説明

電池用電極の製造方法

【課題】簡易な工程で、高アスペクト比の活物質層を形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を得るための技術を提供する。
【解決手段】第1活物質材料を線状に吐出する第1ノズルを集電体に対して相対移動させて、集電体上に複数本の第1線状部を形成する第1塗布工程と、第1線状部を乾燥させる第1乾燥工程と、第2活物質材料を線状に吐出する第2ノズルを集電体に対して相対移動させて、集電体上における第1線状部の間に、第2線状部を形成する第2塗布工程と、第1線状部及び第2線状部を乾燥させる第2乾燥工程と、を含み、関係式(1):H<H(式中、Hは第1線状部の高さであり、Hは第2線状部の高さ)を満たす電池用電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池等の電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極、負極、電解質及びセパレータ等で構成されているリチウムイオン二次電池は、軽量、大容量かつ高速充放電可能であるため、現在、ノートパソコンや携帯電話等のモバイル機器や自動車等の分野において広く普及しているが、更なる大容量化及び高速充放電のために、様々な研究がなされている。
【0003】
この大容量化及び高速充放電のためには、正極及び負極にそれぞれ含まれる正極活物質及び負極活物質と電解質との反応が律速となるところ、電解質のリチウムイオン伝導度が低いため、正極と負極との間隔をできるだけ狭く、かつ、正極及び負極の電極面積をできるだけ大きくすること、特に正極活物質及び負極活物質と電解質との接触面積を増大させることが重要である。
【0004】
この点に着目し、例えば、特許文献1(特開2011−70788号公報)においては、低コスト、高安全性、高エネルギー密度・高出力を実現する全固体電池構造を提供することを意図して、凹凸構造を有する活物質層を含む3次元構造の電極を有する全固体電池の製造方法が提案されている。
【0005】
即ち、上記特許文献1においては、基材の表面に第1の活物質を含む塗布液を塗布して所定の凹凸パターンを有する第1活物質層を形成する第1活物質層形成工程と、前記第1活物質層形成工程の後に、前記基材の表面に前記第1活物質層が積層されてなる積層体の表面に高分子電解質を含む塗布液を塗布して、該積層体表面の前記凹凸パターンに略追従した凹凸を有する電解質層を形成する電解質層形成工程と、電解質層形成工程の後に、前記電解質層の表面に第2の活物質を含む塗布液を塗布して、前記電解質層と接する面と反対側の面が略平坦な第2活物質層を形成する第2活物質層形成工程とを備えることを特徴とする全固体電池の製造方法が提案されている(特許文献1、請求項1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−70788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1において提案されている技術において、3次元構造の電極の容量を増大させるためには、凹凸パターンを有する第1活物質層を形成する際に、高アスペクト比のパターンを有する活物質層を形成し、パターン間のスペースを狭める必要がある。
【0008】
これを実現するため、スラリー状の活物質材料を高固形分化することが考えられるが、生産性に劣ることになる。また、固形分の比較的少ない通常のスラリー状の活物質材料を用いても、隣接するパターンの凸部を形成するために射出等された活物質材料が液にじみを起こしてしまったり、隣接するパターンの凸部同士が接触したりしてしまい、結果として、高アスペクト比のパターンを有する活物質層が得られない。
【0009】
以上の問題点に鑑み、本発明の目的は、簡易な工程で、高アスペクト比の活物質層を形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を得るための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、
第1活物質材料を線状に吐出する第1ノズルを集電体に対して相対移動させて、前記集電体上に複数本の第1線状部を形成する第1塗布工程と、
前記第1線状部を乾燥させる第1乾燥工程と、
第2活物質材料を線状に吐出する第2ノズルを前記集電体に対して相対移動させて、前記集電体上における前記第1線状部の間に、第2線状部を形成する第2塗布工程と、
前記第1線状部及び前記第2線状部を乾燥させる第2乾燥工程と、
を含み、
関係式(1): H<H
(式中、Hは前記第1線状部の高さであり、Hは前記第2線状部の高さである。)
を満たすこと、
を特徴とする電池用電極の製造方法を提供する。
【0011】
このような構成を本発明の電池用電極の製造方法によれば、第1活物質材料で形成した複数本の第1線状部の間に、第1線状部よりも高い第2線状部を第2活物質材料で形成するため、第1線状部が第2活物質材料の一部を吸収することによりその液にじみを防止することから、活物質パターンの形状や寸法を損なうことなく高アスペクト比の活物質層を確実に形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を確実に得ることができる。また、第1線状部は第2線状部よりも低くその電気的抵抗も低いことから、例えば、第2線状部よりも導電助剤の割合を減少させて活物質の割合を増大させることができ、これによって充放電特性を維持しつつ容量を増大させることができる。
【0012】
上記本発明の電池用電極の製造方法においては、
前記第1活物質材料と前記第2活物質材料とが同じであること、が好ましい。
【0013】
本発明においては、前記第1活物質材料と前記第2活物質材料とが同じ組成であっても異なる組成であっても構わず、所望する電池の容量や充放電特性に応じて適宜選択することができるが、このような構成によれば、単一の活物質材料を用いて第1線状部及び第2線状部を形成することができ、より簡易な工程で充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を確実に得ることができる。
【0014】
また、上記本発明の電池用電極の製造方法においては、
関係式(2): W≦W
(式中、Wは前記第1線状部の幅であり、Wは前記第2線状部の幅である。)
を満たすこと、
が好ましい。
【0015】
このような構成によれば、第1線状部が第2線状部よりも微細で、第2線状部に用いる第2活物質材料の塗布量が増大して、第2線状部の表面積も増大するため、活物質パターンの形状や寸法を損なうことなく高アスペクト比の活物質層をより確実に形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極をより確実に得ることができる。
【0016】
また、上記本発明の電池用電極の製造方法においては、
が100μm未満でHが200μm未満であること、
が好ましい。
【0017】
このような構成によれば、第1線状部及び第2線状部の抵抗が上がり過ぎることがなく、充放電容量を悪化させにくいというメリットがある。
【0018】
また、上記本発明の電池用電極の製造方法においては、
が100μm未満でWが200μm未満であること、
が好ましい。
【0019】
このような構成によれば、第1線状部及び第2線状部の幅に対してこれらの高さを確保して、高アスペクト比をより確実に実現することができるというメリットがある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡易な工程で、高アスペクト比で厚膜の活物質層を形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を得るための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態において製造されるリチウムイオン二次電池の概略縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態において負極集電体10の表面に第1負極活物質材料からなる複数本の第1線状部12aを形成した構造体(負極)20の概略縦断面図である。
【図3】図2に示す構造体20の負極集電体10の表面上において、複数本の第1線状部12aの間に第2線状部12bを形成した時点で得られる構造体(即ち、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された負極活物質からなる第1線状部12a及び第2線状部12bと、を含む構造体)22の概略縦断面図である。
【図4】本発明の一実施形態においてノズルディスペンス法により第1線状部12aを形成する様子を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態において第2線状部12bを形成する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の電池用電極の製造方法の実施形態について説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0023】
本実施形態では、図1に示す構造のリチウムイオン二次電池を製造する場合について本発明を説明する。図1は、本実施形態において製造されるリチウムイオン二次電池1の概略縦断面図である。また、図2は、負極集電体10の表面上に第1負極活物質材料からなる第1線状部12aを形成した時点で得られる構造体(即ち、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された負極活物質からなる第1線状部12aと、を含む構造体)20の概略縦断面図である。
【0024】
更に、図3は、図2に示す構造体の負極集電体10の表面上において、複数本の第1線状部12aの間に第2線状部12bを形成した時点で得られる構造体(即ち、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された負極活物質からなる第1線状部12a及び第2線状部12bと、を含む構造体)22の概略縦断面図である。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、図1に示すように、負極集電体10の上に負極活物質からなる第1線状部12a及び第2線状部12b(負極活物質層12)と、セパレータ20を含む電解質液層14と、正極集電体18の上に正極活物質からなる第1線状部16a及び第2線状部16b(正極活物質層16)と、を積層した構造を有している。負極集電体10と負極活物質層12とが負極を構成し、正極活物質層16と正極集電体18とが正極を構成する。本明細書においては、X、Y及びZ座標方向を図1及び図2に示すように定義する。
【0026】
負極集電体10としては、本発明の属する技術分野において公知の材料を用いることができるが、例えばアルミニウム箔等の金属膜であればよい。また、図示しないが、この負極集電体10は、絶縁性の基材の表面に形成されていてもよい。かかる基材としては絶縁性材料で形成された平板状部材を用いればよく、かかる絶縁性材料としては、例えば樹脂、ガラス又はセラミックス等が挙げられる。また、基材は可撓性を有するフレキシブル基板であってもよい。
【0027】
負極活物質層12は、図1〜図3に示すように、負極集電体10上においてY方向に沿って延びるように間隔をおいて形成された複数本の第1線状部12aと、第1線状部12aの間において、Y方向に沿って延びるように形成された複数本の第2線状部12bと、で構成されている。そして、図2及び図3に示すように、第1線状部12aの高さH及び第2線状部12bの高さHが、
関係式(1): H<H
を満たしている。
【0028】
このように、第1線状部12aよりも第2線状部12bが高いため、高アスペクト比の負極活物質層12を確実に形成することができ、充放電容量に優れるリチウムイオン二次電池等の電池を実現するための電池用電極を確実に得ることができる。
【0029】
また、第1線状部12aの高さHが100μm未満で、第2線状部12bの高さHが200μm未満であること、が好ましい。このような構成によれば、第1線状部12a及び第2線状部12bの抵抗が上がり過ぎることがなく、充放電容量を悪化させにくいというメリットがある。
【0030】
また、第1線状部12aの幅Wが100μm未満で、第2線状部12bの幅Wが500μm未満であること、が好ましい。このような構成によれば、第1線状部12a及び第2線状部12bの幅に対してこれらの高さを確保して、高アスペクト比をより確実に実現することができるというメリットがある。
【0031】
負極活物質層12に含まれる負極活物質としては、本願発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物、各種合金材料等が挙げられる。これらのなかでも、容量密度の大きさ等を考慮すると、酸化物、炭素材料、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物等が好ましい。酸化物としては、例えば、式:Li4/3Ti5/3−xFe(0≦x≦0.2)で表されるチタン酸リチウム等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛(グラファイト)、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素等が挙げられる。珪素化合物としては、例えば、珪素含有合金、珪素含有無機化合物、珪素含有有機化合物、固溶体等が挙げられる。珪素化合物の具体例としては、例えば、SiO(0.05<a<1.95)で表される酸化珪素、珪素とFe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiから選ばれる少なくとも1種の元素とを含む合金、珪素、酸化珪素又は合金に含まれる珪素の一部がB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素で置換された珪素化合物又は珪素含有合金、これらの固溶体等が挙げられる。錫化合物としては、例えば、SnO(0<b<2)、SnO、SnSiO、NiSn、MgSn等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、負極活物質層12は、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が挙げられる。導電剤は1種を単独で使用でき又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
特に、上述したように、第1線状部12aは第2線状部12bよりも低くその電気的抵抗も低いことから、例えば、第2線状部12bよりも導電助剤の割合を減少させて活物質の割合を増大させることができ、これによって充放電特性を維持しつつ容量を増大させた負極活物質層12とすることができる。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、負極集電体10と負極活物質層12とで構成される負極に対向して、正極活物質層16と正極集電体18とで構成される正極が積層され、負極と正極との間に電解液層14を有する構成を有している。したがって、図示していないが、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、上記正極と上記負極との間に気密性のある空間を有し、当該空間に電解液が充填された構成を有している。
【0035】
すなわち、負極活物質層12と正極活物質層16との間には、図1に示すように、セパレータ20を含む電解液層14が設けられている。
【0036】
セパレータ20としては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独又は併用することができる。セパレータ20を構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0037】
また、セパレータ20には、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。
【0038】
電解液層14には、リチウム塩と有機溶媒とを含む従来公知の電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)及びリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)等が挙げられる。また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート等が挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0039】
正極集電体18上には、負極集電体10上の負極活物質層12と同様にして、正極活物質材料からなる第1線状部16a及び第2線状部16bとで構成された正極活物質層16が設けられている。
【0040】
正極集電体18としては、本発明の属する技術分野において公知の材料を用いることができるが、例えば銅箔等の金属膜であればよい。
【0041】
正極活物質層16が含む正極活物質(粉末)としては、例えば、リチウム含有複合金属酸化物、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、B等が挙げられ、Mn、Al、Co、Ni、Mg等が好ましい。異種元素は1種でも又は2種以上でもよい。これらのなかでも、リチウム含有複合金属酸化物を好ましく使用できる。リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−y、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−y、LiMPO、LiMPOF(前記各式中、例えば、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種。0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)、LiMeO(式中、Me=MxMyMz;Me及びMは遷移金属、x+y+z=1)等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物の具体例としては、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が挙げられる。ここで、上記各式中リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。また、カルコゲン化合物としては、例えば二硫化チタン、二硫化モリブデン等が挙げられる。正極活物質は1種を単独で使用でき2種以上を併用してもよい。正極活物質層16には、負極活物質層12に関して上記に記載した導電助剤を含めてもよい。
【0042】
上記のように、負極集電体10、負極活物質層12、電解液層14、正極活物質層16及び正極集電体18によって、本実施形態のリチウムイオン二次電池1が形成されている。なお、図示しないが、負極集電体10及び正極集電体18のうちの、電解液層14に対向しない側の面には、絶縁性の基材が積層された構成を有していてもよい。かかる基材としては絶縁性材料で形成された平板状部材を用いればよく、かかる絶縁性材料としては、例えば樹脂、ガラス又はセラミックス等が挙げられる。また、基材は可撓性を有するフレキシブル基板であってもよい。
【0043】
なお、このリチウムイオン電池二次電池1には、図示しないが、適宜タブ電極が設けられていてもよく、また、複数のリチウムイオン電池二次電池1を直列及び/又は並列に接続してリチウムイオン二次電池装置としてもよい。
【0044】
このような構造を有する本実施形態のリチウムイオン二次電池は、薄型で折り曲げ容易である。また、負極活物質層12及び正極活物質層16を図示したような凹凸を有する立体的構造として、その体積に対する表面積を大きくしているので、負極活物質層12及び正極活物質層16それぞれと電解質液層14との接触面積を大きく確保でき、高効率・高出力が得られる。このように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は小型で高性能である。
【0045】
次に、上記した本実施形態における電極及びリチウムイオン二次電池1を製造する方法について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池1を製造する際には、負極集電体10に負極活物質層12を形成して負極を製造し、正極集電体18に正極活物質層16を形成して正極を製造し、上記負極と上記正極とを、負極活物質層12と正極活物質層16とを気密性のある空間にセパレータ20を介して対向させた状態で積層し、セパレータ20及び当該空間に電解液を充填して電解液層14を形成する。本実施形態においては、負極活物質層12及び正極活物質層16の製造方法に特徴がある。
【0046】
本実施形態における負極活物質層12の製造方法について説明する。本実施形態の負極活物質12は、以下の工程(ア)〜(エ)を有する本発明の電池用電極の製造方法により製造する。
【0047】
(ア)第1負極活物質材料を線状に吐出する第1ノズルを負極集電体10に対して相対移動させ、負極集電体10上に第1負極活物質材料からなる複数本の第1線状部12aを形成する第1塗布工程、
(イ)第1線状部12aを乾燥させる第1乾燥工程、
(ウ)第2負極活物質材料を線状に吐出する第2ノズルを負極集電体10に対して相対移動させて、負極集電体10上における第1線状部12aの間に、第2負極活物質材料からなる第2線状部12bを形成する第2塗布工程、
(エ)第1線状部12a及び第2線状部12bを乾燥させる第2乾燥工程。
【0048】
(ア)第1塗布工程
まず、図4に示すように、負極集電体10が、例えば搬送ローラ(図示せず。)によって矢印Yの方向に搬送されることにより、第1ノズル40を負極集電体10に対して相対移動させる(したがって、これらローラは走査手段ともいえる。)。
【0049】
搬送される負極集電体10の表面には、第1ノズル40から、ペースト状の第1負極活物質材料が第1線状部12aを形成するように吐出される。本実施形態においては、第1ノズル40の位置は固定されており、負極集電体10が搬送されることにより、第1ノズル40が負極集電体10に対して相対移動される。
【0050】
ペースト状の第1負極活物質材料は、上記負極活物質と、上記導電助剤と、結着材と、溶剤等と、を常法により攪拌・混合(混練)して得られる混合物で構成され、第1ノズル40から吐出できるように種々の粘度を有することができるが、本実施形態においては、例えば、せん断速度1s−1で、下限10Pa・s、上限10000Pa・s程度であるのが好ましい。なお、各成分は溶剤に溶解していても分散していてもよい(一部が溶解して残部が分散している場合も含む。)。
【0051】
また、第1塗布工程に用いる第1負極活物質材料の固形分割合は、第1負極活物質材料が第1ノズル40から吐出できるように種々の固形分割合を有することができるが、前記混合物の湿潤点における固形分割合よりも小さな固形分割合を有しており、例えば60質量%であるのが好ましい。
【0052】
これらの粘度及び固形分割合は、負極活物質、導電助剤、結着材及び溶剤等の成分の種類や配合量、寸法又は形状等によっても異なるが、上記負極活物質と、上記導電助剤と、結着材と、溶剤等と、を常法により攪拌・混合(混練)する際の混練時間の長さによって、調整することができる。
【0053】
結着剤としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルホン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンジエン共重合体、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン等から選ばれるモノマー化合物の共重合体を結着剤として用いてもよい。結着剤は1種を単独で使用でき又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0054】
溶剤としては、固体電解質層14を構成する六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等を分解しないように、水を除く有機溶媒を用いるのが好ましい。かかる有機溶媒としては、本発明の技術分野で常用されるものを使用でき、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。有機溶媒は1種を単独で使用でき又は2種以上を混合して使用できる。
【0055】
ここで、図4の(a)は、負極活物質層12を構成する第1線状部12aが形成される様子を模式的に示す側面図(即ち、搬送される負極集電体10の主面に対して略平行な方向からみた場合にみえる図)であり、図4の(b)は、負極活物質層12を構成する第1線状部12aが形成される様子を模式的に示す斜視図である。
【0056】
このノズルディスペンス法では、塗布液である負極活物質材料を吐出するための吐出口が複数設けられた第1ノズル40を、負極集電体10上方に配置し、その吐出口から一定量の負極活物質材料を吐出させながら、負極集電体10を第1ノズル40に対して相対的に矢印Yの方向に一定速度で搬送させる。こうすることで、負極集電体10上には、Y方向に沿って第1負極活物質材料からなる複数本の第1線状部12aが形成されてストライプ状のパターンとなるように塗布される。
【0057】
第1ノズル40に複数の吐出口を設ければ複数本の第1線状部12aが形成されてストライプ状とすることができ、負極集電体10の搬送を続けることにより、負極集電体10の全面にストライプ状に第1線状部12aを形成することができる。
【0058】
(イ)第1乾燥工程
上記のように形成された第1負極活物質材料からなる複数本の第1線状部12aは、まだ溶剤等を含むいわば塗布膜の状態であるため、第1線状部12aが設けられた負極集電体10は、乾燥手段である送風機等の下側領域を通り抜けるように搬送され、ドライエアーによって第1乾燥工程が実施される。これにより、図2に示す構造体(即ち、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された第1負極活物質材料からなる第1線状部12aと、を含む構造体)20が得られる。
【0059】
第1乾燥工程の乾燥温度は、第1線状部12aを乾燥させてその形状を仮固定させ得る範囲であればよく、例えば5℃〜150℃の範囲内、好ましくは常温(23℃)〜80℃の範囲内の温度であればよい。また、第1乾燥工程の乾燥時間は、負極集電体10の搬送速度によって制御することもできる。
【0060】
(ウ)第2塗布工程
次に、第2負極活物質材料を線状に吐出する第2ノズルを負極集電体10に対して相対移動させて、負極集電体10上における第1線状部12aの間に、第2負極活物質材料からなる第2線状部12bを形成する。
【0061】
第2塗布工程においては、図4に示す第1塗布工程と同様にして、第1線状部12aを有する負極集電体10を第1ノズル40に対して相対移動させ、第1線状部12aの間に第2負極活物質材料からなる第2線状部12bを形成する。
【0062】
本実施形態においては、第2負極活物質材料として、第1負極活物質材料と同じものを用い、第2ノズル42として、上記の第1ノズル40よりもX方向における開口(吐出口)の幅が大きいものを用い、それぞれ第1ノズル42と第1ノズル40の負極集電体10及び正極集電体18に対する相対移動速度は同じとする。
【0063】
これにより、図3に示す構造体(即ち、負極集電体10と、負極集電体10の表面に形成された第1負極活物質材料からなる第1線状部12a及び第2線状部12bと、を含む構造体)22が得られ、上記関係式(1):H<H(式中、Hは第1線状部12aの高さであり、Hは第2線状部12bの高さである。)を満たすことができる。
【0064】
上記関係式(2):W≦W(式中、Wは第1線状部12aの幅であり、Wは第2線状部12bの幅である。)を満たす場合には、上記の相対移動速度を制御すればよい。W=Wを満たす場合には、第1ノズル40と第2ノズル42は同じであってよい。
【0065】
また、本実施形態においては、第1ノズル40を第2ノズルとしても用いる場合について説明したが、第1ノズルと同じ第2ノズルを用いてもよい。この場合、上記関係式(1)、更には上記関係式(2)を満たす第1線状部及び第2線状部を形成するには、第1ノズル及び第2ノズルそれぞれの吐出口の形状及び/又は寸法を変更してもよい。
【0066】
(エ)第2乾燥工程
第2塗布工程の後、負極集電体10の表面に形成された負極活物質材料からなる第1線状部12a及び第2線状部12bと、を含む構造体)22を、第2乾燥工程に供する。
【0067】
この第2乾燥工程においては、上記第1乾燥工程で乾燥した第1線状部12aも、第2線状部12bとともに、固形分割合が略100質量%になるまで溶剤を気化させて完全に乾燥させる。そのため、上記の構造体22を、加熱乾燥炉内に搬入し、第1乾燥工程における乾燥温度を超える温度で第2の乾燥工程を行う。
【0068】
正極集電体18上への正極活物質層16の形成も、負極集電体10上への負極活物質層12の形成と同様にして、実施する。上記のようにして得られた負極と正極とを、負極活物質層12と正極活物質層16とを気密性のある空間にセパレータ20を介して対向させた状態で積層し、セパレータ20及び当該空間に電解液を充填して電解液層14を形成する。このようにして、本実施形態のリチウムイオン二次電池1を作成する。
【0069】
≪変形態様≫
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、先に第1線状部12a及び第2線状部12bからなる負極活物質層12、並びに第1線状部16a及び第2線状部16bを正極活物質層16の両方の電極の形成において、本発明の電池電極の製造方法を用いた場合について説明したが、負極活物質層又は正極活物質層のいずれかのみを第1線状部及び第2線状部で形成する本発明の電池電極の製造方法を用いてもよい。
【0070】
第1活物質材料と第2活物質材料として異なる組成のものを用いてもよい。また、第1活物質材料及び第2活物質材料を同じノズルを用いて吐出してもよい。この場合、集電体に対するノズルの相対移動速度や第1活物質材料又は第2活物質材料の吐出量を調整して、第1線状部及び第2線状部の高さ及び/又は幅を調整することは、当業者が適宜行えばよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、本発明の電極製造方法において、第1塗布工程の後の第1乾燥工程を送風機により実施する場合について説明したが、送風機を用いずに自然乾燥させてもよく、また、真空乾燥を行ってもよい。
【0072】
例えば、上記実施形態においては、図1に示すように、負極活物質層12を構成する第1線状部12aと第2線状部12bとが接触している態様(及び正極活物質層16を構成する第1線状部16aと第2線状部16bとが接触している態様)について説明したが、第1線状部12aと第2線状部12bとの間、及び、第1線状部16aと第2線状部16bとの間に、隙間があってもよい。この場合、当該隙間に、電解質液層14が入り込むことになる。
【0073】
なお、上記実施形態では、凹凸パターンを形成する必要のある負極活物質層12及び正極活物質層16の形成にはノズルディスペンス法による塗布を適用しているので、種々のパターンを短時間で形成することができる。また、微細パターンの作成にもノズルディスペンス法を好適に適用することが可能である。この製造方法では、微細パターンを作成する必要があるのは最初の塗布工程、つまり活物質塗布液の塗布工程のみであり、以後の塗布工程では一様に塗布を行うことができれば足り微細パターンの作製を要しない。
【0074】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、各工程において適用する塗布方法は上記に限定されるものではなく、当該工程の目的に適うものであれば他の塗布方法を適用してもよい。例えば、上記した実施形態では、電解質液層14を固体電解質層としてもよい。その場合、スピンコート法やスプレーコート法によって固体電解質材料を塗布して固体電解質層を形成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1、201・・・リチウムイオン二次電池、
10・・・負極集電体、
12・・・負極活物質層、
12a・・・第1線状部、
12b・・・第2線状部、
14・・・電解液層、
16・・・正極活物質層、
16a・・・第1線状部、
16b・・・第2線状部、
18・・・正極集電体、
20・・・構造体、
22・・・構造体(負極)。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1活物質材料を線状に吐出する第1ノズルを集電体に対して相対移動させて、前記集電体上に複数本の第1線状部を形成する第1塗布工程と、
前記第1線状部を乾燥させる第1乾燥工程と、
第2活物質材料を線状に吐出する第2ノズルを前記集電体に対して相対移動させて、前記集電体上における前記第1線状部の間に、第2線状部を形成する第2塗布工程と、
前記第1線状部及び前記第2線状部を乾燥させる第2乾燥工程と、
を含み、
関係式(1): H<H
(式中、Hは前記第1線状部の高さであり、Hは前記第2線状部の高さである。)
を満たすこと、
を特徴とする電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1活物質材料と前記第2活物質材料とが同じであること、
を特徴とする請求項1に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項3】
関係式(2): W≦W
(式中、Wは前記第1線状部の幅であり、Wは前記第2線状部の幅である。)
を満たすこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の電池用電極の製造方法。
【請求項4】
が100μm未満でHが200μm未満であること、
を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載の電池用電極の製造方法。
【請求項5】
が100μm未満でWが200μm未満であること、
を特徴とする請求項3又は4に記載の電池用電極の製造方法。






【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−45598(P2013−45598A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182063(P2011−182063)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】