説明

電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物

【課題】 成形加工時の剥離や膨れの発生が抑制された表面平滑性に優れたICトレー等の電気電子部品包装材料への使用に適したポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリフェニレンエーテルを主成分とし、(B)スチレン系エラストマーと(C)導電性カーボンブラックを含有する導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物であって、前記(B)スチレン系エラストマーのスチレン比率が13重量%以下であることを特徴とする、電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICトレーなどの電気電子部品包装材料への使用に適する導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップの搬送工程で使用されるICトレーは、ICチップの乾燥工程において100℃以上の高温下で用いられることから、高い耐熱性を有するポリフェニレンエーテルがベース樹脂として一般的に用いられる。このベース樹脂として使用されるポリフェニレンエーテルは、機械的性質、耐熱性、寸法安定性などの諸特性に優れた熱可塑性樹脂として知られている。しかし、ポリフェニレンエーテル単独では、溶融粘度が高いため、加工性に劣る。そのためポリフェニレンエーテルに相溶性のあるポリスチレン系樹脂を加えて流動性を改良してICトレーなどの電気電子部品、半導体の包装用成形品などに用いられる(特許文献1、2)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−179470号公報
【特許文献2】特開2005−162961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ICトレーについては、ICチップの小型化・精密化に伴い、トレー内のポケットについて高い寸法精度、寸法安定性が求められてきている。一般にICトレーは射出成形によって製造されるが、この成形加工は高速・高圧の条件下で行われることが多く、そのために成形材料の分散不良や、流動性不良に起因してトレー表面に剥離や膨れといった現象が起こりやすいという問題がある。本発明は、このような成形加工時の剥離や膨れの発生が抑制された表面平滑性に優れたICトレー等の電気電子部品包装材料への使用に適したポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリフェニレンエーテルと混合して使用されるスチレン系エラストマーの物性に着目し、前記課題を解決する樹脂組成物を見出したものである。すなわち、本発明の樹脂組成物は、<1>(A)ポリフェニレンエーテルを主成分とし、(B)スチレン系エラストマーと(C)導電性カーボンブラックを含有する導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物であって、前記(B)スチレン系エラストマーのスチレン比率が13重量%以下であることを特徴とする、電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物である。
【0006】
また本発明は、<2>前記(B)スチレン系エラストマーのJIS硬度が65以下である<1>記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物である。
【0007】
さらに本発明は、<3>前記スチレン系エラストマーの引っ張り伸び率が750%以上である<1>、<2>記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物である。
【0008】
さらに本発明は、<4>(D)マイカを0.1〜6重量%含有する<1>〜<3>記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物である。
【0009】
さらに本発明は、<5>前記<1>から<4>の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を成形して得られる電気電子部品包装材料である。
【0010】
さらに本発明は、<6>前記<1>から<4>の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を成形して得られるICトレーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のICトレー用導電性熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時の剥離や膨れの発生が抑制され、表面平滑性に優れたICトレーを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(A) ポリフェニレンエーテル
本発明に用いられるポリフェニレンエーテルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,6−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等の酸化カップリングにより製造されるポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテル、又はポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル)等の単独重合体、2,6−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等の共重合体、又はこれらの重合体が無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸などにより変性された重合体などが挙げられる。
【0013】
(B) ポリスチレン系エラストマー樹脂
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、前記ポリスチレン系樹脂以外に特定のスチレン系エラストマーを必須成分(B)として含有することで、成形体表面の剥離や膨れの発生を防止し高い平滑性を有するICトレーなどの電気電子部品包装材料への使用に適した成形体を得ることができる。本発明において必須成分として使用するスチレン系エラストマー(B)は、ハードセグメントであるポリスチレン相と、ソフトセグメントであるエラストマー相とを含むブロックコポリマーであり、中でも両末端相にハードセグメントであるポリスチレン相と、中間相にソフトセグメントであるエラストマー相とを含むブロックコポリマーが好ましい。具体的には、エラストマー相が、ポリブタジエンであるSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、ポリイソプレンであるSIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、そして水素添加型のポリオレフィンであるSEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)、やSEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体)等を好ましく使用することができ、これらは一種類ないし二種類以上の樹脂を併用してもよい。
【0014】
前記、本発明のスチレン系エラストマー(B)は、スチレンの含有比率で規定される。ここで、スチレン比率とは、スチレン系エラストマー中の、ハードセグメントであるポリスチレン相の含有量を重量%で表した値である。前記スチレン比率は、5〜13重量%の範囲内である。スチレン比率を前記範囲内とすることにより、成形体表面の剥離の発生を防止する効果が十分に発揮される。
【0015】
また前記スチレン系エラストマー(B)は、JIS硬度が65以下であることが好ましい。スチレン系エラストマーの硬度はベース樹脂であるポリフェニレンエーテル中への分散度に影響し、JIS硬度が65以下であることにより分散度がより良好となり、成形体表面の剥離、膨れの防止効果が十分に発揮されるため好ましい。なおJIS硬度はJIS K6253で定められた方法により測定することができる。
【0016】
さらに前記スチレン系エラストマー(B)は、JIS K6251で定める引張り伸び率が750%以上であることが、射出成形時の高せん断下で本発明の樹脂組成物が充分に引き伸ばされ、機械強度向上に寄与するとともに、組成物中に含まれる添加剤が高分散し、その結果成形体表面の平滑性が向上するため好ましい。引張伸び率が750%未満であると、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物中で充分に分散することができないために、その一部が成形体表面で凹凸を形成することがある。
【0017】
特に制約を受けないが、前記スチレン系エラストマー(B)は、本発明の導電性ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物100重量部に対し、3〜15重量部を配合することが好ましい。配合量を前記範囲とすることで成形体表面の剥離、膨れの防止効果が十分に発揮され、高い表面平滑性を有する成形体を得ることができる。
また、前記の任意に含有することが出来るスチレン比率の高いスチレン系エラストマーも含むポリスチレン系樹脂と必須成分であるスチレン系エラストマー(B)の合計の配合量は、ポリフェニレンエーテル100重量部に対し、13重量部以上60重量部以下とすることが、得られるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の流動性と耐熱性を両立する点で好ましく、20重量部以上40重量部以下とすることがさらに好ましい。
【0018】
(C) 導電性カーボンブラック
本発明に用いるカーボンブラックは例えばオイルファーネス法によって製造されるファーネスブラック、特殊ファーネス法によって製造されるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料として製造されるアセチレンブラック、閉鎖空間で原料を直燃して製造されるランプブラック、天然ガスの熱分解によって製造されるサーマルブラック、拡散炎をチャンネル鋼の底面に接触させて捕捉するチャンネルブラックなどを挙げることができる。導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)などが好ましく使用できる。
【0019】
導電性カーボンブラックのDBP(フタル酸ジブチル)吸油量としては、100〜700ml/100gの市販品が好適に使用される。DBP吸油量はASTM D2414に準拠しDBPアブソープトメーターを使用して測定することができる。100ml/100g未満のDBP吸油量であるカーボンブラックを使用する場合は、導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物が半導電領域に達するまでにカーボンブラックを多量に配合することが必要となり、そのため機械的強度が低下し、また樹脂自身の持つ流動性を著しく低下させるため、成形性を悪化するという問題が生じる場合がある。また700ml/100gを超えるDBP吸油量を有するカーボンブラックは一般入手することは困難である。これらの導電性カーボンブラックは任意の比率でDBP吸油量の異なる2種類以上を同時に配合し用いることもできる。
本発明で用いるカーボンブラックは導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物100重量部に対し5〜25重量部配合することが好ましい。5重量部未満であると成形したICトレーに導電性を付与することができず、また、25重量部を超えると該組成物の粘度が上昇するため、成形性に悪影響を及ぼす。
【0020】
(D) マイカ
本発明においては、成形体表面の剥離や膨れをより防止し、凸凹のないより表面平滑性に優れた成形体を得るために、さらにマイカを含有することが好ましい。
マイカは天然の鉱物で、雲母とも呼ばれ、層状ケイ酸塩鉱物の一種で、主成分はSiO、Al、KO及び結晶水で構成される。性質としては電気絶縁性・耐熱性・コスト面に優れており、へき開性を持ち薄片状にしやすいという特徴を有する無機フィラーである。鉱物学的な含有成分によって硬質マイカ、軟質マイカと分類され、また、粉砕条件・粉砕方法によりアスペクト比、粒子形状、粒子サイズの異なるマイカが市販されているが、本発明では特に制限なく目的に応じて公知のマイカを適宜選択して使用することができる。
本発明では、マイカは導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物100重量部に対し0.1〜6重量部配合すると、トレー表面の剥離やフクレを抑制する効果がある。0.1%未満であるとマイカを添加する効果が発揮されないことがある。また、6重量部を超えると該組成物の粘度が上昇するため、成形性に悪影響を及ぼすことがある。マイカの配合量はより好ましくは0.5〜3重量部である。
【0021】
本発明の導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、前記(B)成分に該当しないポリスチレン系樹脂をブレンドして使用することができる。通常のポリフェニレンエーテルは、それ単独では加工が困難であるために、共重合体にするか、あるいはポリスチレン系樹脂等とブレンドすることにより加工性を改質して使用され、通常はポリスチレン系樹脂とブレンドして使用することが一般的である。このような(B)に該当しないポリスチレン系樹脂としては、例えば、汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム成分で強化された耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン成分の多いスチレンスチレン−ブタジエン共重合体(ハイスチレンSBS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体などスチレン比率が13重量%よりも大きいスチレン系エラストマーなどの共重合体が挙げられる。前記ポリスチレン系樹脂は、それぞれ一種類ないし二種類以上の樹脂を併用して用いても良いが、前記ゴム成分で強化された耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を特に好適に用いることができる。
【0022】
前記ポリスチレン系樹脂をブレンドして使用する場合には、その含有量は、前記ポリフェニレンエーテル100重量部に対し、13重量部以上60重量部以下とすることが流動性が良好となるために好ましく、20重量部以上40重量部以下とすることが耐熱性のためにさらに好ましい。
【0023】
その他任意成分
本発明では、寸法安定性を向上させる目的で無機充填剤を追加使用してもよい。また熱安定性を改善させる目的で各種の酸化防止剤を使用してもよい。また、本発明の導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、加工助剤や可塑剤を通常使用される配合量で使用しても構わない。
【0024】
製造方法
本発明の導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物は公知の樹脂混練設備、例えば熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、あるいは押出混練機で溶融混練を行って製造することが出来、ペレット状の成形材料などとして得ることができる。
【0025】
電気電子部品包装材料
本発明の樹脂組成物から得られる成形品は、特に電気電子部品の包装用としての使用が好適である。例えば、ウエハーのトレー、回路基盤収納ボックス、ハードディスク、CD、DVD、MO等の光や磁気記録装置の基盤、ハウジング、IC部品ボックス、ICトレー、ICマガジン等があり、特にICトレーとして好適に使用される。ICトレーは射出成形、プレス成形、押出成形などにより加工することが可能であるが、一般的に射出成形により製造される。本発明の樹脂組成物は一般の成形材料と同様に、含まれる水分を取り除くために成形前に温風乾燥機や真空乾燥機を用いて80〜130℃で3〜6時間の乾燥工程を設ける。
ICトレーをはじめとした搬送用部品は、静電気破壊を防止するため、また塵やほこりの付着を嫌うことから、表面抵抗が低いことが要求されるが、低すぎるとショートの危険性があり好ましくない。具体的には、表面抵抗は10〜1010Ωが好ましく、10〜10Ωがさらに好ましく、10〜10Ωが最も好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
・ 使用原料
以下の表1に示した成分を用い、下記表2〜4に示される(A)〜(D)成分の配合割合(単位は重量部)に従って、各実施例及び比較例の導電性樹脂組成物を製造した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
前記、導電性熱可塑性樹脂組成物は、常法に従い調製した。表2の各成分を事前に均一混合したのち、シリンダー温度及びダイ温度を250〜320℃としたベントつき同方向二軸押出機(L/D=38)を用いて混練し、ストランドカット法により前記、導電性熱可塑性樹脂組成物をペレット化した。表1中のビニル芳香族重合体はスチレン含有分、JIS硬度、引張特性やMFRの異なるタイプに変えて調製した。得られた前記導電性熱可塑性樹脂組成物を型締力120tの射出成形機を用い、導電性及び剥離性評価用の75mm角の平板プレート、及び強度測定用ダンベル試験片を常法により成形した。剥離評価用プレートはトレー成形時を想定し、初期速度8.96cm/sec、圧力198MPaに設定して成形加工した。
【0031】
(2)評価方法
得られたペレットについては、下記評価を実施した。
〔導電性試験〕
得られたペレットを射出成型し、日本ゴム協会標準規格のSRIS2301−1969に準拠した方法で体積抵抗率を測定した。導電性は、1E+6Ω・cm未満を合格とした。
〔剥離率〕
得られたペレットを前記成形条件にて75mm角の平板プレートを射出成形により100枚高速成形して、表面を観察し、剥離部の有無を目視評価した。
〔JIS硬度〕
前記の通り、JIS K 6253に準拠してショアAを測定した。
〔引張伸び率〕
前記の通り、JIS K 6251に準拠して測定した。
【0032】
表3は特定のオレフィン含有ビニル芳香族オレフィンブロック重合体単体での各物性(分子タイプ、スチレン含有分、JIS硬度、MFR)と、種類を変えて表1の組成で作製した導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の試験片で評価した剥離率を示している。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
【表6】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテルを主成分とし、(B)スチレン系エラストマーと(C)導電性カーボンブラックを含有する導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物であって、前記(B)スチレン系エラストマーのスチレン比率が13重量%以下であることを特徴とする、電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)スチレン系エラストマーのJIS硬度が65以下である請求項1記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)スチレン系エラストマーの引張り伸び率が750%以上である請求項1、2記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(D)マイカを0.1〜6重量%含有する請求項1〜3記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を成形して得られる電気電子部品包装材料。
【請求項6】
請求項1〜4記載の電気電子部品包装材料成形用導電性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を成形して得られるICトレー。

【公開番号】特開2011−6627(P2011−6627A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153433(P2009−153433)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】