説明

電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム

【課題】 電気絶縁特性が良好で、高温湿度下での耐加水分解性に優れる電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層、撥水性層が順次積層され、該撥水性層表面の水接触角が90度以上である電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用の二軸配向積層ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、高温度・高湿度下で使用しても良好な機械特性および電気絶縁性を保持する電気電子部材用の二軸配向積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルムおよび保護用フィルム等の素材として広く用いられている。電気電子部材として用いられる場合、高温度下で長時間使用しても機械特性の低下に伴う電気絶縁性能の低下がないことが求められている。種々の分野における電気絶縁材料としては、主にポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられているが、ポリエチレンテレフタレートの耐熱性では不十分な用途においては、近年ポリエチレンナフタレートフィルムも使用されており、例えば特開2002−273844号公報が開示されている。また、モータ絶縁のような高い加工特性が求められる用途においては、例えば、特開平8−073709号公報において、ポリエステルに熱可塑性エラストマーおよび/または非晶ポリオレフィン重合体が特定量混合された電気絶縁材料が、また、特開平8−073715号公報には、融点200〜280℃のポリエステルとオレフィン−ビニルアルコール共重合体との混合体よりなる、機械特性、電気特性に加え、取扱い性、加工適性に優れるフィルムが開示されている。
【0003】
近年、電気電子機器の小型化、軽量化、高性能化に加え、高温湿度環境下で使用される用途が増えつつある。例えば自動車用駆動モータのスロットライナーやウエッジなどの用途において、特に高温度・高湿度下で使用してもポリエステルフィルムが加水分解されないこと、その結果として機械特性および電気絶縁性能が低下して絶縁破壊特性が損なわれないことが要求されるようになってきた。
【0004】
このような要求に対し、特開平7−118376号公報には、2,2−アルキル置換−1,3−プロパンジオ−ルを共重合成分とするポリエステル共重合体によって、水中および高温高湿下で使用しても、電気抵抗率の低下が少なく電気絶縁性を有することが開示されている。
【0005】
しかしながら、ポリエステルフィルムの優れた耐熱性を維持しつつ、高温高湿下での機械特性および電気絶縁性を改良する手法として、特開平7−118376号公報のようなポリエステルに特定の共重合成分を用いてポリエステル自体を改質する方法だけでなく、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー、ポリエチレンナフタレートホモポリマーを始め、種々の共重合成分が共重合されたポリエステルフィルムに対しても、高温高湿下における機械特性および電気絶縁性の改良が求められているのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−273844号公報
【特許文献2】特開平8−073709号公報
【特許文献3】特開平8−073715号公報
【特許文献4】特開平7−118376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる課題を鑑み、特定の共重合成分を用いたポリマー改質によらない方法で、耐加水分解性に優れ、高温湿度下における機械特性および電気絶縁性が良好な、電気電子部材に適した電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層を介して撥水層を設け、該撥水層表面の水接触角が90度以上であることによって、撥水層によってベースとなるポリエステルフィルムが直接高温高湿度雰囲気に晒されなくなり、さらにアンカー層を介することによって、撥水層とベースとなるポリエステルフィルムとの密着性が良好になり、層間に水分が浸透しなくなるため、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が向上し、高温高湿度下で使用しても高い機械特性および電気絶縁性が維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層、撥水性層が順次積層され、該撥水性層表面の水接触角が90度以上である電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムによって達成される。
【0010】
また、本発明の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、ポリエステルフィルムがポリエチレン−2,6−ナフタレートからなること、アンカー層がシラン系アンカー層であること、撥水性層がシリコーン樹脂からなること、の少なくともいずれかを具備するものを好ましい態様として包含する。
【0011】
また、本発明の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、モータのスロットライナーまたはウエッジに用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層を介して撥水層を設け、該撥水層表面の水接触角が90度以上であることによって、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が向上し、高温高湿度下で使用しても高い機械特性および電気絶縁性が維持された電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明における二軸配向ポリエステル積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層および撥水性層が順次積層された構成を有する。
【0014】
<ポリエステル樹脂>
本発明におけるポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、ジオールとジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーが挙げられる。かかるジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられ、これらジカルボン酸成分およびジオール成分は、好ましくはそれぞれ全繰返し単位の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましく、特に耐熱性の観点から、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましく例示される。
【0015】
本発明におけるポリエステル樹脂は、ホモポリマーでも他のポリエステルとの共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、繰返し構造単位のモル数を基準として好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が挙げられる。
【0016】
本発明におけるポリエステル樹脂の固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40以上であることが好ましく、0.40〜0.80であることがさらに好ましい。固有粘度が0.4未満では成形加工後の製品の強度が不足したり、高温湿度下での加水分解性が不足することがある。一方固有粘度が0.8を超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が好ましくは70〜160℃、より好ましくは100〜160℃、さらに好ましくは110〜155℃、特に好ましくは115〜150℃である。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が下限に満たない場合、高温下での耐久性が低下することがある。一方、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が160℃を超える場合、2軸延伸製膜工程における作業性が低下することがある。
【0018】
<滑剤>
本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子からなる滑剤が添加されていても良い。不活性粒子としては、たとえば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレー、などの無機粒子、シリコーン、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などからなる有機粒子、硫酸バリウム、酸化チタン等の顔料を単独あるいは2種以上添加しても良い。
【0019】
これら不活性粒子をポリエステル樹脂へ添加含有させる前に、精製プロセスを用いて、粒径調整、粗大粒子除去を行うことが好ましい。生成プロセスの工業的手段としては、粉砕手段で例えばジェットミル、ボールミル等が挙げられ、また分級手段では例えば乾式もしくは湿式遠心分離機等が挙げられる。なお、これらの手段は2種以上を組み合わせ、段階的に精製しても良いのはもちろんである。
【0020】
また、含有させる方法としては各種の方法を用いることが出来る。その代表的な方法として、下記のような方法を挙げることが出来る。
(ア)ポリエステル合成時のエステル交換反応もしくはエステル化反応終了前に添加、もしくは重縮合反応開始前に添加する方法。
(イ)ポリエステルに添加し、溶融混練する方法。
(ウ)上記(ア)、(イ)の方法において酸化チタンや他の滑剤を多量添加したマスターペレットを製造し、これら添加剤を含有しないポリエステルと混練して、所定量の添加物を含有させる方法。
【0021】
なお、前記(ア)のポリエステル合成時に添加する方法を用いる場合には、酸化チタンや他の滑剤をグリコールに分散したスラリーとして、反応系に添加することが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、用途によるが1〜350μmであることが好ましく、10〜300μmであることがさらに好ましい。
【0024】
<アンカー層>
本発明におけるアンカー層は、ポリエステルフィルムと撥水性層との間に設けることにより、ポリエステルフィルムと撥水性層との密着性を強固なものとし、ポリエステルフィルムと撥水性層との間に水分を浸透させないことから、高温湿度下でのポリエステルフィルムの加水分解性を改善することができ、結果としてポリエステルフィルムの機械特性および電気絶縁性を良好なものとすることができる。本発明におけるアンカー層は、密着性の点からシラン化合物からなるシラン系アンカー層であることが好ましい。かかるシラン化合物としては、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノプロピル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これらの中でも、特にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましく例示される。該シラン化合物は、1種または2種以上を用いることができる。またアンカー層としては、テトラアルコキシシランおよび/またはその部分加水分解の塗液より形成される酸化ケイ素膜であってもよい。
【0025】
本発明におけるアンカー層は、上述のシラン化合物からなる水溶性塗液をポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗布した後、乾燥して得られる。かかるアンカー層の形成方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、スクリーンコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、キスコート法などが挙げられるが、これらの方法に限ったものではない。
【0026】
本発明におけるアンカー層の厚みは、乾燥後で0.005〜0.2μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.1μmである。アンカー層の厚みが下限に満たない場合、接着機能を十分に発揮することができないことがある。また、アンカー層の厚みが上限を超える場合、ブロッキングを起こし易くなることがある。
【0027】
<撥水性層>
本発明における撥水性層は、アンカー層を介してポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に積層される。本発明における撥水性層は、好ましくはシリコーン樹脂からなり、例えば紫外線硬化性シリコーン樹脂または熱硬化性シリコーン樹脂が例示される。かかるシリコーン樹脂の中でも、特に熱硬化性シリコーンが好ましく、ポリジメチルシロキサンの末端基および側鎖の一部に、ビニル基、水酸基、フェニル基などを有し、白金、酸化錫等の触媒を用いて、1分子中に少なくとも1個の、珪素原子に直接結合した水素原子を有しているハイドロジェンシランと硬化させて得られるシリコーン樹脂が例示される。また、本発明で用いられるシリコーン樹脂は、撥水性層の水接触角が90度以上である範囲内で、下記式で表わされるD単位、T単位及びQ単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有するシリコーン樹脂を配合しても良い。
【0028】
【化1】

(式中、R、R、Rはそれぞれメチル基またはフェニル基であり、R1〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0029】
本発明における撥水性層は、撥水性層の水接触角が90度以上である必要がある。水接触角は、好ましくは95度以上、より好ましくは100度以上である。ここで、本発明の撥水性層の水接触角とは、試料片を水平に置き、撥水性層側の面を上にして、JISR3257の静滴法に従い、容量1mlの注射器により水を1滴滴下して、試料片上に1μl以上4μl以下の水滴をつくり、角度測定器がついた顕微鏡により、1分間静置後の水接触角θを読み取った値である。かかる接触角が下限に満たない場合、水がフィルムに接する面積が大きく、フィルム内部に水が浸透しやすくなるため、ポリエステルフィルムの加水分解性が低下し、機械特性および電気絶縁性が低下する。
【0030】
本発明における撥水性層の水接触角が上述の範囲を達成するためには、撥水性層を形成するシリコーン樹脂におけるポリジメチルシロキサン配合量が70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0031】
本発明における撥水性層は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、n−ヘキサンなどの有機溶剤およびそれらの混合物、上述のシリコーン化合物および触媒とからなる塗液を、アンカー層のポリエステルフィルムと反対側の面に塗布した後、乾燥して得られる。かかる撥水性層の形成方法としては、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、スクリーンコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法などが挙げられるが、これらの方法に限ったものではない。
【0032】
本発明における撥水性層の厚みは、乾燥後で30〜300nmであることが好ましく、より好ましくは50〜200nmである。撥水性層の厚みが下限に満たない場合、撥水機能を十分に発揮することができないことがある。また、撥水性層の厚みが上限を超える場合、ブロッキングを起こしやすくなることがある。
【0033】
<他塗布層>
本発明の積層ポリエステルフィルムは、各種の機能を付与するために、ポリエステルフィルムのアンカー層および撥水性層を積層させる面とは反対側の面に、他塗布層を形成してもよい。かかる塗布層を形成するバインダー樹脂として、例えばポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、およびポリオレフィン、ならびにこれらの共重合体やブレンド物が挙げられる。なかでもポリエステル、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタンが好ましく例示される。かかるバインダー樹脂は、更に架橋剤を加えて架橋されたものでも良い。コーティング塗剤の溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶媒および混合物が使用でき、更に水を溶媒としてもよい。本発明の塗膜層は、塗膜を形成する成分として、さらにポリアルキレンオキサイドなどの界面活性剤および不活性粒子を含んでいてもよい。
【0034】
<製膜>
本発明における二軸配向積層ポリエステルフィルムは、テンター法、インフレーション法等の従来知られている製膜方法を用いて製造することができる。
【0035】
例えば、予め乾燥したポリエステル樹脂を280〜300℃に加熱された押出機に供給し、Tダイよりシート状に成形する。このTダイより押し出されたシート状成形物を表面温度10〜60℃の冷却ドラムで冷却固化し、この未延伸フィルムをロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。かかる延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸温度はポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)より高い温度、更にはTgより20〜40℃高い温度とするのが好ましい。縦延伸倍率は、使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.5倍以上4.0倍以下、更に好ましくは2.8倍以上3.9倍以下である。縦延伸倍率が2.5倍以下ではフィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られない場合がある。また、縦延伸倍率が4.0倍以上では製膜中に破断が発生し易くなる。
【0036】
得られた縦延伸フィルムは、続いて横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸処理は、ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)より20℃高い温度から始め、ポリエステル樹脂の融点(Tm)より(120〜30)℃低い温度まで昇温しながら行う。この横延伸開始温度は(Tg+40)℃以下であることが好ましい。また横延伸最高温度は、Tmより(100〜40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸開始温度が低すぎるとフィルムに破れが生じやすい。また横延伸最高温度が(Tm−120)℃より低いと、得られたフィルムの熱収縮率が大きくなり、また幅方向の物性の均一性が低下しやすい。一方横延伸最高温度が(Tm−30)℃より高いと、フィルムが柔らかくなりすぎ、製膜中にフィルムの破れが起こり易い。
【0037】
横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、通常は逐次的に昇温する。例えばステンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、各ゾーンごとに所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0038】
横延伸倍率は、この用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上4.0倍以下とするのが好ましい。更に好ましくは、2.8倍以上3.9倍以下である。横延伸倍率を2.5倍に満たないとフィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られないことがあり、一方4.0倍を超えると製膜中に破断が発生し易くなることがある。なお、アンカー層は1軸延伸後のフィルムの少なくとも一方の面にアンカー層用塗剤を塗布し形成する。
【0039】
2軸延伸されたフィルムはその後、熱固定処理が施される。さらに、得られた熱固定処理後の二軸配向ポリエステルフィルムのアンカー層上に、シリコーン樹脂からなる塗剤を塗布して撥水性層を設け、150℃で20秒間加熱乾燥を行い、乾燥後の厚みが30〜300nmの撥水性層を形成する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0041】
1.接触角
接触角の測定法は、平板状の試料片を水平に置き、撥水性層側の面を上にして、JISR3257の静滴法に従い、容量1mlの注射器により水を1滴滴下して、試料片上に1μl以上4μl以下の水滴を静置した。ついで角度測定器がついた顕微鏡により、1分間静置後の水接触角θを読み取った。
【0042】
2.撥水性層の接着性
試験片(50mm×50mm)を60℃、80%RHの恒温恒湿槽に1週間投入した後、取り出して撥水性層側の面を指で10回こすり、下記基準で接着性を評価した。
○ 撥水性層の剥離あり
× 撥水性層の剥離なし
【0043】
3.耐加水分解性
100mm長×5mm幅の短冊状の試料片を、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製のクリップで吊り下げる。750時間経過後に環境試験機からフィルムを取り出し、23℃で24hr静置後、オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いてチャック間距離50mm、引張速度100mm/分で引張応力を測定し、下記式に従って750時間経過時の強度保持率を算出した。測定は5回行い、その平均値より下記基準で耐加水分解性を判定した。
強度保持率(%)=(750時間経過時の引張応力/初期の引張応力)×100
○:強度保持率 50%以上
△:強度保持率 25%以上
×:強度保持率 25%未満
【0044】
4.絶縁破壊強度
JIS C2151記載の平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製 ITS−6003を用いて、速度1(KV/秒)で電圧を昇圧し、フィルム破断時の電圧を電圧計で読み取り絶縁破壊電圧を測定した。なお、測定は二軸配向積層ポリエステルフィルムを用いて行ない、初期の絶縁破壊電圧および、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内で750時間処理し、その後23℃で24hr放置後の絶縁破壊電圧をそれぞれ測定した。
○: 絶縁破壊電圧 20kV以上
△: 絶縁破壊電圧 10kV以上
×: 絶縁破壊電圧 10kV未満
【0045】
[実施例1]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応させた後、トリエチルホスホノアセテート0.042重量部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN Tg=121℃)を得た。
【0046】
このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出し機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0047】
この未延伸フィルムを140℃で縦方向(長手方向)に3.0倍延伸し、一軸延伸後のポリエステルフィルムの両面に、アンカー層としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む水溶液を、キスコート法を用いて塗布し、その後、140℃で横方向(幅方向)に2.8倍に逐次に二軸延伸し、さらに熱固定温度250℃で10秒間熱固定処理し、乾燥後のアンカー層厚みが0.08μmであり、総厚250μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得てロールに巻き取った。
【0048】
得られた二軸配向ポリエステルフィルムのアンカー層の上に、さらに撥水性層を形成する塗液としてポリアルキルアルケニルシロキサンからなる付加反応型シリコーンおよびポリアルキル水素シロキサンを含むシリコーン溶液[東芝シリコーン(株)商品名TPR―6700]100重量部に白金化合物からなる硬化剤[東芝シリコーン(株)商品名CM―670]2重量部を加え、メチルエチルケトン(MEK)、トルエンの溶剤で希釈し、固形分2%の溶液を調製し、これを両面にバーコーターを用いて塗布したものを140℃の乾燥機で滞留時間1分乾燥し、熱硬化性シリコーンからなる、乾燥後の撥水性層の膜厚が0.05〜0.1μmの撥水性層を形成した。
得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの特性は表1の通りである。該積層ポリエステルフィルムをロール状に巻き取った時の表面をa面、裏面をb面として水の接触角をそれぞれ測定した。本実施例のフィルムは、撥水性層の接着性が十分であり、加水分解性および電気絶縁性に優れていた。
【0049】
[実施例2]
撥水性層を形成する塗液として、ポリアルキルシロキサンからなる縮合反応型シリコーンおよびポリアルキル水素シロキサンを含むシリコーン溶液[東芝シリコーン(株)商品名YSR―3022]100重量部にジアルキルスズ化合物からなる硬化剤[東芝シリコーン(株)商品名YC―6831]5重量部を加え、MEK、メチルイソブチルケトン、キシレンの溶剤で希釈し固形分2%の溶液とした以外は実施例1と同様にして二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、撥水性層の接着性が十分であり、加水分解性および電気絶縁性に優れていた。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様にして、二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルムを得、フィルムの一方の面に、実施例1と同じ種類のアンカー層として実施例1と同じ種類の塗剤を用いてフィルムの一方の面にキスコート法により塗布し、その後実施例1と同様の方法によって横方向に延伸、熱固定処理を施した。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの、アンカー層が形成された片面上に、さらに実施例1と同様の方法によって撥水性層を形成し、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。また、アンカー層および撥水性層を形成しない面にはエポキシ樹脂[荒川化学(株)商品名コンポセランAD01]49.8部に白金化合物からなる硬化剤[荒川化学(株)商品名コンポセランE103]20部を加え、バーコーターを用いて乾燥後の膜厚が1.0〜20.0μmになるよう塗布し金属板(鉄)と圧着した。
【0051】
耐加水分解性の評価である初期引張応力の測定は、金属板を圧着させたサンプルの金属板部分を塩酸で溶解して、得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムを水洗い後、23℃で24hr放置した後に行った。750時間経過時の耐加水分解性の評価は、金属板を圧着させたサンプルを用いて750時間加水分解処理を行った後、上述の方法に従って金属板を除去した後、引張応力を測定した。接触角、撥水性層の接着性の評価は、二軸配向積層ポリエステルフィルムを用いて行った。得られた特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、撥水性層の接着性が十分であり、加水分解性に優れていた。
【0052】
[比較例1]
アンカー層および撥水性層を形成しない以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムは、水の接触角が90度に満たないため撥水性能が不十分であり、十分な加水分解性が得られず、長期の高温高湿処理後の絶縁破壊強度も低下した。
【0053】
[比較例2]
アンカー層を形成しない以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルムの両面に撥水性層を有する二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルム積層体を得た。得られた二軸配向ポリエチレン―2,6―ナフタレートフィルム積層体の特性を表1に示す。本比較例のフィルムは、撥水性層のポリエステルフィルムに対する接着性が不十分なため、十分な加水分解性が得られず、長期の高温高湿処理後の絶縁破壊強度も低下した。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムは、電気絶縁性が良好で、高温湿度下での耐加水分解性に優れることから、電気電子部材に好適な電気絶縁用途に用いることができ、特にモータのスロットライナーまたはウエッジ用に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、アンカー層、撥水性層が順次積層され、該撥水性層表面の水接触角が90度以上であることを特徴とする電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルフィルムがポリエチレン−2,6−ナフタレ−トからなる請求項1に記載の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
アンカー層がシラン系アンカー層である請求項1または2に記載の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
撥水性層がシリコーン樹脂からなる請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
モータのスロットライナーまたはウエッジに用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−130730(P2006−130730A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320648(P2004−320648)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】