説明

電気化学燃料電池のための触媒担体

炭素触媒担体の腐食は、電気化学燃料電池内のアノード触媒層およびカソード触媒層の両方で生じ得る。このような腐食は、性能の低下および/または燃料電池の寿命の減少をもたらし得る。それにもかかわらず、炭素担体は、触媒担体としての多くの望ましい性質(大きい表面積、高い導電率、良好な空隙率および密度が挙げられる)を有する。炭素触媒担体の腐食を低下させるかまたはなくすために、炭素担体は金属表面処理(特に、金属炭化物正面処理)を有し得る。適切な金属炭化物としては、チタン、タングステンおよびモリブデンが挙げられる。この様式において、金属表面処理は、下にある炭素担体を腐食から保護し、一方でその炭素担体の望ましい特性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、電気化学燃料電池のための触媒に関し、より具体的には、上記触媒のための担体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
燃料電池システムは、現在、多くの適用(例えば、自動車および固定動力装置)において電源として使用するために開発されている。このようなシステムは、環境的利点および他の利点を伴う経済的な電力の供給を約束する。しかし、商業的に存続可能であるために、燃料電池システムは、その燃料電池が好ましい操作範囲外の条件に供される場合でさえ、操作において十分な信頼性を示す必要がある。
【0003】
燃料電池は、反応物質(すなわち、燃料および酸化剤)を変換して、電力および反応生成物を発生させる。燃料電池は、一般的に、2つの電極(すなわち、カソードおよびアノード)の間に置かれる電解質を利用する。触媒は、代表的に、それらの電極において望ましい電気化学反応を誘導する。好ましい燃料電池の型としては、電解質としてイオン交換膜を備え、比較的低い温度で作動するポリマー電解質膜(PEM)燃料電池が挙げられる。
【0004】
広範な反応物質がPEM燃料電池において使用され得る。例えば、燃料の流れは、実質的に純粋な水素ガス、ガス状の水素を含む改質油の流れ、またはメタノールであり得る。酸化剤は、例えば、実質的に純粋な酸素または希酸素の流れ(例えば、空気)であり得る。
【0005】
PEM燃料電池の通常の操作の間、燃料は、アノード触媒において電気化学的に酸化され、代表的に、プロトン、電子、そして場合により使用される燃料に依存して他の種が生成される。このプロトンは、これらが生成される反応部位からイオン交換膜を通って伝導して、カソード触媒において酸化剤と電気化学的に反応する。これらの触媒は、好ましくは、各電極と隣接する膜との間の界面に位置付けられる。
【0006】
PEM燃料電池は、膜電極アセンブリ(MEA)を利用し、この膜電極アセンブリは、2つの流体拡散層の間に配置されるイオン交換膜を備える。各流体拡散層の一表面を越えて反応物質を方向付けるためのセパレータプレートまたは流れ場プレート(flow field plate)は、MEAの各々の側に配置される。
【0007】
各電極は、それぞれの流体拡散層とイオン交換膜との間に触媒層(適切な触媒を備える)を備え、これは、イオン交換膜の隣に位置付けられる。触媒は、金属ブラック(metal black)、合金または担持型金属触媒(例えば、白金もしくは炭素)であり得る。触媒層は、代表的に、イオノマーを含み、これは、イオン交換膜に使用されるイオノマー(例えば、30重量%までのNafion(登録商標)ブランドのペルフルオロスルホン酸ベースのイオノマー)と類似であり得る。触媒層はまた、結合剤(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))を含み得る。
【0008】
電極はまた、反応物質の分配および/または機械的担持の目的で利用され得る基板(代表的には、多孔質の導電性のシート材料)を含み得る。この担体は、流体拡散層と称され得る。必要に応じて、電極はまた、触媒層と基板との間に副層(代表的には、導電性の粒子材料、例えば、微細に粉砕された炭素粒子(カーボンブラックとしても公知))を含み得る。副層は、電極の特定の性質(例えば、触媒層と基板との間の界面抵抗)を改変するために使用され得る。
【0009】
PEM燃料電池が固定適用または輸送適用のいずれかで商業的に使用されるためには、十分な寿命が必要である。例えば、5,000時間の作動が日常的に要求され得る。実際には、多くの劣化機構および効果が未知のままであるので、一貫して十分な寿命を得ることには著しい困難性が存在する。したがって、燃料電池成分の劣化を理解すること、およびそのような劣化を軽減またはなくすような設計の改良をすることの必要性が、依然として当該分野において存在する。本発明は、この必要性を満たし、さらに関連する利点を提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
炭素触媒担体の腐食は、電気化学燃料電池内のアノード触媒層およびカソード触媒層の両方で生じ得る。このような腐食は、性能の低下および/または燃料電池の寿命の減少をもたらし得る。それにもかかわらず、炭素担体は、触媒担体としての多くの望ましい性質(大きい表面積、高い導電率、良好な空隙率および密度が挙げられる)を有する。炭素触媒担体の腐食を低下させるかまたはなくすために、炭素担体は金属表面処理を有し、特に、電気化学燃料電池のための触媒は触媒担体を含み、この触媒担体は、炭素とその炭素上の金属表面処理とを含む触媒担体;およびこの触媒担体上に蒸着される金属触媒を含む。上記金属処理は金属炭化物表面処理を含み得る。適切な金属炭化物としては、チタン、タングステンおよびモリブデンが挙げられる。
【0011】
この様式において、金属炭化物表面処理は、下にある炭素担体を腐食から保護し、一方でその炭素担体の望ましい特性を維持する。金属表面処理は、炭素担体の表面領域の一部を覆うのみであっても、実質的にその炭素の全表面を覆ってもよい。上記炭素は、例えば、カーボンブラックまたは黒鉛化炭素であり得る。さらに、またはあるいは、上記炭素は、ホウ素、窒素またはリンでドープされる。
【0012】
上記触媒はまた、触媒インクであり得る。電気化学燃料電池のための膜電極アセンブリは、
アノード流体拡散層およびカソード流体拡散層;
それらの流体拡散層の間に置かれるイオン交換膜;
アノード触媒層であって、上記アノード流体拡散層と上記イオン交換膜との間に置かれるアノード触媒を備える、アノード触媒層;ならびに
カソード触媒層であって、上記カソード流体拡散層と上記イオン交換膜との間に置かれるカソード触媒を備える、カソード触媒層
を備える。
【0013】
このような膜電極アセンブリにおいて、アノード触媒およびカソード触媒のうちの少なくとも1つは、触媒担体を備え、この触媒担体は、炭素とこの炭素上の金属表面処理、およびその触媒担体上に蒸着される金属触媒を含む。さらに、上記膜電極アセンブリは、電気化学燃料電池中にあり得る。同様に、電気化学燃料電池スタックは、少なくとも1つのこのような燃料電池を備え得る。
【0014】
同様に、燃料電池電極構造は、基板とその基板の表面上に蒸着される触媒とを備え得る。この触媒は、触媒担体を含み、この触媒担体は、炭素とその炭素上の金属表面処理;およびその触媒担体上に蒸着される金属触媒を含む。電気化学燃料電池のための代表的な基板は、流体拡散層およびイオン交換膜である。
【0015】
別の局面において、電気化学燃料電池のための触媒を作製する方法は、炭素を含む触媒担体の表面上に金属を蒸着させる工程;この触媒担体を加熱して、この触媒担体上に金属炭化物表面処理を形成する工程;およびこの触媒担体に金属触媒を蒸着させる工程を包含する。適切な金属としては、タングステン、チタンおよびモリブデンが挙げられ、加熱する工程に適切な温度としては、850℃〜1000℃、より好ましくは900℃〜1000℃で触媒担体を加熱することが挙げられる。
【0016】
蒸着する工程と加熱する工程とは、連続して行われ得る。例えば、金属前駆体(例えば、金属炭酸塩またはタングステンアンモニウム)は、水溶液中で還元され得る。次いで、加熱工程中の還元された金属と炭素担体との間の反応の結果として、金属炭化物が形成される。あるいは、蒸着する工程および加熱する工程は、同時に行われ得る。そのような実施形態において、金属前駆体(例えば、TYZOR有機チタン酸塩のような有機金属)が、加熱処理工程下で分解して、炭素触媒担体の表面上に金属炭化物が直接形成される。
【0017】
本発明のこれらの局面および他の局面は、添付の図面および以下の詳細な説明を参照して明らかになる。
【0018】
本明細書で言及された、そして/または出願データシートに列挙されたすべての米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
作動中、ロードした状態の個々の燃料電池の出力電圧は、概して1ボルト未満である。したがって、より大きい出力電圧を提供するために、通常は、多くの電池が一緒にスタックされ、そして直列に接続されて、より高い電圧の燃料電池スタックが作製される。次いで、燃料電池スタックは、さらに直列および/または並列に組み合わせて接続されて、より高い電圧および/または電流を送達するためのより大きいアレイが形成され得る。
【0020】
しかし、直列の燃料電池は、逆電圧(voltage reversal)に供される可能性があり、この逆電圧は、電池がその直列中の他の電池によって反対の極性を強いられる状況である。これは、電池が残りの電池によって強制される電流を生じることができない場合に起こり得る。スタック内の電池の群は、アレイ中の他のスタックによって逆電圧になり得る。1つ以上の電池が逆電圧になることに伴う電力の損失だけでなく、この状況は、信頼性の懸念を引き起こす。望ましくない電気化学反応が起こり得、これは、燃料電池成分に悪影響を及ぼす。例えば、炭素腐食が以下のように生じ得る:
【0021】
【化1】

アノード構造中の触媒炭素担体は、白金ベースの触媒が最終的に溶解して腐食し、アノード流体拡散層構造に存在する炭素の腐食に起因して、このアノード流体拡散層が分解するようになり得る。両極性流れ場プレートが炭素に基づく場合、アノード流れ場はまた、有意な炭素腐食に供され得、それによって、表面に穴があき、流れ場パターンに損傷を与える。
【0022】
しかし、腐食は、アノードに限定されず、カソードでも起こり得る。反応(1)についての標準的な電極電位は、25℃で0.207V vs SHEである。それゆえ、0.207Vを上回るすべての電位において、炭素は熱力学的に不安定である。PEM燃料電池は、代表的に、0.2Vを超える電位で作動するので、炭素は電解質と接触するカソードから腐食すると考えられる。Vulcan XC72R炭素担体上の40%Ptを含むカソード触媒を有する流体拡散電極におけるex−situの結果により、このことが確認され、1.42Vで1日あたり1650mgの炭素損失率が示された。Shawinigan炭素担体上の40%Ptを含むカソード触媒を用いる別の同様の試みは、1.42Vで1日あたり1260mgの炭素損失率を示した。酸化安定性を高めるために、炭素触媒担体は、金属表面処理され得る。特に、表面が、金属炭化物コーティングを形成するように処理され得る。適切な金属炭化物としては、炭化チタン、炭化タングステンおよび炭化モリブデンが挙げられる。金属炭化物表面処理は、多くの方法で形成され得る。例えば、金属炭化物は、NaBHを用いて水溶液から形成されて、炭素担体の表面上の金属が還元され得る。例えば、タングステンアンモニウムは、NaBHで還元されて、炭素担体の表面で炭化タングステンを形成し得る。金属炭酸塩もまた、タングステンアンモニウムの代わりの金属前駆体として適切であり得る。あるいは、例えば1000℃での有機金属の熱分解が、炭素担体の存在下で使用され得る。適切な有機金属としては、Dupontから入手可能なTYZOR有機チタン酸塩が挙げられ得る。
【0023】
金属が炭素担体で還元された後、不活性雰囲気下での加熱処理工程が使用されて、金属炭化物が形成され得る。加熱処理工程のための適切な温度としては、例えば、850℃〜1100℃、より好ましくは900℃〜1000℃が挙げられる。適切な不活性雰囲気は、例えば、窒素下である。
【0024】
あるいは、金属前駆体(例えば、有機金属)の不活性雰囲気での熱分解は、直接炭素担体に金属炭化物を形成し得る。適切な有機金属としては、例えば、Dupontから入手可能なTYZOR有機チタン酸塩が挙げられる。加熱処理工程のための適切な温度としては、例えば、850℃〜1000℃、より好ましくは900℃〜1000℃が挙げられる。適切な不活性雰囲気は、例えば、窒素下である。
【0025】
触媒担体として有用であるために、材料は、好ましくは、2つの主な性質(大きい表面積および高い導電率)を有する。伝統的に、大きい表面積のカーボンブラック(例えば、Vulcan XC72RまたはShawinigan)は、大きい表面積の触媒粉末を得るために触媒担体として使用されてきた。導電性炭素が触媒を支持するために、その導電性炭素のBET特異的表面積は、50m/gと3000m/gとの間(例えば、100m/gと2000m/gとの間)であり得る。金属炭化物での表面処理は、酸化安定性を高める一方で、比較的大きい表面積を維持する。
【0026】
炭素は導電性であり、さまざまな金属炭化物がさまざまな導電性を有する。炭化タングステン(WC)は、炭化チタン(TiC)よりも導電性であり、炭化チタンは炭化モリブデン(MoC)よりも導電性である(例えば、Pierson,Hugh O.,Handbook of refractory carbides and nitrides:properties,characteristics,processing and applications,Noyes Publications,1996を参照のこと)。
【0027】
炭素担体は、カーボンブラック(例えば、Vulcan XC72RまたはShawinigan)であり得る。あるいは、炭素担体は、黒鉛化炭素であり得る。黒鉛化炭素はまた、非黒鉛化カーボンブラックと比較して高い酸化安定性を示し、金属炭化物で処理した黒鉛化炭素表面の組み合わせは、さらに高い酸化安定性を示し得る。しかし、上に記載されるような大きい表面積および高い導電性に加えて、カーボンブラックは、触媒担体として使用する助けとなる他の構造的性質(空隙率および密度が挙げられる)を有する。これらの構造的性質のうちのいくつかまたはすべては、黒鉛化炭素を代わりに使用することによって低下し得る。特に、黒鉛化プロセスは表面積の低下を引き起こし得、これは燃料電池適用で使用するために表面上で白金の望ましい分散を得ることを困難にし得る。
【0028】
さらに、またはあるいは、炭素は、米国特許出願番号第2004/0072061号に開示されるように、例えばホウ素、窒素またはリンでドープされ得る。
【0029】
炭素担体において金属炭化物の表面コーティングを使用する代わりに、担体は、金属炭化物のみを含み得る。このような担体は増大した酸化安定性を示すが、金属炭化物は小さく、硬質で高密度な球体として存在する傾向があり、その結果、金属炭化物を使用することは、燃料電池では好ましくはない可能性がある。さらに、これらの材料が高密度であることは、触媒層をスクリーンプリントするのに安定なインクを製造することを困難にする。しかし、炭素の表面を上記のようにこれらの金属炭化物で処理することによって、炭素担体の利点(すなわち、大きい表面積、良好な空隙率および密度)、ならびに金属炭化物の利点(すなわち、増大した酸化安定性)を示す炭素担体が得られ得る。
【0030】
次いで、伝統的な方法を用いて、白金触媒が触媒担体の表面に蒸着され得る。白金の代わりに、他の貴金属(例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウムおよびそれらの白金合金)が使用され得る。さらに、燃料電池適用のための、あまり高価ではない非貴金属触媒を見出すための努力も存在する。それにもかかわらず、燃料電池で使用される触媒の型は、本発明の範囲にとって重要ではない。
【0031】
白金触媒は、触媒担体の表面に担持される。したがって、触媒粒子は、代表的に、担体よりも小さい。例えば、触媒粒子の直径は、0.5nm〜20nmの範囲(例えば、1nmと10nmの間)であり得る。触媒粒子のより小さい直径は、同じ総充填に対して触媒の表面積の増加を生じ、それゆえ、望ましい。相対的に、触媒担体の平均粒径は、代表的に、5nm〜1000nmの範囲(例えば、10nmと100nmとの間)である。特に、触媒粒子のサイズは、触媒担体のサイズの約10分の1であり得る。
【実施例】
【0032】
(触媒担体の調製)
0.4109gのタングステンアンモニウムを250mlのHOに添加し、このタングステンアンモニウムが溶解するまで還流した。1gのVulcan XC72Rをこの反応混合物に添加し、一晩攪拌した。次いで、100mlの水に溶解させた3.78gのNaBHを2分かけて添加した。次いで、この反応混合物をさらに20分間還流した後、静置して冷まし、安定させた。次いで、固体のW/C材料を濾過し、洗浄し、乾燥させて粉砕した。
【0033】
タングステンを炭素担体上に蒸着させた後、このサンプルを窒素中900℃で1時間加熱処理に供した。
【0034】
(担持触媒の調製)
3.444gのNaHCOを、500mlの丸底フラスコ中の200mlのHOに溶解させた。次いで、0.6gの処理した触媒担体をこの反応混合物に添加した。60mlのHOに溶解させた1gのHPtClを、滴下漏斗を用いて数分かけて滴下した。次いで、この混合物を2時間還流した。7.8mlのHO中の780μlのホルムアルデヒド溶液(37%)を、滴下漏斗によって約1分かけて滴下した。この混合物を反応させ、次いで、さらに2時間還流した後、前述のように濾過し、洗浄し、乾燥させ、そして粉砕した。この触媒は、W/C担体上の40%白金である。
【0035】
(酸化安定性の試験)
熱重量測定分析(TGA)を使用して、温度を1分あたり10℃で50℃から1000℃まで傾斜をつけて、純粋な流動酸素における酸化に対する触媒の安定性を決定した。酸素の流速は1分あたり40mlであった。この結果を図1に示す。ラインAは、Vulcan XC72R上の40%白金を含むJohnson Mattheyから入手したHiSpec 4000についての結果を示す。ラインBは、W/C担体を有する、上で調製したような触媒について得られた結果を示す。
【0036】
無処理のXC72R触媒は、330℃で酸化が始まる。相対的に、タングステン処理したXC72Rベースの触媒は、ほぼ430℃まで酸化を示さない。したがって、タングステンの添加は、触媒に対してかなりの酸化安定性を与えている。無処理のXC72R触媒およびタングステン処理した触媒の両方が、60%の総重量の損失を示し、これは触媒が40%白金であること示す。
【0037】
さらなるex−situ酸化安定性試験において、無処理の触媒およびタングステン処理した触媒を、超音波を用いて各々2mlの氷エタン酸に分散させた。無処理の触媒は、Vulcan XC72R上の40%白金を含むJohnson Mattheyから入手したHiSpec 4000触媒であり、担体として、そして図1に関して上で使用したものと同じである。タングステン処理した触媒もまた、上で調製し、図1に関して使用したものと同じであった。
【0038】
マイクロピペットを用いて、5μlの懸濁液を、研磨したガラス質の炭素回転ディスク電極(RDE)の平面に分配した。溶媒を、熱風エバポレーターを用いて徐々にエバポレートし、RDE上に既知量の担持触媒(約20μg)を残した。同じマイクロピペットを用いて、1100の当量を有する5mlの5%アルコール性Nafion(登録商標)溶液を、このRDE上に分配した。密着したNafion(登録商標)フィルムが触媒およびRDEにキャスティングされるように、この溶媒をガラスカバーの下で静かな大気でゆっくりとエバポレートさせた。次いで、このRDEを、脱酸素化した0.5M HSOに30℃で浸し、2000rpm(33.33Hz)で回転させた。この電池は、循環水浴に接続されたウォータージャケットを備えるガラス製品のコンパートメント、および2つのサイドコンパートメントからなる。このサイドコンパートメントのうちの一方は、ガーゼフリットによって接続されたPtガーゼ対電極を含み、2つ目のサイドコンパートメントは、Lugginキャピラリーによって接続されたRHE参照電極を含んだ。
【0039】
Scribner Associates製のCorrwareソフトウェアを備えるEG&G 263またはSolartron 1286ポテンシオスタットのいずれかを用いて、サイクリックボルタモグラムを、各電位で1分間、+1.8Vと+0.6Vとの間で10サイクル記録した。その結果を図2〜図4に示す。
【0040】
図2は、無処理の炭素担体およびタングステン処理した炭素担体の両方における白金触媒のex−situの電気化学酸化を、10サイクルに対する時間の関数として示す。細い暗線は、無処理のVulcan XC72R触媒担体を含む触媒について得られた結果を表し、太い線は、タングステン処理した炭素担体を含む触媒について得られた結果を示す。図2は、タングステン処理した触媒担体と比較して、無処理の触媒担体を使用した場合に、時間が経つにつれてより速い速度で性能が低下することを明らかに示す。
【0041】
図3は、無処理の炭素担持触媒の、酸化サイクル前後両方のサイクリックボルタモグラムを示す。細い暗線は、酸化サイクル前の無処理の炭素担持触媒のサイクリックボルタモグラムを示し、太い暗線は、酸化サイクル後に得られたサイクリックボルタモグラムを示す。図3から、約80%の白金表面積の損失が見られ得る。相対的に、図4は、タングステン処理した炭素担持触媒の、酸化サイクル前後両方のサイクリックボルタモグラムを示す。細い暗線は、酸化サイクル前のタングステン処理した炭素担持触媒のサイクリックボルタモグラムを示し、太い暗線は、酸化サイクル後に得られたサイクリックボルタモグラムを示す。タングステン処理した炭素担持触媒は、約40%の白金表面積の損失を有し、図3で無処理の炭素担持触媒について上に示した損失の半分未満である。理論に拘束されることなく、白金触媒の活性の喪失は、炭素の腐食、および白金粒子と炭素担体との間の結合性の喪失に起因すると推測される。
【0042】
上述のことから、本発明の特定の実施形態が例示目的のために本明細書に記載されているが、種々の改変が本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定される以外には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、2つの白金担持触媒についての熱重量分析結果を示すグラフである。
【図2】図2は、2つの白金担持触媒のex−situ電気化学酸化を示すグラフである。
【図3】図3は、図2に示される酸化の前後の、無処理のXC72R炭素担体における40%白金触媒のサイクリックボルタモグラムである。
【図4】図4は、図2に示される酸化の前後の、タングステン処理したXC72R炭素担体における40%白金触媒のサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学燃料電池のための触媒であって、
炭素と該炭素上の金属表面処理とを含む触媒担体;および
該触媒担体上に蒸着される金属触媒
を備える、触媒。
【請求項2】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記金属表面処理における金属が、チタン、タングステンまたはモリブデンである、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記金属触媒が、白金または白金合金である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記炭素がカーボンブラックである、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
前記炭素が黒鉛化炭素である、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
前記炭素が、ホウ素、窒素またはリンでドープされる、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
前記金属表面処理が、前記炭素の全表面を実質的に覆う、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒を含む触媒インク。
【請求項11】
電気化学燃料電池のための膜電極アセンブリであって、
アノード流体拡散層およびカソード流体拡散層;
該流体拡散層の間に置かれるイオン交換膜;
アノード触媒層であって、該アノード流体拡散層と該イオン交換膜との間に置かれるアノード触媒を備える、アノード触媒層;
カソード触媒層であって、該カソード流体拡散層と該イオン交換膜との間に置かれるカソード触媒を備える、カソード触媒層;
を備え、
ここで、該アノード触媒およびカソード触媒のうちの少なくとも1つは、触媒担体と該触媒担体上に蒸着される金属触媒とを備え、そして該触媒担体は、炭素と該炭素上の金属表面処理とを含む、膜電極アセンブリ。
【請求項12】
前記アノード触媒およびカソード触媒のうちの少なくとも1つが、カソード触媒である、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項13】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項14】
前記金属表面処理における金属が、チタン、タングステンまたはモリブデンである、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項15】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項14に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項16】
前記金属触媒が、白金または白金合金である、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項17】
前記炭素がカーボンブラックである、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項18】
前記金属表面処理が、前記炭素の全表面を実質的に覆う、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項19】
請求項11に記載の膜電極アセンブリを備える、電気化学燃料電池。
【請求項20】
少なくとも1つの請求項19に記載の燃料電池を備える、電気化学燃料電池スタック。
【請求項21】
基板と該基板の表面上に蒸着される触媒とを備える燃料電池電極構造であって、該触媒は、
炭素と該炭素上の金属表面処理とを含む触媒担体;および
該触媒担体上に蒸着される金属触媒
を含む、燃料電池電極構造。
【請求項22】
前記基板が流体拡散層である、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項23】
前記基板がイオン交換膜である、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項24】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項25】
前記金属表面処理における金属が、チタン、タングステンまたはモリブデンである、請求項21に記載の燃料電池電極アセンブリ。
【請求項26】
前記金属表面処理が、金属炭化物表面処理を含む、請求項25に記載の燃料電池電極構造。
【請求項27】
前記金属触媒が白金または白金合金である、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項28】
前記炭素がカーボンブラックである、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項29】
金属シェルが、前記炭素の全表面を実質的に覆う、請求項21に記載の燃料電池電極構造。
【請求項30】
電気化学燃料電池のための触媒を作製する方法であって、
炭素を含む触媒担体の表面上に金属を蒸着させる工程;
該触媒担体を加熱して、該触媒担体上に金属炭化物表面処理を形成する工程;および
該触媒担体に金属触媒を蒸着させる工程
を包含する、方法。
【請求項31】
前記金属が、タングステン、チタンおよびモリブデンから選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記加熱する工程が、850℃〜1100℃である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記加熱する工程が、900℃〜1000℃である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記蒸着する工程および加熱する工程が連続して起こる、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法であって、前記蒸着する工程の前に金属前駆体を提供する工程をさらに包含し、該蒸着する工程は、該金属前駆体を還元することを包含する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記金属前駆体が金属炭酸塩である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記金属前駆体がタングステンアンモニウムである、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記蒸着する工程および加熱する工程が同時に起こる、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
前記蒸着する工程の前に金属前駆体を提供する工程をさらに包含する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記金属前駆体が有機金属である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記有機金属がTYZOR有機チタン酸塩である、請求項40に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−503869(P2008−503869A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518231(P2007−518231)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/022043
【国際公開番号】WO2006/002228
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(303026556)バラード パワー システムズ インコーポレイティド (28)
【Fターム(参考)】