説明

電気式人工喉頭

【課題】特別の訓練を要しない簡易な操作により、イントネーションのコントロールされた発話を実現し得るような電気式人工喉頭10を提供すること。
【解決手段】筐体20と、筐体20に連結された軸と、軸に連結され、軸を中心に回動自在であり、かつ、その回動方向と異なる方向へ移動可能な操作子と、回動の角度を検出する第1の検出部と、操作子が移動する角度が閾値を超えたか否かを検出する第2の検出部と、記第2の検出部が上記移動の角度が閾値を超えたことを検出している間、指定された周波数の音を発生する音源部と、第1の検出部が検出した角度に応じて音源部が発生する音の周波数を変える制御部とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
健常者は、自らの呼気が喉頭(声門)を経由する際に声帯を振動させることにより音を発生させ、その音の周波数成分を舌・顎や唇などの調音器官で変えることにより様々な発話を行っている。この声帯の振動により発生される音は、発話の基となる音であることから、「声門音源」などと呼ばれる。
【0003】
これに対し、喉頭を摘出してしまった喉頭摘出者は、通常であれば自らの意思による発声は不可能であるが、調音器官さえ残存していれば、人工的に作り出した音源を声門音源の代わりに声道内で発生させ、または、声道内へ送り込んでやることにより、不完全ながらも発声ができるようになる。
【0004】
このような声門音源の代わりとなる音を人工的に作り出す装置の一つに電気式人工喉頭がある。電気式人工喉頭は、声門音源の代わりとなる音を、機械的、または、電子機械的に生成し、その音を頚部の振動などを通じて声道内に導くことによって、喉頭摘出者自らによる発声を支援する。
【0005】
ところで、健常者は、声帯の振動を通じて声門音源のピッチ(基本周波数)を変化させることにより、口から発する音声のアクセント・イントネーションを表現している。これに対し、従来の電気式人工喉頭は、人工的に作り出す音源のピッチが一定であり、喉頭摘出者が調音器官をいかように制御しようともアクセント・イントネーションを表現することができず、その結果として、不自然な声でしか発話できないという重大な問題がある。
【0006】
このため、従来より、喉頭摘出者によるアクセント・イントネーションのコントロールされた発話を支援するための種々の仕組みが提案されてきた。そのような仕組みを開示した文献として、例えば、特許文献1〜3がある。
【0007】
特許文献1に開示された電気式人工喉頭は、ピッチの変化を指示するスイッチを搭載し、そのスイッチがオンされると、音のピッチを所定のパターンに従って自動的に変化させるようになっている。特許文献2に開示された電気式人工喉頭は、小指に装着される指サック型の圧力スイッチを有し、その圧力スイッチが検出した値に応じて音のピッチを変化させるようになっている。特許文献3に開示された電気式人工喉頭は、喉頭摘出者の気管孔から吐き出される呼気の圧力を検出するためのセンサを搭載し、そのセンサの検出値に応じて音のピッチを変化させるようになっている。
【特許文献1】特開平08−265891号
【特許文献2】国際公開WO99/012501号
【特許文献3】特開平07−433号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された仕組みの場合、限られたパターンに従ったピッチの変化しかできないため、実用に耐え得るものとは到底言い難い。特許文献2に開示された仕組みの場合、特許文献1に比べればピッチの変化のバリエーションは多いものの、発話の開始時と終了時は常に決まったピッチとなってしまうため、発声の自由度が依然として限定されたものとなる。特許文献3に開示された仕組みの場合、発話の開始時および終了時に気管孔から吐き出す呼気の圧力を調整することによりアクセント・イントネーションをコントロールすることは可能ではあるものの、そのような調整を円滑に行えるためには相当の訓練が必要であり、習得に多くの時間を要するという問題がある。
【0009】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、特別の訓練を要しない簡易な操作により、アクセント・イントネーションのコントロールされた発話を実現するとともに、歌も歌えるような電気式人工喉頭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好適な態様である電気式人工喉頭は、筐体と、上記筐体に連結された軸と、上記軸に連結され、上記軸を中心に回動自在であり、かつ、その回動方向と異なる方向へ移動可能な操作子と、上記回動の角度を検出する第1の検出部と、上記操作子が移動する角度を検出する第2の検出部と、上記第2の検出部が検出した角度が閾値を超えている間、指定された周波数の音を発生する音源部と、上記第1の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の周波数を変える制御部とを備える。
【0011】
この態様において、前記操作子は、前記異なる方向へ移動し得るようにその一端が前記軸に連結され、前記第2の検出部は、前記操作子の他端により押され、その押された量を基に前記移動する角度を検出するための素子であってもよい。
【0012】
また、前記素子は、光学検出器、電気抵抗検出器、磁気検出器、圧力検出器、電位検出器のいずれか、または、それらの組み合わせであってもよい。
【0013】
本発明の別の好適な態様である電気式人工喉頭は、筐体と、上記筐体に連結された軸と、上記軸に連結され、上記軸を中心に回動自在であり、かつ、その回動方向と異なる方向へ移動可能な操作子と、上記回動の角度を検出する第1の検出部と、上記操作子が移動する角度を検出する第2の検出部と、指定された周波数および強度レベルの音を発生する音源部と、上記第1の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の周波数を変えるとともに、上記第2の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の強度レベルを変える検出制御部とを備える。
【0014】
これらの態様において、前記音源部は、磁気式発音体、圧電式発音体、電子式発音体のいずれか、または、それらの組み合わせであってもよい。
【0015】
また、前記第1の検出部は、光学検出器、電気抵抗検出器、磁気検出器、圧力検出器、電位検出器のいずれか、または、それらの組み合わせであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、特別の訓練を要しない簡易な操作により、イントネーションのコントロールされた発話を実現するとともに歌も歌うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。本実施形態にかかる電気式人工喉頭は、利用者(喉頭摘出者)の口から発せられる各種発話の素材となる音を、その声道内で人工的に発生させる。その結果、調音器官を通じてその音の周波数成分を変更して得られたものが、アクセント・イントネーションを付与された言語音声として利用者の口から発せられる。また、ピッチを適切に制御することによって歌も歌うことができる。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる電気式人工喉頭10の外観を示す一例の側面図であり、図2は、その上面図である。なお、図1の鎖線内は、図2のA−A線で切った際の断面構造を示すものである。以降の説明において、図1および図2の左から右に向かう方向を前後方向、図1の上から下に向かう方向を上下方向とする。
【0019】
両図に示すように、電気式人工喉頭10は、筐体20の前方にテーパー形状のボイスコイルモータホルダ40を連結させ、ボイスコイルモータホルダ40内部のボイスコイルモータ41により駆動される振動板60を、その最前方から露出させた形状を有する。このボイスコイルモータ41と振動板60とが、請求項の「音源部」に相当する。
【0020】
筐体20は、利用者の掌に収まるサイズの略円筒形状をなしている。この筐体20には、電源その他の回路素子が内蔵される。さらに、筐体20の内部上側には、各種検出素子を収容するための検出素子収容室21が形成されている。検出素子収容室21は、略直方体状の空間であり、その天井面の前方に、矩形状の開口部22が形成されている。図2に示すように、この開口部22の長手方向は、筐体20の周方向と概ね一致する。
【0021】
次に、この検出素子収容室21の内部に備え付けられる検出素子、および操作子について詳述する。検出素子収容室21の底面の前方には、操作子の上下方向の操作を検出する部材であるON/OFFスイッチ23(請求項の「第2の検出部」に相当)が備え付けられている。このON/OFFスイッチ23は、上から、押しボタン24、シリンダ25、ケース26の順に構成され、押しボタン24の裏面に連接したシリンダ25を、ケース26の上面に設けた孔からその内部に一部挿入した構造を有する。
【0022】
図2に示すように、押しボタン24の表面は、検出素子収容室21の開口部22よりもやや狭い矩形状をなしている。ケース26の内部(図示せず)には、シリンダ25を上方に付勢するスプリングや固定接点が設けられ、さらに、シリンダ25の下方の所定位置には橋絡片が設けられている。そして、橋絡片と固定接点とが接触すると、ON状態であることを示す電気信号が出力されるようになっている。また、シリンダ25には、その復帰位置を決定づける係止片(図示せず)が凸設されている。この係止片とケース26の孔の淵とが係合することにより、復帰位置よりも上方への押しボタン24の変位が規制される。
【0023】
検出素子収容室21の底面の後方には、操作子支持部26と、操作子の左右方向の操作を検出する部材である光学センサ27(請求項の「第1の検出部」に相当)が、検出素子収容室21の左右両端辺からの距離がほぼ等しくなる位置に並んで設けられている。操作子支持部26は、基台28と、連結軸29を介してその基台28に回動自在に連結された回動部材30(請求項の「軸」に相当)とを有する。基台28は、光学センサ27よりも後方の位置に固定された略直方体の部材である。光学センサ27は、連結軸29の回動角度を検出し、検出した回動角度に基づく電気信号を出力する。
【0024】
連結軸29の上端は、略円柱状をなす部材である回動部材30の下面のほぼ中央に固定されている。また、図1に示すように、回動部材30の上面は、筐体20に設けられた孔を介して外部に露出されている。さらに、この回動部材30の上面の後端には、可変操作部70の後端がヒンジ機構(図示せず)を介して連結されている。可変操作部70は、板体の後端を半円型に丸めたような形状をなしており、回動部材30との連結部位を支点として上下方向に弾性的に移動し得るようになっている。
【0025】
図3は、電気式人工喉頭10の可変操作部70の移動の様子を示す図である。また、図4は、電気式人工喉頭10の可変操作部70の回動の様子を示す図である。
【0026】
この可変操作部70の下面の前端付近には、検出素子収容室21の開口部22と対向するように第1碗部78が設けられている。よって、図3に示すように、可変操作部70を下方向へ移動させると、その第1碗部78の下端がON/OFFスイッチ23の押しボタン24の上面に接触し、押しボタン24に下方向の力が加わる。可変操作部70をさらに下方に移動させると、ケース26内のスプリングの上方への付勢力に抗って、押しボタン24が下方向に押し下げられる。ケース26内の固定接点と橋絡片とが接触する位置まで押しボタン24が押し下げられると、ON状態であることを示す電気信号が出力される。
【0027】
図1および図2において、可変操作部70の上面の後端付近には、回動部材30と周長をほぼ同じくする第2碗部79が設けられている。上述したように、可変操作部70の後端は回動部材30の上面の後端とヒンジ機構を介して連結されており、回動部材30は連結軸29を介して基台28へ回動自在に連結されている。よって、図4に示すように、ON/OFFスイッチ23の押しボタン24をON状態の位置まで押し下げると共に、連結軸29を支点として可変操作部70を左右方向に回動させることが可能である。なお、可変操作部70の回動の範囲は、開口部22の左右の淵と第1碗部78との接触により規制される。そして、その回動の角度は光学センサ27により検出され、電気信号として出力される。
【0028】
次に、ボイスコイルモータホルダ40内部のボイスコイルモータ41とそれにより駆動される振動板60について詳述する。図1に示すように、ボイスコイルモータ41は、両端がN極とS極にそれぞれ着磁された円柱形のマグネット42、そのマグネット42を前方および側方から包囲する円筒形のボビン43、ボビン43の外周に巻き回されたコイル44、およびそれらを後方ならびに側方から包囲するヨーク45を有する。このヨーク45は前方が開口しており、その開口する部位を塞ぐように円形ゴム46が張り渡されている。そして、円形ゴム46の中央には、軸47が前後方向に貫かれ、固定されている。軸47の一端は、ボビン43に固定されている。振動板60は、幅の薄い円柱状をなしており、ウレタン系の樹脂により形成されているが、金属や木材により形成されてもよい。この振動板60は、ゴム材90を介してボイスコイルモータホルダ40の前方の縁の内側に固定されている。
【0029】
このボイスコイルモータ41による振動板60の駆動は、フレミングの法則を利用してなされる。つまり、コイル44にパルス信号が供給されると、ヨーク45内をスライドするボビン43により前方へ押し出された軸47の他端が振動板60を打撃し、また離れるという動作を繰り返す。この結果、振動板60が振動する。そして、コイル44への電流の供給が止まると、円形ゴム46の復元力の作用を受けて軸47が後退する。ボイスコイルモータ41の振動板60を利用者の頚部に押し付けた状態でそのコイル44に電流が供給された場合、振動板60の振動は、利用者の頚部からその声道内に伝わり、声道内にて音が発生する。利用者は、舌・顎や唇などの調音器官によってその音の周波数成分を変えることにより、所望の発話を実現することができる。
【0030】
図5は、電気式人工喉頭10の回路構成を示すブロック図である。本実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、ON/OFFスイッチ23、光学センサ27、ボイスコイルモータ41のほか、電源80、制御部81、パルス信号出力部82を有する。電源80、制御部81、およびパルス信号出力部82は、筐体20に内蔵される。
【0031】
電源80は、例えば、電池であり、制御部81などへ電流を供給する。制御部81は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有し、ON/OFFスイッチ23および光学センサ27から供給される電気信号を基に可変操作部70の状態を特定し、その状態に応じてパルス信号出力部82の動作を制御する。パルス信号出力部82は、制御部81による制御の下、ボイスコイルモータ41へその駆動を特定するためのパルス信号を出力する。
【0032】
図5の丸枠内には、パルス信号出力部82からボイスコイルモータ41へ出力されるパルス信号の波形の一例が記してある。この波形のT1により指し示される波形の立ち上がりの間隔(周期)は、ボイスコイルモータ41の軸47が振動板60を打撃する時間間隔と対応する。よって、この間隔が狭いほど、振動板60の振動の周波数が高くなり、声道内にて発生する音のピッチ(基本周波数)も高くなる。反対に、この間隔が広いほど、声道内にて発生する音のピッチは低くなる。また、この波形のT2により指し示される、波形がハイレベルになっている時間、つまり、デューティー比は、ボイスコイルモータ41の軸47が振動板60を打撃する強さと対応する。よって、このデューティー比が大きいほど、声道内にて発生する音のレベルが大きくなる一方で、このデューティー比が小さいほど、そのレベルが小さくなる。
【0033】
次に、制御部81の処理について、詳述する。制御部81には、ON/OFFスイッチ23および光学センサ27から電気信号が供給される。可変操作部70の下方向への移動により、ON/OFFスイッチ23の押しボタン24がオン状態の位置まで押し下げられる。すると、ON状態であることを示す電気信号がON/OFFスイッチ23から供給され、制御部81は、光学センサ27から供給される電気信号が示す角度と対応する周波数を特定する。
【0034】
この周波数の特定は、制御部81のROMに可変操作部70の左右方向の角度と周波数とを対応付けたテーブルを記憶させておき、角度を示す信号が供給される都度、このテーブルを参照するようにして行う。ROMに記憶させるテーブルは、第1碗部78が開口部22の右の淵と接触する位置まで可変操作部70を回動させたときに周波数が最低になり、第1碗部78が開口部22の左の淵と接触する位置まで可変操作部70を回動させたときに周波数が最高になるような内容にすると、より好ましい。また、第1碗部78が開口部22の右の淵と接触するまで可変操作部70を回動させたときに周波数が最低になるかそれとも最高になるかを、利用者の好みに応じて設定できるようにしてもよい。
【0035】
周波数を特定した制御部81は、その周波数での振動板60の打撃を指示する制御信号をパルス信号出力部82へ供給する。すると、パルス信号出力部82は、その制御信号に応じた立ち上がりの間隔(周期)のパルス信号をボイスコイルモータ41へ出力する。これにより、可変操作部70が位置する角度に応じた周波数での振動板60の打撃が開始され、振動板60を頚部に押し付けている利用者の声道内にその周波数とほぼ同じピッチの音が発生する。なお、本実施形態の場合、パルス信号出力部82からボイスコイルモータ41へ供給されるパルス信号のデューティー比は一定であり、声道内に発生する音のレベルも一定となる。
【0036】
さらに、ON状態であることを示す電気信号がON/OFFスイッチ23から供給されている間に光学センサ27から新たな電気信号が制御部81に供給されると、制御部81は、パルス信号出力部82から出力するパルス信号の波形をその新たな制御信号が示す角度に応じて切り替える。これにより、振動板60は、その角度に応じた周波数に基づいた打撃を継続し、声道内にて発生する音のピッチが高く、または低く変化する。
【0037】
以上説明した本実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、略板状の操作子である可変操作部70の上下方向の移動を検出するON/OFFスイッチ23と、その左右方向の回動を検出する光学センサ27とを搭載する。そして、可変操作部70の下方向への移動によってON/OFFスイッチ23の押しボタン24がON状態の位置まで押し下げられると、その左右方向の回動の角度に応じた周波数で振動板60が打撃され、利用者の声道内に音を発生させることができる。
【0038】
よって、利用者は、電気式人工喉頭10の筐体20を掌に包むように握ってその振動板60を自らの頚部に押し付け、親指を可変操作部70の表面に押し当てて動かすことにより、音の発生の有無とそのピッチの高さを同時に操作することができる。また、可変操作部70の左右方向の回動の角度を決めてから押しボタン24がON状態の位置に至るまで押し下げることにより、任意のピッチで音の発生を開始させることができる。さらに、声道内で音を発生させている最中に可変操作部70を左右方向に回動させることにより、音のピッチを高く、または低く変化させることができ、変化後のピッチで音の発生を終了させることもできる。このような操作方法であれば、片手の親指を上下左右に動かすだけで、音の発生の有無とそのピッチの調整とを同時に行うことができ、その習得にも多大な訓練などを必要としない。さらに、アクセントやイントネーションをつけて発話することや歌を歌うことも容易に行うことができるようになる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。
【0040】
第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、可変操作部70の上下方向の移動を検出する素子であるON/OFFスイッチ26とその左右方向の回動を検出する素子である光学センサ27とを筐体20の検出素子収容室21の前方と後方に離して配置し、また、その天井面の前方に開口部22を設けてある。そして、下方に移動する可変操作部70Aの第1碗部78は、その開口部22を介してON/OFFスイッチ26の押しボタン24に接触してそれを押し下げるようになっている。これに対し、本実施形態にかかる電気式人工喉頭は、可変操作部の上下方向の移動を検出する素子と左右方向の回動を検出する素子を筐体内の後方に集積させた構成を有している。
【0041】
図6は、本実施形態にかかる電気式人工喉頭10Aの外観の一例を示す左側面図であり、その鎖線内には、断面構造を示す。図6の左から右に向かう方向を前後方向、上から下に向かう方向を上下方向とする。
【0042】
図6に示すように、本実施形態にかかる電気式人工喉頭10Aも、筐体20の前面にテーパー形状のボイスコイルモータホルダ40を連結させ、ボイスコイルモータホルダ40のボイスコイルモータ41により駆動される振動板60を、その最前方から露出させた形状を有する。振動板60、およびその振動板60を駆動するボイスコイルモータ41の構成は第1実施形態と同様であり、再度の説明を割愛する。
【0043】
本実施形態にかかる電気式人工喉頭10Aの筐体20内は、仕切り板によって、設定用半固定抵抗収容室59、電源収容室62、回路・センサ収容室63に区分けされている。設定用半固定抵抗収容室59には、設定用半固定抵抗61が収容される。また、電源収容室62には、電源となる電池80Aが収容される。
【0044】
回路・センサ収容室63の前方には、制御部81、およびパルス信号出力部82が収容されている。また、回路・センサ収容室63の後方には、センサボックス64が設けられている。このセンサボックス64は、操作連動機構65に支持され、回路・センサ収容室63の天井面の後方に吊り下げられている。
【0045】
図7は、可変操作部70A、センサボックス64、および操作連動機構65を上方から見た図である。なお、説明の便宜上、可変操作部70Aの外延を鎖線により示してある。また、図8は、可変操作部70A、センサボックス64、および操作連動機構65を左側方から見た図である。図9は、可変操作部70A、センサボックス64、および操作連動機構65を後方から見た図である。
【0046】
可変操作部70Aは、平板状の部材である。センサボックス64は、内部に中空部66を設けた略直方体状の部材であり、中空部66には、圧力センサ67、および発光素子68と受光素子69とからなる回動角センサ70が設けられている。
【0047】
操作連動機構65は、可変操作部70Aの操作に応じてセンサボックス64が前後および左右へ傾くように両者を連動させるための機構であり、軸受け部材71、支持軸72、および連結軸73を有する。軸受け部材71は、回路・センサ収容室63の天井面の後方を矩形状に開口させた開口部よりもやや小さな外延を有する略直方体状の部材である。軸受け部材71には、その上面と下面とを垂直方向に貫く縦孔が設けられている。さらに、縦孔の後側には、左側側面のやや下方の位置と右側側面のやや下方の位置の間を水平方向に貫く横孔が設けられている。
【0048】
軸受け部材71は、開口部に嵌め込まれた状態で、その横孔に挿入された支持軸72の左右の両端が開口部の左右の両壁へそれぞれ固定されることによって、支持されている。このため、軸受け部材71は、支持軸72を支点として上下方向に傾動することができる。
【0049】
軸受け部材71の縦孔には、連結軸73が挿入されている。その連結軸73の下端は、センサボックス64の上面後方を貫いてその中空部66の基底にある基台74の穴(図示せず)に軸着される一方、連結軸73の上端は、可変操作部70Aの下面の後方に固定されている。
【0050】
また、センサボックス64の中空部66に挿入された連結軸73の下端よりもやや上方には、前方に向かって延伸するアーム部材75が固定されている。よって、連結軸73を介して連結された可変操作部70Aおよびアーム部材75は、その連結軸73を支点として左右方向に回動することができる。
【0051】
アーム部材75の先端には発光素子68が設けられている。また、中空部66の左側壁には、発光素子68と対をなす受光素子69が設けられている。この受光素子69は発光素子68とともに回動角センサ70を構成している。アーム部材75が右方向に回動し、その先端の発光素子68が受光素子69から遠ざかると、受光素子69へ到達する光の光量が小さくなる。一方、アーム部材75が左方向に回動し、その先端の発光素子68が受光素子69へ近づくと、受光素子69へ到達する光の光量が大きくなる。受光素子69は、自らへ到達した光の受光量を検出し、左右方向の回動の角度を示す電気信号として出力する。
【0052】
センサボックス64の中空部66の後面には、圧力センサ67が設けられている。上述したように、軸受け部材71は、支持軸72を支点として傾動することができる。また、センサボックス64と可変操作部70Aは、この軸受け部材71の縦孔に挿入された連結軸73によって連結される。
【0053】
そして、設定用半固定抵抗収容室59と回路・センサ収容室63とを区分けする仕切り板76とセンサボックス64の後面との間には隙間が確保されている。よって、可変操作部70Aの下方向への移動により、センサボックス64は、後方に傾いて仕切り板76と接する。圧力センサ67は、センサボックス64の後面が仕切り板76へ接する圧力を検出し、上下方向の移動の角度を示す電気信号として出力する。
【0054】
次に、本実施形態における制御部81の処理について、詳述する。制御部81には、左右方向の回動の角度を示す電気信号が回動角センサ70から供給され、また、上下方向の移動の角度を示す電気信号が圧力センサ67から供給される。制御部81は、回動角センサ70から供給される電気信号が示す角度と対応する周波数を特定するとともに、圧力センサ67から供給される電気信号が示す角度と対応する打撃強度を特定する。
【0055】
この周波数の特定は、第1実施形態と同様にテーブルを参照して行う。また、打撃強度の特定も同様に、制御部81のROMに可変操作部70Aの上下方向の角度と打撃強度とを対応付けたテーブルを記憶させておき、角度を示す信号が圧力センサ67から供給される都度、このテーブルを参照するようにして行う。
【0056】
周波数および打撃強度を特定した制御部81は、その周波数および打撃強度での振動板60の打撃を指示する制御信号をパルス信号出力部82へ供給する。すると、パルス信号出力部82は、その制御信号に応じた立ち上がりの間隔(周期)およびデューディー比のパルス信号をボイスコイルモータ41へ出力する。これにより、可変操作部70Aが位置する角度に応じた周波数および打撃強度での振動板60の打撃が開始され、振動板60を頚部に押し付けている利用者の声道内に、振動の周波数とほぼ同じピッチで且つその打撃強度に応じたレベルの音が発生する。
【0057】
以上説明した本実施形態にかかる電気式人工喉頭10Aは、可変操作部70Aの上下方向の移動を検出する素子である圧力センサ67と左右方向の回動を検出する素子である回動センサとを、筐体20内の後方のセンサボックス64に集積させた構成をとっているため、筐体20内の前方に大きな開口部を設ける必要が無い。よって、その開口部から筐体20内に埃などの異物が入り込むといった不都合を解消できる。また、制御部81は、圧力センサ67から供給される電気信号に応じて、振動板60の打撃強度を制御するようになっている。よって、利用者は、可変操作部70Aの左右方向の操作によって音のピッチを調節できるだけでなく、その上下方向の操作によって音のレベルをも調節することができる。
【0058】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の変形実施が可能である。
【0059】
上記第1および第2実施形態にかかる電気式人工喉頭10,10Aは、磁気式発音体の1つであるボイスコイルモータ41を搭載し、このボイスコイルモータ41の軸47による打撃を通じて振動板60を振動させることによって、利用者の声道内に音を発生させている。これに対し、圧電式発音体、電子式発音体、または、それらを組み合わせた装置により音を発生させる、または音を送り込んでやるようにしてもよい。
【0060】
上記第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、光学検出器の1つである光学センサ27を搭載し、この光学センサ27によって可変操作部70の左右方向の回動の角度を検出している。これに対し、電気抵抗検出器、磁気検出器、圧力検出器、電位検出器などの他の検出素子を光学センサ27の代わりに搭載させてもよい。
【0061】
上記第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、制御部81のROMに可変操作部70の左右方向の角度と周波数とを対応付けたテーブルを記憶させておき、角度を示す信号が供給される都度、このテーブルを参照することによってパルス信号の周波数を特定している。これに対し、そのようなテーブルを用いることなく、プログラム関数として予め準備した算出式を用いてパルス信号の周波数やパルス信号の幅を変えるようにしてもよい。かかる変形例としては、可変操作部70の左右方向の角度を示す値と設定用半固定抵抗61の値によりパルス信号の周波数とパルス幅が求まるような算出式のプログラム関数を予め準備しておき、角度を示す信号が光学センサ27から入力される都度、その信号が示す値を算出式に入力してパルス信号の周波数とパルス幅を求める、といった態様がある。この態様により、最も低い周波数の値や周波数の調整範囲を好みに応じて柔軟に設定でき、また、ボイスコイルモーターに加えるパルスの幅を調整することで打撃強度を調整することも可能となる。
【0062】
上記第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10の可変操作部70は、横長の矩形状の板体の後端を半円型に丸めたような形状をなしており、第2実施形態にかかる電気式人工喉頭10Aの可変操作部70は板形状をなしていた。これに対し、可変操作部70を、かかる平面を持つ板状ではなく、例えば、側面をも丸くした棒状の形状にしてもよい。要するに、一端が回動部材30に対して上下方向に移動自在に連結され、その一端よりも前方の部位によって押しボタン24を下方向に押し込めるようになってさえいれば、可変操作部70の形状は任意に選択可能である。
【0063】
上記第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10において、この回動部材30の上面の後端と可変操作部70の後端は、ヒンジ機構を介して連結されている。これに対し、他の機械的機構により両者を連結させてもよい。例えば、型に溶融樹脂を流し込み、回動部材30と可変操作部70の境界線の厚さが薄くなるように成形された部材を作製し、その境界線の部分を折り曲げることによって回動部材30と可変操作部70とを一体的に形成してもよい。
【0064】
上記第1実施形態にかかる電気式人工喉頭10の回動部材30は、略円柱状をなしているが、球状や直方体状の他の形状を採用してもよい。要するに、可変操作部70が筐体20に対して回動し得るように両者を連結する部材であれば、その形状は問わない。また、回動部材30とは異なり、回動しない軸を設け、可変操作部70が軸を中心に回動するようにしてもよい。その場合、光学センサ27は、連結軸29の回動角度ではなく、可変操作部70そのもの、あるいは可変操作部70と連動する部材の回動角度を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる電気式人工喉頭の左側面図である。
【図2】図1に示す電気式人工喉頭の上面図である。
【図3】図1に示す電気式人工喉頭の可変操作部の移動の様子を示す図である。
【図4】図1に示す電気式人工喉頭の可変操作部の回動の様子を示す図である。
【図5】図1に示す電気式人工喉頭の回路構成を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる電気式人工喉頭の左側面図である。
【図7】図6に示す可変操作部、センサボックス、および操作連動機構を上方から見た図である。
【図8】図6に示す可変操作部、センサボックス、および操作連動機構を左側方から見た図である。
【図9】図6に示す可変操作部、センサボックス、および操作連動機構を後方から見た図である。
【符号の説明】
【0066】
10…電気式人工喉頭、20…筐体、40…ボイスコイルモータホルダ、21…検出素子収容室、22…開口部、23…ON/OFFスイッチ(第2の検出部およびスイッチング素子に相当)、24…押しボタン、25…シリンダ、26…ケース、26…操作子支持部、27…光学センサ(第1の検出部に相当)、28,74…基台、29,73…連結軸、30…回動部材(軸に相当)、78…第1碗部、79…第2碗部、41…ボイスコイルモータ(音源部の一部に相当)、42…マグネット、43…ボビン、44…コイル、45…ヨーク、46…円形ゴム、47…軸、60…振動板(音源部の一部に相当)、80…電源、81…制御部、82…パルス信号出力部、90…ゴム材、59…設定用半固定抵抗収容室、61…設定用半固定抵抗、62…電源収容室、63…回路・センサ収容室、64…センサボックス、65…操作連動機構、66…中空部、67…圧力センサ、68…発光素子、69…受光素子、70…回動角センサ、71…軸受け部材、72…支持軸、75…アーム部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
上記筐体に連結された軸と、
上記軸に連結され、上記軸を中心に回動自在であり、かつ、その回動方向と異なる方向へ移動可能な操作子と、
上記回動の角度を検出する第1の検出部と、
上記操作子が移動する角度を検出する第2の検出部と、
上記第2の検出部が検出した角度が閾値を超えている間、指定された周波数の音を発生する音源部と、
上記第1の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の周波数を変える制御部と、
を備えたことを特徴とする電気式人工喉頭。
【請求項2】
前記操作子は、
前記異なる方向へ移動し得るようにその一端が前記軸に連結され、
前記第2の検出部は、
前記操作子の他端により押され、その押された量を基に前記移動する角度を検出するための素子である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気式人工喉頭。
【請求項3】
前記素子は、
光学検出器、電気抵抗検出器、磁気検出器、圧力検出器、電位検出器のいずれか、または、それらの組み合わせである、
ことを特徴とする請求項2に記載の電気式人工喉頭。
【請求項4】
筐体と、
上記筐体に連結された軸と、
上記軸に連結され、上記軸を中心に回動自在であり、かつ、その回動方向と異なる方向へ移動可能な操作子と、
上記回動の角度を検出する第1の検出部と、
上記操作子が移動する角度を検出する第2の検出部と、
指定された周波数および強度レベルの音を発生する音源部と、
上記第1の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の周波数を変えるとともに、上記第2の検出部が検出した角度に応じて上記音源部が発生する音の強度レベルを変える制御部と、
を備えたことを特徴とする電気式人工喉頭。
【請求項5】
前記音源部は、
磁気式発音体、圧電式発音体、電子式発音体のいずれか、または、それらの組み合わせである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式人工喉頭。
【請求項6】
前記第1の検出部は、
光学検出器、電気抵抗検出器、磁気検出器、圧力検出器、電位検出器のいずれか、または、それらの組み合わせである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式人工喉頭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−199191(P2008−199191A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30601(P2007−30601)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(391026106)株式会社電制 (12)
【出願人】(397031496)
【出願人】(507045993)
【Fターム(参考)】