴムの変性体である。特に好ましいのは、スチレンブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムの変性体である。
【0047】
非水溶性バインダーとしては、上記具体例で説明した物質を1種類単独で用いてもよく、複数種を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
非水溶性バインダーのガラス転移点は、通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは0℃以下とする。ガラス転移点を上記範囲内とすれば、非水溶性バインダーの粘着性が上がるので、電極材料層の機械的強度及び接着性が向上するようになる。
【0048】
ガラス転移点は、公知の方法で測定すればよい。例えば、JIS K7121「プラス
チックの転移温度測定方法」に従って測定し、ガラス転移温度として補外ガラス転移開始温度を取れば良い。
水溶性バインダーと非水溶性バインダーとの比率は以下のようにする。すなわち、水溶性バインダーと非水溶性バインダーとの合計量に対し、水溶性バインダーの割合は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、特に好ましくは40重量%以上である。水溶性バインダーの含有量を上記範囲内とすれば、塗料の粘度を適度に調整することが容易となる。この結果、塗液の均一な混合や塗布が容易になる。
【0049】
一方、水溶性バインダーと非水溶性バインダーとの合計量に対し、水溶性バインダーの割合は、通常99重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下、特に好ましくは60重量%以下とする。水溶性バインダーの含有量を上記範囲内とすれば、フラーレン類の添加効果が充分に発揮される。
電極材料層全体の重量を100重量%とした時の、これに対するバインダー(水溶性バインダー及び非水溶性バインダーの合計量)の含有量は、通常、1重量%以上、15重量%以下とする。
(4)その他材料
電極材料層中に含有される、電極材料、フラーレン類、水溶性バインダー、及び非水溶性バインダー以外の材料としては、電気化学デバイスが用いられる用途によって求められる性能に従い、適宜選択できる。このような材料としては、例えば、導電剤、補強剤等の添加剤や、充填材等を挙げることができる。
【0050】
これら他の材料が含有される場合、その含有量は以下のようになる。すなわち、電極材料層のうちこれら他の材料を除く重量を100重量部としたときに、これに対するこれら他の材料の含有量は、通常0.001重量部以上、20重量部以下である。上記範囲とすれば、十分な添加効果が得られる上、電池の容量を損なうこともない。
上述の通り、上記他の材料は、電気化学デバイスが用いられる用途によって適宜選択されることとなる。このため、本発明の電気化学デバイスが用いられる具体的な用途を説明
する際に、その他材料について詳細に説明する。
(5)フラーレン類と水溶性バインダー及び非水溶性バインダーとの関係
本発明においては、電極材料層の機械的強度を向上させることを主目的として、フラーレン類を用いる。フラーレン類が電極材料層の機械的強度を向上させる機構については明らかではないが、下記のように推測される。すなわち、フラーレン類が水溶性バインダー及び非水溶性バインダー中に微細に分散することにより、バインダーの高分子鎖とフラーレン類の分子が所定の拘束あるいは結合(疑似架橋点)を生じる作用が発生し、バインダーの高分子鎖の相対的運動を抑制し、接着性や機械的強度が向上するものと考えられる。
【0051】
本発明においては、フラーレン類が非水溶性バインダーに優先的に含有されていてもよい。非水溶性バインダー中にフラーレン類が優先的に含有されることにより、電極材料層の機械的強度の向上が顕著に発揮されるようである。この理由は明らかではないが、非水溶性バインダーは水溶性バインダーに比べて極性が小さく、非水溶性バインダーとフラーレン類との相互作用は水溶性バインダーとフラーレン類との相互作用に比べて大きいと考えられる。このため、製造方法を工夫することにより、フラーレン類が非水溶性バインダー中に優先的に存在する傾向となり、これが機械的強度の向上効果に寄与しているのではないかと考えられる。
【0052】
水溶性バインダーと非水溶性バインダーとは一般に相溶しにくい関係にある。このため、水溶性バインダーと非水溶性バインダーとは、電極材料層中においてそれぞれ相分離した状態で存在するのが通常である。従って、上記のような構造を有する電極材料層中においても、フラーレン類が非水溶性バインダー中に優先的に存在してもよい。
非水溶性バインダー中にフラーレン類を優先的に含有させるための方法としては、例えば、電極材料層形成用塗料の製造における水溶性バインダーと非水溶性バインダーとの接触方法や、電極材料層形成用塗料の製造における水溶性バインダー及び非水溶性バインダーとフラーレン類との接触方法を工夫すればよい。これらの点については、電極の製造方法を説明する際に説明する。
1−3.製造方法
本発明の電気化学デバイスの製造方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
【0053】
つまり、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、フラーレン類、及び必要に応じてその他の物質を水に溶解又は分散させた電極材料層形成用塗料を集電体上に塗布し、その後、塗布した電極材料層形成用塗料中の水を除去する方法である。
上記製造方法は、より具体的には、以下の2つの工程に分けることができる。
(第1工程)
電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、フラーレン類、及び必要に応じてその他の物質を水に溶解又は分散させた電極材料層形成用塗料を製造する工程。
(第2工程)
電極材料層形成用塗料を集電体上に塗布し、その後、塗布した電極材料層形成用塗料中の水を除去する工程。
【0054】
以下、上記2つの工程についてさらに詳細に説明する。
(1)第1工程
第1工程は電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、フラーレン類、及び必要に応じてその他の物質を水に溶解又は分散させた電極材料層形成用塗料を製造する工程である。
【0055】
水溶性バインダーと非水溶性バインダーとを合わせたバインダー量の割合は、電極材料100重量部に対し、通常1重量部以上とする。一方、水溶性バインダーと非水溶性バイ
ンダーを合わせたバインダー量の割合は、電極材料100重量部に対し、通常15重量部以下、好ましくは10重量部以下とする。バインダーの量が少なすぎると、十分な強度の電極材料層が得られなくなったり、基材との接着強度が小さくなり剥離を生じたりしやすくなる。また、バインダー量が多すぎると、電極材料表面がバインダーによって被覆され反応に関与する面積が小さくなって、所定の性能を発現しにくくなる。
【0056】
フラーレン類は、通常得られる粉体のままでもよいが、バインダー中への分散性を高める目的で、通常用いられる粉砕装置によって乾式粉砕または湿式粉砕を行い微粒子化したものを用いることが好ましい。また、それらを水に分散した分散液の状態で用いることも好ましい。分散液としてバインダーに接触させることで、バインダーとフラーレン類との相溶性がより向上する。分散液として用いる場合には、通常用いられるような分散剤などの添加剤も、特性を損なわない限り添加することができる。
【0057】
バインダーの混合前の形態について特に制限はないが、均一に分散混合するために、水溶性バインダーは水溶液として、非水溶性バインダーは水を分散媒とするラテックスとして用いるのが好ましい。
材料の混合順序についてはいくつかの方法が考えられる。例えば、
(イ)電極材料、水溶性バインダー又は水溶性バインダーの水溶液、非水溶性バインダーラテックス、フラーレン類の粉体(微粒化していることが好ましい。)を同時に混合し、攪拌する方法。
(ロ)非水溶性バインダーラテックスとフラーレン類の粉体(微粒化していることが好ましい。)とを混合し、十分攪拌した後に水溶性バインダー又は水溶性バインダーの水溶液を加えて攪拌し、次いで電極材料を加えて攪拌する方法。
(ハ)非水溶性バインダーラテックスとフラーレン類を水に分散した分散液とを混合し、十分攪拌した後に、水溶性バインダー又は水溶性バインダーの水溶液を加えて攪拌し、次いで電極材料を加えて攪拌する方法。
などが挙げられる。また、この混合工程のいずれの段階においても水及び/又はその他必要な添加剤等を粘度調整等の目的で添加してもよい。このうち、フラーレン類をより微細かつ均一にバインダー中に分散させるためには、(ロ)または(ハ)が好ましく、特に(ハ)が好ましい。また、非水溶性バインダー中にフラーレン類を優先的に存在させる観点からも、(ロ)又は(ハ)が好ましく、特に(ハ)が好ましい。
【0058】
攪拌装置としては従来公知のものを用いることができる。例えば、マグネットスターラー、スリーワンモーター、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、自公転式攪拌機、ボールミル、サンドミル、二軸混練機などが使用できる。
なお、本発明の範囲を超えない限り、公知の添加剤等を加えても良い。
溶媒としては、通常水を用いる。水は特に制限はないが、例えば、通常の化学実験又は製造プラント等で用いられる水、すなわち蒸留水、脱塩水等を用いることができる。なお、溶媒として、必要に応じて水以外の溶媒を併用してもよいことはいうまでもない。水以外の溶媒の水に対する割合も本発明の要旨の範囲内で任意とすればよい。
【0059】
また、電極材料層形成用塗料の固形分濃度及び粘度や、攪拌の際の時間、温度、及び雰囲気は、得ようとする電気化学デバイスの用途、電極材料層の膜厚、用いる塗布装置、電極材料層の材料等によって異なる。このため、電気化学デバイスの用途や用いる材料等を考慮して、最適な範囲を適宜選択すればよい。
(2)第2工程
第2工程は、電極材料層形成用塗料を集電体上に塗布し、その後、塗布した電極材料層形成用塗料中の水を除去する工程である。
【0060】
電極材料層形成用塗料の集電体上への塗布方法は、電極材料層形成用塗料の固形分濃度
や粘度によって、適宜選べばよい。また、電気化学デバイスが用いられる用途において通常用いられる塗布方法を用いてもよい。このような塗布方法としては、例えば、スライドコーターやエクストルージョン型のダイコーター、リバースロール、グラビアコーター、ナイフコーター、キスコーター、マイクログラビアコーター、ロッドコーター、ブレードコーターなどが挙げられるが、ダイコーター、ブレードコーター、及びナイフコーターが通常用いられる。
【0061】
塗布方法については、電気化学デバイスの具体的な用途を説明する際にさらに詳細に説明する。
電極材料層形成用塗料を集電体上に塗布した後、塗布した電極材料層形成用塗料中の水を除去して、集電体上に電極材料層を形成する。水の除去は、具体的には、塗膜を乾燥することによって行えばよい。乾燥条件(温度、雰囲気、時間等)は、電気化学デバイスの種類によって決まってくる。このため、電気化学デバイスの具体的な種類等に応じて、乾燥条件を適宜設定すればよい。
2.電気化学デバイスの用途
本発明の電気化学デバイスが用いられる具体的な用途としては、特に制限はないが、例えば、電池や電気二重層コンデンサ等を挙げることができる。以下、本発明の電気化学デバイスを電池に用いる場合について説明する。
【0062】
本発明の電気化学デバイスが用いられる電池としては、例えば、アルカリ電池、マンガン電池等の一次電池、リチウムイオン電池、ポリマーリチウム電池、金属リチウム二次電池等のリチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池を挙げることができる。これら電池の中でも好ましいのは、リチウム二次電池である。リチウム二次電池は、繰り返しの充放電で電極材料層の体積が繰り返し変動(膨張及び収縮)する。このため、電極材料層の機械的強度を高めたいという要請が強い。そして、リチウム二次電池は、容量密度に優れ、電気電子機器を中心として広く用いられているため、電極材料層と集電体との接着性や電極材料層の強度を向上させることができれば、さらに容量密度を上げることができ、産業上、極めて有用である。
【0063】
以下、本発明の電気化学デバイスを電極とするリチウム二次電池について説明する。
リチウム二次電池は、基本的には、正極、負極、及び電解質を有する。本発明の電気化学デバイスは、通常リチウム二次電池の負極として用いられる。
以下、本発明の電気化学デバイスを負極に用いたリチウム二次電池を例にとって、正極、負極、電解質等の各部材について説明する。
(1)正極
正極は、通常、Liを吸蔵・放出し得る電極材料(電池における電極材料は、活物質と通常呼ばれる。また、本明細書においては、正極の活物質を特に正極活物質をいう場合がある。)、バインダー、及びフラーレン類を含有する電極材料層を集電体上に形成してなる。
【0064】
正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等各種の無機化合物が挙げられる。ここで遷移金属としてはFe、Co、Ni、Mn等が用いられる。具体的には、MnO、V25 、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物などのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、TiS2、FeS、MoS2などの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。これらの化合物はその特性を向上させるために部分的に元素置換したものであっても良い。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩等の有機化合物を混合して用いても良い。上記正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
【0065】
上記正極活物質のうち、高性能なリチウム二次電池を得る観点から、正極活物質は、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物とすることが好ましく、より好ましくはリチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物とすることである。リチウムコバルト複合酸化物は、放電曲線が平坦であるためレート特性に優れる有用な正極活物質であり、リチウムニッケル複合酸化物は単位重量あたりの電流容量が大きいため電池容量を大きくすることができる利点がある。これらリチウム遷移金属複合酸化物は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
【0066】
これらリチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属サイトの一部は他の元素で置換されていてもよい。遷移金属サイトの一部を他の元素で置換することにより、リチウム二次電池の安全性を向上させることができるようになる。また、これらリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属の一部を他の元素で置換することにより、結晶構造の安定性を向上させることができる。この際の該遷移金属サイトの一部を置換する他元素(以下、置換元素と表記する)としては、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr等が挙げられ、好ましくはAl、Cr、Fe、Co、Li、Ni、Mg、Ga、更に好ましくは、Co、Alである。なお、遷移金属サイトは2種以上の他元素で置換されていてもよい。置換元素による置換割合は通常ベースとなる遷移金属元素の2.5モル%以上、好ましくはベースとなる遷移金属元素の5モル%以上であり、通常ベースとなる遷移金属元素の30モル%以下、好ましくはベースとなる遷移金属元素の20モル%以下である。置換割合が少なすぎると結晶構造の安定化が十分図れない場合があり、多すぎると電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
【0067】
正極活物質の比表面積は、通常0.01m2/g以上、好ましくは0.1m2/g以上、より好ましくは0.4m2/g以上であり、また通常10m2/g以下、好ましくは5m2
/g以下、より好ましくは2m2/g以下である。比表面積が小さすぎるとレート特性の
低下、容量の低下を招き、大きすぎると電解液等と反応し、サイクル特性を低下させることがある。比表面積の測定はBET法に従う。
【0068】
正極活物質の平均二次粒径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは20μm以下である。平均二次粒径が小さすぎると電池のサイクル劣化が大きくなったり、安全性に問題が生じたりする場合があり、大きすぎると電池の内部抵抗が大きくなり、出力が出にくくなる場合がある。
【0069】
電極材料層中の正極活物質の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは98重量%以下である。多すぎると電極の機械的強度が劣る傾向にあり、少なすぎると容量等電池性能が劣る傾向にある。
電極材料層に使用するバインダーは、電解液等に対して安定である必要があり、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等の観点から各種の材料が使用される。
【0070】
バインダーの使用量は、正極活物質100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、また通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。バインダーの量が少なすぎると電極材料層の強度が低下する傾向にあり、バインダーの量が多すぎると電池容量が低下する傾向にある。
電極材料層中には、必要に応じて、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性材料、補強材など各種の機能を発現する添加剤、粉体、充填材などを含有させてもよい
。これら添加剤、粉体、充填材の含有量は、通常、以下のようになる。すなわち、電極材料層のうち、これら添加剤、粉体、充填材を除く重量を100重量部としたときに、これに対するこれら添加剤、粉体、充填材の含有量は、通常0.001重量部以上、20重量部以下である。上記範囲とすれば、十分な添加効果が得られる上、電池の容量を損なうこともない。
【0071】
正極に使用される集電体の材料としては、通常、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、ステンレス鋼等の金属、これら金属の合金等を用いることができる。この場合、正極の集電体としては、通常アルミニウムが用いられる。集電体の形状は特に制限されず、例えば、板状やメッシュ状の形状を挙げることができる。集電体の厚みは通常1μm以上、一方、通常50μm以下、好ましくは30μm以下である。薄すぎると機械的強度が弱くなるが、厚すぎると電池が大きくなり、電池の中で占めるスペースが大きくなってしまい、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0072】
正極は、通常以下の製造方法により製造される。すなわち、(正極)活物質、バインダー、及び必要に応じて上記の添加剤、粉体、充填材を溶媒に溶解又は分散させた正極電極材料層形成用塗料を前記集電体上に塗布した後に、前記溶媒を除去することによって製造される。正極電極材料層形成用塗料の固形分濃度や粘度は、得ようとする塗膜の膜厚等を考慮して適宜調整すればよい。
【0073】
集電体上に正極電極材料層形成用塗料を塗布する塗布装置に関しては特に限定されず、スライドコーターやエクストルージョン型のダイコーター、リバースロール、グラビアコーター、ナイフコーター、キスコーター、マイクログラビアコーター、ロッドコーター、ブレードコーターなどが挙げられるが、ダイコーター、ブレードコーター、及びナイフコーターが好ましく、塗料粘度および塗布膜厚等を考慮するとエクストルージョン型のダイコーター、簡便な点からはブレードコーターが最も好ましい。
【0074】
上記塗料を集電体上に塗布した後、塗膜を乾燥させることによって電極材料層が形成される。乾燥の際の乾燥温度は、通常室温(25℃)以上、好ましくは50℃以上、一方、通常200℃以下、好ましくは150℃以下とする。また、乾燥の際の乾燥時間は、通常1分以上、好ましくは5分以上、一方、通常1時間以下、好ましくは30分以下とする。
電極材料層の厚さは、通常10μm以上、好ましくは20μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。電極材料層の厚さが過度に薄いと、電池の容量が小さくなりすぎる。一方、過度に厚いとレート特性が低下する場合がある。
(2)負極
負極は、通常、Liを吸蔵・放出し得る活物質(本明細書においては、負極の活物質を負極活物質という場合がある。)、バインダー、フラーレン類、及び必要に応じて導電剤等の添加剤を含有する電極材料層を集電体上に形成してなる。バインダーについては、前述した水溶性バインダー及び非水溶性バインダーを用いる。電極材料層中のバインダーやフラーレン類の種類及びその量については既に説明したのでここでは説明を省略する。
【0075】
負極活物質としては、炭素性物質を挙げることができる。これら炭素性物質は、金属やその塩、酸化物との混合体、被覆体の形であっても利用できる。上記炭素性物質の他、負極活物質としては、けい素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケルなどの酸化物、あるいは硫酸塩さらには金属リチウムやLi−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cdなどのリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、けい素、錫などの金属なども使用できる。これら負極活物質の粒径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、一方、通常50μm以下、好ましくは30μm以下とする。あまりに大きすぎても小さすぎても初期効率、レート特性、サイクル特性等の電池特性が低下する傾向にある。無論、上記した中から選ばれる2種以上の負極活物質を、本発明の要旨の範囲内における任意の比率で併用してもよい

【0076】
負極活物質としては、好ましくは炭素性物質を用いる。炭素性物質としては、例えば、グラファイト等の黒鉛材料;石炭系コークス、石油系コークス;石炭系ピッチ若しくは石油系ピッチの炭化物、又はこれらピッチを酸化処理したものの炭化物;ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物を挙げることができる。
さらに上記炭素性物質を一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラ
ック、ピッチ系炭素繊維等を挙げることもできる。
【0077】
上記炭素性物質のうち、好ましいのは、コークス及びグラファイト等の黒鉛材料であるが、容量が大きい点で、グラファイト等の黒鉛材料が特に好ましい。
黒鉛材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛粉末及びその精製品、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックの黒鉛化品、気相成長炭素繊維等の炭素繊維が挙げられる。このような黒鉛材料ならどれでもよいが、容量の点から好ましいのは人造黒鉛又は天然黒鉛である。無論、上記黒鉛材料は、2種以上を、本発明の要旨の範囲内における任意の比率で適宜用いてもよい。
【0078】
尚、黒鉛材料は、表面をアモルファス処理してもよい。
黒鉛材料を用いる場合、その平均粒径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上とし、一方、通常45μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは25μm以下とする。平均粒径が過度に小さいと、黒鉛材料の比表面積が増えることとなり不可逆容量が増え電池容量が低下してしまう。一方、平均粒径が過度に大きいと電極材料層の膜厚が制限され、均一な電極材料層を基材の上に形成させることが難しくなる。
【0079】
黒鉛材料の比表面積は、通常0.1m2/g以上、好ましくは0.3m2/g以上、より好ましくは0.5m2/g以上とする。比表面積が過度に小さいと電池のレート特性が低
下する。一方、黒鉛材料の比表面積は、通常30m2/g以下、好ましくは20m2/g以下、より好ましくは10m2/g以下とする。比表面積が過度に大きいと電池の初期効率
が低下する。比表面積の測定はBET法に従う。
【0080】
電極材料層中の負極活物質(電極材料)の割合、電極材料層に用いるバインダーの種類、負極活物質(電極材料)とバインダーとの割合については、すでに説明したのでここでの説明は省略する。また、電極材料層に含有することができる添加剤や添加量としては、正極で用いたものと同様のものを用いることができる。
負極に使用される集電体としては、電気化学的に溶出等の問題が生じず、電池の集電体として機能しうる各種のものを使用でき、通常は銅、ニッケル、ステンレス等の金属や合金が用いられる。好ましくは、銅を使用する。集電体の形状としては、例えば、板状やメッシュ状の形状を挙げることができる。集電体の厚みは、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、また通常100μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。薄すぎると機械的強度が弱くなるが、厚すぎると電池が大きくなり、電池の中で占めるスペースが大きくなってしまい、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0081】
本発明の電気化学デバイスを負極に用いる場合、(負極)活物質、バインダー、フラーレン類、及び必要に応じて所定の添加剤、粉体、充填材を水に溶解又は分散させた電極材料層形成用塗料を前記集電体上に塗布した後に、前記水を除去することによって製造される。この製法についてはすでに説明したので、ここでの説明は省略する。
(3)電解質
リチウム二次電池に使用される電解質は、通常、支持電解質であるリチウム塩を非水系溶媒に溶解してなる電解液を有する。
【0082】
非水系溶媒としては、比較的高誘電率の溶媒が好適に用いられる。具体的にはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの非環状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のグライム類、γ−ブチルラクトン等のラクトン類、スルフォラン等の硫黄化合物、アセトニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。以上の非水系溶媒は、複数種を併用することができる。
【0083】
なお、非水系溶媒は、粘度が1mPa・s以上であることが好ましい。
電解液に含有させる支持電解質であるリチウム塩としては、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiClO4、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、
LiHF2、LiSCN、LiSO3CF2等を挙げることができる。これらのうちでは特
にLiPF6及びLiClO4が好適である。これら支持電解質の電解液における含有量は、通常0.5〜2.5mol/lである。
【0084】
また、電解液中には、必要に応じて、電池の性能向上のために各種の添加剤を添加することができる。
(4)セパレータ
電解質は、正極と負極との内部、及び正極と負極との間に存在するが、正極と負極との間には、正極と負極との短絡防止のために、多孔質フィルムのような支持体(セパレータ)を存在させるのが好ましい。多孔質フィルムとしては、高分子樹脂からなるフィルムや、粉体とバインダーからなる薄膜が好ましく使用でき、より好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質膜を用いる。
【0085】
セパレータの膜厚は、通常は30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは18μm以下であり、一方、通常は3μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上である。あまりに膜厚が小さいと、マイルドショート現象による自己放電が生じやすくなる。一方、あまりに膜厚が大きいと、レート特性等の電池特性が不十分になるばかりでなく、体積エネルギー密度が低下する傾向にある。
(5)ケース
上記のようにして得られた正極及び負極は、セパレータを介して積層され、これら正極、負極、セパレータ中に電解質を含浸させて電池要素が製造される。そして、この電池要素は、通常、ケースに収納される。
【0086】
電池要素としては、例えば、正極と負極とをセパレータ及び電解質を含有する電解質層を介して積層した積層体を巻回した形態、正極と負極とをセパレータ及び電解質を含有する電解質層を介して平板状に積層した形態、又は前記平板状に積層した電池要素を複数個用意し、これをさらに積層した形態を挙げることができる。
電池要素を収納するケースは、通常、コインセル、乾電池等の金属缶、及び形状可変性を有するケースを挙げることができる。本発明においては、上記いずれのケースを用いても良い。リチウム二次電池を軽量化する観点からは、形状可変性を有するケースを用いることが好ましい。
【0087】
形状可変性を有するケースとは、可撓性を有するケースを意味する。具体的には、柔軟性、屈曲性等を有するケースを意味する。より具体的には、人間の手で柔軟に曲げることができ、平板状のケースをL字型やS字型等の形状に容易に変更できるようなケースを意味する。
形状可変性ケースの材料としては、アルミニウム、ニッケルメッキした鉄、銅等の膜厚の薄い金属、合成樹脂等を用いることができる。好ましくは、ガスバリア層と樹脂層とが
設けられたラミネートフィルム、特に、ガスバリア層の両面に樹脂層が設けられたラミネートフィルムである。このようなラミネートフィルムは、高いガスバリア性を有すると共に、高い形状可変性と薄さを有する。その結果、外装材の薄膜化・軽量化が可能となり、電池全体としての容量を向上させることができる。
【0088】
ラミネートフィルムに使用するガスバリア層の材料としては、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、金等の金属やステンレスやハステロイ等の合金、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物を使用することができる。好ましくは、軽量で加工性に優れるアルミニウムである。
樹脂層に使用する樹脂としては、熱可塑性プラスチック、熱可塑性エラストマー類、熱硬化性樹脂、プラスチックアロイ等各種の合成樹脂を使うことができる。これらの樹脂にはフィラー等の充填材が混合されているものも含んでいる。
【0089】
形状可変性ケースの厚さは、通常0.01mm以上、好ましくは0.02mm以上、さらに好ましくは0.05mm以上であり、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、最も好ましくは0.15mm以下とする。薄いほど電池がより小型・軽量化できるが、あまりに薄いと、十分な剛性の付与ができなくなったり密閉性が低下する可能性がある。
(6)リチウム二次電池の用途
リチウム二次電池が電源として使用される電気機器としては、例えば、携帯用パーソナルコンピュータ、ペン入力パーソナルコンピュータ、モバイルパーソナルコンピュータ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)等を挙げることができる。
【0090】
また、本発明のリチウム二次電池を、電気自動車用途等の大型電源として用いることもできる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中で「部」とは「重量部」を意味する。
また、非水溶性バインダーとして用いた変性スチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製、BM400B。固形分は、40.4重量%であった。以下、BM400B又はBM400B調整液という。)を用いた。一方、水溶性バインダーとして用いたカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製、セロゲン4H(「セロゲン」は登録商標)。以下4Hともいう。)は、固形分を1.69重量%に調整したもの(以下4H調整液という)を用いた。また、水は脱塩水を用いた。
(実施例1)
変性スチレンブタジエンゴムを5部含有するBM400B調整液に、フラーレン類(C60を62%含有し、C70を23%含有する混合フラーレン粉体)0.03部を加えてスパチュラで攪拌した後、4Hを5部含有する4H調整液を加えてスパチュラで攪拌し、さらに電極材料として天然黒鉛90部を加えてスパチュラで攪拌し、最後に自公転式攪拌機(株式会社シンキー製 泡取り練太郎 AR−250)で攪拌時間10分、脱泡時間2分の
条件で攪拌し、電極材料層形成用塗料を得た。
【0092】
この塗料を集電体(銅箔、厚み20μm)上にドクターブレード(ブレードコーター)で塗布、乾燥させて、銅集電体上に電極材料層を形成した。
(塗膜強度の測定方法)
この電極材料層の厚みをマイクロメータで測定した後、銅集電体を含む塗膜を引っ掻き強度試験機(新東科学株式会社製 連続荷重式引っ掻き強度試験機 TYPE:18)を用い、0.05mmRサファイア引っ掻き針、速度10mm/sで100mm掃引し、引っ掻き針が銅集電体に到達した荷重を読み取り、引っ掻き強度を算出した。
【0093】
得られた結果を表1に示す。
(実施例2)
フラーレン類の量を0.1部とした以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(実施例3)
フラーレン類の量を0.3部とした以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0094】
得られた結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1で用いたフラーレン類を水に分散した分散液(フラーレン類の固形分濃度:10重量%)を調整した。そして、含有されるフラーレン類の量が0.006部となる分散液を準備した。さらに、実施例1で用いた非水溶性バインダー、水溶性バインダー及び電極材料を、それぞれ、1部、1部、98部とし、天然黒鉛添加時に粘度調整のために水を90部加えた以外は、実施例1と同様にして電極材料層形成用塗料を製造した。そして、実施例1と同様にして、塗膜厚みが約40μmになるように塗膜を作製し、引っ掻き強度を測定した。
【0095】
得られた結果を表1に示す。
(実施例5)
塗膜厚みが約70μmになるようにした以外は、実施例4と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(実施例6)
塗膜厚みが約100μmになるようにした以外は、実施例4と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0096】
得られた結果を表1に示す。
(実施例7)
フラーレン類0.006部を粉体の状態でBM400B調整液に含有させて、塗膜厚みが約70μmになるようにした以外は、実施例4と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0097】
得られた結果を表1に示す。
(比較例1)
フラーレン類を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(比較例2)
フラーレン類を用いないこと、及び非水溶性バインダーを用いず、水溶性バインダーの量を10部とした以外は、実施例1と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定し
た。
【0098】
得られた結果を表1に示す。
(比較例3)
非水溶性バインダーを用いず、水溶性バインダーの量を10部とした以外は、実施例2と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(比較例4)
非水溶性バインダーを用いず、水溶性バインダーの量を10部とした以外は、実施例3と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0099】
得られた結果を表1に示す。
(比較例5)
フラーレン類を用いないこと以外は、実施例4と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(比較例6)
フラーレン類を用いないこと以外は、実施例5と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0100】
得られた結果を表1に示す。
(比較例7)
フラーレン類を用いないこと以外は、実施例6と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(比較例8)
ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業株式会社製 KF#1300、以下PVDF)1
0部の割合となるよう、PVDFのN−メチル−2−ピロリドン(三菱化学株式会社製、以下NMP)溶液(濃度12重量%)を調整した。この溶液に、実施例1で用いた天然黒鉛(90部)を混合し、実施例1と同様に銅集電体上に塗布、乾燥させて、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0101】
得られた結果を表1に示す。
(比較例9)
フラーレン類(0.3部)を電極材料層形成用塗料に含有させた以外は、比較例8と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
得られた結果を表1に示す。
(比較例10)
フラーレン類(1部)を電極材料層形成用塗料に含有させた以外は、比較例8と同様にして、塗膜を作成し、引っ掻き強度を測定した。
【0102】
得られた結果を表1に示す。
【0103】
【表1】


【0104】
また、フラーレン類含有の有無、及び、フラーレン類の処理方法(分散液での混合又は粉体での混合)の影響をみるために、実施例4〜7及び比較例5〜7の実験結果を、塗膜厚みと引っ掻き強度との関係でまとめたグラフを図1に示す。
比較例1、実施例1〜3の結果から、フラーレン類の添加により、引っ掻き強度が向上していることがわかる。また、比較例2〜4のように非水溶性バインダーを全く含まない場合には、フラーレン類を添加した場合の引っ掻き強度の変化が小さい(むしろほとんどないと解釈した方が自然である。)ことがわかる。また、比較例8〜10のように水溶性バインダーを含まずかつ有機溶剤を用いた場合には、実施例1〜3と比べてフラーレン類を添加した場合の引っ掻き強度の改善度合いが小さく、効率的でないことがわかる。
【0105】
さらに、図1において、73μm付近の塗布膜厚で比較するとわかるように、フラーレン類を添加することにより、引っ掻き強度が大きくなることがわかる。さらに、フラーレ
ン類を分散液の形態で添加した場合の方が引っ掻き強度が大きいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】塗布膜厚と引っ掻き強度との実験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に電極材料層を有する電気化学デバイスであって、前記電極材料層が、電極材料、水溶性バインダー、非水溶性バインダー、及びフラーレン類を含有することを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項2】
前記水溶性バインダーが、セルロースエーテル系樹脂である請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記非水溶性バインダーが、合成ゴムである請求項1又は2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の電気化学デバイスを電極とする電池。
【請求項5】
前記電池がリチウム二次電池である請求項4に記載の電池。


【図1】
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【公開番号】特開2006−127829(P2006−127829A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312288(P2004−312288)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】