説明

電気的ガラス溶解用電極ホルダ

【課題】溶融ガラスに接触する電極ホルダの部分を、溶融ガラスによる腐食から保護し、さらに電極ホルダのより高温での動作を可能にする。
【解決手段】ガラス溶解炉用の電極ホルダ(10)が、外壁(12)、電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している内壁(14)、外壁と内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、冷却剤通路(30,40)、そして内壁および外壁を電極ホルダの第1端部で結合しているノーズ部材(16)を備えている。ノーズ部材が、このノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)を有し、このバリア層が炉内の溶融ガラス材料(48)と接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶解運転中に使用される電極ホルダを改良したものに関し、特に、溶融ガラスに接触する電極ホルダの前方部に堆積させる、耐火性のバリア層に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の他、導電性酸化物、そして炭素などの非金属材料を、ガラスの抵抗溶解用の電極として使用する技術は十分に確立された技術である。モリブデン(Mo)、炭素、または酸化スズの、円筒状または長方形の部分が、電極材料として極一般的に使用されている。これらの材料の、そして特にMoの問題点は、空気中または任意の酸化環境中において500℃から600℃を超える温度で操作すると、急速に酸化する傾向にあるということである。この酸化温度範囲は、ガラスの典型的な溶解温度の十分に範囲内である。
【0003】
ガラス内の酸素レベルが低いため、通常、ガラス内に位置する電極部分の酸化速度は対処し易いものである。電極の酸化が懸念されるのは、溶解炉の壁を突き抜けて周囲雰囲気へと出ている電極部分である。溶解炉の壁を貫通する電極のこの延長部分は、電極に電力供給するための電気接続に必要なものである。電極材料の熱伝導率が良いために、電極には500℃より高温となりかつ周囲雰囲気と接触する部分が存在する。この領域が酸化し易い。こういった酸化を防ぐため、電極を酸化から保護するための多くの方法が既に開発されている。酸化保護の最も一般的な方法は、ステンレス鋼またはスーパーアロイで作製された電極ホルダまたはスリーブを、Moを酸化から保護するために使用するものである。典型的には電極ホルダを水で冷却し、電極の周囲のガラスを凝固させて酸素が高温の材料に接触しないようにしたり、あるいは酸化が止まる程度まで電極を冷却したりする。電極ホルダ材料の酸化や、あるいは電極ホルダ材料に対するガラスからの腐食攻撃を防ぐよう、電極ホルダ材料を十分に冷却するべきではあるが、ガラス溶解ユニットから過度に熱を除去するべきではないため、水冷却の使用はバランスを取って行われる。
【0004】
ソーダ石灰などの市販のガラスを溶解する、典型的な電極の導入では、電極ホルダの温度が低いため電極ホルダ材料の腐食は限定的であり、開炉期間中ずっと、電極ホルダ、そして電極は、酸化から保護される。視覚的表示用途用に使用されるガラスなど、より溶解温度の高いガラスでは、電極ホルダは高温となるため著しい腐食が起こり得る。電極ホルダが一旦十分に腐食すると、電極ホルダはバリアとしての機能をもはや果たすことができず、酸素を高温の電極材料に接触させないようにしたり、さらに続く酸化を防止したりすることができなくなる。電極の酸化が十分に深刻な場合には、電極がネックダウンして機能しなくなり、そしてもはや電気を通すことができなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1300℃を超える温度で操作したステンレス鋼製の電極ホルダに関する分析によれば、ステンレス鋼がアルミナホウケイ酸ガラスに接触すると、ガラス中の酸化物のいくらかを減少させてその元素状態とすることが示された。元素の状態で、これらの材料はステンレス鋼と合金になって、金属に対して攻撃したり、さらに低溶解温度の合金を形成したりする可能性がある。鉄‐シリコン相図から、310ステンレス鋼などの鉄ベース合金中のシリコンが、高い動作温度で金属を著しく弱化させ得る低溶解温度の相を形成することが分かる。高い動作温度とは、約1000℃を超える温度、例えば、約1100℃超、約1200℃超、または約1300℃超の温度を意味するものである。1200℃をわずかに超える温度で、液体のFe‐Si相が形成される。こういった相が形成されると、電極スリーブの強度が完全に破壊され、そして電極スリーブは、酸素が電極に接触するのを防ぐことのできない状態となる。この制限を克服するため、溶融ガラス材料に最も曝される電極ホルダの部分に耐火性のバリア層を堆積させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態において、ガラス溶解炉用の電極ホルダ(10)が開示され、この電極ホルダ(10)は、外壁(12)、電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している内壁(14)、外壁と内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、内壁および外壁を、電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、および、ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)、を備えている。通路は、電極ホルダ内の間隙またはキャビティを含んでもよく、あるいは、例えば、この間隙またはキャビティ内に含まれる導管でもよい。耐火性バリア層(46)は、内壁の円周部分に沿って延びていることが好ましい。このバリア層は、内壁の一部に沿って延びていることが好ましい。
【0007】
いくつかの実施形態では、耐火性バリア層はジルコニアまたはアルミナを含むものであるが、例えばアルミナ‐チタニア材料など、他の適切な耐火性材料を使用してもよい。耐火性バリア層の厚さは好適には100μm以上である。耐火性バリア層は、環状ノーズ部材に火炎溶射またはプラズマ溶射で堆積させてもよい。いくつかの実施形態では、高速酸素燃料(High Velocity Oxygen Fuel;HVOF)溶射コーティングを使用してバリア層を堆積させてもよい。バリア層の熱膨張係数と環状ノーズ部材の熱膨張係数との間の差は、1桁以下であることが好ましい。電極ホルダに、無酸素ガスを受け入れかつこの無酸素ガスを電極と内壁との間に供給するための、注入口を取り付けてもよい。
【0008】
別の実施形態において、溶融ガラス材料を形成するための炉(52)が開示され、この炉(52)は、それ自体を貫通する通路を画成している耐火ブロック(44)と、通路内に位置付けられた電極ホルダ(10)とを含み、この電極ホルダは、外壁(12)、電極(22)を受け入れるためのチャネル(20)を画成している内壁(14)、外壁と内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、冷却剤通路(30,40)、および、内壁および外壁を、電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、を備えたものである。この環状のノーズ部材は、ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)を備えている。いくつかの実施形態において、冷却剤通路は導管(30)を含む。しかしながら、冷却剤を電極ホルダ内のキャビティに通して循環させてもよい。炉の運転中、すなわち電極を用いて溶融ガラス材料を加熱しているとき、耐火性バリア層(46)は溶融ガラス材料(48)に接触している。耐火性バリア層(46)の厚さは100μm以上であることが好ましい。いくつかの実施形態では、電極ホルダ(10)は炉の底壁(45)に位置付けられ、一方他の実施形態において、電極ホルダは炉の側壁に位置付けられている。耐火性バリア層(46)を、いくつかの事例では、電極ホルダ(10)の内壁(14)の少なくとも一部に堆積してもよい。バリア層の熱膨張係数と環状ノーズ部材(例えば、バリア層が堆積されている基材)の熱膨張係数との間の差が、1桁以下であることが好ましい。
【0009】
さらに別の実施形態において、溶融ガラス材料を形成する方法が開示され、この方法は、槽の中で溶融ガラス材料を加熱するステップを含み、この加熱するステップは、電極ホルダ(10)内に位置付けられた電極(22)に電流を流すステップを含み、電極ホルダは、外壁(12)、電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している内壁(14)、外壁と内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、内壁および外壁を、電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、および、環状のノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)、を備えたものである。この方法は、加熱ステップ中に、内壁(14)と電極との間に、窒素またはヘリウムなどの無酸素ガスを流すステップをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のさらなる特徴および利点は以下の詳細な説明の中に明記され、ある程度は、その説明から当業者には容易に明らかになるであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、請求項、さらに添付の図面を含め、本書において説明されたように本発明を実施することにより認識されるであろう。
【0011】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、本発明の実施形態を示していること、そして請求される本発明の本質および特徴を理解するための概要または構成を提供することが意図されていることを理解されたい。添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書の一部を構成する。図面は本発明の種々の実施形態を示し、そしてその記述とともに、本発明の原理および動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態による電極ホルダの縦断面図
【図2】ガラス溶解炉の耐火性壁内に位置付けられている図1の電極ホルダを示した縦断面図
【図3】耐火性層が堆積された電極ホルダのノーズを表している、図2の電極ホルダの一部の拡大縦断面図
【図4】本発明の一実施の形態による電極ホルダの一部の斜視図であって、電極ホルダのノーズと内壁とに堆積された耐火性断熱層の位置を説明している図
【図5】溶解炉の中を上から見た図であって、炉の側壁および下部(床部)にマウントされている電極ホルダを示している図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明においては、限定ではなく説明のため、具体的詳細を開示する実施形態例を明記して本発明の完全な理解を提供する。しかしながら、本開示の利益を得たことのある通常の当業者には、本発明をここで開示される具体的詳細とは異なる他の実施形態で実施し得ることは明らかであろう。さらに、周知の装置、方法、および材料に関する説明は、本発明の説明を不明瞭にしないよう省略されることがある。最後に、適用できる限り、同じ参照番号は同様の要素を示す。
【0014】
図1は、一実施の形態による電極ホルダ10の縦断面図を描いたものである。電極ホルダ10は、概して円筒状の外部形状を有し、かつ、外壁12、内壁14、環状ノーズ部材16、および環状後部部材18を備えている。外壁12および内壁14は管状である。ノーズ部材16および後部部材18は、耐高温金属から形成されたものが好ましい。適切な金属は、例えば、310ステンレス鋼などのステンレス鋼とすることができる。ノーズ部材16および後部部材18の両方が、外壁12および内壁14と結合している。内壁14は、その中に電極22(図2参照)がマウントされる、中空のキャビティすなわちチャネル20を画成する。外壁12、内壁14、ノーズ部材16、および後部部材18が合わさって、電極ホルダ10のヘッド24を構成する。電極をチャネル20内で支持し、電極22と内壁14との間に電気絶縁性を与え、さらに内壁14との表面接触を最小にするために、内壁14はスペーサ部材26を含んでもよく、これにより電極22をチャネル20内でより容易に動かすことができるようになる。いくつかの実施形態では、内壁14の一部がヘッド24から後方に延びて、電極ホルダ10の尾部28を含んでもよい。
【0015】
ヘッド24は、外壁12と内壁14との間に位置付けられた導管30をさらに含み、この導管に水などの液体冷却剤を流して、電極ホルダ10および電極22を冷却することができる。導管30は、例えば、らせん巻きの管を含んでもよい。ただし、導管30は、直線部分、湾曲部分、または直線部分および湾曲部分両方の組合せを含み得ることに留意されたい。電極を最大限に冷却するために、導管30は内壁14に隣接させることが好ましいが、しかしながら、電極ホルダが温まったり冷えたりする際の熱膨張に適応するために、導管をその全長に沿って内壁に固定的に取り付けないことが同様に好ましい。液体供給ライン32および液体排出ライン34が導管30と接続され、これが供給源(図示なし)からの冷却液を導管に供給する。
【0016】
導管30に加え、ガス供給ライン36およびガス排出ライン38を用いて、ガス冷却剤をヘッド24に通して同様に循環させてもよい。例えば、空気を加圧下で外壁12と内壁14との間のキャビティ40にガス供給ライン36から供給し、さらにこの空気をガス排出ライン38を通じてキャビティから除去してもよい。
【0017】
他の冷却構造も可能でありかつ本開示の範囲内となることに留意されたい。例えば、いくつかの実施形態では、導管30を削除し、かつガス冷却媒体を使用せずに冷却液をキャビティ40に循環させることも可能であろう。他の実施形態では、液体をガス中に取り込んで含む混合冷却媒体を、導管30またはキャビティ40のいずれかに注入することもあり得る。別の実施形態では、ガス冷却剤または混合冷却剤のいずれかをキャビティ40内で循環させることも可能であろう。本発明の実施形態によれば、ヘッド24は冷却媒体で冷却され、この冷却媒体は、液体、ガス、液体およびガスの両方、または液体およびガスの混合物であることに留意されたい。冷却媒体は、例えば、導管30内またはキャビティ40内など、ヘッド24内の通路に通して流される。
【0018】
さらに他の実施形態において、還元ガスまたは非酸化性ガスが、チャネル20の電極と内壁14との間に随意的に供給されることもあり得る。例えば、窒素や、またはヘリウムなどの不活性ガスが、溶解プロセスの始動段階や、あるいは定常状態での運転中に、矢印43で示すように注入口41からチャネル20に供給されることもあり得る。
【0019】
ヘッド24は、1層の断熱材料42を、外壁12と内壁14との間に位置付けてさらに含んでもよい。断熱材料42は、例えば、繊維状アルミナなどの繊維状セラミック断熱材でもよい。いくつかの実施形態では、繊維状無機断熱材の第2の層を、外壁12の外面の周りに巻き付けてもよい。例えば、巻き付けた断熱材を、ノーズ部材16を覆わないようにしてノーズ部材16まで延ばしてもよい。
【0020】
電極ホルダ10が、ヘッド24から後方に延びる尾部28を形成している、延在した内壁14を備えている場合、尾部28は環状形状を有する後部ブロック29を含んでもよい。いくつかの実施形態では、電極22を、1以上のねじで電極22に固定されるカラー31とともに取り付けてもよく、こうすることでカラーと後部ブロック29との係合により、特に電極ホルダが溶解槽の下部に垂直配向で位置付けられたときに、電極が電極ホルダから落下しないようにすることができる。
【0021】
図2および3に示したように、電極ホルダ10は、溶解槽の壁を含む耐火ブロック44内に位置付けられる。図2および3の実施形態では、炉の耐火性床部すなわち底壁45を含む、耐火ブロックの中に、電極ホルダが位置付けられて示されている。他の実施形態では、電極ホルダを、炉の側壁を含む耐火ブロックの中に位置付けてもよい。ノーズ部材16の外表面のいくつかの部分は500℃以上の温度の溶融材料に曝され得るため、ノーズ部材16の外表面のうち溶融ガラスと接触する可能性が最も高い部分に、耐火性材料を耐火性バリア層46として堆積させる。堆積は、火炎堆積またはプラズマ堆積によるものでもよい。例えば、プラズマ溶射プロセスでは、材料を溶解しかつコーティング対象の物体に向かって加速させるプラズマ流に、堆積させる材料を供給する。プラズマ流の温度は10,000K(約9,727度)もの高温になり得る。堆積される材料は、物体と衝突し、そしてラメラと呼ばれる小さい平坦な堆積物を形成する。ラメラが蓄積して所望の厚さのコーティングが形成される。プラズマの組成、プラズマの流速、プラズマ流を生成するプラズマトーチの対象物体からのずれの距離などのパラメータを調節することにより、コーティングの特性を変更して、所望の空隙率、熱伝導率、電気伝導率、歪み許容度などを達成することができる。コーティングを堆積させるための別の方法は、高速酸素燃料(HVOF)溶射コーティングであり、これはプラズマ溶射よりも密度の高いコーティングを提供する。ラメラの積層は典型的には、間隙、亀裂、および不完全な接合をもたらすため、溶射されたコーティングは典型的には低熱伝導率を有し、このため断熱能力が向上する。ノーズ部材16の外側表面に堆積される耐火性バリア層46の厚さは、100μm以上、200μm以上、300μm以上、または400μm以上とするべきである。耐火性バリア層46の形成に使用され得る適切な材料として、これらに限定されるものではないが、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、およびアルミナ‐チタニアが挙げられる。耐火性バリア層の熱膨張係数は、バリア層の剥離を防ぐため、下層基材すなわちノーズ部材16の熱膨張係数と近いあるいは等しいものであることが好ましい。例えば、いくつかの実施形態では、ノーズ部材16は310ステンレス鋼から形成され、310ステンレス鋼の1000℃での線熱膨張係数(CTE)は約1.9×10-6/℃であり、またアルミナのCTEは1000℃で約8.2×10-6/℃である。バリア層のCTEは下層基材のCTEの1桁以内であることが好ましい。すなわち、バリア層のCTEは、ノーズ部材のCTEより高い場合には約10倍以下であり、またノーズ部材のCTEより低い場合には約1/10以上であることが好ましい。
【0022】
ノーズ部材16の前方の外側表面に加え、耐火性バリア層46を他の表面に堆積させてもよい。すなわち耐火性バリア層46は、図4に示すように、ノーズ部材16の前表面に堆積させた部分46aと、外円周部分46bと、そして内壁14上に堆積させた部分46cとを含んでもよい。
【0023】
図5は、ガラス成形用バッチ材料を溶解するための炉52を上から見た図であり、この炉の底壁45および側壁54の両方に電極ホルダがマウントされている。他の実施形態は、溶解炉の側壁のみ、または床部のみに、電極ホルダをマウントして有していてもよい。
【0024】
溶解プロセスの初期の段階では電極ホルダの冷却は弱められまたは停止され、比較的低粘度の溶融ガラス材料48が、図3に最も良く示されているように、耐火ブロック44と電極ホルダ10との間(および耐火ブロック44と電極22との間)の空間50に流れ入ることができる。溶融ガラス材料は、電極がチャネル内にマウントされているときに環状の形を呈している、チャネル20にも流れ入る可能性がある。溶融ガラス材料が空間50やチャネル20などのすき間領域に流れ入ったとき、電極ホルダの冷却を復帰させて、電極ホルダと耐火ブロックとの間、および電極ホルダの内壁と電極との間の、すき間空間内に位置している溶融ガラス材料の粘度を増加させ、電極ホルダを包囲しているガラス材料を凝固させて、電極ホルダと耐火ブロックとの間、および電極ホルダと電極との間にシールを形成する。
【0025】
場合によっては、電極を溶融ガラス材料内にさらに延ばすことが必要になることがあり、このときには冷却を弱めまたは中断して、上述のチャネル20および空間50内で既に凝固しているガラス材料を再溶解させることができる。その後、電極を溶融ガラス材料内へとさらに前方に押圧する。粘性抗力により溶融ガラス材料がすき間領域から引っ張られるため、典型的には電極を必要な量よりさらに押圧し、その後この電極を引き抜くようにして溶融ガラス材料をチャネル20および空間50内に戻すよう引き寄せる。一旦電極が所望のように位置付けられると、冷却を復帰させてすき間領域内のガラスを再び凝固させ、溶融ガラス内に含まれている酸素が電極および/または電極ホルダと接触するのを防ぐたガラスシールを形成する。いくつかの実施形態では、注入口41から窒素などの無酸素ガス、あるいは不活性ガス(ヘリウム、クリプトン、アルゴン、またはキセノンなど)を流すことにより、チャネル20内の内壁14と電極22との間で非酸化性雰囲気を確立させてもよい。チャネル20内に入ったガスは、チャネル20の前部から(溶融ガラス内へ)あるいは後部から(周囲雰囲気内へ)脱出することができる。
【0026】
前述したものと図2および3とから、ノーズ部材16が、溶解プロセスの少なくとも最初の段階の際に、そして典型的には生産中の開炉期間(production campaign)を通じて定期的に、溶融ガラスと直接接触することは明らかである。溶融ガラス材料は、1000℃以上、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上、1400℃以上、1520℃以上、1540℃以上、1550℃以上、または1560℃以上である可能性がある。溶解運転中、電極ホルダが溶融ガラスに曝されたとき、耐火性バリア層46が電極ホルダの腐食を防ぐことで、電極ホルダの高温での動作が可能になる。耐火性バリア層46は電極の寿命を延ばすことができ、さらに耐火性バリア層46により、電極ホルダを、寿命を著しく短縮させる可能性のあるような、より高温で操作することができる。電極ホルダの動作温度が高くなればなるほど、ガラスから除去されるエネルギーが減少し、そして運転コストが削減される。耐火性バリア層の使用は、より珍しくかつ高価な構成材料を電極ホルダに用いるものに比べ、電極の寿命を延ばす手段としてコスト効果の高いものである。
【0027】
したがって、例示的に、非限定的実施形態として以下のものが挙げられる。
【0028】
C1.ガラス溶解炉用の電極ホルダ(10)であって、外壁(12)、電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、前記内壁および前記外壁を該電極ホルダの第1端部で結合しているノーズ部材(16)、および、前記ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)、を備えていることを特徴とする電極ホルダ。
【0029】
C2.前記通路が、導管(30)を含むものであることを特徴とするC1記載の電極ホルダ。
【0030】
C3.前記耐火性バリア層(46)が、前記内壁の円周部分に沿って延びていることを特徴とするC1またはC2記載の電極ホルダ。
【0031】
C4.前記耐火性バリア層が、前記内壁の一部に沿って延びていることを特徴とするC1からC3いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0032】
C5.前記耐火性バリア層が、ジルコニアまたはアルミナを含むものであることを特徴とするC1からC4いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0033】
C6.前記耐火性バリア層の厚さが100μm以上であることを特徴とするC1からC5いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0034】
C7.前記耐火性バリア層が、火炎溶射層またはプラズマ溶射層であることを特徴とするC1からC6いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0035】
C8.前記バリア層の熱膨張係数と環状の前記ノーズ部材の熱膨張係数との間の差が、1桁以下であることを特徴とするC1からC7いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0036】
C9.無酸素ガスを受け入れかつ該無酸素ガスを前記電極と前記内壁との間に供給するための、注入口をさらに備えていることを特徴とするC1からC8いずれか1項記載の電極ホルダ。
【0037】
C10.炉(52)であって、それ自体を貫通する通路を画成している耐火ブロック(44)と、該通路内に位置付けられた電極ホルダ(10)とを含み、該電極ホルダが、外壁(12)、電極(22)を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、冷却剤通路(30,40)、前記内壁および前記外壁を該電極ホルダの第1端部で結合しているノーズ部材(16)、を備えたものであり、さらに、環状の前記ノーズ部材が、該ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)を備えていることを特徴とする炉。
【0038】
C11.前記冷却剤通路が、導管(30)を含むものであることを特徴とするC10記載の炉。
【0039】
C12.前記耐火性バリア層(46)が溶融ガラス材料(48)と接触することを特徴とするC10またはC11記載の炉。
【0040】
C13.前記耐火性バリア層(46)の厚さが100μm以上であることを特徴とするC10からC12いずれか1項記載の炉。
【0041】
C14.前記電極ホルダ(10)が、前記炉の底壁(45)に位置付けられていることを特徴とするC10からC13いずれか1項記載の炉。
【0042】
C15.前記電極ホルダ(10)が、前記炉の側壁(54)に位置付けられていることを特徴とするC10からC14いずれか1項記載の炉。
【0043】
C16.前記耐火性バリア層(46)が、前記電極ホルダ(10)の前記内壁(14)の少なくとも一部に堆積されていることを特徴とするC10からC15いずれか1項記載の炉。
【0044】
C17.前記バリア層の熱膨張係数と前記環状ノーズ部材の熱膨張係数との間の差が、1桁以下であることを特徴とするC10からC16いずれか1項記載の炉。
【0045】
C18.溶融ガラス材料を形成する方法であって、槽の中で溶融ガラス材料を加熱するステップを含み、該加熱するステップが、電極ホルダ(10)内に位置付けられた電極(22)に電流を流すステップを含むものであり、前記電極ホルダが、外壁(12)、電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、前記内壁および前記外壁を該電極ホルダの第1端部で結合しているノーズ部材(16)、を備えたものであり、さらに耐火性バリア層(46)が、環状の前記ノーズ部材の外表面に堆積されていることを特徴とする方法。
【0046】
C19.前記加熱ステップ中に、前記内壁(14)と前記電極との間に無酸素ガスを流すステップをさらに含むことを特徴とするC18記載の方法。
【0047】
C20.前記無酸素ガスが窒素であることを特徴とするC18またはC19記載の方法。
【0048】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。すなわち、本発明の改変および変形が添付の請求項およびその同等物の範囲内であるならば、本発明はこのような改変および変形を含むと意図されている。
【符号の説明】
【0049】
10 電極ホルダ
12 外壁
14 内壁
16 ノーズ部材
20 チャネル
22 電極
30 導管
40 キャビティ
44 耐火ブロック
45 底壁
46 耐火性バリア層
48 溶融ガラス材料
52 炉
54 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス溶解炉用の電極ホルダ(10)であって、
外壁(12)、
電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、
前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、
前記内壁および前記外壁を、該電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、および、
前記ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)、
を備えていることを特徴とする電極ホルダ。
【請求項2】
前記耐火性バリア層が、前記内壁の一部に沿って延びていることを特徴とする請求項1記載の電極ホルダ。
【請求項3】
前記耐火性バリア層が、ジルコニアまたはアルミナを含むものであることを特徴とする請求項1または2記載の電極ホルダ。
【請求項4】
前記耐火性バリア層の厚さが100μm以上であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の電極ホルダ。
【請求項5】
前記バリア層の熱膨張係数と環状の前記ノーズ部材の熱膨張係数との間の差が、1桁以下であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の電極ホルダ。
【請求項6】
炉(52)であって、
それ自体を貫通する通路を画成している耐火ブロック(44)と、
該通路内に位置付けられた電極ホルダ(10)とを含み、該電極ホルダが、
外壁(12)、
電極(22)を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、
前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、冷却剤通路(30,40)、
前記内壁および前記外壁を、該電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、を備えたものであり、さらに、
環状の前記ノーズ部材が、該ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)を備えていることを特徴とする炉。
【請求項7】
前記耐火性バリア層(46)が溶融ガラス材料(48)と接触することを特徴とする請求項6記載の炉。
【請求項8】
前記耐火性バリア層(46)の厚さが100μm以上であることを特徴とする請求項6または7記載の炉。
【請求項9】
前記耐火性バリア層(46)が、前記電極ホルダ(10)の前記内壁(14)の少なくとも一部に堆積されていることを特徴とする請求項6から8いずれか1項記載の炉。
【請求項10】
溶融ガラス材料を形成する方法において、
槽の中で溶融ガラス材料を加熱するステップであって、該加熱するステップが、電極ホルダ(10)内に位置付けられた電極(22)に電流を流すステップを含み、前記電極ホルダが、
外壁(12)、
電極を受け入れるためのチャネル(20)を画成している、内壁(14)、
前記外壁と前記内壁との間に位置付けられる冷却剤の流れを受け入れる、通路、
前記内壁および前記外壁を、該電極ホルダの第1端部で結合している、ノーズ部材(16)、および、
環状の前記ノーズ部材の外表面に堆積された耐火性バリア層(46)、を備えたものである、加熱ステップ、および、
前記加熱ステップ中に、前記内壁(14)と前記電極との間に無酸素ガスを流すステップ、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−229153(P2012−229153A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−99881(P2012−99881)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】