説明

電気機器の再生方法及び電気機器の再生装置

【課題】電気機器の再生方法における処理効率の向上と、優れた効率で電気機器を再生可能な再生装置の提供とを課題としている。
【解決手段】ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油が筐体内に封入されている電気機器から、前記絶縁油を取り出す抜油工程を実施した後に、前記筐体内に新たなる絶縁油を封入させることにより、前記電気機器を無害化させて再利用可能な状態にさせる電気機器の再生方法であって、前記抜油工程後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより前記筐体の健全性を診断する診断工程を実施することを特徴とする電気機器の再生方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の再生方法及び電気機器の再生装置に関し、より詳しくは、ポリ塩化ビフェニルを含む絶縁油が用いられた電気機器の再生方法とその再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」という)は、安定性、不燃性、電気絶縁性に優れていることから、過去において、コンデンサやトランス等の電気機器を構成する際の絶縁油に多く利用されていた。現在では、このPCBは、その難分解性と毒性とにより製造や新規使用等が禁止されている。そして、PCBを含有する絶縁油を使用したコンデンサやトランス等の電気機器は、回収・保管されており、早急に処理されることが求められている。
【0003】
このコンデンサやトランスは、コンデンサ素子やトランスコイルなどがPCBを含有する絶縁油に浸漬された状態で筐体内に収容されており、その処理に際しては、PCBを含有する絶縁油を抜油した後に、破砕して洗浄を行い、鉄屑や銅屑などの有価物を回収する方法が広く行われている。
【0004】
一方で、このような破砕を行わずに、抜油した後の電気機器にPCBを実質的に含有していない絶縁油を封入することで電気機器を無害化処理して再利用することが下記特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−122767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、PCBを含んでいない絶縁油に詰替えて電気機器を再生する方法については、これまでに十分な検討が行われておらず、再生方法における処理効率を向上させる手法についてもいまだ確立されてはいない。
本発明は、このような電気機器の再生方法における処理効率の向上と、優れた効率で電気機器を再生可能な再生装置の提供とを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための電気機器の再生方法における本発明は、ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油が筐体内に封入されている電気機器から、前記絶縁油を取り出す抜油工程を実施した後に、前記筐体内に新たなる絶縁油を封入させることにより、前記電気機器を無害化させて再利用可能な状態にさせる電気機器の再生方法であって、前記抜油工程後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより前記筐体の健全性を診断する診断工程を実施することを特徴としている。
【0008】
また、上記課題を解決するための電気機器の再生装置における本発明は、ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油が筐体内に収容されている電気機器から、前記絶縁油を取り出す抜油工程を実施した後に、前記筐体内に新たなる絶縁油を収容させることにより、前記電気機器を無害化させて再利用可能な状態にさせるための電気機器の再生装置であって、前記抜油工程後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより前記筐体の健全性を診断し得るように、電気機器を前記減圧状態にさせるための減圧機構と、減圧状態に保持されている前記電気機器の内部の圧力を測定するための圧力測定機構とが備えられていることを特徴としている。
【0009】
なお、本明細書中における“新たなる絶縁油”との用語は、原油などから工業的に生産された後、未使用(新品)の絶縁油のみならず、PCBを含有する絶縁油が無害化処理されるなどして新たに絶縁油として使用可能な状態とされた絶縁油などをも含む意図で用いている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気機器の再生方法においては、電気機器からPCBを含有している絶縁油を取り出す抜油工程を行った後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより筐体の健全性を診断する診断工程を実施する。
また、本発明の電気機器の再生装置には、電気機器の内部を減圧状態にさせるための減圧機構と、減圧状態に保持されている前記電気機器の内部の圧力を測定するための圧力測定機構とが備えられている。
したがって、電気機器内部の圧力変化によって筐体の破損などを把握することができ筐体の健全性を診断し得る。
すなわち、本発明によれば、新たなる絶縁油の封入などに先立って筐体の健全性が把握されることから、新たなる絶縁油を封入した後に筐体の異常が見出されるなどして封入作業等が無駄になってしまうことを防止し得る。
このようなことから、本発明によれば、電気機器の再生における処理効率の向上が図られうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の電気機器の再生装置の構成を示す概略構成図。
【図2】電気機器内部の洗浄方法を示す要部断面図。
【図3】他の実施形態の電気機器の再生装置の構成を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、図面を参照しつつ、電気機器の再生装置について説明する。
図1は、本実施形態の電気機器の再生方法に関して用いられる装置の構成を示すものであり、ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油(以下「PCB含有絶縁油」ともいう)が用いられた電気機器としてトランスを再生する場合を例示したものである。
また、図2は、トランスへの注油及びトランスからの抜油(洗浄)の態様を示す要部断面図である。
【0013】
図1にも示すように、本実施形態に係る電気機器の再生装置1には、電気機器を前記減圧状態にさせるための減圧機構2と、減圧状態とされた前記電気機器の内部の圧力を一定期間測定するための圧力測定機構3とが備えられている。
また、本実施形態に係る電気機器の再生装置1には、トランスTRから取り出されたPCB含有絶縁油を無害化する無害化機構4と、この無害化された絶縁油などを用いて前記PCB含有絶縁油を抜油した後のトランスTRの内部を洗浄する洗浄機構5とが備えられている。
【0014】
前記トランスTRは、図には詳細に示していないが、その筐体として上部に開口を有する略直方体形状の容器本体と、該容器本体の前記開口を閉塞させるための矩形板状の蓋体とを有しており、前記容器本体と前記蓋体とは、容器本体の開口周縁部に配されたシール材を介して固定されている。
前記蓋体には、トランスTRの内部に絶縁油を給油したり、あるいは、内部から絶縁油を抜油したりするための給排口が形成されており、該給排口は、通常、キャップ部材で閉塞されている。
【0015】
本実施形態の再生装置1には、前記減圧機構2を構成する機器類として、前記キャップ部材を取り外したトランスTRの蓋体に、前記給排口を通じて挿通可能に形成され、該蓋体から容器本体の底部にいたる長さを有する吸油パイプ11と、該吸油パイプ11を通じてPCB含有絶縁油をトランスTRの内部から吸引して取り出すための吸引ポンプ10とが備えられている。
前記吸油パイプ11は、吸油口を有する先端部を容器本体の底部に位置させて前記蓋体に固定されており、前記吸引ポンプ10によって前記PCB含有絶縁油をトランスTRの外に排出させることで該トランスTRの内部を減圧状態とし得るように、前記給排口を密封させる状態で固定されている。
【0016】
また、前記減圧機構2を構成する機器類として、本実施形態の再生装置1には、前記トランスTRの内部を必要に応じてさらに減圧するための真空ポンプ20が備えられている。
この真空ポンプ20としては、一般的なロータリータイプやレシプロタイプのものを採用することができ、特に限定がされるものではないが、例えば、小形密閉容器などに対して10-3Pa程度の真空度を付与させ得るものなどが本実施形態における真空ポンプとして採用されうる。
【0017】
前記吸引ポンプ10は、吸油パイプ11によって吸引されたPCB含有絶縁油を前記無害化機構4に搬送するためのPCB含有絶縁油搬送配管部L1の経路途中に配されており、前記真空ポンプ20は、前記吸引ポンプ10よりも上流(吸油パイプ11)側において前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1から三方弁V1を介して分岐された分岐配管部L2に接続されている。
【0018】
すなわち、前記減圧機構2は、概ねPCB含有絶縁油が除去された後にトランスの筐体の健全性を確認するのに十分な減圧状態がトランスTRの内部に形成されていない場合において、前記三方弁V1によって流路を分岐配管部L2側に切り替えて前記真空ポンプ20によってさらなる減圧を実施させ得るように形成されている。
なお、前記真空ポンプ20からの排ガスは、別途、排ガス処理のための装置に供給されて含有されるPCB蒸気などが除去・無害化されて処理されることとなる。
【0019】
また、前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1には、前記三方弁V1の上流側においてPCB含有絶縁油のPCB濃度などを、前記絶縁油をサンプリングして確認し得るようにサンプル抜取り箇所(サンプリング箇所)12が設けられている。
すなわち、前記減圧機構2は、トランスTRの内部を所定の真空度に減圧し得るように構成されているのみならず、PCB含有絶縁油をトランス外に取り出す際にサンプリングを実施し、PCB含有絶縁油のPCB濃度等によって無害化機構4における処理条件などを決定し得るように構成されている。
【0020】
前記圧力測定機構3は、トランスTRの内部の減圧状態(真空度)を測定するための真空計VCを用いて構成されている。
そして、本実施形態の再生装置1は、前記減圧機構2によるトランス内部の減圧を実施した後に前記三方弁V1よりもさらに上流側の箇所に設けられた開閉弁V2などを閉止することでPCB含有絶縁油搬送配管部L1を通じてトランス内部の気圧が変化されることを防止しうるように形成されており、前記真空計VCの変化を観察することでこのトランスTRの筐体の健全性を判断し得るように形成されている。
【0021】
本実施形態における前記無害化機構4は、前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1から供給されるPCB含有絶縁油に対して触媒水素還元法により無害化処理を施すものであり、前記触媒水素還元法を実施するための反応器30と、前記反応器30にPCB含有絶縁油を供給する前にアンモニア含有水を添加するためのアンモニア含有水貯留槽40とを有している。
また、前記無害化機構4には、アンモニア含有水が添加されたPCB含有絶縁油を前記反応器30に導入させる前に加熱するための加熱器31がさらに備えられている。
【0022】
また、前記無害化機構4には、前記アンモニア含有水貯留槽40に収容されているアンモニア含有水を、PCB含有絶縁油搬送配管部L1を流通するPCB含有絶縁油に添加し得るようにアンモニア含有水搬送配管部L4が備えられており、該アンモニア含有水搬送配管部L4は、一端部が前記アンモニア含有水貯留槽40に接続され、他端部が前記吸引ポンプ10の上流側において前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1に接続されている。
【0023】
前記反応器30には、例えば、ニッケルモリブデン触媒などを有するものを採用することができ、PCBを脱ハロゲン化するとともに、絶縁油の劣化などによって生じた二重結合、アルデヒド基、カルボニル基を供給された水素ガスによって水素化させ得るものが用いられ得る。
また、通常、このような反応器30においては、ポリ塩化ビフェニルなどが水素化(脱ハロゲン化)されてビフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビシクロヘキシルなどに変化されるとともに前記脱ハロゲン化によって発生する塩化水素などがアンモニアによって中和され塩化アンモニウムが形成されることとなる。
【0024】
そして、本実施形態における前記無害化機構4には、反応器30での水素化反応によりPCBが除去(脱ハロゲン化)された絶縁油(以下「無害化絶縁油」ともいう)に含まれている塩化アンモニウムを除去するための洗浄槽50と、洗浄槽50を通過させた後の無害化絶縁油に含まれる水分を除去する油水分離器60とが備えられている。
なお、洗浄槽50では具体的には塩化アンモニウムや硫化水素等を溶解させるために水や水酸化ナトリウム等が添加される。
なお、この油水分離器60から排出される排水は、排水処理のために別途設けられている装置に供給されて処理されることとなる。
【0025】
前記反応器30、前記洗浄槽50、及び前記油水分離器60は、これらを前記無害化絶縁油が順に流下し得るように無害化絶縁油搬送配管部L5にて接続されており、該無害化絶縁油搬送配管部L5には、油水分離器60を通過したあとの無害化絶縁油をサンプリングして無害化絶縁油のPCB濃度が法で定められた0.5ppm以下になっているかどうかを確認し得るようにサンプリング箇所41が設けられている。
日本国内においては、法律によって許容されるPCB濃度が0.5ppm以下に定められているため、PCB濃度を0.5ppm以下とすることで、トランスやコンデンサなどの絶縁油として再利用させ得る。
なお、アメリカ合衆国やヨーロッパ連合諸国などの諸外国においては、このPCB濃度の規定値が日本より高く設定されていることが多く、この0.5ppm以下の基準値をクリアさせることで日本のみならず他国においても再利用可能な再生トランスとさせ得る。
ただし、当該再生方法を行う場合においては、外国での再利用を主眼とする場合には、必ずしもPCB濃度を0.5ppm以下にする必要はなく、各国の法制度にしたがって、許容されるPCB濃度となるまでに水素化反応を実施させれば電気機器の絶縁油として再利用させ得る。
【0026】
前記洗浄機構5は、PCB濃度が0.5ppm以下に低減され、しかも、アルデヒドやカルボニルなどといった酸化劣化箇所がリフレッシュされた無害化絶縁油から、さらに、塩及び水分などが除去されて再びトランス油などとして使用可能なコンディションに調整された絶縁油(以下「再生絶縁油」ともいう)を抜油後のトランス内部を洗浄する洗浄剤として用い得るように構成されており、前記再生絶縁油を貯留する再生絶縁油貯留槽80が備えられている。
なお、前記再生絶縁油貯留槽80は、再生絶縁油搬送ポンプ70によって油水分離器60から再生絶縁油搬送配管部L6を通じて前記再生絶縁油の供給を受け得るように形成されている。
そして、洗浄機構5は、この再生絶縁油を洗浄剤として抜油後のトランスTRに供給し得るように洗浄剤供給配管部L7と洗浄剤供給ポンプ100とを有している。
この洗浄剤供給配管部L7は、前記吸油パイプ11あるいは前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1に接続させて、トランス内への注油とトランスからの抜油とを交互に行って洗浄を実施させる態様(図2(a)参照)とすることもでき、例えば、前記給排口において開口させてこの洗浄剤供給配管部L7から洗浄剤の注入を行いつつ前記吸油パイプ11から洗浄剤を吸引させる循環洗浄を実施させる態様(図2(b)参照)とすることもできる。
【0027】
また、前記洗浄機構5には、最終的にトランスに封入する絶縁油として、前記再生絶縁油よりも高品質な絶縁油が求められるような場合のためにPCBを実質上含んでいない新品の絶縁油(以下「バージン絶縁油」ともいう)を貯留するバージン絶縁油貯留槽90が備えられており、前記洗浄機構5は、該バージン絶縁油貯留槽90からも前記洗浄剤供給配管部L7を通じて抜油後のトランスTRにバージン絶縁油を供給し得るように形成されている。
なお、前記バージン絶縁油としては、高圧絶縁油などとして市販のものを用いることができ、例えば、JIS C2320 1種2号絶縁油などが用いられ得る。
本実施形態においては、このバージン絶縁油も洗浄剤として利用可能ではあるが、コスト面などからは、前記再生絶縁油を洗浄剤として利用することが好ましい。
【0028】
本実施形態の前記洗浄機構5には、トランス内の前記洗浄剤(再生絶縁油等)を加熱し得るように、加熱機構110が備えられている。
即ち、本実施形態の洗浄機構5は、トランスTRの内部の洗浄に加熱された再生絶縁油を用い得るように形成されている。
該加熱機構110は、トランス内の洗浄剤を抜き出して再びトランス内に戻すためのポンプ111と、該ポンプ111による洗浄剤の循環経路に設けられた加熱装置112とで構成されている。
なお、加熱装置112としては、洗浄剤との間で熱交換を行う熱交換器や、洗浄剤の流通経路に設けられるシーズヒータや、洗浄剤の流通する配管を外側から加熱するためのジャケットヒーターなど種々の態様のものを採用することができる。
なお、このような構成を採用することで循環しながら徐々に洗浄剤の温度を高温にすることができるので、洗浄剤の過熱防止を図って安全に加熱することができるとともに洗浄剤の熱劣化も防ぐことができる。
従って、安全且つ効率良く巨大なトランス内を洗浄することが可能となる。
なお、このような加熱機構110に代えて投げ込みヒーターのような加熱装置をトランス内に収容させて該加熱装置により内部の洗浄剤を加熱する構成としても良い。
また、洗浄剤の温度の制御を要しない場合や、トランス自体が小さく、熱容量が小さい場合はトランスに注入する前に洗浄剤を事前に加熱して加熱油を注入する構成としても良い。
この場合は図3に示すように再生絶縁油をトランスに供給する経路に加熱装置(例えば熱交換器112’)を配置してもよい。
また、トランスに供給する経路に熱交換器112’を配置する場合であれば、トランスTRから洗浄剤供給ポンプ100に戻る経路を別途設け、洗浄剤供給ポンプ100を用いて洗浄剤を循環させるようにして図1における加熱機構110に代わる機構を構成させるようにしても良い。
なお、ここでは詳述しないが、従来、PCBなど難分解性のハロゲン化物を無害化処理する装置や、電気機器の再生装置などを構成すべく用いられているその他の機器類を上記例示の構成に加えて本発明の電気機器の再生装置とすることも可能である。
【0029】
次いで、このような再生装置1を用いたトランスTRの再生方法について説明する。
まず、トランスTRの蓋体に設けられたキャップ部材を外して給排口を開口させ、前記吸油パイプ11をこの給排口を通じてトランスTRの内部に挿入させ、その先端部をトランスTRの容器本体の底部近傍に到達させた時点で吸油パイプ11と給排口との間の隙間を閉塞させる。
この状態で、洗浄剤供給配管部L7の側の開閉弁V4を閉状態とするとともにPCB含有絶縁油搬送配管部L1の側の開閉弁V2を開状態とし、さらに、三方弁V1を吸引ポンプ10の側が開状態となるようにして前記吸引ポンプ10を作動させる。
【0030】
そして、吸引ポンプ10によってトランスTRの内部に収容されているPCB含有絶縁油をトランスTRの外に取り出す抜油工程を実施し、抜油されたPCB含有絶縁油を前記無害化機構4に供給する。
このとき、必要であれば、無害化機構4における無害化処理の条件設定などを目的としてトランスTRから取り出されたPCB含有絶縁油をPCB含有絶縁油搬送配管部L1におけるサンプル抜取り箇所12からサンプリングしてPCB濃度などを測定することもできる。
ただし、このような測定を行わずに無害化処理の条件設定が可能な場合などにおいては前記サンプリングを必要とするものではなく、例えば、再生するトランスの型番などからそのトランスに使用されている絶縁油の情報などが入手できるような場合においてまでサンプリングを実施する必要はない。
【0031】
そして、この抜油工程においては、トランスTRが密閉された状態で内部のPCB含有絶縁油が吸引ポンプ10によって排出されるため、外に取り出されたPCB含有絶縁油の体積分だけトランスTRの内部が減圧された状態となる。
【0032】
ここで、後述する筐体の健全性を診断するのに十分な真空度が、このPCB含有絶縁油の排出だけでは十分に確保することが難しい場合には、前記真空ポンプ20を作動させるとともに前記三方弁V1を当該真空ポンプ20の側に切り替えて更なる減圧を実施させればよい。
そして、例えば、真空ポンプ20を一定時間運転させても、その間に殆ど真空度の変化が見られなくなってトランスTRの内部が安定した減圧状態となったことが真空計VCによって確認された時点で前記PCB含有絶縁油搬送配管部L1の開閉弁V2を閉状態としトランスにPCB含有絶縁油搬送配管部L1や洗浄剤供給配管部L7から空気が流入しないようにさせる。
【0033】
その後、一定時間(例えば、1時間)以上この状態を保持させて真空度の変化を真空計VCで観察することで筐体の健全性を判断する診断工程を実施する。
このことについてより詳しく説明すると、減圧機構2によってトランスTRの内部が所定の減圧状態にされ、前記開閉弁V2が閉止された後に、前記真空計VCによって読み取られる真空度が低下(トランスTRの内部の気圧が上昇)した場合には、筐体のいずれかの箇所からトランスの内部に外気が流入していると判断することができる。
そして、このような真空度の低下が真空計VCによって観察された場合には、その真空度の低下状況によって、この気体流入箇所を特定して修復を行うか、あるいは、このトランスTRについては再生を断念して別のトランスの再生に移行するかといった選択を行うことができる。
【0034】
この診断工程の実施によって、再生後に筐体の不具合が発見されるなどして再生の手間や資材が無駄になってしまうことを未然に防ぐことができ、しかも、真空度の低下の状況によってその対応策を選択可能となることから、電気機器の再生処理をより効率良く実施させることができる。
例えば、真空度の低下が緩やかに変化するような場合であれば、シール材の劣化などが考えられ、真空度の低下速度が比較的速い場合には、容器本体や蓋体に割れや孔などが形成されていることが考えられる。
このように真空度の低下具合によって外気の流入箇所をある程度把握することができる。
さらに、真空度の低下速度が著しく速い場合には、修復が困難であると判断することができ、再生を断念して別のトランスの再生処理に移行することが好ましい。
【0035】
なお、この診断工程は、筐体の健全性を把握する対象となる電機機器の種類やサイズなどにもよるが、通常、電気機器の内部を1kPa以上100kPa以下の範囲の内のいずれかの真空度とさせた後、減圧状態を1時間以上24時間以下、好ましくは2時間以上12時間以下の範囲の内のいずれかの期間維持させ、その間の真空度を観察することで筐体の健全性を把握することができる。
なお、減圧状態に保持した当初は絶縁油に含まれるガスが放出される可能性があり、これによって減圧状態が保持されない可能性があることから、電気機器の内部を減圧状態に一定期間保持し、その後、さらに減圧操作を行い、再度一定期間減圧状態を保持するなどして絶縁油中に含まれるガスや機器内に保持されていたガス(気体)を除去する作業を行うことが好ましい。なお、この保持期間としては特に限定されないが20分以上2時間以下、好ましくは1時間以上2時間以下が好ましい。
【0036】
例えば、内部の容積が2m3程度のトランスであれば、通常、内部を50kPa程度減圧し(つまり内部の圧力は常圧−50kPa=51.3kPaとなる)、その状態で保持し、1時間経過後に内部の圧力を確認する。
このとき内部の圧力が60kPa程度まで復圧するような場合があるが、その場合は、再度減圧することによって内部を50kPa程度まで減圧し、この状態で再び1時間保持して内部の圧力がほとんど変化しなかった場合に、再度内部を50kPaに減圧して診断工程を実施することができる。
診断工程において、リーク量が10-6Pa・m3/s以下であれば健全な状態であると判断でき、リーク量が10-6Pa・m3/sより大きく、102Pa・m3/s以下であれば、パッキン類の交換等により健全化が可能であると判断できる。
一方、リーク量が102Pa・m3/sよりも大きい場合は修復困難な状態と判断できる。
【0037】
なお、トランスTRの内部の真空度を上げる(減圧する)ほど、筐体の健全性判断における感度を向上させることができる。
一方で、真空度を上げ過ぎると、PCB蒸気などによって真空ポンプ20の油が汚染されたり、真空ポンプ20の排ガス処理における負荷を増大させたりするおそれを有する。
このことから、例えば、トランスTRに用いられているPCB含有絶縁油のPCB濃度が、100ppm以上である場合には、前記診断工程を実施する前にトランスTRの内部を洗浄する予備洗浄工程を実施することが好ましい。
また、PCB含有絶縁油のPCB濃度が100ppm以下となるような微量PCB汚染絶縁油が用いられているような場合には、予備洗浄工程を実施する必要性は低いものとなる。
【0038】
この予備洗浄工程は、例えば、前記再生絶縁油を洗浄剤として用いて実施することができ、必要に応じて前記バージン絶縁油を洗浄剤として用いて実施することができる。
具体的には、前記抜油工程後、PCB含有絶縁油搬送配管部L1の開閉弁V2を閉状態とし、洗浄剤供給配管部L7の側の開閉弁V4を開状態として洗浄剤供給ポンプ100によって再生絶縁油貯留槽80から再生絶縁油をトランスTRの内部に供給することで実施可能である。
【0039】
この予備洗浄工程においては、トランスTRの内部に洗浄剤を注入後、減圧することで部材間の気泡を除去して注入した洗浄剤を細部にまで浸透させやすく、トランスTRの内部に残存するPCBを効率よく除去することが可能となる。
このように洗浄効率を高めるために洗浄剤を注入後に真空ポンプ20による減圧工程を行っても良い。
また、この予備洗浄工程において用いる洗浄剤は、前記熱交換器112,112’を利用するなどして適度(例えば、40℃以上120℃以下の温度)に加熱しておくことが洗浄効率の点において好ましい。
このように洗浄剤を加熱しておくことで、粘度低下による浸透性向上を図ることが可能となるとともに溶解性が向上され、しかも、前記発泡を促進させる効果も発揮される。
【0040】
なお、予備洗浄工程において実施する具体的な洗浄方法は、特に限定されるものではなく、再生絶縁油を注油したトランスTRを振動・回転させたり、あるいは、攪拌子によって内部攪拌を行ったりする方法が挙げられる。
また、PCB含有絶縁油搬送配管部L1と洗浄剤供給配管部L7とをバイパスするバイパス配管とポンプとを別途設け、洗浄剤を、洗浄剤供給配管部L7から、トランスTR、PCB含有絶縁油搬送配管部L1、及び、バイパス配管を通じて再び洗浄剤供給配管部L7に還流させて循環洗浄を実施させることも可能である。
そして、前記サンプル抜取り箇所12から洗浄剤をサンプリングして、洗浄剤のPCB濃度を測定することで洗浄効果を確認し、所望の予備洗浄がなされたと判断された場合には、このトランスTRに収容されている洗浄剤も、当初収容されていたPCB含有絶縁油と同様に吸引ポンプ10で無害化機構4に供給して水素化(脱ハロゲン化)による無害化処理を実施させればよい。
【0041】
この予備洗浄工程後は、前記診断工程を実施し、筐体の健全性が確認されたものについては、例えば、再生絶縁油、バージン絶縁油、あるいは、これらの混合油を新たなる絶縁油として封入してトランスTRを再生させることができる。
なお、元々PCB濃度が、国が定める基準値(0.5ppm)を超えていたPCB含有絶縁油を前記無害化機構4によってPCBの含有量が0.5ppm以下となるように無害化処理して得られた再生絶縁油を、再生トランスに新たに封入する絶縁油として用いる方が、バージン絶縁油を新たなる絶縁油とする場合よりも再生に要するコストの面や再生絶縁油の有効利用の観点から好ましい。
一方で、コスト面などにおいてやや不利な点を有するものの再生トランスの信頼性確保の観点からバージン絶縁油を新たな絶縁油として封入することも可能である。
【0042】
このとき、トランス内部の機器の深部などが前記予備洗浄において十分に洗浄されておらず、新たなる絶縁油として再生絶縁油やバージン絶縁油を封入した後に、内部からPCBが滲出するなどして絶縁油のPCB濃度が0.5ppmを超えるおそれを有するような場合においては、前記診断工程後にトランスTRの内部を洗浄する洗浄工程を別途実施させればよい。
【0043】
この洗浄工程は、前記予備洗浄工程と同様に実施でき、例えば、PCBの含有量が0.5ppm以下となるように無害化処理された前記再生絶縁油によってトランスTRの内部を洗浄する方法が挙げられる。
その具体的な方法としては、例えば、一旦、再生絶縁油を封入したトランスTRを振動・回転させたり、あるいは、攪拌子によって内部攪拌を行ったりする方法を採用することができる。
また、予備洗浄工程と同様に循環洗浄させる方法なども採用可能である。
【0044】
このように診断工程後において、さらに、洗浄工程を実施することで、内部にPCBが残存することを抑制することができる。
【0045】
そして、例えば、循環洗浄中にサンプル抜取り箇所12などから絶縁油をサンプリングしてPCB濃度が所定の濃度(例えば、0.5ppm)以下になっているかどうかの卒業判定を実施し、合格判定が得られた時点で循環をストップして筐体の給排口などを閉止してトランスの再生を完了させることができる。
なお、この時に、水分測定工程を併せて実施しすることが好ましい。PCBを含有する絶縁油は、比較的高い電圧で使用される電気機器に多く用いられており、このトランスを再生させるに際しても元々利用されていた高電圧用途(例えば、交流600V以上、直流750V以上の高電圧と呼ばれる領域)における用途に適した電気機器に再生させることが好ましく、そのため高電圧における信頼性を確保すべく前記水分測定工程を実施して所定以下の含水率となるように調整することが好ましい。
【0046】
また、本実施形態においては、減圧機構を用いて抜油工程を実施しているが、抜油工程を実施するための機構を、電気機器内部を減圧状態にさせる減圧機構とは別に設ける場合も本発明の意図する範囲である。
【0047】
さらに、本実施形態においては、より確実にPCBを除去させることが可能となる点において診断工程前の予備洗浄工程や診断工程後の洗浄工程を実施する場合を例示しているが、これらの工程は本発明において必須の要件ではない。
また、この予備洗浄工程や洗浄工程においては、再生トランスに最終的に封入して絶縁油として利用可能な再生絶縁油(場合によっては、バージン絶縁油)を洗浄剤として利用する態様を例示しているが、必要であれば、ノルマルパラフィンなど、PCB含有絶縁油に対して優れた相溶性を示す溶媒を洗浄剤として用いて予備洗浄工程あるいは洗浄工程のいずれかを実施させても良い。
なお、再生トランスが高圧トランスとして用いられる場合には、ノルマルパラフィンなどの混入が問題になるおそれを有することから本実施形態において例示しているように再生絶縁油を洗浄剤として利用する方が好ましい。
また、絶縁油以外の洗浄剤を用いる場合には、絶縁油を封入するための系統と、洗浄剤を循環させる系統とを別々に設けることが必要になるおそれもあり、絶縁油を洗浄剤として用いる方が装置構成をよりシンプルなものとすることができ好適であるといえる。
本実施形態においては予備洗浄工程実施後に診断工程を実施しているが、トランス筐体に欠陥(微少な孔やヒビなど)が存在し、当該個所にホコリや砂などが詰まり、外観的に欠陥が見られないような場合でも、予備洗浄を行うことで当該個所のホコリや砂等が除去されるため、欠陥を発見しやすいという効果を奏する。また、その後の診断工程においてもこのような欠陥をより発見させやすくなるという効果も奏する。
また、本実施形態においては、事前に診断工程を行った筐体に密閉状態で絶縁油の注入を行っているが、このことにより空気中の水分が機器内に侵入することを防止できるという効果を奏する。
【0048】
なお、本実施形態においては、優れた洗浄性を発揮させ得るために、洗浄剤を加熱状態として洗浄を実施しているが、常温で洗浄してもよい。
また、本実施形態においては抜油する箇所と注油する箇所とを略同一の箇所としているがこれに限定されず、変圧器に設けられた配管を利用して別々の箇所から抜油、注油する構成としても良い。
また、本実施形態においてはトランスから抜き出した絶縁油を直接無害化機構に供給する構成としたが、これに限定されず汚染油を貯留する汚染油貯留槽(図1、図3における符号200)を設けてこれに貯留する構成としても良い。この場合、汚染油貯留槽200に貯留された汚染油は一定量貯留された時点で、別途設けられた無害化処理設備にて無害化処理を行い、その後無害化処理油を輸送して再生絶縁油貯留槽に貯留する構成としても良い。
なお、絶縁油を無害化処理する方法としては金属ナトリウム分散体を利用することも可能であるが、コスト及び絶縁油を再利用する点から例えば特許3404042号に記載された方法を利用することが好ましい。
【0049】
さらには、本実施形態の電気機器の再生方法に具体的な例示がなされていない事項であっても、従来公知の技術事項については、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて本発明において採用可能なものである。
【符号の説明】
【0050】
1 再生装置
2 減圧機構
3 圧力測定機構
4 無害化機構
5 洗浄機構
10 吸引ポンプ
11 吸油パイプ
12 サンプリング箇所
20 真空ポンプ
30 反応器
31 加熱器
40 アンモニア含有水貯留槽
41 サンプリング箇所
50 洗浄槽
60 油水分離器
70 再生絶縁油搬送ポンプ
80 再生絶縁油貯留槽
90 バージン絶縁油貯留槽
100 洗浄剤供給ポンプ
110 加熱機構
L1 分岐配管部
L2 分岐配管部
L4 アンモニア含有水搬送配管部
L5 無害化絶縁油搬送配管部
L6 再生絶縁油搬送配管部
L7 洗浄剤供給配管部
TR トランス
V1 三方弁
V2 開閉弁
V3 開閉弁
V4 開閉弁
V5 三方弁
VC 真空計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油が筐体内に封入されている電気機器から、前記絶縁油を取り出す抜油工程を実施した後に、前記筐体内に新たなる絶縁油を封入させることにより、前記電気機器を無害化させて再利用可能な状態にさせる電気機器の再生方法であって、
前記抜油工程後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより前記筐体の健全性を診断する診断工程を実施することを特徴とする電気機器の再生方法。
【請求項2】
ポリ塩化ビフェニルを含有する前記絶縁油をポリ塩化ビフェニルの濃度が0.5ppm以下となるように無害化処理して前記電気機器に封入する新たなる絶縁油として用いる請求項1記載の電気機器の再生方法。
【請求項3】
前記診断工程後に、ポリ塩化ビフェニルの濃度が0.5ppm以下の絶縁油で前記電気機器の内部を洗浄する洗浄工程をさらに実施する請求項1または2記載の電気機器の再生方法。
【請求項4】
前記電気機器の内部を洗浄した後の前記絶縁油中の水分を測定する水分測定工程をさらに実施する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機器の再生方法。
【請求項5】
前記抜油工程後、且つ前記診断工程前に、ポリ塩化ビフェニルの含有量が0.5ppm以下の絶縁油を用いて前記電気機器の内部を洗浄する予備洗浄工程を実施する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気機器の再生方法。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビフェニルが100ppm以上の濃度で含有されている絶縁油が封入されている電気機器に対して前記予備洗浄工程を実施する請求項5記載の電気機器の再生方法。
【請求項7】
ポリ塩化ビフェニルを含有する絶縁油が筐体内に収容されている電気機器から、前記絶縁油を取り出す抜油工程を実施した後に、前記筐体内に新たなる絶縁油を収容させることにより、前記電気機器を無害化させて再利用可能な状態にさせるための電気機器の再生装置であって、
前記抜油工程後に、前記電気機器の内部を減圧状態に保持させることにより前記筐体の健全性を診断し得るように、電気機器を前記減圧状態にさせるための減圧機構と、減圧状態に保持されている前記電気機器の内部の圧力を測定するための圧力測定機構とが備えられていることを特徴とする電気機器の再生装置。
【請求項8】
前記抜油工程後の電気機器の内部を、ポリ塩化ビフェニルの含有量が0.5ppm以下の絶縁油を用いて洗浄するための洗浄機構がさらに備えられている請求項7記載の電気機器の再生装置。
【請求項9】
前記洗浄機構が、洗浄に用いる前記絶縁油を加温する手段を備えている請求項8記載の電気機器の再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187455(P2012−187455A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51050(P2011−51050)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】