説明

電池用非水電解液及びそれを備えた非水電解液電池

【課題】高い酸素濃度条件下でも不燃性を示す電池用非水電解液を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):


[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアリールオキシ基を表し、R2は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し;nは1〜4を表し、mは0〜3を表し、但し、nとmとの合計は3又は4である]で表される環状ホスファザン化合物を含む非水溶媒と、支持塩とを含むことを特徴とする電池用非水電解液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用非水電解液及びそれを備えた非水電解液電池に関し、特に高い不燃特性を有する電池用非水電解液及び安定した電池特性を有する非水電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液は、リチウム電池やリチウムイオン2次電池、電気二重層キャパシタ等の電解質として使用されており、これらデバイスは、高電圧、高エネルギー密度を有することから、パソコン及び携帯電話等の駆動電源として広く用いられている。そして、これら非水電解液としては、一般にエステル化合物及びエーテル化合物等の非プロトン性有機溶媒に、LiPF6等の支持塩を溶解させたものが用いられている。しかしながら、非プロトン性有機溶媒は、可燃性であるため、上記デバイスから漏液した際に引火・燃焼する可能性があり、安全面での問題を有している。
【0003】
この問題に対して、非水電解液を難燃化する方法が検討されており、例えば、非水電解液にリン酸トリメチル等のリン酸エステル類を用いたり、非プロトン性有機溶媒にリン酸エステル類を添加したりする方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらリン酸エステル類は、充放電を繰り返すことで、徐々に負極で還元分解され、充放電効率及びサイクル特性等の電池特性が大きく劣化するという問題がある。
【0004】
この問題に対して、非水電解液にリン酸エステルの分解を抑制する化合物を更に添加したり、リン酸エステルそのものの分子構造を工夫する等の方法も試みられている(特許文献4〜6参照)。しかしながら、この場合も、添加量に制限があり、また、リン酸エステル自体の難燃性の低下等の理由から、電解液が自己消火性になる程度で、電解液の安全性を十分に確保することができない。
【0005】
また、特開平6−13108号公報(特許文献7)には、非水電解液に難燃性を付与するために、非水電解液にホスファゼン化合物を添加する方法が開示されている。該ホスファゼン化合物は、その種類によっては高い不燃性を示し、非水電解液への添加量を増量するに従い、非水電解液の難燃性が向上する傾向がある。しかしながら、高い不燃性を示すホスファゼン化合物は、概して支持塩の溶解性や誘電率が低いため、添加量を多くすると、支持塩の析出や導電性の低下を招き、電池の放電容量が低下したり、充放電特性に支障をきたすことがある。そのため、高い不燃性を示すホスファゼン化合物を添加する場合、添加量が制限されるという問題がある。
【0006】
一方、近年、電気自動車や燃料電池自動車の主電源若しくは補助電源として使用するために、電池の大型化や、更なる高エネルギー密度化が進められており、従来よりも高い安全性が電池に求められている。これに対し、従来の非水電解液電池においては、過充電、外部ショート等の異常時に、大電流が急激に流れ、電池が異常に発熱した際に、正極に用いられている金属酸化物が分解して、多量の酸素ガスが発生する。これにより、電池内は、大気中よりもかなり高い酸素濃度状態となり、極めて発火・引火し易い状態にさらされる。
【0007】
このような状況で発生したガス及び熱により、電池が破裂・発火したり、短絡時に生じる火花が引火した場合、その被害は、極めて大きくなることが考えられる。このような理由から、非水電解液としては、通常の大気中で不燃性であることはもとより、より高い酸素濃度条件下でも不燃性であることが望ましい。そして、このような不燃性の高い非水電解液を用いることで、電池の発火・引火の危険性が大幅に低減され、電池の安全性が飛躍的に向上するものと考えられる。しかしながら、前述のリン酸エステルやホスファゼン化合物を添加する従来の方法では、難燃性の向上に限界があった。
【0008】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開平8−22839号公報
【特許文献3】特開2000−182669号公報
【特許文献4】特開平11−67267号公報
【特許文献5】特開平10−189040号公報
【特許文献6】特開2003−109659号公報
【特許文献7】特開平6−13108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高い酸素濃度条件下でも不燃性を示す電池用非水電解液と、該電池用非水電解液を備え、安定した充放電性能と高い安全性を有する非水電解液電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、非水電解液に特定の環状ホスファザン化合物を用いることにより、非水電解液の不燃性を大幅に向上させることが可能であり、また、該電解液を用いた非水電解液電池が安定した電池性能を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の電池用非水電解液は、下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアリールオキシ基を表し、R2は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し;nは1〜4を表し、mは0〜3を表し、但し、nとmとの合計は3又は4である]で表される環状ホスファザン化合物を含む非水溶媒と、支持塩とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の電池用非水電解液において、前記環状ホスファザン化合物としては、前記一般式(I)において、R1のうち少なくとも3つがフッ素である化合物、R2がアルキル基又はアリール基である化合物、並びにnとmとの合計が3である化合物が好ましい。
【0013】
本発明の電池用非水電解液の好適例においては、前記非水溶媒が、更に非プロトン性有機溶媒を含む。
【0014】
本発明の電池用非水電解液は、前記非水溶媒における前記一般式(I)で表される環状ホスファザン化合物の含有量が20〜70体積%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の非水電解液電池は、上記電池用非水電解液と、正極と、負極とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の環状ホスファザン化合物を含む非水溶媒を用いることにより、極めて高い不燃性を有し、非水電解液電池に使用した際に電池特性を十分に維持することが可能な非水電解液を提供することができる。また、該非水電解液を備え、高い安全性と安定した電池特性を両立した非水電解液電池を提供することができる。
【0017】
本発明の電池用非水電解液においては、環状ホスファザン化合物の反応、熱分解により生じる高不燃性ガス成分が、高い難燃性を発現するものと考えられる。また、理由は必ずしも明らかではないが、本発明の電池用非水電解液に用いる環状ホスファザン化合物は、式(I)中のホスファザン構造に特有のリンと酸素の二重結合部位が極性を有するため、環状ホスファゼン化合物には無い高い支持塩溶解性や一般的な非水溶媒との高い相溶性を示すものと考えられる。更に、本発明の電池用非水電解液に用いる環状ホスファザン化合物は、ホスファザン構造と環状構造との相乗効果により、リン酸トリエステル等の化合物には無い高い耐還元性を有するため、多量に用いても安定した電池性能を発現できるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<電池用非水電解液>
以下に、本発明の電池用非水電解液を詳細に説明する。本発明に係る電池用非水電解液は、上記一般式(I)で表される環状ホスファザン化合物を含む非水溶媒と、支持塩とを含むことを特徴とし、更に、非水溶媒として、非プロトン性有機溶媒を含有してもよい。
【0019】
本発明の電池用非水電解液に含まれる環状ホスファザン化合物は、上記一般式(I)で表される。式(I)中のR1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアリールオキシ基を表し、R2は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表す。
【0020】
式(I)のR1におけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、アルケニルオキシ基としては、アリルオキシ基、メタリルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、キシレノキシ基(即ち、キシリルオキシ基)、メトキシフェノキシ基等が挙げられる。上記アルコキシ基、アルケニルオキシ基及びアリールオキシ基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていてもよく、フッ素で置換されていることが好ましい。また、式(I)中のR1は他のR1と連結していてもよく、この場合、2つのR1は、互いに結合して、アルキレンジオキシ基、アリーレンジオキシ基、オキシアルキレンアリーレンオキシ基等の二価の基を形成し、かかる二価の基として、具体的には、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、フェニレンジオキシ基等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(I)中のR1は、同一でも異なってもよい。また、式(I)のR1は、不燃性及び低粘性の両立の点で、R1のうち3つ以上がフッ素であることが好ましい。
【0022】
式(I)のR2におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、アルケニル基としては、アリル基、メタリル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェノキシ基等が挙げられる。上記アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアリール基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていてもよく、フッ素で置換されていることが好ましい。また、上記アルキル基中の水素元素は、アルコキシ基で置換されていてもよく(即ち、R2はアルコキシ置換アルキル基であってもよく)、該アルコキシ基としては、R1の項で挙げたアルコキシ基が挙げられる。
【0023】
上記置換基の中でも、式(I)のR2としては、アルキル基及びアリール基が好ましく、難燃性に優れ且つ低粘度である点で、メチル基、エチル基、プロピル基及びフェニル基が特に好ましい。なお、式(I)中にR2が複数存在する場合(即ち、nが2〜4の場合)、各R2は、同一でも異なってもよい。
【0024】
また、式(I)中のnは1〜4を表し、mは0〜3を表し、但し、nとmとの合計は3又は4である。なお、調製の容易さから、nとmとの合計が3である化合物が特に好ましい。上記環状ホスファザン化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の非水電解液において、上記環状ホスファザン化合物の含有量は、特に制限はないが、非水溶媒中10〜70体積%であることが好ましく、非水電解液の不燃性、並びに非水電解液電池の安全性及び電池性能を十分に確保する観点から、非水溶媒中20〜70体積%であることが更に好ましい。環状ホスファザン化合物の含有量が10体積%未満では、自己消火性程度の効果は発現するものの、不燃性を示すまでには至らず、一方、環状ホスファザン化合物を70体積%より多く使用した場合には、支持塩溶解性、相溶性は問題ないが、イオン伝導性の低下が顕著となるため、高い電流密度での充放電では容量の低下が認められる。また、環状ホスファザン化合物の含有量が20体積%以上であれば、限界酸素指数が大幅に上昇して、高酸素濃度下での安全性が向上する。
【0026】
本発明の電池用非水電解液に用いる支持塩としては、リチウムイオンのイオン源となる支持塩が好ましい。該支持塩としては、特に制限はないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiBC48、LiPF6、LiCF3SO3、LiAsF6、LiC49SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C25SO2)2N等のリチウム塩が好適に挙げられる。これらの中でも、不燃性に優れる点で、LiPF6が更に好ましい。これら支持塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記非水電解液中の支持塩の濃度としては、0.2〜1.5mol/L(M)が好ましく、0.5〜1.2mol/L(M)が更に好ましい。支持塩の濃度が0.2mol/L未満では、電解液の導電性を充分に確保することができず、電池の放電特性及び充電特性に支障をきたすことがあり、1.5mol/Lを超えると、電解液の粘度が上昇し、リチウムイオンの移動度を充分に確保できないため、前述と同様に電解液の導電性を充分に確保できず、電池の放電特性及び充電特性に支障をきたすことがある。
【0028】
また、上記非水溶媒には、本発明の目的を損なわない範囲で従来より電池用非水電解液に使用されている種々の非プロトン性有機溶媒を添加することができる。該非プロトン性有機溶媒の添加量は、電解液の不燃性を確保するために非水溶媒中80体積%以下とすることが好ましい。該非プロトン性有機溶媒として具体的には、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフェニルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル類、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DEE)等のエーテル類、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、メチルフォルメート(MF)等のカルボン酸エステル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホン類、エチレンスルフィド等のスルフィド類等が挙げられる。これらの中でも、電池性能のバランスの点で、炭酸エステル類が特に好ましい。これら非プロトン性有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
また、非水電解液電池の形成に際して、本発明の非水電解液は、そのまま用いることも可能であるが、例えば、適当なポリマーや多孔性支持体、或いはゲル状物質に含浸させる等して保持させる方法等で用いることもできる。
【0030】
<非水電解液電池>
次に、本発明の非水電解液電池を詳細に説明する。本発明の非水電解液電池は、上述の電池用非水電解液と、正極と、負極とを備え、必要に応じて、セパレーター等の非水電解液電池の技術分野で通常使用されている他の部材を備える。この場合、本発明の非水電解液電池は、1次電池としても、2次電池としても構成することができる。
【0031】
本発明の非水電解液電池の正極活物質としては、V25、V613、MnO2、MnO3等の金属酸化物、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFeO2、LiFePO4等のリチウム含有複合酸化物、TiS2、MoS2等の金属硫化物、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が好適に挙げられる。上記リチウム含有複合酸化物は、Fe、Mn、Co、Al及びNiからなる群から選択される2種又は3種の遷移金属を含む複合酸化物であってもよく、この場合、該複合酸化物は、LiMnxCoyNi(1-x-y)2[式中、0≦x<1、0≦y<1、0<x+y≦1]、LiMnxNi(1-x)2[式中、0≦x<1]、LiMnxCo(1-x)2[式中、0≦x<1]、LiCoxNi(1-x)2[式中、0≦x<1]、LiCoxNiyAl(1-x-y)2[式中、0≦x<1、0≦y<1、0<x+y≦1]、LiFexCoyNi(1-x-y)2[式中、0≦x<1、0≦y<1、0<x+y≦1]、或いはLiMnxFey2-x-y等で表される。これらの中でも、高容量で安全性が高く、高電圧に安定な点で、複合酸化物が好適である。これら正極活物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の非水電解液電池の負極活物質としては、リチウム金属自体、リチウムとAl、In、Sn、Si、Pb又はZn等との合金、リチウムイオンをドープしたTiO2等の金属酸化物およびTiO2−P24等の金属酸化物複合材料、黒鉛等の炭素材料等が好適に挙げられる。これら負極活物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記正極及び負極には、必要に応じて導電剤、結着剤を混合することができ、導電剤としてはアセチレンブラック等が挙げられ、結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらの添加剤は、従来と同様の配合割合で用いることができる。
【0034】
本発明の非水電解液電池に使用できる他の部材としては、非水電解液電池において、正負極間に、両極の接触による電流の短絡を防止する役割で介在させるセパレーターが挙げられる。セパレーターの材質としては、両極の接触を確実に防止し得、且つ電解液を通したり含んだりできる材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース系、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製の不織布、薄層フィルム等が好適に挙げられる。これらは、単体でも、混合物でも、共重合体でもよい。これらの中でも、厚さ20〜50μm程度のポリプロピレン又はポリエチレン製の微孔性フィルム、セルロース系、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムが特に好適である。本発明では、上述のセパレーターの他にも、通常電池に使用されている公知の各部材が好適に使用できる。
【0035】
以上に説明した本発明の非水電解液電池の形態としては、特に制限はなく、コインタイブ、ボタンタイプ、ペーパータイプ、角型又はスパイラル構造の円筒型電池等、種々の公知の形態が好適に挙げられる。ボタンタイプの場合は、シート状の正極及び負極を作製し、該正極及び負極でセパレーターを挟む等して、非水電解液電池を作製することができる。また、スパイラル構造の場合は、例えば、シート状の正極を作製して集電体を挟み、これにシート状の負極を重ね合わせて巻き上げる等して、非水電解液電池を作製することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
上記一般式(I)においてnが3、mが0であって、R1が総てフッ素で、R2が総てメチル基である環状ホスファザン化合物 20体積%と、エチレンカーボネート 27体積%と、ジエチルカーボネート 53体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて、非水電解液を調製した。次に、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を下記の方法で評価・測定し、表1に示す結果を得た。
【0038】
(1)難燃性の評価
UL(アンダーライティングラボラトリー)規格のUL94HB法をアレンジした方法で、大気環境下において着火した炎の燃焼長及び燃焼時間を測定・評価した。具体的には、UL試験基準に基づき、127mm×12.7mmのSiO2シートに上記電解液1.0mLを染み込ませて試験片を作製して評価を行った。以下に不燃性・難燃性・自己消火性・燃焼性の評価基準を示す。
<不燃性の評価>試験炎を点火しても全く着火しなかった場合(燃焼長:0mm)を不燃性ありと評価した。
<難燃性の評価>着火した炎が、装置の25mmラインまで到達せず且つ網からの落下物にも着火が認められなかった場合を難燃性ありと評価した。
<自己消火性の評価>着火した炎が25〜100mmラインで消火し且つ網からの落下物にも着火が認められなかった場合を自己消火性ありと評価した。
<燃焼性の評価>着火した炎が、100mmラインを超えた場合を燃焼性と評価した。
【0039】
(2)電解液の限界酸素指数
JIS K 7201に準じて、電解液の限界酸素指数を測定した。限界酸素指数が大きい程、電解液が燃焼し難いことを示す。具体的には、SiO2シート(石英濾紙、不燃性)127mm×12.7mmをU字型のアルミ箔で補強して自立可能とし、該SiO2シートに前記電解液1.0mLを含浸して試験片を作製した。該試験片を試験片支持具に垂直に、燃焼円筒(内径75mm、高さ450mm、直径4mmのガラス粒を底部から100±5mmの厚さに均等に満たし金属製の網をその上に置いたもの)の上端部から100mm以上の距離に位置するように取り付け、次に、燃焼円筒に酸素(JIS K 1101又はこれと同等以上のもの)及び窒素(JIS K 1107の2級又はこれと同等以上のもの)を流し、試験片を所定の酸素濃度下で点火し(熱源はJIS K 2240の1種1号)、燃焼状態を調べた。但し、燃焼円筒内の総流量は11.4L/minである。この試験を3回行い、その平均値を表1に示す。なお、酸素指数とは、材料が燃焼を持続するのに必要な容量パーセントで表される最低酸素濃度の値をいい、本願では、試験片が3分以上継続して燃焼するか、着炎後の燃焼長さが50mm以上燃えるのに必要な最低の酸素流量とそのときの窒素流量から、下記の式:
限界酸素指数=(酸素流量)/[(酸素流量)+(窒素流量)]×100(体積%)
に従って限界酸素指数を算出した。
【0040】
次に、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物[LiCoO2]を用い、該酸化物と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを、質量比で94:3:3で混合し、これをN-メチルピロリドンに分散させてスラリーとしたものを、正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布・乾燥した後、直径12.5mmの円盤状に打ち抜いて、正極を作製した。また、負極活物質として人造グラファイトを用い、該人造グラファイトと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを質量比で90:10で混合し、これを有機溶媒(酢酸エチルとエタノールとの50/50質量%混合溶媒)に分散させてスラリーとしたものを、負極集電体としての銅箔に塗布・乾燥した後、直径12.5mmの円盤状に打ち抜いて、負極を作製した。次いで、正極端子を兼ねたステンレスケース内に、正極と負極とを、電解液を含浸したセパレーター(微孔性フィルム:ポリプロピレン製)を介して重ねて収容し、ポリプロピレン製ガスケットを介して負極端子を兼ねるステンレス製封口板で密封して、直径20mm、厚さ1.6mmのコイン型電池(非水電解液2次電池)を作製した。また、得られたコイン型電池に対して、下記の方法で各電池性能評価を行った。
【0041】
(3)コイン型電池による電池性能評価
上記のようにして作製したコイン型電池を用い、20℃の環境下で、4.2〜3.0Vの電圧範囲で、0.3mA/cm2の電流密度による充放電サイクルを2回繰り返し、この時の放電容量を初期放電容量とした。さらに同様の充放電条件で50サイクルまで充放電を繰り返し、50サイクル後の放電容量を求め、下記の式:
容量残存率=50サイクル後の放電容量/初期放電容量×100(%)
に従って容量残存率を算出し、電池のサイクル特性の指標とした。結果を表1に示す。
【0042】
また、同様にコイン型電池を用い、20℃の環境下で、4.2〜3.0Vの電圧範囲で、0.3mA/cm2の電流密度による充放電サイクルを2回繰り返し、この時の放電容量を求め、更に同様の充電条件で充電後、6.0mA/cm2の電流密度による放電容量を求め、下記の式:
高負荷放電率=6.0mA/cm2での放電容量/0.3mA/cm2での放電容量×100(%)
に従って高負荷放電率を算出し、電池の負荷特性の指標とした。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
上記一般式(I)においてnが3、mが0であって、R1が総てフッ素で、全R2のうち2つがメチル基で、1つがプロピル基である環状ホスファザン化合物 50体積%と、エチレンカーボネート 17体積%と、エチルメチルカーボネート 33体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
上記一般式(I)においてnが2、mが1であって、R1が総てフッ素で、R2が総てエチル基である環状ホスファザン化合物 70体積%と、エチレンカーボネート 10体積%と、ジメチルカーボネート 20体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
上記一般式(I)においてnが1、mが2であって、全R1のうち4つがフッ素で、1つがトリフルオロエトキシ基で、R2がメチル基である環状ホスファザン化合物 40体積%と、エチレンカーボネート 20体積%と、エチルメチルカーボネート 40体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。次に、実施例1で用いたLiCoO2正極に代えて、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いた以外は実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
上記一般式(I)においてnが1、mが2であって、R1が総てフッ素で、R2がフェニル基である環状ホスファザン化合物 30体積%と、エチレンカーボネート 23体積%と、ジメチルカーボネート 47体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
エチレンカーボネート 33体積%と、ジエチルカーボネート 67体積%からなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
リン酸トリエチル 20体積%と、エチレンカーボネート 27体積%と、ジエチルカーボネート 53体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
上記一般式(I)においてnが0、mが3であって、全R1のうち1つがフェノキシ基で、5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 14体積%と、エチレンカーボネート 29体積%と、ジメチルカーボネート 57体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例6)
上記一般式(I)においてnが3、mが0であって、R1が総てフッ素で、全R2のうち2つがメチル基で、1つがプロピル基である環状ホスファザン化合物 7体積%と、エチレンカーボネート 31体積%と、エチルメチルカーボネート 62体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例7)
上記一般式(I)においてnが2、mが1であって、R1が総てフッ素で、R2が総てエチル基である環状ホスファザン化合物 80体積%と、エチレンカーボネート 7体積%と、ジメチルカーボネート 13体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。また、実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例4)
上記一般式(I)においてnが1、mが2であって、全R1のうち4つが塩素で、1つがトリフルオロエトキシ基で、R2がメチル基である環状ホスファザン化合物 40体積%と、エチレンカーボネート 20体積%と、エチルメチルカーボネート 40体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、得られた非水電解液の難燃性及び限界酸素指数を評価した。次に、実施例1で用いたLiCoO2正極に代えて、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いた以外は実施例1と同様にして非水電解液2次電池を作製し、各電池性能をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の実施例1〜5に示すように、式(I)のホスファザン化合物を20体積%以上含む非水電解液が不燃性を示すと共に、高い限界酸素指数を有することから、高酸素濃度下でも不燃性を維持できることが分かる。また、該非水電解液を用いた電池が安定した電池性能を示すことが分かる。
【0055】
一方、比較例2に示すように、難燃化溶媒としてリン酸トリエステルを含む非水電解液は、難燃性が低く、また、電池性能においても耐還元性に劣るため、サイクルを繰り返すことにより著しい容量低下を招いてしまうことが分かる。
【0056】
また、比較例3のように不燃性の高い環状ホスファゼン化合物を20体積%程度含有した非水電解液は、環状ホスファゼン化合物と非プロトン性有機溶媒(EC/EMC)が二層分離(不均一化)して、電池用非水電解液として使用できなくなるため、環状ホスファゼン化合物を14体積%程度しか添加することができなかった。そして、該電解液は不燃性を示したものの、その限界酸素指数は22体積%程度であった。また、電池性能においても、電池の負荷特性に低下が認められ、支持塩溶解性の低いホスファゼン化合物を用いたことによるリチウムイオン伝導性の低下が示唆される結果となった。
【0057】
なお、実施例6のように、式(I)で表されるホスファザン化合物の含有量が10体積%未満では、自己消火性程度に留まり、高い電池安全性確保には至らないと考えられる。また、実施例7のように、式(I)で表されるホスファザン化合物の含有量が70体積%を超えると、相溶性や限界酸素指数については問題が無いものの、高い放電レート条件では容量が低下してしまうことが分かった。これも比較例3と同様にイオン伝導率の低下によるものと考えられる。従って、実施例6及び7の結果から、式(I)の環状ホスファザン化合物の含有量は、10〜70体積%、特には20〜70体積%の範囲が好ましいことが分かる。
【0058】
また、比較例4のように、R1として塩素を含む環状ホスファザン化合物を用いた場合には、不燃性は良好されるものの、電池のサイクル特性が悪化してしまうことから、R1としてはフッ素が好ましいことが分かる。
【0059】
以上の結果から、式(I)で表される環状ホスファザン化合物を含有することを特徴とする非水電解液を用いることにより、高い不燃性と電池性能を両立させた非水電解液電池を提供できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアリールオキシ基を表し、R2は、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し;nは1〜4を表し、mは0〜3を表し、但し、nとmとの合計は3又は4である]で表される環状ホスファザン化合物を含む非水溶媒と、支持塩とを含むことを特徴とする電池用非水電解液。
【請求項2】
前記一般式(I)において、R1のうち少なくとも3つがフッ素であることを特徴とする請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R2がアルキル基又はアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項4】
前記一般式(I)において、nとmとの合計が3であることを特徴とする請求項1に記載の電池用非水電解液。
【請求項5】
前記非水溶媒が、更に非プロトン性有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電池用非水電解液。
【請求項6】
前記非水溶媒における、前記一般式(I)で表される環状ホスファザン化合物の含有量が20〜70体積%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池用非水電解液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電池用非水電解液と、正極と、負極とを備えた非水電解液電池。

【公開番号】特開2008−282578(P2008−282578A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123584(P2007−123584)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】