説明

電池用セパレータ、イオン伝導体、及び電池、並びにこれらの製造方法

【課題】電池のサイクル特性を向上させることが可能な、電池用セパレータ、イオン伝導体、及び電池、並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム元素を有し液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子が、高分子基質を含む基材に分散されてなる電池用セパレータとし、該電池用セパレータに電解液が充填されてなるイオン伝導体とし、該イオン伝導体を有する電池とし、液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子を塩基性リチウム試薬で処理するリチウム化処理工程と、リチウム化処理工程後の無機酸化物微粒子を高分子基質を含む基材に分散させることにより分散組成物を得る工程と、得られた分散組成物を成形する工程とを含む電池用セパレータの製造方法とし、上記電池用セパレータに電解液を充填する工程を含むイオン伝導体の製造方法とし、上記イオン伝導体を製造する工程を含む電池の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータ、イオン伝導体及び電池、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極及び負極(一対の電極)と、これらの間に配置される電解質とが備えられ、電解質は、例えば非水系の液体状又は固体状物質によって構成される。液体状の電解質(以下において、「電解液」ということがある。)が用いられる場合には、電解液が正極や負極の内部へと浸透しやすい。そのため、正極や負極に含有されている活物質と電解液との界面が形成されやすく、性能を向上させやすい。ところが、電解液は液体であるが故に一定の形状を有しないため、電池の構造において制約を受けることが多く、例えば電池を小型化する試みにおいて障害となることがある。一方、固体状の電解質は所定の形状に成形することができ、電池の構造において高い自由度をもたらすことが可能である。中でも、イオン伝導率を向上させるために高分子に電解液を吸収させることが知られている。さらに、液体成分の吸収を円滑にするため、高分子を多孔性物質にする技術が提示されている。
【0004】
また、電解液を用いるリチウムイオン二次電池においては、正極と負極との間にセパレータが備えられる。セパレータは、電池の中で正極と負極とを電気的に隔離し、かつ電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導を確保する部材である。従って、セパレータにも、電解液を保持した際にイオン伝導率が良好であることが求められている。
【0005】
このような電解質及びセパレータに関する技術として、例えば特許文献1には、微細多孔性構造を有する高分子膜及び固体状電解質を製造するにあたり、シリカ等の酸化物からなり2〜30nmの気孔直径を有する無機物吸収剤粒子を高分子マトリックス内に少なくとも70重量%以上添加して、ラミネーションやプレッシングなどの電池組み立て過程においても多孔性構造が多大に破壊されるのを防ぐことにより、高分子膜の電解液に対する吸収力と、高分子膜に電解液が吸収されてなる固体状電解質のイオン伝導率とを維持する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−536233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている固体状電解質では、当該固体状電解質を用いた電池のサイクル特性が悪いという問題があった。例えば、中空多孔性シリカ微粒子をフッ素系樹脂に分散させて作製した多孔性膜に電解液を充填することによって得られる固体状のイオン伝導体を電解質層として、正極層と負極層とで挟持して作製したリチウムイオン二次電池においては、充放電サイクルを重ねた際に放電比容量が既存の電解液を電解質層とするリチウムイオン二次電池と比べて大きく低下する、すなわちサイクル特性が悪いという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、電池用セパレータ、イオン伝導体、及び電池、並びにこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リチウム元素を有する無機酸化物微粒子を用いることにより、充放電サイクルに伴う電池容量の減少を低減できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、リチウム元素を有し液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子が、高分子基質を含む基材に分散されてなることを特徴とする、電池用セパレータである。
【0011】
ここに、本発明において、「微粒子」は、液体成分を吸収可能であれば、多孔性であるか否かを問わず、また中空であるか否かを問わない。すなわち、「微粒子」は、中空微粒子(マイクロカプセル)を含み、さらに、中空でない多孔性の微粒子をも包含する概念である。「無機酸化物」とは、シリカ、アルミナや二酸化チタンなどに代表される、無機元素の酸化物である。なお、「無機酸化物微粒子」には、不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物としては、無機酸化物微粒子の製造過程で発生したアンモニウム塩等を例示することができる。また、「リチウム元素を有する」とは、無機酸化物微粒子を誘導結合プラズマ発光分光(ICP−AES)法で分析した際に、リチウム元素が検出されることを意味する。また、「高分子基質を含む基材」とは、基材が高分子基質以外に他の固体状物質を含んでいてもよいことを意味する。なお、「高分子」とは、ポリマーを意味し、特に断らない限り、その分子量及び分子構造は制限されないものとする。
【0012】
本発明の第1の態様において、無機酸化物微粒子が、多孔性の構造を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の第1の態様において、無機酸化物微粒子が、中空状かつ多孔性の構造を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の第1の態様において、無機酸化物微粒子が、少なくとも表面にリチウム元素を有することが好ましい。
【0015】
ここで、本発明において、無機酸化物微粒子の「表面」とは、無機酸化物微粒子の外表面に限られず、無機酸化物微粒子が電解液を充填された際に電解液と接触する面全てを意味する。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータに、電解液が充填されてなることを特徴とする、イオン伝導体である。
【0017】
本発明の第3の態様は、一対の電極と、該一対の電極の間に配設された本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体とを有することを特徴とする電池である。
【0018】
ここで、本発明において、「一対の電極」とは、正極及び負極の対を意味する。また、「間に配設され」とは、正極と負極との間に、イオン伝導体が存在していることを意味し、イオン伝導体と正極及び/又は負極との間に、イオン伝導性を有する他の層が介在していてもよいことを意味する。ここで、「イオン伝導性を有する他の層」としては、LiPO等の酸化物固体電解質を含む層を例示することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子を塩基性リチウム試薬で処理する、リチウム化処理工程と、リチウム化処理工程後の無機酸化物微粒子を、高分子基質を含む基材に分散させることにより、分散組成物を得る、分散工程と、分散工程で得られた分散組成物を成形する、成形工程とを含むことを特徴とする、電池用セパレータの製造方法である。
【0020】
ここで、本発明において、「塩基性リチウム試薬」とは、塩基性を有するリチウム含有試薬を意味し、アルキルリチウム類、リチウムアルコキシド類、リチウムアミド類等に代表される塩基性有機リチウム試薬の他、リチウムアミド(LiNH)や水素化リチウム等の塩基性無機リチウム試薬をも包含する概念である。また、「リチウム化処理」とは、無機酸化物微粒子にリチウム元素が存在している状態にする処理を意味する。また、「分散組成物」とは、リチウム化処理工程を経た無機酸化物微粒子が、高分子基質を含む基材又はその溶液中に分散されている組成物を意味する。
【0021】
本発明の第4の態様において、無機酸化物微粒子として、多孔性の構造を有する無機酸化物微粒子を用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明の第4の態様において、無機酸化物微粒子として、中空状かつ多孔性の構造を有する無機酸化物微粒子を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の第5の態様は、本発明の第4の態様にかかる電池用セパレータの製造方法により、電池用セパレータを作製する、セパレータ作製工程と、作製した電池用セパレータに電解液を充填する、電解液充填工程とを含むことを特徴とする、イオン伝導体の製造方法である。
【0024】
本発明の第6の態様は、本発明の第5の態様にかかるイオン伝導体の製造方法によりイオン伝導体を作製する、イオン伝導体作製工程と、作製したイオン伝導体を一対の電極の間に配設する過程を経て、一対の電極及びイオン伝導体を有する積層体を作製する、積層体作製工程とを含むことを特徴とする、電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の態様によれば、液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子がリチウム元素を有するので、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、電池用セパレータを提供することができる。
【0026】
本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体は、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータに、電解液が充填されることによって構成されている。ここで、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータによれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。したがって、本発明の第2の態様によれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、イオン伝導体を提供することができる。
【0027】
本発明の第3の態様にかかる電池は、本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体と、該イオン伝導体を挟むように配設された一対の電極とを有する。ここで、本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体によれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。したがって、本発明の第3の態様によれば、サイクル特性を向上させることが可能な、電池を提供することができる。
【0028】
本発明の第4の態様にかかる電池用セパレータの製造方法によれば、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータを製造することができる。ここで、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータによれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。したがって、本発明の第4の態様によれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、電池用セパレータの製造方法を提供することができる。
【0029】
本発明の第5の態様にかかるイオン伝導体の製造方法によれば、本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体を製造することができる。ここで、本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体によれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。したがって、本発明の第5の態様によれば、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、イオン伝導体の製造方法を提供することができる。
【0030】
本発明の第6の態様にかかる電池の製造方法によれば、本発明の第3の態様にかかる電池を製造することができる。ここで、本発明の第3の態様にかかる電池によれば、サイクル特性を向上させることが可能である。したがって、本発明の第6の態様によれば、サイクル特性を向上させることが可能な、電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の電池用セパレータ10を模式的に説明する断面図である。
【図2】本発明のイオン伝導体20を模式的に説明する断面図である。
【図3】本発明の電池30を模式的に説明する断面図である。
【図4】本発明の電池用セパレータの製造方法S10を説明するフローチャートである。
【図5】本発明のイオン伝導体の製造方法S20を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の電池の製造方法S30を説明するフローチャートである。
【図7】充放電試験において、実施例のイオン伝導体を用いた電池、及び、比較例のイオン伝導体を用いた電池について測定されたサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。以下においては、液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子として、中空多孔性のシリカ微粒子(マイクロカプセル)を用いる形態について主に説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。図面では、一部符号の記載を省略することがある。また、以下において、特に断らない限り、「A〜B」とはA以上B以下を意味する。
【0033】
1.電池用セパレータ
図1は、本発明の第1の態様にかかる電池用セパレータ10を模式的に説明する断面図である。図1の紙面上下方向が電池を組み立てるときの積層方向である。図1に示すように、電池用セパレータ10は、基材1と、リチウム元素含有中空多孔性シリカマイクロカプセル2、2、…(以下、単に「Li含有マイクロカプセル2」ということがある。)とを有し、シート状の形状を有する。図1に示すように、リチウム元素含有中空多孔性シリカマイクロカプセル2、2、…は、基材1に分散されている。以下、図1を参照しつつ、電池用セパレータ10について説明する。
【0034】
基材1は、高分子基質を含む。高分子基質は、フッ素系高分子を含むことが好ましい。高分子基質が含み得るフッ素系高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)等を例示できる。基材1がフッ素系高分子を含むことにより、電池用セパレータ10の化学的安定性、耐熱性、耐火性及び電気的絶縁性を良好とすることが容易になる。よって、電池用セパレータ10を用いるイオン伝導体及び電池の安全性を良好とすることが容易になる。
【0035】
Li含有マイクロカプセル2は、中空多孔性構造を有するシリカマイクロカプセルであって、少なくとも表面の一部にリチウム元素を有する。Li含有マイクロカプセル2は、図1に示したように外壁2aによって中空部2bが囲まれた中空状の構造を有し、外壁2aはさらに、中空部2bと外部とを繋ぐ多数の細孔(貫通孔)を有する。すなわち、Li含有マイクロカプセル2は中空多孔性構造を有する。このような構造を有することにより、Li含有マイクロカプセル2が電解液を吸収することが容易になる。
【0036】
基材1も、Li含有マイクロカプセル2も、共に電気の不導体である。よって、電池用セパレータ10は電気絶縁性を有するので、電池用セパレータ10を電池の正極と負極との間に備えることにより、正極と負極とを電気的に隔離できる。
【0037】
Li含有マイクロカプセル2は、リチウム元素を有している。Li含有マイクロカプセル2においては、シリカの表面活性点であるシラノール(Si−OH)基がSi−OLi基に変化してリチウムイオンに対して不活化された形態となり、該不活化部位にリチウム元素が存在していると考えられる。よって、Li含有マイクロカプセル2にリチウムイオン伝導性を有する電解液を吸収させたときに、電解液中のリチウムイオンと表面活性点とが反応してリチウムイオンが消費される事態を抑制可能である。よって、充放電サイクルを繰り返すにつれて正極と負極とのSOCバランスがずれる事態、すなわち、正極と負極とのLi元素吸蔵量の収支がずれる事態を抑制することが可能なので、電池容量の低下を低減することが可能となる。したがって、Li含有マイクロカプセル2を有することにより、電池のサイクル特性を向上させることが可能な、電池用セパレータ10を提供することができる。
【0038】
また、Li含有マイクロカプセル2においては、上述のように表面活性点であるシラノール基から酸性プロトンが取り除かれていると考えられるので、電解液に含有させるリチウム塩としてLiPF等のフッ素系リチウム塩を用いても、PF等のフッ素系カウンターアニオンと表面活性点の酸性プロトンとの反応によってフッ化水素HFが発生する事態を抑制可能である。よって、フッ化水素の発生に伴う電極表面における不働態膜の形成や、活物質中の遷移金属の溶出や、集電体の腐食といった反応を抑制することが可能なので、このような反応に起因する電池容量の低下や電池出力の低下を抑制可能である。したがって、かかる形態のLi含有マイクロカプセル2を有することにより、電池のサイクル特性を向上させ、電池出力を高めることが可能な、電池用セパレータ10を提供することができる。
【0039】
Li含有マイクロカプセル2が有するリチウム元素の含有量は、Li含有マイクロカプセル2においてリチウムイオンに対して不活化されずに残留している表面活性点と、電解液の成分との上述した反応が、電池のサイクル特性に悪影響を及ぼさない程度であればよいと考えられる。無機酸化物微粒子における表面活性点の数密度(個数/g)は、無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物の種類によって異なり、また、無機酸化物微粒子の形態、特に比表面積(m/g)によっても異なる。よって、これらの要素に依存して、無機酸化物マイクロカプセルが有するリチウム元素の好ましい量は異なる。例えば、無機酸化物がシリカである場合の無機酸化物微粒子の単位BET表面積(m)あたりのリチウム元素の含有量(g)は、誘導結合プラズマ発光分光(ICP−AES)法で定量分析した値で、1.0μg/m以上とすることができる。
【0040】
また、電池用セパレータ10の膜厚は、特に制限されるものではなく、使用形態に応じて適宜設定することが可能である。膜厚は、例えば20μm〜100μmとすることができる。膜厚を20μm以上とすることにより、電池用セパレータ10の強度を高めることがより容易になる。膜厚を100μm以下とすることにより、電池の内部抵抗を低減して電池出力を高めることがより容易になる。
【0041】
また、Li含有マイクロカプセル2と基材1との配合比は、質量比で30:70〜45:55であることが好ましい。Li含有マイクロカプセル2と基材1との合計質量を100質量部とするとき、Li含有マイクロカプセル2の含有量を30質量部以上とすることにより、電池用セパレータ10が吸収可能な電解液の量を多くすることが容易になる。よって、電池抵抗を低減して電池出力を高めることがより容易になる。また、Li含有マイクロカプセル2の含有量を45質量部以下とすることにより、電池用セパレータ10の強度を高めることがより容易になる。
【0042】
本発明に関する上記説明では、リチウム元素含有中空多孔性シリカマイクロカプセル2、2、…を含む形態の電池用セパレータ10を例示したが、本発明の電池用セパレータは当該形態に限定されない。本発明の電池用セパレータは、シリカ以外の無機酸化物を構成材料とする無機酸化物微粒子にリチウム元素を含有させたものを含む形態とすることも可能である。本発明の電池用セパレータに用いる無機酸化物マイクロカプセルを構成し得る無機酸化物としては、シリカのほか、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等を例示することができる。
【0043】
また、本発明に関する上記説明では、中空多孔性構造を有するLi含有マイクロカプセル2を含む形態の電池用セパレータ10を例示したが、本発明の電池用セパレータは当該形態に限定されない。本発明の電池用セパレータに用いる無機酸化物微粒子は、電解液を吸収できるものであればよい。例えば、非中空の多孔性構造を有する無機酸化物微粒子であって、リチウム元素を含有させたものを含む形態の電池用セパレータとすることも可能である。また、外壁によって中空部が囲まれた中空状の構造を有し、外壁には該中空部に外部から電解液が流入可能な経路を有する、非多孔性の中空無機酸化物マイクロカプセルであって、リチウム元素を有するものを含む形態の電池用セパレータとすることも可能である。
【0044】
また、本発明に関する上記説明では、フッ素系高分子を含む高分子基質を含む基材1を有する形態の電池用セパレータ10を例示したが、本発明の電池用セパレータは当該形態に限定されない。例えば、高分子基質に、フッ素系高分子以外の高分子が含まれる形態とすることも可能である。高分子基質としては、電池用セパレータにおいて利用可能な公知の高分子材料を特に制限なく用いることができる。なお、高分子基質は、2種類以上の高分子の混合物で構成することも可能である。例えば、フッ素系高分子と、フッ素系高分子以外の高分子との混合物で高分子基質を構成することも可能である。このほか、フッ素系高分子以外の高分子で高分子基質を構成することも可能である。また、基材には高分子基質以外の物質が含有されていてもよい。例えば、イオン伝導を補助する固体電解質成分(例えばLiPO等の酸化物固体電解質)や、電池用セパレータの可塑性を向上させる可塑剤等、本発明の電池用セパレータの効果が損なわれない範囲において公知の添加材を基材が含む形態とすることも可能である。
【0045】
また、本発明に関する上記説明では、シート状の形状を有する形態の電池用セパレータ10を例示したが、本発明の電池用セパレータは当該形態に限定されない。シート状以外の形状を有する電池用セパレータとすることも可能である。本発明の電池用セパレータの形状は、これを備える電池の構造に合わせて適宜設定することができる。例えば、正極層や負極層の形状に対応して、凹部や凸部を有する形態の電池用セパレータとすることも可能である。
【0046】
2.イオン伝導体
図2は、本発明の第2の態様にかかるイオン伝導体20を模式的に説明する断面図である。図2の紙面上下方向が電池を組み立てるときの積層方向である。イオン伝導体20は、リチウムイオンの伝導体である。図1及び図2を参照しつつ、イオン伝導体20について、以下に説明する。
【0047】
図2に示すように、イオン伝導体20は、上記した電池用セパレータ10に、リチウムイオン伝導性を有する電解液3を充填させることによって構成されている。図1及び図2に示すように、電解液3は、少なくともリチウム元素含有シリカマイクロカプセル2、2、…の中空部2b、2b、…に保持されている。
【0048】
電解液3には、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の有機電解液を適宜用いることができる。かかる有機電解液は、リチウム塩及び有機溶媒を含有している。有機電解液に含有されるリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、及び、LiAsF等の無機リチウム塩、並びに、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、及び、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を例示することができる。また、有機電解液の有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、及び、これらの混合物等を挙げることができる。また、有機電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.1mol/L〜3mol/Lの範囲内とすることができる。なお、イオン伝導体20においては、有機電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いても良い。
【0049】
イオン伝導体20は、電気の不導体である電池用セパレータ10に電解液3を吸収させているので、イオン伝導体20を電池の正極と負極との間に配設することにより、正極と負極とを電気的に隔離することができる。したがって、イオン伝導体20を電池の電解質層として用いることにより、電気絶縁用のセパレータが不要になる。
【0050】
イオン伝導体20に含まれるLi含有マイクロカプセル2においては、上述したようにシリカの表面活性点がリチウムイオンに対して不活化されていると考えられるので、電解液3に含有されるリチウムイオンがシリカの表面活性点と反応することにより消費される事態を抑制可能である。よって、イオン伝導体20を電解質層として用いる電池においては、正極と負極とのSOCバランスがずれる事態を抑制することが可能なので、充放電サイクルに伴う電池容量の低下を低減可能である。よって、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。
【0051】
また、Li含有マイクロカプセル2においては、上述したようにシリカの表面活性点(シラノール基)の酸性プロトンが取り除かれていると考えられるので、電解液3に含有させるリチウム塩としてLiPF等のフッ素系リチウム塩を用いた場合であっても、PF等のフッ素系カウンターアニオンと表面活性点の酸性プロトンとの反応によるフッ化水素の発生を抑制可能である。フッ化水素の発生を抑制することによって、フッ化水素の発生に起因する上記した電池出力や電池容量の低下を抑制可能である。ここで、LiPFやLiBF等のフッ素系リチウム塩は、高い解離度を有するので、電解液3にこのようなフッ素系リチウム塩を含有させることにより、電解液3のイオン伝導率を高めることが可能となる。イオン伝導体20におけるイオン伝導は主として電解液3が担うと考えられるので、電解液3のイオン伝導率を高めることによって、イオン伝導体20のイオン伝導率も高めることが可能となる。したがって、LiPFやLiBF等のフッ素系リチウム塩を含有する電解液3を用いることにより、イオン伝導体20を電解質層として用いる電池の内部抵抗を低減して電池出力を良好にしつつも、該電池のサイクル特性を向上させることが可能となる。
【0052】
3.電池
図3は、本発明の第3の態様にかかる電池30を模式的に説明する断面図である。電池30は、リチウムイオン二次電池である。図3を参照しつつ、電池30について以下に説明する。
【0053】
図3に示すように、電池30は、積層体27と、積層体27を構成する正極集電体23に接続された正極端子25と、積層体27を構成する負極集電体24に接続された負極端子26と、これらを収容する外装部材28とを有している。積層体27は、イオン伝導体20と、イオン伝導体20を挟持するように配設された正極層21及び負極層22と、正極層21に接触するように配設された正極集電体23と、負極層22に接触するように配設された負極集電体24とを有する。そして、外装部材28に、正極端子25及び負極端子26の一部並びに積層体27が封入されている。
【0054】
イオン伝導体20は、上述の構成を有するリチウムイオンの伝導体である。電池30には、イオン伝導体20が電解質層として備えられている。上述したように、イオン伝導体20によれば、イオン伝導体20を電解質層として用いる電池のサイクル特性を向上させることが可能であり、また電池の内部抵抗を低減して電池出力を高めることが容易になる。したがって、リチウムイオン二次電池30によれば、サイクル特性を向上させることが可能であり、電池出力を高めることが容易になる。
【0055】
正極層21は正極活物質を含有していれば良く、正極活物質に加えて、固体電解質を含有していてもよい。正極層21に含有される正極活物質としては、例えばコバルト酸リチウムを用いることができ、固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する公知の固体電解質(例えば、LiPO等の酸化物固体電解質)を用いることができる。正極層21にはこの他に、電子伝導パスを形成しやすくする公知の導電助剤(例えばアセチレンブラック)、及び、これらの物質を結着させる公知の結着剤(例えばポリフッ化ビニリデン)等が含有されていても良い。正極層21は、公知の方法によって作製することができる。正極層21は、後述する正極集電体23の表面に適切に形成されていれば、その形態は特に限定されるものではない。正極層21の厚さは、例えば5μm〜500μm程度とすることができる。
【0056】
負極層22は負極活物質を含有していれば良く、負極活物質に加えて、固体電解質を含有していてもよい。負極層22に含有される負極活物質としては、例えばグラファイトカーボンを用いることができ、固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する公知の固体電解質(例えば、LiPO等の酸化物固体電解質)を用いることができる。負極層22にはこの他に、電子伝導パスを形成しやすくする公知の導電助剤(例えばアセチレンブラック)、及び、これらの物質を結着させる公知の結着剤(例えばポリフッ化ビニリデン)等が含有されていても良い。負極層22は、公知の方法によって作製することができる。負極層22は、後述する負極集電体24の表面に適切に形成されていれば、その形態は特に限定されるものではない。負極層22の厚さは、例えば5μm〜500μm程度とすることができる。
【0057】
正極集電体23や負極集電体24としては、固体状の電解質層を有する電池の正極集電体や負極集電体として適用できる集電体であればその材質等は特に限定されるものではなく、金属箔や金属メッシュ、金属蒸着フィルム等を用いることができる。例えば、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される一以上の元素を含む金属材料からなる金属箔やメッシュ、或いは、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレンなどのフィルムやガラス、シリコン板等の上に上記金属材料を蒸着したもの等を用いることができる。正極集電体23及び負極集電体24の形態は特に限定されるものではなく、厚さは、例えば5μm〜500μm程度とすることができる。
【0058】
正極端子25や負極端子26としては、リチウムイオン二次電池の端子として適用できる端子であればその形態は特に限定されるものではなく、金属板や金属棒等を用いることができる。例えば、Cu、Au等の良好な導電性を有する公知の材料を用いることができる。
【0059】
外装部材28としては、積層体27を適切に封入保護できるものであればその形態は特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池に使用可能な公知の外装部材を特に制限なく用いることができる。
【0060】
本発明の電池に関する上記説明では、リチウムイオン二次電池である形態の電池30を例示したが、本発明の電池は当該形態に限定されない。本発明の電池は、本発明のイオン伝導体が備えられていれば、その形態は特に限定されるものではなく、二次電池であっても一次電池であってもよい。例えば一次電池であっても、本発明のイオン伝導体を備えることによって電解液中のリチウムイオンの減少に伴う電解液の劣化が抑制され、またフッ化水素HFの発生が抑制されるので、当該電池の長寿命化を図ることが可能である。
【0061】
4.電池用セパレータの製造方法
図4は、本発明の第4の態様にかかる電池用セパレータの製造方法S10を説明するフローチャートである。電池用セパレータの製造方法S10は、図1に示した電池用セパレータ10を製造する方法である。図4に示すように、電池用セパレータの製造方法S10は、前処理工程S11と、リチウム化処理工程S12と、分散工程S13と、成形工程S14とを有する。以下、図1及び図4を参照しつつ、電池用セパレータの製造方法S10について説明する。
【0062】
前処理工程S11(以下、単に「S11」ということがある。)は、リチウム化処理工程S12の前に、中空多孔性シリカマイクロカプセル(以下において、単に「マイクロカプセル」ということがある。)を前処理する工程である。S11では、マイクロカプセル表面に残留する塩等の不純物を除くために塩酸で洗浄する洗浄処理、及びマイクロカプセル表面に吸着した水分を除くために加熱及び/又は減圧により乾燥する乾燥処理がこの順に行われる。洗浄処理でマイクロカプセルに残留する不純物を除去することにより、当該不純物が原因で電解液が劣化する事態を抑制することが容易になる。したがって、洗浄処理を行うS11を有することにより、電解液を充填して電池に電解質層として備えた際に電池のサイクル特性を良好にすることが容易であり、また電池の内部抵抗を低減して電池出力を高めることが容易な、電池用セパレータ10を製造することができる。また、乾燥処理を行うことによりマイクロカプセルに残留する水分を減少させ又は除くことができ、さらにはシリカの表面活性点であるシラノール基を減少させることも可能である。よって、乾燥処理を行うS11を有することにより、次のリチウム化処理工程S12におけるリチウム化処理の効率を向上させることが容易になる。
【0063】
リチウム化処理工程S12(以下、単に「S12」ということがある。)は、上記S11を経たマイクロカプセルを塩基性リチウム試薬で処理することにより、Li含有マイクロカプセル2を作製する工程である。塩基性リチウム試薬としては、n−ブチルリチウム(BuLi)を用いる。マイクロカプセル1gに対して用いるBuLiの量は0.5mmol以上とすることが好ましい。BuLiを上記下限値以上用いることにより、マイクロカプセルの表面活性点をより確実にリチウム化してリチウムイオンに対して不活化することが容易になるので、電池のサイクル特性向上の効果を奏することがより容易になる。BuLiの使用量の上限は特に制限されないが、製造コストを低減する観点からは、例えばマイクロカプセル1gに対して10mmol以下とすることが好ましい。BuLiによる処理は、BuLiの副反応を抑制するため、乾燥窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、BuLiによる処理はヘキサン溶媒中で行うことが好ましい。ヘキサンは反応性が極めて低いので、ヘキサンを溶媒として用いることによりBuLiの分解反応を抑制することが容易になる。よってBuLiの使用量を削減して製造コストを低減することが容易になる。またヘキサンは極性が極めて低いので、水分量を抑制することが容易である。なお、カールフィッシャー法で測定した該ヘキサン溶媒中の水分量は、可能な限り少なくすることが好ましく、例えば100ppm以下であることが好ましい。水分はBuLiの分解反応の原因となる。また水分はマイクロカプセルのリチウム化された部位(Si−OLi)がプロトン化されて表面活性点(Si−OH)に戻ってしまう原因ともなると考えられる。よってヘキサン溶媒中の水分量を100ppm以下とすることにより、BuLiを節約することが容易になり、また表面活性点をより確実にリチウム化することがより容易になるので、製造コストを低減しつつ、電池のサイクル特性向上の効果を奏することがより容易になる。
【0064】
また、ヘキサン溶媒中のBuLiの濃度は、反応速度を高めることにより処理に要する時間を短縮して製造効率を高める等の観点からは、0.01mol/L以上とすることが好ましい。濃度の上限は特に制限されないが、溶液の取扱いの容易性及び安全性確保等の観点からは、例えば0.5mol/L以下とすることが好ましい。処理温度は、反応速度を高めることにより処理に要する時間を短縮して製造効率を高める等の観点からは、−60℃以上とすることが好ましく、BuLiの分解反応を抑制する等の観点からは、40℃以下とすることが好ましい。処理時間は、マイクロカプセルの表面活性点をより確実にリチウム化する等の観点からは、1時間以上とすることが好ましい。処理時間の上限は特に制限されないが、製造効率を高める等の観点からは、例えば12時間以下とすることが好ましい。
【0065】
塩基性リチウム試薬による処理が終了したら、固液分離を行い、マイクロカプセルを取り出す。ここで固液分離手段としては、デカンテーションや濾別等、公知の固液分離手段を特に制限なく用いることができる。取出したマイクロカプセルをヘキサンで洗浄し、マイクロカプセル中に残留しているBuLiを除去する。なお、BuLiの反応副生成物はブタン(沸点:−0.5℃)なので、その除去は極めて容易である。洗浄が完了したら、減圧乾燥を行ってヘキサンを除去し、Li含有マイクロカプセル2を得る。減圧乾燥の条件は、Li含有マイクロカプセル2が吸収可能な電解液の量が残留ヘキサンによって大きく損なわれることがなく、かつ、残留ヘキサンが電解液に混入しても電解液の特性に大きな問題を生じさせない程度までヘキサンを除去できればよく、例えば圧力0.2kPaの減圧下、温度を120℃として時間を2時間とすることができる。
【0066】
分散工程S13(以下、単に「S13」ということがある。)は、上記S12によって得られたLi含有マイクロカプセル2を、基材1の溶液に分散させることにより、分散組成物を得る工程である。上述したように、基材1は高分子基質を含む。また高分子基質は上記のフッ素系高分子を含むことが好ましい。S13において、基材1を溶解させる溶媒としては、ジメチルアセトアミド等、基材1を溶解可能な公知の有機溶媒を用いることができる。
【0067】
S13では、まずLi含有マイクロカプセル2と基材1との質量比が30:70〜45:55となるように、基材1を用意する。Li含有マイクロカプセル2と基材1との合計質量を100質量部とするとき、Li含有マイクロカプセル2の含有量を30質量部以上とすることにより、製造される電池用セパレータ10が吸収可能な電解液の量を多くすることが容易になる。よって、電池抵抗を低減して電池出力を高めることが可能な電池用セパレータ10を製造することがより容易になる。また、Li含有マイクロカプセル2の含有量を45質量部以下とすることにより、製造される電池用セパレータ10の強度を高めることがより容易になる。
【0068】
次に、用意した基材1を溶媒に溶解する。このとき、1質量部の基材1に対して、溶媒を5質量部〜50質量部用いることが好ましい。溶媒を5質量部以上用いることにより、Li含有マイクロカプセル2を溶液中に均一に分散させ、均一な分散組成物を得ることが容易になる。よって、次の成形工程S14において、基材1にLi含有マイクロカプセル2が均一に分散された電池用セパレータ10を製造することが容易になる。基材1にLi含有マイクロカプセル2を均一に分散させることにより、製造された電池用セパレータ10の電解液吸収量を均一にすることが可能になる。したがって、製造された電池用セパレータ10に電解液を吸収させた際のイオン伝導率のむらを抑制し、電池の内部抵抗を低減して電池出力を高めることが容易になる。一方、溶媒の使用量を50質量部以下とすることにより、次の成形工程S14における溶媒の除去が容易になり、また溶媒使用量を低減して製造コストを下げることが可能となる。なお、基材1を溶媒に溶解するにあたっては、撹拌、加温や超音波照射等の公知の溶解手段を特に制限なく用いることができる。
【0069】
こうして基材1の溶液を得たら、この溶液にLi含有マイクロカプセル2を加え、分散させることにより、分散組成物を得る。Li含有マイクロカプセル2を分散させるにあたっては、撹拌や超音波照射等の公知の分散手段を特に制限なく用いることができる。
【0070】
成形工程S14(以下、単に「S14」ということがある。)は、上記S13で得られた分散組成物を、膜状に成形することにより、電池用セパレータ10を完成させる工程である。成形工程S14では、ドクターブレード法等の公知の方法を特に制限なく用いることができる。分散組成物を成形して成形体を作製したら、当該成形体から溶媒を除去して固化させる。溶媒の除去は、例えば、温度を一定に保ったガスフロー条件下で行うことが好ましい。また、溶媒除去時に流すガスには、窒素などの不活性ガスを用いることがより好ましい。酸素など電解液との反応性を有するガスが成形体中に取り込まれ、完成した電池用セパレータ10に電解液を充填した際に、反応性を有するガスが電解液中に溶出して電解液の劣化を招く事態を抑制することが可能になるからである。また、溶媒除去の所要時間を短縮可能な形態とし、かつ、成形体内部で発生した溶媒蒸気に起因する泡によって成形体の形状が乱されないようにする等の観点から、溶媒の除去は、溶媒の沸点未満に加熱された環境下で行うことが好ましい。例えばS13で溶媒としてジメチルアセトアミドを用いた場合においては、常圧下、温度を80℃として時間を5時間〜12時間とすることができる。成形体から溶媒が除去され固化したら、得られた膜を所定の大きさに打ち抜く。ここで得られた膜にはまだ少量の溶媒が残留しているので、膜から溶媒を完全に除去するために膜を乾燥させる。打ち抜かれた膜に残留している溶媒は少量なので、溶媒の沸点以上に加熱しても膜の形状が乱されることはない。溶媒の沸点を下げるために、膜を減圧下で加熱することができる。例えば溶媒がジメチルアセトアミドである場合には、系の圧力を約5kPaとし、温度を120℃として時間を5時間〜12時間とすることができる。
【0071】
本発明に関する上記説明では、無機酸化物微粒子としてシリカマイクロカプセルを用いる形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。製造しようとする本発明の電池用セパレータに応じて、シリカ以外の、上記した他の無機酸化物(アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア等)を構成材料とする無機酸化物マイクロカプセルを用いる形態とすることも可能である。また、無機酸化物微粒子の形態は中空多孔性構造に限定されない。電解液を吸収可能であれば、中空でない多孔性の無機酸化物微粒子を用いる形態とすることも可能である。このほか、外壁によって中空部が囲まれた中空状の構造を有し、外壁には該中空部に外部から電解液が流入可能な経路を有する、非多孔性の中空無機酸化物マイクロカプセルを用いる形態とすることも可能である。
【0072】
また、本発明に関する上記説明では、前処理工程S11において洗浄処理と乾燥処理とをこの順に行う形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。例えば洗浄処理を行わない前処理工程を含む形態とすることも可能である。このほか、前処理工程を含まない形態であってもよい。これらの形態によれば電池用セパレータの製造コストを削減することが可能である。ただし、前処理工程に続いて行われるリチウム化処理工程の効率を向上可能にする等の観点からは、前処理工程で洗浄処理を行う場合、該洗浄処理後に乾燥処理を行うことが好ましい。また、前処理工程は、洗浄処理及び乾燥処理以外に、他の処理を含んでいてもよい。
【0073】
また、本発明に関する上記説明では、リチウム化処理工程S12において塩基性リチウム試薬としてn−ブチルリチウムを用いる形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。本発明の電池用セパレータの製造方法において、塩基性リチウム試薬は無機酸化物微粒子の表面活性点(主としてM−OH;Mは無機元素)をリチウム化して、リチウムイオンに対して不活化された形態(主としてM−OLi)にすることが可能であればよい。そのような塩基性リチウム試薬としては、上述のn−ブチルリチウムの他、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;フェニルリチウム等のアリールリチウム類;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムtert−ブトキシド等のリチウムアルコキシド類;リチウムジイソプロピルアミド(LDA)等のリチウムアミド類;等の塩基性有機リチウム試薬を例示することができる。また、塩基性有機リチウム試薬の他に使用可能な塩基性リチウム試薬として、リチウムアミド(LiNH)、水素化リチウム、水酸化リチウム等の塩基性無機リチウム試薬を挙げることができる。これらの塩基性リチウム試薬によって、無機酸化物微粒子を処理する形態とすることも可能である。ただし、表面活性点のリチウム化をより確実に行うことにより電池のサイクル特性向上をより容易にする等の観点からは、塩基性リチウム試薬の共役酸の酸解離定数pKaは、無機酸化物微粒子の表面活性点のpKaより十分に大きいことが好ましい。例えば無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物がシリカである場合には、シリカの表面活性点であるシラノール基(Si−OH)のpKaが4.5〜8.5程度であることから、塩基性リチウム試薬の共役酸のpKaは例えば13以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、17以上であることが特に好ましい。また、有機溶媒への溶解度や安全性をより良好にする等の観点からは、塩基性有機リチウム試薬を用いることが好ましい。中でも、共役酸のpKaが40以上であり高い塩基性を有すること、表面活性点との反応に伴う副生成物が反応性の極めて低い炭化水素であり除去が容易であること等の観点から、上記アルキルリチウム類又はアリールリチウム類を用いることがより好ましい。さらに、これらの中でも、入手性、価格、安定性、及び安全性の観点から、n−ブチルリチウムを用いることが特に好ましい。
【0074】
また、本発明に関する上記説明では、リチウム化処理工程S12においてn−ブチルリチウムを単独で用いる形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。n−ブチルリチウム等のアルキルリチウム類又はアリールリチウム類を用いてリチウム化処理を行う場合においては、アルキルリチウム試薬又はアリールリチウム試薬の会合状態を解いて反応性を向上させる目的で、必要に応じてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)やヘキサメチルホスホラミド(HMPA)、ジメチルプロピレンウレア(DMPU)等の公知の配位性添加剤を適宜加えてもよい。
【0075】
また、本発明に関する上記説明では、リチウム化処理工程S12において溶媒としてヘキサンを用いる形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。溶媒としてはヘキサンの他に、例えばメチルシクロヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等、用いる塩基性リチウム試薬について十分な溶解度を確保でき、かつ当該塩基性リチウム試薬との反応性が低い有機溶媒を特に制限なく用いることができる。ただし、アルキルリチウム類を用いる場合には、毒性が低く低コストで、反応性が極めて低く、また含有水分量を低減することが容易である等の観点から、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類を用いることがより好ましい。さらに、脂肪族炭化水素類の中でも、低コストでありかつ留去が容易である等の観点から、ヘキサンを用いることが特に好ましい。
【0076】
また、本発明の電池用セパレータの製造方法に関する上記説明では、基材1を構成する高分子基質がフッ素系高分子を含む形態を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。本発明の電池用セパレータの製造方法においては、電池用セパレータに使用可能な公知の高分子材料を高分子基質として用いることが可能であり、2種類以上の高分子材料を混合して用いることも可能である。
【0077】
また、本発明の電池用セパレータの製造方法に関する上記説明では、S13において基材1を溶解する溶媒としてジメチルアセトアミドを例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。基材を溶解させる溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、シクロヘキサノン、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジオキサンから選ばれる一種又は二種以上の混合溶媒を好ましく用いることができる。また、PVDF−HFP等のフッ素系高分子を含む高分子基質を含む基材を溶解する好ましい溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンから選ばれる一種又は二種以上の混合溶媒を挙げることができる。
【0078】
また、本発明の効果が損なわれない範囲において、基材が、高分子基質に加えて、イオン伝導を補助する固体電解質成分(例えばLiPO等の酸化物固体電解質)や、電池用セパレータの可塑性を向上させる可塑剤等の公知の添加材を含む形態とすることも可能である。このような形態における分散工程S13は、例えば高分子基質及び添加材を含む基材を溶媒に溶解して調製した溶液に、Li含有マイクロカプセルを混合して分散させる工程とすることができる。
【0079】
また、本発明に関する上記説明では、分散工程S13において基材1を溶解させた溶液にLi含有マイクロカプセル2を分散させる形態の電池用セパレータの製造方法S10を例示したが、本発明の電池用セパレータの製造方法は当該形態に限定されない。例えば、溶融させた基材にリチウム化処理工程を経た無機酸化物微粒子を加え、混合により分散させる形態や、加熱軟化させた基材にリチウム化処理工程を経た無機酸化物微粒子を加え、混練により分散させる形態等を挙げることができる。これらの形態によれば、溶剤を必要としないため、製造コストを削減可能である。ただし、リチウム化処理工程を経た無機酸化物微粒子を均一に分散させることを容易とする観点からは、溶液に混合して分散させる形態を好ましく用いることができる。
【0080】
5.イオン伝導体の製造方法
図5は、本発明の第5の態様にかかるイオン伝導体の製造方法S20を説明するフローチャートである。イオン伝導体の製造方法S20は、図2に示したイオン伝導体20を製造する方法である。図5に示すように、イオン伝導体の製造方法S20は、セパレータ作製工程S21と、電解液充填工程S22とを有する。以下、図2及び図5を参照しつつ、イオン伝導体の製造方法S20について説明する。
【0081】
セパレータ作製工程S21は、上述した電池用セパレータの製造方法S10により、電池用セパレータ10を製造する工程である。
【0082】
電解液充填工程S22は、上記セパレータ作製工程S21によって作製された電池用セパレータ10に、電解液3を充填することにより、イオン伝導体20を完成させる工程である。電解液3としては、上述した有機電解液を用いることができる。電解液3の充填は、例えば電解液3にエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒を用いた場合には、圧力を10kPa〜50kPaとし、温度を−40℃〜25℃とした環境の下、電解液3と電池用セパレータ10とを浸漬や滴下等により接触させることによって好ましく行うことができる。電解液3の充填は、リチウムとの反応性を有しないガスの雰囲気下で行うことが好ましく、アルゴン雰囲気下で行うことがガスの性質及びコストの観点から特に好ましい。また、減圧下で充填作業を行うことにより、Li含有マイクロカプセル2中に含まれている気体を吸い出すことができるので、電解液3を電池用セパレータ10に円滑に充填することが容易になる。また、揮発性の溶媒成分を含む電解液3を減圧下で充填する場合には特に、冷却環境下で充填作業を行うことが好ましい。冷却環境下で充填作業を行うことにより、電解液3を構成する溶媒成分の蒸気圧が下がるので、溶媒成分の揮発を抑制することが容易になり、したがって電解液3の組成が変化する事態を抑制することが容易になる。
【0083】
本発明に関する上記説明では、電解液充填工程S22を減圧下で行う形態のイオン伝導体の製造方法S20を例示したが、本発明のイオン伝導体の製造方法は当該形態に限定されない。電解液充填工程を常圧下で行う形態とすることも可能であり、この形態によれば、系を減圧したり冷却したりするエネルギーが不要になる。したがってかかる形態とすることにより、製造コストを削減することが可能である。
【0084】
6.電池の製造方法
図6は、本発明の第6の態様にかかる電池の製造方法S30を説明するフローチャートである。電池の製造方法S30は、図3に示したリチウムイオン二次電池である電池30を製造する方法である。図6に示すように、電池の製造方法S30は、イオン伝導体作製工程S31、積層体作製工程S32、端子接続工程S33、収容工程S34を有する。以下、図2、図3及び図6を参照しつつ、電池の製造方法S30について説明する。
【0085】
イオン伝導体作製工程S31は、上記したイオン伝導体の製造方法S20により、図2に示したイオン伝導体20を作製する工程である。
【0086】
積層体作製工程S32は、積層体27を作製する工程である。正極層21は、正極活物質等を含むペーストを正極集電体23の表面に、及び負極層22は、負極活物質等を含むペーストを負極集電体24の表面に、それぞれドクターブレード等によって塗布・乾燥することにより、又は、粉体状の活物質等をプレス成型することにより、作製することができる。その後、上記イオン伝導体作製工程S31で作製されたイオン伝導体20を、正極集電体23の表面に作製された正極層21と、負極集電体24の表面に作製された負極層22とで挟み込んでから、一様な押圧力をかけてプレスすることにより、積層体27を作製することができる。
【0087】
端子接続工程S33は、上記積層体作製工程S32によって作製された積層体27の正極集電体23に正極端子25を、負極集電体24に負極端子26を、それぞれ溶接等の方法を用いて接続する工程である。端子接続工程S33においては、上記した構成を有する正極端子25及び負極端子26を用いることができる。
【0088】
収容工程S34は、端子接続工程S33によって正極端子25及び負極端子26が接続された積層体27、並びに正極端子25及び負極端子26の一部を、外装部材28に収容し、これを封入する工程である。収容工程S34においては、上記した構成を有する外装部材28を用いることができる。イオン伝導体作製工程S31乃至収容工程S34により、電池30が完成される。
【0089】
本発明の電池の製造方法に関する上記説明では、リチウムイオン二次電池である電池30を製造する形態について説明したが、本発明の電池の製造方法は当該形態に限定されない。電池に備えられるイオン伝導体に充填される電解液を変更すること、及び/又は他の部材の構成を変更することにより、リチウムイオン二次電池以外の電池を製造する形態とすることも可能である。例えば、積層体作製工程を、正極集電体表面に作製された二酸化マンガンを含む正極層と、負極集電体表面に作製された金属リチウムを含む負極層とでイオン伝導体20を挟み込んで一様に押圧する工程とすることにより、二酸化マンガンリチウム一次電池を製造する形態とすることも可能である。
【0090】
また、本発明の電池の製造方法に関する上記説明では、単一の積層体27(以下「単位セル」ということがある。)に一対の端子が接続された電池30を製造する形態について説明したが、本発明の電池の製造方法は当該形態に限定されない。例えば、積層体作製工程において、単位セルを複数作製した後、当該複数の単位セルを並列に接続することによって単位セル並列集合体を作製し、その後、当該単位セル並列集合体に一対の端子を接続することによって、一の外装部材の内部で単位セルが複数並列に接続された電池を製造する形態とすることも可能である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基いて、本発明の電池用セパレータ、イオン伝導体及び電池、並びにそれらの製造方法についてさらに詳述する。
【0092】
<実施例>
以下に述べる手順により、本発明の電池用セパレータ、イオン伝導体、及び電池を作製した。
【0093】
中空多孔性シリカマイクロカプセル(和信化学製、粒径2μm〜5μm、BET比表面積270m/g。以下において、単に「マイクロカプセル」ということがある。)を1N塩酸で洗浄することにより、残留する塩を除いた。洗浄後のマイクロカプセルを電気炉により減圧(圧力約0.1kPa)下、120℃で12時間にわたって加熱乾燥し、水分を除いた。
【0094】
マイクロカプセル1.32gをフラスコに入れ、真空引きしながら1時間静置して、マイクロカプセル内の空気を除去した後、フラスコ内を乾燥窒素で常圧に戻した。脱水ヘキサン(20mL、含水量30ppm以下)を加えた後、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6mol/L、1mL)を加え、常温で2時間撹拌した。撹拌を止めて静置し、上澄みをデカンテーションにより除いた後、脱水ヘキサンでマイクロカプセルを洗浄する工程を3回行った。すなわち、脱水ヘキサンを加えて撹拌した後静置して上澄みをデカンテーションにより取り除く工程を3回行った。残留しているヘキサンを減圧留去した後、減圧(圧力0.1kPa)下、120℃で2時間乾燥して、Li含有マイクロカプセルを得た。得られたLi含有マイクロカプセル及びリチウム化処理前のマイクロカプセルについて、後述するリチウム定量試験を行った。
【0095】
Li含有マイクロカプセルと、PVDF−HFPとの質量比が45:55となるように、Li含有マイクロカプセル及びPVDF−HFPを怦量した。怦量したLi含有マイクロカプセルとPVDF−HFPジメチルアセトアミド溶液(10質量%)とを混合し、超音波照射しながら室温にて120分間にわたって撹拌することにより、分散組成物を得た。得られた分散組成物をドクターブレード法で均一にのばし、窒素フロー下80℃で10時間にわたって乾燥することにより膜を得た。得られた膜を所定の大きさに打ち抜いた後、さらに圧力約5kPa、温度120℃で6時間にわたって加熱乾燥し、本発明の電池用セパレータを得た。得られた電池用セパレータの膜厚は60μmであった。
【0096】
アルゴン雰囲気中、圧力0.05kPa〜2kPa程度まで減圧し、−30℃で、上記得られた電池用セパレータに、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒(混合体積比1:1)にLiPFを濃度1mol/kgで溶解した溶液)を滴下し、超音波スターラーを用いて超音波照射を行うことにより電解液を充填して、本発明のイオン伝導体を得た。
【0097】
得られた本発明のイオン伝導体を、コバルト酸リチウムを塗布した電極及びグラファイトを塗布した電極で挟み、リチウムイオン二次電池を作製した。作製した電池について、後述する充放電試験を行った。
【0098】
<比較例1>
リチウム化処理しない中空多孔性シリカマイクロカプセルを用いた以外は、上記実施例と同様に電池を作製し、後述する充放電試験を行った。
【0099】
<比較例2>
マイクロカプセルを含まないメチルセルロース膜に、上記実施例で用いた電解液と同一の組成を有する電解液を含浸させた以外は、上記実施例と同様にイオン伝導体及び電池を作製し、後述する充放電試験を行った。
【0100】
[リチウム定量試験]
上記実施例においてリチウム化処理したシリカマイクロカプセル、及び、比較例1で用いたリチウム化処理していないシリカマイクロカプセルについて、リチウム元素の定量を行った。結果を表1に示す。上記実施例において得られたLi含有マイクロカプセルをフッ化水素酸で処理し、酸溶解後、誘導結合プラズマ発光分光(ICP−AES)法でリチウムを定量したところ、0.11質量%のリチウム元素を含有していた。なお、単位BET表面積あたりのリチウム元素含有量は4.1μg/mであった。これに対し、リチウム化処理前の中空多孔性シリカマイクロカプセルについて同様の分析を行ったところ、リチウム元素は検出されなかった。この結果から、上記実施例のn−ブチルリチウム処理により、中空多孔性シリカマイクロカプセルがリチウム元素を有するようになったことが確認された。
【0101】
【表1】

【0102】
[充放電試験]
実施例、比較例1及び比較例2で作製したリチウムイオン二次電池について、2C CC−CV充電、2C CC放電を60サイクル繰り返し、サイクル特性を記録した。温度は30℃、電圧範囲は4.2Vから2.5Vまでとした。なお1Cの電流密度は1.5mAh/cmであった。結果を図7に示す。図7は、実施例、比較例1及び比較例2の電池について測定されたサイクル特性について、サイクル数を横軸にとり、容量維持率を縦軸にとってプロットした図である。
【0103】
図7に示したように、実施例の電池は、比較例1(非リチウム化処理中空多孔性シリカマイクロカプセル分散膜)の電池と比べて優れたサイクル特性を示した。また、比較例2(電解液含浸メチルセルロース膜)の電池に近いサイクル特性を示した。この結果から、本発明によれば、無機酸化物微粒子を塩基性リチウム試薬で処理することにより、電池のサイクル特性を向上可能であること、すなわち充放電サイクルを重ねた際にも電池容量の低下を低減させることが可能な、電池及びその製造方法を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の電池用セパレータ、イオン伝導体及び電池は、電気自動車やハイブリッド自動車用等に備えられる電池に好適に用いることができ、本発明の電池用セパレータの製造方法、イオン伝導体の製造方法及び電池の製造方法は、電気自動車やハイブリッド自動車用等に備えられる電池を製造する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0105】
1…基材
2…リチウム元素含有中空多孔性シリカマイクロカプセル(無機酸化物微粒子)
3…電解液
10…電池用セパレータ
20…イオン伝導体
21…正極層
22…負極層
23…正極集電体
24…負極集電体
25…正極端子
26…負極端子
27…積層体
28…外装部材
30…電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム元素を有し液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子が、高分子基質を含む基材に分散されてなることを特徴とする、電池用セパレータ。
【請求項2】
前記無機酸化物微粒子が多孔性の構造を有する、請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子が、中空状かつ多孔性の構造を有する、請求項2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子が、少なくとも表面に前記リチウム元素を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池用セパレータに、電解液が充填されてなることを特徴とする、イオン伝導体。
【請求項6】
一対の電極と、該一対の電極の間に配設された請求項5に記載のイオン伝導体とを有することを特徴とする電池。
【請求項7】
液体成分を吸収可能な無機酸化物微粒子を塩基性リチウム試薬で処理する、リチウム化処理工程と、
前記リチウム化処理工程後の前記無機酸化物微粒子を、高分子基質を含む基材に分散させることにより、分散組成物を得る、分散工程と、
前記分散工程で得られた前記分散組成物を成形する、成形工程と、
を含むことを特徴とする、電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記無機酸化物微粒子として、多孔性の構造を有する無機酸化物微粒子を用いる、請求項7に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記無機酸化物微粒子として、中空状かつ多孔性の構造を有する無機酸化物微粒子を用いる、請求項8に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の電池用セパレータの製造方法により、電池用セパレータを作製する、セパレータ作製工程と、
作製した前記電池用セパレータに電解液を充填する、電解液充填工程と、
を含むことを特徴とする、イオン伝導体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン伝導体の製造方法によりイオン伝導体を作製する、イオン伝導体作製工程と、
作製した前記イオン伝導体を一対の電極の間に配設する過程を経て、前記一対の電極及び前記イオン伝導体を有する積層体を作製する、積層体作製工程とを含むことを特徴とする、電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−124125(P2012−124125A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276087(P2010−276087)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】