説明

電気化学素子

【課題】超小型電気化学素子に高粘度の電解液を微量かつ性格に迅速に定量供給し、陰極、陽極合剤に浸透拡散を可能にする新電解液供給方式を採用する電気化学素子を提供する。
【解決手段】電解液を供給する装置として電解液21を有する容器の噴霧出口側15にノズル12を有し、パルス発生回路14に接続された圧電振動子13を有するものを使用することによって、電解液は間欠的に素子の電極合剤面又はセパレータ上に電気化学素子に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超小型二次電池、超小型一次電池、超小型電気二重層キャパシタ及び超小型擬似電気二重層キャパシタのような超小型の電気化学素子に関し、特に、種々の高濃度電解液を微量かつ正確に迅速に定量供給し、電気化学素子の陰極、陽極合剤に浸透拡散を可能にする新電解液注液方式を採用する電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンと称される携帯機器は、従来の携帯電話に、パソコン機能、電子メール機能、ゲーム機能、電子書籍機能、ミュージック機能などの多機能化を意図する携帯機器である。代表的なものは、アップル社のi-Phoneと称される機器で、米国では、2007年頃から普及し、韓国では、2008年頃から、日本では、2009年頃から急速に普及し始めた携帯機器である。
【0003】
この新しい携帯機器には、電源Back upとして、当初は、ML型電池(MnO2/Li一次電池)が使用されていたが、携帯機器の多機能化と共に、携帯機器が高額になり、高額携帯機器の使用期間がより長期間、使用されるためにコイン型のML型電池では、電池容量、電池寿命、瞬時のソフトの起動に電圧、電流が不足し、2008年頃からML型電池からコイン型やチップ型の超小型電気二重層キャパシタ(以後、EDLCと略称する)に代替され、この小型コイン型が日本、韓国を中心に約2億個/月の生産がなされているが、品薄の状況が継続している。
【0004】
この大量生産の難しさには、EMIBF4(Ethyle, Methyle, Imidazolium tetra Fuluoro Borate)のような粘度の高いイオン液体を微量定量供給し、短時間に高粘度の電解液を電気化学素子の電極合剤に拡散吸収させることに、大きな課題を有するのが現状である。最近の携帯機器は、相対的により大きな電流を必要とするため低抵抗の高濃度電解液やハンダリフローに耐えるイオン液体をNeat(100%)で用いる。このような高濃度電解液の粘度は、20℃で、15〜35mPa・s(15〜35cps)の高粘度であるため従来公知の注液方式が使用できない現状である。
【0005】
従来の電池の製造において、円筒型や角形電池では、注液には、プランジャーポンプ、ニードル弁やマイクロシリンジが多用されてきた。従来採用されてきた単なる常温・常圧条件下での滴下による注液方法では、気泡が極板群やセパレータなどの表面に残り、注液時に電槽より電解液が溢れたり、充分に電解液が極板群および電槽に浸み込まない、あるいは注液時間が長いなどの問題が発生している。
【0006】
これらの対策として、数回に分けての注液や、電解液温度を上げての注液、注液後の遠心操作、減圧処理などが行なわれているが、いずれも手間や時間がかかる。例えば、減圧置換注液方法については、真空チャンバ内で電池缶容器内部の空気抜きおよび貯溜カップ内の電解液の脱泡を行なった後、真空チャンバ内の雰囲気を徐々に昇圧して注液する方法(特許文献1参照)や、電槽内を真空ポンプにより減圧しておき、三方弁により、電槽内を電解液溜め槽に連通して、電解液を吸入注液する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
その他の注液方法として、微細な多数のノズルを有するノズル板を圧電振動子により振動させて、このノズル板に供給される液体をノズルから噴霧する装置、あるいは微細な多数のノズルを有するノズル板と近接する超音波振動体の間に供給される液体をノズルから噴霧する装置は、小型かつ省エネルギーの特徴を背景に、近年医療用ネブライザー(吸入器)、加湿器、アロマディフューザーや保湿化粧液の霧化器等に幅広く応用されている。
【0008】
これらの霧化噴霧装置として、ノズルから噴霧される微細粒子を拡散させるために間欠的に拡散させる装置(特許文献3参照)や、振動子への省電力化又は電力制限のために振動子を間欠運転させる装置(特許文献4及び特許文献5参照)が開示されている。
【0009】
一方、高粘度の液体をノズルから液滴として吐出する技術に関しては、吐出のための液滴せん断に必要な大きなせん断力を与える技術(特許文献6参照)や、温度等により高粘度の液体の粘度を低下させてノズルからの吐出をしやすくする技術(特許文献7参照)が開示されている。
しかし、上記の従来例の種々の霧化装置は、何れもプリンター用のインキのような希薄水溶液相当の低粘度のものが殆どで、イオン液体、ワクチン、油のような10mPa・s(10cps)以上の高粘度の液体の霧化装置には、実用化されなかった。
【0010】
代表的な従来例の注液方式を図9に示す。414コイン型EDLC(3.8mmΦ*1.4mm t)のステンレス(SUS 304)製Cap 1には陰極合剤2が(400〜700μmの肉厚)収納されている。イオン液体は、この合剤に、注射器型などの液滴方式で供給されてきた。この従来の方式によるTEABF4のような従来の電解液の供給は、可能であった。しかし、ハンダリフローに耐えるEMIBF4のようなイオン液体は、粘度が高く、表面張力が大で、電解液3を滴下しても合剤に拡散、浸透しないので、液滴環境を昇温したり、減圧加圧を行い、電解液の供給を行っているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−273659号公報
【特許文献2】特開平8−298110号公報
【特許文献3】特表2002−536173号公報
【特許文献4】特開2000−271517号公報
【特許文献5】特表2005−511275号公報
【特許文献6】特開2010−142737号公報
【特許文献7】特開2003−220702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以下に、従来方式の課題を列記する。
最近、二次電池も携帯電話のような小型応用機器から自動車、クレーン、建機のように大型応用機器の用途が増加し、携帯パソコンや携帯機器でもスマートフォンに代表されるように多機能化が進行し、超小型EDLCも低抵抗、大電流の瞬時充放電が求められ、特に、超小型EDLCは、MSD(面実装)機能を要求され、ハンダリフロー条件(260℃*10秒)が要求されるためEMIBF4のイオン液体を100%(Neatと表現する)濃度で、供給するので、正確な微量定量供給(0.1〜10μL/回)が極めて困難で、供給量がばらつくとEDLCの膨れや漏液を伴い、機器を破損することになる。さらに、この濃厚電解液は、表面張力が大で、EDLCの電極合剤に含浸が難しく、時間を要するので、電解液供給時に、昇温させたり、減圧、加圧を繰り返し、生産を行っている現状である。
【0013】
さらに、次の課題を有する。
1)二次電池やEDLCで、低抵抗、大電流放電用途が急増し、電解液がより高濃度となり、生産中に結晶の晶出がある。
2)ラインスピードが50PPMから100〜120PPMの高速度生産が要請されている。
3)超小型EDLCが当初90〜110円/個であったが、市場拡大に伴い、10〜12円/個にコストダウンが要請されている。
4)生産環境がクリーンルームから−65℃のドライルーム環境での生産が要請されている。
【0014】
従来の注液方法の課題は、大別して、2つある。即ち、高粘度溶液の微粒化技術とその微粒化粒子を瞬時に、電気化学素子の電極合剤中に、吸収拡散させる技術である。これを詳述すると、
1)霧化技術の課題:有機系のイオン液体や高濃度電解液の粘度が10〜40mPa・s(10〜40cps)であり、これまでの公知の霧化装置は、10mPa・s(10cps)以下のインクのような水系の低粘度であるため高粘度溶液では、霧化供給できない。
2)高粘度霧化微粒粒子の拡散の課題:有機系高濃度電解液は、含有水分が10ppm以下の高純度を用いるので、粘度や表面張力が大で、滴下粒子が電気化学素子の電極合剤やセパレータに瞬時に拡散吸収が困難で、合剤中の吸着空気や吸着ガスとの気液置換反応が困難であった。
このように大量生産の急速なスケールアップと高性能化とコストダウンを要請され、革新的な高濃度電解液の迅速、正確な定量供給方式の確立が急務である。
【0015】
本発明は、従来の種々の課題を解決するために、高濃度、高粘度の電解液を注入できるようにした斬新な電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、電解液が瞬時に、微量、分散定量供給されるようにした電気化学素子であり、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子へ迅速に定量を供給できるようにしたものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、電気化学素子が、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、擬似電気二重層キャパシタの何れかであり、これらに応用できるようにしたものである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、20℃で10〜40mPa・s(10〜40cps)の高粘度を有する電解液を電気化学素子に供給するようにしたものである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、分散定量供給の手段として、振動素子を用い、密度が1〜6000個/cmの孔を有するノズルから電解液を間欠的に供給するようにしたことにより、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子の電極合剤中に浸透拡散させるようにしたものである。
【0020】
請求項5に記載の発明では、ノズルの金属がニッケル基合金で、細孔径を1〜100μmの範囲としたことにより、ノズルを電鋳技術で制作できるとともに、電解液を0.1〜10μL/回の微量で確実に定量を供給でき、EMIBF4のような高粘度の電解液の迅速供給と電極合剤への拡散含浸を行えるようにしたものである。
【0021】
請求項6に記載の発明では、ノズルの噴出孔の表面に耐摩耗性、耐薬品性、耐液切れ性に優れた表面処理を施すことにより、耐久性を持たせるようにしたものである。
【0022】
請求項7に記載の発明は、ノズルの噴出孔の表面処理として、DLC(Diamondlike Carbon)加工またはフッ素加工を施すことにより、撥水性を持たせるようにしたものである。
【0023】
請求項8に記載の発明では、電解液の粘度が10mPa・s(10cps)以上の場合は振動の時間を20ms以下とし、電解液の粘度が30mPa・s(30cps)以上の場合は振動の時間を10ms以下としたことにより、高粘度の電解液でも霧化噴霧できなくなるのを回避するようにしたものである。
【0024】
請求項9に記載の発明では、前記ノズルを有し前記電解液が供給されるノズル板を備えると共に、分散定量供給のために、ノズルを振動させる振動子と、この振動子を間欠的に振動するための電気信号を発生する手段とを有し、ノズルの噴霧出口側が電解液で濡れ覆われる前に振動子の振動を間欠的に停止する霧化噴霧装置とを備え、間欠的に、電解液を電気化学素子に定量供給するようにしたことにより、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子の電極合剤中に浸透拡散させるようにしたものである。
【0025】
請求項10に記載の発明では、前記霧化噴霧装置は、前記電解液の温度を検出する検出手段と、この検出した温度に応じて前記電気信号の長さを決定する決定手段とを有し、該電気信号の長さによって前記ノズルから霧化噴霧される電解液量を制御することにより、振動子の振動と停止の時間を液体の粘度に応じて的確に制御し、高粘度の電解液でも霧化噴霧できるようにしたものである。
【0026】
請求項11に記載の発明では、ノズル板は隣接する前記ノズル同士の間の距離を150μm以上としたことにより、噴霧出口側のノズル同士が液膜で繋がって霧化噴霧できなくなるのを防止したものである。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の電気化学素子によれば、電解液が微粒子であって間欠的に滴下されるため表面張力が小さくなる。これにより、電解液を合剤粒子間に浸透拡散させることができる。従って、高粘度の電解液である高粘度のイオン液体についても、湿潤されやすくなり、該イオン液体の浸透に伴い合剤中の吸着ガスが脱離して合剤外部に継続的に逸散されやすくなるので、電極合剤中に高速で浸透拡散する。このため、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子へ迅速に定量を供給できる、という優れた効果が得られる。
また高濃度の大きな液滴の粒子について、表面張力が大であるため電解液を滴下後も合剤に浸透させることができなかったという従来例の課題を解決することができる。
【0028】
請求項2に記載の電気化学素子によれば、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、擬似電気二重層キャパシタに応用できる、という優れた効果が得られる。
【0029】
請求項3に記載の電気化学素子によれば、従来技術では供給できなかった20℃で10〜40mPa・s(10〜40cps)の高粘度を有する電解液を確実に供給できる、という優れた効果が得られる。
【0030】
請求項4に記載の電気化学素子によれば、分散定量供給の手段として用いられるノズルから電解液を間欠的に供給することにより、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子の電極合剤中に浸透拡散させることができる、という優れた効果が得られる。
【0031】
請求項5に記載の電気化学素子によれば、分散定量供給の手段として用いられるノズルを電鋳技術で制作できるとともに、電解液を0.1〜10μL/回の微量で、確実に定量を供給でき、EMIBF4のような高粘度の電解液の迅速供給と電極合剤への拡散含浸を行うことができる、という優れた効果が得られる。
【0032】
請求項6に記載の電気化学素子によれば、分散定量供給の手段として用いられるノズルの噴出口の表面が耐摩耗性、耐薬品性、耐液切れ性に優れ、耐久性を持たせることができる、という優れた効果が得られる。
【0033】
請求項7に記載の電気化学素子によれば、分散定量供給の手段として用いられるノズルの噴出口の表面に撥水性を持たせることにより、噴出した電解液の液滴がノズルの噴出口の表面に付着しにくくでき、高濃度、高粘度の電解液を電気化学素子へ迅速に定量を供給できる、という優れた効果が得られる。
【0034】
請求項8に記載の電気化学素子によれば、電解液が高粘度であるほど液滴になりにくいためノズル板に付着しやすく、また付着した電解液は振動毎に徐々に増加するため、高粘度ほど振動の時間を短くしたことにより、高粘度の電解液でも霧化噴霧できなくなるのを回避できる、という優れた効果を得ることができる。
【0035】
請求項9に記載の電気化学素子によれば、高粘度の電解液でもノズルを塞ぐのを抑え、ノズルから液滴が発生するのを妨げることなく連続して霧化噴霧をすることができ、しかも、給液構造や霧化噴霧構造を簡易な構造のままで、電解液の変性や分解を伴わずに、低粘度はもとより特に高粘度の電解液をも霧化噴霧することができる、という優れた効果を得ることができる。
【0036】
請求項10に記載の電気化学素子によれば、振動子の振動と停止の時間を液体の温度に応じて的確に制御し、高粘度の電解液でも霧化噴霧できる、という優れた効果を得ることができる。
【0037】
請求項11に記載の電気化学素子によれば、ノズルの間の距離が短すぎて噴霧出口側のノズル同士が液膜で繋がって霧化噴霧できなくなることを防止できる、という優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第一実施形態を示す電気化学素子への電解液供給の説明図である。
【図2】本発明の第二実施形態を示す電気化学素子への電解液供給の説明図である。
【図3】本発明の電気化学素子へ電解液を供給する第一実施例を示す霧化噴霧装置の断面図である。
【図4】本発明の第一実施例におけるパルス波形を示す図である。
【図5】本発明の第一実施例における示す霧化動作を示す図である。
【図6】本発明の電気化学素子へ電解液を供給する第二実施例を示す霧化噴霧装置の断面図である。
【図7】本発明の電気化学素子へ電解液を供給する第三実施例を示す霧化噴霧装置の断面図である。
【図8】本発明と従来例との特性評価を示す図である。
【図9】従来例を示す電気化学素子への電解液供給の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図8に基づいて詳述する。先ず、霧化噴霧装置の基本構造を詳述し、次に電気化学素子への応用例として、超小型EDLCコインでの実施例を詳述する。
【0040】
(霧化噴霧装置)
図1は第一実施形態を示したもので、ステンレス(SUS304)製のCap1には、陰極合剤2が収納され、高濃度電解液は微粒子化電解液4となって、分散滴下されるようになっている。
図2は第二実施形態を示したもので、コイン型のCase(+極)5には、陽極合剤6が収納され、セパレータ7が積層され、この上部に、高濃度イオン液体4が分散間欠に滴下されるようになっている。
【0041】
このように、分散滴下させる手段して、図3に示す霧化噴霧装置10を使用している。この霧化噴霧装置10は、BaTiOxを用い、高粘度の電解液をピエゾ効果により振動させる圧電振動子(ピエゾ素子)13と、分散滴下のための注入口には、1〜6000個/cmの超微細孔を有するノズル12から微粒子の電解液21を非連続で、間欠に摘下させる方式を採用している。
【0042】
ノズル板11は、電解液の耐食性、耐薬品性を勘案して、ニッケル基合金に対して、Pd, Co, Mo, 等を添加した電鋳溶液から電析法(デポジト)で、1〜6000個/cmの穴密度のノズル12を加工している。ノズル12及び圧電振動子13の接液表面には、耐摩耗性、耐薬品性、液切れ性の改善のためDLC加工やフッ素加工を施している。
【0043】
この霧化噴霧装置10の第一実施例を図3に基づいて、詳述する。ノズル板11は、電鋳技術により製作された配置ピッチ200μmで12μmの径の多数のノズル12を有しており、圧電振動子13に接着されている。このノズル板11の一方の側に設けられた容器20には霧化噴霧すべき粘度約10〜40mPa・s(10〜40cps)の高粘度の電解液21がノズル12に接する状態で満たされている。この状態における圧電振動子13は、インピーダンス特性として、共振周波数が約98kHzで、電気信号発生手段であるパルス発生駆動回路14に接続されている。
【0044】
電解液21は超音波振動によりノズル12から吐出され液滴となり、この液滴は圧電振動子13の振動毎に発生し多数の液滴が連続吐出されることで霧化噴霧となる。電解液21の粘度が高くなると振動エネルギーを大きくしないと液滴としてノズル板11から離脱しない。
発明者らは、10mPa・s(10cps)を超える高粘度の電解液21では振動エネルギーを大きくしても液滴として分離する前にノズル板11に引き戻されやすくなってノズル板11に付着し、ノズル板11に付着した電解液21は徐々に凝集し、ノズル12を塞ぎ、液滴の発生を阻害するという現象を確認した。この現象は、プリンターやネブライザーのような低粘度溶液では、生じない現象である。
【0045】
この現象を解析した結果、ノズル12の噴霧出口側15が凝集粘性を有する電解液21で濡れ覆われることが、高粘度の電解液21を霧化できなくなる原因であることを究明した。このため、上述したように、圧電振動子13を間欠的に振動停止するタイミングとして、振動によりノズル12の噴霧出口側15が粘性を有する電解液21で濡れ覆われる前に振動を停止するようにした。これにより、10mPa・s(10cps)を超える高粘度の電解液21でも霧化噴霧できるようにしたのである。
【0046】
また、発明者らは、ノズル12に付着した液が少量であれば、ノズル12が静止状態の時に表面張力によりノズル12内の電解液21にノズル12に付着した電解液が吸収一体化される現象も確認した。振動の後の停止の間にこの吸収一体化をさせることで、次に始まる振動による液滴発生が再開できることを見出した。この吸収一体化の現象は、付着した電解液21が同じ量でも高粘度であるほど時間を要するため、高粘度ほど休止する時間を短くしないことで霧化噴霧の継続が、可能となることも見出した。
【0047】
これにより、ノズル12が高粘度の電解液21で塞がれるのを抑え、ノズル12から該高粘度の電解液21の液滴が発生するのを妨げることなく、該高粘度の電解液21を連続して霧化噴霧することができる。しかも、給液構造や霧化噴霧構造を簡易な構造のままで、電解液21の変性や分解を伴わずに、低粘度はもとより特に高粘度の電解液21をも霧化噴霧することができた。
【0048】
電解液21が高粘度であるほど液滴になりにくいためノズル板11に付着しやすい。付着した電解液21は振動毎に徐々に増加する。高粘度ほど振動の時間を短くすると、高粘度の電解液21が霧化噴霧できなくなる。これを回避するために、電解液21の粘度が10mPa・s(10cps)以上のとき、振動の時間を20ms以下と設定し、電解液21の粘度が30mPa・s(30cps)以上のとき、振動の時間を10ms以下と設定している。
【0049】
圧電振動子13を駆動する電圧パルスは、正弦波であり、周波数100kHzで電圧振幅は約40Vである。この電圧パルスは、図4に示すようにTon=3msの間、400パルスで連続発振した後に、1000パルス相当の時間Toff=10ms停止するというパルス印加パターンを単位として、これを繰り返して圧電振動子13に印加される。
圧電振動子13の電圧パルスによる振動により、図5に示すようにノズル12から液滴31が発生し、高粘度の電解液21は霧化32を始める。
【0050】
図6は霧化噴霧装置10の第二実施例を示したもので、ノズル11を有するノズル板12は圧電振動子14とは別体に対面する如く配置され、このノズル板12と圧電振動子14の端面との間の数十μmから数百μmの隙間に高粘度の電解液21が供給され、圧電振動子14の端面の振動を受け高粘度の電解液21が振動する装置である。この装置においても、高粘度の電解液21とノズル板11が相対的に振動するメカニズムは上述した第一実施例と同様であり、作用は同じである。
【0051】
上述した第二実施例におけるノズル板11の噴霧出口側15表面にフッ素系撥水(撥油)処理を施した装置において、第一実施例と同様の実験を行った。なお、第一実施例の撥水未処理の場合の化粧液21の接触角は約80度であったのに対し、この第二実施例におけるノズル板11の噴霧出口側15表面における高粘度の電解液21の接触角は約100度である。
【0052】
図7は、霧化噴霧装置の第三実施例を示したものである。この装置は、高粘度の電解液の注入装置であって、第一実施例の霧化噴霧装置をベースとして霧化噴霧する液体41は高濃度電解液で、ノズル板42は中心に1個のノズル44を有し、振動子43に接着されている。この振動子は電気信号発生手段である駆動回路52によって第一実施例と同様に間欠的に振動と停止を繰り返す。ノズル44の下方向には、医薬用カプセル50が配置され、ノズル44から吐出する電解液の液滴46が5マイクロリットル(μL)の容量のカプセル50に注入される。液滴46はノズル板42が振動している間、連なるようにあたかも液柱の如く吐出され、振動が停止している間液滴の連なりは途切れる。
図7は、ノズルが1個の例であるが、電解液の濃度、粘度、電気化学素子の形状やサイズに応じて、1〜複数個に変化させることが可能である。
【0053】
円筒型や角形の電気化学素子では電池ケース1個の薬液量の精度が±5%程度に抑えるよう求められるが、電解液温度により粘度が変化し時間当たりの吐出量の変化を伴う。この第三実施例は、ノズル板42近傍に粘性液体の温度検出手段である抵抗温度センサー45を配置し、この温度センサー抵抗をマイコン51のAD変換入力端子から読み込み、マイコン51が参照するROM53内に格納した薬液温度に応じた吐出レートの変換テーブルを参照して演算を行い、吐出時間を逐次決定する決定手段からなる構成となっており、この決定された吐出時間を電気信号の長さとして駆動回路52(電気信号発生手段)によって振動子43を振動させ、その結果粘性液体の霧化噴霧量を制御するものである。
【0054】
(電気化学素子への応用例)
図8に示すように、従来例(No1〜6)と、本発明の例(No7〜12)とを比較した諸得性の評価を414型EDLCコイン型において、行ったので、これに基づいて詳述する。
【0055】
(EDLC製造条件)
1)EDLC用分極性電極はJX日鉱日石エネルギー製活性炭CEP-21及びバインダーを用いて、公知の方法で、450μm厚の活性炭シートを作成し、陰極陽極に用いた。
バインダーは、耐熱性は、F系を使用し、No5、6、11、12は、アクリレート系を使用した。
2)電解液は、広栄化学工業(株)製イオン液体EMIBF4をNeatで用いた。比較のためTEABF4(Tetra,Ethyle,Anmonium Tetra-Fuloro-Borate)との混合溶液(30:70)を使用した。
3)セパレータ:ガラス繊維とパルプからなる耐熱性のセパレータを使用した。
【0056】
(高濃度電解液の注入条件)
4)電解液の供給方法:本発明による方法は、図7に示す霧化噴霧装置を用い、ノズルは、開孔径が10μmでノズル数が5個で、注液量0.8μLを間欠注入した。従来方法は、マイクロシリンジポンプを用い、1ノズルで、連続注入した。
5)注液温度:注液環境温度を高粘度のため20℃と40℃で、行った。
6)注液時の減圧加圧条件:従来からの設備条件の減圧、加圧条件を用いた。
【0057】
(EDLCの特性評価条件と特性評価)
1)注液状況と吸液状況:
EDLCの活性炭分極性電極は、バインダーに耐熱条件が求められるためフッ素系のバインダーとアクリレート系との混合バインダーを用いていた従来例の注液状況は、1個のノズルで、連続注液のため相対的に、吸液性が悪い。しかし、本発明では、5個のノズルを用い、間欠注液するため吸液状況は、優れていた。
【0058】
2)EDLCコイン型の特性評価:
EDLCの電圧は、注液量に関係無く、2.7V、3.3Vを示すが、その他の諸特性は、電解液の注液吸収量に比例することが、容易に認められる。
即ち、本発明の例のように、微多孔系の多孔ノズルで、分散注液される場合は、図1〜図2に示したように、注液量が電極合剤2中に分散拡散され、液の内部への浸透拡散と合剤中に吸着されていたガスの逸散がスムースに行われるため60℃の加速漏液試験や膨れに良い結果を示すことが容易に認められる。
【0059】
(その他の電気化学素子への応用)
本発明の応用例として、EDLCコイン型について上述したが、本発明のその他の応用として、一次電池、二次電池、擬似キャパシタなどのその他の電気化学素子のコイン型、チップ型、捲回型、円筒型にも同様の効果を確認している。
【産業上の利用可能性】
【0060】
スマートフォンの急成長で、超小型EDLCでも瞬時急速充放電が要請され、小型コインEDLCの大増産がなされている。また、HEVやPEVなどで、大型の二次電池や大型のEDLCの増産も要請されている。
高性能電気化学素子は、高粘度、高濃度の有機電解液を使用するため大量生産のための注液問題が最大の課題である現状である。
本発明によれば、微多孔性の複数個ノズルから間欠注液することで、高粘度の電解液の表面張力が低下し、また、滴下時に再凝集することもない。このため、電極合剤中に分散拡散して、気液交換がスムースに行われ、注液速度が改善され、ラインスピードが50〜60ppmから110〜120ppmに約2倍に改善され、しかも、高温加速試験で、膨れや漏液がないことも確認した電気化学素子を提供でき、産業上極めて利用価値の大なるものである。
【符号の説明】
【0061】
10 霧化噴霧装置
11、42 ノズル板
12、44 ノズル
13 圧電振動子
14 パルス発生駆動回路(電気信号発生手段)
15 噴霧出口側
21、41 電解液
43 振動子
45 抵抗温度センサー(温度検出手段)
51 マイコン(決定手段)
52 駆動回路(電気信号発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液が瞬時に、微量、分散定量供給される電気化学素子。
【請求項2】
前記電気化学素子が、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、擬似電気二重層キャパシタの何れかである請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記電解液が、20℃で10〜40mPa・sの高粘度を有する請求項1又は請求項2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記分散定量供給の手段として、振動素子を用い、密度が1〜6000個/cmの噴出孔を有するノズルから前記電解液を間欠的に供給する請求項1〜3の何れか1項に記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記ノズルの金属がニッケル基合金で、前記噴出孔の孔径が1〜100μmの範囲である請求項4に記載の電気化学素子。
【請求項6】
前記噴出孔の表面に耐摩耗性、耐薬品性、耐液切れ性に優れた表面処理を施す請求項4に記載の電気化学素子。
【請求項7】
前記表面処理として、DLC(Diamondlike Carbon)加工またはフッ素加工を施す請求項6に記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記電解液の粘度が10mPa・s以上の場合は前記振動の時間を20ms以下とし、前記電解液の粘度が30mPa・s以上の場合は前記振動の時間を10ms以下とする請求項4〜7の何れか1項に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記ノズルを有し前記電解液が供給されるノズル板を備えると共に、
前記分散定量供給のために、前記ノズルを振動させる振動子と、前記振動子を間欠的に振動するための電気信号を発生する手段とを有し、前記ノズルの噴霧出口側が前記電解液で濡れ覆われる前に前記振動子の振動を間欠的に停止する霧化噴霧装置とを備え、
間欠的に、前記電解液を定量供給する請求項4〜8の何れか1項記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記霧化噴霧装置は、前記電解液の温度を検出する検出手段と、この検出した温度に応じて前記電気信号の長さを決定する決定手段とを有し、該電気信号の長さによって前記ノズルから霧化噴霧される電解液量を制御する請求項9に記載の電気化学素子。
【請求項11】
前記ノズル板は、隣接する前記ノズル同士の間の距離が150μm以上である請求項9又は請求項10に記載の電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−4383(P2013−4383A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135806(P2011−135806)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【出願人】(396026710)株式会社オプトニクス精密 (34)
【Fターム(参考)】