説明

電気炉製鋼用自己発熱資材及びこれを用いた電気炉の操業方法

【課題】電気炉製鋼所における初回チャージを迅速に溶融させることができるとともに、廃棄物のリサイクルにも寄与することができる電気炉製鋼用自己発熱資材及びこれを用いた電気炉の操業方法を提供する。
【解決手段】電気炉製鋼用自己発熱資材は、炭素含有率が35質量%以上の粉末状炭素源と、平均粒径が10〜40μmで金属鉄含有率が60質量%以上の粉末状鉄源とを、バインダーと水とを加えて混練し、粒径が20〜60mmの棒状または粒状に成型したことを特徴とする。この電気炉製鋼用自己発熱資材を、初回チャージの電気炉1内にスクラップ2投入に先立って投入して酸化反応により自己発熱させ、スクラップを事前に加熱して通電初期に湯種を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉製鋼所において用いられる電気炉製鋼用自己発熱資材及びこれを用いた電気炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気炉製鋼所は市場から回収された鉄スクラップを電気炉で溶融し、カーボン含有量などの成分調整を行って新たな鉄鋼製品に再生させる工場である。大量の電力を消費するため、電気料金の低い夜間電力を利用して操業し、昼間は操業を停止するのが普通である。
【0003】
電気炉はスクラップ溶融用の電極を備え、通電によりアークを発生させてスクラップを加熱溶融するが、炉内に溶鋼が存在するとアーク放電が効率良く行われ、1チャージ当たりの所要時間を短縮することができる。このため初回チャージ以降は溶鋼を完全に排出せずに一部を炉内に湯種として残す操業方法が採用されている。この方法を取ればスクラップの溶融が短時間に行われ、生産性を高めることができる。
【0004】
しかし初回チャージでは、電気炉の内部にこのような湯種がなく、しかも炉温度は120℃〜200℃程度にまで降温している。従って初回チャージにおいては通電を開始してから本格的な溶融開始までに時間がかかり、電力使用量の原単位が上昇するという問題があった。また初回チャージに長時間を要すると安価な夜間電力料金時間帯内におけるチャージ数が低下し、生産性の低下につながるという問題があった。
【0005】
なお初回チャージの迅速化に関する特許文献は、発明者の調査によれば発見できなかった。特許文献1には製鋼用加炭材が開示されているが、これは炉内に投入された際に溶鋼の表面に浮上しているスラグ層を貫通して溶鋼中に達し、炭素による還元反応を促進するためのものであって、既に溶融した溶湯が存在する炉内に投入されるものであるから、初回チャージの迅速化を図るものではない。
また、公知の既存技術には、鉄粉を利用した発熱資材として使い捨てカイロがあるが、本発明品の「自己発熱」は120℃以上の電気炉の余熱を利用して発熱を開始し、800℃以上の温度に昇温することを特徴としており、従来存在するこれら発熱資材とはことなっている。
【特許文献1】特開平1−268814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電気炉製鋼所における初回チャージに要する時間の短縮化および電力原単位の低減化に対する課題を解決するとともに、廃棄物のリサイクルにも寄与することができる電気炉製鋼用自己発熱資材及びこれを用いた電気炉の操業方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、炭素含有率が35質量%以上の粉末状炭素源と、平均粒径が10〜40μmで金属鉄含有率が60質量%以上の粉末状鉄源とを、バインダーと水とを加えて混練し、粒径が20〜60mmの棒状または粒状に成型したことを特徴とするものである。
【0008】
なお粉末状炭素源は、0.2〜0.5質量%の塩素を含有する廃棄物由来のものとすることができる。また粉末状鉄源が、縦横比が5以上の鉄粒子を70%以上含有するものであることが好ましく、また粉末状炭素源と粉末状鉄源との質量比が、1:3〜1:8であることが好ましい。さらに本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、水分含有率が3〜10質量%であることが好ましい。
【0009】
また本発明の電気炉の操業方法は、上記の電気炉製鋼用自己発熱資材を、初回チャージの電気炉内にスクラップ投入の30分前から150分前に先立って投入して酸化反応により自己発熱させ、スクラップを事前に加熱して通電初期に湯種を容易に形成させることを特徴とするものである。この場合、初回チャージの1回目に投入されるスクラップ量の2〜10質量%の電気炉製鋼用自己発熱資材を投入することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、粉末状炭素源と粉末状鉄源とをバインダーと水とを加えて棒状または粒状に成型したものであり、粉末状炭素源はスクラップに含まれる酸化鉄の還元剤としても機能し、粉末状鉄源は炉の余熱により自己発熱して、それ自体が800℃以上の高温となっているため、電気炉の通電初期に直ちに溶融して湯種を形成する機能を有する。しかも0.2〜0.5質量%の塩素を含有する粉末状炭素源を使用した場合には自己発熱によって加熱された際に酸化鉄から酸素を奪って酸化皮膜を破壊するとともに低融点の塩化鉄を形成し、初期の湯種を形成し易くなる。なお酸化鉄の融点は1500℃以上であるのに対して、塩化鉄の融点は300℃程度であるから、塩分を含有させる利点は大きい。
【0011】
また本発明の電気炉の操業方法によれば、上記の電気炉製鋼用自己発熱資材を初回チャージの電気炉内にスクラップ投入に先立って投入し、酸化反応により自己発熱させる。この結果、電気炉製鋼用自己発熱資材が800℃以上の高温となるのみならず、その周囲のスクラップも順次加熱され、通電初期に迅速に湯種を形成する。従って電気炉製鋼所における初回チャージを迅速に溶融させることができ、電力使用量の原単位の引き下げと生産性の向上とを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、粉末状炭素源と粉末状鉄源とを、バインダーと水とを加えて混練し、粒径が20〜60mmの棒状または粒状に成型したものである。粉末状炭素源としては微粉炭やコークス粉を使用することができる。しかし粉末状炭素源として廃棄物由来の炭化物を使用すれば、コストダウンと廃棄物の有効利用とを達成することができる。
【0013】
この実施形態では、回収された都市ゴミを低酸素雰囲気の炭化炉に投入して加熱炭化させ、取り出された炭化物を用いている。この炭化物は水洗してもなお、ゴミ中の塩化ナトリウム等に由来する塩素を含有しており、水洗工程を制御することによって塩素濃度を0.2〜0.5質量%に調整する。粉末状炭素源中の塩素濃度が0.2質量%よりも少ないと、上記した酸化鉄から酸素を奪って酸化皮膜を破壊するとともに低融点の塩化鉄を形成する能力が不足し、逆に0.5質量%を越えると燃焼時に電気炉内で塩化水素等の有害物質を生成したり、排ガス処理用のダクト等を腐食させる危険性がある。
【0014】
この場合、廃棄物は必ずしも都市ゴミに限定されるものではないが、炭化した際に炭化物の炭素含有率が35質量%以上となる廃棄物であることが望ましい。炭素含有率が低い廃棄物は炭化させても夾雑物の含有率が高くなり、電気炉製鋼用自己発熱資材としての品位を低下させるおそれがある。下水汚泥は炭素含有率が高く使用に適しているが塩素の含有量は少ないので塩素を添加する必要があるため都市ゴミほど最適ではない。
【0015】
粉末状鉄源の粒径は10〜40μmとする。粒径が10μm未満では大気中の酸素との反応による自己発熱が過剰となり、使用前の保管に注意が必要となる。逆に粒径が40μmを越えると使用時における自己発熱速度が遅くなり、迅速に昇温できなくなるとともに、溶鋼中への分散性が悪くなり酸化鉄の還元効果も低下する。なお粉末状鉄源としては金属鉄含有率が60質量%以上のものを用いる。金属鉄含有率が低いと自己発熱速度が遅くなると共に、酸化鉄を還元するためにエネルギーを消費するため電力原単位を悪化させてしまう。
【0016】
粉末状鉄源は、縦横比が5以上の鉄粒子を70%以上の割合で含有するものが最適である。なお上記した鉄粒子の割合は、顕微鏡によって粉末状鉄源を観察し、個数をカウントする方法で算出することができる。
【0017】
粉末状鉄源の縦横比を5以上としたのは、成型物の強度を確保するうえで有利であるとともに、球形のものに比較して表面積を確保し易いためである。このようなサイズ及び形状の鉄粒子を70%以上含有する粉末状鉄源としては、例えば鉄鋼の研磨屑、切削屑等を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、粉末状炭素源と粉末状鉄源との質量混合比は、粉末状炭素源1に対して粉末状鉄源3〜8とする。粉末状鉄源がこれよりも少ないと自己発熱性能が低下し、逆にこれよりも多いと資材自体の熱伝導が大きくなり外部への放熱量が増して資材の温度が上がり難くなり、また酸化鉄を還元する機能が低下する。より好ましい範囲は粉末状炭素源1に対して粉末状鉄源4〜6である。
【0019】
上記した粉末状炭素源と粉末状鉄源とは、バインダーと水とを加えて混練し、ペレット状に成型される。バインダーとしては、澱粉のような有機質バインダーあるいはベントナイトのような無機質バインダーを使用することができる。有機質は溶鋼中で消失し、無機質はスラグとなって浮上するため溶鋼を汚染することはない。その混入率は特に限定されるものではないが、成型強度が弱いと投入時の衝撃やスクラップの圧力で崩壊して粉状となるため、空気の拡散が阻害されて発熱性が低下する。添加量は最大でも7%とする。
【0020】
水は成形性を高めるために必要であるのみならず、水蒸気となって鉄の酸化作用に影響を与える。水分が少ないと発熱性が悪化し、逆に多すぎると蒸発させるためのエネルギーが無駄になる。このため3〜10質量%の範囲が好ましい。
【0021】
成型は押し出し成形機やブリケットマシン等によって行われ、棒状またはペレット状に成型される。そのサイズは20〜60mmとする。粒径がこの範囲よりも小さいと粒子間への空気の進入が阻害されて自己発熱性が悪化し、この範囲よりも大きくなると内部まで酸化が進行するのに時間がかかるので好ましくない。
【0022】
上記した本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、図1に示すように袋詰めされた状態でハンドリングされるが、金属鉄含有率が60質量%以上の粉末状鉄源が主体であるので電磁石により袋ごと吸着することが可能である。
【0023】
上記した本発明の電気炉製鋼用自己発熱資材は、図2に示すように初回チャージの電気炉1の底部中心に投入される。初回チャージの開始時の電気炉1は空であるが、その内部は余熱によって120℃〜200℃程度の温度を維持している。1チャージは通常3回程度に分けてスクラップの投入を行うが、電気炉製鋼用自己発熱資材の投入量は初回のスクラップ投入量の2〜10質量%が好ましく、3〜7質量%が特に好ましい。
【0024】
この程度の電気炉製鋼用自己発熱資材を初回チャージの電気炉1内にスクラップ投入の30分から150分前に先立って投入したうえ、図3に示すようにその上からスクラップ2を投入すれば、炉の余熱と空気との接触による酸化反応により表面から順次自己発熱し、自ら800℃以上の高温になると共に図4のように加熱域が周囲のスクラップ2に拡大する。その後、図5に示すように電極4による通電加熱を開始すれば、高温となっている資材が直ちに溶融して湯種となり、スクラップ2が次第に溶け込んで行く。このような反応を迅速に行わせるために、電気炉製鋼用自己発熱資材の投入量は初回のスクラップ投入量の2〜10質量%とする。
【0025】
その後は2回目、3回目のスクラップを順次投入し、すべてのスクラップが溶湯となれば出湯し、初回チャージは終了する。このとき一部の溶湯を炉内に残し、次回チャージのための湯種とする。2回目のチャージ以降1回のチャージに要する時間は1時間程度であり、本発明により初回チャージの操業時間を短縮することで、安価な夜間電力料金時間帯内に操業できるチャージ数の増加または最終チャージが夜間電力料金時間帯をオーバーしてしまう時間の短縮または夜間電力料金時間帯内で操業するために最終チャージに溶融するスクラップの量を減らして操業時間を短縮する必要が無くなる等の効果がある。
【0026】
上記したように、本発明の電気炉の操業方法によれば、初回チャージを迅速に溶融させることができ、電力使用量の原単位の引き下げと生産性の向上とを図ることができる。さらに、廃棄物のリサイクルにも寄与することができる。
【実施例1】
【0027】
以下に本発明の実施例を示す。実施例1は基礎試験であり、恒温器内に設置された一辺が100mmの立方体である金網製容器に資材を充填し、資材の外部温度を一定温度に保持して内部の温度変化を測定した。その結果を表1〜表3に示す。
【0028】
表中の平均粒径とは、レーザー回折散乱法にて測定した累積50%粒子径を示す。
縦横比5以上比率とは、粒子を顕微鏡にて観察し、長辺と短辺の長さの比が5以上の粒子が全粒子数に占める割合を示す。
金属鉄含有量とは、鉄源を乾燥状態においてIPC分光分析法で測定した金属鉄の割合を示す。
成形強度は、成型物を5mの高さから落下させ粉砕したときの1mm以下の微細粒子が発生する量を測定し、微細粒子が20質量%未満を○、20%以上40%未満を△、40%以上を×とした。
自己発熱開始温度は、試験設備において自己発熱により資材の温度が300℃以上にまで上昇するために必要な初期外部温度を示しており、間欠運転の電気炉において操業停止から次の操業開始までに保持されている電気炉の余熱で確実に自己発熱する必要があり、かつ貯留・運搬時には自己発熱による火災が発生しないようにするため、初期外部温度120℃以上、160℃未満で自己発熱により資材の温度が300℃以上にまで上昇するものを○、160℃以上200℃未満を△、200℃以上または120℃未満を×とした。
自己発熱速度とは、試験設備において自己発熱により資材の温度が300℃以上まで温度上昇した場合において、試験開始から300℃に達するまでの時間を示す。150分未満で達したものを○、150分以上から210分未満で達したものを△、210分以上掛かるものを×とした。
総合評価では、一つでも×があるものを×、×は無く一つでも△があるものを△、全てが○のものを○とした。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【実施例2】
【0032】
次に、1チャージ当たりのスクラップ投入量44トン(初回21トン、2回目15トン、3回目8トン)でトランス容量20、000kVAのアーク式交流電気炉を用いて運転試験を行った結果を表4、表5に示す。
使用した自己発熱資材は直径20mm長さ40〜60mmの粒状(円柱状)であり、鉄源の平均粒径20μm、縦横比5以上比率が80%、金属鉄含有量80%、炭素源の平均粒径30μm、炭素含有量45%、塩素含有量0.4%、成型物の水分3%、バインダ量5%のものである。
【0033】
初回チャージの開始前に自己発熱資材を投入し、15分後にスクラップを投入した。同じ条件で3回の操業を行い、その平均値を表中に記した。表中の資材投入時間とは資材を投入してから通電を開始するまでの時間である。初回チャージの操業時間について5分以上の時間短縮効果があったものを○、2〜5分を△、2分未満を×とした。また電力原単位は5kWh/t以上低減を○、5kWh/t未満低減を△、効果なしまたは悪化を×とした。 総合評価では、一つでも×があるものを×、×は無く一つでも△があるものを△、全てが○のものを○とした。なお表4のナンバー1が自己発熱資材を使用しない従来の操業例である。
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自己発熱資材が袋詰めされハンドリングされる状態を示す説明図である。
【図2】自己発熱資材を投入した状態の断面図である。
【図3】自己発熱を開始した状態の断面図である。
【図4】周囲のスクラップが加熱された状態の断面図である。
【図5】電極による通電加熱初期に湯種が形成された状態の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 電気炉
2 スクラップ
3 湯種
4 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有率が35質量%以上の粉末状炭素源と、平均粒径が10〜40μmで金属鉄含有率が60質量%以上の粉末状鉄源とを、バインダーと水とを加えて混練し、粒径が20〜60mmの棒状または粒状に成型したことを特徴とする電気炉製鋼用自己発熱資材。
【請求項2】
粉末状炭素源が、0.2〜0.5質量%の塩素を含有する廃棄物由来のものであることを特徴とする請求項1記載の電気炉製鋼用自己発熱資材。
【請求項3】
粉末状鉄源が、縦横比が5以上の鉄粒子を70%以上含有するものであることを特徴とする請求項1記載の電気炉製鋼用自己発熱資材。
【請求項4】
粉末状炭素源と粉末状鉄源との質量比が、1:3〜1:8であることを特徴とする請求項1記載の電気炉製鋼用自己発熱資材。
【請求項5】
水分含有率が、3〜10質量%であることを特徴とする請求項1記載の電気炉製鋼用自己発熱資材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電気炉製鋼用自己発熱資材を、初回チャージの電気炉内にスクラップ投入に先立って投入して酸化反応により自己発熱させ、スクラップを事前に加熱すると共に通電初期に湯種を形成させることを特徴とする電気炉の操業方法。
【請求項7】
初回チャージの1回目に投入されるスクラップ量の2〜10質量%の電気炉製鋼用自己発熱資材を投入することを特徴とする請求項6記載の電気炉の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−24199(P2009−24199A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186446(P2007−186446)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】