説明

電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法及びそれに使用される混合体

【課題】化学物質管理促進法(RTR法)該当せずかつ分解し易く分散性が良好な界面活性剤を用いた電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法それに使用される混合体を提供すること。
【解決手段】平均分子量が1670、エチレンオキサイド(EO)含有率が40wt%であるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる界面活性剤と、PTFE粒子を水に分散させた分散液を調製する第1工程と、炭素粒子と上記分散液を混練りして粘土状の混合物を調製する第2工程と、金属製メッシュに上記混合物を保持させた薄板状の成型体を形成する第3工程と、この成型体を130℃以上、180℃以下の温度で加熱し水を蒸発させ成型体を乾燥させる第4工程と、乾燥された成型体を320℃以上、360℃以下の温度で加熱して界面活性剤を分解させる第5工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法及びそれに使用される混合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、供給された燃料と酸化剤の電気化学反応による化学エネルギーを電力として取出すものであり、近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が移動体用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、電解質に固体高分子電解質を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cells)は、比較的低温で作動することから、燃料電池自動車から携帯機器( 例えば、携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレイヤ、ノート型パソコン等)まで幅広い分野での移動体用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の基本構造は、固体高分子電解質膜の両側に触媒層及びガス拡散電極が接合された膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の両側にセパレータが配置された単セルを含んでいる。
【0004】
固体高分子型燃料電池では、燃料極側のセパレータに供給された水素は、セパレータ内のガス流路を通ってガス拡散電極に導かれその中を拡散して触媒層に導かれ、白金等の触媒作用によって水素イオンと電子とに分離される。水素イオンは電解質膜を通って電解質膜を挟んで反対側の酸化剤極の触媒層に導かれる。一方、燃料極側で発生した電子は、負荷を含み外部回路を通って、酸化剤極側のガス拡散電極に導かれ触媒層に導かれる。酸化剤極側のセパレータから導かれた酸素は、酸化剤極側のガス拡散電極を通って触媒層に到達し、酸素、電子、水素イオンとから水を生成する。このようにして発電サイクルが完結する。
【0005】
拡散層は、主に次の三つの機能を持つ。その第一は拡散層の外面に配置されたガス流路から、触媒層へ均一に燃料ガス若しくは酸化剤ガスを供給するために、反応ガスを拡散させる機能である。第二は触媒層で生成した水を、速やかにガス流路に排出する機能である。第三は触媒層の反応に必要な電子を導電する機能である。
【0006】
高い反応ガス透過性能、水蒸気透過性能、電子導電性が必要となる。このため、従来のガス拡散層は、多孔質構造とすることでガス透過能を与え、フッ素樹脂で代表とされる撥水性の高分子材料を層中に分散することで水蒸気透過能を与え、カーボン繊維や金属繊維、炭素微粉末等の電子導電性材料で拡散層を構成することで電子導電性を与えてきた。
【0007】
次に示すように、ガス拡散層の製造方法に関して多数の報告がなされている。
【0008】
先ず、「ガス拡散電極の製造方法」と題する後記の特許文献1には、カーボン粉末に白金等の触媒となる金属を担持させた粉末とテトラフルオロエチレンを混合した粉末を、アルコールを含む脱イオン水又は蒸留水に撹拌して分散させ混合溶液とすることの記載がある。
【0009】
また、「燃料電池」と題する後記の特許文献2には、次の記載がある。
【0010】
電解質に高分子膜を用い、前記電解質の両面に触媒層とその触媒層の外面にガス拡散層を有する電極を備えた燃料電池において、少なくとも一方の電極において使用される撥水性高分子若しくは結着剤の分散に使用される界面活性剤に内分泌攪乱作用物質を含まない界面活性剤を使用したことを特徴とする。このような界面活性剤を検討した結果、R1−O−{(C24−O)l−(C36−O)m}−R2 で示されるものを用いたとき、優れた特性を持つ電極が得られることを見いだした(但し、R1、R2は、炭素数5以上15以下のアルキル基又は水素であり、l及びmは、0≦l≦5、0≦m≦5の整数であり、更に、エチレンオキサイド基とプロピレンオキサイド基とは両末端基R1、及びR2の間でランダムに配列する。)としている。
【0011】
また、「高分子電解質型燃料電池」と題する後記の特許文献3には、基剤の一方の面に、アセチレンブラックと水と界面活性剤(TritonX−100)を混合したカーボンインクを塗布して、撥水性カーボン層を形成し焼成を行い、高分子電解質型燃料電池用ガス拡散層を作製することの記載がある。
【0012】
また、「燃料電池用ガス拡散層」と題する後記の特許文献4には、カーボン粒子と撥水剤粒子とを、非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製することの記載がある。非イオン性界面活性剤の例として、TritonX−100等のポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであるN−100等が記載されている。
【0013】
また、「電極用添加剤」と題する後記の特許文献5には、R1−O−(CH2CH2O)q−(A1p−(CH2CH2O)r−R2 で表される界面活性剤が記載されている。R1、R2は、好ましくは水素原子、炭素数1〜20の分岐、若しくは直鎖状アルキル基、又は炭素数3〜20の分岐、若しくは直鎖状アルケニル基であり、p、rは0〜400の整数、qは1〜400の整数、5≦p+q+r≦1000及び1≦(q+r)/p≦800(pが0でないとき)であり、但し、p=0の時はr=0;1≦p≦400の時は、0≦r≦400である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
製品の製造工程、或いは、製品の廃棄処理における安全性を確保するために、熱処理、廃液処理等に関して、特別な設備を必要とする。従来、燃料電池の製造に関連して、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)表される撥水材料を高分散化させる方法として、例えば、アルコール等の有機溶媒を使用する方法(特許文献1)があるが、防爆型の装置を使用する必要がある等、コスト増になる問題がある。そのため、有機溶媒を使用しない方法として、一般的には界面活性剤を使用する方法が行われている。
【0015】
界面活性剤として、例えば、TritonX−100(特許文献2、3、4)が用いられているが、これは日本やカナダでは特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法(Pollutant Release and Transfer Register)、化学物質管理促進法とも言う。)に該当しており、製品の製造工程、廃棄処理に、外部環境への排出を抑えるための特別な設備を必要とする。
【0016】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、PRTR法に該当せず且つ分解し易く分散性が良好な界面活性剤を用いた電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法及びそれに使用される混合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明は、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる界面活性剤と撥水性樹脂粒子を水に分散させた分散液を調製する第1工程と、炭素粒子と前記分散液を混練した混合物を調製する第2工程と、前記混合物を薄板状とした成型体を形成する第3工程と、前記成型体を加熱プレスし前記水を蒸発させ前記成型体を乾燥させる第4工程と、乾燥された前記成型体を加熱して前記界面活性剤を分解させる第5工程とを有する、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法に係わるものである。
【0018】
また、本発明は、炭素粒子と、撥水性樹脂粒子と、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる界面活性剤とが水を分散媒として混練された、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造に使用される混合体に係わるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる界面活性剤と撥水性樹脂粒子を水に分散させた分散液を調製する第1工程と、炭素粒子と前記分散液を混練した混合物を調製する第2工程と、薄板状の成型体を形成する第3工程と、前記成型体を加熱プレスし前記水を蒸発させ前記成型体を乾燥させる第4工程と、乾燥された前記成型体を加熱して前記界面活性剤を分解させる第5工程とを有するので、分散性及び熱分解性が良好でありPRTR法に非該当の界面活性剤、及び、分散媒を水として使用することにより、分散媒として有機溶媒を使用しないので防爆設備を必要とせず、不活性ガス雰囲気下で界面活性剤を効率よく分解させることができ、環境に問題となる成分の残留物もないことから、製品の安全性を確保することができ、製品の廃棄時にも特別な処理工程を必要とせずトータルコストを低減することが可能な電気化学デバイス用ガス拡散層の製造を提供することができる。
【0020】
また、本発明によれば、炭素粒子と、撥水性樹脂粒子と、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーからなる界面活性剤とが混練された混合体は、前記界面活性剤がPRTR法に非該当であり、水を分散媒として使用しているので、特別な設備を必要としないで作製することができ、密封された容器に長期間保存することが可能であり、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態におけるガス拡散層の製造工程を説明する図である。
【図2】同上、燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】同上、膜電極接合体の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】同上、空気亜鉛電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施例における界面活性剤の加熱分解を説明する図である。
【図6】同上、界面活性剤とPTFEの分散性を説明する図である。
【図7】同上、界面活性剤とPTFEの分散性及び界面活性剤の加熱分解性を説明する図である。
【図8】同上、ガス拡散層の作製に使用した炭素粒子の性状を示すSEM像である。
【図9】同上、燃料電池の特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法では、前記界面活性剤の平均分子量が1670であり、エチレンオキサイド(EO)含有率が40wt%である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記撥水性樹脂粒子を水に良好に分散させ前記炭素粒子をほぼ均一に混合させることができ、不活性ガス雰囲気下で前記成型体を加熱して前記界面活性剤を効率よく分解させ除去することができる。
【0023】
また、前記第4工程における加熱温度が130℃以上、180℃以下である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記成型体に含まれる水を効率よく蒸発させ除去することができる。
【0024】
また、前記第5工程における加熱温度が320℃以上、360℃以下である構成とするのがよい。このような構成によれば、不活性ガス雰囲気下で前記成型体に含まれる前記界面活性剤を効率よく分解させ除去することができる。
【0025】
また、前記撥水性樹脂粒子がPTFE(ポリ四フッ化エチレン)である構成とするのがよい。このような構成によれば、PTFEの分解温度が390℃以上であるので、PTFEを分解させることなく、前記炭素粒子の間をPTFEによって結着させると共に、前記成型体に含まれる前記界面活性剤を殆んど分解させ除去することができる。
【0026】
また、前記第3工程において、多孔性の基体に前記混合物を保持させ前記成型体を形成する構成とするのがよい。このような構成によれば、ガス拡散層に機械的強度をもたせることができる。
【0027】
また、前記基体が金属製メッシュである構成とするのがよい。このような構成によれば、前記基体を集電体として使用することができる。
【0028】
本発明の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造に使用される混合体では、前記界面活性剤の平均分子量が1670であり、エチレンオキサイド(EO)含有率が40wt%である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記撥水性樹脂粒子を水に良好に分散させ前記炭素粒子をほぼ均一に混合させた混合体を形成することができ、この混合体を成型してこれを不活性ガス雰囲気下で加熱して前記界面活性剤を効率よく分解させ除去し、電気化学デバイス用ガス拡散層を製造することができる。
【0029】
また、前記界面活性剤の熱分解温度が320℃以上、360℃以下である構成とするのがよい。このような構成によれば、混合体を成型してこれを不活性ガス雰囲気下で加熱して前記界面活性剤を効率よく分解させ除去して、電気化学デバイス用ガス拡散層を製造することができる。
【0030】
また、前記撥水性樹脂粒子がPTFE粒子である構成とするのがよい。このような構成によれば、PTFEの分解温度が390℃以上であるので、PTFEを分解させることなく、前記炭素粒子の間をPTFEによって結着させると共に、前記成型体に含まれる前記界面活性剤を殆んど分解させ除去して、電気化学デバイス用ガス拡散層を製造することができる。
【0031】
本発明による電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法では、先ず、撥水性樹脂粒子と界面活性剤を水に分散させた分散液を調製し、この分散液に、炭素粒子を混合して混練し粘土状の混合物を調製する。界面活性剤として、分散性及び熱分解性が良好でありPRTR法に非該当のもの、例えば、平均分子量が1670、エチレンオキサイド(EO)含有率が40wt%であるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーを使用する。次に、この混合物を薄板状とした成型体を形成し、これを130℃以上、180℃以下の温度で加熱プレスし水を蒸発させ成型体を乾燥させた後に、乾燥された成型体を320℃以上、360℃以下の温度で加熱して界面活性剤を分解させ除去する。このようにして、特別な製造設備を使用せずに電気化学デバイス用ガス拡散層を製造することができる。
【0032】
撥水性樹脂粒子として、PTFE粒子を好適に使用することができ、炭素粒子の間をPTFEによって結着させることができる。
【0033】
上記成型体は、多孔性の基体、例えば、金属製メッシュに上記混合物を保持させ形成することが好ましく、ガス拡散層に機械的強度をもたせ、基体を集電体として使用することができる。
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明による実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
<実施の形態>
本発明によるガス拡散層は、燃料電池、空気亜鉛電池等の電池をはじめ、水素ガス、酸素ガス等のガスを発生させる電気化学デバイスに好適に適用することができる。
【0036】
先ず、本発明によるガス拡散層が適用される電気化学デバイスの例として、燃料電池を説明する。
【0037】
代表的な燃料電池として、PEFC(高分子電解質型燃料電池、Polymer Electrolyte Fuel Cell、固体高分子型燃料電池等とも呼ばれる。)と呼ばれ水素を燃料とする水素燃料電池、メタノール水溶液を直接燃料として用いるDMFC(直接メタノール型燃料電池、Direct Methanol Fuel Cell)、エタノール、プロパノール、ギ酸、ジメチルエーテル等の原料燃料を蒸発させて使用する液体原料燃料電池がある。本発明によるガス拡散層はこれら燃料電池に適用することができる。
【0038】
[燃料電池の構造]
図2は、本発明の実施の形態における燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【0039】
燃料電池は、図1に示す単セル(1セル)又は積層された複数のセルから構成される。このセルは、図2に示すように電解質膜10とその両面にそれぞれ接合された燃料極15aと酸化剤極15bからなる膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly18、及び、これをガスケット38a、38bによって挟持するセパレータ25a、25bから構成されている。
【0040】
燃料極15aはガス拡散層60a及び触媒層20aからなり、酸化剤極15bはガス拡散層60b及び触媒層20bからなる。セパレータ25a、25bは、燃料30a、酸化剤30bの流体通路26a、26bを有し、ガス拡散層60a、60bを介して触媒層20a、20bにそれぞれ燃料30a、酸化剤30bを供給するためのものであり、集電体として機能させることもできる。燃料30aは、例えば、H2、メタノールガス等)であり、酸化剤30bは、例えば、酸素、空気であり、余剰の燃料30a、酸化剤30bは、電極反応の生成物と共に排出物34a、34bとして排出される。
【0041】
膜電極接合体18への燃料30a、酸化剤30bの供給によって、燃料極15a(アノード)では、電子が放出され酸化反応が生成し、酸化剤極15b(カソード)では、電子が取込まれる還元反応が生成する。
【0042】
固体高分子型燃料電池では、燃料極側のセパレータ25aに供給された水素(燃料30a)は、流体通路26a流路を通って燃料極15aのガス拡散層60aに導かれその中を拡散して触媒層20aに導かれ、白金等の触媒作用によって水素イオンと電子とに分離される(H2 → 2H+ + 2e-)。水素イオンは固体電解質膜10を通って酸化剤極15bの触媒層20bに導かれる。一方、燃料極側で発生した電子は、負荷を含み外部回路を通って酸化剤極側のガス拡散層60b極に導かれ触媒層20bに導かれる。酸化剤極側のセパレータ30bから導かれた酸素(酸化剤)は、酸化剤極側のガス拡散層60bを通って触媒層20bに到達し、酸素、電子、水素イオンとから水を生成する(1/2O2 + 2H++2e- → H2O)。このようにして水素と酸素から水を生成する反応(H2 +1/2O2 → H2O)を含む発電サイクルが進行して、起電力を生じる。
【0043】
メタノール水溶液を直接燃料として用いメタノールを気化させたガスが燃料30aとして供給される直接メタノール型燃料電池では、メタノールガス(燃料30a)が供給される燃料極では、酸化反応(CH3OH+H2O → CO2 +6H+ +6e-)により電子が放出され、空気中の酸素(酸化剤30b)が供給される酸化剤極では、還元反応(6H+ +3/2O2 +6e- → 3H2O)により電子が取込まれ、メタノールと酸素から炭酸ガスと水を生成する反応(CH3OH+3/2O2 → CO2 +2H2O)が進行して、起電力が生じる。
【0044】
触媒層20a、20bは、通常、白金族元素(白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム)が炭素粒子に担持され形成される。
【0045】
固体電解質膜10は、燃料極と酸化剤極を隔て両極間で水素イオンを移動させる役割を有し、水素イオンの伝導性が高い膜であり、例えば、スルホン基含有パーフルオロカーボン(ナフィオン(デュポン社製:登録商標))が使用される。
【0046】
ガス拡散層60a、60bの通気性は燃料電池の発電効率に大きな影響を与える。ガス拡散層60a、60bの導電性を重視して空隙を少なくすると、燃料30a、酸化剤30bを触媒層20a、20bに供給量が少なくなり発電効率が低下してしまう。逆に、ガス拡散層60a、60bの通気性を重視して空隙を多くすると、導電性が低下しイオン化の効率が低下してしまう。
【0047】
[ガス拡散層の製造方法]
図1は、本発明の実施の形態におけるガス拡散層の製造工程を説明する図である。
【0048】
ガス拡散層は図1(A)に示す製造工程(1)〜(6)によって得ることができる。
【0049】
(1)撥水性樹脂粒子と界面活性剤を水に分散させた分散液の調製
撥水性樹脂粒子(例えば、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)粒子45)の分散液、界面活性剤を水に分散させた分散液を調製する。撥水性樹脂として、PTFEの他に、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)等、融点が320℃以上、熱分解温度が350℃以上であるフッ素系樹脂を使用することができる。
【0050】
(2)(1)で調製した分散液と炭素粒子を混練した粘土状の混合物の調製
混合・混練機を使用して混合、混練して粘土状の混合物を調製する。
【0051】
(3)(2)で調製した粘土状の混合物の圧延
粘土状の混合物を離型性樹脂シートに挟んで1本ロールにより粘土状の混合物を薄く圧延して、粘土状の混合物の圧延体50を形成する。
【0052】
(4)(3)で薄く圧延された粘土状の混合物を多孔性の基体に保持させた薄板状の成型体の形成
粘土状の混合物の圧延体50を多孔性の基体55(例えば、金属性メッシュ)に保持し、ロールプレス57にかけて延伸させて、基体55を骨格とする薄板状(シート状)の成型体を形成する。
【0053】
(5)(4)で形成された成型体の加圧下での乾燥
18KN〜22KNの加圧下で、140℃〜160℃、2min〜5mminかけて成型体を加熱乾燥(予備乾燥)させ、水分を蒸発させる。
【0054】
(6)(5)で乾燥された成型体の窒素雰囲気下の焼成
乾燥された成型体を、窒素雰囲気下で、340℃〜360℃、1.8hr〜2.2hrかけて焼成して、界面活性剤を熱分解させて除去し、撥水性樹脂粒子を熱溶融させて、炭素粒子間、基体(金属製メッシュ等)と炭素粒子間が結合され一体化された機械的強度を有するシートとされたガス拡散層60を得る。
【0055】
以上のようにして得られたガス拡散層60は、図1(B)示す模式断面図に示す構造を有している。
【0056】
図1(B)示すように、多孔性基体(金属メッシュ)55の片面が混合物(炭素粒子40と撥水性樹脂粒子45の混合物)の圧延体の外面よりも外部にあり、多孔性基体55の他面が混合物の圧延体の外面よりも内部にあるように、ガス拡散層60が形成され、多孔性基体55は、ガス拡散層60の骨格をなし炭素粒子40を支持し集電体として働く。多孔性基体55として、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体を用いることもできる。
【0057】
以上のようにして作製されたガス拡散層は、通気性及び導電性を有しており、通気性及び導電性は、ガス拡散層における炭素粒子、撥水材粒子の含有量を調製することができ、所望の通気性及び導電性を有するガス拡散層を作製することができる。
【0058】
[膜電極接合体(MEA)の構造]
図3は、本発明の実施の形態における膜電極接合体(MEA)の構造を模式的に示す断面図である。
【0059】
膜電極接合体(MEA)18は、図1(A)に示す製造工程によって形成され、図1(B)に示す構造を有するガス拡散層60a、60bの間に、触媒層20a、固体電解質膜10、触媒層20b、ガス拡散層60a、触媒層20aが挟持されている。
【0060】
ガス拡散層60a、60bにおいて、多孔性の基体55が炭素粒子40と撥水性樹脂粒子45による混合物の圧延体50の外面よりも外部に露出する側の面を外面とするように配置され、多孔性の基体55は、燃料極15a、酸化剤極15bの集電体として使用される。
【0061】
以上のようにして製造されたガス拡散層は、燃料電池、空気亜鉛電池等の電池をはじめ、水素ガス、酸素ガス等のガスを発生させる電気化学デバイスに好適に適用することができる。
【0062】
次に、本発明によるガス拡散層が適用される電気化学デバイスの例として、空気亜鉛電池を説明する。
【0063】
[空気亜鉛電池の構造]
図4は、本発明の実施の形態における空気亜鉛電池の構造を模式的に示す断面図である。
【0064】
図4に示すように、空気亜鉛電池は、空気極70、亜鉛極71、空気極70と亜鉛極71に挟持された電解質膜72とを有している。空気極70は、ガス拡散層60cとこれに接合された触媒層20cによって構成されており、亜鉛極71は亜鉛板によって構成されている。電解質膜72は塩化亜鉛の水溶液をゲル化させたものであり、空気極70と亜鉛極71のセパレータである。触媒層20cは、酸素の分解を促進させる触媒(例えば、マンガン酸化物)がカーボン粒子に担持されてなる。
【0065】
空気極70、電解質膜72を保持する空気孔付き正極ケース(端子)73は、ガスケット75を介して、亜鉛極71を保持する負極ケース(端子)74亜鉛極71に勘合され、亜鉛極71は電解質膜72に密着している。
【0066】
亜鉛極71では、酸化反応(Zn+2OH- → Zn(OH)2 +2e- )により電子が放出され、空気中の酸素が供給される空気極70では、還元反応(O2 +2H2O+4e- → 4OH-)により電子が取込まれ、亜鉛、酸素、水から水酸化亜鉛を生成する反応(1/2O2 +Zn+H2O → Zn(OH)2)が進行して、起電力が生じる。
【0067】
<実施例>
ガス拡散層の作製に先立って、PRTR法に該当しない界面活性剤について、熱分解性、及び、PTFEと水に対する分散性を調べた結果について説明する。
【0068】
[界面活性剤の熱分解]
図5は、本発明の実施例における界面活性剤の加熱分解を説明する図である。
【0069】
図5は、界面活性剤である、ノニオンTA−407(日油社製、商品名)、ノニオンTA−411(日油社製、商品名)、プロノン102(日油社製、商品名)、プロノン104(日油社製、商品名)について、熱分析を行い、窒素雰囲気下での加熱時のサンプルの重量変化を示すTG(thermalgravimetry)曲線を求めた結果である。
【0070】
プロノン102、プロノン104、ノニオンTA−407、ノニオンTA−411は、水に溶解してもイオン性を示さない非イオン性界面活性剤である。
【0071】
プロノン102、プロノン104、は、HO−(C24−O)n−(C36O)m−(C24−O)n−H(n、mは整数である。)で示されるポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマーである。プロノン102の平均分子量は1250、エチレンオキサイド(EO)含有率20wt%であり、プロノン104の平均分子量は1670、エチレンオキサイド(EO)含有率は40wt%である。
【0072】
図5において、横軸は界面活性剤の加熱開始からの経過時間(分)、縦軸は界面活性剤の初期重量に対する重量減少率(%)を示す。図5において点線により示すように、室温から350℃まで40分かけて昇温させると、約200℃から重量減少が始まり、プロノン102、ノニオンTA−407、プロノン104、ノニオンTA−411の順に熱分解が進行している。プロノン102は約50分、ノニオンTA−407、プロノン104は約80分、ノニオンTA−411は約120分でそれぞれほぼ完全に分解されている。
【0073】
[界面活性剤とPTFEの分散性]
図6は、本発明の実施例における界面活性剤とPTFEの分散性を説明する図である。
【0074】
図6は、PTFEの水性分散液(ポリフロン PTFE D−1E、ダイキン社製、商品名)22.4g、界面活性剤35.2gを水80gに分散させた分散液の状態を示している。界面活性剤としてノニオンTA−407、プロノン102を使用した場合、分散性は悪いが、界面活性剤としてノニオンTA−411、プロノン104を使用した場合、分散性は良好であった。特に、プロノン104を使用した場合、良好な分散状態は2日〜3日にわたって保持されていた。
【0075】
[界面活性剤とPTFEの分散性及び界面活性剤の加熱分解性]
図7は、本発明の実施例における界面活性剤とPTFEの分散性及び界面活性剤の加熱分解性を説明する図である。
【0076】
図7において、分散性に関しては、分散液中に沈降物がまったく認められないものを「○」、沈降物が認められるものを「×」とし、熱分解性に関しては、ほぼ完全に分解されに要する時間が100分未満であるものを「○」、100分以上のものを「×」としている。
【0077】
図5、図6、図7に示す結果から、プロノン104が良好な分散性を与え、且つ、短時間でほぼ完全に熱分解されることが確認された。
【0078】
ノニオンTA−411は分散性が良好であり、ほぼ完全な熱分解に長時間を要するが、ガス拡散層の製造には使用することができる。ノニオンTA−407、プロノン102は短時間でほぼ完全に熱分解されるが、分散性が悪いため、作業性が悪くガス拡散層の製造には不向きである。
【0079】
次に、界面活性剤としてプロノン104を使用したガス拡散層の作製について説明する。
【0080】
[ガス拡散層の形成]
図1に示す製造工程に従ってガス拡散層を作製した。
【0081】
(1)撥水性樹脂粒子と界面活性剤を水に分散させた分散液の調製
PTFE粒子45の水性分散液(ポリフロン PTFE D−1E、ダイキン社製、商品名)22.4g、界面活性剤(プロノン104、日油社製、商品名)35.2gを水80gに分散させた分散液を調製した。
【0082】
(2)(1)で調製した分散液と炭素粒子を混練した粘土状の混合物の調製
プライミックス社製のハイビスミックス混合・混練機を使用して炭素粒子32gと、調製した分散液とを混合、混練して粘土状の混合物を調製した。
【0083】
図8は、本発明の実施例において、ガス拡散層の作製に使用した炭素粒子(バルカンXC−72R、Cabot 社製、商品名)の性状を示すSEM像である。炭素粒子の平均粒径は約30nmである。
【0084】
(3)(2)で調製した粘土状の混合物の圧延
粘土状の混合物をポリイミドフィルムに挟んで1本ロールにより粘土状の混合物を薄く圧延して、粘土状の混合物の圧延体50を形成した。
【0085】
(4)(3)で薄く圧延された粘土状の混合物を多孔性の基体に保持させた薄板状の成型体の形成
粘土状の混合物の圧延体50を多孔性の基体55(Tiメッシュ(サンク社製、メッシュ短目方向の中心距離SW=0.5mm、メッシュ長目方向の中心距離LW=1.omm、刻み幅0.2mm、メッシュ材料の厚み=0.1mmのものを使用した。))に保持し、ロールプレス57にかけてトータル厚み170±10μmに延伸させて、基体55を骨格とする薄板状の成型体を形成した。
【0086】
(5)(4)で形成された成型体の加圧下での乾燥
20KNの加圧下で、150℃、4mminかけて成型体を加熱乾燥させた。
【0087】
(6)(5)で乾燥された成型体の窒素雰囲気下の焼成
乾燥された成型体を、窒素雰囲気下で、350℃、2hrかけて焼成して、ガス拡散層60を得た。形成されたガス拡散層を構成するMPL(micro porous layer、微多孔質層)の面積密度は6.7mg/cm2であった。
【0088】
[燃料電池の特性]
以上のようにして作製されたガス拡散層を使用して燃料電池を作製し、その特性を調べた。
【0089】
図9は、本発明の実施例における燃料電池の特性を説明する図であり、横軸は電流密度(mA/cm2)、左縦軸は電圧(V)、右縦軸は出力(mW/cm2)である。
【0090】
なお、図9に示す結果は、燃料として自然揮発させたメタノールを使用し、酸化剤として空気中の酸素使用した場合の、単セルについての特性を示し、燃料電池として正常に動作していることを示している。
【0091】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。
【0092】
例えば、上記のガス拡散層又はこれを用いた膜電極接合体を使用して、水素センサ、酸素センサ、アルコールセンサ等の各種ガスセンサーへの応用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によって製造された製造されたガス拡散層は電池、ガス発生装置等の電気化学デバイスに好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10…固体電解質膜、15a…燃料極、15b…酸化剤極、18…膜電極接合体、
20a、20b、20c…触媒層、25a、25b…セパレータ、
26a、26b…流体通路、30a…燃料、30b…酸化剤、34a、34b…排出物、
38a、38b…ガスケット、40…炭素粒子、45…PTFE粒子、50…圧延体、
55…基体、57…ロールプレス、60、60a、60b、60c…ガス拡散層、
70…空気電極、71…亜鉛電極、72…電解質膜、73…正極ケース、
74…負極ケース、75…ガスケット、76…空気孔
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特開平2−117068号公報(第2頁左上欄第17行〜同頁右上欄第6行、第3頁左上欄第1行〜同欄第5行)
【特許文献2】特開2002−280005号公報(段落0012〜0013)
【特許文献3】特開2004−87400号公報(段落0012、段落0017)
【特許文献4】特開2007−242378号公報(段落0054〜0057)
【特許文献5】特開2004−39569号公報(段落0014〜0017)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロ
ックコポリマーからなる界面活性剤と撥水性樹脂粒子を水に分散させた分散液を調製す
る第1工程と、
炭素粒子と前記分散液を混練りした混合物を調製する第2工程と、
前記混合物を薄板状とした成型体を形成する第3工程と、
前記成型体を加熱し前記水を蒸発させ前記成型体を乾燥させる第4工程と、
乾燥された前記成型体を加熱して前記界面活性剤を分解させる第5工程と
を有する、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤の平均分子量が1670であり、エチレンオキサイド含有率が40wt%である、請求項1に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程における加熱温度が130℃以上、180℃以下である、請求項1に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項4】
前記第5工程における加熱温度が320℃以上、360℃以下である、請求項1に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項5】
前記撥水性樹脂粒子がPTFE粒子である、請求項4に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程において、多孔性の基体に前記混合物を保持させ前記成型体を形成する、請求項1に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項7】
前記基体が金属製メッシュである、請求項6に記載の電気化学デバイス用ガス拡散層の製造方法。
【請求項8】
炭素粒子と、
撥水性樹脂粒子と、
ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロ
ックコポリマーからなる界面活性剤と
が水を分散媒として混練された、電気化学デバイス用ガス拡散層の製造に使用される混合体。
【請求項9】
前記界面活性剤の平均分子量が1670であり、エチレンオキサイド含有率が40wt%である、請求項8に記載の混合体。
【請求項10】
前記界面活性剤の熱分解温度が320℃以上、360℃以下である、請求項8に記載の混合体。
【請求項11】
前記撥水性樹脂粒子がPTFE粒子である、請求項10に記載の混合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−176947(P2010−176947A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16532(P2009−16532)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】