説明

電気機械変換装置

【課題】測定部の接触破損を防止し、かつ被接触物の表面を走査する際に発生する摩擦力などによる負荷を低減することができる超音波変換装置などの電気機械変換装置を提供する。
【解決手段】静電容量方式の超音波変換装置などである電気機械変換装置100は、被接触物108の表面に沿う様に走査して用いられる。電気機械変換装置100には、被接触物108に対向する側の主面の少なくとも一部に、被接触物108の表面との接触を緩和するための突出部を成すスペーサ107が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波変換装置などの電気機械変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機械変換装置の一種である超音波変換装置とは、超音波を送信或いは受信するために、電気信号を超音波信号に変換する、或いは超音波信号を電気信号に変換する物理量変換装置である。例えば、鉄鋼材や生体などの被測定物の内部を非侵襲で検査する超音波検査などの用途に用いられる。近年、半導体微細加工技術を応用して作製された静電容量方式の超音波変換装置(CMUT)が研究、開発されている。CMUTは軽量な振動膜を用いているので、従来の圧電方式の超音波変換装置(PMUT)と比較して、水中及び空気中でも優れた広帯域特性を有する。従来のCMUTの一例を、特許文献1に記載の基本構造を示す図8で説明する。この超音波変換装置200は、基板201、下部電極202、支持部203、空隙204、振動部205、上部電極206を有する。下部電極202及び支持部203は基板201の主面に配置され、上部電極206を有する振動部203は、支持部203によって基板201及び下部電極202との間に空隙204を介して振動可能に支持される。ここで主面とは、電気機械変換装置の各部における面のうち、被測定物又は被接触物に対向する側の面を指す。また、被測定物の電気機械変換装置の測定面と直接的又は間接的に接触する領域又は面を、被接触領域、被接触面という。以下、本明細書において同様な用い方をする。この超音波変換装置の動作原理を図9を用いて説明する。被測定物207から放射された超音波信号p(t)が振動部205に入射すると、振動部が超音波信号p(t)の波形に応じて振動する。このとき、下部電極202と上部電極206との間に直流電圧源208を用いてバイアス電圧Vbを印加しておくと、振動部205の振動に応じた電流信号i(t)が発生する。よって、この電流信号i(t)を計測することで超音波信号p(t)の波形を得られる。
【0003】
超音波変換装置を用いて被測定物の内部状態などを測定する際には、装置の測定面を被測定物の被接触面ないし領域に沿う様に超音波変換装置を走査することが一般的である。上述した様に、被接触物とは電気機械変換装置の測定面が直接的又は間接的に接触する測定対象となる物を指し、具体的には被測定物そのもの、或いは圧迫板などの中間構造体を指す。この様な用い方をする場合、接触による振動部の破損を防ぐために、超音波変換装置の測定面に露出している振動部を保護する必要がある。超音波変換装置の振動部を保護する手段の1つとしては、非特許文献1に見られる様に超音波変換装置の測定面全体にほぼ均一な厚さの保護層を設ける手段が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第698255号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Zhuang et.al.,J.Micromech.Microeng.,17,pp.994−1001,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波変換装置などの電気機械変換装置を被接触物の表面に直接的又は間接的に接触させて走査する際に、装置は被接触物の表面から摩擦力による負荷を受ける。電気機械変換装置を自動で走査する様な駆動装置を用いる場合、摩擦力を低減できれば、小出力の駆動装置を用いることができる。これにより、駆動装置の消費電力を低減できるため、初期コストやランニングコストを低減することができる。本発明は、超音波変換装置などの電気機械変換装置の測定部の接触破損を防止し、かつ被接触物の表面を走査する際に発生する摩擦力などによる負荷を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、被接触物の表面に沿う様に走査して用いる本発明の電気機械変換装置は、被接触物に対向する側の主面の少なくとも一部に、被接触物の表面との接触又は接触により振動膜が受ける力を緩和するためのスペーサが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記の如きスペーサが設けられているので、電気機械変換装置の測定部の接触破損を防止し、かつ被接触物の表面を走査する際に発生する摩擦力などによる負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電気機械変換装置の実施形態の上面及び断面を示す図。
【図2】実施形態におけるスペーサの高さに関する条件を説明する断面図。
【図3】実施形態におけるスペーサの配置位置と個数の一例を示す図。
【図4】走査時に電気機械変換装置にかかる外力を説明する断面図。
【図5】実施例1のスペーサの形状例を示す図。
【図6】実施例2のスペーサの先端部分における形状例などを示す図。
【図7】実施例3のスペーサの形状例などを示す図。
【図8】従来の超音波変換装置の一例の上面及び断面を示す図。
【図9】超音波変換装置の動作原理を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電気機械変換装置の特徴は、被接触物の表面に直接的又は間接的に接触させて走査する際に、被接触物の表面から受ける摩擦力などによる負荷を低減するために、被接触物の表面との間に余裕(一定の距離)を持たせる様にして接触を緩和するためのスペーサを設けることにある。こうした考え方に基づき、本発明の電気機械変換装置は、上記課題を解決するための手段のところで述べた様な基本的な構成を有する。摩擦力などによる負荷を低減して走査を行ない易くするという観点からは、スペーサは、どの様な方式(CMUT、磁性膜を用いるMMUT、圧電薄膜を用いるPMUTなど)の電気機械変換装置でも同様な効果を発揮する。他方、測定部の接触破損を防止するという観点からは、CMUTやMMUTなどの電気機械変換装置の様に、セルが空隙を有していて測定部が物理的に比較的弱い方式のものにおいて、スペーサは特に効果を発揮する。本発明において、電気機械変換装置の測定面が被測定物又は被接触物と間接的に接触するとは、電気機械変換装置の測定面と被測定物又は被接触物との間に所定の間隔を保って、気体、液体、又は固体からなる介在物を介在させて接触することをいう。介在物の一例としては、所定の圧力で導入又は封入された空気、ひまし油等の油、ジェル、保護膜等が挙げられる。
【0011】
以下、本発明の電気機械変換装置の実施形態を説明する。図1は、本発明の電気機械変換装置の実施形態である超音波変換装置の構造を示す。図1に示す様に、本実施形態の超音波変換装置100は、基板101と下部電極102、支持部103、空隙104、振動部105、上部電極106に加えて、支持部103の主面の少なくとも一部上に設けられた突出部を成すスペーサ107を有する。超音波変換装置100は、少なくとも1つのセルを含む。そして、このセルが、支持部103と、空隙104を介して対向して設けられた2つの電極102、106と、支持部によって2つの電極のうちの一方の電極(ここでは下部電極)の主面側に空隙を介して振動可能に支持された振動部105とで構成される。
【0012】
スペーサ107が対向する被接触物108(図4参照)は、平坦な表面形状を有しかつ剛性の高く、音響波の透過性が良好な材料からなる物であり、例えば、被測定物を一定の厚さの形状に圧迫する圧迫板などがこれに該当する。振動部105と被接触物108との衝突を防止ないし低減するために、スペーサ107の高さは、振動部104の主面上に存在する構造物の支持部103の主面(図2(a)、(b)の破線X1-X2、X3-X4)からの高さに比べて高くなる様に設定される。即ち、スペーサの先端面上の任意の点から支持部の主面を含む平面に下ろした垂線の長さの最大値が、振動部及び振動部の主面に設けられた構造物の主面上の任意の点から支持部の主面を含む平面に下ろした垂線の長さの最大値よりも長くなっている。
【0013】
例えば図2(a)においては、振動部105の被接触物に向かう方向への変位の最大値と振動部105の主面上に存在する上部電極106の高さとの和Haよりもスペーサ107の高さHsが高くなる様にスペーサ107が設けられている。また、図2(b)の様に、上部電極106を外部から電気的に絶縁するために上部電極106の主面に絶縁層109が設けられてもよい。この場合は、振動部105の被接触物に向かう方向への変位の最大値と上部電極106及び絶縁層109の高さとの和Hbよりもスペーサ107の高さHsが高くなる様にスペーサ107が設けられる。また、スペーサ107は、図3(a)、(b)の様に支持部103の主面のうち超音波変換装置の外周部にあたる部分に設けられたり、また複数個設けられたりしてもよい。複数個設ける際には、スペーサ107間での音響波の反射による音響波の乱れを避けるために、スペーサ107の配置間隔が、検出する超音波などの音響波の代表的な波長の半分の整数倍にならない様にするのが好適である。
【0014】
スペーサ107を設ける方法としては、例えば超音波変換装置100の測定面に、樹脂材料の層をスペーサの高さと同じ厚さに一様に形成した後に、スペーサ107を形成する部分以外の樹脂材料をエッチングなどの手法を用いて除去する方法がある。或いは、別個に作製しておいたスペーサ107を、超音波変換装置100の測定面に接着などの手法を用いて固定してもよい。突出部を成すスペーサの形状は、図1に図示の如き円筒形に限らず、種々のものであり得る。全体的に繋がった格子状の如き形態、走査方向に伸びた1つ或いは複数のリブ状の形態などでもよい。
【0015】
スペーサ107の存在により上述した本発明の効果が得られることを図4を用いて説明する。超音波変換装置100を走査する際には、測定面を被接触物108の表面に押し当てる様に接触させ、被接触物108の表面に沿って走査する。図4では、超音波変換装置100の測定面を被接触物108の表面に押し当てるために押し当て手段110を用いている。超音波変換装置100の測定面を被接触物108の表面に押し当てる力のうち、被接触物108の表面に垂直な方向の成分の大きさをFpとし、超音波変換装置100と被接触物108とが接触する部分の接触面積をSとする。このとき、走査時に超音波変換装置100が被接触物108から受ける摩擦力Frは以下の式(1)の様に表され、摩擦力Frが接触面積Sに比例することが分かる。
Fr=μ・Fp・S …(1)
ここで、μは超音波変換装置100の測定面と被接触物108との間の動摩擦係数である。この観点から見れば、摩擦力を減らすにはスペーサの表面積は小さいほうが良いので、円筒形の如き形態の方が、長く伸びたリブ状の如き形態よりは好ましいと言える。
【0016】
本実施形態の超音波変換装置100は、測定面の一部にスペーサ107を設けることで振動部104と被接触物108との衝突を防止ないし低減し、かつ被接触物108との接触面積Sを減少させている。これにより、超音波変換装置の測定面全体に保護膜を形成して保護膜の主面を被接触物に押し当てる公知の手法と比較して、摩擦力Frを減少させることができる。
【0017】
以下、図を用いてより具体的な実施例を説明するが、本発明の範囲は以下の構成に限定されるものではない。
《実施例1》
本発明の実施例1における電気機械変換装置の構造を、図5を用いて説明する。本実施例における電気機械変換装置では、図5(a)から(c)に示す様に、スペーサ107は、支持部103等の主面と繋がる部分の面積S1と比べて被接触物108と接触する接触面積S2が小さくなる様な形状を有する。具体的なスペーサ107の形状としては、図5(a)の様な円錐台の形状、図5(b)の様な多角錐台の形状などを採ることができる。また、図5(c)の様に、スペーサ107は、被接触物108に向かう方向に凸となった曲面をその先端部に有する様な形状であってもよい。これにより、スペーサ107と被接触物108との接触がより滑らかになり、摩擦力などによる負荷をより大きく減少させられる。
【0018】
本実施例により、電気機械変換装置と被接触物との接触面積を更に減少させることができるので、走査時に被接触対象から受ける摩擦力などによる負荷を更に減少させられる。
【0019】
《実施例2》
本発明の実施例2における電気機械変換装置の構造を、図6を用いて説明する。本実施例における電気機械変換装置では、図6(a)、(b)の様に、スペーサ107が、1軸回りに回転可能な回転体123を含む回転機構部120、或いは2軸回りに回転可能な回転機構部130をその先端部に有する構造となっている。または、図6(c)の様に、3軸回りに回転可能な球状体142を含む回転機構部140を有する構造となっている。
【0020】
1軸回転機構部120では、図6(a)の様に、スペーサ支持部121によって回転体123が軸122の中心線(一点鎖線Y1-Y2)を中心として回転できる様に支持されている。2軸回転機構部130では、図6(b)の様に、第2のスペーサ支持部131によって第1のスペーサ支持部133が第1の軸132の中心線(一点鎖線Y3-Y4)を中心として回転できる様に支持されている。更に、第1の支持部133によって回転体135が第2の軸134の中心線(一点鎖線Y5-Y6)を中心として回転できる様に支持されている。3軸回転機構部140では、図6(c)の様に、球殻の一部分を除去した形状を有するスペーサ支持部141の内部に球状体142が格納されている。球状体142は、その中心を通り互いに直交する3本の中心線(一点鎖線Y7-Y8、Y9-Y10、Y11-Y12)を回転中心として回転することができる。つまり、本実施例では、スペーサは、被接触物の表面と接触する部分に回転体を有し、この回転体は、少なくとも、走査の方向に対して垂直かつ走査の面に対して平行な軸を中心に回転可能である。
【0021】
上記回転機構部は、回転体とスペーサ支持部との間に生じる摩擦力が回転体と被接触物との間の摩擦力よりも小さくなる様に設けられている。走査時には、図5(d)の様にスペーサ107の先端部の回転体151を被接触物108に接触させて超音波変換装置100等の電気機械変換装置を走査する。このとき、回転体151は被接触物108との間に生じる摩擦力を受けて回転する。そして、走査時に被接触対象から受ける摩擦力の一部を回転機構部の回転運動に変換することができるので、走査時に被接触対象から受ける摩擦力の負荷を更に低減することができる。
【0022】
《実施例3》
本発明の実施例3における電気機械変換装置の構造を、図6を用いて説明する。本実施例における電気機械変換装置では、図7(a)、(b)の様に、スペーサ107の一部分である低剛性部111の剛性が、その他の部分の剛性よりも低くなっている。図7(a)の構造では、スペーサ107の低剛性部111の内部に空隙112が形成されている。図7(b)の構造では、スペーサ107の低剛性部111が他の部分よりもヤング率の低い材料で形成されている。ここで剛性とは、外部から印加された力に対する変形のし難さを表す。
【0023】
本実施例により、図7(c)の様に、被接触物108の表面に傷などによる凹凸が存在する場合でも、凹凸の高さHdが低剛性部111の高さHcよりも低ければ、次の様になる。即ち、低剛性部111が縮むことにより、被接触物108の表面に対する超音波変換装置100等の電気機械変換装置の測定面の姿勢を一定に保つことができる。これにより、被接触物108に対する電気機械変換装置の走査が行い易くなる。
【符号の説明】
【0024】
100…電気機械変換装置(超音波変換装置)、102、106…電極、103…支持部、104…空隙、105…振動部、107…スペーサ、108…被接触物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触物の表面に直接的又は間接的に接触させて用いる電気機械変換装置であって、
前記被接触物に対向する側の主面の少なくとも一部に、前記被接触物の表面との接触を緩和するためのスペーサが設けられていることを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項2】
少なくとも1つのセルを含み、
前記セルは、支持部と、空隙を介して対向して設けられた2つの電極と、前記支持部によって前記2つの電極のうちの一方の電極の主面側に前記空隙を介して振動可能に支持された振動部とを有し、
前記スペーサは、前記支持部の前記主面の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記スペーサは複数個設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気機械変換装置。
【請求項4】
前記スペーサの前記被接触物に対向する先端面上の点から前記支持部の主面を含む平面に下ろした垂線の長さの最大値が、前記振動部及び前記振動部の主面に設けられた構造物の主面上の点から前記支持部の主面を含む平面に下ろした垂線の最大値よりも長いことを特徴とする請求項2または3に記載の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記スペーサと前記被接触物の表面とが接触する面積が、前記スペーサと前記支持部の主面とが繋がる部分の面積より小さくなる様に構成されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の電気機械変換装置。
【請求項6】
前記スペーサは、前記被接触物の表面と接触する部分に回転体を有し、前記回転体は、少なくとも、前記走査の方向に対して垂直かつ前記走査の面に対して平行な軸を中心に回転可能であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電気機械変換装置。
【請求項7】
前記スペーサは、一部分の剛性が他の部分の剛性よりも低くなる様に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電気機械変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−259367(P2011−259367A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134116(P2010−134116)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】