説明

電池パックの残存容量調整方法及び電池パック

【課題】複数の二次電池(セル)を並列に接続した組電池を直列に複数接続して電池モジュールとし、さらに複数の電池モジュールを直列に接続した電池パックに適用されて、全体としての出力特性の低下及び電力容量の低下を抑制する残存容量調整方法を提供する
【解決手段】並列に接続されたN個の素電池を備えた組電池が直列にk組接続された電池モジュールをD個備えた電池パックにおいて、ある素電池が異常状態となって切り離された際に、各電池モジュールに0.5〜1.0の範囲の容量補正率を設定し、容量補正率に応じて組電池の使用容量範囲を決めて、残存している各組電池の容量を算出してこれを用いて各組電池を単独でそれぞれ所定量放電させることにより残存容量を均等になるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パックの残存容量調整方法に関し、特に二次電池である素電池を複数備えた電池パックの残存容量調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)の需要が急増し、それに伴い電源である電池の需要も急増し、その特性の向上も急務となっている。HEVやPEVの電源にはリチウムイオン二次電池が使用されるようになってきており、自動車用途以外にも産業用途、住宅用途等にも高容量であるリチウムイオン二次電池が使われるようになってきている。
【0003】
上述のような自動車・機械の駆動電源や生活用電源としてリチウムイオン二次電池を利用するためには、複数の素電池を直列及び並列に接続して、高出力高容量の電池パックを構成する必要がある。しかし電池パックには、素電池自体の課題と、素電池を複数組み合わせることに由来する課題の両方が存在している。
【0004】
素電池を複数組み合わせることに由来する課題には、例えば、各素電池の電池特性がばらつくことにより電池パック全体としての特性が低下したり、安全性に問題が発生したりすることがある。特許文献1,2,3には、複数個の二次電池であるセルを直列に接続した組電池において、各セルの容量のばらつきを調整する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1では、組電池を構成するセルの開放電圧の最低電圧値VMINを容量調整目標値Vgとし、各セルを目標値との偏差に対応した時間だけ放電させて、他の多数のセルよりも相対的に電圧低下量が大きいけれども異常ではないセルの電圧を他の多数のセルの電圧と同レベルへ近づけていく技術が開示されている。
【0006】
特許文献2では、各セルの残存容量を求め、そのうち、最大残存容量Qmax を有するセルを放電すべき対象セルとして設定すると共に、この対象セルが放電後に有すべき目標残存容量Qzとして全セルの残存容量の平均値を設定して目標放電量△Q(=Qmax −Qz)を算出し、対象セルに放電回路を接続した後、放電回路に流れる対象セルからの放電電流Ihを測定して、その積算値Qhを算出し、積算値Qhが目標放電量△Qに達すると、対象セルから放電回路を切り放すことで、対象セルが目標残存容量Qzに達したか否かの判断を、セルの開回路電圧を実測することなく行って、短時間で確実にセルの充電状態を揃える技術が開示されている。
【0007】
特許文献3では、各セルに接続された放電回路を具えており、制御回路は、最適化後の蓄電量と所定の充電状態での蓄電量との差が等しくなるよう前記複数のセルの一部或いは全てのセルに対して放電回路による放電を実施することによって最適化を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−10512号公報
【特許文献2】特開平11−299122号公報
【特許文献3】特開2009−81981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1乃至3は複数個の二次電池であるセルを直列に接続した組電池を前提としており、このような組電池の中でのセルの容量ばらつきを改善する技術であるため、セルを並列接続した組電池や、このような組電池を複数接続して電池モジュールとした場合には、特許文献1乃至3の技術をそのまま適用することはできない。さらには、組電池中のセルが内部短絡する等の異常状態となった場合には特許文献1乃至3の技術では全く対応できない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の二次電池(セル)を並列に接続した組電池を直列に複数接続して電池モジュールとし、さらに複数の電池モジュールを直列に接続した電池パックに適用されて、全体としての出力特性の低下及び電力容量の低下を抑制する残存容量調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電池パックの残存容量調整方法は、前記電池パックがD個の電池モジュールが直列に接続された構成を有しており、前記電池モジュールは、並列に接続されたN個の前記素電池を備えた組電池が直列にk組接続された構成を有しており、各前記組電池において、異常状態となった前記素電池であって隣接する他の素電池と電気的接続を断たれた前記素電池の数Cm,b(mは電池モジュールの配置番号、bは組電池の配置番号)を検出する工程と、各前記組電池の容量Vm,bをそれぞれ算出し、前記容量Vm,bのうち最小の容量Vminを算出する工程と、各前記電池モジュールにおいて、前記容量Vm,bを用いて容量補正率Rm(mは電池モジュールの配置番号)を算出する容量補正率算出工程と、各前記組電池において、オフセット容量Ym,b=(Vm,b−Vmin)×Rmを算出する工程と、各前記組電池の現時点での残存容量Xm,bをそれぞれ算出しこれを用いて調整残存容量Zm,b=Xm,b−Ym,bと当該調整残存容量Zm,bのうち最小の調整残存容量Zminとを算出する工程と、各前記組電池において、前記調整残存容量Zm,bと前記最小の調整残存容量Zminとを比較して、Zm,b−Zmin>αである場合にのみ(αは所定の数値)、当該組電池を残存容量調整のために単独でZm,b−Zmin<β(βはβ<αである所定の数値)となるまで放電させる残存容量調整工程とを含み、前記容量補正率算出工程では、前記最小の容量Vminを有する組電池を含んでいる電池モジュールの配置番号m’を算出して、この組電池の容量補正率Rm’を1とするサブステップSB1と、前記Cm,bの最大値Cmaxを算出し、N−Cmaxが所定の必要素電池数Nr以上であるか否かを判定するサブステップSB2と、前記サブステップSB2にて、N−Cmax≧Nrであれば、0.5以上1.0以下の範囲のRmと前記容量Vm,bとを用いて、この時点で出力可能な電力量Whgの範囲を算出し、前記Whgの範囲には所定の必要電力量Whr以上である部分が含まれるか否かを判定するサブステップSB3と、記サブステップSB3にて前記Whgの範囲がWhr以上である部分が含まれると判定されれば、Whg≧WhrとなるWhgを算出するのに用いられたRmの値のうち最小の値を、m’以外の配置番号を有する組電池の前記容量補正率RmとするサブステップSB4と、前記サブステップSB2にてN−Cmax<Nrである、あるいは前記サブステップSB3にてWhgの最大値がWhrよりも小さい、と判定されたときには、m’以外の配置番号を有する組電池の容量補正率Rm=1とするサブステップSB5とを含むことを特徴としている。Dは1以上である。
【0012】
また本発明の電池パックは、D個の電池モジュールが直列に接続された構成を有し、該電池モジュールはk組の組電池が直列に接続された構成を有し、該組電池はN個の素電池が並列に接続された構成を有しており、各前記組電池の電圧を計測する電圧計測回路を含む組電池監視部と、各前記組電池の残存容量の最適値を算出する残存容量算出回路及び各前記組電池に対して残存容量の調整を行う残存容量調整回路を含む制御部と、出力電流を計測する電流計測部とをさらに有し、各前記組電池には、当該組電池を放電させる放電回路と、異常状態となった素電池に対して隣接する他の素電池との電気的接続を断つ切断部材とが設置されており、前記組電池監視部が、前記組電池内の前記素電池が異常状態になって前記切断部材によって隣接する他の素電池との電気的接続を断たれたことを検出したときには、前記残存容量算出回路が前記電圧計測回路及び前記電流計測部からの信号を利用して各前記組電池の残存容量の最適値を算出して、各前記組電池の残存容量が前記最適値になるまで前記制御部が前記放電回路を作動させて当該組電池を放電させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願の方法によって残存容量を調整すれば、異常状態となって他の素電池から電気的接続を断たれた素電池が存していても電池パックを使い続けることが可能であり、電池パック全体として出力特性の低下及び電力容量の低下が生じることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】二次電池のSOC−OCVの相関図である。
【図2】並列セルからなる組電池の容量を示した図である。
【図3】実施形態に係る素電池、組電池、電池モジュールを示す図である。
【図4】実施形態に係る模式的な電池パックの一部を示した図である。
【図5】図4の上側の電池モジュールにおける組電池の使用範囲を容量によって示した図である。
【図6】図4の下側の電池モジュールにおける組電池の使用範囲を容量によって示した図である。
【図7】実施形態に係る電池モジュールの構成の模式図である。
【図8】実施形態に係る電池パックの構成の模式図である。
【図9】別の実施形態に係る電池パックの構成の模式図である。
【図10】組電池の配置番号と電池モジュールの配置番号とを説明する図である。
【図11】実施形態に係る残存容量の調整方法のフローチャートである。
【図12】容量補正率の算出方法のフローチャートである。
【図13】実施形態に係る残存容量の調整の具体例を示す図である。
【図14】実施形態に係る残存容量の調整の別の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(定義)
異常状態となった電池とは、劣化や内部短絡等により充放電が不可能になったり、容量が初期の状態に比較して1/3未満になったりした電池のことをいう。
【0016】
電池モジュールの配置番号mとは、電池パック内のD個の電池モジュールのうち、直列配置の一方の端部の電池モジュールを配置番号1とし、そこからm番目に配置されている電池モジュールの配置番号である。
【0017】
組電池の配置番号bとは、電池モジュール内のk組の組電池のうち、直列配置の一方の端部の組電池を配置番号1とし、そこからb番目に配置されている組電池の配置番号である。
【0018】
組電池の容量とは、組電池全体としての初期満充電時における容量を指す。
【0019】
組電池の残存容量とは、測定・算出時にその組電池に残っている容量のことである。
【0020】
α、βは、残存容量調整のために行う各組電池の放電のオンオフの切替が頻繁に起こることを避けるために設定される数値である。具体的には、異常状態の素電池が含まれていない組電池の容量をBとしたときに、製品バラツキで発生する可能性がある0.03B〜0.05Bといった値にすればよい。
【0021】
所定の必要電池数Nrとは、電池パックに求められる電池特性を発揮するために必要な1つの組電池内に含まれる正常な素電池の数のことであり、組電池内の素電池数N、電池モジュール内の組電池の組数k、電池パック内の電池モジュール数D、電池パックの使用目的などのパラメータにより決まる数である。
【0022】
所定の必要電力量Whrとは、電池パックを電源として使用する装置・システムが安定して作動するのに必要な電力量であり、その装置・システムによって決まる電力量である。
【0023】
(発明に至る検討)
自動車や機械の駆動電源や生活用電源として二次電池を使用する際には、高出力と高容量の両方が必要となるため、複数のセルを直列及び並列の双方の接続を行って一つの電池パックを構成する必要がある。ここで最小単位の組電池を、特許文献1乃至3に開示されている複数のセルを直列接続した構成のものとすると、一つの組電池を高電圧の電池とみなすことができるが、1つのセルが内部短絡してしまうと組電池そのものが使用不可となり、例えばこのような組電池からなる電池パックを電気自動車の電源として用いると、走行中に突然電源が使用不可となって走行ができなくなるという危険な事態が生じるおそれがある。
【0024】
一方、組電池を複数のセルを並列接続したものとすると、1つのセルが内部短絡してもそのセルのみを周囲のセルと電気的に切り離せば、組電池全体としての容量は減るものの組電池自体は継続して使用することができるので、上記の電気自動車の例のような危険な事態は発生しない。そこで本願発明者は、複数のセルを並列接続したものを組電池とし、組電池を複数直列接続した電池モジュールを中間の単位とし、複数の電池モジュールを直列接続したものを電池パックにして、この電池パックを自動車や機械、家庭等の電源とすることとした。
【0025】
従来のセルが直列接続された組電池では、図1に示すように各セルのSOC(State of charge、充電状態)とOCV(Open circuit voltage、開路電圧)との関係(グラフ)が互いに同じなので組電池中の全てのセルの電圧、あるいはSOCが同じ値になるように調整すれば全てのセルが同じ充電状態になるため、特許文献1乃至3ではこのように調整を行っている。しかしながら、この方法はセルが並列接続された組電池には適用できない。
【0026】
そして、特許文献1乃至3には、複数の組電池間の容量調整の方法は開示されていない。組電池同士においてはSOC−OCVの関係が互いに同じ関係にはないので、特許文献1乃至3に示された1つの組電池内の容量調整方法を複数の組電池間の容量調整に使うことはできない。
【0027】
さらに並列接続の組電池では、図2に示すように内部のセル(素電池)10a,10bのうち少数(全体の10%未満の本数)のセル10bが異常状態となって使用不可となって他のセル10aから切り離されても、組電池121(図の下側の組電池)全体としては充放電可能であって、電池モジュール130としても使用可能である。しかしこの場合、全てのセルが使用可能な組電池(図2の上側の組電池)120は図2右側の上に示すように、1つのセル10aの容量を2Ahとしたときに、0から8Ahの範囲で使用可能であるが、組電池121は使用不可となったセル10bの分だけ容量が小さくなり、0から6Ahの範囲でしか使用できない。このような組電池121をどのように使用し、その他の組電池120をどのように使用したらよいのか、すなわち各組電池120,121の残存容量調節をどのように行うのか、ということに関する従来の知見はない。
【0028】
素電池が並列接続された組電池(ブロック)を複数個直列に接続した電池モジュールにおいて、各組電池を一つのセルのように見なすと、この電池モジュールは特許文献1乃至3の組電池と一見同じように扱うことができるように思われる。しかしながら、上述のように、ここであるブロックの一つの素電池が異常状態になって他の素電池から電気的に切り離された場合、特許文献1の技術のように最小電圧のブロックに合わせて他のブロックを放電させて電圧を最小電圧に合わせるようにすると、異常状態の素電池を含むブロックもさらに放電させるので、放電可能な容量はこのブロックにより決まることから、電池パックとして使用可能な容量が減少する。
【0029】
また素電池が並列接続された組電池(ブロック)を複数個直列に接続した電池モジュールにおいて、特許文献3の技術のように、最適化後の蓄電量と所定の充電状態での蓄電量との差が等しくなるよう複数のブロックの一部或いは全てのブロックに対して放電回路による放電を実施すると、あるブロックの一つの素電池が異常状態になって他の素電池から電気的に切り離された場合、電池モジュールの出力特性や、電力容量の低下を招いてしまう。
【0030】
本願発明者は以上のような新規の課題に対処すべく鋭意検討した結果、本願発明に至った。
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
【0032】
(実施形態1)
実施形態1に係る電池パックの基本的な構成は、図3に示すように、二次電池である素電池10がN個(図3ではN=4)並列に接続された組電池20を最小単位とし、組電池20がk組(図3ではk=3)直列に接続された電池モジュール30と中間の単位としている。そして、D個(D≧1)の電池モジュール30が直列に接続されて電池パック40を構成している。このような電池パック40は、1つの素電池10が異常状態になって電気的に接続が断たれても、電池パック40全体としては使用し続けることができる。電池パック40に含まれる素電池10の数が多ければ、複数の素電池10が異常状態となっても電池パック40は使用可能である。
【0033】
次に、実施形態1に係る基本的な電池パックの残存容量の調整方法を図4、図5、図6を用いて説明する。
【0034】
図4は電池パック40の一部の模式的な図であって、2つの電池モジュール30a、30bが示されている。上側の電池モジュール30aに含まれている3つの組電池20a,20a、20aはその中の素電池が全て正常に作動している。一方、下側の電池モジュール30bには、素電池が全て正常に作動している上側2つの組電池20b,20bと、1つの素電池が異常状態となって他の素電池との電気的な接続が断たれている最下部の組電池20b’とが含まれている。
【0035】
図4の上側の電池モジュール30aに含まれている各組電池20aの容量についての使用範囲を図5に示し、下側の電池モジュール30bに含まれている組電池20bの使用範囲を図6(a)に、組電池20b’の使用範囲を図6(b)に示す。図5(a)は、容量補正率Rm=0.5の場合であり、図5(b)は容量補正率Rm=1.0の場合である。図6(a)は容量補正率Rm=1.0の場合である。
【0036】
各組電池20a、20bは4つの素電池が並列に接続されて構成されており、1つの素電池の容量を2Ahとすると、正常な組電池20a,20bは容量が0から8Ahの範囲で使用可能であるが、1つの素電池が異常状態となっている組電池20b’は容量が0から6Ahの範囲でしか使用できず、この電池パック40では全ての組電池について最低容量の組電池20b’に合わせて容量の使用範囲を設定する必要がある。そこで組電池20b’に合わせて正常な組電池20a,20bも使用範囲を6Ah分として、その具体的な範囲を示したものが図5,6である。
【0037】
容量補正率Rmというのは、余剰となる容量分REを完全放電側と満充電側とにどのような割合で振り分けるのかを示す数値であり、RE×Rm[Ah]を下限に、8−RE×(1−Rm)[Ah]を上限とする容量範囲で組電池を使用する。
【0038】
リチウムイオン二次電池のような二次電池では、完全放電の状態や満充電の状態を何度も繰り返すと電池特性の劣化が早く生じるようになる。従って、電池特性の劣化を抑制するためには、余剰となる容量がある場合には図5(a)Rm=0.5のように、完全放電側と満充電側との両方に不使用の部分を設けることが好ましい。ただし、電気自動車の電源用途のように、高容量高出力が必要となる場合は、図5(b)のような(Rm=1.0)完全放電側のみに不使用領域を設定することが好ましい。なお、異常状態の素電池が含まれる電池モジュール30bにおける完全な組電池20bは、電池モジュール30b全体として高い出力を確保するために、Rm=1.0とする。この結果、他の電池モジュールに比べて異常状態の素電池が含まれる電池モジュール30bは早く寿命が尽きてしまうが、この電池モジュール30bだけを新たな電池モジュールに交換すれば対応でき、この交換で異常状態の素電池を取り除くことができる。
【0039】
次に電池パックの構造について説明する。図7は電池モジュール30の模式的な構造図であり、図8は電池パック40の模式的な構造図である。各組電池20には、異常状態となった素電池を周囲の素電池10から電気的接続を断つ切断部材(例えばヒューズ)12と、スイッチ14及び抵抗16からなる放電回路が備えられている。切断部材12は各素電池10に対してそれぞれ設置されている。そして各電池モジュール30には組電池監視部50が設置されている。電池パック40全体としては、各組電池監視部50と通信ライン62で繋がれた制御部70と電力線64に接続された電流センサ66とを有している。
【0040】
組電池監視部50の中には各組電池20の電圧を計測する電圧計測回路52と、各組電池20の温度を測定する温度センサ60からの信号を受ける温度計測部54と、制御部70との信号のやり取りを行ったり、放電回路のスイッチ14へのオンオフ信号を出したりするモジュール通信部56とが含まれている。計測された温度はSOCの算出に用いられる。
【0041】
制御部70の中には、電流センサ66からの信号を受けとる電流計測部71と、各組電池20の残存容量及び容量補正率を算出する残存容量算出部72と、各組電池20の残存容量を調整する残存容量調整部73と、組電池監視部50との信号のやり取りを行うパック通信部74とが含まれている。
【0042】
次に残存容量の調整方法について説明を行うが、その前提として図10を用いて組電池および電池モジュールの配置番号について説明する。残存容量の調整方法において、ある電池モジュールやある組電池を特定するために配置番号を用いる。電池モジュールの配置番号はm、組電池の配置番号はbとして、(m、b)で特定の組電池を指すことにする。具体的には図10に示すように、電池パック41には3つの電池モジュール31,32,33を含み、各電池モジュールには3つの組電池が含まれる場合、電池モジュールは上端のものを配置番号1として、下に行くに連れて2,3とする。組電池は、例えば2つ目の電池モジュール32の場合、上から順に組電池22a,22b,22cとし、配置番号は上から順に1,2,3とする。従って、例えば最下部の電池モジュール33の中の最上部に位置する組電池23aは、(3,1)という配置番号の組で表される。
【0043】
図11は残存容量の調整方法を示したフローチャートである。前提として電池パックはD個の電池モジュールからなり、電池モジュールはk組の組電池からなり、組電池はN個の素電池を含む。そして残存容量の調整は、制御部70の中の残存容量調整部73が主体となって、残存容量算出部72、パック通信部74、電圧計測回路52、電流計測部71、モジュール通信部56及び組電池監視部50と信号を送受信して行われ、最終的には放電回路によって各組電池を単独で放電させることで行われる。
【0044】
まず各組電池20において、異常状態になって隣接する素電池10から電気的に切り離された素電池の数Cm,bを検出する(S10)。異常状態となって切り離された素電池があると、充放電の過程において他の組電池とは電圧の変化の仕方が異なるため、Cm,bは組電池監視部50の電圧計測回路52によって検出することができる。
【0045】
それからCm,bを用いて各組電池の容量Vm,bを算出し、その中で最小の容量Vminを算出する(S20)。Vm,bは、組電池の初期の容量をB[Ah]とすると、Vm,b=B×(N−Cm,b)/Nで表される。
【0046】
その次に各電池モジュール単位で容量補正率Rmを算出する(S30)。Rmの算出方法は、後述する。
【0047】
このRmを用いて、各組電池のオフセット容量Ym,b=(Vm,b−Vmin)×Rmを算出する(S40)。
【0048】
それから各組電池の残存容量Xm,bを算出する(S50)。Xm,bは、この算出時の組電池の充電状態SOCm,b[%]を用い、Xm,b=SOCm,b×Vm,b/100で算出される。
【0049】
次に各組電池の残存容量Xm,bを調整して電池パック全体として均等化するために、調整残存容量Zm,b=Xm,b−Ym,bを算出し、その中で最小の調整残存容量Zminを算出する(S60)。
【0050】
そして、各組電池の調整残存容量Zm,bとZminとを比較して、Zm,b−Zmin>α(αは所定の値、例えば0.05B)であればその組電池のスイッチ14をオンにして抵抗16に電流を流して組電池を放電させ、Zm,b−Zmin<β(βはα>βである所定の値であって、例えば0.03B)となったら放電を停止させる(S70)。なお、α、βは現実の制御において安定して短時間で制御が行えるように設定する数値である。こうして残存容量の調整が終了する。
【0051】
この残存容量の調整は、全ての電池モジュールに対して同時に行っても良いし、順次行っても良い。
【0052】
次に容量補正率Rmの算出方法を図12を用いて説明する。容量補正率Rmは、前述したように、余剰となる容量分REを完全放電側と満充電側とにどのような割合で振り分けるのかを示す数値であり、数値が大きければ完全放電側に多く振り分けられ、容量補正率Rm=1.0の時に完全放電側に全て振り分けられる。電池パックが使用される機器側の要請より、Rmの範囲は0.5から1.0とする。
【0053】
容量補正率Rmの算出においては、まず最小組電池容量Vminである組電池を含む電池モジュール(配置番号m’)はRm’=1.0とする(S31)。Vminである組電池は、切り離しセル数が最も多いCmaxであり、この電池モジュール(m’)が他の電池モジュールに比べてモジュール容量が小さいと考えられるため、出力優先であるRm’=1.0とするのである。
【0054】
それから組電池内の素電池数Nから最大切り離しセル数Cmaxを引いたものが所定の必要電池数Nr以上であるか否かを判定する(S32)。N−Cmax≧Nrであれば、電池モジュール(m’)が今後の使用にも十分耐えられるが、そうでなければ早急にこの電池モジュール(m’)を交換した方がよい。
【0055】
サブステップS32でN−Cmax≧Nrと判定されたときには、Vm,bとRmとを用いてこの時点で出力可能な電力量Whg[Wh]を算出する。ここでRmは0.5から1.0までの範囲があるので、Whgもある数値範囲として算出される。このWhgの範囲に所定の必要電力量Whr[Wh]以上である部分が含まれるか否か、すなわちWhgの上限がWhr以上であるか否かを判定する(S33)。必要電力量Whrは電池パックが使用される機器側の要請より決まる電力量である。Whgの範囲にWhr以上である部分が含まれなければ早急に少なくとも電池モジュール(m’)を交換した方がよい。
【0056】
サブステップS33でWhgの範囲にWhr以上である部分が含まれると判定されたときは、Whg≧Whrを満たすWhgを算出したRmをピックアップし、ピックアップされたRmの値の中で最小の値をm’以外の配置番号の電池モジュールの容量補正率とする(S34)。このようにRmを設定することにより、必要な電力量を確保できるとともに、可能な限り満充電側に使用しない範囲を設定して電池モジュールの寿命を短くすることを防ぐことができる。
【0057】
サブステップS34を終えたらステップS40へ行く。
【0058】
一方、サブステップS32でN−Cmax<Nrと判定されたとき、あるいはサブステップS33でWhgの範囲にWhr以上である部分が含まれないと判定されたときは、早急に切り離しセル数が多い組電池を含む電池モジュールを新たな電池モジュールに交換すべき異常事態ではあるが、電池パック全体としては能力が低下したとはいえ充放電は可能であり、電気自動車などの駆動電源であれば走行中の電源停止は重大な事故に直結するため、m’以外の配置番号の電池モジュールも出力優先のRm=1.0として電池パックを使用できるようにする(S35)。そして速やかに電池モジュールの交換をすることを促す信号を発生させて(S36)、ステップS40に行く。
【0059】
サブステップS33におけるWhgの具体的な算出方法は以下の通りである。
【0060】
まずRmの値を決める。例えばRmを0.5から1.0まで0.05間隔で設定し、0.5から順に計算に用いることにする。Rmの値を決めると次の2つの式により、各組電池が使用することになるSOCの上限(SOCHm,b)と下限(SOCLm,b)とが算出される。
【0061】
【数1】

【0062】
【数2】

【0063】
それから下記の表から、SOCに対応する全電力量に対する比率(比電力量)が決まる。
【0064】
【表1】

【0065】
それから、SOCHm,b、SOCLm,b及び表を用いることにより、以下の式でWhgを算出する。
【0066】
【数3】

【0067】
なおWhBは、含まれている素電池が全て正常である組電池の初期の電力量[Wh]である。
【0068】
このような電池パックの残存容量の調整方法を行うことにより、異常状態となった素電池が発生しても電池パックを継続して使用することができるとともに、異常となった素電池を含む電池モジュールにおいては各組電池の出力特性や電力容量を低下させることがないため、例えばこの電池パックにより駆動されるモータのトルクを減少させることはなく、電源としての使用時間も最小限の低下に抑えることができる。また、異常となった素電池を含まない電池モジュールにおいては、電池パックが使用される機器側の要請に応じて高SOC領域から中程度SOC領域において充放電が行われるため、電池パックとしての特性低下を最小限に抑制することができる。そして満充電側に不使用領域を設定できる場合には電池モジュールの寿命を通常使用よりも延ばすことができる。
【0069】
(実施例1)
図13は、正常な素電池ばかりの電池パックにおいて、全ての組電池が満充電の際に、一つの素電池に異常が発生して電気的に接続が断たれた例である。組電池は4本の素電池が並列に接続されてなり、1本の素電池の容量は2Ahである。素電池としてリチウムイオン電池を使用している。
【0070】
図13では3つの組電池(図の上中下段)を比較している。素電池の切り離しが発生した時点では、切り離された素電池を含む組電池を示す図13(e)では容量が8Ahから6Ahとなるが、図13(a)、(c)は正常な素電池のみを含んでいるので、容量は8Ahのままである。
【0071】
Rmを算出したところ、Rmが0.5の組電池(図13上段、図13(a)、(b))と1.0の組電池(図13中段と下段、図13(c)〜(f))とに分かれた。切り離された素電池を含む組電池は当然Rm=1.0である。
【0072】
この算出されたRmに従って上記の方法により残存容量の調整を行った結果が図13(b)、(d)、(f)である。ここで最小の調整残存容量Zminは下段の組電池の6Ahである。なお、斜線部分は使用しない部分である。図13(d)では完全放電側にのみ不使用部分が設定されているおり、調整残存容量が6Ahであるので、8Ahの容量をそのまま使用できる。しかし図13(b)では7〜8Ahの範囲が不使用部分に設定されており、調整残存容量が7Ahであるので、この組電池のみを1Ah分放電することにより残存容量が7Ahに調整されている。
【0073】
(実施例2)
実施例2は実施例1と同様な構成の電池パックにおいて、全ての組電池が完全放電の際に一つの素電池に異常が発生して電気的に接続が断たれた例である。図14に示すように、各組電池を4Ahまで充電してそれから残存容量調整を行っている。
【0074】
図14では3つの組電池(図の上中下段)を比較している。素電池の切り離しが発生した時点では、切り離された素電池を含む組電池を示す図14(g)では容量が8Ahから6Ahとなるが、図14(a)、(d)は正常な素電池のみを含んでいるので、容量は8Ahのままである。ただし、全ての素電池の残存容量は0Ahである。
【0075】
Rmを算出したところ、Rmが0.5の組電池(図14上段、図14(a)〜(c))と1.0の組電池(図14中段と下段、図14(d)〜(i))とに分かれた。切り離された素電池を含む組電池は当然Rm=1.0である。
【0076】
この算出されたRmに従って、4Ahまで充電してそれから上記の方法により残存容量の調整を行った結果が図14(c)、(f)、(i)である。ここで最小の調整残存容量Zminは中段の組電池の4−2=2Ahである。従って中段の組電池(図14(f))には残存容量調整のための放電は行われない。上段の組電池図14(c)は調整残存容量が1Ahであるので、放電することで4Ahから3Ahに残存容量が調整されている。また、下段の組電池図14(i)は、調整残存容量2Ahであるので、放電することで4Ahから2Ahに残存容量が調整されている。
【0077】
(その他の実施形態)
上述の実施形態及び実施例は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。一つの組電池における並列素電池数Nは複数であれば構わない。上記実施形態のようにN=4であると必要並列セル数Nrは3とする場合がほとんどであり、一つの組電池においては切り離し素電池の数は1本しか許されないが、例えばN=20であれば切り離し素電池の数は2本から3本は許される場合がある。電池モジュール中の組電池数も1以上であればよいし、電池パック中の電池モジュール数も複数出ればよい。またこのような電池パックを複数組み合わせて一つの電源にしてもよい。素電池の種類はリチウムイオン電池に限定されず、他の二次電池であっても構わない。
【0078】
Whgの算出方法も上記の方法に限定されない。また、図9に示すように組電池監視部50と制御部70’との接続は、通信ライン62’が隣接する組電池監視部50,50同士を繋いでいて制御部70’は一つの組電池監視部50とのみ繋がっているデイジーチェーン構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明に係る電池パックの残存容量調整方法は、異常となって切り離された素電池が存していても電池パック全体として特性の低下を最小限に抑制できて、電気自動車や機械の駆動源・家庭用電源等の残存容量調整方法として有用である。
【符号の説明】
【0080】
10 素電池
12 切断部材
14 スイッチ
16 抵抗
20 組電池
30 電池モジュール
40 電池パック
50 組電池監視部
52 電圧計測回路
70 制御部
71 電流計測部
72 残存容量算出部
73 残存容量調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池である素電池を複数備えた電池パックの残存容量調整方法であって、
前記電池パックは、D個の電池モジュールが直列に接続された構成を有しており、
前記電池モジュールは、並列に接続されたN個の前記素電池を備えた組電池が直列にk組接続された構成を有しており、
各前記組電池において、異常状態となった前記素電池であって隣接する他の素電池と電気的接続を断たれた前記素電池の数Cm,b(mは電池モジュールの配置番号、bは組電池の配置番号)を検出する工程と、
各前記組電池の容量Vm,bをそれぞれ算出し、前記容量Vm,bのうち最小の容量Vminを算出する工程と、
各前記電池モジュールにおいて、前記容量Vm,bを用いて容量補正率Rm(mは電池モジュールの配置番号)を算出する容量補正率算出工程と、
各前記組電池において、オフセット容量Ym,b=(Vm,b−Vmin)×Rmを算出する工程と、
各前記組電池の現時点での残存容量Xm,bをそれぞれ算出しこれを用いて調整残存容量Zm,b=Xm,b−Ym,bと当該調整残存容量Zm,bのうち最小の調整残存容量Zminとを算出する工程と、
各前記組電池において、前記調整残存容量Zm,bと前記最小の調整残存容量Zminとを比較して、Zm,b−Zmin>αである場合にのみ(αは所定の数値)、当該組電池を残存容量調整のために単独でZm,b−Zmin<β(βはβ<αである所定の数値)となるまで放電させる残存容量調整工程と
を含み、
前記容量補正率算出工程では、
前記最小の容量Vminを有する組電池を含んでいる電池モジュールの配置番号m’を算出して、この組電池の容量補正率Rm’を1とするサブステップSB1と、
前記Cm,bの最大値Cmaxを算出し、N−Cmaxが所定の必要素電池数Nr以上であるか否かを判定するサブステップSB2と、
前記サブステップSB2にて、N−Cmax≧Nrであれば、0.5以上1.0以下の範囲のRmと前記容量Vm,bとを用いて、この時点で出力可能な電力量Whgの範囲を算出し、前記Whgの範囲には所定の必要電力量Whr以上である部分が含まれるか否かを判定するサブステップSB3と、
前記サブステップSB3にて前記Whgの範囲がWhr以上である部分が含まれると判定されれば、Whg≧WhrとなるWhgを算出するのに用いられたRmの値のうち最小の値を、m’以外の配置番号を有する組電池の前記容量補正率RmとするサブステップSB4と、
前記サブステップSB2にてN−Cmax<Nrである、あるいは前記サブステップSB3にてWhgの最大値がWhrよりも小さい、と判定されたときには、m’以外の配置番号を有する組電池の容量補正率Rm=1とするサブステップSB5と
を含む、電池パックの残存容量調整方法。
【請求項2】
前記サブステップSB2にてN−Cmax<Nrである、あるいは前記サブステップSB3にてWhgの最大値がWhr未満である、と判定されたときには、前記配置番号m’の電池モジュールを交換することを促す信号を発生させる、請求項1に記載されている電池パックの残存容量調整方法。
【請求項3】
D個の電池モジュールが直列に接続された構成を有し、該電池モジュールはk組の組電池が直列に接続された構成を有し、該組電池はN個の素電池が並列に接続された構成を有しており、
各前記組電池の電圧を計測する電圧計測回路を含む組電池監視部と、各前記組電池の残存容量の最適値を算出する残存容量算出回路及び各前記組電池に対して残存容量の調整を行う残存容量調整回路を含む制御部と、出力電流を計測する電流計測部とをさらに有し、
各前記組電池には、当該組電池を放電させる放電回路と、異常状態となった素電池に対して隣接する他の素電池との電気的接続を断つ切断部材とが設置されており、
前記組電池監視部が、前記組電池内の前記素電池が異常状態になって前記切断部材によって隣接する他の素電池との電気的接続を断たれたことを検出したときには、前記残存容量算出回路が前記電圧計測回路及び前記電流計測部からの信号を利用して各前記組電池の残存容量の最適値を算出して、各前記組電池の残存容量が前記最適値になるまで前記制御部が前記放電回路を作動させて当該組電池を放電させる、電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−52962(P2012−52962A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196988(P2010−196988)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】