説明

電気脱イオン装置

【課題】被処理水中に硬度成分が含まれていても、スケールを発生させることなく、長期間安定的にかつ安価で効率よく運転可能な電気脱イオン装置を提供する。
【解決手段】電気脱イオン装置は、陰極12と陽極11との間に、複数のアニオン交換膜13とカチオン交換膜14とを交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、この濃縮室15にバイポーラ膜20を設けて濃縮室15内を陰極側区画室15Aと陽極側区画室15Bとに区画してなる。そして、陰極側区画室15Aの濃縮水の少なくとも一部は、被処理水として脱塩室16に供給されるとともに、陽極側区画室15Bに供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなる電気脱イオン装置に関し、特に、濃縮室の構成を改良することにより、脱塩室や濃縮室でのスケールの発生を防止した電気脱イオン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業等の各種の産業又は民生用ないし研究施設等において使用される脱イオン水の製造には、図4に示すような、電極(陽極11,陰極12)の間に複数のアニオン交換膜(A膜)13及びカチオン交換膜(C膜)14を交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、脱塩室16にイオン交換樹脂、イオン交換繊維又はグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合又は複層状に充填した電気脱イオン装置が多用されている(特許文献1〜3参照)。なお、図4において、17は陽極室、18は陰極室であり、10はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合樹脂である。
【0003】
電気脱イオン装置は、水解離によってHイオンとOHイオンを生成させ、脱塩室内に充填されているイオン交換体を連続して再生することによって、効率的に脱塩処理を行うものである。この電気脱イオン装置は、従来から広く用いられてきたイオン交換樹脂装置のように薬品を用いた再生処理を必要とせず、完全な連続採水が可能で、高純度の水が得られる、という優れた効果を発揮する。
【0004】
しかしながら、浄水場等で河川水、地下水等を除濁、脱塩素、軟化処理した水道水を電気脱イオン装置の被処理水として直接用いた場合や被処理水のカルシウム濃度が高いと、(1)濃縮室内でのスケール発生や(2)CO負荷増大による処理水導電率の悪化等が起こることから、水道水を直接電気脱イオン装置の被処理水として通水することは行われていない。
【0005】
上記(1),(2)の問題点のうち、(2)のCO負荷の増大については、比較的安価な脱気膜や脱炭酸塔などの脱炭酸装置を電気脱イオン装置の前処理装置として用いることにより解決できる。
【0006】
しかしながら、(1)の濃縮室内でのスケールを防止するためには更に軟化装置等を設置して水中の硬度成分を完全に除去することが必要となるが、軟化装置を用いた場合にはその再生が必要となり、再生不要の電気脱イオン装置を用いることによる利点が失われてしまう。
【0007】
このような問題点を解決するために、従来から電気脱イオン装置の前処理装置として、硬度成分及びCO濃度を低減するために、一般的に逆浸透膜装置(RO膜装置)、脱炭酸塔などを設置する方法が用いられている。
【0008】
しかしながら、RO膜装置は0.5〜2MPaという高圧で運転することから、高価な設備が必要となり、運転費用も上昇する。しかも、電気脱イオン装置の前処理装置としてRO膜装置を用いた場合でも、RO膜からわずかにリークしてくるカルシウムによって、電気脱イオン装置の濃縮室内で炭酸カルシウムスケールが発生するため、長期間安定運転を行うことはできないという問題もあった。
【0009】
そこで、RO膜装置を直列に2段配置してカルシウム等をさらに除去することも行われているが、経費等の点で実用的でない。このため、通常の給水条件において1段のRO膜装置で処理できる場合には、1段のRO膜装置で純水製造システムを設計せざるをえず、かかる場合には、突発的にCa濃度や炭酸濃度が増加する等の給水条件の悪化や、RO膜装置の破過等に対応できず、濃縮室内でスケールが発生する懸念がある。
【0010】
このような電気脱イオン装置において、スケールが発生するメカニズムを、図5を参照して説明する。
電気脱イオン装置のスケール発生因子として最も問題となるのが炭酸カルシウムである。電気脱イオン装置では、濃縮室の供給水として一般的に被処理水が分岐して用いられる。この濃縮室15内においては、カチオン交換膜14側の脱塩室16からカルシウムイオン(Ca2+)がイオン交換されて透過し、電気的作用によってアニオン交換膜13の表面に近づいてくる。一方、アニオン交換膜13側の脱塩室16からは炭酸水素イオン(HCO)が透過する。そして、濃縮室15内では、カルシウムイオン(Ca2+)又は炭酸水素イオン(HCO)の濃度がどちらか一方でも高くなると、以下(1),(2)の反応により炭酸カルシウム(CaCO)が形成される。
HCO + OH → CO2− + HO …(1)
Ca2+ + CO2− → CaCO …(2)
【0011】
このようにして濃縮室15内でスケールが発生すると、電気抵抗が上昇し、電圧値を一定に保てなくなるため、安定した処理性能を維持できなくなる。しかも、上記反応は不可逆反応であるため、上記反応が進行した場合には、モジュールの洗浄や、さらに放置し続けると最終的には装置の交換という事態もあり得る。
【0012】
また、一般に、炭酸カルシウムの飽和条件は下記式で表される。
log[Ca2+]+log[HCO]+pHs=log(Ks/K)
Ks:炭酸カルシウムの溶解度積
:炭酸の第2解離定数
pHs:炭酸カルシウムの飽和pH
【0013】
実際の水溶液中のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差は、ランジェリア指数(LSI)と呼ばれ、
LSI=pH−pHs>0
となると炭酸カルシウムが析出することになる。
【0014】
電気脱イオン装置の濃縮室15内にも、脱塩室16内の水解離で発生したOHイオンがアニオン交換膜13側から透過してくるため、局所的にアルカリ性となっている。そのため、アニオン交換膜13の表面でのLSIは正(>0)となることから、この濃縮室15内のアニオン交換膜13の近傍に、炭酸カルシウムスケールが析出することになる。また、水酸化カルシウムが形成されることもあり得る。
【0015】
そこで、本出願人はこのような濃縮室内でのスケール発生の問題を解消するものとして、濃縮室内にバイポーラ膜を具備する電気脱イオン装置について先に提案した(特許文献4参照)。
【特許文献1】特許第1782943号公報
【特許文献2】特許第2751090号公報
【特許文献3】特許第2699256号公報
【特許文献4】特開2001−198577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献4に記載された電気脱イオン装置により、濃縮室のスケールは抑制されるが、被処理水中に硬度成分が多く含まれる場合には、前処理装置としてRO膜装置を用いた場合であっても、RO膜からリークする硬度成分であるカルシウムやマグネシウム、そしてCOによって、脱塩室内においては水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等が発生し、濃縮室内で炭酸カルシウムスケール等が発生するおそれがあり、原水である被処理水の水質、すなわち硬度成分の含有量によっては、長期間安定運転を行うことはできないという問題があった。
【0017】
また、バイポーラ膜によって区画された陽極側の濃縮室で水酸化物イオンが過剰に生成するので、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのスケールが発生し易くなるという問題があった。
【0018】
そこで、RO膜装置を多段にして、処理水をさらにRO膜処理することで、硬度成分やCOをさらに低減することが考えられるが、前述したように付帯設備の増加と運転費用の上昇が問題となる。そして、このことが、電気脱イオン装置が広く一般産業ないし民生用の脱イオン水の製造装置として普及していくために解決すべき課題となっていた。
【0019】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、被処理水中に硬度成分が多く含まれていても、スケールを発生させることなく、長期間安定的にかつ安価で効率よく運転可能な電気脱イオン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成し、前記濃縮室にバイポーラ膜を設けて、当該濃縮室内に陰極側区画室と陽極側区画室とを形成した電気脱イオン装置において、前記陰極側区画室の流出水の少なくとも一部を前記脱塩室及び/又は陽極側区画室に供給する流路を有する電気脱イオン装置を提供する(請求項1)。
【0021】
上記発明(請求項1)によれば、濃縮室内にバイポーラ膜を配置することで、アニオン交換膜側の脱塩室から濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜側から透過してきたカルシウムイオンとは、それぞれバイポーラ膜により遮断されるため、濃縮室内で炭酸カルシウムを形成することがない。これにより、濃縮室内での炭酸カルシウムスケールの発生を防止することができる。さらに、アニオン交換膜側から透過してくる脱塩室内の水解離で発生した水酸化物イオン(OH)もバイポーラ膜により遮断されるため、濃縮室内で水酸化カルシウムを形成することもない。このとき、陰極側区画室内は、バイポーラ膜の界面での水解離で発生した水素イオンが供給されることにより酸性となっているため、この陰極側区画室の濃縮水を脱塩室に供給することで、被処理水のpHを低下させることができ、これにより過剰な水酸化物イオン(OH)に起因する水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのスケールの発生を防止することができる。また、陰極側区画室の濃縮水を濃縮室の陽極側区画室に供給することで、陽極側区画室の給水のpHを低下させることができ、これにより過剰な水酸化物イオン(OH)に起因する水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのスケールの発生を防止することができる。さらに、陰極側区画室の濃縮水を陽極側区画室に供給することで、陽極側区画室内のイオンの絶対量が増えるので、バイポーラ膜の設置による電圧の上昇抑制効果も奏する。
【0022】
上記発明(請求項1)においては、前記バイポーラ膜は、アニオン交換層面が陽極側に位置し、カチオン交換層面が陰極側に位置するように設けられていることが好ましい(請求項2)。
【0023】
上記発明(請求項2)によれば、アニオン交換膜側の脱塩室から濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜側から透過してきたカルシウムイオンとを遮断するとともに、アニオン交換膜側から透過してくる脱塩室内の水解離で発生した水酸化物イオン(OH)もバイポーラ膜により遮断することができる。
【0024】
上記発明(請求項1,2)においては、前記脱塩室及び/又は陽極側区画室への流路の途中に、脱炭酸装置が設けられていることが好ましい(請求項3)。陰極側区画室の濃縮水には、水素イオンだけでなく、COに起因する炭酸イオン等が存在しており、これが脱塩室や陽極側区画室に供給されると、脱塩室や陽極側区画室内でカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムが発生するおそれがあるが、かかる発明(請求項3)によれば、あらかじめ脱炭酸装置を経由させることでCOの除去を行うことができ、炭酸カルシウムスケールの発生を防止することができる。しかも、陰極側区画室の濃縮水は酸性であるため、脱気膜等の脱炭酸装置による脱炭酸を効果的に行うことができるという効果も奏する。
【0025】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記濃縮室内にイオン交換体を充填することが好ましい(請求項4)。かかる発明(請求項4)によれば、濃縮室内にイオン交換体を充填することによって、イオンが流れやすくなるので、バイポーラ膜の設置による電圧の上昇を抑制することができる。
【0026】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記脱塩室内にイオン交換体を充填することが好ましい(請求項5)。かかる発明(請求項5)によれば、脱塩室内で得られる脱イオン水の水質をより向上させることができる。
【0027】
さらに、上記発明(請求項1〜5)においては、前記脱塩室の流出水の一部を前記濃縮室の流入側へ供給する流路を設けることが好ましい(請求項6)。かかる発明(請求項6)によれば、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合であっても脱イオン水の一部を濃縮室に導入することで、濃縮室の循環水を脱イオン水で希釈してカルシウム濃度を低減することができ、これにより、スケールの発生を一層防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の電気脱イオン装置によれば、濃縮室内にバイポーラ膜を配置することにより、濃縮室内で炭酸水素イオンや水酸化物イオンとカルシウムイオンとが会合することがないので、濃縮室内で炭酸カルシウムや水酸化カルシウムの形成を抑制することができ、被処理水中に硬度成分が含まれていても濃縮室内にスケールを発生させることなく、電気脱イオン装置を長期間安定に運転することができる。また、陰極側区画室の濃縮水を脱塩室及び/又は陽極側区画室に供給することで、過剰な水酸化物イオン(OH)に起因する水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのスケールの発生を防止することができる。さらに、前処理装置として必要とされていたRO膜装置を最小限に抑えることができ、設備コスト、処理コストの低減を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気脱イオン装置を示す概略構成図であり、図2は、同実施形態に係る電気脱イオン装置の濃縮室の拡大断面図であり、図3は、同実施形態に係る電気脱イオン装置を備えた純水製造システムを示す系統図である。なお、図1〜図3においては、図4及び図5に示す従来の電気脱イオン装置と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0030】
本実施形態に係る電気脱イオン装置は、濃縮室15内にバイポーラ膜20を設けて濃縮室15を区画し、濃縮室15内に陰極側区画室15Aと陽極側区画室15Bとを形成し、この濃縮室15内にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合樹脂21を充填した以外は、図4に示す従来の電気脱イオン装置と同様の構成を有している。
【0031】
このバイポーラ膜20は、陽極11側にバイポーラ膜20のアニオン交換層面20Bが位置し、陰極12側にバイポーラ膜20のカチオン交換層面20Aが位置するように濃縮室15内に設置されている。
【0032】
なお、本実施形態で用いるバイポーラ膜20としては、アニオン交換層とカチオン交換層とを有し、水電解効率が高いものであればよく、特に制限はない。また、場合によっては、アニオン交換膜とカチオン交換膜とを重ね合わせて用いてもよい。
【0033】
このような電気脱イオン装置において、陰極側区画室15A及び陽極側区画室15Bには、イオン交換体、特にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合樹脂21が充填されているのが好ましい。
【0034】
この混合樹脂21におけるアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との体積比率は、特に制限はないが、アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂が10/90〜90/10、特に30/70〜70/30であるのが好ましい。これにより陰極側区画室15Aでは、バイポーラ膜20の界面において水解離によって発生した水素イオンの移動が促進される一方、陽極側区画室15Bでは、バイポーラ膜20の界面における水解離によって発生した水酸化物イオンの移動が促進される。この結果、電流が流れやすく、電圧の上昇を抑制することができる。
【0035】
なお、混合樹脂21は、陰極側区画室15Aと陽極側区画室15Bとで、アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂の体積比率を変更してもよいし、陰極側区画室15A、陽極側区画室15B内の上下でもアニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂の体積比率を変更してもよい。
【0036】
上述したような電気脱イオン装置の陰極側区画室15Aの濃縮水の少なくとも一部は、被処理水として脱塩室16に供給されるとともに、陽極側区画室15Bに供給される。具体的には、図3に示すような純水製造システムにおいて適用することができる。
【0037】
すなわち、図3に示すように、純水製造システムは、被処理水Wが供給される逆浸透膜(RO膜)装置31と、このRO膜装置31を透過したRO処理水W1を処理する脱炭酸装置たる脱気装置32と、この脱気装置32で得られる脱気水W2を脱塩室16において処理して処理水(脱イオン水)W3を製造する電気脱イオン装置33とを備える。
【0038】
そして、この電気脱イオン装置33の脱塩室16は、主流路R1を経由してサブシステム等に連通している。また、脱塩室16は、主流路R1から分岐した流路R2,R3を経由して、陽極室17及び陰極室18に連通しているとともに、流路R4,R5を経由して、陰極側区画室15A及び陽極側区画室15Bに連通している。
【0039】
そして、陰極側区画室15Aから排出される濃縮水の流路R6は、排出側に開放しているとともに一部が脱気装置32の上流で主流路R1に合流している。さらに、流路R6の途中で分岐した流路R7が陽極側区画室15Bに連通した流路R5に合流している。なお、図3中において、B1〜B8は流量調節機構であり、必要に応じて各流路における流量を所望の値に制御可能となっている。
【0040】
次に、このような構成を有する電気脱イオン装置の作用について説明する。
図3に示すように、まず主流路R1の起端部から被処理水WをRO膜装置31に供給して、RO膜装置31で処理を行い、被処理水Wに含まれるカルシウム、シリカ等を除去する。
【0041】
そして、このRO膜装置31で処理したRO処理水W1を脱気装置32に供給し、RO処理水W1に含まれている炭酸イオン等を二酸化炭素として除去した後、得られた脱気水W2を電気脱イオン装置33の脱塩室16に供給する。
【0042】
この電気脱イオン装置33では、脱気水W2は、脱塩室16でカルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン等のイオン性の不純物が除去された処理水(脱イオン水)W3として主流路R1からサブシステム等に供給される。
【0043】
また、この処理水W3の一部は、主流路R1から分岐した流路R2,R3を経由して、電気脱イオン装置33の陽極室17及び陰極室18に供給されるとともに、流路R4,R5を経由して、濃縮室15、すなわち陰極側区画室15A及び陽極側区画室15Bに供給される。
【0044】
このとき、図2に示すように、電気脱イオン装置33の濃縮室15内には、バイポーラ膜20が設けられているので、アニオン交換膜13側の脱塩室16から濃縮室15内に透過してきた炭酸水素イオン及び水酸化物イオンは、バイポーラ膜20を透過することができず、カチオン交換膜14側から透過してきたカルシウムイオン及び水素イオンもバイポーラ膜20を透過することができない。このため、濃縮室15内での炭酸カルシウムスケールの発生が防止される。なお、説明の便宜上、図2及び図3においては、混合樹脂21は省略してある。
【0045】
このとき、バイポーラ膜20内では、理論水電解電圧(0.83V)以上の電圧を印加することによって水解離が発生するので、電流が流れる。このため、バイポーラ膜20を濃縮室15内に設置することで、電気脱イオン装置33の脱イオン性能が損なわれることはない。
【0046】
このような作用により、陰極側区画室15A内は、バイポーラ膜20の界面での水解離で発生した水素イオンが供給されることにより酸性になっている。そこで、この陰極側区画室15Aの濃縮水W4の一部を、流路R6を経由して脱気装置32の上流で主流路R1に合流させるとともに、この流路R6の途中で分岐した流路R7から流路R5に合流させる。
【0047】
この脱気装置32の上流でRO処理水W1に合流した濃縮水W4中には、炭酸イオン等が含まれているので、まず脱気装置32によって、脱炭酸が行われる。このとき、濃縮水W4は酸性であるため、脱気装置32による脱炭酸がより効率的に行われる。
【0048】
その後、得られた脱気水W2は、脱塩室16に再供給されるが、この脱気水W2は、酸性の濃縮水W4が混合されることによりpHが低下している。このため、脱塩室16内で水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等の水酸化物イオンに起因するスケールの発生を抑制することができる。
【0049】
この濃縮水W4のRO処理水W1への供給量は、脱塩室16内である程度のpHの低減効果が得られる量であればよく、RO処理水W1に対して1〜15%程度であればよい。
【0050】
なお、濃縮水W4は、脱気装置32を経由することなく、脱塩室16に供給してもよく、濃縮水W4を、脱気装置32を経由させて脱塩室16に供給するかしないかは、脱塩室16に再供給される炭酸イオンの量と被処理水中の硬度成分等を考慮して決定すればよい。
【0051】
濃縮水W4は、流路R7から流路R5を流れる処理水(脱イオン水)W3に合流して、陽極側区画室15Bにも供給されることで、この陽極側区画室15Bを流通する処理水(脱イオン水)W3も同様にpHが低下する。これにより、陽極側区画室15B内での水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等のスケールの発生を抑制することができる。さらに、酸性の濃縮水W4の流入により、陽極側区画室15B内のイオンの絶対量が増えるので、バイポーラ膜20の設置による電圧上昇の抑制効果も得ることができる。
【0052】
この濃縮水W4の処理水(脱イオン水)W3への供給量は、陽極側区画室15B内である程度のpHの低減効果が得られる量であればよく、処理水W3に対して1〜10%程度であればよい。
【0053】
なお、本実施形態においては、陽極側区画室15Bへの流路R5及び流路R7には、脱気装置を設置していないが、濃縮水W4中の炭酸イオンにより炭酸カルシウムが発生する可能性がある場合には、流路R5又は流路R7に脱気装置を設置してもよい。このようにすることで、電流が流れ易くなり安定した処理水水質が得られることになる。
【0054】
なお、濃縮室15内にバイポーラ膜20を配置しただけでは、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合には、スケールが発生するおそれがあるため、図3に示すように、脱塩室16の脱イオン水(処理水)W3の一部を濃縮室15(陰極側区画室15A及び陽極側区画室15B)に導入することが好ましい。これにより、濃縮室循環水を脱イオン水W3で希釈することができ、濃縮室循環水のカルシウム濃度を低減することができる。同様に電極室(陽極室17及び陰極室18)内の水も、脱イオン水を用いることが好ましい。
【0055】
本実施形態に係る電気脱イオン装置においては、濃縮室15内に陰極側区画室15Aと陽極側区画室15Bを形成し、この濃縮室15内にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合樹脂21を充填しているが、脱塩室16内に、イオン交換樹脂、イオン交換繊維又はグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合又は複層状に充填することが、得られる脱イオン水の向上の面で好ましい。さらに、陽極室17及び陰極室18にイオン交換体を充填してもよい。
【実施例】
【0056】
以下、比較例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の比較例及び実施例で用いた試験装置は、下記の装置を活性炭装置、電気脱イオン装置の順で直列に配置したものである。
活性炭装置:栗田工業社製「クリコールKW10−30」
電気脱イオン装置:栗田工業社製「クリテノンSH型」
処理水量:100L/hr
【0057】
また、試験用の被処理水(市水)として以下のものを用意した。
被処理水:給水Ca濃度28ppm(CaCO換算)
給水CO濃度29ppm(CaCO換算)
【0058】
〔比較例1〕
電気脱イオン装置のイオン交換膜及び脱塩室に充填するイオン交換樹脂として以下のものを用い、上記被処理水を電流値6.5A、水回収率80%、入口導電率170μS/cm、濃縮室初期流量25L/hrの条件で通水を行い、得られる処理水の1週間後、1月後、2月後及び3月後の濃縮室の差圧、及び印加電圧の経時変化を測定した。
結果を表1に示すとともに、初期状態における印加電圧及び出口導電率を示す。
なお、濃縮室循環水の補給水及び電極室水としては、被処理水を用いた。
【0059】
アニオン交換膜:旭化成工業社製「アシプレックスA501SB」
カチオン交換膜:旭化成工業社製「アシプレックスK501SB」
イオン交換樹脂:アニオン交換樹脂(三菱化学社製,「SA10A」)とカチオン交換樹脂(三菱化学社製,「SK1B」)とを6:4の体積混合比率で混合したもの。
【0060】
〔比較例2〕
比較例1で用いた電気脱イオン装置の濃縮室にバイポーラ膜を設けるとともに、濃縮室にイオン交換樹脂を充填して図1に示す電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いたこと以外は同様にして、通水試験を行った。
結果を表1に示す。
なお、バイポーラ膜としては(株)アストム製CMS(商品名)を用いた。また、イオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂は、比較例1で脱塩室に充填したものと同じである。
【0061】
〔実施例1〕
比較例2の電気脱イオン装置において、陰極側区画室の濃縮水流路から陽極側区画室の導入流路に合流する流路を設けて電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いて、陰極側区画室の濃縮水の5%を脱塩室からの脱イオン水とともに陽極側区画室に供給するようにした以外は同様にして、通水試験を行った。
結果を表1に示す。
【0062】
〔実施例2〕
比較例2の電気脱イオン装置において、陰極側区画室の濃縮水流路から脱塩室への導入流路に合流する流路を設けて電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いて、陰極側区画室の濃縮水の10%を被処理水とともに脱塩室に供給するようにした以外は同様にして、通水試験を行った。
結果を表1に示す。
【0063】
〔実施例3〕
比較例2の電気脱イオン装置において、陰極側区画室の濃縮水流路から陽極側区画室の導入流路に合流する流路を設けるとともに、陰極側区画室の濃縮水流路から脱塩室への導入流路に合流する流路を設けて電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いて、陰極側区画室の濃縮水の5%を脱塩室からの脱イオン水とともに陽極側区画室に供給するとともに、陰極側区画室の濃縮水の10%を被処理水とともに脱塩室に供給するようにした以外は同様にして、通水試験を行った。
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1より明らかなように、比較例1の電気脱イオン装置では1週間で濃縮室側の差圧が上昇してしまい、運転不能となった。また、比較例2においては、通水開始1週間後には電解電圧が増加していた。これに対し実施例1〜3の電気脱イオン装置では、電圧の増加も少なく、3月間安定して運転することができ、また、得られる処理水の水質も良好であった。特に、濃縮室と脱塩室との両方に陰極側区画室の濃縮水を供給した実施例3の電気脱イオン装置では、スケールの発生及び導電性の問題が大きく改善され、差圧及び電圧の上昇は殆ど起こらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気脱イオン装置を示す概略構成図である。
【図2】同実施形態に係る電気脱イオン装置の濃縮室におけるイオンの流れを示す断面図である。
【図3】同実施形態に係る電気脱イオン装置を用いた純水製造システムを示すフロー図である。
【図4】従来の電気脱イオン装置を示す概略構成図である。
【図5】従来の電気脱イオン装置の濃縮室におけるイオンの流れを示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
11…陽極
12…陰極
13…アニオン交換膜
14…カチオン交換膜
15…濃縮室
15A…陰極側区画室
15B…陽極側区画室
16…脱塩室
17…陽極室
18…陰極室
20…バイポーラ膜
21…混合樹脂(カチオン交換樹脂/カチオン交換樹脂)
32…脱気装置(脱炭酸装置)
33…電気脱イオン装置
W4…濃縮水(陰極側区画室の濃縮水)
R6…流路
R7…流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成し、前記濃縮室にバイポーラ膜を設けて、当該濃縮室内に陰極側区画室と陽極側区画室とを形成した電気脱イオン装置において、
前記陰極側区画室の流出水の少なくとも一部を前記脱塩室及び/又は陽極側区画室に供給する流路を有することを特徴とする電気脱イオン装置。
【請求項2】
前記バイポーラ膜は、アニオン交換層面が陽極側に位置し、カチオン交換層面が陰極側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気脱イオン装置。
【請求項3】
前記脱塩室及び/又は陽極側区画室への流路の途中に、脱炭酸装置が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気脱イオン装置。
【請求項4】
前記濃縮室内にイオン交換体を充填したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気脱イオン装置。
【請求項5】
前記脱塩室内にイオン交換体を充填したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気脱イオン装置。
【請求項6】
前記脱塩室の流出水の一部を前記濃縮室の流入側へ供給する流路を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気脱イオン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−36496(P2008−36496A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212051(P2006−212051)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】