説明

電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極材料、電気化学素子電極、及び電気化学素子

【課題】集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子を提供すること。
【解決手段】電極活物質、及び粒子状のバインダを含んでなり、前記バインダが、ニトリル基含有単量体単位、酸性官能基を有する単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含有し、前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が10〜50重量%であり、かつ、ヨウ素価が3〜40mg/100mgの共重合体である電気化学素子電極用複合粒子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極材料、電気化学素子電極、及び電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量であり、エネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池などの電気化学素子は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的に大きいことから携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ、電気自動車などの分野で利用されている。
【0003】
これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性や生産性の向上など、より一層の改善が求められている。このような状況において、電気化学素子電極に関してもより生産性の高い製造方法が求められており、高速成形可能な製造方法及び該製造方法に適合する電気化学素子電極用材料について様々な改善が行われている。
【0004】
電気化学素子電極は、通常、電極活物質と、必要に応じて用いられる導電材とをバインダで結着することにより形成された活物質層を集電体上に積層してなるものである。このような活物質層を形成する方法として、特許文献1には、電極活物質、ゴム粒子及び分散媒としての水を含む水系スラリーを得て、得られた水系スラリーを噴霧乾燥することにより粒子状の電極材料を得て、得られた電極材料を用いて電極活物質層を形成する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、得られる電極の柔軟性及び集電体と電極活物質層との間の密着性が十分でなく、そのため、内部抵抗や高温サイクル特性などの電池特性に劣るものであった。
【0006】
また、従来のように塗布法により電極活物質層を形成した場合には、塗布後の溶媒乾燥時に、バインダが電極活物質層の表面に偏在化してしまい、内部抵抗が高くなってしまうという問題や、特に正極活物質としてニッケルを含有する化合物を用いた場合に、アルミニウム集電体が腐食してしまい、成形性や電池特性が低下してしまうという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4219705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、このような電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子電極材料、電気化学素子電極、及び電気化学素子を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、電極活物質、及び所定の粒子状バインダを含有する複合粒子が、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、電極とした場合に、内部抵抗が低く、高温サイクル特性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、電極活物質、及び粒子状のバインダを含んでなり、前記バインダが、ニトリル基含有単量体単位、酸性官能基を有する単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含有し、前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が10〜50重量%であり、かつ、ヨウ素価が3〜40mg/100mgの共重合体である電気化学素子電極用複合粒子が提供される。
本発明の電気化学素子電極用複合粒子において、前記酸性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子電極材料が提供される。
また、本発明によれば、上記の電気化学素子電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極が提供される。
本発明の電気化学素子電極は、前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなるものであることが好ましく、ロール加圧成形により積層してなるものであることがより好ましい。
さらに、本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子電極用複合粒子を製造する方法であって、前記電極活物質、及び前記バインダを水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子、ならびに、このような電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子電極材料、電気化学素子電極、及び電気化学素子を提供することができる。特に、本発明によれば、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、水や有機溶剤などの分散媒や溶媒を用いずに、粉体成形により、電極活物質層を形成することができるため、従来から用いられている塗布法を用いた場合のように、電極活物質層内において、バインダが偏在してしまい、これにより内部抵抗が高くなってしまうという不具合や、正極活物質としてニッケルを含有する化合物を用いた場合でも、アルミニウム集電体が腐食してしまい、成形性や電池特性が低下してしまうという不具合の発生を有効に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、電極活物質、及び粒子状のバインダを含んでなり、前記バインダが、ニトリル基含有単量体単位、酸性官能基を有する単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含有し、前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が10〜50重量%であり、かつ、ヨウ素価が3〜40mg/100mgの共重合体であることを特徴とする。
【0014】
(電極活物質)
本発明で用いる電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。たとえば、リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、具体的には、遷移金属を含有する酸化物、又はリチウムと遷移金属との複合酸化物を用いることができる。このような遷移金属の例としては、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄などを挙げることができるが、本発明においては、ニッケルを含有する化合物、特に、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好適に用いられる。特に、リチウムとニッケルを含有する複合酸化物は、従来よりリチウム系二次電池の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO)と比較して、高容量であるため、好適である。
リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
LiNi1−x−yCo
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
【0015】
また、リチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;リチウムと合金化可能なSi、Sn、Sb、Al、Zn及びWなどが挙げられる。
【0016】
あるいは、電気二重層キャパシタ用の電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。電気二重層キャパシタ用の電極活物質は、同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gの範囲である。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末又は繊維を使用することができる。これらのなかでも、活性炭が好ましく、具体的には、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系、又はヤシガラ系等の活性炭を挙げることができる。
【0017】
さらに、リチウムイオンキャパシタ用の電極活物質としては、正極用の活物質として、上述した電気二重層キャパシタ用の電極活物質を、また、負極用の活物質として、上述したリチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質を、それぞれ使用することができる。
【0018】
(粒子状バインダ)
本発明で用いる粒子状バインダは、粒子形状を有し、かつ、ニトリル基含有単量体単位、酸性官能基を有する単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含有し、ニトリル基含有単量体単位の含有割合が10〜50重量%であり、かつ、ヨウ素価が3〜40mg/100mgの共重合体である。
【0019】
本発明で用いる粒子状バインダは、粒子形状を有するものであればよいが、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内においても、粒子状態を保持した状態、すなわち、電極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものであることが好ましい。電気化学素子電極用複合粒子内において、粒子状態を保持した状態で存在することにより、電子伝導を阻害することなく、電極活物質同士を良好に結着することが可能となる。すなわち、内部抵抗を増大させることなく、電極活物質同士の結着性を良好なものとすることができる。なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、電極活物質同士を結着した結果、これら電極活物質同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0020】
本発明で用いる粒子状バインダを構成する、ニトリル基含有単量体単位を形成するニトリル基含有単量体としては、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。ニトリル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0021】
本発明で用いる粒子状バインダにおける、ニトリル基含有単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、10〜50重量%であり、好ましくは20〜40重量%、より好ましくは30〜40重量%である。ニトリル基含有単量体単位の含有割合が少な過ぎると、スラリー化した際における電極活物質の分散性が低下し、成形性が劣る結果となり、これにより、電極とした際に高温サイクル特性が低下してしまう。一方、多過ぎると、粒子状バインダの電解液に対する膨潤性が高くなってしまい、これにより、電極とした際に高温サイクル特性が低下してしまう。
【0022】
また、本発明で用いる粒子状バインダを構成する、酸性官能基を有する単量体単位を形成する酸性官能基を有する単量体としては、酸性官能基を有する単量体であればよく、特に限定されないが、本発明では、酸性官能基として、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体及びリン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体がより好ましい。
【0023】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などのモノカルボン酸の誘導体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などのジカルボン酸の酸無水物;メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のジカルボン酸の誘導体;などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、メタクリル酸及びマレイン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0024】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレートなどのスルホン酸基以外の官能基を有さないスルホン酸基含有化合物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などのアミド基とスルホン酸基とを含有する化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)などのヒドロキシル基とスルホン酸基とを含有する化合物;などが挙げられる。また、これらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることもできる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)が好ましい。
【0025】
リン酸基を有する単量体の具体例としては、リン酸−2−アクリロイルオキシエチル、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−メタクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−メタクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチルが好ましい。
【0026】
本発明で用いる粒子状バインダにおける、酸性官能基を有する単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは1〜30重量%であり、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは1〜15重量%である。酸性官能基を有する単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電極の柔軟性を有したまま集電体との接着性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明で用いる粒子状バインダを構成する、炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を形成する単量体としては、たとえば、炭素数4以上の共役ジエン単量体が挙げられ、炭素数4以上の共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。なお、共役ジエン単量体は、共重合後においては、二重結合を有する状態で含まれることとなるが、該二重結合を水素化することにより、共重合体中において、直鎖アルキレン構造含有単量体単位を形成することができる。
【0028】
本発明で用いる粒子状バインダにおける、炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは50〜90重量%であり、より好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは50〜65重量%である。炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、電極に適度な柔軟性を付与し、電極の成形性を向上させることができる。
【0029】
また、本発明で用いる粒子状バインダは、上記した各単量体単位に加えて、他の単量体単位を含有していてもよい。他の単量体単位としては、他のビニルモノマーに由来する重合単位が挙げられ、このような他のビニルモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、などの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;が挙げられる。
【0030】
また、本発明で用いる粒子状バインダは、ヨウ素価が、3〜40mg/100mgであり、好ましくは3〜20mg/100mg、より好ましくは3〜10mg/100mgである。ヨウ素価が高すぎると、高電位に対する化学的安定性が低下してしまい、結果として、高温サイクル特性が低下するおそれがあり、一方、ヨウ素価が低すぎると、粒子状バインダの結晶性が高くなってしまい、これにより成形性が低下してしまうおそれがある。なお、ヨウ素価はJIS K 6235(2006)に従って求められる。
【0031】
なお、本発明で用いる粒子状バインダは、粒子形状を有するものであるが、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。水中に粒子状で分散している場合における、粒子状バインダ体の平均粒径(分散粒子径)は、好ましくは80〜500nm、より好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは80〜300nmである。粒子状バインダの平均粒径がこの範囲であると、得られる電気化学素子電極の強度及び柔軟性が良好となる。
【0032】
また、本発明で用いる粒子状バインダのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜20℃、より好ましくは−55〜10℃、特に好ましくは−50〜0℃である。ガラス転移温度が上記範囲にあることにより、得られる電気化学素子電極を、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性を有するものとすることができる。
【0033】
本発明で用いる粒子状バインダの製造方法は特に限定されないが、上述した各単量体を、水を分散媒とする乳化重合法により重合し、得られた共重合体を水に分散させた状態のまま、水素化(水素添加反応)することにより製造することができる。
【0034】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びカチオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。乳化剤の添加量は任意に設定でき、重合に用いる単量体の総量100重量部に対して通常0.01〜10重量部程度である。
【0035】
また、重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、又は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0036】
そして、本発明では、乳化重合により得られた共重合体を水に分散させた状態のまま、水素化することにより、粒子状バインダを得ることができる。特に、本発明では、乳化重合により得られた共重合体を水に分散させた状態のまま、水素化することにより、粒子状バインダを、水中に粒子状で分散した分散液の状態で得ることができ、これにより、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内において、粒子状バインダを粒子状態を保持した状態で存在させることが可能となる。なお、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0037】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、粒子状バインダの含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。粒子状バインダの含有割合を上記範囲とすることで、電極とした場合に、イオン伝導を十分に確保しながら、電極活物質同士の結着力及び電極活物質層と集電体との密着力を十分なものとすることができる。
【0038】
(導電材)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、上記各成分に加えて、必要に応じて導電材を含有していてもよい。
【0039】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。
【0040】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、導電材の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0041】
(分散剤)
また、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、上記各成分に加えて、必要に応じて分散剤を含有していてもよい。分散剤とは、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を構成する各成分を、溶媒に分散又は溶解させてスラリー化する際に、各成分を溶媒中に均一に分散させる作用を有する成分である。分散剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらのなかでも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0042】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、分散剤の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは0.8〜2重量部である。分散剤の含有割合を上記範囲とすることにより、スラリー中における各成分を良好に分散させることができる。
【0043】
(電気化学素子電極用複合粒子)
本発明の複合粒子は、電極活物質、粒子状バインダ、ならびに、必要に応じて添加される導電材及び分散剤を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、これら各成分の、少なくとも2成分、好ましくは全成分で一粒子を形成するものである。
【0044】
具体的には、各成分の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、粒子状バインダによって結着されて塊状の粒子を形成しているものが好ましい。
【0045】
また、複合粒子としての形状及び構造は特に限定されないが、流動性の観点から、形状は球状に近いものが好ましく、構造は、粒子状バインダが、複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0046】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法としては、特に限定されないが、以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0047】
まず、電極活物質、粒子状バインダ、ならびに、必要に応じて添加される導電材及び分散剤を含有する複合粒子用スラリーを調製する。複合粒子用スラリーは、電極活物質、粒子状バインダ、ならびに、必要に応じて添加される導電材及び分散剤を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、粒子状バインダが分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、分散剤が水に溶解した状態である場合には、水に溶解させた状態で添加することができる。
【0048】
複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用することにより、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。
【0049】
複合粒子用スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、複合粒子用スラリー中の固形分濃度が、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%の範囲となる量である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、粒子状バインダを均一に分散させることができるため、好適である。
【0050】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。複合粒子用スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0051】
また、本発明においては、複合粒子用スラリーを調製する際に、必要に応じて、界面活性剤を添加してもよい。
【0052】
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、アニオン性又はノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の配合量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0053】
電極活物質、粒子状バインダ、ならびに、必要に応じて添加される導電材及び分散剤を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0054】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0055】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0056】
なお、噴霧方法としては、電極活物質、粒子状バインダ、及び必要に応じて添加される添加剤を含む複合粒子用スラリーを、一括して噴霧する方法以外にも、粒子状バインダ、及び必要に応じて添加される添加剤を含有するスラリーを、流動している電極活物質に噴霧する方法も用いることができる。粒子径制御の容易性、生産性、粒子径分布が小さくできる、などの観点から、複合粒子の成分等に応じて最適な方法を適宜選択すればよい。
【0057】
このようにして得られる本発明の電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜80μm、さらに好ましくは10〜70μmである。平均粒子径を上記範囲とすることにより、電気化学素子電極用複合粒子の流動性をより高めることができる。なお、電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0058】
(電気化学素子電極材料)
本発明の電気化学素子電極材料は、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなる。本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、単独で又は必要に応じて他の結着剤やその他の添加剤を含有させることで、電気化学素子電極材料として用いられる。電気化学素子電極材料中に含有される電気化学素子電極用複合粒子の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0059】
必要に応じて用いられる他の結着剤としては、たとえば、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子に含有される粒子状バインダを用いることができる。本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、すでに結着剤としての粒子状バインダを含有しているため、電気化学素子電極材料を調製する際に、他の結着剤を別途添加する必要はないが、電気化学素子電極用複合粒子同士の結着力をより高めるために他の結着剤を添加してもよい。また、他の結着剤を添加する場合における該他の結着剤の添加量は、電気化学素子電極用複合粒子中の粒子状バインダとの合計で、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。また、その他の添加剤としては、水やアルコールなどの成形助剤等が挙げられ、これらは、本発明の効果を損なわない量を適宜選択して加えることができる。
【0060】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極は、上述した本発明の電気化学素子電極材料からなる活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、銅、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0061】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層としての電気化学素子電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形としては、たとえば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子電極材料を集電体上に散布し、電気化学素子電極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。
【0062】
ロール加圧成形時の温度は、好ましくは0〜200℃であり、粒子状バインダのガラス転移温度よりも20℃以上高い温度とすることがより好ましい。ロール加圧成形時の温度を上記範囲とすることにより、活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、好ましくは0.2〜30kN/cm、より好ましくは1.5〜15kN/cmである。線圧を上記範囲とすることにより、活物質の厚みの均一性を向上させることができる。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜20m/分、より好ましくは4〜10m/分である。
【0063】
また、成形した電気化学素子電極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化を図るために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0064】
このようにして得られる本発明の電気化学素子電極は、活物質層に、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られるものであるため、活物質層と集電体との間の密着性が高く、しかも、内部抵抗が低く、サイクル特性に優れたものである。特に、本発明によれば、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、水や有機溶剤などの分散媒や溶媒を用いずに、粉体成形により、電極活物質層を形成することができるため、従来から用いられている塗布法を用いた場合のように、電極活物質層内において、バインダが偏在してしまい、これにより内部抵抗が高くなってしまうという不具合や、正極活物質としてニッケルを含有する化合物を用いた場合でも、アルミニウム集電体が腐食してしまい、成形性や電池特性が低下してしまうという不具合の発生を有効に防止することができる。
【0065】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備える。電気化学素子としては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタなどが挙げられる。
【0066】
本発明の電気化学素子は、たとえば、本発明の電気化学素子用電極を、正極及び/又は負極として用い、必要に応じて正極と負極との間にセパレータを挟み、所定の電解液を封入することにより得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0068】
<ヨウ素価>
粒子状バインダの水分散液100グラムを、メタノール1リットルで凝固した後、60℃で12時間真空乾燥し、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
【0069】
<ピール強度>
実施例及び比較例で得られた正極を、正極活物質層面を上にして固定し、正極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。そして、この測定を10回行い、その平均値を求め、これをピール強度とし、下記基準にて評価した。なお、ピール強度が高いほど、正極活物質層内における密着強度、及び正極活物質層と集電体との間の密着強度が高いと判断できる。
A:ピール強度が10N/m以上
B:ピール強度が10N/m未満、5N/m以上
C:ピール強度が5N/m未満、1N/m以上
D:ピール強度が1N/m未満
【0070】
<成形性>
実施例及び比較例で得られた正極を、幅方向(TD方向)10cm、長さ方向(MD方向)1mにカットし、カットした正極について、TD方向に均等に3点、及びMD方向に均等に5点の合計15点(=3点×5点)の膜厚測定を行い、膜厚の平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(1)にしたがって、厚みムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。厚みムラが小さいほど、成形性に優れていると判断できる。
厚みムラ(%)=(|A−B|)×100/A …(1)
A:厚みムラが5%未満
B:厚みムラが5%以上10%未満
C:厚みムラが10%以上15%未満
D:厚みムラが15%以上
【0071】
<内部抵抗>
実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、電池作製後、24時間静置した後に、室温にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行ない、その後、−30℃環境下で、0.1Cの定電流で放電を行い、放電開始10秒後の電圧降下量(ΔV)を測定することで、内部抵抗の評価を行った。放電開始10秒後の電圧降下量の値が小さいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であると判断できる。
A:電圧降下量が0.2V未満
B:電圧降下量が0.2V以上、0.3V未満
C:電圧降下量が0.3V以上、0.5V未満
D:電圧降下量が0.5V以上、0.7V未満
E:電圧降下量が0.7V以上
【0072】
<高温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、温度60℃の条件にて、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を50回繰り返した。そして、5回目の充放電試験における放電容量Cap5thと、50回目の充放電試験における放電容量Cap50thとの比((Cap50th/Cap5th)×100%)である50サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた50サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、高温サイクル特性を評価した。なお、50サイクル時容量維持率が高いほど、高温でのサイクル試験を行った際の50サイクル目における劣化が少なく、高温サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:50サイクル時容量維持率が80%以上
B:50サイクル時容量維持率が70%以上、80%未満
C:50サイクル時容量維持率が50%以上、70%未満
D:50サイクル時容量維持率が30%以上、50%未満
E:50サイクル時容量維持率が30%未満
【0073】
(製造例1:粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の製造)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル35部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、ブタジエン60部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル重合体の水分散液を得た。重合転化率は85%であり、ニトリル重合体のヨウ素価は280であった。
【0074】
次いで、上記にて得られたニトリル重合体の水分散液の全固形分濃度を12重量%に調整し、固形分濃度を調整したニトリル重合体の水分散液400ミリリットル(全固形分量で48グラム)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流してニトリル重合体中の溶存酸素を除去した後、水素添加触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。そして、系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態にてオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、ニトリル重合体のヨウ素価は35であった。
【0075】
次いで、オートクレーブを大気圧まで戻し、さらに水素添加触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。そして、系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態にてオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0076】
その後、内容物を常温に戻し系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形
分濃度が40%となるまで濃縮することで、粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液を得た。なお、得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は117nmであった。また、粒子状バインダの水分散液100グラムをメタノール1リットルで凝固し、60℃で12時間真空乾燥することで、乾燥重合体を得て、得られた乾燥重合体の組成をNMRで分析したところ、粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
【0077】
(製造例2:粒子状飽和化ニトリル重合体(A2)の製造)
アクリロニトリルの配合量を35部から25部に、ブタジエンの配合量を60部から70部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A2)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A2)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は123nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A2)の組成は、アクリロニトリル単位25%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位70%、メタクリル酸単位5%であった。
【0078】
(製造例3:粒子状飽和化ニトリル重合体(A3)の製造)
アクリロニトリルの配合量を35部から15部に、ブタジエンの配合量を60部から8
0部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A3)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A3)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は110nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A3)の組成は、アクリロニトリル単位15%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位80%、メタクリル酸単位5%であった。
【0079】
(製造例4:粒子状飽和化ニトリル重合体(A4)の製造)
第一段階の水素添加反応における、酢酸パラジウムの使用量を75mgから90mgに変更し、かつ、第二段階の水素添加反応における、酢酸パラジウムの使用量を25mgから10mgに変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A4)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A4)のヨウ素価は15mg/100mg、平均粒径は120nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A4)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
【0080】
(製造例5:粒子状飽和化ニトリル重合体(A5)の製造)
第一段階の水素添加反応における、酢酸パラジウムの使用量を75mgから10mgに変更し、かつ、第二段階の水素添加反応を行わなかった以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A5)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A5)のヨウ素価は27mg/100mg、平均粒径は114nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A5)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
【0081】
(製造例6:粒子状飽和化ニトリル重合体(A6)の製造)
メタクリル酸5部の代わりに、マレイン酸5部を使用した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A6)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A6)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は120nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A6)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、マレイン酸単位5%であった。
【0082】
(製造例7:粒子状飽和化ニトリル重合体(A7)の製造)
メタクリル酸5部の代わりに、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)5部を使用した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A7)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A7)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は122nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A7)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位5%であった。
【0083】
(製造例8:粒子状飽和化ニトリル重合体(A8)の製造)
メタクリル酸5部の代わりに、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチル5部を使用した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A8)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A8)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は125nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A8)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチル単位5%であった。
【0084】
(製造例9:粒子状飽和化ニトリル重合体(A9)の製造)
アクリロニトリルの配合量を35部から55部に、ブタジエンの配合量を60部から40部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A9)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A9)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は128nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A9)の組成は、アクリロニトリル単位55%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位40%、メタクリル酸単位5%であった。
【0085】
(製造例10:粒子状飽和化ニトリル重合体(A10)の製造)
アクリロニトリルの配合量を35部から2部に、ブタジエンの配合量を60部から93部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A10)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A10)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は115nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A10)の組成は、アクリロニトリル単位2%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位93%、メタクリル酸単位5%であった。
【0086】
(製造例11:粒子状飽和化ニトリル重合体(A11)の製造)
第一段階の水素添加反応における、酢酸パラジウムの使用量を75mgから53mgに変更し、かつ、第二段階の水素添加反応を行わなかった以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A11)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A11)のヨウ素価は50mg/100mg、平均粒径は120nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A11)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
【0087】
(製造例12:粒子状飽和化ニトリル重合体(A12)の製造)
第二段階の水素添加反応における、酢酸パラジウムの使用量を25mgから75mgに変更した以外は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A12)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A12)のヨウ素価は1mg/100mg、平均粒径は119nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A12)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
【0088】
(製造例13:粒子状飽和化ニトリル重合体(A13)の製造)
ブタジエンの配合量を60部から65部に変更し、メタクリル酸を配合しなかった以外
は、製造例1と同様にして、粒子状飽和化ニトリル重合体(A13)の水分散液を得た。得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A13)のヨウ素価は7mg/100mg、平均粒径は120nmであり、粒子状飽和化ニトリル重合体(A13)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位65%であった。
【0089】
(製造例14:飽和化ニトリル重合体(A14)の製造)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル35部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、ブタジエン60部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル重合体の水分散液を得た。重合転化率は85%であり、ニトリル重合体のヨウ素価は280であった。
【0090】
次いで、上記にて得られたニトリル重合体の水分散液を、水分散液中のニトリル重合体分の量を100重量部とした場合に、12重量部となる量の硫酸マグネシウムの水溶液に加え、撹拌して水分散体を凝固させ、次いで、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することによりニトリル重合体を得た。
【0091】
次いで、上記にて得られたニトリル重合体を、濃度12重量%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、ニトリル重合体量に対してPd金属量が1000重量ppmとなる量のパラジウム・シリカ触媒を加え、3.0MPaで水素添加反応を行った。水素化反応終了後、大量の水中に注ぐことにより凝固させ、濾別、乾燥を行うことにより飽和化ニトリル重合体(A14)を得た。なお、得られた飽和化ニトリル重合体(A14)はアセトンに溶解しており、粒子形状を有さないものであった。また、飽和化ニトリル重合体(A14)のヨウ素価は7mg/100mgであり、飽和化ニトリル重合体(A14)の組成は、アクリロニトリル単位35%、ブタジエン単位及び飽和化ブタジエン単位60%、メタクリル酸単位5%であった。
そして、得られた飽和化ニトリル重合体(A14)を、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、飽和化ニトリル重合体(A14)のN−メチルピロリドン溶液(固形分濃度8%)を得た。
【0092】
(実施例1)
正極用複合粒子スラリーの製造
正極活物質としてのLiNiO 100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業社製)2部、バインダとしての製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液を固形分換算で2.5部、及び増粘剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分換算で2部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度20%の正極用複合粒子スラリーを調製した。
【0093】
正極用複合粒子の製造
上記にて得られた正極用複合粒子スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は40μmであった。
【0094】
正極の製造
上記にて得られた正極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としてのアルミニウム箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としてのアルミニウム箔上に、シート状に成形し、厚さ80μmの正極活物質層を有する正極を得た。
【0095】
負極用複合粒子スラリーの製造
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)100部、バインダとしての製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液を固形分換算で2.7部、及び増粘剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分換算で0.7部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度20%の負極用複合粒子スラリーを調製した。
【0096】
負極用複合粒子の製造
上記にて得られた負極用複合粒子スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は40μmであった。
【0097】
負極の製造
上記にて得られた負極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としての銅箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としての銅箔上に、シート状に成形し、厚さ80μmの負極活物質層を有する負極を得た。
【0098】
リチウムイオン二次電池の製造
上記にて得られた正極を直径13mmの円盤状に、また、上記にて得られた負極を直径14mmの円盤状に、それぞれ切り抜いた。そして、13mmの円盤状の正極上に、径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、14mmの円盤状の負極をこの順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いで、この容器中に電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(20℃での容積比)、電解質:1MのLiPF)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型のリチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を製造した。
【0099】
そして、上記にて得られた正極を用いてピール強度及び成形性の評価を、リチウムイオン二次電池を用いて内部抵抗及び高温サイクル特性の評価を、それぞれ行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例2〜8)
正極用複合粒子及び負極用複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液の代わりに、製造例2〜8でそれぞれ得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A2)〜(A8)の水分散液を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1〜5)
正極用複合粒子及び負極用複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液の代わりに、製造例9〜13でそれぞれ得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A9)〜(A13)の水分散液を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
(比較例6)
正極用複合粒子及び負極用複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液の代わりに、製造例14でそれぞれ得られた飽和化ニトリル重合体(A14)のN−メチルピロリドン溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。なお、飽和化ニトリル重合体(A14)のN−メチルピロリドン溶液の配合量は、固形分換算で1部とした。結果を表2に示す。
【0103】
(比較例7)
実施例1と同様にして正極用複合粒子スラリーを調製し、得られた正極用複合粒子スラリーを、コンマコーターで集電体としてのアルミニウム箔上に塗布し、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。そして、この電極原反をロールプレスで圧延することで、正極活物質層の厚みが80μmの正極を作製した。
【0104】
また、上記とは別に、実施例1と同様にして負極用複合粒子スラリーを調製し、得られた負極用複合粒子スラリーを、コンマコーターで集電体としての銅箔上に塗布し、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。そして、電極原反をロールプレスで圧延することで、負極活物質層の厚みが80μmの負極を作製した。
【0105】
そして、上記にて得られた正極及び負極を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0106】
(比較例8)
製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)の水分散液100部に、N−メチルピロリドン320部を加えて、次いで減圧下で水を蒸発させることで、粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)のN−メチルピロリドン溶液を得た。なお、粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)は、N−メチルピロリドン溶液中において、粒子形状を有さないものであった。
【0107】
そして、製造例14でそれぞれ得られた飽和化ニトリル重合体(A14)のN−メチルピロリドン溶液の代わりに、上記にて得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(A1)のN−メチルピロリドン溶液を用いた以外は、比較例7と同様にして、正極用複合粒子スラリー及び負極用複合粒子スラリーを得た。
【0108】
そして、上記にて得られた正極用複合粒子スラリー及び負極用複合粒子スラリーを用いて、比較例7と同様にして、正極及び負極を作製し、作製した正極及び負極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
表1に示すように、本発明所定の粒子状バインダを用いた場合には、得られる電極はピール強度及び成形性に優れ、また、電池とした際における内部抵抗が低く、高温サイクル特性に優れるものであった(実施例1〜8)。
【0112】
一方、粒子状バインダとして、アクリロニトリル単位が多過ぎるものを用いた場合には、電極とした場合に成形性が低下し、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性が低下する結果となった(比較例1)。
また、粒子状バインダとして、アクリロニトリル単位が少な過ぎるものを用いた場合や、ヨウ素価が低過ぎるものを用いた場合には、電極とした場合にピール強度及び成形性が低下し、また、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性も低下する結果となった(比較例2,4)。
さらに、粒子状バインダとして、ヨウ素価が高過ぎるものを用いた場合には、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性も低下する結果となった(比較例3)。
【0113】
あるいは、粒子状バインダとして、酸性官能基を有する単量体単位を含有しないものを用いた場合には、電極とした場合にピール強度が低下し、また、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性も低下する結果となった(比較例5)。
さらに、バインダを製造する際における水素化反応をアセトン中で行ったため、粒子形状を有しないバインダを用いた場合や、塗布成形により電極を形成した場合には、電極とした場合にピール強度及び成形性が低下し、また、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性も低下する結果となった(比較例6,7)。
また、粒子状バインダをN−メチルピロリドンに溶解した結果、粒子形状を有さない状態となり、バインダを粒子形状を有さない状態で用いた場合には、電池とした際における内部抵抗及び高温サイクル特性も低下する結果となった(比較例8)。
なお、上記各比較例のうち、比較例7においては、正極活物質としてのLiNiOを含む水分散スラリーを集電体としてのアルミニウム箔に直接塗布したことにより、アルミニウム箔に腐食が発生する結果となった。また、比較例7,8においては、塗布成形により正極及び負極を形成したため、バインダが電極活物質層表面に偏在化するという不具合も認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、及び粒子状のバインダを含んでなり、
前記バインダが、ニトリル基含有単量体単位、酸性官能基を有する単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含有し、前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が10〜50重量%であり、かつ、ヨウ素価が3〜40mg/100mgの共重合体である電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項2】
前記酸性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子電極材料。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学素子電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極。
【請求項5】
前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項4に記載の電気化学素子電極。
【請求項6】
前記活物質層を前記集電体上に、ロール加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項5に記載の電気化学素子電極。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の電気化学素子電極を備える電気化学素子。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の電気化学素子電極用複合粒子を製造する方法であって、
前記電極活物質、及び前記バインダを水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。

【公開番号】特開2013−51203(P2013−51203A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173654(P2012−173654)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】