説明

電池用セパレータとこれを用いてなる非水リチウムイオン二次電池

【課題】負極表面への金属イオンの析出物を低減し、高温で充放電を繰り返しても、容量の劣化が少ない非水系リチウム二次電池を与えるセパレータを提供する。更に、本発明は、そのようなセパレータを用いてなるリチウムイオン二次電池とその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなる電池用セパレータ。好ましくは、上記架橋ポリマー層は実質的に無孔性のイオン伝導性層であり、また、上記架橋ポリマーは分子中にカチオン重合性を有するオキセタニル基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材多孔質樹脂フィルムに分子中にキレート形成性基を有する架橋ポリマーを担持させてなり、負極表面への析出物を低減し、高温で充放電を繰り返しても容量の劣化が少ない電池を与える電池用セパレータと、それを用いてなる非水リチウムイオン二次電池と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の小型携帯電子機器のための電源として、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池は、シート状の正負の電極と、例えば、多孔質樹脂フィルムを積層し、又は捲回して、例えば、金属缶からなる電池容器に仕込んだ後、この電池容器に電解液を注入し、密封、封口するという工程を経て製造される。しかし、近年、上述したような小型携帯電子機器の一層の小型化、軽量化への要望が非常に強く、リチウムイオン二次電池についても、更なる薄型化と軽量化が求められており、従来の金属缶容器に代えて、ラミネートフィルム型の電池容器も用いられるようになっている。
【0004】
また、正極材料や負極材料についても、高容量且つ高出力のリチウムイオン二次電池を提供するための研究と発明が多数なされている。しかし、このような精力的な研究と発明によっても、リチウムイオン二次電池は常温又は高温の雰囲気下で充放電を繰り返すことによって、容量の低下、出力特性の劣化、安全性の低下という問題が依然として存在する。これらの原因としては、例えば、充電時に負極にリチウムが析出する、正極活物質から金属イオンが溶出する、正極で酸化された有機溶媒がカチオンラジカルとなって負極表面で還元される、正極活物質や集電体から溶出した金属イオンが負極表面に析出する、電解液が電極材料表面で分解する等によって、フッ化リチウム等を生成して、容量に寄与するリチウムイオン量が減少し、かくして、不可逆容量が増加すること等によるとみられている(非特許文献1参照)。
【0005】
このような状況の下、更に、安全性の高いリチウムイオン二次電池を求める要望が非常に高まっている。そこで、例えば、高温での熱安定性がすぐれたマンガン酸リチウムやリン酸鉄リチウムを正極材料に用いることが提案されている。しかし、マンガン酸リチウムは高温でのサイクル特性に問題があり、また、リン酸鉄リチウムは高出力化に問題があり、いずれも本格的な実用化がなされるまでには至っていない。
【0006】
ここに、マンガン酸リチウムを正極に用いた場合に高温でのサイクル特性が劣化する原因は、正極活物質中のマンガンが電解液にイオンとなって溶出し、また、溶出したマンガンイオンが負極で還元されて析出することであるとみられている。
【0007】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、正極にスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、多孔質ポリエチレン樹脂フィルムに陽イオン交換樹脂を加えて、セパレータとして用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかし、本発明者らによれば、このような非水電解液二次電池においては、セパレータの表面に露出する陽イオン交換能性官能基の割合が少ないので、溶出したマンガンイオン等の捕捉が十分でなく、また、セパレータの強度が低下するという問題がある。
【0008】
また、マンガン含有複合酸化物を活物質として含む非水電解液二次電池において、セパレータの表面を陽イオン交換基で修飾して用いることが提案されている(特許文献2参照)。しかし、本発明者らによれば、この場合には、一般に、セパレータに用いられる多孔質膜の有する細孔の孔径がマンガン等の溶出した金属イオン径に比べて大きいために、陽イオン交換基と金属イオンの遭遇確率が低く、捕捉が十分でないので、高温でのサイクル特性に課題がある。
【0009】
更には、正極と負極とセパレータと電解質とを備えた非水電解液二次電池において、負極、セパレータ、電解質の少なくともいずれかにキレート化剤を含有させることが提案されている(特許文献3参照)。本発明者らによれば、この場合には、添加したキレート化剤が正極や負極における酸化還元反応によって、副反応を引き起こし、電池特性を劣化させるという問題がある。
【0010】
同様に、正極と負極とセパレータと電解質とを備えた非水電解液二次電池において、正極、負極、セパレータの少なくとも一つにキレート高分子を含有させることが提案されている(特許文献4参照)。しかし、本発明者らによれば、このような電池においては、キレート形成性の官能基の量が少なく、金属イオンの捕捉能が十分でないうえに、キレート高分子は非水二次電池の充放電に直接関与しないので、正極や負極に含有させた場合には、二次電池の初期容量が低下するという問題がある。
【非特許文献1】Pankaj Arora, Ralph E. White, Marc Doyle, Capacity Fade Mechanisms and Side Reactions in Lithium-Ion Batteries", Journal of Electrochemical Society, Vol. 145, No. 10, 0ctober l998
【特許文献1】特開2000−21381号公報
【特許文献2】特開2002−25527号公報
【特許文献3】特開2004−63123号公報
【特許文献4】特開平11−121012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述したような従来の非水電解液二次電池における問題を解決するためになされたものであって、負極表面への金属イオンの析出物を低減し、高温で充放電を繰り返しても、容量の劣化が少ない非水リチウムイオン二次電池を与えるセパレータを提供することを目的とする。また、本発明は、そのようなセパレータを用いてなる非水リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。更に、本発明は、そのようなセパレータを用いるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなる電池用セパレータが提供される。
【0013】
本発明によれば、上記架橋ポリマー層は、好ましくは、無孔性のイオン伝導性層である。更に、本発明によれば、好ましくは、上記架橋ポリマーは分子中にカチオン重合性を有するオキセタニル基を有する。
【0014】
また、本発明によれば、正極活物質を含む正極と非水電解液と多孔質セパレータとこの多孔質セパレータを介して前記正極と電気的に絶縁されて配置された負極活物質を含む負極からなる非水リチウムイオン二次電池において、上記多孔質セパレータとして上述したセパレータを用いてなるチウムイオン二次電池が提供される。
【0015】
更に、本発明によれば、上記電池用セパレータを用いる電池、特に、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明による電池用セパレータは、ポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなるものであるので、このようなセパレータを備えた電池においては、上記架橋ポリマーの有するキレート形成性のイミノジ酢酸基によって、電解液中に溶出した金属イオンを補足することができ、その結果、負極の表面に金属の析出が抑制され、かくして、高温で充放電を繰り返しても、容量の低下が少ない非水二次電池を得ることができる。また、電解液中に溶出した金属イオンの析出による内部短絡も防止することができる。
【0017】
本発明に従って、架橋ポリマー層が実質的に無孔性のイオン伝導性層であるときは、正極側で溶出した金属イオンが負極に析出する前に、このような実質的に無孔性の架橋ポリマーの有する前記イミノジ酢酸基によって確実に捕捉され、かくして、本発明の電池用セパレータを用いることによって、高温でのサイクル特性にすぐれた非水二次電池を得ることができる。
【0018】
更に、本発明に従って、セパレータの有する架橋ポリマーがカチオン重合性のオキセタニル基を有するときは、このようなセパレータを用いて電池を組み立てる際に、このセパレータにカチオン重合触媒を含有させた電解液を接触させて、架橋ポリマーの少なくとも一部をカチオン重合させ、架橋させて、ゲル化させることができる。このように、架橋ポリマーが電解液と共にゲルを形成すれば、架橋ポリマーの電解液中への溶出をよく抑えて、電極表面での望ましくない副反応を低減して、特性にすぐれた非水二次電池を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による電池用セパレータは、ポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を基材多孔質樹脂フィルムに担持させてなるものである。
【0020】
本発明において、基材多孔質樹脂フィルムは、平均孔径0.01〜5μmの細孔を有し、空孔率が20〜95%の範囲のものが好ましく用いられ、特に、空孔率が30〜90%のものが好ましく、40〜85%の範囲のものが最も好ましく用いられる。
【0021】
本発明による電池用セパレータは、基材多孔質樹脂フィルム上に架橋ポリマー層を担持させてなるものであるので、基材多孔質樹脂フィルムの空孔率が余りに低いときは、イオン伝導経路が少なくなるので、セパレータ基材として用いても、すぐれた電池特性を有する電池を与えない。しかし、空孔率が余りに高いときは、セパレータ基材として強度が不十分であり、そこで、所要の強度を得るためには、厚いものを用いざるを得ず、そうすれば、得られる電池の内部抵抗が高くなるので好ましくない。
【0022】
更に、本発明によれば、基材多孔質樹脂フィルムは、通気度が1500秒/100cc以下のものが好ましく、特に、1000秒/100cc以下のものが好ましく用いられる。多孔質樹脂フィルムの通気度が高すぎるときは、そのようなフィルム上に架橋ポリマーを担持させて電池用セパレータとして用いた場合に、イオン伝導性が低く、すぐれた電池特性を有する電池を与えない。
【0023】
また、基材多孔質樹脂フィルムは、突き刺し強度が1N以上であることが好ましい。突刺し強度が1Nよりも小さいときは、セパレータ基材として用いた場合、電極間に面圧がかかったときに破断し、内部短絡を引き起こすおそれがある。
【0024】
本発明においては、基材多孔質樹脂フィルムは、厚さが3〜100μmの範囲にあることが好ましい。多孔質樹脂フィルムの厚さが3μmよりも小さいときは、強度が不十分であって、セパレータ基材として用いるとき、正負の電極が相互に接触して、内部短絡を起こすおそれがある。他方、多孔質樹脂フィルムの厚さが100μmを超えるときは、セパレータの膜抵抗が増大し、レート特性の低下を招くので好ましくない。
【0025】
本発明によれば、多孔質樹脂フィルムは、上述したような特性を有すれば、特に、限定されるものではないが、耐溶剤性や耐酸化還元性を考慮すれば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる多孔質フィルムが好適である。しかし、なかでも、加熱されたとき、樹脂が溶融して、細孔が閉塞する性質を有し、その結果、電池に所謂シャットダウン機能を有せしめることができるところから、多孔質フィルムとしては、ポリエチレン樹脂フィルムが特に好適である。ここに、ポリエチレン樹脂には、エチレンのホモポリマーのみならず、プロピレン、ブテン、ヘキセン等のα−オレフィンとエチレンとの共重合体を含むものとする。
【0026】
また、本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンやポリイミド等の多孔質フィルムと上記基材ポリオレフィン樹脂多孔質フィルムとの積層フィルムも、耐熱性にすぐれるところから、多孔質樹脂フィルムとして、好適に用いられる。
【0027】
本発明において、架橋ポリマーは、化学架橋ポリマーと物理架橋ポリマーのいずれであってもよい。化学架橋ポリマーとは、化学反応によって形成された架橋構造を有するポリマーをいい、物理架橋ポリマーとは、ポリマー間の水素結合、静電気結合、疎水的結合、ポリマーと多価金属イオンとのキレート形成等によって形成された架橋構造を有するポリマーをいう。
【0028】
化学架橋ポリマーの代表例として、例えば、モノビニル単量体を架橋剤としてのジビニル単量体と共に共重合して得られる共重合体を挙げることができる。また、化学架橋ポリマーは、側鎖に官能基を有するポリマーにその官能基と反応性を有する多官能性化合物を架橋剤として反応させることによっても得ることができる。更には、線状ポリマーに過酸化物を作用させ、又は放射線を照射し、架橋させることによっても、化学架橋ポリマーを得ることができる。
【0029】
物理架橋ポリマーの代表例としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。
【0030】
特に、本発明によれば、架橋ポリマーの好ましい一例として、イソシアネート基に対して反応し得る反応性基を分子中に有するポリマーを架橋剤としての多官能イソシアネートと反応させ、架橋させて得られる架橋ポリマーを挙げることができる。上記イソシアネート基に対して反応し得る反応性基は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、ウレタン基、尿素基等を挙げることができる。これらのなかでは、特に、水酸基又はカルボキシル基が好ましい。
【0031】
このような架橋ポリマーによれば、架橋剤として用いる多官能イソシアネートが付加重合により架橋ポリマー中に取り込まれるため、基材多孔質樹脂フィルム上に担持させてセパレータとして用いるときに、電解液中への溶出がなく、電池特性の劣化を招かない。かくして、繰り返しの充放電による容量の劣化を抑制して、電池特性にすぐれた非水二次電池を与えることができる。
【0032】
本発明によれば、架橋ポリマーは、そのポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する。イミノジ酢酸基は次式(I)で表される。
【0033】
【化1】

【0034】
(式中、M1及びM2はそれぞれ独立に水素原子、リチウム原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はトリエチルアミンを示す。)
【0035】
特に、本発明においては、好ましくは、M1及びM2は少なくともいずれかがリチウム原子又はトリエチルアミンであり、より好ましくは、共にリチウム原子又はトリエチルアミンであることが好ましい。M1及びM2の少なくともいずれかがリチウム原子であり、より好ましくは、共にリチウム原子である場合、電解液中に溶出した金属イオンを捕捉する際に放出されるイオンがリチウムイオンであるので、電極反応への影響が少ない。他方、M1及びM2の少なくともいずれかがトリエチルアミンであり、より好ましくは、共にトリエチルアミンである場合、そのようなイミノジ酢酸トリエチルアミン塩はジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解しやすいので、後述する架橋ポリマーの分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有せしめるための反応を容易に行うことができる。
【0036】
本発明によれば、架橋ポリマーの分子鎖の側鎖に上述したようなイミノジ酢酸基を有せしめるには、例えば、架橋ポリマーのモノマー単位として側鎖にグリシジル基を有するモノマー単位を有せしめ、適宜の溶媒中にて、このような架橋ポリマーのグリシジル基にイミノジ酢酸又はその上記金属塩(例えば、ジリチウム塩)か、又はイミノジ酢酸トリエチルアミン塩を反応させればよい。
【0037】
イミノジ酢酸基は2つのカルボキシル基酸素と1つのアミノ基窒素によって3座配位子として多くの金属イオンとキレートを形成する。かくして、本発明によれば、セパレータは、多孔質樹脂フィルムに担持させた架橋ポリマーがそのポリマー分子鎖の側鎖にキレート形成性基であるイミノジ酢酸基を有するので、このようなセパレータを有する非水系二次電池においては、セパレータが電解液中に溶出した金属イオンを補足するので、負極の表面に金属が析出することを抑制し、その結果、高温で充放電を繰り返しても、容量の低下を抑えることができる。また、電解液中に溶出した金属イオンの析出による内部短絡をも防止することができる。
【0038】
ここに、電解液中に溶出した金属イオンとは、限定されるものではないが、主として、正極活物質から溶出した遷移金属イオンと集電体から溶出した金属イオンである。正極活物質から溶出した遷移金属イオンとは、限定されるものではないが、主として、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄又はバナジウムのイオンである。これらの遷移金属イオンはリチウムイオンと比べてキレート形成性基であるイミノジ酢酸基に容易に配位して、効率的に捕捉される。溶出した金属イオンの捕捉によるサイクル特性の改善は、正極にマンガン酸リチウムを用いて、高温で充放電を繰り返した場合に顕著である。
【0039】
また、本発明によれば、基材多孔質樹脂フィルムに架橋ポリマーを担持させて、ポリマーの電解液中への溶出を防いでいるので、溶出ポリマーが電極で反応することによる電池特性の劣化がない。
【0040】
本発明において、架橋ポリマー層の厚さは、通常、10〜6000nmの範囲である。架橋ポリマー層の厚さが10nmよりも小さいときは、電解液に溶出した金属イオンを十分に捕捉できず、従って、高温でのサイクル特性の劣化を抑制する効果に乏しい。しかし、架橋ポリマー層の厚さが6000nmよりも大きいときは、架橋ポリマー層の膜抵抗が増大し、レート特性の低下を招くので、好ましくない。架橋ポリマー層の膜抵抗とは、架橋ポリマー層の厚みを考慮した電気抵抗値である。
【0041】
本発明によれば、架橋ポリマー層は、無孔性のイオン伝導性層であることが望ましい。ここに、架橋ポリマー層が「無孔性である」とは、通気度が10000秒/100cc以上であって、実質的に通気度を測定することができない程度に通気性をもたないことをいう。このように、架橋ポリマーが実質的に無孔性のイオン伝導性層であるとき、正極側で溶出した金属イオンが負極に析出する前に、上記実質的に無孔性の架橋ポリマーの有する前記イミノジ酢酸基によって確実に捕捉され、かくして、本発明の電池用セパレータを用いることによって、高温でのサイクル特性にすぐれた非水二次電池を得ることができる。
【0042】
本発明によれば、架橋ポリマーを基材多孔質樹脂フィルムに担持させた後、この架橋ポリマーにイミノジ酢酸基を導入する反応を行うとき、反応溶媒中に架橋ポリマーが一部、溶出するために、基材多孔質樹脂フィルム上のイミノジ酢酸基を導入した架橋ポリマーは多孔性乃至有孔性である。他方、架橋ポリマーに予め、イミノジ酢酸基を導入し、その後にこの架橋ポリマーを基材多孔質樹脂フィルムに担持させるとき、基材多孔質樹脂フィルムに担持させた架橋ポリマーは実質的に無孔性である。
【0043】
更に、本発明によれば、架橋ポリマーは、カチオン重合性官能基としてオキセタニル基、特に、3−オキセタニル基を有することが好ましい。基材多孔質樹脂フィルムにこのように側鎖にオキセタニル基を有する架橋ポリマーを担持させてなるセパレータを用いて電池を組み立てる際に、このセパレータにカチオン重合触媒を含有させた電解液を接触させて、架橋ポリマーの少なくとも一部を膨潤させ、又は電解液中に溶出させて、架橋ポリマーにカチオン重合させ、架橋させて、ゲル化させることができる。このように、架橋ポリマーが電解液と共にゲルを形成すれば、架橋ポリマーの電解液中への溶出がなく、ポリマーの電極表面での望ましくない副反応を低減して、特性にすぐれた非水二次電池を得ることができる。
【0044】
本発明において、架橋ポリマーは、好ましくは、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルとを適宜の有機溶媒中、ラジカル重合開始剤を用いて共重合させ、更に、得られた共重合体に適宜の有機溶媒中にて加熱下に過酸化物を作用させ、又は電子線等の放射線を照射することによって得ることができる。架橋ポリマーにおける上記(メタ)アクリル酸グリシジルエステル成分のグリシジル基は、前述したように、架橋ポリマーにイミノジ酢酸やそのジリチウム塩を反応させて、架橋ポリマーの側鎖にイミノジ酢酸基を導入するために用いられる。
【0045】
また、前述したように、架橋ポリマーの製造のために、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルと共に、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを用いて、分子中に水酸基を有する共重合体を得、これに多官能イソシアネートを架橋剤として反応させることによって、架橋ポリマーを得ることができる。
【0046】
更に、架橋ポリマーの製造のために、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルと(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルと共に、3−オキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば、(メタ)アクリル酸3−(エチル−3−オキセタニル)エステルを用いて共重合させれば、分子中に水酸基と3−オキセタニル基とを有する共重合体を得ることができる。そこで、この共重合体に多官能イソシアネートを架橋剤として反応させることによって、分子中に3−オキセタニルを有する架橋ポリマーを得ることができる。
【0047】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と非水電解液と多孔質セパレータとこの多孔質セパレータを介して前記正極と電気的に絶縁されて配置された、リチウムをドープ及び脱ドープできる負極活物質を含む負極からなる非水リチウムイオン二次電池において、上記多孔質セパレータが上述したようにポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなるものであり、好ましくは、架橋ポリマー層が実質的に無孔性のイオン伝導性層であるものである。
【0048】
本発明によれば、このようなリチウムイオン二次電池は、上述した電池用セパレータに電極を積層して、電極/セパレータ積層体を得、これを電池容器内に仕込んだ後、この電池容器内に非水電解液を注入して、上記セパレータの有する架橋ポリマーを電解液中で膨潤させることによって得ることができる。
【0049】
電極、即ち、負極と正極は、通常、それぞれ導電性基材に活物質と、必要に応じて、導電剤とを樹脂バインダーにて担持させてなるシート状のものが用いられる。
【0050】
上記正極活物質としては、非水リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられているものであれば、いずれも用いられる。そのような正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウム、スピネル型マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等を挙げることができる。負極活物質としても、非水リチウム二次電池の負極活物質として用いられているものであれば、いずれでも用いられる。例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維等を挙げることができる。
【0051】
非水電解液は、非水有機溶媒に電解質塩を溶解させてなり、電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム等が好適に用いられる。非水電解液がカチオン重合触媒を含有する場合、カチオン重合触媒は、好ましくは、オニウム塩であり、特に、本発明によれば、カチオン重合触媒を兼ねる電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム及びテトラフルオロホウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0052】
これらの電解質塩のための非水溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類や、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類や、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状エステル類を単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0053】
特に、本発明によれば、架橋ポリマーが分子中にオキセタニル基を有するときは、セパレータに電極を積層して、電極/セパレータ積層体を得、これを電池容器内に仕込んだ後、この電池容器内にカチオン重合触媒を含む非水電解液を注入して、少なくともセパレータと電極との界面の近傍にて、上記セパレータに担持させた架橋ポリマーの少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は電解液中に溶出させ、カチオン重合させて、電解液の少なくとも一部をゲル化させて、電池を得ることができる。このような電池によれば、架橋ポリマーの電解液中への溶出がなく、従って、電極表面でのポリマーの望ましくない副反応を低減して、特性にすぐれた非水二次電池を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。以下において、セパレータの物性と電池特性は以下のようにして評価した。
【0055】
(基材多孔質樹脂フィルム及びセパレータの厚さ)
1/10000mmシックネスゲージによる測定と断面の10000倍走査型電子頭微鏡写真に基づいて求めた。
【0056】
(基材多孔質樹脂フィルムの空孔率)
基材多孔質樹脂フィルムの単位面積S(cm2)当たりの重量W(g)、平均厚さt(cm)及び多孔質樹脂フィルムを構成する樹脂の密度d(g/cm3)から下式にて算出した。
空孔率(%)=(1−(W/S/t/d))×100
【0057】
(通気度)
JIS P 8117に準拠して求めた。
【0058】
(突き刺し強度)
カトーテック(株)製圧縮試験磯KES−G5を用いて突き刺し試験を行った。測定により得られた荷重変位曲線から最大荷重を読みとり、突き刺し強度とした。針は直径1.0mm、先端の曲率半径0.5mmのものを用いて、2cm/秒の速度で行った。
【0059】
(電極シートの調製)
正極活物質であるマンガン酸リチウム85重量部と導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)10重量部とバインダーであるフッ化ビニリデン樹脂(呉羽化学工業(株)製KFポリマーL#1120)5重量部を混合し、これを固形分濃度15重量%となるように、N−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリーとした。このスラリーを厚さ200μmのアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、80℃で1時間、120℃で2時間乾燥した後、ロールプレスにて加圧して、活物質層の厚さが100μmの正極シートを調製した。
【0060】
また、負極活物質であるメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガスケミカル(株)MCMB6−28)80重量部と導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)10重量部とバインダーであるフッ化ビニリデン樹脂(呉羽化学工業(株)製KFポリマーL#1120)10重量部を混合し、これを固形分濃度15重量%となるように、N−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリーとした。
【0061】
このスラリーを厚さ20μmの銅箔(集電体)上に厚さ200μmに塗布し、80℃で1時間乾燥し、120℃で2時間乾燥した後、ロールプレスにて加圧して、活物質層の厚さが100μmの負極シートを調製した。
【0062】
比較例1
(電池の作製)
厚さ16μm、空孔率40%、通気度300秒/cc、突き刺し強度3.0Nの多孔質ポリエチレン樹脂多孔質フィルムを用意した。前記電極シートの調製において得た44mm角の負極シート、上記多孔質フィルム及び前記電極シートの調製において得た42mm角の正極シートをこの順序に積層し、これをアルミニウムラミネートパッケージに仕込んだ後、パッケージ内に1.0モル/L濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注入し、次いで、パッケージを封口して、リチウムイオン二次電池Aを組み立てた。
【0063】
製造例1
還流冷却管を備えた500mL容量の三つ口フラスコにメチルメタクリレート94g、4−ヒドロキシブチルアクリレート1g、グリシジルメタクリレート4g、酢酸エチル67g及びN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gを投入し、窒素ガスを導入しながら、30分間攪拌混合した後、温度64℃に加熱した。
【0064】
約1時間経過したとき、ラジカル重合が始まって、反応混合物の粘度が上昇し始めた。そのまま、8時間重合を続けた後、約40℃まで冷却し、再び、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを加え、70℃に再度加熱して、更に、8時間、後重合を行なった。この後、約40℃まで冷却し、酢酸エチル166gを加え、全体が均一になるまで攪拌して、ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液aを得た。
【0065】
製造例2
還流冷却管を備えた500mL容量の三つ口フラスコにメチルメタクリレート74g、4−ヒドロキシブチルアクリレート1g、グリシジルメタクリレート4g、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート20g、酢酸エチル67g及びN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gを投入し、窒素ガスを導入しながら、30分間攪拌混合した後、温度64℃に加熱した。
【0066】
約1時間経過したとき、ラジカル重合が始まって、反応混合物の粘度が上昇し始めた。そのまま、8時間重合を続けた後、約40℃まで冷却し、再び、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを加え、70℃に再度加熱して、更に、8時間、後重合を行なった。この後、約40℃まで冷却し、酢酸エチル166gを加え、全体が均一になるまで攪拌して、ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液bを得た。
【0067】
製造例3
還流冷却管を備えた500mL容量の三つ口フラスコにイミノジ酢酸3g、水27g、水酸化リチウム一水和物1.85gを加え、攪拌した後、エバポレータを用いて水を蒸発させて、イミノジ酢酸リチウムを固体として得た。
【0068】
製造例4
還流冷却管を備えた500mL容量の三つロフラスコにイミノジ酢酸3g、ジメチルスルホキシド15g及びトリエチルアミン12gを加え、攪拌して、イミノジ酢酸トリエチルアミン塩のジメチルスルホキシド溶液を得た。
【0069】
製造例5
製造例1において得たポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液a20gと架橋剤ベンゾイルパーオキサイド0.06gを酢酸エチル3.94gに溶解させて、25重量%濃度のポリマー溶液cを調製した。
【0070】
このポリマー溶液cに酢酸エチルを加え、室温で攪拌して、濃度8.3重量%の均一なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を前述したと同じ多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にワイヤーバー(#20)にて塗布した後、60℃で加熱し、酢酸エチルを揮散させ、次いで、これを90℃の恒温器に168時間投入して、上記ポリアクリレート共重合体を架橋させ、かくして、基材多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面に架橋ポリアクリレート共重合体が担持されたセパレータ1を得た。上記架橋ポリアクリレート共重合体の厚さは0.5μmであった。
【0071】
製造例6
製造例1において得たポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液a20gと架橋剤として多官能イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート/トリメチロールプロパンアダクト体、酢酸エチル溶液、固形分25重量%、日本ポリウレタン工業(株)製コロネートHL)0.24gを酢酸エチル3.94gに溶解させて、25重量%濃度のポリマー溶液dを調製した。
【0072】
このポリマー溶液dに酢酸エチルを加え、室温で攪拌して、濃度8.3重量%の均一なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を前述したと同じ多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にワイヤーバー(#20)にて塗布した後、60℃で加熱し、酢酸エチルを揮散させ、次いで、これを90℃の恒温器に168時間投入して、上記ポリアクリレート共重合体中のヒドロキシエチルメタクリレート成分の有する水酸基を上記架橋剤(多官能イソシアネート)のイソシアネート基と反応させ、上記ポリアクリレート共重合体を架橋させて、かくして、基材多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面に架橋ポリアクリレート共重合体が担持されたセパレータ2を得た。上記架橋ポリアクリレート共重合体の厚さは0.5μmであった。
【0073】
製造例7
上記製造例6において、ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液aに代えて、ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液bを用いた以外は、同様にして、ポリアクリレート共重合体中のヒドロキシエチルメタクリレート成分の有する水酸基を架橋剤(多官能イソシアネート)と反応させ、ポリアクリレート共重合体を架橋させて、多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にカチオン重合性官能基(オキセタニル基)を有する架橋ポリマーが担持されたセパレータ3を得た。
【0074】
製造例8
セパレータ1、ジメチルスルホキシド500g、イミノジ酢酸リチウム2gをガラス容器中に入れ、80℃で12時間加熱して、イミノジ酢酸リチウムと架橋ポリマーが有するグリシジルメタクリレート成分のグリシジル基を反応させて、架橋ポリマー鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有するセパレータ4を得た。
【0075】
製造例9
上記製造例8において、セパレータ1に代えて、セパレータ2を用いた以外は、同様にして、架橋ポリマー中にイミノジ酢酸基を有するセパレータ5を得た。
【0076】
製造例10
前記製造例8において、セパレータ1に代えて、セパレータ3を用いた以外は、同様にして、架橋ポリマー中にイミノジ酢酸基を有するセパレータ6を得た。
【0077】
製造例11
前記ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液bをエバポレータで乾燥させ、得られた固体状の架橋ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解させた。この架橋ポリマーの有するグリシジルメタクリレート成分のグリシジル基と等モルになるようにイミノジ酢酸リチウムを加え、窒素雰囲気下に80℃で12時間反応させて、イミノジ酢酸基を含む架橋ポリマーの溶液を調製した。次いで、この溶液をトルエンに滴下して固形状のポリマーを得、これを純水で洗浄した後、乾燥して、イミノジ酢酸基を有する固形状のポリマーを得た。次いで、この固体状の架橋ポリマー1gを酢酸エチル11.0gに溶解させ、これに架橋剤として多官能イソシアネート0.04gを加えて、8.3重量%濃度のポリマー溶液eを調製した。
【0078】
このポリマー溶液を前述したと同じ多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にワイヤーバー(#20)にて塗布した後、60℃で加熱乾燥して、酢酸エチルを揮散させ、次いで、これを90℃の恒温器に168時間投入して、片面に上記架橋ポリマーが有するヒドロキシエチルメタクリレート成分の水酸基を上記架橋剤(多官能イソシアネート)のイソシアネート基と反応させ、上記架橋ポリマーを架橋させて、基材多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にイミノジ酢酸基を有する無孔性の架橋ポリアクリレート共重合体からなる均一な層が担持されたセパレータ7を得た。上記架橋ポリアクリレート共重合体の厚さは0.5μmであった。
【0079】
製造例12
前記ポリアクリレート共重合体の酢酸エチル溶液bをエバポレータで乾燥させ、得られた固体状の架橋ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解させた。この架橋ポリマーの有するグリシジルメタクリレート成分のグリシジル基と等モルになるように、前記製造例4で調製したイミノジ酢酸トリエチルアミン塩のジメチルスルホキシド溶液を加え、窒素雰囲気下に80℃で12時間反応させて、イミノジ酢酸基を含む架橋ポリマーの溶液を調整した。
次いで、この溶液をトルエンに滴下して固形状のポリマーを得、これを純水で洗浄した後、乾燥して、イミノジ酢酸基を有する固形状のポリマーを得た。次いで、この固体状の架橋ポリマー1gを酢酸エチル11.0gに溶解させ、これに架橋剤として多官能イソシアネート0.04gを加えて、8.3重量%濃度のポリマー溶液fを調製した。
このポリマー溶液を前述したと同じ多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にワイヤーバー(#20)にて塗布した後、60℃で加熱乾燥して、酢酸エチルを揮散させ、次いで、これを90℃の恒温器に168時間投入して、片面に上記架橋ポリマーを有するヒドロキシエチルメタクリレート成分の水酸基を上記架橋剤(多官能イソシアネート)のイソシアネート基と反応させ、上記架橋ポリマーを架橋させて、基材多孔質ポリエチレン樹脂フィルムの片面にイミノジ酢酸基を有する無孔性の架橋ポリアクリレート共重合体からなる均一な層が担持されたセパレータ8を得た。上記架橋ポリアクリレート共重合体の厚さは0.5μmであった。
【0080】
比較例2
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ1及び2をそれぞれ、その多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液し、次いで、パッケージを封口して、それぞれリチウムイオン二次電池B及びCを組み立てた。
【0081】
比較例3
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ3をその多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液した後、パッケージを封口した。この後、70℃で7時間加熱して、架橋ポリマーをカチオン重合させ、架橋させて、リチウムイオン二次電池Dを組み立てた。
【0082】
実施例1
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ4及び5をそれぞれ、その多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液し、次いで、パッケージを封口して、それぞれリチウムイオン二次電池E及びFを組み立てた。
【0083】
実施例2
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ6をその多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液した後、パッケージを封口した。この後、70℃で7時間加熱して、架橋ポリマーをカチオン重合させ、架橋させて、リチウムイオン二次電池Gを組み立てた。
【0084】
実施例3
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ7をその多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液した後、パッケージを封口した。この後、70℃で7時間加熱して、架橋ポリマーをカチオン重合させ、架橋させて、リチウムイオン二次電池Hを組み立てた。
【0085】
実施例4
前記負極シートと正極シートの間にセパレータ8をその多孔質ポリエチレン樹脂フィルムが負極シートに対面し、架橋ポリマーが正極シートに対面するように配置積層し、得られた積層物をアルミニウムラミネートパッケージ内に入れ、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液した後、パッケージを封口した。この後、70℃で7時間加熱して、架橋ポリマーをカチオン重合させ、架橋させて、リチウムイオン二次電池Iを組み立てた。
【0086】
上記実施例及び比較例において得たそれぞれのラミネートシール型リチウムイオン二次電池について、その放電特性を調べた。即ち、それぞれの電池について、一定温度(25℃)下、0.2CmAのレートにて3回充放電を行い、3回目の放電容量を初期放電容量として求めた。また、3回目の充放電効率を初期充放電効率として求めた。その後、0.2CmAで充電し、この後、2CmAで放電して、2CmA放電容量を求め、前記初期放電容量に対する2CmA放電容量の百分率(%)にてレート特性を評価した。その後、1CmAで充電し、1CmAで放電することを1サイクルとし、45℃の恒温槽内で100サイクル充放電を繰り返した。得られた結果から、1CmAの充放電を開始した1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の百分率(%)にて100サイクル後容量維持率を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示す結果から、本発明に従って、分子中にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマーを基材多孔質樹脂フィルム上に担持させてなるセパレータを用いることによって、電解液中に溶出した金属イオンが上記イミノジ酢酸基に効率よく捕捉され、その結果、初期容量、初期の充放電効率及びレート特性の劣化が少なく、高温で充放電を繰り返しても、容量の劣化が少なく、長期信頼性にすぐれたリチウムイオン二次電池を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー分子鎖の側鎖にイミノジ酢酸基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなる電池用セパレータ。
【請求項2】
イミノジ酢酸基が一般式(I)
【化1】

(式中、M1及びM2はそれぞれ独立に水素原子、リチウム原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はトリエチルアミンを示す。)
で表される基である請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
架橋ポリマーがイソシアネート基に対して反応し得る反応性基を分子中に有するポリマーを架橋剤としての多官能イソシアネートと反応させ、架橋させて得られるものである請求項1又は2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
架橋ポリマー層が無孔性のイオン伝導性層である請求項1から3のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
架橋ポリマーが分子中にオキセタニル基を有する請求項1から4のいずれかに記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
正極活物質を含む正極と非水電解液と多孔質セパレータとこの多孔質セパレータを介して前記正極と電気的に絶縁されて配置された負極活物質を含む負極からなる非水リチウムイオン二次電池において、上記多孔質セパレータが請求項1から5のいずれかに記載のセパレータであるリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の電池用セパレータに電極を積層して、電極/セパレータ積層体を得、これを電池容器内に仕込んだ後、この電池容器内に電解液を注入して、上記セパレータの有する架橋ポリマーを電解液中で膨潤させる電池の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のセパレータに電極を積層して、電極/セパレータ積層体を得、これを電池容器内に仕込んだ後、この電池容器内にカチオン重合触媒を含む電解液を注入して、少なくともセパレータと電極との界面の近傍にて、上記セパレータに担持させた架橋ポリマーの少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は電解液中に溶出させ、カチオン重合させて、電解液の少なくとも一部をゲル化させる電池の製造方法。
【請求項9】
カチオン重合触媒がオニウム塩である請求項8に記載の電池の製造方法。
【請求項10】
電解液がカチオン重合触媒を兼ねる電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム及びテトラフルオロホウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項8に記載の電池の製造方法。


【公開番号】特開2009−87929(P2009−87929A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222937(P2008−222937)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】