説明

電気自動車用電力供給装置

【課題】バッテリを利用して走行する電気自動車において、DC/DCコンバータの変換ロス及び低圧バッテリの過充電ロスを省き、走行距離を伸ばす。
【解決手段】第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと負極端子8cの間に、第1低圧バッテリ10と第1補機12を並列に接続する。高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の残容量がともに許容最低量より多ければ、第1DC/DCコンバータ8の動作を停止させ、第1低圧バッテリ10が第1補機12に給電する状態で走行する。DC/DCコンバータ8で変換ロスが生じることもなく、第1低圧バッテリ10を過充電するロスも生じない。バッテリの充電電力を無駄に消費しないで走行することから走行距離が伸びる。高圧バッテリ2を満充電しておいてから走行する場合の距離が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、バッテリに充電しておいた電力で走行する電気自動車のための電力供給装置を開示する。その電気自動車には、内燃機関をも車載しており、必要時に内燃機関を運転して走行するいわゆるプラグインハイブリッド車が含まれる。あるいは、燃料電池で発電した電力をバッテリに充電しておいて走行する燃料電池車が含まれる。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、走行モータに電力を供給するバッテリを搭載している。電気自動車は、走行モータ以外に、様々な電動機器を搭載している。例えば、電動式パワーステアリング装置、空調機、オーディオ装置、ナビゲーション装置などの電動機器を車載している。
本明細書では、走行モータ以外の電動機器を補機という。走行モータに印加する電圧と補機に印加する電圧は相違し、前者は高圧で後者は低圧である。そこで、DC/DCコンバータを搭載し、走行モータに給電するバッテリの電圧を降圧し、降圧した電圧を補機に供給する手法がとられる。DC/DCコンバータで降圧した電力をバッテリに蓄電しておく手法も知られている。後者の場合、走行モータに給電する高電圧を蓄電しておく高圧バッテリと、補機に給電する低電圧を蓄電しておく低圧バッテリが併用される。高圧バッテリと低圧バッテリを併用する場合、DC/DCコンバータに対して補機と低圧バッテリを並列に接続し、補機への給電と低圧バッテリの充電を同時に実施する。
【0003】
特許文献1には、DC/DCコンバータに対して補機と低圧バッテリを並列に接続し、補機への給電と低圧バッテリの充電を同時に実施する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−110700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DC/DCコンバータに対して補機と低圧バッテリを並列に接続し、補機への給電と低圧バッテリの充電を同時に実施しながら走行する場合、高圧バッテリの電力が無駄に消費されるという問題がある。例えばDC/DCコンバータで降圧する際の効率が100%ではないことから、その分が無駄に消費される。また、低圧バッテリが十分に充電された後も充電電流が流れ続け、その分が無駄に消費されるという問題もある。通常は、過充電に対する耐性が強い種類の電池を低圧バッテリに採用することで低圧バッテリが過充電されても問題が生じないようにしている。過充電されることで機器が損傷することはないように設計されているが、過充電に伴うエネルギーロスには対処していない。
【0006】
本発明では、高圧バッテリに蓄電されている電力を無駄に消費することがない電力供給装置を提供する。無駄な消費を避けることで電気自動車の走行距離を伸ばすことができる電力供給装置を提供する。なお、本明細書における電気自動車とは、車載バッテリに充電しておいた電力を利用して走行する自動車を総称する。モータと内燃機関を併用し、必要時には内燃機関を運転して走行するプラグインハイブリッド車も、車載バッテリの充電電力を利用して走行することがあることから、電気自動車に含まれる。燃料電池自動車でも車載バッテリに充電しておいた電力を利用して走行する状態があることから、電気自動車に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る電力供給装置は、図1に模式的に示すように、高圧バッテリ2と、モータ駆動回路4と、第1DC/DCコンバータ8と、第1低圧バッテリ10と、第1補機12と、制御装置30を備えている。
モータ駆動回路4は、高圧バッテリ2の正極2aと負極2bの間に接続されており、高圧バッテリ2から供給された電力を走行用モータに供給する電力に変換する。第1DC/DCコンバータ8は、高圧バッテリ2の正極2aに接続されている高電圧端子8aと、高圧バッテリ2の負極2bに接続されている負極端子8cと、低電圧端子8bを備えており、高電圧端子8aの電圧を降圧して低電圧端子8bに出力する動作と、低電圧端子8bの電圧を昇圧して高電圧端子8aに出力する動作が可能である。第1低圧バッテリ10と第1補機12は、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと負極端子8cの間に並列に接続されている。制御装置30は、高圧バッテリ2の残容量が許容最低量よりも多く、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量よりも多い場合に、第1DC/DCコンバータ8の動作を停止させる。
【0008】
従来の電力供給装置によると、走行中は第1DC/DCコンバータ8に降圧動作させ、高圧バッテリ2からの電力を降圧して第1補機12に供給する。この際に、第1低圧バッテリ10が満充電されていれば、第1低圧バッテリ10は過充電される。従来の技術は、第1低圧バッテリ10の残容量が低下した場合にも対応できるものであり、第1低圧バッテリ10の残容量が低下することを防止できるために採用されたものであるが、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方が十分に充電されている間は、第1DC/DCコンバータ8で電圧変換する際に損失が生じる。また、高圧バッテリ2が低圧バッテリ10を過充電するという無駄も生じる。従来の電力供給装置によると、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10が十分に充電されている間に、無用なロスが生じる。
【0009】
図1の電力供給装置によると、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10が十分に充電されている間、すなわち、高圧バッテリ2の残容量が許容最低量よりも多くて第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量よりも多い間は、第1DC/DCコンバータ8が動作を停止する。第1DC/DCコンバータ8が動作を停止すると、第1低圧バッテリ10と第1補機12は、高圧バッテリ2から遮断された状態となる。第1補機12には第1低圧バッテリ10から給電されるので、第1補機12が高圧バッテリ2から遮断されても問題は生じない。この状態では、第1DC/DCコンバータ8は動作しないことから、電圧変換に伴う損失が生じることがない。また、高圧バッテリ2が低圧バッテリ10を過充電するという無駄も生じない。高圧バッテリ2に蓄電されていた電力を、第1DC/DCコンバータ8で生じるロスに消費したり、低圧バッテリ10を過充電するロスに消費することがない。エネルギーのロスが少ない状態で走行することから、車両の走行距離を伸ばすことが可能になる。非走行中にバッテリに充電しておいた電力を利用して走行する電気自動車の場合、走行開始時には高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方が十分に充電されている。そのために、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方が十分に充電されている状態で走行する機会が多い。上記のロスが避けられることの利点は、多くの機会に発揮される。
【0010】
請求項2に係る電力供給装置は、高圧バッテリ2の残容量が許容最低量よりも少なく、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量よりも多い場合に関する。この場合は、制御装置30が、第1DC/DCコンバータ8が昇圧動作するように制御する。
【0011】
第1DC/DCコンバータ8が昇圧動作すると、第1DC/DCコンバータ8で昇圧された電力がモータ駆動回路4へ供給される。第1低圧バッテリ10に蓄電されていた電力を使って走行を続けることができる。この場合、第1DC/DCコンバータ8において電圧変換に伴うロスが生じるが、この状態で走行を続ける期間は短い。全体として、本発明に係る電力供給装置は、第1DC/DCコンバータ8が常時に降圧動作または昇圧動作する従来の電力供給装置と比較して、電力の無駄な消費を減らすことができる。走行開始時における高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の合計蓄電容量が同じであるとすると、本発明に係る電力供給装置によると、従来の電力供給装置による場合よりも、長距離を走行することができる。
【0012】
請求項3は、充電回路が車載されている場合に関する。この場合、車両外から供給される電力を高圧バッテリ2の電圧に変換する充電回路が付加されている。車両外から電力が供給されている間は、制御装置30が第1DC/DCコンバータ8に降圧動作させる。
【0013】
上記によると、非走行中に車両外から供給される電力(例えば商用電力あるいは家屋の太陽電池で発電した電力を蓄積しておいた電力)を利用して、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10を充電することができる。高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10が十分に充電されている状態で走行する機会が増加する。
【0014】
請求項4に係る電力供給装置では、図2に模式的に示すように、第2DC/DCコンバータ14と第2補機18と第2低圧バッテリ16が付加されている。第2DC/DCコンバータ14は、高圧バッテリ2の正極2aに接続されている高電圧端子14aと、高圧バッテリ2の負極2bに接続されている負極端子14cと、低電圧端子14bを備えており、高電圧端子14aの電圧を降圧して低電圧端子14bに出力する動作が可能である。第2補機18と第2低圧バッテリ16は、第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bと負極端子14cの間に並列に接続されている。車両が走行するのに不可欠でない補機が第1補機12とされ、車両が走行するのに不可欠な補機が第2補機18とされている。
【0015】
第1補機12は、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の残容量に応じて、第1低圧バッテリ10から給電される状態から高圧バッテリ2から給電される状態に切り換わる。切り換わりの際に、何らかの不安定事象が生じないとはいえない。
車両が走行するのに不可欠な補機は第2補機18とし、高圧バッテリ2の電圧を第2DC/DCコンバータ14で降圧して第2補機18に供給するようにすれば、第2補機18に対する給電経路が切り換えられることがない。車両が走行するのに不可欠な補機を第2補機18にしておけば、信頼性が向上する。
【0016】
図2のように、第1DC/DCコンバータ8と第1補機12と第1低圧バッテリ10のセットと、第2DC/DCコンバータ14と第2補機18と第2低圧バッテリ16のセットを備えている場合、図3のように、第1低圧バッテリ10と第2低圧バッテリ16の定格電圧を同じにし、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第1低圧バッテリ10の間に、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第1低圧バッテリ10を接続する状態と、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bを接続する状態の間で切り換わるスイッチ20を挿入することが好ましい。
【0017】
この場合、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量よりも少なければ、制御装置30が、第1DC/DCコンバータ8の動作を停止させ、スイッチ20によって第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bを接続する状態に切り換える。
【0018】
上記装置の場合、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量よりも多い場合は、図3のA−C接点を接続する。図1を参照して説明した利点を享受することができる。
第1低圧バッテリ10の残容量が低下したら、図3のB−C接点を接続する。高圧バッテリ2の電力を第2DC/DCコンバータ14で降圧した電力を第1補機12に供給しながら走行を続けることができる。
スイッチ20は、第1低圧バッテリ10の正極と第2低圧バッテリ16の正極を接続することがない。第1低圧バッテリ10の出力電圧と第2低圧バッテリ16の出力電圧の間に相違が生じていても、問題が生じないように設定されている。
【発明の効果】
【0019】
図1の電力供給装置によると、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量以上である間は第1DC/DCコンバータ8が動作しないことから、第1DC/DCコンバータ8でロスが生じることもなければ、第1低圧バッテリ10を過充電するロスも生じない。高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10に蓄積されている電力を無駄なく使用して走行することができ、同一蓄電量で比較した場合の走行距離を伸ばすことができる。
【0020】
請求項2のように、高圧バッテリ2の残容量が先に低下して第1低圧バッテリ10に余裕がある場合には第1DC/DCコンバータ8に昇圧動作させると、第1低圧バッテリ10の電力を用いて走行することが可能となる。第1低圧バッテリ10の電力を用いて走行できるようにしておけば、高圧バッテリ2の容量を下げて第1低圧バッテリ10の容量を上げることができる。第1DC/DCコンバータ8を動作させないで走行する機会を増やすことができ、エネルギーロスが少ない状態で走行する機会を増やすことができる。
【0021】
第1DC/DCコンバータ8が双方向であれば、車両外から供給される電力を利用して第1低圧バッテリ10を充電することができる。第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量以上である機会を増やすことができ、エネルギーロスが少ない状態で走行する機会を増やすことができる。
【0022】
図2に示すように、第2DC/DCコンバータ14と第2低圧バッテリ16と第2補機18を併用し、車両が走行するのに不可欠でない補機を第1補機12とし、車両が走行するのに不可欠な補機を第2補機18とすると、電力供給装置の信頼性が向上する。
【0023】
図3に示すように、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第1低圧バッテリ10の間にスイッチ20を挿入し、第1低圧バッテリ10の残容量が低下したときには、第1DC/DCコンバータ8の動作を停止させるとともに、スイッチ20で第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bを接続する状態に切り換えると、高圧バッテリ2の電力を第1補機12と第2補機18に供給して走行を続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】明細書で開示する電力供給装置の一態様を模式的に示す図。
【図2】明細書で開示する電力供給装置の他の態様を模式的に示す図。
【図3】明細書で開示する電力供給装置のさらに他の態様を模式的に示す図。
【図4】実施例に係わる電力供給装置の構成を模式的に示す図。
【図5】電力供給装置を制御する手順を表す。
【図6】充電中に実施する処理手順を示す。
【図7】高圧バッテリと第1低圧バッテリの双方の余裕にある間の処理手順を示す。
【図8】高圧バッテリに余裕があって第1低圧バッテリに余裕がない場合の処理手順を示す。
【図9】第1低圧バッテリに余裕があって高圧バッテリに余裕がない場合の処理手順を示す。
【図10】図6の処理手順によるときの電力供給装置の動作を示す。
【図11】図7の処理手順によるときの電力供給装置の動作を示す。
【図12】図8の処理手順によるときの電力供給装置の動作を示す。
【図13】図9の処理手順によるときの電力供給装置の動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記に示す実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)本明細書に開示する電力供給装置は、電気自動車両(EV)、プラグインハイブリッド車両(PHV)または燃料電池自動車に搭載する。
(特徴2)制御装置が高圧バッテリの残容量を検出する。
(特徴3)制御装置が第1低圧バッテリの残容量を検出する。
(特徴4)走行モータ以外の電動機器である補機を、走行に不可欠な必須補機と、走行に必ずしも必要でない非必須補機に分ける。必須補機には、高圧バッテリの電力を降圧して供給する。非必須補機には、非必須補機に並列に接続された低圧バッテリから給電する状態から、高圧バッテリの電力を降圧して供給する状態に切り換える。
(特徴5)非必須補機に並列に接続された低圧バッテリの残容量が低下した時にスイッチを切り換え、それ以降は必須補機のためのDC/DCインバータから非必須補機に給電する。
(特徴6) 制御装置は、高圧バッテリに余裕があって第1低圧バッテリに余裕がない場合に、第1DC/DCコンバータを停止させるとともに、スイッチを切り換え、それ以降は必須補機のためのDC/DCインバータから非必須補機に給電する。
(特徴7) スイッチは、第1低圧バッテリの正極と第2低圧バッテリの正極を接続することがない。
【実施例】
【0026】
以下に図面を用いて実施例に係わる電力供給装置について説明する。図4は、実施例に係わる電気自動車用の電力供給装置1の構成を模式的に表している。
【0027】
電力供給装置1は、高圧バッテリ2と、モータ駆動回路4と、第1DC/DCコンバータ8と、第1低圧バッテリ10と、第1補機12と、第2DC/DCコンバータ14と、第2低圧バッテリ16と、第2補機18と、スイッチ20と、第1のシステムメインリレーSMR1と、充電回路22と、第2のシステムメインリレーSMR2を備えている。
【0028】
高圧バッテリ2は、たとえばリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの単電池を組み合わせて構成される組電池である。高圧バッテリ2の電圧は、たとえば200Vであるが、これに限定されるものではない。正極2aと負極(接地極)2bを備えている。
モータ駆動回路4は、導線PL1とスイッチSW1を介して、高圧バッテリ2の正極2aに接続されており、導線NL1とスイッチSW2を介して、高圧バッテリ2の負極2bに接続されている。モータ駆動回路4は、インバータ回路を内蔵しており、高圧バッテリ2により供給される高圧直流電力を3相交流電力に変換して走行用モータ6に供給する。モータ駆動回路4は、昇圧回路を内蔵していることもある。
【0029】
第1DC/DCコンバータ8は、高圧端子8aと低電圧端子8bと負極端子8cを備えている。高圧端子8aは、導線PL1とスイッチSW1を介して、高圧バッテリ2の正極2aに接続されている。負極端子8cは、導線NL1とスイッチSW1を介して、高圧バッテリ2の負極2bに接続されている。第1DC/DCコンバータ8は、高圧端子8aと負極端子8c間に加わる電圧を降圧して低電圧端子8bと負極端子8cの間に出力することができ、低電圧端子8bと負極端子8c間に加わる電圧を昇圧して高圧8aと負極端子8cの間に出力することができる。すなわち双方向型である。
第1低圧バッテリ10は、スイッチ20を介して、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと負極端子8cの間に接続されている。第1低圧バッテリ10には、例えば鉛蓄電池が用いられる。第1低圧バッテリ10の定格電圧は14Vであるが、これに限定されるものではない。鉛蓄電池は、過充電に対して高い特性を備えている。
第1補機12は、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと負極端子8cの間に接続されている。第1補機12は、空調機や、オーディオ装置や、ナビゲーション装置といった、車両の走行に必須ではない電動機器である。スイッチ20が第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第1低圧バッテリ10を接続している場合、第1低圧バッテリ10と第1補機12は並列に接続されていることになる。
【0030】
第2DC/DCコンバータ14は、高圧端子14aと低電圧端子14bと負極端子14cを備えている。高圧端子14aは、導線PL1とスイッチSW1を介して、高圧バッテリ2の正極2aに接続されている。負極端子14cは、導線NL1とスイッチSW2を介して、高圧バッテリ2の負極2bに接続されている。第2DC/DCコンバータ14は、高圧端子14aと負極端子14c間に加わる電圧を降圧して低電圧端子14bと負極端子14cの間に出力することができる。その逆はできない。すなわち一方向型である。
第2低圧バッテリ16は、第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bと負極端子14cの間に接続されている。第2低圧バッテリ16には、例えば鉛蓄電池が用いられる。第2低圧バッテリ16の定格電圧は14Vであるが、これに限定されるものではない。第1低圧バッテリ10と第2低圧バッテリ16には、定格電圧の等しいものを用いる。
第2補機18は、第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bと負極端子14cの間に接続されている。第2補機18は、電動式パワーステアリング装置のように車両の走行に必須の電動機器である。第2低圧バッテリ16と第2補機18は、並列に接続されている。
【0031】
スイッチ20は、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと、第1低圧バッテリ10と、第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bの間に設けられている。図4のA−C端子間を接続する状態と、B−C端子間を接続する状態の間で切り換え可能である。A−C端子間を接続すれば、第1DC/DCコンバータ8の低電圧端子8bと第1低圧バッテリ10が接続される。B−C端子間を接続すれば、第2DC/DCコンバータ14の低電圧端子14bと第1補機12が接続される。スイッチ20は、制御装置30によって制御される。制御装置30は、スイッチ20の接続状態を切り換え、第1DC/DCコンバータ8に降圧動作させるか、昇圧動作させるか、動作を停止させるかを制御する。第2DC/DCコンバータ14は、降圧動作を続ける。
【0032】
高圧バッテリ2の正極2aとモータ駆動回路4を接続する導線PL1上に、第1のシステムメインリレーSMR1のスイッチSW1が配置されている。高圧バッテリ2の負極2bとモータ駆動回路4を接続する導線NL1上に、第1のシステムメインリレーSMR1のスイッチSW2が配置されている。制御装置30からの出力信号に基づいて、システムメインリレーSMR1のスイッチSW1とSW2が開閉する。スイッチSW1とSW2が閉じられると高圧バッテリ2の高圧直流電力がモータ駆動回路4に供給される。
【0033】
モータ6は、モータ駆動回路4から供給された3相交流電力によりロータを回転させて電気自動車両を駆動する。プラグインハイブリッド車両の場合、モータ6がエンジン(図示せず)を始動させるモータを兼用することがある。また、制動時や坂道下降時には、モータ6が回生ブレーキとなって発電する。その発電電力を高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10と第2低圧バッテリ16の充電に用いることができる。
制御装置30は、各検出器(図示せず)から入力された信号に基づいて制御信号を出力する。詳細は後述する。
【0034】
電力供給装置1は、外部電源24の接続部26に接続する接続部28と、外部電源24から電力を受ける充電器22と、第2のシステムメインリレーSMR2を備えている。
【0035】
接続部26は、外部電源24に接続されている。接続部28は、2本の導線を介して充電器22に接続されている。接続部28を接続部26に接続することで、外部電源24が充電器22へ給電する。充電器22は、外部電源24から交流電力を受け取り、高圧バッテリ2の電圧に等しい直流電力に変換する。
充電器22と高圧バッテリ2の正極2aを接続している導線PL2上にスイッチSW3が配置されている。充電器22と高圧バッテリ2の負極2bを接続している導線NL2上にスイッチSW4が配置されている。スイッチSW3とSW4が、第2のシステムメインリレーSMR2を構成している。
第2のシステムメインリレーSMR2は、制御装置30からの出力信号に基づいて開閉する。スイッチSW3とSW4が閉じられると、充電器22で変換された直流電力によって高圧バッテリ2が充電される。また充電中は、第1DC/DCコンバータ8が降圧動作して第1低圧バッテリ10を充電し、第2DC/DCコンバータ14が降圧動作して第2低圧バッテリ16を充電する。
電気自動車の走行開始時または充電終了時に、接続部28を接続部26から切り離す。制御装置30が接続部28と接続部26が切り離されたことを検出すると、スイッチSW3とSW4を開く。
【0036】
制御装置30は、図5の処理を繰り返し実行する。
ステップS2では、外部電源24に接続して充電中か否かを判別する。充電中であれば図6の処理手順に進む。そのときの電力供給装置1の動作を図10に示す。
ステップS4では、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方に余裕があるか否かを判別する。すなわち、高圧バッテリ2の残容量が許容最低量以上であり、かつ、第1低圧バッテリ10の残容量が第1許容最低量以上か否かを判別する。高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方に余裕があれば、図7の処理手順に進む。そのときの電力供給装置1の動作を図11に示す。
ステップS6では、高圧バッテリ2には余裕があるが第1低圧バッテリ10には余裕がない状態か否かを判別する。すなわち、高圧バッテリ2の残容量は許容最低量以上であるが、第1低圧バッテリ10の残容量は第1許容最低量未満であるか否かを判別する。高圧バッテリ2には余裕があるが第1低圧バッテリ10には余裕がないのであれば、図8の処理手順に進む。そのときの電力供給装置1の動作を図12に示す。
ステップS8では、第1低圧バッテリ10には余裕があるが高圧バッテリ2には余裕がない状態か否かを判別する。すなわち、第1低圧バッテリ10の残容量は第1許容最低量以上であるが、高圧バッテリ2の残容量は許容最低量未満であるか否かを判別する。第1低圧バッテリ10には余裕があるが高圧バッテリ2には余裕がないのであれば、図9の処理手順に進む。そのときの電力供給装置1の動作を図13に示す。
【0037】
図6は、外部電源24で高圧バッテリ2等を充電する場合の処理手順を示し、システムリレーSMR1とSMR2の双方をオンし(ステップS10)、スイッチ20ではA−C間を接続してB−C間を非接続とし(ステップS12)、第1DC/DCコンバータ8を降圧運転させ(ステップS14)、第2DC/DCコンバータ14を降圧運転させる(ステップS16)。そのときの電力供給装置1の動作を図10に示す。図10の矢印Dに示すように高圧バッテリ2が充電され、矢印Eに示すように第2低圧バッテリ16が充電され、矢印Fに示すように第1低圧バッテリ10が充電される。第1DC/DCコンバータ8と第2DC/DCコンバータ14で電力ロスが生じるが、外部電源24には余裕があるので、大きな問題にはならない。
【0038】
図7は、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方に余裕がある場合の処理手順を示し、システムリレーSMR2はオフされてシステムリレーSMR1はオンされ(ステップS20)、スイッチ20ではA−C間を接続してB−C間を非接続とし(ステップS22)、第1DC/DCコンバータ8の運転を停止させ(ステップS24)、第2DC/DCコンバータ14を降圧運転させる(ステップS26)。そのときの電力供給装置1の動作を図11に示す。図11では、第1DC/DCコンバータ8の運転が停止していることを示すために、第1DC/DCコンバータ8を破線で囲んでいる。この場合、図11の矢印G,Jに示すように、高圧バッテリ2からモータ駆動回路4に電力が供給されて電気自動車は走行する。また矢印G,Hに示すように、高圧バッテリ2からの電力を降圧した電力が第2補機18に供給される。第1補機12に対しては、矢印Iに示すように、第1低圧バッテリ10から電力が供給される。図11のように電力が供給されると、下記の現象が得られる。
1)高圧バッテリ2の電力が第1補機12を駆動するためには利用されない。
2)仮に高圧バッテリ2の電力を第1補機12を駆動するために利用すると、第1DC/DCコンバータ8で降圧動作させることになり、その降圧処理に伴ってロスが生じる。図11のように電力を供給すると、そのロスが生じない。
3)仮に高圧バッテリ2の電力を第1補機12を駆動するために利用すると、第1DC/DCコンバータ8で降圧動作させることになり、第1低圧バッテリ10に対する充電が行われる。第1低圧バッテリ10が満充電になった後も第1低圧バッテリ10に対する充電が続けられる。第1低圧バッテリ10は過充電に対して強い耐性を持っていることから、異常事態は生じないが、過充電することがエネルギーロスとなる。図11のように電力を供給すると、そのロスが生じない。
4)第1補機12のエネルギー消費が、高圧バッテリ2の残容量に影響しない。第1補機12によるエネルギー消費の大小に関わらず、高圧バッテリ2による走行可能距離が安定する。
【0039】
外部電源24で充電しておいて走行する場合、高圧バッテリ2と第1低圧バッテリ10の双方に余裕がある状態で走行する機会が多い。上記のロスが避けられることの影響は大きく、自動車の走行距離の延長に対する効果が高い。図13で説明するように、第1低圧バッテリ10の電力で走行することができる。すなわち、第1低圧バッテリ10の蓄電電力は無駄とならない。第1低圧バッテリ10に十分な容量を持つバッテリを利用することができる。通常の走行状態であれば、高圧バッテリ2を使い切るときに、第1低圧バッテリ10も使い切る関係に設定しておくことができる。この場合、図11のように電力を供給してロスの発生を防止する効果が顕著に得られる。
【0040】
図8は、高圧バッテリ2には余裕があるが第1低圧バッテリ10には余裕がない場合の処理手順を示し、システムリレーSMR2はオフされてシステムリレーSMR1はオンされ(ステップS30)、スイッチ20ではB−C間を接続してA−C間を非接続とし(ステップS32)、第1DC/DCコンバータ8の運転を停止させ(ステップS34)、第2DC/DCコンバータ14を降圧運転させる(ステップS36)。そのときの電力供給装置1の動作を図12に示す。図12では、第1DC/DCコンバータ8の運転が停止していることを示すために、第1DC/DCコンバータ8を破線で囲んでいる。この場合、図12の矢印Kに示すように、高圧バッテリ2からの電力を第2DC/DCコンバータ14で降圧した電力が第1補機12に供給される。電気自動車は、高圧バッテリ2の電力を利用して走行を続ける。
【0041】
図9は、第1低圧バッテリ10には余裕があるが高圧バッテリ2には余裕がない場合の処理手順を示し、システムリレーSMR2はオフされてシステムリレーSMR1はオンされ(ステップS40)、スイッチ20ではA−C間を接続してB−C間を非接続とし(ステップS42)、第1DC/DCコンバータ8を昇圧運転させ(ステップS44)、第2DC/DCコンバータ14を降圧運転させる(ステップS46)。そのときの電力供給装置1の動作を図13に示す。この場合、図13の矢印Lに示すように、第1低電圧バッテリ10の電圧を第1DC/DCコンバータ8で昇圧した電圧が導線PL1に印加される。この場合、矢印Jに示すようにモータ駆動回路4に対する電力供給を継続し、第2DC/DCコンバータ14を介して第2補機18への電力供給を継続できる。電気自動車は、第1低圧バッテリ10の電力を利用して走行できる。
【0042】
上記に記載されている「許容最低量よりも多いとき」と「許容最低量よりも少ないとき」の表現は、「許容最低量以上のとき」と「許容最低量未満のとき」であってもよいし、「許容最低量を超えているとき」と「許容最低量以下のとき」であってもよい。最低許容量に等しい場合を、「以上」として扱う場合と、「以下」として扱う場合の双方を含む。
【0043】
本明細書では、第1補機12は、空調機やオーディオ装置など、車両走行に必須ではない電動機器を指し、第2補機18は、パワーステアリングなど車両走行に必須の電動機器を指す。第1補機12と第2補機18の配置交換は許容されない。その理由を以下に説明する。
本実施例の第2補機18は、常に第2DC/DCコンバータ14から給電される。第2補機18への電力供給経路は常に同じである。一方、本実施例の第1補機12には、スイッチ20を切替える結果、第1低圧バッテリ10から給電する状態から第2DC/DCコンバータ14から給電する経路に切替わる。接続が切替わる瞬間に、第1補機12の動作が不安定となる可能性がある。万一不安定となっても走行が継続できるよう、第1補機12には非必須補機を割り当てることが好ましい。
【0044】
図4において、外部電源24は、充電スタンドや、家庭用のコンセントを表している。車の使用者は、走行中に充電スタンドに立ち寄って電気自動車に給電してもよいし、帰宅後に家庭用のコンセントを用いて給電してもよい。充電器22はコンバータ回路を内蔵しており、交流電力を高圧バッテリ2の定格電圧の直流電力に変換する。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0046】
1:電力供給装置
2: 高圧バッテリ
4: モータ駆動回路
6: モータ
8: 第1DC/DCコンバータ
10:第1低圧バッテリ
12:第1補機
14:第2DC/DCコンバータ
16:第2低圧バッテリ
18:第2補機
20:スイッチ
22:充電器
24:外部電源
26:接続部
28:接続部
30:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧バッテリと、
高圧バッテリの正極と負極の間に接続されており、高圧バッテリから供給された電力を走行用モータに供給する電力に変換するモータ駆動回路と、
高圧バッテリの正極に接続されている高電圧端子と、高圧バッテリの負極に接続されている負極端子と、低電圧端子を備えており、高電圧端子の電圧を降圧して低電圧端子に出力する動作と、低電圧端子の電圧を昇圧して高電圧端子に出力する動作が可能な第1DC/DCコンバータと、
第1DC/DCコンバータの低電圧端子と負極端子の間に並列に接続されている第1低圧バッテリと第1補機と、
高圧バッテリの残容量が許容最低量よりも多く、第1低圧バッテリの残容量が第1許容最低量よりも多い場合に、第1DC/DCコンバータの動作を停止させる制御装置、
を備えている電気自動車用電力供給装置。
【請求項2】
制御装置が、高圧バッテリの残容量が許容最低量よりも少なく、第1低圧バッテリの残容量が第1許容最低量よりも多い場合に、第1DC/DCコンバータに昇圧動作させることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用電力供給装置。
【請求項3】
高圧バッテリの正極と負極の間に、車両外から供給される電力を高圧バッテリの電圧に変換する充電回路が付加されており、
制御装置が、車両外から電力が供給されている場合に、第1DC/DCコンバータに降圧動作させることを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用電力供給装置。
【請求項4】
高圧バッテリの正極に接続されている高電圧端子と、高圧バッテリの負極に接続されている負極端子と、低電圧端子を備えており、高電圧端子の電圧を降圧して低電圧端子に出力する動作が可能な第2DC/DCコンバータと、
第2DC/DCコンバータの低電圧端子と負極端子の間に並列に接続されている第2低圧バッテリと第2補機が付加されており、
車両が走行するのに不可欠でない補機が第1補機とされ、車両が走行するのに不可欠な補機が第2補機とされていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの1項に記載の電気自動車用電力供給装置。
【請求項5】
第1低圧バッテリと第2低圧バッテリの定格電圧が同じであり、
第1DC/DCコンバータの低電圧端子と第1低圧バッテリの間に、第1DC/DCコンバータの低電圧端子と第1低圧バッテリを接続する状態と、第1DC/DCコンバータの低電圧端子と第2DC/DCコンバータの低電圧端子を接続する状態の間で切り換わるスイッチが挿入されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかの1項に記載の電気自動車用電力供給装置。
【請求項6】
制御装置が、第1低圧バッテリの残容量が第1許容最低量よりも少なくければ、第1DC/DCコンバータの動作を停止させ、スイッチを第1DC/DCコンバータの低電圧端子と第2DC/DCコンバータの低電圧端子を接続する状態に切り換えることを特徴とする請求項5に記載の電気自動車用電力供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−90486(P2013−90486A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229956(P2011−229956)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】