説明

電池用電極の製造方法および電池の製造方法

【課題】活物質材料を含む塗布液の塗布により電池用電極を製造する技術において、パターン間の接触を回避しつつ、従来より狭い間隔でストライプ状パターンを形成する。
【解決手段】X方向に多数の吐出口を有するノズル21を基材110に対してY方向に走査移動させながら、各吐出口から活物質材料を含む塗布液を吐出させて基材110に塗布する。1回目の走査移動で形成されたパターン221の間に、2回目の走査移動で新たに塗布液を塗布してパターン222を形成する。走査方向(Y方向)におけるパターン221,222の始端位置を互いに異ならせることで、パターン始端部における塗布液の広がりに起因するパターン間の接触を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、活物質材料を含む塗布液を基材に塗布して電池用電極を製造する方法および該電極を用いて電池を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池のような化学電池を製造する方法として、本願出願人は、集電体となる基材の表面に活物質材料を含む塗布液をストライプ状に塗布して一方電極を形成し、これに電解質層や他方電極を積層する技術を先に開示した(特許文献1参照)。この技術においては、所定方向に多数の吐出口を配列したノズルを基材表面に対して走査移動させるとともに各吐出口から塗布液を吐出させるノズルスキャン方式により、活物質材料を含む塗布液を基材表面に塗布し、互いに平行な多数のストライプ状の活物質パターンを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−070788号公報(例えば、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノズルを基材表面に対して走査移動させつつ塗布液を吐出させるノズルスキャン方式では、塗布開始時点において、吐出口から吐出され基材に着液した塗布液が周囲に広がり、結果的にパターン始端部が他の部分よりも太くなってしまうことがある。
【0005】
その一方で、電池性能、より具体的には電池容量および充放電特性をさらに向上させるために、活物質パターンの高密度化も求められており、平行なパターン間の間隔をより狭めることが必要となっている。この場合、上記従来技術では、塗布開始時の塗布液の広がりによって隣接するパターン同士が接触してしまう可能性があり、このようなパターンの高密度化の要求に対して対応が難しい場合があるという点で、上記従来技術は改善の余地が残されている。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、活物質材料を含む塗布液の塗布により電池用電極を製造する技術において、パターン間の接触を回避しつつ、従来より狭い間隔でストライプ状パターンを形成して、電池の性能向上に寄与することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる第1の態様は、基材の表面に互いに平行な複数のストライプ状の活物質パターンを配してなる電池用電極の製造方法において、上記目的を達成するため、活物質の材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対的に所定の走査方向に走査移動させて、前記塗布液を前記基材表面にストライプ状に塗布して第1の活物質パターンを形成する第1塗布工程と、活物質の材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対的に前記走査方向に走査移動させて、前記塗布液を前記基材表面にストライプ状に塗布して前記第1の活物質パターンと隣接する第2の活物質パターンを形成する第2塗布工程とを備え、前記第1の活物質パターンの始端位置と、前記第2の活物質パターンの始端位置とを、前記走査方向において互いに異ならせることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明では、互いに隣接する第1の活物質パターンと第2の活物質パターンとの間で、その始端位置を走査方向において互いに異ならせている。このため、第1の活物質パターンと第2の活物質パターンとがそれぞれその始端部分において本来のパターン幅よりも広がった場合であっても、それぞれの始端位置が走査方向において同じであるケースに比べて両パターンが接触するおそれが少なくなっている。隣接する活物質パターン同士が単にその始端部分のみで接触しただけでは問題は少ないとも言えるが、現実問題としては、塗布液を吐出するノズルの基材に対する相対移動によってパターンを形成する場合、始端部分で隣接パターンが接触してしまうとそのまま両パターンが一体化したまま幅広のパターンが形成されてしまうことが多い。このため、活物質パターンの形状や表面積が所期のものとは異なってしまい、期待した電池性能が得られないこととなる。
【0009】
本発明では、隣接パターンの始端位置を走査方向に異ならせることでパターン間の接触の発生確率を低減させているので、パターン間の接触を回避しつつ、従来よりも狭い間隔で隣接させた複数のストライプ状パターンからなる活物質パターンを形成することが可能となっている。
【0010】
なお、この発明においては、互いに隣接する活物質パターン間の接触が防止されている。このため、隣接する活物質パターンは同種のものに限定されず、互いに組成の異なるものであってもよい。例えば正極電極用の活物質パターンと負極電極用の活物質パターンとを基材上に交互に配置するようにしてもよい。この意味において、本発明の第1塗布工程において使用される塗布液と第2塗布工程において使用される塗布液とは同一のものに限定されない。
【0011】
この発明においては、例えば、第1塗布工程では、互いに平行な複数の第1の活物質パターンを形成し、第2工程では、隣接する第1の活物質パターンの間に第2の活物質パターンを形成するようにしてもよい。こうすることで、互いに近接し、しかも互いに接触することのない多数の活物質パターンを形成することが可能であり、性能の良好な電池用電極を製造することが可能となる。
【0012】
この場合においては、例えば、第1塗布工程および第2塗布工程では、走査方向と直交する方向に配列された複数の吐出口を有する同一のノズルを用い、塗布開始時における基材表面に対するノズルの相対位置を、第1塗布工程とおよび第2塗布工程との間で走査方向およびこれに直交する方向に互いに異ならせるようにすることができる。このようにすると第1および第2の活物質パターンを形成するのにそれぞれ別々のノズルを用意する必要がない。また塗布開始時の基材表面に対するノズルの位置を第1塗布工程と第2塗布工程との間で異ならせることで、走査方向における始端位置が互いに異なり、かつ走査方向に直交する方向における互いに異なる位置に延びる複数のストライプ状パターンを簡単に形成することができる。
【0013】
あるいは例えば、塗布液を吐出して第1の活物質パターンを形成する第1の吐出口と、走査方向およびこれと直交する方向に第1の吐出口とは位置を異ならせた、塗布液を吐出して第2の活物質パターンを形成する第2の吐出口とを有するノズルを基材に対して相対移動させることで、第1塗布工程と第2塗布工程とを同時に実行するようにしてもよい。走査方向と直交する方向に位置を異ならせた吐出口をノズルに設けることで、ノズルの1回の走査移動で複数の活物質パターンを同時に形成することが可能である。このとき、隣接する吐出口間でその位置を走査方向に異ならせておけば、パターンの始端位置も隣接パターン間で異なったものとなり、本発明の目的が達成される。
【0014】
この場合、例えば、ノズルは第1の吐出口および第2の吐出口が走査方向と直交する方向にそれぞれ複数配列されたものであってもよい。こうすることで、ノズルの1回の走査移動でより多数のパターンを形成することが可能となり、パターン形成のスループットを向上させることができる。
【0015】
これらの発明において、例えば、第2の活物質パターンの始端位置を第1の活物質パターンの始端位置に対して走査方向の上流側とした場合には、第2の活物質パターンとなる塗布液は始端部分での広がりが収束して幅が安定した状態で先に形成された第1の活物質パターンの間を通って塗布されることとなるので、第2の活物質パターンとなる塗布液の広がりが形成済みの第1の活物質パターンとの接触につながるおそれが軽減される。
【0016】
また、例えば、第2の活物質パターンの始端位置を第1の活物質パターンの始端位置に対して走査方向の下流側とした場合には、第1の活物質パターンの始端部の広がりを避けた位置からノズルの走査移動を開始することができるため、ノズル先端が形成済みの第1の活物質パターンに接触してパターンが乱れるのを防止することができる。
【0017】
また例えば、第1の活物質パターンの始端位置と第2の活物質パターンの始端位置との走査方向における距離を、例えば走査方向と直交する方向における第1の活物質パターンと隣接する第2の活物質パターンとの配列ピッチ以上とするようにしてもよい。ここで、第1の活物質パターンと隣接する第2の活物質パターンとの配列ピッチについては、走査方向と直交する方向における第1および第2の活物質パターンの中心線間の距離として定義することができる。
【0018】
始端部におけるパターンの広がりは走査方向およびこれに直交する方向のいずれにも生じうるが、その広がりを両方向で同程度と仮定すると、広がったパターンの幅がパターンの配列ピッチ、すなわち本来のパターン幅とパターン間隔との合計を超えるようであれば、パターンの広がりが隣接するパターンを形成すべき位置まで及ぶこととなるため、そもそもそのようなピッチでパターンを配列することが困難である。
【0019】
逆にそのような問題が生じない配列ピッチが設定されていれば、その配列ピッチと同程度以上に走査方向における始端位置の差異を設ければ、隣接するパターンが接触することはほぼ確実に回避することができると言える。
【0020】
また、この発明にかかる第2の態様は、上記したいずれかの製造方法により、電極を製造する電極製造工程と、前記電極の前記活物質パターンを形成された面に、電解質材料を含む塗布液を塗布して前記活物質パターンを覆う電解質層を形成する電解質層形成工程とを備えることを特徴とする電池の製造方法である。
【0021】
このように構成された発明では、上記のように隣接パターンの接触がなく、しかもパターン間の間隔が小さいストライプ状の活物質パターンを有する電極に、他の機能層が塗布により積層されて電池が製造される。すなわち、この発明によれば、高密度のストライプ状パターンに形成された表面積の大きな活物質層を有する高性能の電池を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
この発明にかかる電池用電極および電池の製造方法によれば、互いに接触することなく、しかも近接して配置された複数のストライプ状活物質パターンを有する電池用電極を製造することが可能であり、これを用いる電池の容量や充放電特性等の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明を用いて製造される電池の構成例を示す図である。
【図2】この実施形態におけるモジュール製造方法を示すフローチャートである。
【図3】ノズルスキャン法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。
【図4】パターン間隔を小さくした場合に生じうる問題点を説明するための図である。
【図5】この実施形態における活物質パターンの例を示す図である。
【図6】本実施形態にかかるパターン形成の第1および第2の例を示す図である。
【図7】本実施形態にかかるパターン形成の第3の例を示す図である。
【図8】本実施形態にかかるパターン形成の第4の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1はこの発明を用いて製造される電池の構成例を示す図である。より詳しくは、図1(a)はこの発明にかかる電池の製造方法の一実施形態により製造されるリチウムイオン電池モジュールの断面の概略構造を示す図である。また図1(b)は、この発明にかかる電池用電極の製造方法の一実施形態によって製造されて図1(a)に示す電池モジュールに使用される電極の概略構造を示す図である。このリチウムイオン電池モジュール1は、負極集電体11の上に負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15を順番に積層した構造を有している。この明細書では、X、YおよびZ座標方向をそれぞれ図1(a)に示すように定義する。
【0025】
図1(b)は負極集電体11表面に負極活物質層12を形成してなる負極電極10の構造を示す斜視図である。図1(b)に示すように、負極活物質層12はY方向に沿って延びるストライプ状のパターン120がX方向に一定間隔を空けて多数並んだ、ラインアンドスペース構造となっている。一方、固体電解質層13は固体電解質によって形成された略一定の厚さを有する薄膜であり、上記のように負極集電体11の上に負極活物質層12が形成されてなる負極電極10表面の凹凸に追従するように、該電極10上面のほぼ全体を一様に覆っている。
【0026】
また、正極活物質層14は、その下面側は固体電解質層13上面の凹凸に沿った凹凸構造を有するが、その上面は略平坦となっている。そして、このように略平坦に形成された正極活物質層14の上面に正極集電体15が積層されて、リチウムイオン電池モジュール1が形成される。このリチウムイオン電池モジュール1に適宜タブ電極が設けられたり、複数のモジュールが積層されてリチウムイオン電池が構成される。
【0027】
ここで、各層を構成する材料としては、リチウムイオン電池の構成材料として公知のものを用いることが可能であり、負極集電体11、正極集電体15としては、例えば銅箔、アルミニウム箔をそれぞれ用いることができる。また、正極活物質としては例えばLiCoO2(LCO)を主体とするものを、負極活物質としては例えばLi4Ti512(LTO)を主体としたものを、それぞれ用いることができる。また、固体電解質層13としては、例えばポリエチレンオキサイドとポリスチレンとの混合物を用いることができる。なお、各機能層の材質についてはこれらに限定されるものではない。
【0028】
このような構造を有するリチウムイオン電池モジュール1は、薄型で折り曲げ容易である。また、負極活物質層12を図示したような凹凸を有する立体的構造として、その体積に対する表面積を大きくしているので、薄い固体電解質層13を介した正極活物質層14との対向表面積を大きく取ることができ、高効率・高出力が得られる。このように、上記構造を有するリチウムイオン電池は小型で高性能を得ることができるものである。
【0029】
図2はこの実施形態におけるモジュール製造方法を示すフローチャートである。この製造方法では、まず負極集電体11となる金属箔、例えば銅箔を準備する(ステップS101)。薄い銅箔を使用する場合はその搬送や取り扱いが難しいので、例えば片面をガラス板や樹脂シート等のキャリアに貼り付ける等により搬送性を高めておくことが好ましい。
【0030】
続いて、銅箔の一方面に、負極活物質を含む塗布液をノズルディスペンス法、中でも塗布液を吐出するノズルを塗布対象面に対し相対移動させるノズルスキャン法により塗布する(ステップS102)。塗布液としては、例えば、前記した負極活物質を含む有機系LTO材料(有機・無機複合材料)を用いることができる。塗布液には、負極活物質の他に、導電助剤としてのアセチレンブラックまたはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。なお、負極活物質材料としては上記したLTOの他に例えば黒鉛、金属リチウム、SnO2、合金系などを用いることが可能である。
【0031】
図3はノズルスキャン法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。より詳しくは、図3(a)はノズルスキャン法による塗布の様子を側面から見た図、図3(b)は同じ様子を斜め上方から見た図である。ノズルスキャン法によって塗布液を基材に塗布する技術は公知であり、本方法においてもそのような公知技術を適用することが可能であるので、装置構成については説明を省略する。
【0032】
ノズルスキャン法では、塗布液を吐出するための吐出口を1つまたは複数穿設されたノズル21を銅箔11の上方に配置し、吐出口から一定量の塗布液22を吐出させながら、ノズル21を銅箔11に対し相対的に矢印方向Dsに一定速度で走査移動させる。こうすることで、銅箔11上には塗布液22がY方向に沿ったストライプ状に塗布される。ノズル21に複数の吐出口を設ければ1回の走査移動で複数のストライプを形成することができ、必要に応じて走査移動を繰り返すことで、銅箔11の全面にストライプ状に塗布液を塗布することができる。これを乾燥硬化させることで、銅箔11の上面に負極活物質層12が形成される。また、塗布液に光硬化性樹脂を添加し塗布後に光照射して硬化させるようにしてもよい。
【0033】
この時点では、略平坦な銅箔11の表面に対して負極活物質層12を盛り上げた状態となっており、単に上面が平坦となるように塗布液を塗布する場合に比べて、活物質の使用量に対する表面積を大きくすることができるので、後に形成される正極活物質との対向面積を大きくして高出力を得ることができる。
【0034】
図2のフローチャートの説明を続ける。こうして形成された、銅箔11に負極活物質層12を積層してなる積層体(負極電極)10の上面に対し、適宜の塗布方法、例えばスピンコート法により電解質塗布液を塗布する(ステップS103)。電解質塗布液としては、前記した高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキサイド、ポリスチレンなどの樹脂、支持塩としての例えばLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。
【0035】
こうして形成された、銅箔11、負極活物質層12、固体電解質層13を積層してなる積層体に対して、適宜の方法、例えば公知のナイフコート法により正極活物質を含む正極活物質塗布液が塗布されて、正極活物質層14が形成される(ステップS104)。正極活物質を含む塗布液としては、例えば、前記した正極活物質と、導電助剤としての例えばアセチレンブラック、結着剤としてのSBR、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)および溶剤としての純水などを混合した水系LCO材料を用いることができる。正極活物質材料としては、上記したLCOの他、LiNiO2またはLiFePO4、LiMnPO4、LiMn24、またLiMeO2(Me=Mxyz;Me、Mは遷移金属、x+y+z=1)で代表的に示される化合物、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.8Co0.15Al0.052などを用いることができる。また、塗布方法としては、例えばナイフコート法、バーコート法やスピンコート法のように、平面上に平坦な膜を形成することが可能な公知の塗布方法を適宜採用することができる。
【0036】
このようにして正極活物質を含む塗布液を積層体に塗布することで、下面が固体電解質層13の凹凸に沿った凹凸を有する一方、上面が略平坦な正極活物質層14が形成される。こうして形成された正極活物質層14の上面に、正極集電体15となる金属箔、例えばアルミニウム箔を積層する(ステップS105)。このとき、先のステップS104で形成された正極活物質層14が硬化しないうちに、その上面に正極集電体15を重ねることが望ましい。こうすることで、正極活物質層14と正極集電体15とを互いに密着させて接合することができる。また正極活物質層14の上面は平らに均されているので、正極集電体15を隙間なく積層することが容易となっている。以上のようにして、図1(a)に示したリチウムイオン電池モジュール1を製造することができる。
【0037】
上記したリチウムイオン電池の製造方法は、基本的に前述の特許文献1(特開2011−070788号公報)のものと同じである。ただし、本実施形態においては、多数のストライプ状の活物質パターン120の間隔を従来よりも短くして活物質層12における活物質パターン120の高密度化を図るために、ステップS102での負極活物質層12の製造工程を以下のように構成している。
【0038】
図4はパターン間隔を小さくした場合に生じうる問題点を説明するための図である。ここでは基材110上に2本の活物質パターン121,122を形成する場合を例示するが、パターン本数がこれより多い場合も考え方は同じである。これら2つのパターン121.122を塗布により形成する場合、図4(a)に示すように、一定のパターン幅を有する2つのパターン121,122が一定の間隔D0をもって互いに平行に形成されることが望ましい。しかしながら、基材110に対して相対移動するノズル21から塗布液を吐出させて塗布液を基材110に塗布するノズルスキャン法においては、塗布開始時のノズル21開口での塗布液の滞留や走査移動との動作タイミングの関係で、図4(b)に示すように、パターン始端部Paの幅が本来よりも広がってしまうことがある。すなわち、パターン始端部における間隔D1は、本来の間隔D0よりも小さくなりやすい。
【0039】
ここで、パターン間隔をこれまでより小さくする場合を考えると、図4(c)に示すように、パターン始端部Paの広がりに起因して隣接するパターン121,122が接触してしまうことがある。パターン121,122はいずれもリチウムイオン電池の負極集電体上における負極活物質パターンであるから、これらが単に始端部Paのみで接触し電気的に短絡したとしても、電池の動作上は致命的な問題とはならない。例えば図4(c)にA−A’破線で示すように、パターン始端部分を基材110とともに切り落として電池として使用しないようにすれば特に支障は生じない。
【0040】
しかしながら、実際問題としては、塗布液の表面張力により、パターン始端部でいったん接触が生じるとそれらが再び分離するのは容易でない。そして、それぞれのパターンに対応する塗布液を吐出するノズルが走査移動するのに伴って、図4(d)に示すように、2本であるべき塗布液のストライプが一体となった状態のままパターン123が形成されてしまうことになる。このため、パターン幅や表面積等の形状が所望のものとは異なったものとなり、この電極を使用する電池の性能の変動を招く。
【0041】
図5はこの実施形態における活物質パターンの例を示す図である。上記のような問題に鑑み、本実施形態では、図5(a)に示すように、各パターンのY方向における始端位置を同じとせず、隣接するパターン間で始端位置をY方向に異ならせるようにしている。より具体的には、基材110上に形成される互いに平行な多数の活物質パターンP1,P2,P3,…,のうち、奇数番目のパターンP1,P3,P5,…,についてはY座標値Y1を始端位置として塗布を行う一方、偶数番目のパターンP2,P4,P6,…,については値Y1とは異なるY座標値Y2を始端位置として塗布を行う。こうすることにより、始端部でのパターンの広がりに起因する隣接パターン間の接触を回避することが可能となる。
【0042】
Y方向における始端位置を隣接パターン間でどの程度離せばよいかについて、図5(b)を参照しながら考察する。ここでは、ノズル21から基材110に着液した塗布液が基材110表面(X−Y平面)上で等方的に(上部から見て円形に)広がる場合を想定している。実際にはノズル21の移動方向(Y方向)に沿って塗布液が延ばされて始端部の膨らみはY方向に延びることが予想されるため、ここでの考察は、始端位置を最低限どれだけ離すべきかの指針を示すものである。また、各パターン始端部の広がり量は一定とし、その広がりの直径を符号Raにより表す。またX方向におけるパターンの配列ピッチ(パターン中心線間の距離)をLpとする。
【0043】
図5(b)は隣り合う2つのパターン間で始端部同士が接触するケースのうち、2つのパターンのY方向における始端位置が最も離れたものを示しており、2つのパターンのY方向における始端位置の差ΔY(=Y2−Y1)が同図に示される関係よりも大きければ、2つのパターンは接触しない。すなわち、図5(b)に示す関係から、
ΔY>SQR(Ra2−Lp2
であれば、隣接パターンの始端同士が接触することがない。上式において、関数SQR(x)はxの平方根を表すものとする。したがって、始端部における塗布液の広がりの程度と、パターンの配列ピッチが既知であれば、隣接パターンの始端位置の差は上式に基づいて設定することができる。
【0044】
なお、本願発明者らの知見によれば、塗布液の粘度やノズル21の開口径および走査速度などの塗布条件が適切に管理されていれば、塗布液の広がりによるパターン始端部の幅の増大量は最大でも20〜30%程度である。この点からより簡易的に、隣接パターンの始端位置の差ΔYをパターンの配列ピッチLpと同程度以上とするようにしてもよい。
【0045】
次に、上記したパターンをノズルスキャン法により形成するための具体的な方法について説明する。互いに平行な多数のパターンを、その始端部を上記したいわゆる千鳥配置としつつ形成するための方法としては、例えば以下のような手順のものが考えられる。
【0046】
図6は本実施形態にかかるパターン形成の第1および第2の例を示す図である。上記のような始端位置が千鳥配置となったパターンについては、例えば図3に示した塗布方法を応用したものが考えられる。すなわち、図3(b)に示すように、塗布液を吐出する吐出口をX方向に多数配列したノズル21を基材110の表面に対してY方向に走査移動させることで、互いに平行でY方向に沿って延びる複数のストライプ状パターン22を形成することが可能である(第1塗布工程)。そして、こうして複数のパターンを形成した後、基材110に対するノズル21のX方向位置を、既設パターンのX方向配列ピッチ、すなわちノズル21における吐出口の配列ピッチの1/2だけ移動させる。その後、再びY方向への走査移動を行うことにより、既設のパターンの間にそれぞれさらに1本ずつ新たなパターンを形成することができる(第2塗布工程)。これにより、従来の2倍の密度(すなわち1/2の配列ピッチ)でパターンを形成することが可能である。
【0047】
このとき、塗布開始時における基材110に対するノズル21のY方向位置を異ならせることにより、隣接パターン間でY方向におけるパターン始端位置が交互に異なる、千鳥配置のパターンを形成することができる。なお、前後の走査移動でそれぞれ形成されるパターンの間での位置関係には、次の2通りが考えられる。
【0048】
図6(a)に示す第1の例では、1回目の走査で基材110表面に形成された既設パターン221の始端位置よりもノズル21の走査移動方向Dsにおける上流側(図において左下)から、2回目のパターン222の塗布が開始される。この場合には、2回目の走査で塗布される塗布液は、1回目の走査で形成されたパターン始端部の間を通って下流側に向けて塗布される。このようにした場合、2回目の走査で塗布される塗布液は、既設パターンから離れた位置で広がった後、塗布幅の安定した状態で既設パターンの間に塗布されてゆくため、塗布液が広がることにより既設パターンと接触するのを確実に防止することができる。
【0049】
一方、図6(b)に示す第2の例では、1回目の走査で基材110に形成された既設パターン223の始端位置よりもノズル21の走査移動方向Dsにおける下流側から、2回目のパターン224の塗布が開始される。このようにした場合にも、塗布液が既設パターンと接触するのを防止することが可能であり、またノズル21の先端が既設パターンの始端部の間を通過するときに既設パターンと接触し損傷させることがない。
【0050】
図7は本実施形態にかかるパターン形成の第3の例を示す図である。図7(a)に示すように、ノズル26に設ける吐出口261,262を千鳥配置とすることにより、基材110に対するノズル26の1回の走査移動で、隣接パターン間で始端位置が千鳥配置となったパターンを形成することが可能である。具体的には、ノズル26の底面260に、X方向に等間隔に一列に配置された複数の第1の吐出口261からなる第1の吐出口列と、第1の吐出口列とはY方向に位置を異ならせて、しかもX方向における開口位置が吐出口261とは異なる複数の第2の吐出口262からなる第2の吐出口列とを設ける。
【0051】
このように配置された吐出口261,262からそれぞれ塗布液を吐出させながら、基材110に対してノズル26を走査方向Ds(Y方向)に走査移動させる。これにより、図7(b)に示すように、基材110上には、互いに平行でしかも隣接パターン間で始端位置がY方向に異なる複数のストライプ状パターン271,272が同時に形成される。より具体的には、第1の吐出口261から吐出される塗布液によってパターン271が、また第2の吐出口262から吐出される塗布液によってパターン272が、それぞれ形成される。つまり、この例では、本発明の「第1塗布工程」と「第2塗布工程」とが同時に実行されることとなる。このような塗布方法によっても、所期の構造を有する電極100を製造することが可能である。
【0052】
図8は本実施形態にかかるパターン形成の第4の例を示す図である。上記各例ではX方向に複数の吐出口を配列したノズルを用いて複数のパターンを同時に形成しているが、単一の吐出口を有するノズルを用いても、同様の構成を有する電極100を製造することが可能である。すなわち、図8(a)に示すように、単一の吐出口を有するノズル28を、基材110に対するX方向位置を一定の送りピッチで変更しながら、その都度Y方向への走査移動を行わせることで、互いに平行でY方向に延びる複数のパターン291を形成する(第1塗布工程)。
【0053】
その後、最初に形成したパターン2911と2番目に形成したパターン2912との間で、しかもこれらのパターンの始端位置とはY方向位置を異ならせた位置にノズル28を移動させ、上記と同じ送りピッチでノズル28の基材110に対するX方向位置を変更しながら、その都度ノズル28をY方向に走査移動させる(第2塗布工程)。こうすることによって、既設パターン291の間に新たなパターン292を形成することができる。先の例と同様、新たなパターン292の始端位置は既設パターン291の始端位置の走査移動方向Dsにおける上流側、下流側のいずれともすることができる。
【0054】
なお、これらの塗布例において、パターンの終端位置については特に限定されず、Y方向の同じ位置で終端させて構わない。塗布の終了位置においては開始位置と同様のパターンの顕著な広がりは見られず、また仮にパターンの広がりによる接触が生じたとしても接触はその位置のみに限定され、図4(d)に示すように隣接パターンが一体になってしまうことはないからである。
【0055】
以上のように、この実施形態では、基材上に活物質を含む塗布液を塗布して互いに平行な複数のストライプ状パターンを形成するのに際して、パターン始端部の広がりに起因するパターン間の接触を防止するため、隣接するパターンの間でパターン始端位置をパターン延設方向(ノズル走査移動方向)に異ならせるようにしている。こうすることで、パターン始端部で隣接するパターンに接触することに起因するパターン形状の乱れを防止して、従来よりも狭い間隔で活物質パターンを形成することができる。その結果、この実施形態では、容量および充放電特性の良好な電池を製造するための電池用電極を製造することが可能である。
【0056】
以上説明したように、この実施形態においては、図6(a)におけるパターン221、図6(b)におけるパターン223、図7(b)におけるパターン271、図8(a)におけるパターン291等が本発明の「第1の活物質パターン」に相当している。また、図6(a)におけるパターン222、図6(b)におけるパターン224、図7(b)におけるパターン272、図8(b)におけるパターン292等が本発明の「第2の活物質パターン」に相当している。
【0057】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態は、説明した方法により形成した負極電極10に固体電解質層、正極活物質層および正極集電体を順次積層することで全固体電池を製造する方法に本発明を適用したものであるが、このような固体電解質を用いるもののみならず、電解液による電解質層を有する電池を製造する技術およびそのための電極を製造する技術に対しても、本発明を適用することが可能である。
【0058】
また、上記実施形態では互いに隣接する活物質パターンを同組成のものとしているが、これに限定されない。立体構造を有する活物質パターンからなる電池としては上記以外に基材表面に沿って正負の活物質を交互に配列したものも提案されているが(例えば特開2006−147210号公報参照)、このような電池に用いられる電極を製造する際にも本発明を適用することが可能である。また、上記実施形態では負極電極を製造するのに本発明を適用しているが、正極電極の製造に際しても当然に本発明を適用することが可能である。
【0059】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されず、リチウムイオン電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン電池を製造する場合においても、本発明の製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン電池に限らず、他の材料を用いた化学電池の製造およびそれに用いられる電極の製造全般に対して、本発明を適用することが可能である。
【0060】
また上記説明では、発明の原理を理解しやすくするために基材に対してノズルを走査移動させる態様を例示しているが、基材とノズルとの相対移動は、ノズル、基材のいずれを移動させることによっても実現可能である。むしろ、ノズルに振動が加わることによる塗布の乱れを防止するという観点からは、ノズルを固定し基材を移動させる構成とするのが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、活物質を用いた電池用電極および該電極を用いた電池の製造技術に好適に適用することができ、特に基材上に複数のストライプ状の活物質パターンを高密度に形成して、容量および充放電特性の良好な電池を提供することを可能とするものである。
【符号の説明】
【0062】
10,100 電極(電池用電極)
11,110 基材
21,26,28 ノズル
221,223,271,291 活物質パターン(第1の活物質パターン)
222,224,272,292 活物質パターン(第2の活物質パターン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に互いに平行な複数のストライプ状の活物質パターンを配してなる電池用電極の製造方法において、
活物質の材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対的に所定の走査方向に走査移動させて、前記塗布液を前記基材表面にストライプ状に塗布して第1の活物質パターンを形成する第1塗布工程と、
活物質の材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対的に前記走査方向に走査移動させて、前記塗布液を前記基材表面にストライプ状に塗布して前記第1の活物質パターンと隣接する第2の活物質パターンを形成する第2塗布工程と
を備え、
前記第1の活物質パターンの始端位置と、前記第2の活物質パターンの始端位置とを、前記走査方向において互いに異ならせる
ことを特徴とする電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1塗布工程では、互いに平行な複数の前記第1の活物質パターンを形成し、
前記第2工程では、隣接する前記第1の活物質パターンの間に前記第2の活物質パターンを形成する請求項1に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1塗布工程および前記第2塗布工程では、前記走査方向と直交する方向に配列された複数の吐出口を有する同一の前記ノズルを用い、塗布開始時における前記基材表面に対する前記ノズルの相対位置を、前記第1塗布工程とおよび第2塗布工程との間で前記走査方向およびこれに直交する方向に互いに異ならせる請求項2に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記塗布液を吐出して前記第1の活物質パターンを形成する第1の吐出口と、前記走査方向およびこれと直交する方向に前記第1の吐出口とは位置を異ならせた、前記塗布液を吐出して前記第2の活物質パターンを形成する第2の吐出口とを有する前記ノズルを前記基材に対して相対移動させることで、前記第1塗布工程と前記第2塗布工程とを同時に実行する請求項1に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記ノズルは、前記第1の吐出口および前記第2の吐出口が、前記走査方向と直交する方向にそれぞれ複数配列されたものである請求項4に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記第2の活物質パターンの始端位置を、前記第1の活物質パターンの始端位置に対して前記走査方向の上流側とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記第2の活物質パターンの始端位置を、前記第1の活物質パターンの始端位置に対して前記走査方向の下流側とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記第1の活物質パターンの始端位置と前記第2の活物質パターンの始端位置との前記走査方向における距離を、前記走査方向と直交する方向における前記第1の活物質パターンと隣接する前記第2の活物質パターンとの配列ピッチ以上とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の電池用電極の製造方法により、電極を製造する電極製造工程と、
前記電極の前記活物質パターンを形成された面に、電解質材料を含む塗布液を塗布して前記活物質パターンを覆う電解質層を形成する電解質層形成工程と
を備えることを特徴とする電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−65532(P2013−65532A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204943(P2011−204943)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】