説明

電気機械およびその製造方法

【課題】電機子起磁力の高調波成分に対応する巻線係数を低減することにより、これらに起因するトルクリップルを低減することができる巻線を有する電気機械を得る。
【解決手段】電気機械は、9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び8n又は10n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線を巻回する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機等の電気機械に関するものであり、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルを低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3相交流で駆動される永久磁石界磁形モ−タにおいては、巻線無通電時に外部駆動にてロ−タ磁石を回転したときに、ステ−タコアとロ−タとの間にコギングトルクが発生する。一般的にコギングトルクはロ−タの機械的な1回転につきステ−タの突極磁極数Mと永久磁石磁極数Pの最小公倍数のリップルが発生し、このコギングトルクの大きさはリップルの数に反比例する。従って、モ−タのコギングトルクを低減するためには、ステ−タの突極磁極数Mと永久磁石磁極数Pの最小公倍数が大きくなるように構造を決定することが多い。
【0003】
一方、突極磁極数Mと永久磁石磁極数Pとの関係はモ−タの電機子巻線利用率(以下、巻線係数と称す。)にも影響を与える。一般的に電機子起磁力の基本波に対する巻線係数を向上させることはモ−タの出力向上につながるため、モ−タ構造としては電機子起磁力の基本波に対する巻線係数が高い突極磁極数Mと永久磁石磁極数Pの組み合わせが選ばれることが多い。
【0004】
永久磁石磁極数Pと突極磁極数Mの関係が、(2/3)M<P<(4/3)M、かつ、M=6n、かつ、P≦6n−2またはP≧6n+2(但しPは、2の倍数、nは2以上の整数)とした場合に、コギングトルク低減効果と出力向上効果が同時に得られる(例えば、特許文献1参照)。
また、永久磁石磁極数Pと突極磁極数Mの関係が、(2/3)M<P<(4/3)M、かつ、M=3m(但しmは2以上の奇数、M≠P)とした場合に、コギングトルク低減効果と出力向上効果が同時に得られる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−243621号公報
【特許文献2】特開平09−172762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に回転電機等の電気機械の駆動時に発生する電機子起磁力にはn次(n=2m+1,n≠3k,mおよびkは1以上の整数)の奇数次高調波成分が含まれており、これらのうち主に第5、7、11、13、17、19次高調波に起因してロ−タの機械的な1回転につき(6×f×P/2)次(fは1以上の整数)のトルクリップルが発生する。
従って、電気機械では電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルを低減することができず、例えば電気機械をエレベ−タの巻上機として使用する場合、トルクリップルが乗り心地に影響するといった問題があった。
【0007】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、電機子起磁力の高調波成分に対応する巻線係数を低減することにより、これらに起因するトルクリップルを低減することができる巻線を有する電気機械およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電気機械は、9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び10n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線を巻回する。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る電気機械は、9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び10n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線を巻回する構成としたので、電機子起磁力の高調波成分に対する巻線係数を低減し、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る回転電機の構成を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る回転電機の構成を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1及び4に係る回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図4】各ティースに単一の巻線を巻回した10極9ティースの回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図5】各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合においてU相巻線に発生する誘起電圧の第5次、第13次高調波成分のベクトル図である。
【図6】各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合においてU相巻線に発生する誘起電圧の第7次、第11次高調波成分のベクトル図である。
【図7】実施の形態1における巻線構造においてU相巻線に発生する誘起電圧の第5次、第13次高調波成分のベクトル図である。
【図8】実施の形態1における巻線構造においてU相巻線に発生する誘起電圧の第7次、第11次高調波成分のベクトル図である。
【図9】この発明の実施の形態2及び3に係る回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図10】各ティースに単一の巻線を巻回した10極9ティースの回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図11】各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合においてU相巻線に発生する誘起電圧の第5次、第13次高調波成分のベクトル図である。
【図12】各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合においてU相巻線に発生する誘起電圧の第7次、第11次高調波成分のベクトル図である。
【図13】実施の形態2における巻線構造においてU相巻線に発生する誘起電圧の第5次、第13次高調波成分のベクトル図である。
【図14】実施の形態2における巻線構造においてU相巻線に発生する誘起電圧の第7次、第11次高調波成分のベクトル図である。
【図15】各ティースそれぞれの合計ターン数をTとし、U5のターン数を変化させた場合における基本波及び第5次高調波、第7次高調波に対する分布巻係数を示したグラフである。
【図16】U21とU22、V21とV22、W21とW22のそれぞれの合計ターン数がTとなるように巻回し、他のティースに巻回されている巻線の合計ターン数を0.889Tとして、U5のターン数を変化させた場合における、基本波及び第5次高調波、第7次高調波に対する分布巻係数を示したグラフである。
【図17】実施の形態4において各相巻線に発生する誘起電圧ベクトル図である。
【図18】本発明の実施の形態5及び6に係る回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図19】本発明の実施の形態5及び6に係る回転電機の電機子及び界磁極を直線状に展開した展開図である。
【図20】実施の形態6におけるU相コイルの接続図である。
【図21】実施の形態6の巻線構造における各巻線に発生する誘起電圧の一例として示したベクトル図である。
【図22】巻線群U1−U21−U3ならびに巻線群U4−U22−U5における誘起電圧の合成ベクトルの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電気機械の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電気機械の構成を示す断面図である。以下の説明では、電気機械の例として、回転電機を例に挙げている。
この回転電機1は、電機子2と界磁極3が磁気的空隙を介して相対的に図示しないベアリング等の保持具により配置されている。
界磁極3は、界磁極鉄心4とこれに等間隔に固定された永久磁石5を有している。N極の永久磁石5とS極の永久磁石5を5対、計10個の磁極を有している。
【0013】
電機子2は、等間隔で配置された磁気的空隙長の方向に突出した9個のティース6が形成された電機子鉄心7と、この電機子鉄心7に集中的に巻回され且つスロット8に収容された巻線9とを有している。また、ティース6は、三相交流の同相が通電される複数の巻線9が巻回されているティース6と、又は異なる相の電流が通電される複数の巻線9が巻回されているティース6から構成される。
【0014】
図3は、巻線構造の一例を詳細に示すために、回転電機1の電機子2及び界磁極3を直線状に展開した断面図である。
電機子2には紙面に向かって左側から右に第1ティースから第9ティースが配置されており、第1ティースのコアバック10側にはV4−、空隙11側にはU1+、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはW5−、空隙11側にはU3+、第4ティースのコアバック10側にはU4−、空隙11側にはW1+、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはV5−、空隙11側にはW3+、第7ティースのコアバック10側にはW4−、空隙11側にはV1+、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック10側にはU5−、空隙11側にV3+の巻線9が巻回されている。
【0015】
ここで、各巻線9に付記する記号「+」と記号「−」は、巻極性が互いに逆であることを示している。また、同一ティースに巻回する2つの巻線9の配置順序は問わず、径方向の位置を逆に配置しても構わない。
【0016】
一方、10極9ティースの回転電機1における各ティースに、単一の巻線9を同じターン数で巻回した場合には、図4のように第1ティースにはU1+、第2ティースにはU2−、第3ティースにはU3+、第4ティースにはW1+、第5ティースにはW2−、第6ティースにはW3+、第7ティースにはV1+、第8ティースにはV2−、第9ティースにはV3+の巻線9が巻回される。但し、U+とU−は巻極性が互いに逆であることを示している。
【0017】
各ティースに単一の巻線9を同じターン数で巻回した場合の巻線構造の分布巻係数は、基本波に対しては約0.9598、第5次高調波に対しては約0.2176、第7次高調波に対しては約0.1774となる。これらの巻線に発生する高調波誘起電圧をベクトル図で表すと、第5次については図5、第7次については図6のようになる。なお、第11次高調波、第13次高調波の分布巻係数については、それぞれ第7次高調波、第5次高調波の分布巻係数と等しくなり、第17次高調波、第19次高調波の分布巻係数については、基本波の分布巻係数と等しくなる。
【0018】
図5又は図6の破線の周方向角度間隔は、磁極1個分の角度を180°とした場合の電気角で20°の位相角度のずれ量に相当する。また、図5又は図6のベクトル間の角度は、それぞれ各巻線に発生する5次又は7次の高調波誘起電圧間の、その電気角による位相角度のずれ量を表し、図5又は図6の各ベクトルの大きさは、それぞれ各巻線に発生する5次又は7次の高調波誘起電圧の振幅を表している。
【0019】
一方、この発明の実施の形態1に係る回転電機1では、巻線構造のN次高調波(N=2m+1,N≠3k,m及びkは1以上の整数である。)に対する分布巻係数は、例えばU相について巻線U1〜U5のターン数をa1〜a5(但し、a2はU21とU22の和である。)とした時、式(1)から求められる。
【0020】
【数1】

【0021】
尚、各ティースにおける巻線(例えばU1+とV4−などの場合)の合計ターン数を同一のTとし、且つ各相における巻線のうち同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースに関して位置的に対称な2つのティースに巻回された巻線(例えばU1とU3、U4とU5などの場合)を等しいターン数としている。これらの巻線に発生する高調波誘起電圧をベクトル図で表すと、第5次については図7、第7次については図8のようになる。なお、第11次高調波、第13次高調波の分布巻係数については、それぞれ第7次高調波、第5次高調波の分布巻係数と等しくなり、第17次高調波、第19次高調波の分布巻係数については、基本波の分布巻係数と等しくなる。
【0022】
図7又は図8の破線の周方向角度間隔、ベクトル間の角度、及びベクトルの大きさは、図5又は図6で説明したものと同様である。
【0023】
ここで、第5次高調波について、図5と図7を比較すると、巻線U4、U5を巻回することにより巻線(U21−/U22−)に発生する誘起電圧が打ち消され、誘起電圧の合成の絶対値が小さな方向に推移することがわかる。
式(1)からも、a1=a3=0.43Tとしたとき分布巻係数はほぼ0になり、単一の巻線を同じターン数で巻回した場合の分布巻係数0.2176よりも大きく低減することがわかる。
【0024】
また、第7次高調波についても、図6と図8を比較すると、巻線U4、U5を巻回することにより巻線(U21−/U22−)に発生する誘起電圧が打ち消され、さらに巻線U1、U3の誘起電圧が相対的に減少するため、誘起電圧の合成の絶対値が小さな方向に推移することがわかる。式(1)からも、a1=a3=0.28Tとしたとき分布巻係数はほぼ0になり、単一の巻線を同じターン数で巻回した場合の分布巻係数0.1774よりも大きく低減することがわかる。
【0025】
巻線係数は分布巻係数と短節巻係数の積で表され、短節巻係数は実施の形態1と各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合では互いに等しい。従って本実施の形態において電機子起磁力の高調波に対する巻線係数を低減することが可能となる。これにより、巻線係数第5次、7次高調波に起因するトルクリップルの電気角1周期の第6次成分と、巻線係数第11次、13次高調波に起因するトルクリップルの電気角1周期の第12次成分をほぼ比例して小さくすることができる。
【0026】
なお、本実施の形態1では各ティースに巻回された巻線のターン数を変化させた場合においても効果を示す。
また、図1、3の説明においては10極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0027】
また、本発明の電気機械は、三相交流で駆動するため、1つのティースに2つの巻線を巻く場合、ティースの個数の2倍した巻線の総数が3で割り切れるように、nを1以上の整数として、ティースの個数を9n個としており、3で割り切れないティースの個数では成立しない。
【0028】
この発明の実施の形態1に係る回転電機等の電気機械は、9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び10n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線を巻回する構成としたので、電機子起磁力の高調波成分に対する巻線係数を低減することが可能となり、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルを低減できる。よって、根本的にトルクリップルを低減できる構造を有するため、電気機械の振動や騒音を低減することができる。
【0029】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る電気機械の構成を示す断面図である。以下の説明では、電気機械の例として、回転電機を例に挙げている。
この回転電機1は、電機子2と界磁極3が磁気的空隙を介して相対的に図示しないベアリング等の保持具により配置されている。
界磁極3は、界磁極鉄心4とこれに等間隔に固定された永久磁石5を有している。N極の永久磁石5とS極の永久磁石5を4対、計8個の磁極を有している。
【0030】
電機子2は、等間隔で配置された磁気的空隙長の方向に突出した9個のティース6が形成された電機子鉄心7と、この電機子鉄心7に集中的に巻回され且つスロット8に収容された巻線9とを有している。また、ティース6は、三相交流の同相が通電される複数の巻線9が巻回されているティース6と、又は異なる相の電流が通電される複数の巻線9が巻回されているティース6から構成される。
【0031】
図9は、巻線構造の一例を詳細に示すために、回転電機1の電機子2及び界磁極3を直線状に展開した断面図である。
電機子2には紙面に向かって左側から右に第1ティースから第9ティースが配置されており、第1ティースのコアバック10側にはV4−、空隙11側にはU1+、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはW5−、空隙11側にはU3+、第4ティースのコアバック10側にはU4−、空隙11側にはW1+、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはV5−、空隙11側にはW3+、第7ティースのコアバック10側にはW4−、空隙11側にはV1+、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック10側にはU5−、空隙11側にV3+の巻線9が巻回されている。
【0032】
ここで、各巻線9に付記する記号「+」と記号「−」は、巻極性が互いに逆であることを示している。また、同一ティースに巻回する2つの巻線9の配置順序は問わず、径方向の位置を逆に配置しても構わない。
【0033】
一方、8極9ティースの回転電機1における各ティースに、単一の巻線9を同じターン数で巻回した場合には、図10のように第1ティースにはU1+、第2ティースにはU2−、第3ティースにはU3+、第4ティースにはW1+、第5ティースにはW2−、第6ティースにはW3+、第7ティースにはV1+、第8ティースにはV2−、第9ティースにはV3+の巻線9が巻回される。但し、U+とU−は巻極性が互いに逆であることを示している。
【0034】
各ティースに単一の巻線9を同じターン数で巻回した場合の巻線構造の分布巻係数は、基本波に対しては約0.9598、第5次高調波に対しては約0.2176、第7次高調波に対しては約0.1774となる。これらの巻線に発生する高調波誘起電圧をベクトル図で表すと、第5次については図11、第7次については図12のようになる。なお、第11次高調波、第13次高調波の分布巻係数については、それぞれ第7次高調波、第5次高調波の分布巻係数と等しくなり、第17次高調波、第19次高調波の分布巻係数については、基本波の分布巻係数と等しくなる。
【0035】
図11又は図12の破線の周方向角度間隔は、磁極1個分の角度を180°とした場合の電気角で20°の位相角度のずれ量に相当する。また、図11又は図12のベクトル間の角度は、それぞれ各巻線に発生する5次又は7次の高調波誘起電圧間の、その電気角による位相角度のずれ量を表し、図11又は図12の各ベクトルの大きさは、それぞれ各巻線に発生する5次又は7次の高調波誘起電圧の振幅を表している。
【0036】
一方、この発明の実施の形態2に係る回転電機1では、巻線構造のN次高調波(N=2m+1,N≠3k,m及びkは1以上の整数である。)に対する分布巻係数は、例えばU相について巻線U1〜U5のターン数をa1〜a5(但し、a2はU21とU22の和である。)とした時、式(1)から求められる。
【0037】
【数2】

【0038】
尚、各ティースにおける巻線(例えばU1+とV4−などの場合)の合計ターン数を同一のTとし、且つ各相における巻線のうち同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースに関して位置的に対称な2つのティースに巻回された巻線(例えばU1とU3、U4とU5などの場合)を等しいターン数としている。これらの巻線に発生する高調波誘起電圧をベクトル図で表すと、第5次については図13、第7次については図14のようになる。なお、第11次高調波、第13次高調波の分布巻係数については、それぞれ第7次高調波、第5次高調波の分布巻係数と等しくなり、第17次高調波、第19次高調波の分布巻係数については、基本波の分布巻係数と等しくなる。
【0039】
図13又は図14の破線の周方向角度間隔、ベクトル間の角度、及びベクトルの大きさは、図11又は図12で説明したものと同様である。
【0040】
ここで、第5次高調波について、図11と図13を比較すると、巻線U4、U5を巻回することにより巻線(U21−/U22−)に発生する誘起電圧が打ち消され、誘起電圧の合成の絶対値が小さな方向に推移することがわかる。
式(1)からも、a1=a3=0.43Tとしたとき分布巻係数はほぼ0になり、単一の巻線を同じターン数で巻回した場合の分布巻係数0.2176よりも大きく低減することがわかる。
【0041】
また、第7次高調波についても、図12と図14を比較すると、巻線U4、U5を巻回することにより巻線(U21−/U22−)に発生する誘起電圧が打ち消され、さらに巻線U1、U3の誘起電圧が相対的に減少するため、誘起電圧の合成の絶対値が小さな方向に推移することがわかる。式(1)からも、a1=a3=0.28Tとしたとき分布巻係数はほぼ0になり、単一の巻線を同じターン数で巻回した場合の分布巻係数0.1774よりも大きく低減することがわかる。
【0042】
巻線係数は分布巻係数と短節巻係数の積で表され、短節巻係数は実施の形態2と各ティースに単一の巻線を同じターン数で巻回した場合では互いに等しい。従って、本実施の形態において電機子起磁力の高調波に対する巻線係数を低減することが可能となる。これにより、巻線係数第5次、7次高調波に起因するトルクリップルの電気角1周期の第6次成分と、巻線係数第11次、13次高調波に起因するトルクリップルの電気角1周期の第12次成分をほぼ比例して小さくすることができる。
【0043】
なお、本実施の形態2では各ティースに巻回された巻線のターン数を変化させた場合においても効果を示す。
また、図1、9の説明においては8極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、8n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0044】
また、本発明の電気機械は、三相交流で駆動するため、1つのティースに2つの巻線を巻く場合、ティースの個数の2倍した巻線の総数が3で割り切れるように、nを1以上の整数として、ティースの個数を9n個としており、3で割り切れないティースの個数では成立しない。
【0045】
この発明の実施の形態2に係る回転電機等の電気機械は、9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び8n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線が巻回されており、且つ、相が異なる2つの上記巻線が径方向に並ぶように巻回される基準とする上記ティースに対して隣接する一方の上記ティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の上記2つの巻線が径方向にずらされて巻回されており、且つ、相が同じ1つの巻線のみが巻回される上記ティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの上記巻線が巻回されている構成としたので、電機子起磁力の高調波成分に対する巻線係数を低減することが可能となり、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルを低減できる。よって、根本的にトルクリップルを低減できる構造を有するため、電気機械の振動や騒音を低減することができる。
【0046】
図17は、実施の形態2における各相の巻線に発生する基本波に対する誘起電圧のベクトル図を示す。
一般的にティースに巻回された巻線に鎖交する磁束は漏れ磁束の影響で巻線位置がコアバックに近づくほど大きくなるため、異なる相の電流が通電される複数の巻線がティースに巻回される場合、各相に鎖交する誘起電圧は不均一となる。
しかしながら、実施の形態2においては同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースを中心に対称に巻線を配置できるため、各相の巻線における空隙11側、もしくはコアバック10側に配置される巻線の巻数がすべて等しくなり、各相の巻線には等しい量の磁束が鎖交し、図17に示すように3相間において巻線に鎖交する誘起電圧のバランスが保たれる。
【0047】
なお、本実施の形態においては8極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、8n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0048】
実施の形態3.
実施の形態3においては、実施の形態1又は実施の形態2で示した巻線構造を有した電気機械において、U21とU22、V21とV22、W21とW22のそれぞれの合計ターン数をTとし、且つU4とU5、V4とV5、W4とW5のターン数をすべて0.28T以上、0.43T以下としている。
【0049】
図15は、実施の形態1又は実施の形態2の巻線構造において第1ティース〜第9ティースのそれぞれの合計ターン数をTとし、U5のターン数を変化させた場合における第5次高調波、第7次高調波に対する分布巻係数を示したグラフである。但し、各相における巻線のうち同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースに関して位置的に対称な2つのティースに巻回された巻線(例えばU1とU3、U4とU5などの場合)のターン数は等しいとする。
【0050】
図15から第5次高調波は0.43T、第7次高調波は0.28Tでほぼ0になることがわかる。従って、第5次高調波と第7次高調波、第11次高調波と第13次高調波各々に起因するトルクリップルの電気角1周期の第6次、第12次成分への影響を考えると、U5のターン数が0.28T以上0.43T以下のときトルクリップルが最小になると考えられる。
【0051】
図16は、U21とU22、V21とV22、W21とW22のそれぞれの合計ターン数がTとなるように巻回し、他のティースに巻回されている巻線の合計ターン数を0.889Tとして、U5のターン数を変化させた場合における、第5次高調波、第7次高調波に対する分布巻係数を示したグラフである。但し、各相における巻線のうち同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースに関して回転方向に対称な2つのティースに巻回された巻線(例えばU1とU3、U4とU5などの場合)のターン数は等しいとする。
【0052】
図16では、U5のターン数を0.349Tとした場合に第5次、第7次高調波に対する分布巻係数がほぼ0となり、トルクリップルは図15よりもさらに小さくなる。このU5のターン数は前述した0.28T以上0.43T以下という条件に含まれる。
従って、実施の形態3においては第5次高調波、第7次高調波、もしくはその両方に対する巻線係数がほぼ0となり、トルクリップルの電気角1周期の第6次、12次成分を最小化できる。
【0053】
本実施の形態においては、上記の実施の形態1又は実施の形態2と同様の効果が得られるとともに、さらに、相が同じ2つの巻線(U21とU22など)が合計ターン数がTとなるように巻回される同一の1つのティースから、周方向に2つ隣のティースにそれぞれ巻回される1つの巻線(U4、U5など)のターン数を、0.28T以上、0.43T以下としたので、第5次高調波、第7次高調波、もしくは、その両方に対する巻線係数がほぼ0となり、トルクリップルを最小とすることができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては10極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
また、巻線配置が同じで移動方向のみ逆となる8n極9nティースの回転電機でも上記と同様の効果が得られる。
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0055】
実施の形態4.
図3は、実施の形態4における巻線構造を示している。同図に示すように、各ティースについてコアバック10側と空隙11側に分けて2つの巻線を巻回し、第1ティースのコアバック10側にはV4−、空隙11側にはU1+、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはW5−、空隙11側にはU3+、第4ティースのコアバック10側にはU4−、空隙11側にはW1+、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはV5−、空隙11側にはW3+、第7ティースのコアバック10側にはW4−、空隙11側にはV1+、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック10側にはU5−、空隙11側にはV3+の巻線が巻回されている。また、U+とU−は巻極性が互いに逆であることを示している。
【0056】
本実施の形態においては、相が異なる2つの巻線(U3とW5など)が巻き回される隣り合ったティース同士において、同相の2つの巻線(U3とU4など)を径方向で互いにずらして巻き回し、かつ、同相の1つの巻線のみ(U21とU22など)が巻き回された1つのティースに対して、周方向に対称な位置に同相の他の4つの巻線(U3、U4とU1、U5など)を巻き回している。
【0057】
図17は、実施の形態4における各相の巻線に発生する基本波に対する誘起電圧のベクトル図を示す。
一般的にティースに巻回された巻線に鎖交する磁束は漏れ磁束の影響で巻線位置がコアバックに近づくほど大きくなるため、異なる相の電流が通電される複数の巻線がティースに巻回される場合、各相に鎖交する誘起電圧は不均一となる。
しかしながら、実施の形態4においては同相の1つの巻線のみ(U21とU22などの場合)が巻回されたティースを中心に対称に巻線を配置できるため、各相の巻線における空隙側、もしくはコアバック側に配置される巻線の巻数がすべて等しくなり、各相の巻線には等しい量の磁束が鎖交し、図17に示すように3相間において巻線に鎖交する誘起電圧のバランスが保たれる。
【0058】
なお、本実施の形態においては10極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0059】
以上のように、本実施の形態においては、相が異なる2つの巻線(U3とW5など)が径方向に並ぶように巻回される基準とするティースに対して隣接する一方のティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の2つの巻線(U3とU4など)が径方向にずらされて巻回され、且つ、相が同じ1つの巻線のみ(U21とU22など)が巻回される1つのティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの巻線(U3、U4とU1、U5など)が巻回される構成としたので、各相の巻線には等しい量の磁束が鎖交し、3相間において巻線に鎖交する誘起電圧のバランスが保たれるという効果が得られる。
【0060】
実施の形態5.
図18は、この発明の実施の形態5に係る巻線構造を示している。
図18に示すように、各ティースについてコアバック10側と空隙11側に分けて2つの巻線を巻回し、第1ティースのコアバック10側にはU1+、空隙11側にはV4−、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはU3+、空隙11側にはW5−、第4ティースのコアバック10側にはW1+、空隙11側にはU4−、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはW3+、空隙11側にはV5−、第7ティースのコアバック10側にはV1+、空隙11側にはW4−、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック10側にはV3+、空隙11側にはU5−の巻線が巻回されている。
【0061】
この実施の形態5では、隣接するティースに径方向で互いにずらされて巻回された相が同じ2つの巻線(U3とU4など)は、相が同じ1つの巻線のみ(U21とU22など)が巻回される1つのティースに隣接する方の同相の巻線(U3など)を、他方の同相の巻線(U4など)より、ティースのコアバックに近い側に巻回する構成にした。例えば、U1、U3などをコアバック10側に配置することにより、空隙側に配置した場合と比較してU1,U3などの鎖交磁束が大きくなり、誘起電圧を小さいターン数で発生できる。従って、スロット面積で制限されたターン数の中で、高調波低減に必要なU4、U5などのターン数を増加することができ、高調波を低減するターン数の選択範囲を拡大できる。これにより、基本波低減を抑えながら、高調波低減することができる。なお、上記ではU相の例のみを示したが、V相、W相についても同様となる。
【0062】
なお、この実施の形態5においては10極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
また、図19に示すように、巻線配置が同じで移動方向のみ逆となる8n極9nティースの回転電機でも上記と同様の効果が得られる。
また、この実施の形態5においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【0063】
実施の形態6.
この発明の実施の形態6に係る回転電機における巻線構造は、この発明の実施の形態5に係る回転電機における巻線構造と同様であるが、接続が異なる。
図18に示すように、各ティースについてコアバック側と空隙側に分けて2つの巻線を巻回し、第1ティースのコアバック10側にはU1+、空隙11側にはV4−、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはU3+、空隙11側にはW5−、第4ティースのコアバック10側にはW1+、空隙11側にはU4−、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはW3+、空隙11側にはV5−、第7ティースのコアバック10側にはV1+、空隙11側にはW4−、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック10側にはV3+、空隙11側にはU5−の巻線が巻回されている。なお、U+とU−は巻極性が互いに逆であることを示している。
また、図20に示すように、U1−U21−U3とU4−U22−U5がそれぞれ並列接続されている。なお、同様の接続を、V相、W相についても行う。
【0064】
図21は、この発明の実施の形態6に係る回転電機における各巻線の1次の誘起電圧のベクトル図である。図22は、図18における巻線を巻線群U1−U21−U3、巻線群U4−U22−U5のように接続した場合におけるそれぞれの誘起電圧のベクトル図を示している。
【0065】
図21の破線の周方向角度間隔は、磁極1個分の角度を180°とした場合の電気角で20°の位相角度のずれ量に相当する。また、図21のベクトル間の角度は、それぞれ各巻線に発生する1次の高調波誘起電圧間の、その電気角による位相角度のずれ量を表し、図21の各ベクトルの大きさは、それぞれ各巻線に発生する1次の高調波誘起電圧の振幅を表している。
【0066】
図22から分かるように、実施の形態6における巻線構造では、それぞれの巻線群の合成ベクトルの位相が同一となり、さらにU21の巻線とU22の巻線のターン数の比(U21/U22)が、式(2)となるように巻回しているため、それぞれの巻線群の電圧の振幅値が等しくなる。このような巻線群を並列接続しているため、並列接続時の巻線群間における循環電流を0にすることができる。
但し、実際にはモータのターン数が自然数であるため、式(2)の値に設定するのが困難な場合がある。その場合は、式(3)に設定することにより、上記に近い効果を得ることが可能となる。なお、上記ではU相の例のみを示したが、V相、W相についても同様となる。
【0067】
【数3】

【0068】
以上のように、本実施の形態においては、1つのティースに巻回される相が同じ2つの巻線(U21とU22など)の一方(U21など)と、隣接するティースにそれぞれ巻回される相が同じ2つの巻線(U1とU3)とを直列接続した同相の巻線群(U1−U21−U3など)と、1つのティースに巻回される相が同じ2つの巻線(U21とU22など)の他方(U22など)と、周方向に2つ隣のティースにそれぞれ巻回される相が同じ2つの巻線(U4とU5など)とを直列接続した同相の巻線群(U4−U22−U5など)とを、並列に接続し、且つ、一方の巻線(U21など)と他方の巻線(U22など)の巻線のターン数の比(U21/U22)を、上記の式(3)としたので、巻線群を並列接続した時の巻線群間における循環電流を0にすることができるという効果が得られる。
【0069】
なお、本実施の形態においては10極9ティースの回転電機で説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てに適用することが可能である。
また、図19に示すように、巻線配置が同じで移動方向のみ逆となる8n極9nティースの回転電機にも適用することができるとともに同様の効果が得られる。
また、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タにも適用することができるとともに同様の効果が得られる。
【0070】
実施の形態7.
電機子と界磁極が磁気的空隙を介して相対的にベアリング等の保持具により配置された図1の回転電機に関して、界磁極は界磁極鉄心及びN極の永久磁石とS極の永久磁石をそれぞれ5対、計10個の磁極を界磁極鉄心に等間隔に固定する製造工程により製造される。また、等間隔に配置された磁気的空隙長の方向に突出した9個のティースが形成された電機子鉄心と、この電機子鉄心に集中的に巻回されスロットに収容された巻線とを有す電機子を準備する。
【0071】
このような電機子は、三相交流の同相が通電される複数の巻線が巻回されているティース、又は異なる相の電流が通電される複数の巻線が巻回されているティースを構成し、回転電機の電機子、界磁極を直線状に展開した断面図(図3)において紙面左から右方向におけるティースを第1ティース〜第9ティースとしたとき、第1ティースのコアバック10側にはV4−、空隙11側にはU1+、第2ティースのコアバック10側にはU21−、空隙11側にはU22−、第3ティースのコアバック10側にはW5−、空隙11側にはU3+、第4ティースのコアバック10側にはU4−、空隙11側にはW1+、第5ティースのコアバック10側にはW21−、空隙11側にはW22−、第6ティースのコアバック10側にはV5−、空隙11側にはW3+、第7ティースのコアバック10側にはW4−、空隙11側にはV1+、第8ティースのコアバック10側にはV21−、空隙11側にはV22−、第9ティースのコアバック側10にはU5−、空隙11側にはV3+の巻線を巻回する製造工程から製造される。
【0072】
ここで、各巻線における記号「+」と記号「−」は、巻極性が互いに逆であることを示している。また、同一ティースに巻回する2つの巻線の配置順序は問わず、径方向の位置を逆に配置しても構わない。
【0073】
本実施の形態7における巻線構造の第N次高調波(N=2m+1,N≠3k,m及びkは1以上の整数である。)に対する分布巻係数の大きさは、例えばU相について巻線U1〜U5のターン数をa1〜a5(但し、a2はU21とU22の和である。)とした時、式(1)となる。
【0074】
但し、各ティースにおける巻線(例えばU1+とV4−等)の合計ターン数を同一のTとし、かつ各相における巻線のうち同相の1つの巻線のみ(U21とU22等)が巻回されたティースに関して回転方向に対称な2つのティースに巻回された巻線(例えばU1とU3、U4とU5)を等しいターン数(a1=a3,a4=a5)としている。
【0075】
式(1)で得られる分布巻係数が0になるように巻回された巻線は、第N次高調波に対する分布巻線係数が0となる。例えば、第5次高調波に対しては、a1=0.57×a2、a5=0.43×a2としたとき分布巻係数はほぼ0になる。巻線係数は分布巻係数と短節巻係数の積で表されるため、本実施の形態においてはa1〜a5を調整することにより電機子起磁力の高調波に対する巻線係数を0とすることが可能となる。
【0076】
このように、実施の形態7によれば、10n個(nは1以上の整数)の磁極を回転子に固定する工程と、同一のティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、分布巻係数の5次、7次、11次、13次を低減するように、9n個のティースを有する電機子鉄心の上記ティースの空間的な配列に従って、各ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21− /V22−)、 (V3+/U5−)の順序、又は該順序を繰返して、巻線を巻回する工程とを含む電気機械の製造方法としたので、電機子起磁力の第N次高調波成分に対する巻線係数を0とした電気機械を製造することが可能となり、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルが低減された電気機械を製造することが可能となる。
【0077】
なお、本実施の形態は各ティースに巻回された巻線のターン数を変化させた場合においても効果を示す。
また、本実施の形態においては10極9ティースの回転電機における製造方法の説明を行ったが、この極数とスロット数に限定するものではなく、nを1以上の整数として、10n極9nティースの回転電機全てにおいて用いることが可能である。
【0078】
また、上述の10n極9nティースの界磁極を製造する工程に代わって、界磁極を界磁極鉄心及びN極の永久磁石とS極の永久磁石をそれぞれ4対、計8個の磁極を界磁極鉄心に等間隔に固定する製造工程を用いることで得られる、巻線配置が同じで移動方向のみ逆となる8n極9nティースの回転電機でも、上記と同様の効果が得られる。
すなわち、実施の形態7を実施の形態2で説明した電気機械に適用して、8n個(nは1以上の整数)の磁極を回転子に固定する工程と、同一のティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、分布巻係数の5次、7次、11次、13次を低減するように、9n個のティースを有する電機子鉄心の上記ティースの空間的な配列に従って、各ティースに、(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21− /V22−)、(V3+/U5−)の順序、又は該順序を繰返して上記巻線を巻回し、且つ、相が異なる2つの上記巻線が径方向に並ぶように巻回される基準とする上記ティースに対して隣接する一方の上記ティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の上記2つの巻線が径方向にずらされて巻回し、且つ、相が同じ1つの巻線のみが巻回される上記ティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの上記巻線が巻回する工程とを含む電気機械の製造方法とした場合も、電機子起磁力の第N次高調波成分に対する巻線係数を0とした電気機械を製造することが可能となり、電機子起磁力の高調波成分に起因するトルクリップルが低減された電気機械を製造することが可能となる。
【0079】
さらに、本実施の形態においては回転電機を例とした説明を行ったが、直線状に対向する形で固定子と可動子が配置されているリニアモ−タについても上記と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0080】
1 回転電機、2 電機子、3 界磁極、4 界磁極鉄心、5 永久磁石、6 ティース、7 電機子鉄心、8 スロット、9 巻線、10 コアバック、11 空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び10n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、
同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、
(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線を巻回する
ことを特徴とする電気機械。
【請求項2】
相が異なる2つの上記巻線が径方向に並ぶように巻回される基準とする上記ティースに対して隣接する一方の上記ティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の上記2つの巻線が径方向にずらされて巻回され、且つ、相が同じ1つの巻線のみが巻回される上記ティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの上記巻線が巻回されることを特徴とする請求項1に記載の電気機械。
【請求項3】
9n(nは1以上の整数)個のティースを有する電機子及び8n個の磁極を有する界磁極からなる電気機械において、
同じ上記ティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の各相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、空間的配列に従って上記ティースに、
(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21−/V22−)、(V3+/U5−)の順序、または該順序を繰り返して上記巻線が巻回されており、
且つ、相が異なる2つの上記巻線が径方向に並ぶように巻回される基準とする上記ティースに対して隣接する一方の上記ティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の上記2つの巻線が径方向にずらされて巻回されており、
且つ、相が同じ1つの巻線のみが巻回される上記ティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの上記巻線が巻回されていることを特徴とする電気機械。
【請求項4】
上記隣接するティースに径方向で互いにずらされて巻回された相が同じ2つの上記巻線は、相が同じ1つの上記巻線のみが巻回される上記ティースに隣接する方の上記巻線を、他方の上記巻線より、上記ティースのコアバックに近い側に巻回することを特徴とする請求項2または3に記載の電気機械。
【請求項5】
相が同じ2つの巻線が合計ターン数がTとなるように巻回される1つの上記ティースから、周方向に2つ隣の上記ティースにそれぞれ巻回される1つの上記巻線のターン数を、0.28T以上、0.43T以下とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項6】
1つの上記ティースに巻回される相が同じ2つの上記巻線の一方と、隣接する上記ティースにそれぞれ巻回される相が同じ2つの巻線とを直列接続した同相の巻線群と、1つの上記ティースに巻回される相が同じ2つの上記巻線の他方と、周方向に2つ隣の上記ティースにそれぞれ巻回される相が同じ2つの上記巻線とを直列接続した同相の巻線群とを、並列に接続し、且つ、一方の上記巻線と他方の上記巻線のターン数の比を、
【数1】

としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項7】
10n個(nは1以上の整数)の磁極を回転子に固定する工程と、
同一のティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、分布巻係数の5次、7次、11次、13次を低減するように、9n個のティースを有する電機子鉄心の上記ティースの空間的な配列に従って、各ティースに、
(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21− /V22−)、 (V3+/U5−)の順序、又は該順序を繰返して上記巻線を巻回する工程と
を含むことを特徴とする電気機械の製造方法。
【請求項8】
8n個(nは1以上の整数)の磁極を回転子に固定する工程と、
同一のティースに巻回する2つの巻線を( / )で、三相交流の相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、分布巻係数の5次、7次、11次、13次を低減するように、9n個のティースを有する電機子鉄心の上記ティースの空間的な配列に従って、各ティースに、
(U1+/V4−)、(U21−/U22−)、(U3+/W5−)、(W1+/U4−)、(W21−/W22−)、(W3+/V5−)、(V1+/W4−)、(V21− /V22−)、 (V3+/U5−)の順序、又は該順序を繰返して上記巻線を巻回し、
且つ、相が異なる2つの上記巻線が径方向に並ぶように巻回される基準とする上記ティースに対して隣接する一方の上記ティースに、上記基準とするティースに巻回される上記2つの巻線と同じ相の上記2つの巻線が径方向にずらされて巻回し、
且つ、相が同じ1つの巻線のみが巻回される上記ティースを真ん中にして、周方向に対称な位置に相が同じ他の4つの上記巻線が巻回する工程と
を含むことを特徴とする電気機械の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−200127(P2012−200127A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187524(P2011−187524)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】