説明

電気泳動顔料、それを製造するための方法、およびその使用

本発明は電気泳動顔料に関し、ここでその電気泳動顔料は少なくとも1種のコーティング組成物を用いてコーティングされた微小板状金属顔料であり、そのコーティング組成物は、(a)陽極電気泳動塗料バインダーの1種または複数のバインダー官能種、および(b)顔料表面に対して効果的に接着または結合するための1種または複数の官能基、および(c)15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価、を有している。本発明はさらに、前記電気泳動顔料を製造するための方法およびその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属効果顔料を含む陽極電気泳動塗料に関する。本発明はさらに、陽極電気泳動塗料を製造するための方法、ならびに電気泳動塗料または電気泳動塗装における微小板状(platelet−like)金属効果顔料の使用にも関する。本発明はさらに、電気泳動塗料の使用、およびコーティング物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動塗装(EPP)は、ある種の水溶性塗料、いわゆる電気泳動塗料を、導電性基材、たとえば加工物に適用するための方法である。塗料浴中に浸漬させた加工物と、対向電極との間に、DC電気電圧場を印加する。加工物を陽極または正極として結線する陽極沈着、いわゆる陽極電気泳動塗装(AEP)と、加工物を陰極または負極として結線する陰極沈着、いわゆる陰極電気泳動塗装(CEP)との間には区別がある。
【0003】
塗料バインダーには、特定の極性の官能基が含まれるが、それらは中和によって塩の形態で存在し、そのため、コロイド状で水の中に溶解されている。電極の近傍(拡散境界層の内側)では、加水分解によって、CEPでは水酸化物イオン、AEPでは水素イオンが生成する。それらのイオンがバインダーの塩と反応し、その官能化されたバインダーがそれらの塩の形態を失い(「塩析」)、その結果、それらが水不溶性となって、加工物の表面上に凝析する。プロセスが進行するに連れて、その凝析したバインダー粒子が電気浸透作用のために水分を失い、そのバインダー粒子がさらに一層圧縮される。最後に、加工物を電気泳動浴から取り出し、多段すすぎ法で未凝析の塗料粒子を落とし、150〜190℃の温度で焼付ける(Brock、Groteklaes、Mischke、“Lehrbuch der Lacktechnologie”、第2版、Vincentz Verlag、1998、p.288以下参照)。
【0004】
電気泳動塗装は、湿式塗料または粉体塗料を用いた塗装のような従来からの塗装手段よりも、いくつかの経済的およびエコロジー的な利点を有している。
【0005】
本明細書において記述するに価する主たる利点は、層の厚みを正確に調整できることである。粉体塗装とは対照的に、届きにくい加工物のポイントでも、電気泳動塗装によれば均一にコーティングされる。このことが起きるのは、次の事実があるからである:第一に、バインダーは、高い電界強度を有するポイント、たとえばコーナー部や端部に沈着する。しかしながら、形成されつつある膜は高い電気抵抗性を有している。そのために、流線がその加工物の他の領域にシフトし、そのコーティング手順が完了するころには、その加工物のもっとも届きにくい領域、たとえば、加工物の内側に存在する領域やポイントに完全に集中される(内部コーティング)。したがって、任意の形状を有している加工物であっても、それらが導電性でさえあれば、電気泳動塗装(EPP)によってコーティングすることが可能である。EPPはさらに、都合のよいことには、溶媒排出の最小化、物質収率の最適化、および不燃性などの性質に関連している。流れ(tear)や垂れ(sag)がまったくないコーティングが達成される。電気泳動塗装は自動化により実施でき、極めて経済的な塗装手段であるが、その理由は、特に、ほんの数mA/cmの低い電流密度の使用で実施できるからである。
【0006】
適用するための方法が単純かつ極めて経済的であるために、電気泳動塗装は現在では、数多くのシステムにおいて使用されている。最も広く使用されている用途を挙げれば、たとえば、大量生産における自動車を塗装するため、および単一層トップコーティングのためのプライマーである。電気泳動塗装はたとえば以下のものにおいて使用される:ラジエーター、制御用キャビネット(control cabinet)、オフィス家具、建築物、金物および家庭製品、倉庫工学および棚構成、空調および照明技術、装置および機械の製造。
【0007】
陽極電気泳動塗装(AEP)は、特別な用途および物質に使用される。それは、高い透明性を有する保護層を与える非鉄金属のトップ塗料コーティングおよび着色顔料を沈着させるために特に適している。焼付けることによって、極めて均質で、平滑で、耐蝕性の表面が得られる。それらの表面では、層の厚みにほとんど変化がない(エッジの盛り)。この理由から、複雑な幾何学的形状を有する物品もまた、この手段によって完全にコーティングすることが可能である。同様にして、陽極電気泳動塗装によって適用された塗料は、温度および老化に対する抵抗性の面で極めて良好なスコアが得られる。実質的に有機溶媒を含まないために、その環境受容性が、陽極電気泳動塗装の利点の決め手となっていて、それを、最も高効率で魅力的なコーティング方法としている。
【0008】
これまでに使用されてきた電気泳動塗料は水性塗料であって、バインダーとして、通常はエポキシ樹脂を含むが、まれにポリアクリレートも含まれる。電気泳動塗料には、慣用される有色顔料が含まれていてもよいが、そのようなものとしては通常、有機および無機の有色顔料が挙げられる。しかしながら、商業的に使用される色の範囲は、極めて限られる。今日まで、効果顔料が商業的規模では、電気泳動塗料において使用されることはなかった。
【0009】
DE199 60 693A1には、陽極電気泳動塗装のための方法が開示されており、それには、電気泳動塗料のバインダー固形分を基準にして、1〜15重量%の、1種または複数のリン酸エポキシエステルおよび/またはホスホン酸エポキシエステルが含まれている。DE199 60 693A1には、顔料たとえば、金属顔料もまた電気泳動塗料に添加することができると記載されている。しかしながら、DE199 60 693A1に開示された陽極電気泳動塗装方法に金属顔料を単に添加するだけでは、加工物の上に金属顔料を沈着させるには不十分であるということが見出された。
【0010】
EP0 477 433A1には、合成樹脂を用いてコーティングされた金属顔料が開示されていて、極めて薄いシロキサン層が、金属顔料の表面と合成樹脂層との間の接着促進剤として適用されている。しかしながら、それらの顔料は、そのままでは電気泳動塗装には使用することができない。さらに、この文献では、電気泳動塗装については言及されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、陽極電気泳動塗装プロセスにより加工物の上に塗料を沈着させることが可能な金属顔料を提供することである。
【0012】
金属顔料は、水性の電気泳動コーティングビヒクルに対して耐蝕性でなければならず、60日を超える浴時間(bath time)の後でも再現性よく沈着が可能でなければならない。それを用いて製造された電気泳動塗料コーティングは、好ましくは、その光学的品質において、粉体塗料コーティングのそれと等しい金属効果を有しているべきである。
【0013】
本発明のまた別な目的は、そのような金属効果顔料を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
その目的は、少なくとも1種のコーティング組成物を用いてコーティングされた微小板状金属顔料である電気泳動顔料を提供することにより達成され、そのコーティング組成物は、
(a)陽極電気泳動塗料バインダーの1種または複数のバインダー官能種、および
(b)顔料表面に対して効果的に接着または結合するための1種または複数の官能基、および
(c)15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価、
を有している。
【0015】
電気泳動顔料の好適な変形は、従属請求項1〜12において定義される。
【0016】
その目的はさらに、請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気泳動顔料を製造するための方法を提供することにより達成されるが、前記方法には以下の工程が含まれる:
(a)溶媒中に溶解または分散されたコーティング組成物を用いて金属顔料をコーティングする工程、
(b)場合によっては、工程(a)においてコーティング組成物を用いてコーティングされた金属顔料を乾燥させる工程、
(c)場合によっては、工程(b)において乾燥された金属顔料に手を加えてペーストとする工程、
(d)場合によっては、工程(a)または工程(c)において得られた金属顔料を中和する工程。
【0017】
本発明の方法のその他の展開は、従属請求項14において定義される。
【0018】
本発明の目的はさらに、電気泳動塗料における、または電気泳動塗装のための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気泳動顔料の使用によって達成される。
【0019】
金属顔料は、アルミニウム、銅、亜鉛、黄銅、鉄、チタン、クロム、ニッケル、鋼、銀、ならびにそれらの合金およびそれらの混合物からなる群より選択される金属または合金からなるのがよい。この場合に好ましいのは、アルミニウム顔料、さらには黄銅顔料であるが、アルミニウム顔料が特に好ましい。
【0020】
それらの金属顔料は、いずれの場合においても、微小板状の性質を有している。このことは、それらの平均した長さ(longitudinal extent)が、それらの平均した厚みの、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍であるような、顔料として理解されたい。本発明の目的においては、「金属顔料」という用語は常に、微小板状金属顔料を指している。
【0021】
電気泳動塗料に使用される金属顔料は、レーザーグラニュロメトリー(Cilas 1064、Cilas製)により球と等価として求められ、対応する累積粒度分布曲線のd50値として表される平均した長さを有している。それらのd50値の範囲は、4〜35μm、好ましくは5〜25μmである。驚くべきことには、d50値が100μmを超えるような極めて大きな顔料粒子を沈着させることは、実質的に不可能であるということが判明した。大きな粒子の場合には、その移動および沈着がかなり制限されることは明らかである。そのような粗い顔料分布では、約100μm未満の画分(細粒部分)のみが沈着する。しかしながら、このことによって、元々使用された粒子に比較すると、沈着した粒子の粒径と粒径分布がかなり小さくなる。この理由から、粒子が細かい方が好ましい。約4μm〜35μmの範囲のd50値では、本発明の顔料は、その粒径分布の全体が容易に沈着する。さらに、2μm〜35μmの範囲の粒径では、顔料が60日を超える浴時間または浴安定性を達成可能とする。4μm未満のd50を有する粒子では、細かすぎて魅力ある視覚効果が得られない。その他の影響としては、微細な顔料では極めて比表面積が高いために、そのような場合の水性電気泳動塗料媒体においては、場合によってはガス発生の問題が起こりうる。
【0022】
その一方で、本発明の金属顔料の平均厚みは、40〜5,000nm、好ましくは65〜800nm、より好ましくは250〜500nmである。
【0023】
電気泳動塗料は、いずれの場合も水性システムである。この理由から、電気泳動塗料の中に存在する金属顔料は、その金属顔料に対する水の腐蝕作用に対抗するために、保護層を有していなければならない。さらにそれらは、電場における十分な電気泳動による移動性を有するために、適切な表面電荷を有していなければならない。
【0024】
驚くべきことには、陽極電気泳動バインダーのバインダー官能種、顔料表面に対して効果的に接着または結合するための1種または複数の官能基、および15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価を有する有機コーティング組成物を用いて金属顔料をコーティングすると、これらの要件が満たされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の目的においては、「バインダー官能基(binder functionalities)」という用語は、陽極電気泳動塗料のバインダーを特徴づけるような官能基を意味している。
【0026】
本発明の目的においては、「接着(adhesion)」という用語は、非共有結合的相互作用、たとえば疎水性相互作用、水素結合、イオン性相互作用、ファンデルワールス力などを意味していて、顔料の表面上にコーティング組成物を固定化させる。
【0027】
「結合(binding)」という用語は、本発明の目的においては、共有結合を意味していて、これが、顔料の表面上にコーティング組成物を共有結合的に固定化させる。
【0028】
本発明の好適な展開においては、その金属顔料は、電気泳動塗料にとって好適なバインダー官能基を含む少なくとも1種のコーティング組成物を用いて処理された、リーフィング金属顔料および/または合成樹脂層を用いてコーティングされた金属顔料である。
【0029】
リーフィング金属顔料とは、それらの表面化学的な性質が周囲のバインダーとは相容れないために、バインダーの表面上または表面に近いところに累積した金属顔料である。従来技術において公知のすべてのリーフィング金属顔料が使用可能である。それらは、10〜30個の炭素を含む好ましくは飽和の脂肪酸を用いて摩砕および/または最終的に研磨された金属顔料であるのが好ましい。それらの脂肪酸は直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。リーフィング顔料は、ステアリン酸および/またはパルミチン酸を用いて摩砕および/または最終的に研磨されているのが好ましい。使用されるステアリン酸およびパルミチン酸は工業的グレードであってよく、すなわちそれらには、より高いおよび/またはより低い脂肪酸同族体が少量含まれていてもよい。
【0030】
さらに、リーフィング金属顔料は、アルキル鎖を有する添加剤を用いて処理された金属顔料であってもよい。その例としては、デシルホスホン酸またはアルキルアルコールリン酸エステルたとえば、Zschimmer & Schwarz GmbH & Co(Max−Schwarz−Str.3−5、D−56112 Lahnstein/Rhine)によって供給される、製品FB7234/Sが挙げられる。
【0031】
リーフィング性を有するアルミニウム顔料の例としては、Eckartから供給されるリーフィングHydroxalシリーズおよび、Silberline、USAから供給されるリーフィングSilver Dollar EBP251などが挙げられる。
【0032】
驚くべきことには、リーフィング金属顔料をベースとする本発明の金属顔料を使用すると、電気泳動塗装をした後には、同様のリーフィング効果を有する塗料の極端に輝度の高い金属コーティングと同様のものが得られる。
【0033】
しかしながら、特に驚くべきことは、これらのリーフィング金属顔料が塗料層の内部に恒久的に組み込まれていて、摩耗の影響を受けないという事実である。これは、リーフィング金属顔料をたとえば粉体塗料に使用した場合に、ある程度の信頼性を持って実現することがこれまで不可能であった。
【0034】
合成樹脂を用いてコーティングされた金属顔料には、ポリマーのコーティングが含まれる。それらのポリマーは、モノマーを出発原料として金属顔料の上で重合させたものである。そのような合成樹脂としては、アクリレート、メタクリレート、エステルおよび/またはウレタンが挙げられる。好ましい実施態様においては、コーティングされた金属顔料は、少なくとも1種のメタクリレートおよび/またはアクリレートを用いてコーティングされている。EP0 477 433A1の教示に従って製造されたような金属顔料が、特に好ましい(この特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。そのような顔料には、金属顔料と合成樹脂コーティングとの間に有機官能性シランが含まれていて、それが接着促進剤として機能する。好ましくはポリ架橋されたアクリレートおよび/またはメタクリレートを含むコーティングが好ましい。そのようなコーティングはすでに、電気泳動塗料の水性媒体からの保護を、完全に信頼がおける程ではないが、ある程度までは与えている。類似の顔料が、DE36 30 356C2に記載されているが、エチレン性不飽和モノ−またはジ−カルボン酸エステルおよび/またはモノ−またはジ−リン酸エステルが接着促進剤として機能している点で異なっている。
【0035】
そのような架橋剤の例としては以下のものが挙げられる:テトラエチレングリコールジアクリレート(TEGDA)、トリエチレングリコールジアクリレート(TIEGDA)、ポリエチレングリコール400ジアクリレート(PEG400DA)、2,2’−ビス(4−アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TRGDMA)、テトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ブチルジグリコールメタクリレート(BDGMA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、1,3−ブタンジオールジメタクリレート(1,3−BDDMA)、1,4−ブタンジオールジメタクリレート(1,4−BDDMA)、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(1,6−HDMA)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(1,6−HDDA)、1,12−ドデカンジオールジメタクリレート(1,12−DDDMA)、ネオペンチル−グリコールジメタクリレート(NPGDMA)。トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)が特に好ましい。これらの化合物は、Elf Atochem Deutschland GmbH、D−40474 Duesseldorf GermanyまたはRohm & Haas、In der Kron 4、60489 Frankfort−on−Main、Germanyから市販されている。
【0036】
その合成樹脂コーティングの厚みは、好ましくは2〜50nm、より好ましくは4〜30nm、最も好ましくは5〜20nmである。未コーティングの金属顔料の重量を基準にした合成樹脂の含量は、個々には金属顔料の粒径に依存するが、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜15重量%、最も好ましくは2.5〜10重量%である。
【0037】
合成樹脂層が形成された後、コーティング組成物を金属顔料に適用する。その合成樹脂層で顔料を完全に包み込むことが可能である。しかしながら、それが顔料を不完全に取り囲んでいたり、クラックがあったりしてもよい。陽極電気泳動塗料バインダーのバインダー官能基を有するコーティング組成物を使用することによって、金属顔料の上でのそのようなクラックや不完全なコーティングが原因となりうる、腐食サイトが発生する可能性を防止することが可能となる。特にそのコーティング組成物がメタリック顔料の表面に結合する場合には、それが、合成樹脂コーティングの中のギャップやクラックの中に浸透して、必要とされる耐蝕性を与えることが可能である。合成樹脂でコーティングしただけで、コーティング組成物で処理していない金属顔料は、陽極電気泳動塗装においては有効でない。
【0038】
電気泳動塗装の間に、電気泳動塗料に添加された慣用される有色顔料が、加工物の上に、多かれ少なかれランダムな過程で沈着する。沈着の際には、電気泳動塗料は常に激しく撹拌しておく。この手段(対流)によって、物質の加工物への輸送が実質的に起きる。電場の中での荷電されたバインダー粒子の電気泳動的な移動は、ネルンスト(Nernst)拡散層が形成されるとその内側だけで起きる。沈着浴の中の有色顔料の濃度は極めて高い(約10重量%)。それらの有色顔料は、バインダーの沈着に同伴される。電場においては、有色顔料の電気泳動的な移動は起きない。
【0039】
金属顔料自体は、電気泳動塗料の中で使用することはできない。それらが、適切な保護層、たとえば金属酸化物または合成樹脂によって電気泳動塗料の水性媒体に対する耐蝕性を有していたとしても、それらはまったく沈着しないか、あるいは、(浴安定性が不十分なために)数時間または数日続く初期の沈着段階の後ではもはや沈着しなくなるかのいずれかである。
【0040】
驚くべきことには、本発明の金属顔料は、陽極電気泳動塗料中において長期間にわたって信頼性をもって沈着させることが可能であって、その電気泳動塗料が60日を超える浴安定性を有していることが、今や見出された。陽極電気泳動塗料の中に存在する本発明の金属顔料は、場合によっては、60日後、好ましくは90日後でも、加工物の上になお信頼性をもって沈着する。
【0041】
この場合のコーティング組成物は、陽極電気泳動塗料のための適切あるいは典型的なバインダー官能性を示し、15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価を有している。
【0042】
本発明の金属顔料は、それらの表面上に、荷電された官能基または電荷を生成する官能基を有していると考えられる。本発明の電気泳動顔料は、好ましくは、表面上で負に荷電される。コーティング組成物が、それぞれの電気泳動塗料において使用される単一または複数のバインダーの官能性に相当する官能性を示すのが好ましい。顔料表面に接着するかまたは結合している官能基が、酸性であるかまたは負に荷電していることもまた好ましい。本発明の金属顔料の表面はこのように、電気泳動塗料のバインダーに化学的に適合されているものと考えられる。このことによって、一方では電場の中の金属顔料が電気泳動的に移動し、もう一方では、電気泳動塗料の沈着メカニズムにかかわることが可能となる。
【0043】
本発明の電気泳動顔料において使用されるコーティング組成物は、陽極的に沈着させることができるのが好ましい。
【0044】
その化学的な性質から、そのコーティング組成物は、添加剤またはバインダーまたはバインダー成分などであってよい。バインダー官能種は、重合されたポリエポキシド、エポキシ樹脂エステル、変性ポリエポキシド、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート/−メタクリレート、メラミン樹脂、マレエート、マレエートオイル、マレイン化ポリブタジエン樹脂、およびそれらの混合物、からなる群より選択されてよい。コーティング組成物が少なくとも3個、たとえば4個、5個、6個またはそれ以上のバインダー官能基を有しているのが好ましいが、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
したがって、たとえばポリエステルを使用してもよい。しかしながら、後者は、陽極電気泳動塗料のための、金属顔料表面に対する結合に作用する官能基として役立つ、好ましくは非エステル化カルボキシル基もしくはポリオール基を含む。
【0046】
さらに、そのコーティング組成物は、たとえば、完全に重合されたエポキシ単位を含んでいてもよい。これは、ポリエーテル単位、さらにはポリマー化学的にエポキシドと反応させたフェノールまたはビスフェノールをベースとする樹脂を意味していると理解されたい。
【0047】
コーティング組成物にはさらに、顔料表面への接着および/または結合を起こさせるか、または起こさせることが可能な官能基を含む。この場合、その顔料表面は金属顔料表面そのものであってもよい。しかしながら、それとは別に、(1種または複数の)脂肪酸または合成樹脂を用いてコーティングされた金属顔料表面であってもよい。このようにして、コーティング組成物を金属顔料に対して、信頼性をもってかつ十分につなぎとめることが可能である。そのような官能基としては、たとえば、ホスホン酸、ホスホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、カルボキシレート、スルホネート、および/またはポリオールなどが挙げられる。
【0048】
そのような官能化されたコーティング組成物は、水性電気泳動塗料中における金属顔料の腐蝕安定性に寄与する。驚くべきことには、ガス発生、たとえばリーフィングアルミニウム顔料からの水素の発生もまた、効果的に抑制することができる。
【0049】
本発明の金属顔料のコーティング組成物はさらに、15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価を有していなければならない。このために必要な酸基は、顔料表面への接着または結合を起こすか、あるいは起こすことが可能な官能基由来であってもよい。
【0050】
それらの酸基はおそらく、本発明の電気泳動顔料に十分な負の表面電荷を付与して、一方では、電気泳動塗料の主とする水性媒体の中に十分に分散させると共に、もう一方では、陽極電気泳動コーティング条件下においては、電場の中を電気泳動的に移動する(移行するとも言える)ことを可能として、最終的には、先に詳しく説明したメカニズムにより、陽極におけるネルンスト(Nernst)拡散層の内側での沈着メカニズムにかかわることが可能となる。
【0051】
コーティング組成物の酸価は、好ましくは17〜150mgKOH/g−コーティング組成物、より好ましくは20〜100mgKOH/g−コーティング組成物である。
【0052】
酸価が15mgKOH/g−コーティング組成物よりも低いコーティング組成物は、不適切であることが見出された。
【0053】
コーティング組成物の酸価は、標準DIN EN ISO3682の規定に従って求めることができる。
【0054】
コーティング組成物は、当業者に公知の適切な取り出し法によって少なくとも部分的に予め金属顔料から剥がして、単離、再計量し、一般的に使用される分析法により分析をすることができる。
【0055】
本発明の電気泳動顔料のためのコーティング組成物としては、変性エステル樹脂を使用するのが好ましい。変性ポリエステル樹脂、さらにはポリオール変性ポリエステル樹脂が特に好ましい。その一例は、製品Setal L 6306 SS−60(Akzo Nobel製)である。これは、酸価が約20mgKOH/g、ヒドロキシル含量が2.7%のポリオール変性ポリエステルである。
【0056】
変性エポキシ樹脂および/またはアクリレート樹脂もまた、本発明の電気泳動顔料のためのコーティング組成物としては好ましい。リン酸誘導体、リン酸エステル誘導体、ホスホン酸誘導体および/またはホスホン酸エステル誘導体またはそれらの混合物を用いて変性させたエポキシ樹脂が好ましい。そのような基は明らかに十分な負の電荷を有しており、その上、特にアルミニウム顔料の場合には、ガス発生に対する安定性を改良する。Resydrolシリーズの製品(Akzo Nobel製、またはCytec、Graz、Austria製)が、エポキシ樹脂変性および/またはアクリレート樹脂変性リン酸エステルとしてのコーティング組成物に極めて適していることが見出された。
【0057】
コーティング組成物は、未コーティングの金属顔料の重量を基準にして1〜200重量%の範囲の量で使用するのが好ましい。1%未満の量で使用すると、それらの効果が低すぎて、特に60日の浴時間後では、金属顔料がもはや信頼性をもって沈着しなくなる。200重量%を超える量で使用すると、不必要に多い量のコーティング組成物が使用されることになる。電気泳動塗料の中には適切な量の金属顔料を組み入れなければならない。その場合、電気泳動塗料の性質にその過剰量のコーティング組成物が悪影響を及ぼす可能性がある。コーティング組成物は、常に未コーティングの金属顔料の重量を基準にして、好ましくは10〜150重量%、より好ましくは20〜100重量%、極めて好ましくは30〜70重量%の範囲の量で使用する。これらの数値はいずれの場合も、コーティング組成物そのものを指していて、コーティング組成物が商業的な貯蔵形態で製造された際に含まれている可能性がある溶媒は一切含まない。
【0058】
コーティング組成物が金属顔料を完全に包み込んでいてもよいが、必ずそうでなければならないということではない。
【0059】
本発明のまた別な実施態様においては、陽極電気泳動塗装中でバインダーとして使用されるバインダーが金属顔料のためのコーティング組成物として使用される。しかしながらこの場合、そのバインダーは、効果顔料に対して適切な形で、恒久的に接着または結合するために、上述の官能基を有していなければならないが、その理由は、そうでないと、そのコーティングが金属顔料から剥離して、最終的には水性電気泳動塗料の中で剥がれてしまう可能性があるからである。そのような結合は、別な方法として、適切であれば、他の適切なバインダー、たとえば、有機官能性シランまたは効果顔料のための接着性基を備えた変性バインダーを使用することにより得ることもできる。
【0060】
陽極電気泳動塗料に適したバインダーの酸価は、好ましくは15〜300mgKOH/g、より好ましくは25〜160mgKOH/g−バインダー、極めて好ましくは50〜130mgKOH/g−バインダーである。それらのバインダーのヒドロキシル価は、好ましくは0〜160mgKOH/g−バインダー、より好ましくは30〜100mgKOH/g−バインダーである。
【0061】
次に示すような樹脂が陽極電気泳動塗料には好適である:ポリアクリレート樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂エステル、変性エポキシ樹脂、およびシリコーン樹脂。さらに、それらの官能種を組み合わせたもの、たとえば、ウレタン化ポリエステル樹脂、アクリレート化ポリエステル樹脂もしくはポリウレタン樹脂、ポリオール変性ポリエステル、マレイン化オイル、またはマレイン化ポリブタジエン樹脂が適している。
【0062】
金属顔料をコーティング組成物に結合させるために、式RSi(OR’)(4−z)の有機官能性シランを使用してもよい。ここでRは有機官能基であり、R’は1〜6個の炭素を含むアルキル基であり、zは1〜3の整数である。
【0063】
R’は、好ましくはエチルまたはメチルであり、Rは官能基として好ましくはアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、イソシアナト基、水酸基、カルボキシル基、チオール基、シアノ基、またはウレイド基を含む。
【0064】
そのようなシランは市販されている。たとえば、そのようなものとしては、Degussa、Rheinfelden、Germanyにより製造され、“Dynasylan”(登録商標)の商品名で市販されているもの、あるいは、OSi Specialtiesにより供給されるSilquest(登録商標)シラン、またはWacker、Burghausen、Germanyにより供給されるGENOSIL(登録商標)などの多くの代表的な製品が挙げられる。
【0065】
それらの例としては以下のものが挙げられる:3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(Dynasylan MEMO、Silquest A−174NT)、ビニルトリメトキシ[またはエトキシ]シラン(それぞれ、Dynasylan VTMOおよびVTEO、Silquest A−151およびA−171)、3−メルカプトプロピルトリメトキシ[またはエトキシ]シラン(Dynasylan MTMOもしくは3201;Silquest A−189)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Dynasylan GLYMO、Silquest A−187)、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(Silquest Y−11597)、ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(Silquest A−189)、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド(Silquest A−1289)、ビス(3−トリエトキシシリル)ジスルフィド(Silquest A−1589)、ベータ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(Silquest A−186)、ガンマ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(Silquest A−Link35、Genosil GF40)、(メタクリルオキシメチル)トリメトキシシラン(Genosil XL33)、(イソシアナトメチル)トリメトキシシラン(Genosil XL43)。
【0066】
シランの官能基を、コーティング組成物の化学的に相補的な基と反応させて、その有機官能性シランとコーティング組成物との間で共有結合を生成させるようにしなければならない。
【0067】
本発明の金属顔料を製造するための方法には、コーティング組成物を用いて金属顔料をコーティングすることが含まれる。それには次の工程が含まれる:
(a)溶媒中に溶解または分散されたコーティング組成物を用いて金属顔料をコーティングする工程、
(b)場合によっては、工程(a)においてコーティング組成物を用いてコーティングされた金属顔料を乾燥させる工程、
(c)場合によっては、工程(b)において乾燥された金属顔料に手を加えてペーストとする工程、
(d)場合によっては、工程(a)または工程(c)において得られた金属顔料を中和する工程。
【0068】
コーティングは、各種の方法を用いて適用することができる。たとえば、金属顔料を、たとえば、有機溶媒中、もしくは有機溶媒と水との混合物中のペーストの形態でミキサーまたはニーダーに入れる。次いでコーティング組成物を加え、少なくとも5分間かけて金属顔料に作用させる。そのコーティング組成物は、溶液または分散体の形態で添加するのが好ましい。それは水溶液であってもよいし、あるいはほぼ完全に有機溶液であってもよい。
【0069】
さらに、金属顔料をまず溶媒中に分散させてもよい。次いで、撹拌しながらコーティング組成物を加える。コーティング組成物を溶解させる溶媒は、好ましくは、その金属顔料を分散させた溶媒と混和性があるようにするべきである。必要があれば、溶媒(混合物)の沸点までの高温を使用してもよい。しかしながら、コーティング組成物を効果的に金属顔料にコーティングさせるには、通常は室温で十分である。
【0070】
その後で、顔料を溶媒から分離し、乾燥させて粉体とするか、および/または必要に応じて他の溶媒中でペーストに加工する。水、アルコールたとえば、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはグリコールたとえば、ブチルグリコールが適切である。その溶媒は水と混和性を有しているべきである。本発明の顔料は、ペーストまたは粉体の形態で商品とする。そのペーストの非揮発性成分含量は、全ペーストを基準にして30〜70重量%である。そのペーストは、好ましくは40〜60重量%、より好ましくは45〜55重量%の非揮発性成分含量を有する。
【0071】
ペーストの形態は、本発明の電気泳動顔料のダストフリーで均質な貯蔵形態であるのが好ましい。本発明の電気泳動顔料はさらに、ダストフリーで均質な形態、たとえばペレット、ソーセージ形状の押出し物、タブレット、ブリケット、あるいは造粒物などで存在させてもよい。上述の貯蔵形態は、当業者に公知の方法により、ペレット成形、押出し成形、タブレット成形、ブリケット成形、造粒成形などで製造することが可能である。それらのコンパクト化された貯蔵形態からは溶媒は実質的に除去される。残存溶媒含量は通常、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは0.5〜5重量%の間である。
【0072】
そのコーティング組成物は、中和または部分的に中和した形態で存在させてから、金属顔料に適用してもよい。しかしながら、別な方法として、コーティングプロセスより後で中和させてもよい。中和/部分中和は、電気泳動塗料のpHを調節するときに実施することもできる。
【0073】
その酸官能基を中和させるには、通常の塩基が適している。その例としては以下のものが挙げられる:NaOH、KOH、アンモニア、LiOH、アミンたとえば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、エチレンジアミンもしくはアルカノールアミンたとえば、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノ−2−メチルプロパノールもしくはトリメチルエタノールアミン、または各種の塩基の混合物。コーティング組成物を用いてコーティングされた金属顔料の酸基の少なくとも25%、好ましくは40%を、中和された形態で存在させるに十分な塩基を使用するべきである。この場合、金属顔料そのものに由来する官能基は酸基としてカウントする。それらはたとえば、合成樹脂を用いてコーティングされた金属顔料の場合であればアクリル酸官能基であるし、出発顔料としてリーフィング金属顔料を用いた場合であればステアリン酸であってよい。
【0074】
コーティング組成物を溶液または分散体として、ガス流れの中を移動している金属顔料に適用することにより、工程(a)および(b)を組み合わせて一つの工程としてもよい。
【0075】
特に、そのコーティング組成物が陽極電気泳動塗料バインダーであるような場合には、本発明の電気泳動顔料は以下の工程を含む方法により製造することができる:
(a)有機溶媒中で、電気泳動塗料に適したバインダーの溶液または分散体を生成させる工程、
(b)そのバインダーを用いて、
i)金属顔料を(a)の溶液または分散体の中に分散させてからスプレーするか、または
ii)(a)の溶液または分散体をガス流中乱流状態の金属顔料の上にスプレーすることにより、金属顔料をコーティングする工程、
(c)場合によっては、移動ガス流れ中でそのバインダーでコーティングされた金属顔料を乾燥させる工程、
(d)場合によっては、水および/または有機溶媒中でその顔料を加工してペーストとする工程、
(e)場合によっては、塩基を用いてその混合物を中和させる工程。
【0076】
この場合、中和工程および顔料のペーストへの加工工程は、先に説明した方法で実施することができる。
【0077】
工程(b)および(c)を組み合わせて、スプレー乾燥機の中でスプレーと乾燥とを実施する単一の方法工程とすることも可能である。この場合、アセトンおよび/または酢酸エチルのような揮発性の高い溶媒を使用するのが好ましい。
【0078】
本発明の電気泳動顔料は、陽極電気泳動塗料中、もしくは電気泳動塗装において使用することができる。
【0079】
以下の実施例において本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲がそれらの例によって限定される訳ではない。
【0080】
本発明実施例1:
9gのPCA214(有機ポリマーを用いてコーティングされ、32μmのd50を有する、アルミニウム顔料;Eckart GmbH & Co.KG製)のペーストの80gを、80gのブチルグリコールと混合して、均質な顔料ペーストを形成させる。次いで、40gのSETAL 6306 SS−60(ポリオール変性ポリエステル、Akzo Nobel、P.O.Box 79、4600AB Bergen op Zoom、Netherlands製)を撹拌しながら添加する。その顔料ペーストを一夜静置する。
【0081】
本発明実施例2:
実施例1と同様にして電気泳動塗料を製造するが、ただし18μmの平均粒径d50を有するアルミニウム効果顔料であるPCA9155(Eckart GmbH & Co.KG、Fuerth、Germany製)を使用する。
【0082】
本発明実施例3:
実施例1と同様にして電気泳動塗料を製造するが、ただし18μmの平均粒径d50を有するリーフィングアルミニウム効果顔料であるVP53976(Eckart GmbH & Co.KG製)を使用する。
【0083】
本発明実施例4:
9gのPCA214(有機ポリマーを用いてコーティングされ、32μmのd50を有する、アルミニウム顔料;Eckart GmbH & Co.KG、Fuerth、Germany製)のペーストの80gを、80gのブチルグリコールと混合して、均質な顔料ペーストを形成させる。次いで、40gのResydrol AH509w/45WA(リン酸変性アクリレート樹脂;Cytec、Graz、Austria製)を撹拌しながら添加する。その顔料ペーストを一夜静置する。
【0084】
本発明実施例5:
実施例4と同様にして電気泳動塗料を製造するが、ただし18μmの平均粒径d50を有するアルミニウム効果顔料であるPCA9155(Eckart GmbH & Co.KG製)を使用する。
【0085】
本発明実施例6:
実施例4と同様にして電気泳動塗料を製造するが、ただし18μmの平均粒径d50を有するリーフィングアルミニウム効果顔料であるVP53976(Eckart GmbH & Co.KG製)を使用する。
【0086】
比較例7:
PCA9155(Eckart GmbH & Co.KG製)、これはペーストの形態で、18μmの平均粒径d50を有する、合成樹脂を用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料(固形分含量、50重量%)であるが、これを、さらにコーティングすることなく電気泳動塗料に使用する。本発明の実施例1〜3とは異なり、市販の陽極電気泳動塗料(Frei Lacke製)を加えるまで、ポリオール変性ポリエステル(SETAL 6306 SS−60、Akzo Nobel製)を電気泳動浴には加えなかった。したがって、その添加は、電気泳動塗装の前に、添加剤(コーティング組成物)とアルミニウム効果顔料とからペーストを直接形成させることによる、本発明の実施例1〜3におけるようには実施しなかった。
【0087】
比較例8:
PCA9155(Eckart GmbH & Co.KG製)、これはペーストの形態で、18μmの平均粒径d50を有する、合成樹脂を用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料(固形分含量、50重量%)であるが、これを、さらにコーティングすることなく使用する。本発明の実施例4〜6とは異なって、市販の陽極電気泳動塗料(Frei Lacke製)を加えるまで、リン酸変性アクリレート樹脂を電気泳動浴には加えなかった。したがって、その添加は、電気泳動塗装の前に、添加剤(コーティング組成物)とアルミニウム効果顔料とからペーストを直接形成させることによる、本発明の実施例4〜6におけるようには実施しなかった。
【0088】
比較例9:
PCA9155(Eckart GmbH & Co.KG製)、これはペーストの形態で、18μmの平均粒径d50を有する、合成樹脂を用いてコーティングされたアルミニウム効果顔料(固形分含量、50重量%)であるが、これを、さらにコーティングすることなく使用する。この場合、電気泳動塗料にはその他の添加剤(コーティング組成物)を添加しなかった。
【0089】
電気泳動塗料の製造およびその試験
それぞれの場合において、実施例1〜5の金属顔料ペースト26gを、26gのブチルグリコール中で、26gのアクリレート樹脂(Emil Frei GmbH & Co.Lackfabrik、Am Bahnhof 6、D−78199 Braeunlingen製)と混合する。その顔料ペーストを一夜静置する。
【0090】
次いでその顔料ペーストを、230gの、アクリレートおよびメラミンをベースとする市販の調合陽極電気泳動塗料と、溶解ディスク(dissolver disk)を用いて800rpmで穏やかに撹拌しながらブレンドし、追加の脱イオン水36gを添加する。
【0091】
撹拌しながら、この分散体に、170gの脱イオン水中3.5gのジメタノールアミンを添加する。さらに10分間撹拌してから、一定条件で撹拌しながらちょうど十分な蒸留水を添加して、いわゆる「ウォーター・マウンテン(water mountain)」を破壊させると、その塗料が低い粘度となる(約620gの脱イオン水)。
【0092】
陽極電気泳動塗装のためのこの配合により調製した電気泳動塗料は、DIN4フローカップ中で温度20℃で測定して9±1秒の粘度が特徴である。その浴の溶媒含量は、電気泳動塗料の全重量を基準にして、約3.0重量%である。その電気泳動塗料は、電気泳動塗料の全重量を基準にして、12±0.1重量%の固形分含量を有する。そのアルミニウム顔料の含量は約1重量%である。その電気泳動塗料浴のpHは、25℃で8.2であることが見出された。
【0093】
電気化学的沈着法を、導電性材料からなり回路の陰極として使用される導電性容器、いわゆるタンクの中で実施する。コーティングするべき加工物、本発明の例示的実施態様においては7.5×15.5cmの大きさの金属シートを陽極として結線し、電気泳動塗料浴の中に、その長さの2/3を浸漬させる。
【0094】
沈殿と、デッドスポットの発生を防止するために、浴を平均流動速度約0.1m/sで動かす。次いで、100Vの電圧を120秒間を越えて印加する。そのようにしてコーティングされた加工物を次いで、蒸留水を用いて完全に洗い流して、未凝析樹脂の残分を除去する。次いでその加工物を10分間かけて風乾させる。次いでその電気泳動塗料の架橋および焼付けを、180℃で20分間を超えて実施する。そのようにして得られる塗料層は、30±2μmの厚みを有する。
【0095】
本発明の実施例1〜6に従って製造された電気泳動塗料は、その中に存在するアルミニウム効果顔料に関して極端に長い貯蔵寿命と極端に高い沈着安定性とを有する。これは、表1に明らかに示されている。その塗料を室温で保存し、7日間の間隔をおいて電気泳動塗装のために使用した。それらの試験を、92日まで続けた。
【0096】
さらに、本発明の実施例1〜6のサンプルを40℃で30日間保存する。次いでそれらを、電気泳動塗料に組み込んで、先に記したようにして電気泳動的に適用した。得られたコーティングの光学的性質に関しては、フレッシュなサンプルから得られたものとの差は認められなかった。
【0097】
本発明の実施例1〜6および比較例7〜9を、ガス発生試験にもかけた。この目的のためには、25gの電気泳動塗料を、二重チャンバーパイプアタッチメント付きガスボトル中で40℃に加熱して、発生するガス(H、アルミニウム顔料と水との反応で生成したもの)の量を測定した。30日後における水素の発生量が20mL以下であれば、この試験に合格したものとみなす。
【0098】
試験結果を表1にまとめた。
【0099】
【表1】

【0100】
室温における貯蔵期間が92日を過ぎた後でも、本発明の実施例1〜6で得られたコーティングされた試験シートの光学的外観に関して、再現性のある結果が得られた。それらはまた、水性電気泳動塗料中において認めうるようなガス発生は示さなかった。
【0101】
比較例7および8の顔料もまた、ガス発生に関しては安定であったが、沈着安定性は実質的に示さなかった。本発明のコーティングを備えていない比較例9のアルミニウム顔料は、ガス発生に関しては安定でないし、十分な沈着安定性も有していない。
【0102】
比較例10(金属顔料含有粉体塗料):
9gの市販されている粉体塗料のための効果顔料であるSpezial PCA214(Eckart GmbH & Co.KG製)を、291gの粉体ワニスであるAL96ポリエステルPT910システム(Du Pont製)および0.6gのいわゆる「易流動(free flow)添加剤」であるAcematt OK412(Degussa製)と、プラスチックバッグの中で十分に混ぜ合わせる。次いでその内容物を、構造と形状が市販のキッチンミキサーと類似の混合容器(Thermomix、Vorwerk製)の中に直接投入し、中程度の撹拌速度で4分間かけて25℃でブレンドする。この手順は、粉体塗装において使用される「ドライブレンド法」に相当する。このようにして得られた系を、慣用されるコロナ荷電方式(GEMA静電スプレーガンPG1−B)により、慣用される試験金属シート(“Q−Panel”)に適用する。ここで使用される粉体塗装法における適用条件は以下のとおりである:粉体ホース接続:2バール;フラッシング空気接続:1.3バール、電圧:60kV;材料流量調節器;約50%、スプレーガンのシート金属からの距離:約30cm。
【0103】
次いでその粉体塗装系をオーブン中で焼付け、架橋させる。その焼付け時間は200℃で10分間である。この方法で得られる乾燥層の厚みは、50〜75μmである。
【0104】
比較例11(金属顔料含有粉体塗料):
比較例10を繰り返したが、ただし金属効果顔料としては、Spezial PCA9155(Eckart GmbH & Co.KG製)を使用した。
【0105】
本発明の実施例1〜6で得られた各種のコーティングを、粉体塗装技術によりコーティングされた比較例10および11の基材と比較した。本発明の実施例1〜6および比較例10〜10から明らかなように、この比較評価の目的で、類似の粒径と色彩的性質を有するアルミニウム効果顔料を使用した。
【0106】
驚くべきことには、本発明の実施例1〜6で得られたコーティングは、品質の面では、比較例10および11の粉体塗料コーティングのそれと同等の優れた被覆力を示す。
【0107】
それらの光学的特性は、観察者による目視印象の方法で比較する。驚くべきことには、実施例1、2、4、および5は、輝度および金属効果の面で、比較例10および11で製造された通常の粉体塗料コーティングと、認識できる程の差を示さないことが見出された。
【0108】
光学的性質を評価するには、DIN53230を参照する。コーティング材料、塗料、および同様のコーティングを検査する際には、それらの性質および/またはそれにおける変化は多くの場合、主観的に評価しなければならない。DIN53230には、そのような場合における評価システムが規定されている。それには、求めた測定値を直接参照できない場合に、試験結果を評価すべき方法が記載されている。
【0109】
実施例および比較例の1〜11を評価するには、DIN53230のセクション2.1に説明された「固定評価スケール(Fixed rating scale)」を参照する。その固定評価スケールは、各種の性質の強さを評価するためのスケールである。そこでは、最善の可能性がある数値をスコア0と表し、最悪の可能性がある数値をスコア5と表すが、ここで「最悪の可能性がある数値」という用語は、この数値を超えるいかなる変化や劣化も、適用工学的見地からはもはや何の関心もひかないということを意味している。
【0110】
DIN53230セクション2.1を参照して求めた色彩的および光学的性質を表2にまとめる。それらのスコアは、複数の人間による主観的印象によって求めたものである。いずれの場合においても、評価を担当した人間の主観的印象における合意が得られるようにした。
【0111】
【表2】

【0112】
上述の比較から、実施例1、2、4、および5の本発明において開発された顔料および顔料組成物は、光学的特性の面において、多年にわたって市場で確立されてきた粉体コーティング顔料および適用法と比肩できるということが判る。実施例1、2、4、および5のスコアを比較例10および11と比較すると、被覆力、光沢および金属効果の面で、それらの光学的特性がほとんど同一であるのは、明らかである。
【0113】
驚くべきことには、本発明の実施例3および6はさらに、電気泳動塗料において、慣用されるリーフィング塗料を思い起こさせるような光学的印象を示す。しかしながら、慣用されるリーフィング塗料とは異なって、そのコーティングは、驚くべきことには、耐摩耗性を有していた。
【0114】
電気泳動浴調製の最後の段階で電気泳動浴の中にコーティング組成物を直接加えた比較例8および9においては、変化が認められる。そのような変化においては、被覆力、光沢、および関連する金属効果の面で明らかなロスが認められる。
【0115】
コーティング組成物を用いた処理がまったくなされていない金属顔料(比較例9)は、その金属顔料が合成樹脂コーティングを有してはいるものの、陽極電気泳動塗料において沈着させることは事実上不可能である。
【0116】
上述の結果から引き出せる結論は、本発明で提示したように、コーティング組成物(添加剤)を顔料そのものに直接適用することが明らかに必要であって、それを後になって塗料浴に添加しても効果が無いということである。顔料親和性基を有する添加剤は、顔料表面に対して物理吸着的および/または化学吸着的結合を形成することが可能であって、その結合が次いで、その顔料の沈着性能への影響の面で決定的な役割を果たしていると考えられる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動顔料であって、
前記電気泳動顔料が、少なくとも1種のコーティング組成物を用いてコーティングされた微小板状金属顔料であり、前記コーティング組成物が、
(a)陽極電気泳動塗料バインダーの1種または複数のバインダー官能種、および
(b)顔料表面に対して効果的に接着または結合するための1種または複数の官能基、および
(c)15〜300mgKOH/g−コーティング組成物の酸価、
を有している、電気泳動顔料。
【請求項2】
前記金属顔料が、リーフィング金属顔料、(1種または複数の)合成樹脂を用いてコーティングされた金属顔料、およびそれらの混合物、からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の電気泳動顔料。
【請求項3】
前記微小板状金属顔料が、アルミニウム、銅、亜鉛、黄銅、鉄、チタン、クロム、ニッケル、鋼、銀、ならびにそれらの合金からなる群より選択される金属または合金からなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の電気泳動顔料。
【請求項4】
前記コーティング組成物が、陽極的に沈着することが可能であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項5】
前記金属顔料上の合成樹脂コーティングが、少なくとも1種のアクリレートおよび/またはメタクリレートを含むことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項6】
前記リーフィング金属顔料が、好ましくは10〜30個の炭素をそれぞれ有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル鎖を含んでいてもよい1種または複数の脂肪酸の存在下に、摩砕および/または最終的に研磨された金属顔料であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項7】
前記(1種または複数の)脂肪酸が、ステアリン酸および/またはパルミチン酸を含むことを特徴とする、請求項6に記載の電気泳動顔料。
【請求項8】
前記バインダー官能種が、重合されたポリエポキシド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、マレエート、それらのコポリマー、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項9】
前記コーティング組成物が、顔料表面に対して効果的に接着または結合するための1種または複数の官能基を有するか、または前記金属顔料表面に適用された合成樹脂表面を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項10】
前記官能基が、ホスホン酸、ホスホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、カルボキシレート、スルホネート、ポリオール、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の電気泳動顔料。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、前記顔料の金属成分の重量を基準にして、1〜200重量%に等しい量で前記顔料に適用されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項12】
前記コーティング組成物が電気泳動塗料バインダーであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の電気泳動顔料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気泳動顔料を製造するための方法であって、
前記方法が以下の工程:
(a)溶媒中に溶解または分散されたコーティング組成物を用いて金属顔料をコーティングする工程、
(b)場合によっては、工程(a)において前記コーティング組成物を用いてコーティングされた前記金属顔料を乾燥させる工程、
(c)場合によっては、工程(b)において乾燥された前記金属顔料に手を加えてペーストとする工程、
(d)場合によっては、工程(a)または工程(c)において得られた前記金属顔料を中和する工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記コーティング組成物を溶液または分散体として、ガス流れの中を移動している金属顔料に適用することにより、工程(a)と(b)を組み合わせて一つの工程とすることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
電気泳動塗料中における、または電気泳動塗装のための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気泳動顔料の使用。




【公表番号】特表2008−540711(P2008−540711A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509365(P2008−509365)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004088
【国際公開番号】WO2006/117188
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(502099902)エッカルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (48)
【氏名又は名称原語表記】Eckart GmbH
【Fターム(参考)】