説明

電池用電極の製造方法および製造装置

【課題】集電体の破損を抑制することが可能な電池用電極の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】導電性を有する樹脂層を含む集電体11を備えた電池用電極の製造方法。当該製造方法は、電極前駆体54を成形する前駆体成形工程と、電極前駆体を集電体11へ転写して電極層13を作成する電極転写工程と、を有する。前駆体成形工程では、集電体の表面で電極層となる電極材料に対して接着性が異なる複数の成形面43,44を備える成形型31を用いて、前記接着性が異なる成形面で電極材料を圧縮し電極前駆体を成形する。電極転写工程では、成形型を型開きする際に電極材料に対して接着性が高い方の成形面で電極前駆体を保持し、電極前駆体と集電体を対向配置して、電極前駆体をプレス成形により集電体へ転写して電極層を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。
【0003】
二次電池は、一般に、正極または負極活物質等を集電体に塗布して電極を構成する。このような電池用電極を連続的に製造する工程では、電極密度および容量を向上させるために、集電体に塗布したスラリーを乾燥後、ロールプレスしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、電池の高出力密度、高容量密度化が要求されており、電池の軽量化が必要であるため、二次電池において、軽量化のために導電性を有する樹脂層を含む集電体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−112320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂層を含む集電体を用いた電極を、ロールプレスにより連続的に製造する場合には、樹脂集電体の強度が金属箔に比べて低いために、集電体がプレス圧力に耐えられず破損する虞がある。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、樹脂層を含む集電体を用いた電極であっても、製造時の集電体の破損を抑制することが可能な電池用電極の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る電池用電極の製造方法は、導電性を有する樹脂層を含む集電体を備えた電池用電極の製造方法である。当該製造方法は、電極前駆体を成形する前駆体成形工程と、電極前駆体を前記集電体へ転写して電極層を作成する電極転写工程と、を有する。前駆体成形工程では、集電体の表面で電極層となる電極材料に対して接着性が異なる複数の成形面を備える成形型を用いて、前記接着性が異なる成形面で電極材料を圧縮し電極前駆体を成形する。電極転写工程では、成形型を型開きする際に電極材料に対して接着性が高い方の成形面で電極前駆体を保持し、電極前駆体と集電体を対向配置して、電極前駆体をプレス成形により集電体へ転写して電極層を作成する。
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る電池用電極の製造装置は、導電性を有する樹脂層を含む集電体を備えた電池用電極の製造装置である。当該製造装置は、電極前駆体を成形する前駆体成形手段と、電極前駆体を前記集電体へ転写して電極層を作成する電極転写手段と、を有する。前駆体成形手段は、記集電体の表面で電極層となる電極材料に対して接着性の異なる複数の成形面を備える成形型を用いて、接着性が異なる成形面で電極材料を圧縮し電極前駆体を成形する。電極転写手段は、成形型を型開きする際に電極材料に対して接着性の高い方の成形面で電極前駆体を保持し、電極前駆体と集電体を対向配置させて、電極前駆体をプレス成形により集電体へ転写して電極層を作成する。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した電池用電極の製造方法によれば、電極材料に対して接着性が異なる成形面により電極材料を圧縮するため、型開きした際に、電極材料に対して接着性の高い方の成形面で電極前駆体を確実に保持できる。そして、このように成形面で保持した電極前駆体を、樹脂層を含む集電体へプレス成形により転写するため、破損しやすい樹脂層を含む集電体をロールプレスする必要がなく、集電体の破損を抑制しつつ電池用電極を製造できる。
【0011】
上記のように構成した電池用電極の製造装置によれば、電極材料に対して接着性が異なる成形面により電極材料を圧縮する前駆体成形手段を有するため、型開きした際に、電極材料に対して接着性の高い方の成形面で電極前駆体を確実に保持できる。そして、このように成形面で保持した電極前駆体を、樹脂層を含む集電体へプレス成形により転写する電極転写手段を有するため、破損しやすい樹脂層を含む集電体をロールプレスする必要がなく、集電体の破損を抑制しつつ電池用電極を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】双極型リチウムイオン二次電池を示す概略斜視図である。
【図2】双極型リチウムイオン二次電池を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る双極型電極の製造方法により製造される双極型電極を示す概略断面図である。
【図4】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法に用いられる製造装置を示す概略側面図である。
【図5】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法を示すフロー図である。
【図6】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法における正極前駆体成形手段により正極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は正極材料を設置した際、(B)は正極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【図7】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法における正極転写工程により正極前駆体を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に正極前駆体を転写した際、(C)は型開きした際を示す。
【図8】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法における負極前駆体成形工程により負極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は負極材料を設置した際、(B)は負極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【図9】第1実施形態に係る双極型電極の製造方法における負極転写工程により負極前駆体を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に負極前駆体を転写した際、(C)は型開きした際を示す。
【図10】表面処理を施したサンプル1〜サンプル3における溶媒の接触角を示すグラフである。
【図11】成形型を加熱する際の電極材料を示す図であり、(A)は、上型温度と下型温度が一定の場合、(B)は、上型温度が下型温度よりも高い場合を示す。
【図12】固形分率の異なる2つの電極材料を集電体上で乾燥させる際の、乾燥温度と乾燥時間の関係を示すグラフである。
【図13】第2実施形態に係る双極型電極の製造方法に用いられる製造装置を示す概略側面図である。
【図14】第2実施形態に係る双極型電極の製造方法を示すフロー図である。
【図15】第2実施形態に係る双極型電極の製造方法における前駆体成形工程により電極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は電極材料を設置した際、(B)は電極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【図16】第2実施形態に係る双極型電極の製造方法における転写工程により電極前駆体を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に電極材料を転写した際を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、双極型リチウムイオン二次電池を示す斜視図、図2は、同双極型リチウムイオン二次電池を示す概略断面図、図3は、本発明の第1実施形態に係る双極型電極の製造方法により製造される双極型電極を示す概略断面図である。
【0015】
図1,2に示す双極型リチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0016】
双極型リチウムイオン二次電池10の発電要素21は、複数の双極型電極1(電池用電極)を含む。双極型電極1は、図3に示すように、集電体11の片面に正極活物質層13を設け、他方の面に負極活物質層15を設けた構造を有している。双極型リチウムイオン二次電池10は、双極型電極1を、電解質層17を介して複数枚積層した構造の発電要素21を具備してなるものである。
【0017】
隣接する正極活物質層13、電解質層17および負極活物質層15は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)19を構成する。したがって、双極型リチウムイオン二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層19の周辺部には絶縁層(シール部)22が配置されている。絶縁層(シール部)22を設けることによって、隣接する集電体11間を絶縁し、隣接する電極層(正極活物質層13、負極活物質層15)間の接触による短絡を防止することができる。
【0018】
さらに、正極側の最外層集電体11aは、電気的に接続された正極タブ25に、負極側の最外層集電体11bは、電気的に接続された負極タブ27に接続される。なお、最終的に電流を取り出す最外層集電体11aおよび11bに関しては、水平方向(面方向)の電気抵抗を低くするため、金属箔を用いることが好ましい。そして、これらの正極タブ25および負極タブ27が外部に導出するように、発電要素21が、ラミネートシート29からなる外装材内に封止されている。なお、最外層集電体(11a、11b)とタブ(25、27)との間を正極端子リード、負極端子リードを介して電気的に接続してもよい。また、最外層集電体がタブを兼ねていてもよい。
【0019】
また、最外層集電体の外側に集電板を積層させて、該集電板から電流を取り出してもよい。この際、集電板には、タブやリードを接続してもよい。
【0020】
双極型リチウムイオン二次電池10は、上記の構成により、縦方向に電流が流れるため、電子伝導のパスが非双極型の積層電池と比べて格段に短くなり、その分、高出力となる。
【0021】
また、集電体11として、高分子材料を含む集電体を用いているため、電池の軽量化を図ることができる。
【0022】
次に双極型リチウムイオン二次電池10を構成する各要素について説明する。
【0023】
(集電体)
集電体11は導電性を有する樹脂層を含む。好適には、集電体11は、導電性を有する樹脂層からなる。樹脂層は、導電性を有し、必須に樹脂を含み、集電体11の役割を果たす。樹脂層は、少なくとも正極活物質層13または負極活物質層15と接する面に形成される。樹脂層が導電性を有するには、具体的な形態として、1)樹脂を構成する高分子材料が導電性高分子である形態、2)樹脂層が樹脂および導電性フィラー(導電材)を含む形態が挙げられる。
【0024】
導電性高分子は、導電性を有し、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料から選択される。これらの導電性高分子は、共役したポリエン系がエネルギー帯を形成し伝導性を示すと考えられている。代表的な例としては電解コンデンサなどで実用化が進んでいるポリエン系導電性高分子を用いることができる。具体的には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾール、またはこれらの混合物などが好ましい。電子伝導性および電池内で安定に使用できるという観点から、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、がより好ましい。
【0025】
上記2)の形態に用いられる導電性フィラー(導電材)は、導電性を有する材料から選択される。好ましくは、導電性を有する樹脂層内のイオン透過を抑制する観点から、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料を用いるのが望ましい。
【0026】
具体的には、アルミニウム材、ステンレス(SUS)材、グラファイトやカーボンブラックなどのカーボン材、銀材、金材、銅材、チタン材などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの導電性フィラーは1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金材が用いられてもよい。好ましくは銀材、金材、アルミニウム材、ステンレス材、カーボン材、さらに好ましくはカーボン材である。またこれらの導電性フィラー(導電材)は、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記導電材)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0027】
また、導電性フィラー(導電材)の形状(形態)は、粒子形態で用いればよいが、粒子形態に限られず、カーボンナノチューブなど、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている粒子形態以外の形態であってもよい。
【0028】
カーボン粒子としては、カーボンブラックやグラファイトなどが挙げられる。カーボンブラックやグラファイトなどのカーボン粒子は電位窓が非常に広く、正極電位および負極電位の双方に対して幅広い範囲で安定であり、さらに導電性に優れている。また、カーボン粒子は非常に軽量なため、質量の増加が最小限になる。さらに、カーボン粒子は、電極の導電助剤として用いられることが多いため、これらの導電助剤と接触しても、同材料であるがゆえに接触抵抗が非常に低くなる。なお、カーボン粒子を導電性粒子として用いる場合には、カーボンの表面に疎水性処理を施すことにより電解質のなじみ性を下げ、集電体11の空孔に電解質が染み込みにくい状況を作ることも可能である。
【0029】
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.01〜10μm程度であることが望ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電性フィラーの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。後述する活物質粒子などの粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
【0030】
また、樹脂層が導電性フィラーを含む形態の場合、樹脂層を形成する樹脂は、上記導電性フィラーに加えて、当該導電性フィラーを結着させる導電性のない高分子材料を含んでいてもよい。樹脂層の構成材料として高分子材料を用いることで、導電性フィラーの結着性を高め、電池の信頼性を高めることができる。高分子材料は、印加される正極電位および負極電位に耐えうる材料から選択される。
【0031】
高分子材料の例としては、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの材料は電位窓が非常に広く正極電位、負極電位のいずれに対しても安定である。また軽量であるため、電池の高出力密度化が可能となる。
【0032】
樹脂層における、導電性フィラーの比率は、特に限定されないが、好ましくは、高分子材料および導電性フィラーの合計に対して、1〜30質量%の導電性フィラーが存在する。十分な量の導電性フィラーを存在させることにより、樹脂層における導電性を十分に確保できる。
【0033】
上記樹脂層には、導電性フィラーおよび樹脂の他、他の添加剤を含んでいてもよいが、好ましくは、導電性フィラーおよび樹脂からなる。
【0034】
樹脂層は、従来公知の手法により製造できる。例えば、スプレー法またはコーティング法を用いることにより製造可能である。具体的には、高分子材料を含むスラリーを調製し、これを塗布し硬化させる手法が挙げられる。スラリーの調製に用いられる高分子材料の具体的な形態については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。前記スラリーに含まれる他の成分としては、導電性フィラーが挙げられる。導電性粒子の具体例については上述の通りであるために、ここでは説明を省略する。あるいは、高分子材料および導電性粒子、その他の添加剤を従来公知の混合方法にて混合し、得られた混合物をフィルム状に成形することで得られる。また、例えば、特開2006−190649号公報に記載の方法のように、インクジェット方式により樹脂層を作製してもよい。
【0035】
集電体11の厚さは、特に限定されるものではないが、電池の出力密度を高める上では、薄いほど好ましい。双極型電池においては、正極および負極の間に存在する樹脂層を含む集電体11は、積層方向に水平な方向の電気抵抗が高くてもよいため、集電体11の厚さを薄くすることが可能である。具体的には、集電体11の厚さは、0.1〜150μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。
【0036】
集電体11は、1層から形成されていてもよいし、2層以上の多層積層体であってもよい。生産性および経済性の観点からは、1層の樹脂層から構成されることが好ましい。一方、3層以上の樹脂層の多層積層体も好適な形態である。3層の樹脂層の積層体を双極型電極1の集電体11として用いた形態を例に説明すると、3層の積層体は、正極または負極活物質層13,15に接する2つの最外層と、該最外層に挟持される1つの内層とから構成される。集電体11に内層が存在することによって、集電体11と活物質層との剥離強度が向上する。これは、内層が緩衝的役割を果たし、最外層と活物質層との接着性を増加させているためであると推測される。なお、集電体厚みの観点からは、積層体は、10層以下であることが好ましい。集電体11が樹脂層の多層の場合、集電体11を構成する各層の厚みは、0.1〜500μmであることが好ましく、0.1〜80μm以下であることが好ましい。
【0037】
集電体11における抵抗値に関しては特に限定されるものではないが、好ましくは電池全体の抵抗値に対して、集電体部分における抵抗値が好ましくは1/100以下、より好ましくは1/1000以下となるように、集電体11の材料を選定することが望ましい。
【0038】
高分子材料を含む樹脂層は、好ましくはスプレー法またはコーティング法を用いることにより製造可能である。例えば、高分子材料を含むスラリーを調製し、これを塗布し硬化させる手法が挙げられる。スラリーの調製に用いられる高分子材料の具体的な形態については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。前記スラリーに含まれる他の成分としては、導電性フィラーが挙げられる。導電性フィラーの具体例については上述の通りであるために、ここでは説明を省略する。あるいは、以下の方法によっても集電体11を製造することができる。高分子材料と、場合により導電性フィラーと、更に必要があれば、適当な溶剤とを加えて溶融混錬し、ペレットを得る。得られたペレットを押し出して成型してシートまたはフィルムを得て樹脂層を得てもよい。
【0039】
集電体11が多層の樹脂層から構成される場合、高分子材料を含む各層の積層方法は特に限定されず、ドライラミネート、押出しラミネート、ホットメルトラミネート、ウェットラミネート、サーマルラミネート等従来公知の方法により積層される。
【0040】
(電極層[正極活物質層および負極活物質層])
正極活物質層13および負極活物質層15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。なお、正極活物質層13および負極活物質層15を総じて電極層(13,15)と称する。
【0041】
正極活物質層13は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Co−Mn)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0042】
負極活物質層15は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0043】
各活物質層13、15に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜20μmである。
【0044】
正極活物質層13および負極活物質層15は、バインダーを含む。
【0045】
活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダーは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダーは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
【0046】
活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0047】
活物質層に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0048】
導電助剤とは、正極活物質層13または負極活物質層15の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0049】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0050】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0051】
正極活物質層13および負極活物質層15中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水溶媒二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。各活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0052】
(電解質層)
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0053】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiBETI等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0054】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0055】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0056】
なお、電解質層17が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層17にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0057】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層17が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0058】
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0059】
(最外層集電体)
最外層集電体の材質としては、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。電気の取り出しやすさの観点からは、好適には金属材料が用いられる。具体的には、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などの金属材料が挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性、電池作動電位という観点からは、アルミニウム、銅が好ましい。
【0060】
(タブおよびリード)
電池外部に電流を取り出す目的で、タブ(25,27)を用いてもよい。タブ(25,27)は最外層集電体や集電板に電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0061】
タブを構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブ(25,27)の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極タブ25と負極タブ27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0062】
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0063】
(電池外装材)
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素(電池要素)を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
【0064】
(絶縁部)
絶縁部22は、電解質層17からの電解液の漏れによる液絡を防止する。また、絶縁部22は、電池内で隣り合う集電体11どうしが接触したり、発電要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。
【0065】
絶縁部22を構成する材料としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が、絶縁部22の構成材料として好ましく用いられる。
【0066】
[電池用電極の製造装置]
次に、第1実施形態に係る双極型電極(電池用電極)の製造方法に用いられる製造装置30について説明する。
【0067】
図4は、第1実施形態に係る双極型電極の製造方法に用いられる製造装置を示す概略側面図である。
【0068】
製造装置30は、図4に示すように、集電体11の表面に形成される電極層(13,15)の材料である電極材料を圧縮する成形型31と、成形型31を取り付けて成形型31に荷重を付与するプレス機32とを有する。製造装置30は、さらに、集電体11を成形型31に設置し、かつ集電体11を成形型31から取り出す集電体移動手段33と、成形型31に設置されて成形型31を加熱する加熱手段34と、を有している。
【0069】
成形型31およびプレス機32は、集電体11の表面に形成される電極層(13,15)の材料である電極材料(図6の符号51,図8の符号52参照)を圧縮して電極前駆体(54,55)を作成する前駆体成形手段35として機能する。さらに、成形型31およびプレス機32は、電極前駆体(図6の符号54,図8の符号55参照)をプレス成形により集電体11へ転写して電極層(13,15)を作成する電極転写手段36としても機能する。電極前駆体(54,55)は、集電体11へ転写されて正極活物質層13となる正極前駆体54と、負極活物質層15となる負極前駆体55とを有している。また、電極材料(51,52)は、正極前駆体54となる正極材料51と、負極前駆体55となる負極材料52とを有している。
【0070】
成形型31は、対となる上型41と下型42とを有しており、上型41および下型42は、電極材料(51,52)に対して接着性の異なる成形面(43,44)を備える。上型41は、プレス機32の上常盤37に取り付けられ、下型42は、プレス機32の下常盤38に取り付けられる。上型41および下型42は、プレス機32により近接離間可能であり、上型41に形成される上型成形面43と下型42に形成される上型成形面43の間で、電極材料(51,52)を圧縮できる構造となっている。
【0071】
成形型31は、上型41と下型42の間で電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を形成する際に、電極前駆体(54,55)を下型42に接着させるものであり、上型成形面43に、非粘着処理が施されている。非粘着処理としては、フッ素樹脂またはシリコン樹脂のような非粘着材料をコーティングする化学的処理や、ショットブラストなどで表面を粗くする物理的処理等が挙げられる。なお、下型成形面44に電極材料(51,52)に対する充分な接着性がある場合、上型成形面43に非粘着の表面処理は施さなくてもよい。
【0072】
下型成形面44には、粘着処理が施されている。粘着処理としては、上型成形面43よりも粘着性の高い材料をコーティングする化学的処理や、研磨により表面粗度を小さくする物理的処理等が挙げられる。なお、上型成形面43に電極材料(51,52)に対する十分な剥離性がある場合、下型成形面44に粘着処理を施さなくてもよい。また、電極材料(51,52)を接着させる側を下型成形面44ではなく上型成形面43とし、表面処理を逆にすることもできる。
【0073】
また、電極前駆体(54,55)が接着する下型成形面44に対する電極材料(51,52)の接着性を、集電体11に対する電極材料(51,52)の接着性よりも小さく設定する。これは、集電体11の少なくとも下型成形面44に接する面が樹脂を含むために電極材料(51,52)との接着性が高いことから、下型42を金属製とすることで容易に実現できる。
【0074】
集電体移動手段33は、上型41と下型42の間に集電体11を設置し、さらに集電体11を成形型31から取り出すことができる構造を備えている。集電体移動手段33には、例えば、回転するローラによって集電体11を移動させる構造や、集電体11を把持して移動させる構造等を適用できるが、これらに限定されず、公知の多様な移動手段を適用できる。
【0075】
加熱手段34は、上型41および下型42の各々に設けられており、上型41および下型42を任意の温度に個別に加熱することができる。加熱手段34には、例えばヒータや、高温の流体を流通させる構造等を適用できるが、これらに限定されず、公知の多様な加熱手段34が適用できる。なお、本実施形態では、後述するように下型42よりも上型41を高温とするため、上型41のみに加熱手段34を設置してもよい。
【0076】
[電池用電極の製造方法]
次に、第1実施形態に係る電池用電極の製造方法について説明する。
【0077】
図5は、第1実施形態に係る双極型電極の製造方法を示すフロー図である。図6は、同製造方法における正極前駆体成形工程により正極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は正極材料を設置した際、(B)は正極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【0078】
図7は、同製造方法における正極転写工程により正極前駆体を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に正極前駆体を転写した際、(C)は型開きした際を示す。
【0079】
図8は、同製造方法における負極前駆体成形工程により負極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は負極材料を設置した際、(B)は負極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【0080】
図9は、同製造方法における負極転写工程により負極前駆体を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に負極前駆体を転写した際、(C)は型開きした際を示す。
【0081】
第1実施形態に係る双極型電極の製造方法は、正極材料51を圧縮し正極前駆体54を作成する正極前駆体成形工程(S11)と、正極前駆体54をプレス成形により集電体11へ転写して正極活物質層13を作成する正極転写工程(S12)と、を有する。本製造方法は、正極活物質層13を作成した後、さらに、負極材料52を圧縮し負極前駆体55を作成する負極前駆体成形工程(S13)と、負極前駆体55をプレス成形により集電体11へ転写して負極活物質層15を作成する負極転写工程(S14)と、を有する。
【0082】
正極前駆体成形工程(S11)では、正極材料51に対して接着性が異なる成形面を持つ前述の上型41、下型42を用いて、正極材料51を圧縮して正極前駆体54を作成する。このために、まず、図6(A)に示すように、上型41と下型42を離隔した状態で、下型成形面44上に正極材料51を仕込む。電極材料(51,52)は、ぺレット状、粉状等の固形状態が保持された材料であり、溶媒を含んでも、含まなくてもよい。本実施形態では、溶媒を含むペレット状の電極材料(51,52)を用いている。ここでペレットとは、例えば柱状体、球状体等の粒形状物であり、樹脂成形のための原料として予備的に形成されたものである。
【0083】
電極材料(51,52)は、所望の活物質、導電助剤、バインダーおよび必要に応じて他の成分(例えば、イオン伝導性ポリマー、支持塩(リチウム塩)、重合開始剤、分散剤など)を、溶媒中で混合して、調製する。この電極材料(51,52)中に配合される各成分の具体的な形態については、上記の電極の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0084】
電極材料(51,52)の溶媒は、特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の一例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが用いられうる。バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。
【0085】
各電極材料(51,52)中に含有される成分の配合比は、特に限定されない。
【0086】
正極材料51を仕込んだ後には、図6(B)に示すように、プレス機32により上型41と下型42を近接させて、上型成形面43と下型成形面44の間で正極材料51を圧縮し、正極材料51を層状に成形する。このとき、成形型31を加熱手段34により加熱して高温状態で圧縮することで、正極材料51の流動性が向上し、低圧力で正極前駆体54の成形が可能になる。プレス機32の圧縮力は、集電体11の材料や、成形型31の加熱温度、電極材料(51,52)の種類等に応じて適宜変更することが好ましい。これにより、集電体11へのダメージを抑えつつ、電極層(13,15)を集電体11に転写することができる。
【0087】
この後、図6(C)に示すように、プレス機32による圧力を開放し、成形型31を型開きする。このとき、正極材料51の上型成形面43および下型成形面44に対する接着力差により、下型42の方がより接着しやすいため、層状に形成された正極前駆体54が上型成形面43から剥離し、下型成形面44に接着した状態で保持される。
【0088】
本実施形態のように、成形型31に仕込む電極材料(51,52)に溶媒が含まれている場合には、溶媒と各成形面との接触角の大きさが10°以上乖離するように成形面に表面処理等を行うことで、確実にいずれか一方の成形型に接着するように電極前駆体(54,55)を形成することができる。
【0089】
図10は、表面処理を施したサンプル1〜サンプル3における溶媒の接触角を示すグラフである。使用された溶媒は、NMPである。図10に示す3種類のサンプル1〜サンプル3から2つを選択して組み合わせて、各々のサンプルの面同士で電極材料を圧縮した後に面を離隔した際の電極材料の状態を、下表に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
上記の表のように、接触角の乖離が10°以下であるサンプル1とサンプル2の組合せおよびサンプル1とサンプル3の組合せでは、電極材料はサンプルの両面に分かれて接着した。これに対し、接触角が10°以上乖離しているサンプル2とサンプル3の組合せの場合は、接触角が小さいサンプル2の面にのみ電極材料が接着することが確認された。
【0092】
また、電極材料(51,52)内で接着力差をつけることで、いずれか一方の成形型に電極前駆体(54,55)を形成することもできる。図11は、成形型を加熱する際の電極材料を示す図であり、(A)は、上型温度と下型温度が一定の場合、(B)は、上型温度が下型温度よりも高い場合を示す。図11に示すように、電極材料(51,52)には、バインダー57、活物質58および導電助剤59が含まれている。この電極材料(51,52)を上型41および下型42で圧縮して層状に成形した後、上型41および下型42を加熱手段34により加熱し、電極材料(51,52)から溶媒を乾燥させる。これにより、成形される電極前駆体(54,55)の形状安定性が向上し、集電体11に転写する際に歪んだり、切れたりすることを抑制できる。この加熱の際に、上型41および下型42を一定の温度で加熱すると、図11(A)に示すように、バインダー59が電極材料(51,52)内で均一に分布する。
【0093】
これに対し、加熱の際に、電極前駆体(54,55)を剥離したい側(上型41側)の金型温度を高く設定する。高温で急速に溶媒を乾燥させると、図11(B)に示すように、バインダー59が電極材料表層部に移動するバインダーマイグレーションが発生し、表層部においてバインダーリッチとなる。これにより、低温側の下型42近傍ではバインダー59が多くなり、電極材料(51,52)の接着力が上昇して下型42に電極前駆体(54,55)が接着して形成される。
【0094】
次に、正極前駆体54をプレス成形により集電体11へ転写して正極活物質層13(電極層)を作成する正極転写工程(S12)を行う。
【0095】
まず、図7(A)に示すように、集電体11を集電体移動手段33(図4参照)により上型41と下型42の間に設置する。上型41と下型42を型開きした際に正極材料51に対して接着性が高い下型成形面44を有する下型42で正極前駆体54を保持し、この正極前駆体54と集電体11を対向配置する。
【0096】
次に、図7(B)に示すように、上型41と下型42をプレス機32により近接させて、正極前駆体54を集電体11に対してプレス成形する。これにより、正極前駆体54を集電体11へ転写して、集電体11に正極活物質層13を作成する。
【0097】
この後、図7(C)に示すように、プレス機32による圧力を開放し、成形型31を型開きする。正極材料51の接着性は、下型42よりも集電体11に対する方が大きいため、集電体11に正極活物質層13が接着して保持されて、下型42から剥離する。なお、下型42を加熱することで、下型42から正極活物質層13を剥離しやすくしてもよい。正極活物質層13が形成された集電体11は、集電体移動手段33により上型41と下型42の間から一旦取り出される。
【0098】
次に、負極活物質層15を形成するための負極前駆体成形工程(S13)を行う。負極前駆体成形工程(S13)では、負極材料52に対して接着性が異なる成形面を持つ上型41、下型42を用いて、負極材料52を圧縮して負極前駆体55を作成する。このために、まず、図8(A)に示すように、上型41と下型42を離隔した状態で、下型成形面44上に負極材料52を仕込む。この後、前述した正極活物質層13を形成するための正極前駆体成形工程(S11)と同様に、上型成形面43と下型成形面44の間で負極材料52を圧縮して層状に形成する(図8(B)参照)。このとき、成形型31を加熱手段34により加熱して高温状態で圧縮することで、負極材料52の流動性が向上し、低圧力で負極前駆体55の成形が可能になる。また、正極前駆体成形工程(S11)と同様に、負極前駆体55を剥離したい側(上型41側)の金型温度を高く設定することで、下型42に負極前駆体55が接着して形成される。
【0099】
次に、プレス機32による圧力を開放し、成形型31を型開きする(図8(C)参照)。このとき、負極材料52の上型成形面43および下型成形面44に対する接着力の差により、下型42の方がより接着しやすいため、層状に形成された負極前駆体55が上型成形面43から剥離し、下型成形面44に接着した状態で保持される。
【0100】
次に、負極前駆体55をプレス成形により集電体11へ転写して負極活物質層15を作成する負極転写工程(S14)を行う。負極転写工程(S14)では、図9(A)に示すように、正極転写工程(S12)において正極活物質層13が転写されて取り出された集電体11を裏返し、集電体移動手段33により再度集電体11を上型41と下型42の間に設置する。これにより、集電体11の正極活物質層13が形成される面の反対面が、下型成形面44の負極前駆体55と対向配置される。
【0101】
次に、図9(B)に示すように、上型41と下型42をプレス機32により近接させて、負極前駆体55を集電体11に対して押圧する。これにより、負極前駆体55を集電体11へ転写して、集電体11へ負極活物質層15を作成する。
【0102】
この後、図9(C)に示すように、プレス機32による圧力を開放し、成形型31を型開きする。負極材料52の接着性は、下型42よりも集電体11に対する方が大きいため、集電体11に負極活物質層15が接着して保持されて、下型42から剥離する。なお、下型42を加熱することで、下型42から負極活物質層15を剥離しやすくしてもよい。
【0103】
正極活物質層13および負極活物質層15が形成された集電体11は、集電体移動手段33により上型41と下型42の間から取り出され、双極型電極1の製造が完了する。
【0104】
図12は、固形分率の異なる2つの電極材料を集電体上で乾燥させる際の、乾燥温度と乾燥時間の関係を示すグラフである。なお、図12における数値は、実測値である。
【0105】
図12における固形分率60%の電極材料は、固形分率75%の電極材料よりも溶媒が多く存在し、ダイコーターにより集電体へ電極材料を形成した際を想定したものである。また、固形分率75%の電極材料は、固形分率60%の電極材料よりも溶媒が少なく、本実施形態を適用して成形型31により集電体11へ電極材料を形成した際を想定したものである。
【0106】
図12より、本実施形態を想定した固形分率75%の電極材料の方が、ダイコーターを想定した固形分率60%の電極材料よりも約半分の時間で溶媒を乾燥可能であることが確認された。なお、本実施形態を適用して成形型により電極材料を形成する場合には、固形分率が80%程度であっても、現実に実施可能である。
【0107】
また、電極層を形成する方法として、電極材料(活物質、導電助剤およびバインダーを含む)を溶媒により分散させた後、溶媒を乾燥させて固形分とし、この固形分を粉砕して電極粒子とした後、プレス等の圧縮によりシート化する方法もある。この方法は、乾燥時間を短縮するために溶媒レスで電極層を形成するが、リチウム電池の電極層厚みは、通常数十μmから100数十ミクロン程度であり、粉砕する際は細かい微粒子にする必要がある。この結果、バインダーの結着効果が薄れ、シート化した際の形状を保持する事が困難となる。また、電極層を大面積化しようとする際に、均一に圧力が掛かっていないと押圧しても潰れない部分が生じる。これに対し、本実施形態に係る製造方法では、電極材料(51,52)が溶媒を含むペレット状となっているため、圧縮する際に各ペレットに圧力が均一に掛かりやすくなり、粒子に十分な圧力が作用し密着力が増大する。すなわち、粉体状の電極材料をプレス成形すると、圧力を均一に掛けないと均一に潰れない部位が生じる場合があり、粒子に圧力が掛からず密着力が弱くなって電極層が脆くなる虞があり、圧縮後のハンドリング性も低下する可能性がある。これに対し、ペレット状の電極材料(51,52)を用いることで、電極層(13,15)の厚さよりも大きなペレットを用いることができ、圧縮する際に、ペレット状の粒子に圧力が均一に掛かりやすくなり、粒子に十分な圧力が作用して密着力を増大させることができる。
【0108】
第1実施形態に係る双極型電極1の製造方法によれば、電極材料(51,52)に対して接着性が異なる成形面(43,44)により電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を作成するため、型開きした際に、電極材料(51,52)に対して接着性の高い下型成形面44で電極前駆体(54,55)を確実に保持できる。そして、この下型成形面44で保持した電極前駆体(54,55)を、樹脂層を含む集電体11へプレス成形により転写するため、集電体11をロールプレスする必要がなく、製造時の集電体11の破損を抑えることが可能である。また、電極層を転写する集電体が金属製の場合には、電極層と集電体の接着性を確保するために接着剤を用いる等の対策が必要となるが、電極層(13,15)を転写する集電体11が樹脂層を含むために、熱転写による接着性が高い。したがって、電極材料(51,52)の接着性を、電極前駆体(54,55)が接着する下型成形面44よりも、集電体11に対して大きくすることができ、集電体11に電極前駆体(54,55)を確実に転写することができる。さらに、電極層(13,15)と集電体11の間に接着剤を用いる等の対策が不要となり、作業工数を低減できる。また、電極前駆体(54,55)の成形および集電体11への転写を、1つの成形型31内で実施できるため、例えば薄く大型でハンドリング性の悪い電極層(13,15)であっても、材料の接着する成形面を変更しつつ移動させて成形することができ、双極型電極1の成形が容易となる。
【0109】
また、前駆体成形工程(S11,S13)において、圧縮して成形した電極前駆体(54,55)を加熱するため、電極材料(51,52)に溶媒が含まれる場合に、電極材料(51,52)が圧縮された電極前駆体(54,55)の溶媒を乾燥させて形状安定性を向上できる。したがって、下型成形面44に形成された電極前駆体(54,55)を集電体11に転写して電極層(13,15)を形成する際においても、電極層(13,15)の歪みや切れ等の発生を抑制できる。
【0110】
また、前駆体成形工程(S11,S13)において、成形型31を型開きした際に電極前駆体(54,55)を保持する下型成形面44よりも、電極前駆体(54,55)が剥離する上型成形面43の温度が高温となるため、電極材料(51,52)に溶媒が含まれる場合、片側の金型温度を上昇させて急激に溶媒を乾燥させることができる。これにより、電極材料内でバインダーマイグレーションが発生し、電極材料(51,52)の上型41とは逆側の表層がバインダーリッチとなる。これにより、温度の低い下型成形面44と電極材料(51,52)の接着力が上昇し、接着させたい下型成形面44に、確実に電極前駆体(54,55)を形成することができる。
【0111】
また、電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を作成する前駆体成形工程(S11,S13)において、ペレット状の電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を形成するため、圧縮する際に各ペレットに圧力が均一に掛かりやすくなり、粒子に十分な圧力が作用して密着力が増大する。
【0112】
また、第1実施形態における双極型電極1の製造装置30によれば、電極材料(51,52)に対して接着性の異なる成形面(43,44)により電極材料(51,52)を圧縮する前駆体成形手段35を備えるため、型開きした際に、電極材料(51,52)に対して接着性の高い下型成形面44で電極前駆体(54,55)を確実に保持できる。そして、この下型成形面44で保持した電極前駆体(54,55)をプレス成形により集電体11へ転写する電極転写手段36を有するため、樹脂層を含む集電体11をロールプレスする必要がなく、集電体11の破損を抑制しつつ双極型電極1を製造することが可能である。
【0113】
また、下型成形面44の電極前駆体(54,55)に対する接着力が、集電体11の電極前駆体(54,55)に対する接着力よりも低いため、集電体11に電極前駆体(54,55)を確実に転写することができる。
【0114】
また、電極前駆体(54,55)を保持する下型成形面44に対する溶媒の接触角よりも、電極前駆体(54,55)が剥離する上型成形面43に対する溶媒の接触角が10度以上大きいため、電極材料(51,52)の各成形面に対する接着力差が充分得られる。したがって、接着させたい下型成形面44に確実に電極前駆体(54,55)を形成することができる。
【0115】
また、成形型31を加熱する加熱手段34を有するため、電極材料(51,52)に溶媒が含まれる場合に、電極前駆体(54,55)の溶媒を乾燥させて、電極前駆体(54,55)の形状安定性を向上できる。したがって、電極前駆体(54,55)を集電体11に転写して電極層(13,15)を形成する際においても、電極層(13,15)の歪みや切れ等の発生を抑制できる。
【0116】
また、加熱手段34が、電極前駆体(54,55)を保持する下型成形面44よりも、電極前駆体(54,55)が剥離する上型成形面43を高温に加熱するため、電極材料(51,52)に溶媒が含まれる場合、片側の金型温度を上昇させて急激に溶媒を乾燥させることができる。これにより、電極材料内でバインダーマイグレーションが発生して、温度の低い下型成形面44と電極材料(51,52)の接着力が上昇し、接着させたい下型成形面44に、確実に電極前駆体(54,55)を形成することができる。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る双極型電極1の製造方法、および当該製造方法に用いられる製造装置60について説明する。なお、第2実施形態において製造される双極型電極1は、第1実施形態において製造される双極型電極1(図1〜3参照)と同様であるため、説明を省略する。また、第1実施形態と同様の機能を奏する部材については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0117】
[双極型電極の製造装置]
図13は、第2実施形態に係る双極型電極の製造方法に用いられる製造装置を示す概略側面図である。
【0118】
製造装置60は、図13に示すように、電極材料(51,52)を圧縮する成形型61と、成形型61に荷重を付与するプレス機32と、集電体11を移動させる集電体移動手段33と、成形型61を加熱する加熱手段62と、成形型61を構成する中型73を移動させる中型移動手段63と、を有している。
【0119】
成形型61およびプレス機32は、集電体11の表面に形成される電極層(13,15)の材料である電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を作成する前駆体成形手段64として機能する。成形型61およびプレス機32は、さらに、電極前駆体(54,55)をプレス成形により集電体11へ転写して電極層(13,15)を作成する電極転写手段65としても機能する。
【0120】
成形型61は、上型71、中型73および下型72を有している。上型71および中型73の互いに対向する上型成形面74および中型上方成形面76は、電極材料(51,52)に対して互いに異なる接着性を備え、下型72および中型73の互いに対向する下型成形面および中型下方成形面77も、電極材料(51,52)に対して互いに異なる接着性を備えている。
【0121】
上型成形面74と中型上方成形面76の間、および下型成形面75と中型下方成形面77の間の各々では、正極材料51および負極材料52を同時に圧縮して、正極前駆体54および負極前駆体55を同時に形成することができる。成形型61は、電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を形成する際に、電極前駆体(54,55)を上型成形面74と下型成形面75に接着させるものであり、中型上方成形面76および中型下方成形面77に、非粘着処理が施されている。なお、上型成形面74および下型成形面75に電極材料(51,52)に対する十分な接着性がある場合、中型73に非粘着の表面処理を施さなくてもよい。
【0122】
上型成形面74および下型成形面75には、粘着処理が施されている。なお、中型上方成形面76および中型下方成形面77に電極材料(51,52)に対する十分な剥離性がある場合、上型成形面74および下型成形面75に粘着処理を施さなくてもよい。
【0123】
また、電極前駆体(54,55)が接着する上型成形面74および下型成形面75に対する電極材料(51,52)の接着性を、集電体11に対する電極材料(51,52)の接着性よりも小さく設定する。これは、集電体11が樹脂を含むために電極材料(51,52)の接着性が高いことから、上型71および下型72を金属製とすることで容易に実現できる。
【0124】
加熱手段62は、上型71、中型73および下型72の各々に設けられており、上型71、中型73および下型72を任意の温度に個別に加熱することができる。
【0125】
中型移動手段63は、上型71と下型72の間に中型73を保持することができ、さらに中型73を上型71と下型72の間から取り出すことができる構造を備えており、例えば、ロボットアーム等を適用できるが、これに限定されず、公知の多様な移動手段が適用できる。
【0126】
[双極型電極の製造方法]
次に、第2実施形態に係る双極型電極の製造方法について説明する。
【0127】
図14は、第2実施形態に係る双極型電極の製造方法を示すフロー図である。図15は、同製造方法における前駆体成形工程により電極前駆体を形成する際を示す概略側面図であり、(A)は電極材料を設置した際、(B)は電極材料を圧縮した際、(C)は型開きした際を示す。
【0128】
図16は、同製造方法における転写工程により電極前駆体(54,55)を集電体に転写する際を示す概略側面図であり、(A)は集電体を設置した際、(B)は集電体に電極材料を転写した際を示す。
【0129】
第2実施形態に係る双極型電極の製造方法は、図14に示すように、正極材料51および負極材料52を圧縮し正極前駆体54および負極前駆体55を作成する前駆体成形工程(S21)と、正極前駆体54および負極前駆体55をプレス成形により集電体11へ転写して電極層(13,15)を作成する電極転写工程(S22)と、を有する。本製造方法は、第1実施形態に係る製造方法と異なり、正極活物質層13と負極活物質層15を同時に形成するものである。
【0130】
前駆体成形工程(S21)では、上型成形面74と中型上方成形面76の間で正極材料51を圧縮して正極前駆体54とし、下型成形面75と中型下方成形面77の間で負極材料52を圧縮して負極前駆体55を成形する。なお、上型成形面74と中型上方成形面76の間で負極材料52を圧縮して負極前駆体55とし、下型成形面75と中型下方成形面77の間で正極材料51を圧縮して正極前駆体54を成形してもよい。
【0131】
まず、図15(A)に示すように、中型73を中型移動手段63により上型71と下型72の間に保持し、上型71と中型73の間、および中型73と下型72の間を離隔した状態とする。この状態で、中型上方成形面76上に正極材料51を仕込み、さらに下型成形面75上に負極材料52を仕込む。電極材料(51,52)には、溶媒を含むペレット状の電極材料(51,52)を用いている。
【0132】
正極材料51および負極材料52を仕込んだ後には、図15(B)に示すように、プレス機32により上型71と下型72を近接させて、上型成形面74と中型上方成形面76の間で正極材料51を圧縮し、下型成形面75と中型下方成形面77の間で負極材料52を圧縮する。これにより、正極前駆体54および負極前駆体55を層状に成形する。このとき、成形型61を加熱手段62により加熱して高温状態で圧縮することで、電極材料(51,52)の流動性が向上し、低圧力で電極前駆体(54,55)の成形が可能になる。
【0133】
この後、図15(C)に示すように、プレス機32による圧力を開放し、成形型61を型開きする。このとき、電極材料(51,52)の中型上方成形面76および中型下方成形面77に対する接着力より、上方成形面74および下型成形面75に対する接着力の方が高いため、電極前駆体(54,55)が中型上方成形面76および中型下方成形面77から剥離し、上型成形面74および下型成形面75に接着した状態で保持される。
【0134】
本実施形態のように、成形型61に仕込む電極材料(51,52)に溶媒が含まれている場合には、対向する成形面における溶媒の接触角の大きさが10°以上乖離するように表面処理等を行うことで、確実にいずれか一方の成形面に接着するように電極前駆体(54,55)を成形することができる。
【0135】
また、電極材料(51,52)を上型71、中型73および下型72で圧縮して層状にした後、上型71、中型73および下型72を加熱手段62により加熱し、電極材料(51,52)から溶媒を乾燥させてもよい。これにより、電極前駆体(54,55)の形状安定性が向上し、集電体11に転写する際に歪んだり、切れることを抑制できる。この加熱の際に、電極前駆体(54,55)を剥離したい側(中型73側)の金型温度を高く設定する。これにより電極材料内のバインダーが電極材料表層部に移動するバインダーマイグレーションが発生し、表層部においてバインダーリッチとなる。これにより、低温側の上型71および下型72近傍ではバインダーが多くなり、電極材料(51,52)の接着力が上昇して上型71および下型72側に電極前駆体(54,55)が形成される。
【0136】
次に、正極前駆体54および負極前駆体55をプレス成形により集電体11へ転写して電極層(13,15)を作成する電極転写工程(S22)を行う。
【0137】
まず、図16(A)に示すように、中型移動手段63により中型73を上型71と下型72の間から取り出し、上型71と下型72の間に、集電体移動手段33によって集電体11を設置する。成形型61を型開きした際に電極材料(51,52)に対して接着性が高い成形面を有する上型71および下型72で電極前駆体(54,55)を保持し、この電極前駆体(54,55)と集電体11を対向配置する。
【0138】
次に、図16(B)に示すように、上型71と下型72をプレス機32により中型73へ近接させて、電極前駆体(54,55)を集電体11に対してプレス成形する。これにより、正極前駆体54および負極前駆体55を集電体11へ転写して、集電体11に正極活物質層13および負極活物質層15を作成する。
【0139】
この後、プレス機32による圧力を開放し、成形型61を型開きする。電極材料(51,52)の接着性は、上型成形面74および下型成形面75よりも集電体11に対する方が大きいため、集電体11に正極活物質層13および負極活物質層15が接着して保持されて、上型71および下型72から剥離する。正極活物質層13および負極活物質層15が形成された集電体11は、集電体移動手段33によって取り出され、双極型電極1の製造が完了する。
【0140】
第2実施形態に係る双極型電極1の製造方法によっても、電極材料(51,52)に対して接着性が異なる成形面で電極材料(51,52)を圧縮して電極前駆体(54,55)を成形するため、型開きした際に、電極材料(51,52)に対して接着性の高い上型成形面74と下型成形面75で電極前駆体(54,55)を確実に保持できる。そして、この上型成形面74と下型成形面75で保持した電極前駆体(54,55)を、樹脂層を含む集電体11へプレス成形により転写するため、集電体11をロールプレスする必要がなく、製造時の集電体11の破損を抑制することが可能である。また、電極層(13,15)を転写する集電体11が樹脂層を含むために、熱転写による接着性が高く、電極材料(51,52)の接着性を、電極前駆体(54,55)が接着する上型成形面74と下型成形面75よりも、集電体11に対して大きくでき、集電体11に電極前駆体(54,55)を確実に転写できる。さらに、電極層(13,15)と集電体11の間に接着剤を用いる等の対策が不要となり、作業工数を低減できる。
【0141】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、第1実施形態に係る双極型電極1の製造方法において、正極活物質層13と負極活物質層15の形成する順番を逆にしてもよい。また、第1、第2実施形態では、双極型電極1を作成しているが、作成される電池用電極は双極型に限定されず、電池用電極が適用される電池も、双極型電池に限定されない。
【符号の説明】
【0142】
1 双極型電極(電池用電極)、
11 集電体、
13 正極活物質層(電極層)、
15 負極活物質層(電極層)、
30,60 製造装置、
31,61 成形型、
32 プレス機、
33 集電体移動手段、
34 加熱手段、
35 前駆体成形手段、
36 電極転写手段、
41,71 上型、
42,72 下型、
43,74 上型成形面、
44,75 下型成形面、
51 正極材料、
52 負極材料、
54 正極前駆体、
55 負極前駆体、
60 製造装置、
61 成形型、
62 加熱手段、
63 中型移動手段、
64 前駆体成形手段、
65 電極転写手段、
73 中型、
76 中型上方成形面、
77 中型下方成形面、
S11 正極前駆体成形工程、
S12 正極転写工程、
S13 負極前駆体成形工程、
S14 負極転写工程、
S21 前駆体成形工程、
S22 電極転写工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する樹脂層を含む集電体を備えた電池用電極の製造方法であって、
前記集電体の表面で電極層となる電極材料に対して接着性が異なる複数の成形面を備える成形型を用いて、前記接着性が異なる成形面で前記電極材料を圧縮し電極前駆体を成形する前駆体成形工程と、
前記成形型を型開きする際に前記電極材料に対して接着性が高い方の成形面で前記電極前駆体を保持し、前記電極前駆体と前記集電体を対向配置して、前記電極前駆体をプレス成形により前記集電体へ転写して電極層を作成する電極転写工程と、
を有する、電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体成形工程において、圧縮して成形した前記電極前駆体を加熱する、請求項1に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体成形工程において、前記成形型を型開きする際に前記電極前駆体を保持する成形面よりも、前記電極前駆体が剥離する他の成形面を高温として、前記電極前駆体を加熱する、請求項2に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体成形工程において、ペレット状の電極材料を圧縮して電極前駆体を成形する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項5】
導電性を有する樹脂層を含む集電体を備えた電池用電極の製造装置であって、
前記集電体の表面で電極層となる電極材料に対して接着性の異なる複数の成形面を備える成形型を用いて、前記接着性が異なる成形面で前記電極材料を圧縮し電極前駆体を成形する前駆体成形手段と、
前記成形型を型開きする際に前記電極材料に対して接着性の高い方の成形面で前記電極前駆体を保持し、前記電極前駆体と前記集電体を対向配置させて、前記電極前駆体をプレス成形により前記集電体へ転写して電極層を作成する電極転写手段と、を有する電池用電極の製造装置。
【請求項6】
前記電極前駆体を保持する成形面の前記電極前駆体に対する接着力が、前記集電体の前記電極前駆体に対する接着力よりも小さい、請求項5に記載の電池用電極の製造装置。
【請求項7】
前記電極材料には溶媒が含まれ、
前記成形型を型開きする際に前記電極前駆体を保持する成形面に対する前記溶媒の接触角よりも、当該型開きする際に前記電極前駆体が剥離する他の成形面に対する前記溶媒の接触角が10度以上大きい、請求項5または6に記載の電池用電極の製造装置。
【請求項8】
前記成形型は、前記電極前駆体を加熱する加熱手段を有する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の電池用電極の製造装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記成形型を型開きする際に前記電極前駆体を保持する成形面よりも、当該型開きする際に前記電極前駆体が剥離する他の成形面を高温に加熱する、請求項8に記載の電池用電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−251018(P2010−251018A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97191(P2009−97191)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】