説明

電気化学型表示素子の駆動方法

【課題】 黒ブツの発生を防止することで素子寿命を長くできる電気化学型表示素子の駆動方法を提供する。
【解決手段】 視面側の電極上に還元電圧を印加する発色工程と、視面側の電極を極性反転して酸化電圧を印加する消色工程を有する電気化学型表示素子の駆動方法であって、前記酸化電圧が、画素の大部分の析出金属を溶解させるための第一電圧ステップと、画素の一部に残存した微小金属核を消去するための第二電圧ステップの、少なくとも2つの電圧ステップを有し、前記第一電圧ステップが電圧V1を印加する電圧ステップであり、前記第二電圧ステップが、(1)電圧V1に続けてV1<V2である電圧V2を印加する電圧ステップ、または、(2)電圧V1の印加後、酸化閾値電圧以下の印加及び/又は電圧未印加を経由したのち、V1≦V3である電圧V3を印加する電圧ステップである、電気化学型表示素子の駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学型表示素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射光を利用する視認性が高い表示素子として、電圧印加により、固体や液体に生じる可逆的な色相の変化を利用する電気化学型表示素子が知られている。本素子では表示方式によっては発色表示の際の色相がクリアで視野角依存性もない優れた表示を行うことが可能である。電気化学型表示素子の中でも、視面側の電極上に還元電圧を印加することにより、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、視面側の電極を極性反転して酸化電圧を印加することにより、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有する、エレクトロクロミック型の電気化学型表示素子は、他の消発色材料では困難とされている色相が良好な黒を発色することができるため、広く研究が行われている。
【0003】
本来、金属の溶解析出により消発色を行う素子は、溶解と析出に係る反応のみが各画素内で均一且つ確実に生じていれば劣化することは殆ど無い。しかし、該反応を各画素内で均一に生じさせることは、現在の駆動方式を使用している限り困難である。
具体的には、現在の駆動方式は、セグメント駆動であれ各種マトリクス駆動であれ、表示面に透明電極が設置された部分と透明電極が設置されていない部分とがあり、透明電極の有無による境界線が存在する(以降この部分をエッジと称する場合がある)。金属の溶解析出型の電気化学型表示素子の場合、該境界線付近の透明電極では電界及び発色金属イオンが集中するため(以後、エッジ効果という)、発色金属の還元が他の部分よりも生じやすくなる。その結果、該部分に黒ブツ欠陥と呼ばれる消色しにくい金属粒子が析出する欠陥が生じやすい。
一旦黒ブツ欠陥が生じると、金属粒子の先端部分にさらに電界が集中したり、あるいは、析出金属による自己触媒作用により金属粒子が析出しつづけ、金属粒子が粗大化し、素子外観を損ねるという問題がある。更にこの状態で素子の駆動を続行すると素子の劣化に繋がり、最終的には表示素子内の電極間が短絡し素子が破損する。
【0004】
従って、素子の劣化を防止するには、黒ブツ欠陥を生じないように予防すること、及び、黒ブツ欠陥が小さい内に再溶解させることが重要である。黒ブツ欠陥が一旦粗大化すると、該欠陥粒子の体積辺りの表面積が小さくなることにより再溶解しにくくなるからである。
該素子の寿命を向上させる方法として、特許文献1では素子内の電位制御用として第3の電極(参照電極)を導入した表示素子について記載されている。該発明は、視面側および対向側の電極の酸化還元反応の電位を参照電極により制御することで、過剰な金属析出等の異常反応を防ぎ、表示素子の繰り返し特性を向上させる方法である。しかし、本方法では、特に多数の画素を制御するマトリクス駆動の場合には各画素に第3の電極を設置する必要がでてくるため、通常の2電極を制御する方法に比べて素子構成が極めて複雑になるため、素子の高コスト化に繋がる問題がある。また電気化学測定に第3電極(参照電極)を用いるのはごく一般的な手法である。
【特許文献1】特開2003−37373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、金属イオンを酸化還元することにより消発色を行う電気化学型表示素子の駆動方法において、黒ブツの発生を防止することで素子寿命を長くできる駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、前記素子の駆動方法、具体的には、消色工程時に印加する酸化電圧の波形を鋭意工夫することで、本発明の課題を解決した。
黒ブツの発生の予防や一旦発生した黒ブツの溶解を、単純な矩形波で行おうとした場合、方策としてはa.酸化(消色)電圧をより高くする、b.酸化時間を長くする、の2点がある。黒ブツ欠陥の前駆体は消発色金属の微小な核であり、これらは目視できない大きさで各画素の僅かな部分(通常は面積の0.1%以下)に残存する。黒ブツ欠陥の前駆体である金属核の消去を目的として、前記aやbの方法を行おうとした場合には、消色対象の画素の殆どの領域において既に発色金属が溶解した後も、僅かな領域にある微小な核の消去のために一定の電圧を一定時間印加し続けることとなる。この操作により仮に微小な金属核を消去することができても、すでに消色している大部分の領域では、金属消去以外の副反応が生じることで素子中の電解液が劣化変質したり、電極がダメージを受けたりすることにより素子が劣化する恐れがある。加えて、駆動に伴う消費電力が大きくなる問題もある。
【0007】
しかし、本発明者らは、消色工程時に印加する酸化電圧を、画素の大部分の析出金属を溶解させるための第一電圧ステップと、画素の一部に残存した微小金属核を消去するための第二電圧ステップの、少なくとも2つの電圧ステップで構成させ、且つ、前記第一電圧ステップが電圧V1を印加する電圧ステップであり、前記第二電圧ステップが、(1)電圧V1に続けてV1<V2である電圧V2を印加する電圧ステップ、または、(2)電圧V1の印加後、酸化閾値電圧以下の印加及び/又は電圧未印加を経由したのち、V1≦V3である電圧V3を印加する電圧ステップとすることで、黒ブツの発生を防止することができ、素子寿命を長くできることを見いだした。酸化電圧を該波形とすることで、多発する黒ブツ欠陥を、該欠陥の前駆体である金属核を第二電圧ステップで効率よく消去でき、該欠陥の発生を防止できる。且つ、単に消色用の酸化電位が高い、もしくは酸化時間が長い波形とは異なり、電気化学型表示素子の電解液成分や電極に悪影響を及ぼすこともない上、余分な電力を消費することが無くなる。
【0008】
即ち、本発明は、視面側の電極上に還元電圧を印加することにより、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、視面側の電極を極性反転して酸化電圧を印加することにより、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有する電気化学型表示素子の駆動方法であって、
前記酸化電圧が、画素の大部分の析出金属を溶解させるための第一電圧ステップと、画素の一部に残存した微小金属核を消去するための第二電圧ステップの、少なくとも2つの電圧ステップを有し、
前記第一電圧ステップが電圧V1を印加する電圧ステップであり、前記第二電圧ステップが、
(1)電圧V1に続けてV1<V2である電圧V2を印加する電圧ステップ、または、
(2)電圧V1の印加後、酸化閾値電圧以下の印加及び/又は電圧未印加を経由したのち、V1≦V3である電圧V3を印加する電圧ステップである、
電気化学型表示素子の駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の駆動方法により黒ブツの発生を防止することができ、素子寿命を長くできる。該駆動方法は既存の電気化学型表示素子に応用でき、素子構成の変更を伴うこともなく、余分なコストをかけることなく、該素子の寿命を大幅に長くできる。
具体的には、素子の繰り返し駆動回数を大幅に向上させることができる。且つ、単に消色用の酸化電位が高いもしくは、酸化時間が長い波形とは異なり、電気化学型表示素子の電解液成分や電極に悪影響を及ぼすこともない上、余分な電力を消費することを無くした駆動波形を提供することができる。また外気温の変動等の電気化学反応に影響する変化に対しても繰り返し駆動に対する影響を少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(駆動方法)
本発明の電気化学型表示素子の駆動方法において、視面側の電極上に還元電圧を印加することにより金属イオンが金属に還元され電極上に析出する、即ち発色工程における還元電圧の波形を、還元電圧波形と称し、視面側の電極を極性反転して酸化電圧を印加することにより電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる、即ち消色工程における酸化電圧の波形を、酸化電圧波形と称する。
本発明においては、酸化電圧波形が、画素の大部分の析出金属を溶解させるための第一電圧ステップと、画素の一部に残存した微小金属核を消去するための第二電圧ステップの、少なくとも2つの電圧ステップを有する、少なくとも2段階の形状を有する。
また、本発明において、還元電圧とは、実用的な速度で消発色用の金属イオンが視面側の電極上で還元される電気化学反応が生じる電圧と定義する。
また、酸化電圧とは、実用的な速度で視面側の電極上に析出している金属が酸化されることでイオン化、溶解(消色)する反応が生じる電圧と定義する。
【0011】
本発明では、酸化電圧波形を、少なくとも2つの電圧ステップにしていることを特徴とする。それぞれの電圧ステップは異なる役割を有しており、具体的には、第一電圧ステップは析出金属を消去する役割、第二電圧ステップは第一電圧ステップで完全に消去できなかった微小な金属核を消去する役割を有する。
【0012】
(酸化電圧 第一電圧ステップ)
第一電圧ステップで印加する電圧V1は、消色が生じる正の電圧であり且つ消色以外の副反応が生じない範囲であれば特に限定されない。V1の値が小さい場合には印加時間を延ばすことにより消色を十分に行う工夫が必要であり、一方V1の値が大きい場合には印加時間を短くすることで、副反応が生じることを防止することができる。
具体的には、第一電圧ステップでは、消色以外の酸化反応が極力生じないように留意した電圧(V1)及び、印加時間を設定することが好ましい。V1を求める方法として表示素子のサイクリックボルタモグラム(CV曲線)を用いる方法を例示する。本方法は表示電極側に作用極を、対向電極側に参照電極と対向電極を接続したサイクリックボルタンメトリーを測定し、該測定中の消色ピーク電圧よりも一定値大きい電圧をV1とするものである。このときのCV曲線の消色ピーク電圧とV1電圧との差は必要な駆動速度や画素面積により異なるために決まった値は無いが、0.1V〜0.9Vの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.3〜0.7Vの範囲内にあることである。0.1Vよりも小さいと消色速度が極めて遅くなったり、消色し残りによる黒ブツが発生しやすくなったりする恐れがあり、0.9Vよりも大きいとV1の値が過大であることによる酸化副反応が発生しやすくなる恐れがある。
【0013】
(酸化電圧 第二電圧ステップ)
本発明での第二電圧ステップは前述の第一電圧ステップで完全に溶解することができなかった黒ブツ前駆体である金属核を消去する役割を有する。具体的には、
(1)電圧V1に続けてV1<V2である電圧V2を印加する電圧ステップ、
か、または、
(2)電圧V1の印加後、酸化閾値電圧以下の印加及び/又は電圧未印加を経由したのち、V1≦V3である電圧V3を印加する電圧ステップ
がある。
【0014】
前記(1)の方法は、V1に続き、V1よりも高い電圧V2を印加するものである。電圧V2を印加することで、表示素子内の電気二重層が再配列し、金属核が残存しやすい透明電極のエッジ部分に正の電界が集中することにより、V1の電圧を印加し続けることよりも効率的にエッジ部分に電極反応を生じさせることができる。そのため、金属核を集中的にイオン化溶解させることができる一方、画素の他の部分には影響が少ない。
【0015】
前記(2)の方法は、V1印加後、印加電圧を、酸化反応が十分に生じない電圧即ち酸化閾値電圧以下まで低下させる、あるいは未印加状態とすることにより、V1印加に伴い形成された電気二重層を一旦解消した後、再度酸化反応が生じる領域にまで電圧を上げる即ちV1≦V3である電圧V3を印加することで、前記(1)方法と同様に透明電極のエッジ部分に電界を集中させ、効率的にエッジ部分に電極反応を生じさせるものである。
V1印加後にかかる、酸化閾値電圧以下の電圧あるいは未印加状態は、V1により形成された電気二重層を崩す必要がある上、引き続き印加されるV3との差が大きいことが好ましいので、未印加状態であることが最も好ましい。V1とV3の間の電圧印加は消色反応に基本的に寄与しないため、消費電力の低減の観点からも未印加状態とするのが良い。
なお、ここでいう酸化閾値電圧とは、CV曲線において酸化反応が急速に立ち上がり始める電圧値を指す。
一方、V3は、V1と同じかそれ以上の電圧である必要がある。エッジ部分に残存した金属核はそもそも消色させにくいため、V1よりも低い電圧では十分な効果が得られない。
【0016】
V1とV3との間隔については特に制限はない。V1印加終了後、酸化閾値電圧以下の電圧あるいは未印加状態とした直後にV3を印加しても、酸化閾値電圧以下の電圧あるいは未印加状態を数秒以上保った後に印加してもよい。しかし、後述のようなエレクトロケミカル反応が消色に関与する場合には、V1印加後の該反応が終了した後、V3を印加する方が効果的となる。その場合には両電圧間に秒単位の一定時間(エレクトロケミカル反応に要する時間によって異なる)を経過させた方が良い。
【0017】
前記第二電圧ステップで使用する印加電圧V2もしくはV3は、第一電圧ステップの電圧V1の値により決定される。具体的には、素子の駆動方法、面積、応答速度等を加味し、好ましくはV1との差が0.5V以下更に好ましくは0.25V以下、最も好ましくは0.1V以下である。V2もしくはV3が高すぎると過剰な酸化反応が生じやすくなることにより素子の繰り返し特性を向上させる効果の一部が損なわれる恐れがある。また、特に駆動初期において黒ブツ欠陥及びその前駆体が発生していない場合にも駆動に対して影響を及ぼすことがある。
【0018】
(第二電圧ステップの印加時間)
黒ブツが発生しやすい部分はエッジ効果により電気力線が集中し易い部分であり、発色金属の還元が他の部分よりも生じやすい部分である。逆にいうと、還元の逆反応である酸化が生じる場合においても還元時とは逆方向の電気力線が集中しやすい。従って、第二電圧ステップは、印加時間が短くとも効果的に作用する。
前記(1)及び(2)におけるV2あるいはV3の好ましい印加時間としては、少なくとも、電気二重層の再配列に要する30ミリ秒よりも長いことが好ましい。30ミリ秒よりも印加が短いと電気二重層の形成が十分にされないため、十分な金属核溶解反応が生じない場合がある。その一方でなるべく短時間であることが好ましく、具体的には、金属核の溶解に要する反応を生じさせる最短の時間であることが好ましく、150ミリ秒以下であることが好ましく、さらには80ミリ秒以下であることが好ましい。150ミリ秒よりも長時間印加すると、黒ブツやその前駆体の発生部位以外の領域に酸化反応が生じやすくなり、本発明の効果のひとつである、電気化学的な酸化の副反応を防止する効果が少なくなる場合がある。
【0019】
(波形のバリエーション)
本発明においては前記(1)及び(2)の方法を組み合わせて用いても良い。すなわち、(1)→(2)として、第一電圧ステップのV1の直後に、前記(1)の方法である第二電圧ステップV2を印加した後、一旦電圧を酸化閾値電圧以下に戻し、次に前記(2)の方法である第二電圧ステップのV3を1回あるいは複数回印加する方法が挙げられる。更に、(2)→(1)として前記(2)の方法である第二電圧ステップのV3を印加したのち、前記(1)の方法に記された波形を印加する方法も挙げられる。
【0020】
また、第二電圧ステップにおけるV2あるいはV3の波形は、各消発色サイクルに対して毎回印加する必要は無く、消発色数サイクル毎に第二電圧ステップを有する波形を導入するかを素子により適宜選定するのが良い。第二電圧ステップを有する波形の導入割合には特に制限は無いが、1〜1000回の消発色に対して1回導入されることが好ましく、更に好ましくは200回以下に1回導入されることである。また、駆動開始初期には第二電圧ステップを組み込まず、一定回数の駆動後の黒ブツ欠陥が懸念される状態になった後に第二電圧ステップを組み込んでもよい。
【0021】
(本発明の副生的な効果)
本発明の駆動方法は、前記第二電圧ステップにおけるV2あるいはV3が、黒ブツの前駆体である金属核や黒ブツの発生部位に選択的に作用し、黒ブツを消去できる。また、本発明の副生的な効果として、外気温の変動等の電気化学反応に影響する変化に対しても繰り返し駆動に対する影響を少なくできることを挙げられる。例えば外気温が上がることにより素子温度も上昇した場合に還元(発色)反応が優先的に進行するタイプの電解液を有する素子(金属イオンを用いるエレクトロクロミック素子はこの傾向が強い)において、外気温が低い状態では第二電圧ステップを必要としない場合でも、駆動波形として第二電圧ステップを有する酸化電圧波形を導入しておく。すると、外気温が季節変動等により上昇することで黒ブツ欠陥やその前駆体が生成しやすくなった場合にのみ特に有効にV2及び/またはV3ステップが作用することにより、駆動方法を変更することなく素子を長寿命化させることが期待できる。
【0022】
本発明の駆動方法は、公知の電気化学型表示素子の黒ブツ発生に効果のある方法である。以下に、本発明の駆動方法により、最も効果の高い素子の例を示す。
先に本発明者らは、金属を溶解、析出させることで表示を行うエレクトロクロミック型表示素子において、該表示素子が含有する電解液が、消発色に用いる金属がビスマスイオン及び銅イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオンと、一般式(I)
【0023】
【化1】

(I)
【0024】
(式中、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、炭素原子数1〜3のアルコキシル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基またはスルホン酸アルカリを表し、R1〜R4はそれぞれ同一であっても、異なっていても良い。)で表される化合物(以降ヒドロキノン誘導体と称する場合あり)を含有することを特徴とする電解液で、消発色金属と支持電解質のみを有する電解液よりも良好な繰り返し特性がえられることを見出している。
【0025】
上記の電解液では、酸化電圧により下記(式1)により示される反応を生じ、ヒドロキノン誘導体が視面側の電極上でベンゾキノン誘導体となる。
【0026】
【化2】

(式1)
【0027】
発生したベンゾキノン誘導体は、下記(式2)に示された反応により、エッジ部分に残存した黒ブツの原因である金属(この場合ビスマス金属)をエレクトロケミカル反応によりイオン化し電解液中に再溶解させることができる。
この反応の際、前記(式1)で発生したベンゾキノン誘導体は可逆的にヒドロキノン誘導体に戻る。このように、酸化電圧と黒ブツ欠陥が存在する限り、一般式(1)で表されるヒドロキノン誘導体は可逆反応を繰り返すので、黒ブツ欠陥を消去することができる。
【0028】
【化3】

(式2)
【0029】
本発明の駆動方法を前記一般式(1)で表されるヒドロキノン誘導体を有する電解液に応用した場合、第二電圧ステップの波形において前記(式1)の反応が電極上の黒ブツ欠陥やその前駆体である微小金属核が第一電圧ステップ後も残存する領域に半選択的に発生するため、前記(式2)に示された金属の溶解反応が効率的に生じる。
そのため、本発明の駆動方法と上記電解液の組み合わせは特に好ましく用いられる。
【0030】
次に、本発明の波形により駆動させる電気化学型表示素子の例を具体的に示す。
本発明の駆動方法に使用できる表示素子は、少なくとも消発色に用いられる金属イオンを有する電解液、透明電極、対向電極、電解液の漏洩を防止するための封止剤とから構成される。また電解液を保持し、素子に白色等の色を与えるための媒体(以降表示媒体と称する場合あり)を有していても良い。本発明の電気化学型表示素子の一実施形態を示す概略断面図を図2に示した。図2では電気化学型表示素子は、透明基板1と、その上に設けられた透明電極3と、透明電極3の上に設けられた表示媒体5と、対向基板2と、その上に設けられた対向電極4と、封止材7とから概略構成されている。
【0031】
(透明電極、透明基板)
表示素子に用いられる電極としては、視面側に位置する電極3は透明である必要がある。このような電極3としては、現在最も広く用いられているITO(インジウム・スズ酸化物)の他にATO(アンチモン・スズ酸化物)、TO(酸化スズ)、ZO(酸化亜鉛)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、FTO(フッ素・スズ酸化物)等を例示することができる。また、透明電極を保持する透明基板1としては前述の対向基板中で例示したものの内、可視光の透過性が高い、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネートに加え、ガラス板等を例示することができる。
【0032】
(対向電極、対向基板)
一方、透明電極と対向する対向電極は必ずしも透明である必要はない、そのため上記金属酸化物の他、電気化学的に安定な金属類、たとえば、白金、金、コバルト、銀、銅、パラジウム等や炭素材料を用いることもできる。また、対向基板としても表面が平滑なものであれば差し支えなく、上記透明基板のほかに各種プラスチック類やゴム等を用いることができる。また金属基板を電極と兼用する形で用いても良い。
【0033】
(封止材)
封止材7は、透明電極3と対向電極4間のギャップを保持すると共に、表示媒体5に空気中の水分、酸素や二酸化炭素が混入することを防止する役割を有する。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂といった熱や紫外線による圧着硬化が可能で、ガスバリア性を有する樹脂等が挙げられる。
【0034】
(表示媒体)
表示素子に用いられる表示媒体は、電解液と該電解液を保持する媒体とから構成される。本発明で提供される諸効果は、必ずしも電解液保持用の媒体を必要とせず、透明電極と対向電極との間に直接電解液を封入した素子でも発現する。しかしながら、表示素子の実用面から考えると素子破損の際の電解液の漏洩防止の観点と黒非表示時に白表示を行うために、電解液を保持可能な白色材料に電解液を保持させてシート化したもの(表示媒体)を用いることが好ましい。
【0035】
(電解液)
表示素子に用いられる電解液は、消発色金属イオンと、支持電解質とこれらを溶解させる溶媒とから構成されている。
【0036】
(金属イオン)
還元されることで、電極上に析出発色する金属イオンとしては銀、ビスマス、銅、鉄、クロム、ニッケル等のイオンが例示でき、ハロゲン化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、過ハロゲン酸塩等を電解液中に溶解させることでイオン化させ、該電解液を発色剤として用いることができる。たとえば、銀化合物を溶解させた電解液を用いた場合には、電極に駆動電圧を印加すると、Ag+e→Agの還元反応が負電極側で生じて、このAg析出物により電極上が黒色に変化する。上記金属のうちビスマス、銀が、電解液に溶解させた状態でほぼ透明である上に、析出物の色が濃く、消着色の可逆反応が良好であることより特に好ましく用いられる。また、これらの金属イオンは2種以上組み合わせて用いても良い。また消発色の可逆性を向上させるために、銅イオンを電解液中に共存させてもよい。
【0037】
(消発色金属イオンを供給する金属化合物)
金属イオン源となる銀化合物としては塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀の他に、過塩素酸銀、塩素酸銀、酢酸銀、臭素酸銀、ヨウ素酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、硫化銀、硝酸銀、亜硝酸銀等を例示できる。
【0038】
またビスマス化合物としては塩化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス等のハロゲン化ビスマスの他、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、炭酸ビスマス、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシ硫酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、オキシ酢酸ビスマス等が例示できる。
【0039】
また、消発色の可逆性を向上させるための銅化合物としては塩化銅(II)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅の他、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、過塩素酸銅(II)等が例示できる。以上列記した銀、ビスマス、銅化合物とも2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、前述の通り本発明の駆動方法が特に良好な電解液として、消発色に用いる金属がビスマスイオン及び銅イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオンと、ヒドロキノン誘導体を含有しているものを挙げることができる。
【0041】
(溶媒)
表示素子中の電解液を構成する溶媒としては通常電気化学で溶媒として用いられるものの内、消発色金属イオンの供給源である各種金属化合物や支持電解質溶解しうるものであれば特に制限はない。例として水の他、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類に加えプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、2−エトキシエタノール、2−メトキシメタノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリル、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール等を例示することができる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0042】
(支持電解質)
また、電解液を構成する支持電解質としては通常支持電解質として用いられている材料の内、消発色金属イオンを供給する金属化合物と同時に溶解させることができるものであれば特に限定されない。例示すると、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過塩素酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、ホウフッ化リチウム等のリチウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のカリウム塩、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム塩等や硫酸、ホウフッ化水素酸、過塩素酸、塩酸等の酸類を例示することができる。
【0043】
(その他の添加剤)
その他、消発色の可逆性を良くすること等を目的として、めっき用薬剤として用いられる、光沢剤、錯化剤、緩衝剤、pH調整剤等を添加してもよい。
【0044】
(表示媒体用の電解液保持剤)
表示素子の電解液を保持して表示媒体として用いるための材料としては、電解液中の各物質と反応せず、且つ電解液を極力イオン伝導度を低下させない状態で保持させることができるものであれば特に限定されない。水系電解液をゲル状に保持することができる材料としては、ポリビニルアルコールの他にメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体やそのアルカリ金属塩やポリアリルアミン等の水溶性樹脂を例示することができる。一方、有機系の電解液をゲル状に保持させることができる材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を例示することができる。また、表示素子として白色度が重要である場合はこれらに酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉛等の白色顔料を混合させて用いることもできる。本材料を用いて表示素子を作成する場合は、例えば電解液中に前述の固体樹脂を一定量添加し、攪拌溶解する等の方法や、予め固体樹脂を電解液と同一の溶媒に溶解させた樹脂溶液を作製したのち、電解液を添加する方法等により作製した塗工液を、例えばアプリケーターやバーコーター、テーブルコーター等の枚様型塗工装置や、スピンコート、ディップコート等の手法を用いて一方の電極上に塗工したのち、もう一方の電極を設置することで作製することができる。
【0045】
特に、電解液保持用の媒体として、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機化合物の微粒子を含有する、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーのパルプ状微粒子(以下、有機無機複合体と言う場合有り。)を用いた場合には、該有機無機複合体が高い白色度を有している上、抄紙により視認性が極めて紙に近い媒体のシートを作製することが容易であり、更に電解液に用いられる極性溶媒を漏洩することなく多量に保持することで高いイオン伝導度を維持することができるため、特に好ましく用いられる。本材料を用いて表示媒体を作成する方法としては、あらかじめ調製した電解液中にパルプ状複合体を投入し、十分に分散させた後に濾過することで余剰な電解液を除くことや、電解液を複合体に流通させることで電解液を含浸させる方法、複合体を電解液中で分散させた後、元から含有している極性溶媒を留去する方法等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
(電気化学型表示装置)
図2で示された表示素子に電源部、回路部や必要に応じてシール層、筐体等を設けることにより、表示装置とすることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。特に断らない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0048】
(表示素子用の電解液の調製)
溶媒として超純水16.5部に、消発色剤としてオキシ過塩素酸ビスマス・一水和物を1.33部と過塩素酸銅(II)・六水和物0.72部、支持電解質として過塩素酸の60質量%溶液を0.167部、過塩素酸ナトリウム・一水和物8.43部を、消色促進化合物としてヒドロキノン0.29部を、室温で攪拌して溶解させ、均質淡青色で透明な電解液を調製した。
【0049】
(表示媒体の作製)
上記方法で作製した電解液に大日本インキ化学工業(株)製、パルプ状有機無機複合体「セリルS−50」(固形分8.7質量%、有機成分ポリアミド、無機成分シリカ、シリカ含有率55質量%)を2.28部入れ、室温下で30分間攪拌することにより、複合体パルプが均一に分散したスラリーを得た。該スラリーを60mmφの桐山ロートで0.02MPaで20秒間減圧濾過することにより厚さ約700μm、固形分率約16質量%の電解液を多量に保持したウエットケーキシート状の表示媒体1を得た。
【0050】
(表示素子の作製)
上記方法で得られた表示媒体1を1cm角の正方形に切断した。これを4cm×2cmの大きさで3mmの幅のストライプ状のITO透明電極(表面抵抗10Ω/□)が基板の長手方向に走ったガラス基板上の、透明電極側長手方向の中央部分に設置し密着させた。該表示媒体上に背面電極に相当する2cm×4cm角で0.5mm厚の無酸素銅板を銅版の長手方向が透明電極の長手方向に垂直になるように設置した後、加圧硬化装置LP−320(株式会社イーエッチシー製)を用いて、2枚の電極間を加圧することにより密着させた。次いで、ウエットケーキの周囲をエポキシ樹脂で封止後、透明電極側にはストライプの両末端にリード線を、銅電極側には銅と接続できる任意の場所にリード線を接続することで、厚さ2mmの電気化学型表示素子を作製した(以下、表示素子1という)。表示素子1の透明電極側からみた概略図を図3に示した。本素子は、1cm角の表示媒体(ウエットケーキ)の内、中心部分に1cm×3mm(電極面積0.3cm)のストライプ状の表示部分を有しており、表示媒体中に表示部分と非表示部分との境界部分があるために、この部分にエッジ効果により金属の過剰析出が生じ易いことが特徴である。本表示素子を用いて各種波形での駆動試験を行った。
【0051】
(表示素子のサイクリックボルタモグラムの測定と、該測定からの駆動電圧の決定)
表示素子1での還元電圧と、第一電圧ステップ(V1)を決定するために、CV曲線を電気化学測定装置(モデル760B、BAS社製)を用いて以下の条件で測定を行った(透明電極側;作用極(W1)接続、対向電極側;参照極、対向極接続、初期電位0V、掃引速度0.1V/分、電圧範囲−1.0V〜+1.25V、掃引方向マイナス側よりスタート)。図1のCV曲線は本測定により得られた結果である。マイナス側への電圧掃引により、−0.8V付近に還元側のピークが見られ、その後も電圧がー1Vを経由してー0.1V付近に達するまで金属還元(すなわち黒発色)による還元電流が流れ続けた。一方、酸化側では+0.75V付近で電流値のピークが見られ、+0.9V付近で電流値が少なくなりこの時点で金属の酸化(すなわち黒消色)が終了した。その後の電圧上昇に伴い電解液中のヒドロキノンのベンゾキノンへの酸化反応が生じることにより電流が流れ、この電流値の変化は電圧上昇に伴って上昇する様相を示した。表示素子1では−1.0Vまでの還元電圧の印加により、表示素子は十分な黒色度が得られたため矩形波での還元(発色)電圧を−1.0Vとした。また、本表示素子は矩形波類似の波形で繰り返し駆動を十分に行うためには、酸化側に還元側よりも多い絶対値電圧が必要であることが予備検討により明らかとなっているので酸化側電圧のうち第一電圧ステップ(V1)としては1.25Vを用いることとした。従って、本表示素子での酸化側ピーク電圧とV1との差は(1.25−0.75で)0.5Vに相当する。また、本素子での酸化値閾値電圧は酸化電圧が大きく立ち上がり始める0.25Vに相当する。
【0052】
(波形の作成、評価装置)
素子の駆動に用いる波形データを任意波形作成ソフトで作製し、該波形をファンクションジェネレーター(7075、日置電機株式会社製)に読み込ませた。該ファンクションジェネレーターをポテンシオスタット(HA−501、北斗電工株式会社製)に接続し、その出力ラインを透明電極側には作用極(W1,W2)を、対向電極側には参照極、対向極を接続することにより駆動試験を行った。
【0053】
(電圧印加に伴う電流値の測定)
駆動中の素子をオシログラフィックレコーダー(OR1400、横河電機株式会社製)に接続し駆動電圧波形に伴う電流値の変化を測定した。図4〜図9は本測定より得たものである。
【0054】
(実施例1)
本発明の駆動波形として、還元(黒発色)側の波形として−0.7Vの還元電圧を800ミリ秒印加したのち、酸化(消色)側の波形に第一電圧ステップとして1.25V(V1)を700ミリ秒印加した後、引き続き電圧を1.30V(V2)に上げ(第二電圧ステップに相当)100ミリ秒印加し、その後電圧0Vの状態を1400ミリ秒継続した波形(1サイクル3000ミリ秒)を作成した。この駆動波形を繰り返すことで表示素子の駆動試験を行った。図4に本波形の2サイクル分の電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)とを示した。本実施例を含め、以降すべての実施例、比較例とも電流電圧曲線は実験開始直後1分以内に測定をおこなったものである。
【0055】
図4より、本駆動波形では還元電圧を印加している間は12mA程度の還元電流が流れ、還元電圧の印加時間とともに黒発色が濃くなった。その後第一電圧ステップとして1.25Vの酸化電圧(V1)を印加すると初期には酸化電圧が30mA弱流れたが酸化電圧印加開始後約400ミリ秒で急激に電流値が低下し黒発色はほぼ消色した。しかしその後も4.5mA程度の電流が恒常的に流れ続けた。本電流は電解液中のヒドロキノンがベンゾキノンに酸化される酸化反応により生じていると考えられる。酸化波形に切り替えた700ミリ秒後に酸化電圧を第二電圧ステップとして1.30V(V2)を100ミリ秒印加したところ、酸化電流が約1mA増加し前記酸化反応が(V2)を印加する前に比べ20%以上多く生じていることが示された。
【0056】
(実施例2)
実施例2として、還元側の波形は実施例1と同様な波形であるが、酸化側の波形に第一電圧ステップとして1.25V(V1)を800ミリ秒印加した後、電圧を0Vにし650ミリ秒経過したのち第二電圧ステップとして1.25V(V3)を100ミリ秒印加し、再度電圧を0Vにし650ミリ秒経過させた波形を用いた。図5に本波形を印加した際の電流、電圧曲線を示した。本波形では還元電圧、酸化側の V1電圧印加では実施例1と同様な消発色挙動、電流値変化を示した。V1後一度0Vを経過した後V1と同一の電圧V2を印加することで本電圧ステップの初期には、実施例1のV2と同様にV1終了間際の電流よりも20%以上高い電流が流れるのが観察された。
【0057】
(実施例3)
実施例3として、還元側の波形は実施例1と同様な波形であるが、酸化側の波形に第一電圧ステップとして1.25V(V1)を800ミリ秒印加した後、電圧を0Vにし650ミリ秒経過したのち第二電圧ステップとして1.27V(V3)を100ミリ秒印加し、再度電圧を0Vにし650ミリ秒経過させた波形(A波形と称する)の後、A波形のうち電圧(V3)の印加のみを除いた波形(B波形と称する)が続く波形を用いた。本波形ではABABAB・・・の様に、還元波形2回に対して1回の第二電圧ステップを導入していることを特徴としている。図6に本波形を印加した際の電流、電圧曲線を示した。本波形ではV2の印加に伴いV2印加の初期には、V1終了間際の電流よりも約25%高い電流が流れるのが観察された。本実施例での第二電圧ステップの還元1サイクル辺りのV3の印加時間は100/2=50ミリ秒に相当する。
【0058】
(比較例1)
還元側の波形は実施例1と同様にし、酸化電圧としては1.25V(V1)を800ミリ秒印加した後、電圧0Vの状態を1400ミリ秒継続した、第二電圧ステップを有しない(即ちV2もしくはV3を印加しない)波形を作成した。この駆動波形を繰り返すことで表示素子の駆動試験を行った。図7に本波形を印加した際の電流、電圧曲線を示した。本波形では実施例2及び3の第二電圧ステップの印加領域以外とほぼ同様な電流の挙動を示した。
【0059】
(比較例2)
還元側の波形は実施例1と同様にし、酸化電圧として1.30V(V1)を800ミリ秒印加した後、電圧0Vの状態を1400ミリ秒継続した、第二電圧ステップを有しない(即ちV2もしくはV3を印加しない)波形を作成した。この駆動波形を繰り返すことで表示素子の駆動試験を行った。図8に本波形を印加した際の電流、電圧曲線を示した。本波形では酸化電圧が比較例1よりも0.05V高くなったことにより酸化電圧印加時の電流値の内、黒消色後の電流値(すなわちヒドロキノンがベンゾキノンに酸化される反応)が酸化電圧が1.25Vの場合と比べて恒常的に約15%高い結果となった。
【0060】
(比較例3)
還元側の波形は実施例1と同様にし、酸化電圧として1.25V(V1)を900ミリ秒印加した後、電圧0Vの状態を1300ミリ秒継続した、第二電圧ステップを有しない(即ちV2もしくはV3を印加しない)波形を作成した。この駆動波形を繰り返すことで表示素子の駆動試験を行った。図9に本波形を印加した際の電流、電圧曲線を示した。本波形では酸化電圧印加時の電流値の内、黒消色後の電流値が漸減していき、酸化波形印加800ミリ秒から900ミリ秒にかけての電流値の減少は約10%に達した。
【0061】
以上全ての実施例、比較例とも駆動試験開始直後においては、十分な黒発色と発色した黒の完全な消色が生じた。ここでいう十分な黒発色とは黒発色側は表示素子の光学濃度値(OD値)を反射濃度計マクベスRD−918により測定し、該測定値より下記式に基づいて反射率を算出し、この反射率が10%以下まで到達した場合を意味する。
また、完全な消色とは黒発色が10%以下の状態を経由したのち正電圧を印加し、素子の反射率が黒発色前の初期状態の値まで完全に戻った場合を意味する。
【0062】
【数1】

【0063】
(表示素子の評価、連続駆動試験)
黒ブツ欠陥の発生による劣化:金属が完全に消色しない黒ブツ欠陥が発生するまでの連続駆動回数を測定した。連続駆動回数の評価方法は、表示媒体の外周部より1mm以上内側の部分(これを素子表示部分とする)に、目視可能な黒ブツ(大きさ約50μm)が1点でも発生した時点で劣化したと判定した。またこの劣化状態を“黒ブツ劣化”と称する。黒発色が十分でなくなる劣化:還元電圧を印加しても黒発色が不十分となる回数を測定した。黒不十分とは黒発色が継続的に反射率11%以上までしか下がらなくなった場合を意味する。またこの劣化状態を“発色不良劣化”と称する。
【0064】
実施例及び、比較例で用いた駆動波形で以上の項目の評価結果を表1及び表2に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
各比較例は第二電圧ステップを有していない駆動波形での結果である。比較例1では極少ない連続駆動回数で黒ブツ欠陥が生じたことで素子が劣化した。この黒ブツ欠陥の発生を防ぐために比較例3で酸化電圧を高くせずに酸化電圧印加時間を100ミリ秒延ばしたところ、黒ブツ欠陥が発生するまでの駆動回数は多くはなったがその回数はいまだ不十分であった。一方、比較例2で示したとおり酸化電圧を単純に高くしたところ、少ない繰り返し回数で発色不良状態に至った。このとき、素子表示部は黄ばんでおり、ヒドロキノンが酸化されることで発生したベンゾキノン(黄褐色)が画像上に蓄積したことにより、金属還元量が不十分になっていることが示唆された。このように、第二電圧ステップを有していない駆動波形では繰り返しが良好に駆動を行える酸化電圧及び時間の領域を見出すのが困難であった。
【0068】
一方、本発明での駆動方法である実施例1では、比較例1とほぼ同一の波形で第一電圧ステップ(V1)印加の終盤にV1よりも電圧が高い短時間の第二ステップ電圧(V2)を導入することにより、黒ブツ発生が抑制され連続駆動回数が大幅に向上した。また、還元波形直後の酸化波形により、画素の大部分が見かけ上消色したのちに一定の0V時間を経過後、再度第二ステップ電圧(V3)のパルス波形を加えることによる駆動(実施例2、3)においても、第二ステップ電圧が加えられたことにより黒ブツ発生が抑制され素子の繰り返し回数が大幅に向上した。特に、実施例3では各還元サイクル毎に第二ステップ電圧(V3)を印加せずとも繰り返し回数は高くできることが示された。各実施例の波形により表示素子は比較例3と同様な発色不良劣化、素子の黄ばみが生じたがその程度は比較例3よりは軽く、これらの素子を数分程度駆動させない状態で放置したところ、素子の黄ばみは無くなり再度の駆動波形の印加により黒発色も回復した。
【0069】
以上のように、本発明の駆動方法は比較的単純な波形でありながら、単純矩形波と比べ素子が大幅に長寿命化できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に用いられる表示素子の2電極系(透明電極側;作用極接続、対向電極側;参照極、対向極接続)でのサイクリックボルタモグラムの一例である。
【図2】本発明に用いられる2枚の電極板間に本発明の電解液を保持した表示媒体を挟持した電気化学型表示素子の模式図である。
【図3】本発明の効果を明確にするための試験に用いた、透明電極と透明電極が無い部分との境界線を有する表示素子の模式図である。
【図4】本発明の駆動方法である、実施例1の駆動波形(駆動波形1)による電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【図5】本発明の駆動方法である、実施例2の駆動波形(駆動波形2)による電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【図6】本発明の駆動方法である、実施例3の駆動波形(駆動波形3)による電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【図7】比較例1の(駆動波形4)で表示素子を駆動させた際の電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【図8】比較例2の(駆動波形5)で表示素子を駆動させた際の電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【図9】比較例3の(駆動波形6)で表示素子を駆動させた際の電圧曲線(太線)とその際に流れる電流曲線(細線)である。
【符号の説明】
【0071】
1 透明基板
2 対向基板
3 透明電極
4 対向電極
5 表示媒体
6 銅板(対向電極)
7 封止材
8 リード線




【特許請求の範囲】
【請求項1】
視面側の電極上に還元電圧を印加することにより、金属イオンが金属に還元され電極上に析出する発色工程と、視面側の電極を極性反転して酸化電圧を印加することにより、電極上に析出した前記金属を金属イオンに酸化し電解液に溶解させる消色工程を有する電気化学型表示素子の駆動方法であって、
前記酸化電圧が、画素の大部分の析出金属を溶解させるための第一電圧ステップと、画素の一部に残存した微小金属核を消去するための第二電圧ステップの、少なくとも2つの電圧ステップを有し、
前記第一電圧ステップが電圧V1を印加する電圧ステップであり、前記第二電圧ステップが、
(1)電圧V1に続けてV1<V2である電圧V2を印加する電圧ステップ、または、
(2)電圧V1の印加後、酸化閾値電圧以下の印加及び/又は電圧未印加を経由したのち、V1≦V3である電圧V3を印加する電圧ステップである、ことを特徴とする電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項2】
前記電圧V2又はV3を印加する電圧印加ステップの時間が30ミリ秒〜150ミリ秒である請求項1に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項3】
前記電圧V2又はV3を印加する電圧印加ステップが、1〜1000回の消発色に対して1回導入される請求項1または2に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項4】
前記電気化学型表示素子中の電解液が、ビスマスイオン及び銅イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオンと、一般式(I)
【化1】

(I)
(式中、R1〜R4は水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、炭素原子数1〜3のアルコキシル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基またはスルホン酸アルカリを表し、R1〜R4はそれぞれ同一であっても、異なっていても良い。)で表されるヒドロキノン誘導体を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。
【請求項5】
前記第二電圧ステップが、前記ヒドロキノン誘導体を酸化することによりベンゾキノン誘導体を視面側の電極上で発生させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学型表示素子の駆動方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−199581(P2007−199581A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20500(P2006−20500)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】