説明

電池スタックの拘束力検査方法

【課題】電池スタックを分解することなく(非破壊により)、拘束バンドによる拘束力を正確に測定できる拘束力検査方法を提供するものである。
【解決手段】複数の単電池を積層してなる積層体と、この積層体の両端に位置する一対のエンドプレートと、前記一対のエンドプレートに取り付けられることにより前記積層体を拘束する拘束バンドとを備えた電池スタックにおける前記拘束バンドの拘束力を検査する電池スタックの拘束力検査方法であって、前記積層体を加振して振動周波数を取得する取得ステップと、前記取得ステップによる取得結果に基づき、前記拘束バンドによる拘束力を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする電池スタックの拘束力検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の単電池を積層した積層体を拘束バンドにより拘束してなる電池スタックにおける拘束バンドの拘束力を検査する拘束力検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、電気自動車では、モータを駆動させる電源として、電池スタックが使用されている。この電池スタックは、複数の単電池およびスペーサ部材を交互に積層し、この積層体の両端に一対のエンドプレートを配置することにより構成される。積層体は、エンドプレートに取り付けられた拘束バンドにより拘束される。リチウムイオン電池としての単電池は、一定以上の圧力で加圧することにより所望の出力が得られるため、拘束バンドによる拘束力を検査することは非常に重要である。
【0003】
特許文献1は、拘束バンドに振動を与えて、この振動状態を測定するだけで、拘束バンドによる拘束力を非破壊により測定して検査する技術を開示する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−305320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の測定方法では、拘束バンドを加振することにより得られる振動周波数に基づき、拘束バンドの拘束力を計測するため、他の構成要素、すなわち、単電池、スペーサ部材およびエンドプレートなどの影響を受けてしまい、拘束バンドの拘束力を正確に測定することができなかった。具体的には、本出願人が実験したところ、周波数と拘束力との関係が、実際の拘束バンドの拘束力の曲線に対して、特許文献1の測定方法による拘束バンドの拘束力の曲線が大きくずれていた。特に大きな拘束力の測定については、周波数に対する拘束力の関係が、特許文献1に記載の測定方法では、実際の拘束力よりも高く測定されていた。このように、実際の拘束力よりも測定値が高いと、所定の拘束力よりも高いと判定された場合においても、実際には所定の拘束力よりも拘束力が小さいことがあった。
【0006】
そこで、本願発明は、電池スタックを分解することなく(非破壊により)、拘束バンドによる拘束力を正確に測定できる拘束力検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の拘束力検査方法は、複数の単電池を積層してなる積層体と、この積層体の両端に位置する一対のエンドプレートと、前記一対のエンドプレートに取り付けられることにより前記積層体を拘束する拘束バンドとを備えた電池スタックにおける前記拘束バンドの拘束力を検査する電池スタックの拘束力検査方法であって、
前記積層体を加振して振動周波数を取得する取得ステップと、前記取得ステップによる取得結果に基づき、前記拘束バンドによる拘束力を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電池スタックを分解することなく(非破壊により)、拘束バンドによる拘束力を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】電池スタックの斜視図である。
【図2】電池スタックの分解斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態における検査方法の概略図である。
【図4】本発明の拘束力検査方法における制御フローチャートである。
【図5】荷重と周波数の関係を示した関係図である。
【図6】電池スタックにおけるモデリング図である。
【図7】拘束バンドおよび積層体における荷重と周波数の関係を示した関係図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の電池スタックにおける拘束バンドの拘束力検査方法の一実施形態について説明する。ここで、図1は電池スタックの斜視図であり、図2は電池スタックの分解斜視図である。図1における矢印は、吸気方向及び排気方向を示している。図2では、吸気チャンバ、排気チャンバ及び拘束バンドを省略している。
【0011】
図1に示すように、電池スタック1は、底板11と、底板11の上に2列に載置された積層体12と、積層体12の一方の側面から空気を吸気する吸気チャンバ13と、吸気チャンバ13により積層体12内に吸気された空気を吸気チャンバ13の取り付け面に対向する側から排気する排気チャンバ14と、各積層体12の上下外周を拘束する拘束バンド15からなる。
【0012】
積層体12は、図2に示すように複数の単電池121および複数のスペーサ部材122をx軸方向に交互に積層し、その積層方向の端部をエンドプレート123により挟持したものである。ここで、単電池121は、リチウムイオン電池であり、内部に発電要素を収容している。単電池121の上端面側には、Y軸方向に並んで正極端子及び負極端子が設けられている。X軸方向に隣接する単電池121は、バスバー(不図示)を介して直列に接続されている。
【0013】
拘束バンド15は、電池スタック1の上端面及び下端面に沿ってX軸方向に延びており、その両端部は下方に折れ曲がっている。この曲げ部をエンドプレート123に固定することにより、一対のエンドプレート123が互いに接近する方向に加圧される。この拘束バンド15をエンドプレート123のY−Z断面における4隅の計4カ所に取り付ける。このようにエンドプレート123の4隅を拘束バンド15で拘束することにより、積層体12を圧縮している。これにより、積層された複数の単電池121における性能を維持することができる。ここで、各拘束バンド15の電池スタック1に対する拘束力は、拘束バンド締付け装置(不図示)により、積層体12に対して必要十分な拘束力(設計値)を備えるように設定する。
【0014】
この必要十分な拘束力よりも低い拘束力で積層体12を拘束すると、単電池121の所望の入出力特性が得られなくなるおそれがある。そのため、積層体12が所定の拘束力で拘束されているか否かを確認することが必要である。
【0015】
そこで、次に拘束バンド15の拘束力を検査する測定方法について以下に説明する。
【0016】
図3に、第1の実施形態の測定方法についての概念図を示す。この測定装置は、ハンマリング法を用いた測定方法による装置であって、積層体12をハンマリング(打撃)するためのインパクトハンマ2と、このインパクトハンマ2を駆動するためのアクチュエータ駆動装置(不図示)と、積層体12の振動状態を示す振動波形の周波数を測定するための加速度ピック3と、この加速度ピック3の測定結果に基づき周波数を分析するための周波数分析装置4とを備える。なお、インパクトハンマ2をアクチュエータ駆動装置で駆動することで、常に所定の力により積層体12を叩くことができる。
【0017】
図4に、拘束力検査方法をフローチャートで示す。先ず、ステップS101の加振測定工程では、ハンマリングを行うと共に、拘束バンド15の振動波形を加速度ピック3により測定する。すなわち、アクチュエータ駆動装置によりインパクトハンマ2を駆動させて、積層体12を叩くことで、積層体12に振動を与える。ここで、積層体12をインパクトハンマ2で叩く位置はどこでもよいが、振動の発生しやすさから積層体12のX軸方向中央が効果的である。このように積層体12をインパクトハンマ2で叩くことで、積層体12に様々な周波数の振動を一時に与えたのと同じ状態にすることができる。この加振された積層体12において生じた振動波形の周波数を加速度ピック3により測定する。
【0018】
次に加速度ピック3により測定された測定結果は、周波数分析装置4に送られる。この分析判定工程S102(判定工程)では、加速度ピック3により測定された周波数をFFT解析して、積層体12における周波数を分析する。この分析された周波数(f)が、予め定められた所定の範囲内(A≦f≦B)であるか否かの判定を行う。この所定の範囲の設定は、図5に示されるような拘束力(荷重)と周波数との関係から、設計荷重(設計拘束力)の上限値から下限値に対応する周波数とする。
【0019】
この分析判定工程において、加速度ピック3により測定された周波数が所定の範囲内にあると判定された場合は、周波数分析装置4においてOKを表示させて、周波数分析装置4の操作者に対して設計基準を満たした電池スタック1であることを報知する。反対に、分析判定工程で、加速度ピック3により測定された周波数が所定の範囲内にないと判定された場合は、周波数分析装置4においてNGを表示させる。
【0020】
ところで、本発明における拘束バンド15の拘束力の測定は、拘束バンド15の振動波形ではなく、積層体12の振動波形を測定する。この理由としては、拘束バンド15自体を測定する場合、その他の部材である積層体12(単電池121、スペーサ部材122、エンドプレート123など)や底板11の振動による影響を受けるためである。このため、単に拘束バンド15の振動波形を加速度ピック3により測定するだけでは、正確な拘束バンド15の拘束力を測定することはできない。
【0021】
これに対して、積層体12はエンドプレート123を介して拘束バンド15により互いに接近するように圧力がかけられているため、他の部材、例えば、拘束バンド15や底板11の影響を受けにくい。このため、積層体12の振動波形における周波数を測定する場合は、特に積層体12以外の部材の振動を考慮することなく、測定することができる。
【0022】
また、積層体12の膨出力は、拘束バンド15の拘束力と常につり合った状態にあるため、積層体12の膨出力を測定することで、拘束バンド15の拘束力を算出することができる。これを具体的に説明するために、次に拘束バンド15および積層体12をバネに仮定したモデリングとして説明する。積層体12の膨出力をバネ定数k1、拘束バンド15の拘束力をバネ定数k2とする。積層体12の変位量および拘束バンド15の変位量は、それぞれx1、x2とする。
【0023】
積層体12は、上部および下部を拘束バンド15により拘束されているため、X−Z断面において、図6のように積層体12を中央にして上下に拘束バンド15が位置している。ここで、拘束バンド15の拘束力をF2とし、積層体12の膨出力をF1とすると、これらの力(F1、F2)は、以下の式(1)および(2)で表される。



積層体12は、X−Z断面における4隅の計4カ所において拘束バンド15で拘束されている。そして、この積層体12の膨出力と拘束バンド15の拘束力は釣り合っており、この関係は式(3)のように表す。さらに、この式(3)に式(1)および(2)の関係を考慮して整理すると、式(4)のようになる。



このように、拘束バンド15の拘束力は、積層体12の膨出力の1/4に相当することが分かる。この関係から、単に積層体12の膨出力を算出するだけで、拘束バンド15の拘束力も算出することができる。
【0024】
さらに、本出願人が実験したところ、積層体12における周波数と荷重との関係についての曲線は、拘束バンド15における周波数と荷重との関係の曲線に比べて緩やかな曲線となった。このように周波数と荷重との関係の曲線の傾きが緩やかであると、加速度ピック3により測定された周波数が実際の積層体12の周波数からずれた周波数となった場合においても、周波数分析装置4により算出される荷重が実際に積層体12に働く荷重(拘束力)から大きくずれることはない。すなわち、拘束バンド15における周波数測定に比べて、積層体12における周波数測定が他の部材の振動の影響を受けてずれた周波数を測定したとしても、積層体12における実際の荷重(拘束力)から大きくずれた荷重(拘束力)を周波数分析装置4により算出することはない。
【0025】
以上のように、本実施形態の測定方法は、インパクトハンマ2で加振された積層体12における周波数を測定するだけで、拘束バンド15の拘束力を正確に算出することができる。また、単にインパクトハンマ2で積層体12を加振して、加振された積層体12の振動を加速度ピック3で計測するだけのため、電池スタック1を特に分解せずに(非破壊で)拘束バンド15の拘束力を測定することができる。
【0026】
さらに、本実施形態の測定方法は、電池スタック1を非破壊により拘束バンド15の拘束力を測定することができるため、電池スタック1を車両に搭載した状態においても簡単に拘束バンド15の拘束力を測定することができる。これにより、電池スタック1が使用期間の長期化に伴う経年劣化の度合いについても正確に確認することができる。
【0027】
(第2実施形態)
第1実施形態では、アクチュエータ駆動装置によりインパクトハンマ2で電池スタック1を加振させるものとして説明したが、特にこれに限られることはなく、例えば、図7のように電池スタック1を加振機5により加振させる構成としても良い。このように加振機5を用いることで、積層体12に加速度ピック3を当接させるのみで、拘束バンド15の拘束力を測定することができる。
【0028】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0029】
1 電池スタック
11 底板
12 積層体
121 単電池
122 スペーサ部材
123 エンドプレート
13 吸気チャンバ
14 排気チャンバ
15 拘束バンド
2 インパクトハンマ
3 加速度ピック
4 周波数分析装置
5 加振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を積層してなる積層体と、この積層体の両端に位置する一対のエンドプレートと、前記一対のエンドプレートに取り付けられることにより前記積層体を拘束する拘束バンドと、を備えた電池スタックにおける前記拘束バンドの拘束力を検査する電池スタックの拘束力検査方法であって、
前記積層体を加振して振動周波数を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによる取得結果に基づき、前記拘束バンドによる拘束力を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする電池スタックの拘束力検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−26201(P2013−26201A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163373(P2011−163373)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】