説明

電気電子機器用銅合金材料およびその製造方法

【課題】耐応力緩和特性、導電性、強度、曲げ加工性およびハンダ密着性に優れた電気電子機器用銅合金材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Niが1〜3mass%、Tiが0.2〜1.2mass%、SnとSiのいずれか一方または両方が0.02〜0.2mass%、Znが0.1〜1mass%、並びに残部がCuと不回避なる不純物からなり、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物を少なくとも1つ含有し、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物の平均粒径が5〜100nm、分布密度が1×1010〜1013個/mm2であり、母相の結晶粒径が4μm以上10μm以下であり、導電率が47.6%IACS以上であり、150℃で1000時間保持したときの応力緩和率が20%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気電子機器用銅合金材料に関し、詳しくは電子電気機器用のコネクタ、端子材などのコネクタや端子材などに好適な電気電子機器用銅合金材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に電気電子機器用材料としては、ステンレス系鋼のほか、電気伝導性および熱伝導性に優れるリン青銅、丹銅、黄銅等の銅(Cu)系材料も広く用いられている。
近年、電気電子機器の小型化、軽量化、さらにこれに伴う高密度実装化に対する要求が高まっている。小型化が進めればコンタクト部分の接点面積が減少となり、使用される板厚も薄くなり、従来と同等な信頼性を保つためにはより高強度な材料が必要となっている。コネクタは一般的に材料が「たわむ」、すなわち、変形することにより、所定の接圧を発生させて互いに嵌合(接合)する機構により通電や情報信号のやり取りを行っている。よって、使用中にこの接圧が減少することにより嵌合(接合)する力が低下して、通電や情報信号のやり取りができなくなることは致命的な欠陥である。この嵌合(接合)力の低下を応力緩和(耐クリープ)特性と称し、応力緩和特性が劣化しない、つまり、耐応力緩和特性が優れる銅合金がこれら電子部品に使用される材料に求められている。
【0003】
また、コネクタの種類によってはパソコンなどのCPU(集積演算装置)のように発熱を伴う機器に接続されている場合がある。この場合、コネクタ材料は加熱されることで、応力緩和が促進して速く嵌合(接合)力が低下するため、熱を速く放散させる機能を有している必要がある。放熱特性は材料の導電性に起因しており、より導電率の高い材料が求められている。なお、導電性が高い材料の要求は今後の高い周波数を用いた情報のやり取りからも要望されている。
さらに、電子電気機器の小型化は良好な曲げ加工性も材料に要求される。小型化の1つの方向に機器の薄型化がある。薄型化によりコネクタの低背化(高さが低い)が進む。そのため、コネクタにはより加工性の良好な材料が求められている。
【0004】
これらの理由で、強度が高く、優れた導電性を保ち、かつ、耐応力緩和特性と曲げ加工性に優れた材料が望まれている。具体的には、強度は600MPa以上、導電率は望ましくは50%IACS以上、応力緩和率は150℃×1000h後の緩和率が20%以下で、曲げ加工性の指針のR/tが望ましくは1以下の性能を有する材料が求められている。
金属材料の強度を増加させる手法として材料に加工歪を導入する加工強化法や他の元素を固溶させた固溶強化法、第二相を析出させて強化する析出強化法が一般に行われている。
【0005】
析出強化法を利用したCu−Be合金(C17200)、Cu−Ni−Si合金(C70250)、Cu−Fe合金(C19400)、Cu−Cr合金(C18040)などがある。しかしながら、C17200はBeをCu母相中に析出させる強化機構を使うことで、強度が1000MPa以上で応力緩和率は20%以下、曲げ加工性も良好であるが、導電率が約25%IACSである。さらに、ベリリウム(Be)はその環境問題から使用について懸念があることも事実である。
C70250は、Ni−Siから成る金属間化合物をCu母相中に析出させることで強度が600MPa以上で応力緩和率が20%以下、曲げ加工性も良好であるが、導電率が50%IACS以上にならない。
【0006】
C19400は、鉄(Fe)をCu母相中に析出させる強化機構を使用しており、強度が600MPa以上で導電率も約65%IACSであるが、応力緩和率と曲げ加工性が要求特性を満足できない。
C18040の導電率は約80%IACSで強度は約600MPaであるが、C19400と同じく応力緩和率と曲げ加工性が要求特性を満足できない。
このようにいずれの析出強化手法でも要求した特性を満足できる材料はなく、新しい材料を開発することが強く求められている。
【0007】
これに対し、電子機器用銅合金材料において、Ni−Ti金属間化合物を均一微細にCuマトリックス中に析出させ、強度及び導電性を向上させた例がある(たとえば、特許文献1)。
また、Cu−Ni−Ti合金に、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)を添加することにより、リードフレームとレジンの密着性を向上させた例がある(たとえば、特許文献2)。
しかしながら、これらの銅合金材料であっても、強度と導電率と曲げ加工性、さらには耐応力緩和特性を同時に満足できないため、近年の電子機器の性能向上に伴う銅合金材料への特性要求を満たせなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−219540号公報
【特許文献2】特開昭61−157651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、強度、導電率、曲げ加工性、耐応力緩和特性、さらにハンダ密着性に優れた新しい電気電子機器用銅合金材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、第二相を析出させて強化する析出強化法で、ニッケル(Ni)とチタン(Ti)から成る金属間化合物による強化の研究を進めていく中でスズ(Sn)、ケイ素(Si)を加えることにより金属間化合物が変化することで、強度、導電率、曲げ加工性、耐応力緩和特性、さらにハンダ密着性についての要求特性をほぼ満たすことのできる材料を製造し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)Niが1〜3mass%、Tiが0.2〜1.2mass%、SnとSiのいずれか一方または両方が0.02〜0.2mass%、Znが0.1〜1mass%、並びに残部がCuと不回避なる不純物からなり、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物を少なくとも1つ含有し、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物の平均粒径が5〜100nm、分布密度が1×1010〜1013個/mm2であり、母相の結晶粒径が4μm以上10μm以下であり、導電率が47.6%IACS以上であり、150℃で1000時間保持したときの応力緩和率が20%以下であることを特徴とする電気電子機器用銅合金材料、
(2)(1)に記載の電気電子機器用銅合金材料を製造する方法であって、850℃以上で35秒以下の溶体化処理を行い、該溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで圧延加工率が0%を超え50%以下で冷間圧延を行い、450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うことを特徴とする電気電子機器用銅合金材料の製造方法、
(3)(1)に記載の電気電子機器用銅合金材料を製造する方法であって、850℃以上で35秒以下の溶体化処理を行い、該溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うことを特徴とする電気電子機器用銅合金材料の製造方法
を提供するものである。
なお、本発明において、電気電子機器には、車載用の機器が含まれるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銅合金材料は、強度、導電率、曲げ加工性、耐応力緩和特性、さらにハンダ密着性に優れる。さらに、強度は600MPa以上、応力緩和率は150℃×1000h後の緩和率が20%以下、導電率は47.6%IACS以上、曲げ加工性の指針のR/tが1以下の性能を具備することができ、これらの金属材料は、電気電子機器及び車載用端子・コネクタあるいはリレースイッチ等に好適な合金材料である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】応力緩和特性の試験方法の模式的な説明図である。
【図2】ハンダ密着性の試験方法の模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を述べる。
本発明において、Cu母相中に析出するNi、Ti、およびSnからなる金属間化合物(以下「Ni−Ti−Sn」とする)、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物(以下、「Ni−Ti−Si」とする)あるいはNi、Ti、SnおよびSiからなる金属間化合物(以下、「Ni−Ti−Sn−Si」とする)が形成することにより合金の諸特性を格段に向上させる。これは、従来の合金においてNi−Ti析出物が形成した場合とは全くことなり、これらの金属間化合物が極めて高い耐応力緩和特性を発現する。
【0014】
上述したように、Ni−TiがCu母相中に微細に分散した場合、析出強化機構により強度が向上し、同時に、導電率が上昇する。この時、Ni−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Siが個々に、あるいは複合的にCu母相中に微細分散することにより、Ni−Tiが析出した場合と比較して非常に大きな強化量を示す。この効果により、良好な強度と導電率を有する材料を得ることができる。なお、同時にNi−Ti化合物が分散していても、その効果は現れ、Ni−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Siの分散密度が高くなればなるほど強化量は大きい。その場合、Ni−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Siの分散密度は、Ni−Tiと比較して同量以上が望ましい。
【0015】
次に、応力緩和特性について述べる。Ni−TiがCu母相中に微細に分散した場合と比較して、Ni−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Siが個々に、あるいは複合的にCu母相中に微細分散すると格段に耐応力緩和特性が向上する。これに対し、Ni−Ti析出物のみでは応力緩和率が20%以下を達成できない。
これは、Ni−Ti化合物と比べるとNi−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Siは結晶構造が異なる。この結晶構造が異なる金属間化合物がCu母相に微細分散することにより、格段に耐応力緩和特性を改善できるためと考えられる。
【0016】
応力緩和とは金属中の転位が移動して歪みが解放されていく現象であり、転位を固着する力がNi−Ti−Sn、Ni−Ti−SiあるいはNi−Ti−Sn−Si の方がNi−Ti化合物より大きく、緩和されにくい現象が見出された。
この所望の特性は下記に規定された成分の含有量により得ることができる。
【0017】
Niの含有量を1〜3mass%に限定したのは、1mass%未満では析出による強化量が小さく十分な強度を得ることができず、また応力緩和特性も改善できないためである。また、Niが3mass%を超えると時効処理後も過剰なNiが母相に固溶するため導電率の低下を招くためである。また、溶体化処理温度が融点近傍温度となり、工業的に安定なプロセスで製造できなくなる。さらに、高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣るという問題が発生する。Niの含有量は、好ましくは1.4〜2.6mass%、より好ましくは1.8〜2.3mass%である。
【0018】
Tiの含有量を0.2〜1.2mass%に限定した理由は、0.2%mass未満では析出による強化量が小さく十分な強度を得ることができず、また応力緩和特性も改善できないためである。また、Tiが1.2mass%を超えると時効処理後も過剰なTiが母相に固溶するため導電率の低下を招くためである。また高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣るという問題が発生する。Tiの含有量は、好ましくは0.5〜1.1mass%、より好ましくは0.7〜1.0mass%である。
【0019】
SnはNi、Ti、Siとともに析出物を形成し、強度、導電率、曲げ加工性、応力緩和特性等を向上させる。Snの含有量を0.02〜0.2mass%に限定した理由は、0.02mass%未満であるとNi、Ti、Snから成る析出物が少ないため応力緩和率が劣るためである。また、0.2mass%を超えると過剰なSnが固溶したままとなり導電率、曲げ加工性が劣るためである。また応力緩和率が劣る。これは析出物の元素の構成比率が異なることが影響していると思われる。Snの含有量は、好ましくは0.05〜0.15mass%、より好ましくは0.08〜0.12mass%である。
【0020】
Siの含有量を0.02〜0.2mass%に限定した理由は0.02mass%未満であるとNi、Ti、Siから成る析出物が少ないため応力緩和率が劣るためである。また過剰なSiが母相に固溶しているため導電率が劣る。さらに、応力緩和率が劣る。これは析出物の元素の構成比率が異なることが影響していると思われる。また、0.2mass%を超えると所望の析出物が形成された際に、過剰なSiが銅母相に固溶して導電率が下がるためである。Siの含有量は、好ましくは0.05〜0.15mass%、より好ましくは0.08〜0.12mass%である。
【0021】
前記金属間化合物は、大きさが等体積球相当径としての平均粒径で1〜100nmであり、また、分布密度が1×1010〜1013個/mm2であると強度及び曲げ加工性に優れ、好ましい。
金属間化合物の平均粒径が5nm未満であると析出による強度向上の効果が不足し、100nmを超えると析出による強度向上に寄与しないという問題が発生する。平均粒径は、さらに好ましくは10〜60nm、より好ましくは20〜50nmである。
また、金属間化合物の分布密度が1×1010個/mm2未満であると析出による強度向上の効果が不足し、1×1013個/mm2を超えると粒界に粗大な析出物が形成しやすくなり、曲げ加工性を劣化させるという問題が発生する。分布密度は、さらに好ましくは3×1010〜5×1012個/mm2、よりこのましくは1×1011〜3×1012個/mm2である。
一方、母相の結晶粒径は10μm以下が好ましい。10μmを超えると曲げ加工性が低下する。好ましくは5μm以下である。ここで、結晶粒径は長径のことを指す。
【0022】
Znはハンダ密着性を向上させ、メッキの剥離を防止する効果がある。本発明の好ましい用途は電子機器であり、その多くの部品はハンダで接合される。そのため、ハンダの密着性が向上することは部品の信頼性向上につながり、電子機器用途には不可欠な要求特性である。Znの効果には昨今の議論がある(たとえば、伸銅技術研究会誌 vol.026(1987) p51〜p56)。この中ではZnを添加すると、耐熱剥離性は良好とされている。これは、Znを添加することにより、ボイドの生成が抑制され、またNi、Siの母材と拡散層の界面への濃縮が抑えられるために、耐熱剥離性が向上するとされている。この例は同じ析出型合金のCu−Ni−Si合金であるが、同様の効果を本発明でも確認した。
【0023】
Znの含有量を0.1〜1mass%に限定したのは、0.1mass%未満では耐熱剥離特性の効果が現れず、0.5mass%を超えると導電率の低下を招くという問題があるためである。Znの含有量は、好ましくは0.2〜0.8mass%、より好ましくは0.35〜0.65mass%である。
【0024】
本発明に係る銅合金材料は、例えば熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、必要に応じて更に仕上げ冷間圧延、歪み取り焼鈍という工程で製造される。この製造工程において、溶体化処理(温度)とその後の冷却における冷却速度の条件を制御することにより、前記金属間化合物を本願発明の範囲にすることが出来る。熱間圧延温度は、例えば、850〜1000℃とし、次いで行う冷間圧延は、例えば、加工率90%以上で行うことができる。
また、本発明の製造方法の一実施態様では、850℃以上で35秒以内の溶体化処理を行い、その溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで圧延加工率が0%を超え50%以下で冷間圧延を行い、450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うものである。また、本発明の製造方法の別の実施態様では、850℃以上で35秒以内の溶体化処理を行い、その溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うものである。
その後の仕上げ冷間圧延は30%以下が好ましい。
【0025】
本発明において、溶体化処理は850℃以上で35秒以内が好ましい。850℃未満であると、再結晶が行われず、曲げ加工性の大きな低下(劣化)を引き起こす。また、再結晶が行われた場合でも、未溶体化状態となり、晶出物や粗大な析出物が存在して、後の時効で最高の析出強化量を得ることができない。さらに、これらが残存することによる曲げ加工性の低下も懸念される。溶体化処理後の冷却は50℃/秒以上の冷却速度で300℃まで冷却するのが好ましい。50℃/秒未満であると、一旦、固溶された元素が析出を起こすためである。その場合の析出物は粗大なために強化に寄与しない。
溶体化温度の上限は、1000℃以下とするのが燃料等のコストの点から好ましい。溶体化時間が35秒を超えると結晶粒の粗大化により曲げ加工性が劣化する。より好ましくは25秒以内である。
【0026】
溶体化処理の次の冷間圧延は、行わないか、行う場合には冷間加工率は50%以下が好ましい。50%を超えると曲げ加工性が劣化する。さらに好ましくは30%以下である。
時効処理は450〜600℃で5時間以内が好ましい。450℃未満であると析出が不足して強度が足りない。600℃を超えると析出物が粗大化してしまい強度に寄与しなくなる。好ましくは480℃〜560℃である。
【0027】
本発明において、最終塑性加工方向とは、最終に施した塑性加工が圧延加工の場合は圧延方向、引抜(線引)の場合は引抜方向を指す。なお、塑性加工とは圧延加工や引抜加工であり、テンションレベラーなどの矯正(整直)を目的とする加工は含めない。
【0028】
本発明の電気電子機器用銅合金材料は、それに限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、リレー・スイッチ、リードフレームなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
<製造例1>
Ni、Ti、Mg、Zr、Zn、Sn、およびSiを表1〜3に示す量含有し、残部をCuとする組成の合金を高周波溶解炉により溶解し、これを10〜30℃/秒の冷却速度で鋳造して厚さ30mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。その鋳塊を1000℃×1hの保持後、熱間圧延機で厚さ約10mmの熱延板を仕上げた。その熱間圧延材を両面約1.0mm面削して酸化膜を除去し、次いで厚さ0.29mmに冷間圧延したのち不活性ガス中で950℃×15秒の溶体化処理し、溶体化後の冷却速度は300℃まで約3秒(約300℃/秒)で冷却した。さらに0.23mmまで冷間圧延し、550℃×2時間時効処理を行い、厚さ0.2mmまで圧延した後、350℃×2時間低温焼鈍を行って参考例1〜18および本発明例40〜57、並びに比較例60〜67および比較例70〜73の板材を得て、供試材とした。
【0031】
このようにして得られた各々の板材について、[1]引張強度、[2]導電率、[3]応力緩和特性(SR)、[4]曲げ加工性(R/t)、[5]結晶粒径(GS)、[6]析出物(PPT)のサイズと密度、[7]ハンダ密着性を下記方法により調べた。各評価項目の測定方法は以下の通りである。
[1]引張強度(TS):圧延平行方向から切り出したJIS−13B号の試験片をJIS−Z2241に準じて3本測定しその平均値(MPa)を示した。
[2]導電率(EC):圧延平行方向から切り出した10×150mmの試験片を作製して四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で2本測定しその平均値(%IACS)を示した。なお、端子間距離は100mmである。
[3]応力緩和特性(SR):日本電子材料工業会標準規格 EMAS−3003に準じて150℃×1000hの条件で測定した。図1は、応力緩和特性の試験方法の説明図である。図1(a)は初期たわみ量δの測定を模式的に示した説明図である。1は試験片、4は試料台を示す。片持ち梁法を採用し初期応力として0.2%耐力の80%を負荷した。この後、150℃で1000hrまで暴露した。試験片は図1(b)の2に示す位置になる。図1(b)中、3はたわみを生じさせない試験片の位置を示す。永久たわみ量δはH−Hの値となる。
そこで、応力緩和率(%)は、δ/δ×100で表される。この試験は端子材などに用いたときに長時間一定歪みのもとでの応力変化を調べるものであり、緩和率が小さい合金ほど良好と見なされる。
【0032】
[4]曲げ加工性(R/t):板材を幅10mm、長さ25mm(長さ方向と圧延方向が平行をGW、垂直方向をBW)に切出し、これに曲げ半径R=0でW(90°)曲げし、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察した。評価基準はワレ無きが得られた限界曲げ半径を求め、R/t(Rは曲げ半径、tは板厚)で表記した。
[5]結晶粒径(GS):最終加工前の結晶組織を走査型電子顕微鏡(200〜1000倍)により観察しJIS−H0501の切断法に準じ測定した。
[6]析出物(PPT):析出物のサイズは透過電子顕微鏡により観察を行って×100K〜×200K倍の写真を撮影した後、その径を測定して10〜50個の平均値を求め、その測定した面積で割って、密度を算出した。
【0033】
[7]ハンダ密着性:図2に模式的に示した説明図に従いハンダ密着性を試験した。供試材を20×20mmへ切断し、前処理として材料表面の電解脱脂を実施し厚さ6mmの材料13とした。材料13の表面にSn−Pbの共晶はんだを盛ってハンダ部12とし、そこへFe線にCuを被覆したφ2mmの鉄線11(長さ約100mm)を材料13と前記線11が直角になるように固定した(図2(a))。
前記線11を付けた試験片を大気中で加熱し、加熱前後の鉄線11と材料13とのハンダ接続強度を測定した。加熱条件は恒温漕中で150℃×500hとし、恒温漕から取り出した後、十分に空冷にて徐冷させたのち(b)に示すように矢印方向への引張試験を行い荷重を測定した。引張試験の条件はロードセル速度を10mm/minとし室温で測定した。引張試験では供試材の線11とハンダ部12の界面から剥離した試験材料13の引張強度を求めた。なお、界面から剥離せず、鉄線11がハンダ部12より抜けたものは鉄線11とハンダとの密着が悪かったと判断し評価対象にはしていない。
同様に熱処理前の引っ張り強度も測定し、熱処理前の試験材料13の強度と熱処理後の試験材料13の強度を測定し、その強度低下量が50%以下の場合は○、50%以上の場合は×として評価した。経時的に接合強度が低下しない(強度残存率が高い)方が、はんだ性が良好であり、信頼性が高い。
【0034】
また、析出物の同定は透過電子顕微鏡観察を行い、透過電子顕微鏡の附属のEDX分析装置(エネルギー分散型装置)にて5〜10個の析出物の分析をして、Ni、Ti、Mg、ZrならびにSn、Siの分析ピークを確認した。また、透過電子顕微鏡で回折像を撮影し、Ni−Ti析出物が形成されている場合とは異なる回折像になることを確認した。つまり、回折像が異なるとは、Ni−Ti以外の析出物が形成されていることを示している。回折像の撮影には析出物が約10〜100個ある結晶粒を選択して同定の評価を実施した。
上記の[1]〜[7]の評価結果についても、表1〜3に合わせて示した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表1、表2から明らかなように、参考例1〜18、本発明例40〜57はいずれも応力緩和特性が20%以下の優れた特性を有した。
【0039】
比較例60はNiが少ないので十分な析出強化量を得られないため引張強度が劣った。またNi−Ti析出物の密度が十分でないのと、Sn、Siが添加されていないため応力緩和率が劣った。
比較例61はNiとTiが多いので高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣った。また時効処理を行っても過剰なNi、Tiが母相に固溶しているため導電率が劣った。またSn、Siが添加されていないため応力緩和率が劣った。
比較例62はNiが多いので高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣った。また、Niが過剰なため、強度に寄与するNi−Ti析出物の密度が低下して引張強度が劣った。また時効処理を行っても過剰なNiが母相に固溶しているため導電率が劣った。さらにSn、Siが添加されていないため応力緩和率が劣った。
【0040】
比較例63はTiが多いので、高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣った。また時効処理を行っても過剰なTiが母相に固溶しているため導電率が劣った。さらにSn、Siが添加されていないため応力緩和率が劣った。
比較例64はSnが少ないので、Ni、Ti、Snから成る析出物が少ないため応力緩和率が劣った。
比較例65はSnが多いので過剰なSnが固溶したままとなり導電率、曲げ加工性ともに劣った。また応力緩和率が劣った。
【0041】
比較例66はSiが少ないのでNi、Ti、Siから成る析出物が少ないため応力緩和率が劣った。
比較例67はSiが多いので高温、長時間の溶体化処理が必要となり、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が劣った。また過剰なSiが母相に固溶しているため導電率が劣った。さらに応力緩和率が劣った。
比較例70、71はZnが無いのでハンダ密着性が悪化した。
【0042】
<製造例2>
前記製造例1の参考例15と同様の組成の合金を用い、溶体化処理条件、次いで行う冷間加工条件、次いで行う時効条件を各種変更した。その他の製造条件は製造例1と同様である。さらに、製造例1と同様に評価項目[1]〜[7]の測定を行った。表4に溶体化条件と評価結果を示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4から明らかなように、参考例81〜88では優れた特性を有する。
これに対し、参考例91、92は冷却速度が遅いので析出物が粗大となるため応力緩和率が劣った。
参考例93は溶体化温度が低いので析出に寄与する元素の固溶が少なくなり、時効処理の際の析出密度が小さくなって応力緩和率が劣った。
参考例94は溶体化温度が低いので析出に寄与する元素の固溶が少なくなり、時効処理の際の析出密度が小さくなって応力緩和率が劣った。
【0045】
参考例95は溶体化時間が長いので結晶粒が粗大になり曲げ加工性が劣った。
参考例96は溶体化処理をしていないので再結晶しておらず、熱間圧延後の冷間加工率が90%以上であるため組織が繊維状であり、結晶粒径が測定できなかった。また析出に寄与する析出物も少ないため曲げ加工性、応力緩和率が劣った。
参考例97は溶体化処理後の冷間加工率が高いので曲げ加工性が劣った。
参考例98は時効温度が高いので、析出物が粗大となったため強度が劣った。
参考例99は時効温度が低いので、析出物の大きさが微小であるため強度が劣った。
参考例100は時効時間が長いので、析出物が粗大となったため強度が劣った。
【符号の説明】
【0046】
1,2,3 試料
4 試料台
11 鉄線
12 ハンダ部
13 材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niが1〜3mass%、Tiが0.2〜1.2mass%、SnとSiのいずれか一方または両方が0.02〜0.2mass%、Znが0.1〜1mass%、並びに残部がCuと不回避なる不純物からなり、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物を少なくとも1つ含有し、Ni、Ti、およびSnからなる金属間化合物、Ni、Ti、およびSiからなる金属間化合物、またはNi、Ti、Sn、およびSiからなる金属間化合物の平均粒径が5〜100nm、分布密度が1×1010〜1013個/mm2であり、母相の結晶粒径が4μm以上10μm以下であり、導電率が47.6%IACS以上であり、150℃で1000時間保持したときの応力緩和率が20%以下であることを特徴とする電気電子機器用銅合金材料。
【請求項2】
請求項1に記載の電気電子機器用銅合金材料を製造する方法であって、850℃以上で35秒以下の溶体化処理を行い、該溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで圧延加工率が0%を超え50%以下で冷間圧延を行い、450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うことを特徴とする電気電子機器用銅合金材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電気電子機器用銅合金材料を製造する方法であって、850℃以上で35秒以下の溶体化処理を行い、該溶体化処理の温度から50℃/sec以上の冷却速度で300℃まで冷却し、次いで450〜600℃で5時間以内の時効処理を行うことを特徴とする電気電子機器用銅合金材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150669(P2010−150669A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58473(P2010−58473)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願2004−165068(P2004−165068)の分割
【原出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】