説明

電池

【課題】 サイクル特性を向上させることができる電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質層12は例えば気相法により形成されたものであり、負極集電体11との界面の少なくとも一部において合金化している。負極活物質層12はSiとOとを構成元素として含んでいる。負極活物質層12における平均酸素含有量は40原子%以下であり、負極活物質層12を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下である。これにより充放電に伴う負極活物質層12の膨張・収縮を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電体に負極活物質層が設けられた負極、およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が切望されている。この要求に応える二次電池としてリチウム二次電池がある。しかし、現在におけるリチウム二次電池の代表的な形態である、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を用いた場合の電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は極めて困難な状況である。そこで、古くから負極に金属リチウム(Li)を用いることが検討されているが、この負極を実用化するには、リチウムの析出溶解効率の向上およびデンドライト状の析出形態の制御などを図る必要がある。
【0003】
その一方で、最近、ケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)などを用いた高容量の負極の検討が盛んに行われている。しかし、これらの負極は充放電を繰り返すと、活物質の激しい膨張および収縮により粉砕して微細化し、集電性が低下したり、表面積の増大に起因して電解液の分解反応が促進され、サイクル特性は極めて劣悪であった。そこで、気相法、液相法、焼成法あるいは溶射法などにより負極集電体に負極活物質層を形成した負極も検討されている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3参照)。これによれば、粒子状の活物質およびバインダーなどを含むスラリーを塗布した従来の塗布型負極に比べて微細化を抑制することができると共に、負極集電体と負極活物質層とを一体化することができるので負極における電子伝導性が極めて良好となり、容量的にもサイクル寿命的にも高性能化が期待されている。
【0004】
ところが、このように負極集電体と負極活物質層とを一体化させた負極においても、活物質の膨張・収縮に伴い負極集電体と負極活物質層とが剥離してしまい、十分な特性を得ることが難しかった。そこで、例えば、負極活物質層に負極集電体の成分を拡散させることにより、負極集電体と負極活物質層との密着性を高めると共に、拡散領域における膨張・収縮を抑制する技術が報告されている(例えば、特許文献4参照)。また、負極活物質層に不純物を添加し、不純物濃度を厚み方向に変化させた傾斜構造とする技術も報告されている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平8−50922号公報
【特許文献2】特許第2948205号公報
【特許文献3】特開平11−135115号公報
【特許文献4】国際公開第WO01/029912号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO01/031721号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの技術を用いても、負極活物質層の膨張・収縮を十分に抑制することは難しく、サイクル特性などの電池特性を向上させることが難しいという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、膨張・収縮を抑制し、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による第1の負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、負極集電体との界面の少なくとも一部において負極集電体と合金化している負極活物質層とを有し、負極活物質層は、構成元素として、ケイ素と、酸素(O)とを含み、負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下のものである。
【0008】
本発明による第2の負極は、負極集電体と、この負極集電体に気相法、溶射法および焼成法からなる群のうち少なくとも1つの方法により形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層は、構成元素として、ケイ素と、酸素とを含み、負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下のものである。
【0009】
本発明による第1の電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、負極集電体との界面の少なくとも一部において負極集電体と合金化している負極活物質層とを有し、負極活物質層は、構成元素として、ケイ素と、酸素とを含み、負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下のものである。
【0010】
本発明による第2の電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体と、この負極集電体に気相法、溶射法および焼成法からなる群のうち少なくとも1つの方法により形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層は、構成元素として、ケイ素と、酸素とを含み、負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下のものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の負極によれば、負極活物質層における平均酸素含有量を40原子%以下とし、かつ集電体側の平均酸素含有量Aの方を表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bを4原子%以上30原子%以下とするようにしたので、負極活物質層の膨張・収縮を抑制することができ、例えば本発明の電池に適用すれば、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0012】
特に、負極活物質層における平均酸素含有量を、10原子%以上とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の構成を簡略化して表すものである。この負極10は、例えば、負極集電体11と、負極集電体11に設けられた負極活物質層12とを有している。負極活物質層12は、負極集電体11の両面に形成されていてもよく、片面に形成されていてもよい。また、負極活物質層12の表面には、例えば、酸化物あるいは水酸化物などを含む被膜13が形成されている。
【0015】
負極集電体11は、リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素の少なくとも1種を含む金属材料により構成されていることが好ましい。リチウムと金属間化合物を形成すると、充放電に伴い膨張および収縮し、構造破壊が起こって、集電性が低下する他、負極活物質層12を支える能力が小さくなり負極活物質層12が負極集電体11から脱落し易いからである。リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
【0016】
中でも、負極活物質層12と合金化する金属元素が好ましい。後述するように、負極活物質層12が構成元素としてケイ素を含む場合には、充放電に伴い負極活物質層12が大きく膨張・収縮して負極集電体11から脱落しやすいが、負極活物質層12と負極集電体11とを合金化させて強固に接着させることにより、脱落を抑制することができるからである。リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層12と合金化する金属元素、すなわちケイ素と合金化する金属元素としては、銅,ニッケル,鉄が挙げられ、これらは強度および導電性の観点からも好ましい。
【0017】
なお、負極集電体11は、単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。その場合、負極活物質層12と接する層をケイ素と合金化する金属材料により構成し、他の層を他の金属材料により構成するようにしてもよい。また、負極集電体11は、負極活物質層12との界面以外は、リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素の少なくとも1種よりなる金属材料により構成することが好ましい。
【0018】
負極活物質層12は、構成元素としてケイ素を含んでいる。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。ケイ素は、単体で含まれていてもよく、合金で含まれていてもよく、化合物で含まれていてもよい。
【0019】
負極活物質層12は、例えば、気相法,溶射法および焼成法からなる群のうちの少なくとも1つの方法により形成されたものであることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層12の膨張・収縮による破壊を抑制することができると共に、負極集電体11と負極活物質層12とを一体化することができ、負極活物質層12における電子伝導性を向上させることができるからである。また、バインダーおよび空隙などを低減または排除でき、負極10を薄膜化することもできるからである。なお、本明細書でいう「活物質層を焼成法により形成する」とは、活物質を含む粉末とバインダーとを混合し成形した層を、非酸化性雰囲気下等で熱処理することにより、熱処理前よりも体積密度が高く、より緻密な層を形成することを意味する。
【0020】
負極活物質層12は、また、膨張および収縮により負極集電体11から脱落しないように、負極集電体11との界面の少なくとも一部において負極集電体11と合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体11の構成元素が負極活物質層12に、または負極活物質層12の構成元素が負極集電体11に、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。なお、本願では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
【0021】
また、負極活物質層12は、構成元素として酸素を含んでいる。負極活物質層12の膨張・収縮を抑制することができるからである。酸素は、ケイ素と結合していてもよく、結合していなくてもよい。酸素の含有量は、負極集電体11の側の方が表面側よりも多いことが好ましく、負極活物質層12を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下であることが好ましい。また、負極活物質層12における平均酸素含有量は40原子%以下であることが好ましく、10原子%以上であればより好ましい。これにより、特に負極集電体11の側における負極活物質層12の膨張・収縮を効果的に抑制することができるからである。
【0022】
なお、平均酸素含有量は、例えば、集束イオンビーム(FIB;Forcused Ion Beam )により負極活物質層12の断面を切り出し、オージェ電子分光法(AES;Auger Electron Spectroscopy )を用いた断面のライン分析により、負極活物質層12の厚み方向の組成を任意の複数箇所について測定し、その結果を平均したものである。測定数は多い方が好ましい。例えば、無作為に抽出した5箇所以上とすることが好ましく、無作為に抽出した10箇所以上とすればより好ましい。また、負極活物質層12と負極集電体11との界面は、例えば、ケイ素の含有量と、負極集電体11を構成する金属元素の含有量とが反転したところとする。すなわち、負極集電体11を構成する金属元素の含有量よりもケイ素の含有量が多くなったところからを負極活物質層12とする。負極活物質層12と被膜13との界面は、例えば、ケイ素の含有量と、ケイ素以外の元素の含有量とが反転したところとする。すなわち、ケイ素の含有量の方が他の元素の含有量よりも多いところまでを負極活物質層12とする。更に、平均酸素含有量を算出する際には、負極活物質層12に割れなどが存在している場合には、その箇所は含めない。
【0023】
この負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0024】
まず、例えば金属箔よりなる負極集電体11を用意し、負極集電体11に、気相法または溶射法により、負極活物質を堆積させることにより負極活物質層12を成膜する。また、粒子状の負極活物質を含む前駆層を負極集電体11に形成したのち、これを焼成する焼成法により負極活物質層12を成膜してもよいし、気相法、溶射法および焼成法のうちの2つまたは3つの方法を組み合わせて負極活物質層12を成膜するようにしてもよい。
【0025】
その際、例えば気相法または溶射法であれば、雰囲気中に酸素を導入することにより負極活物質層12に酸素を添加する。負極活物質層12における酸素の分布は、雰囲気の酸素濃度などを調節することにより制御することができる。また、酸素の含有量を変えた2層に分けて形成するようにしてもよい。焼成法であれば、例えば、粒子状の負極活物質に酸化ケイ素粉末を混合して前駆層を形成することにより酸素を添加する。酸素の分布は、例えば混合する酸化ケイ素粉末の量を変えた複数層に分けて前駆層を形成することにより調節が可能である。
【0026】
気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法などが挙げられる。溶射法としては、プラズマ溶射法,高速ガスフレーム溶射法あるいはアーク溶射法などのいずれを用いてもよい。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が利用可能である。
【0027】
なお、これら気相法、溶射法または焼成法を用いることにより、負極活物質層12と負極集電体11とが界面の少なくとも一部において合金化する場合もあるが、負極活物質層12を成膜したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、合金化するようにしてもよい。また、負極活物質層12を形成したのち、自然酸化などにより被膜13が形成される場合もあるが、必要に応じて、目的に応じた被膜13を形成するようにしてもよい。これにより図1に示した負極10が得られる。
【0028】
この負極10は、例えば、次のような二次電池に用いられる。
【0029】
図2は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ21に収容された負極10と、外装缶22の内に収容された正極23とが、セパレータ24を介して積層されたものである。
【0030】
外装カップ21および外装缶22の周縁部は絶縁性のガスケット25を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ21および外装缶22は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウムなどの金属によりそれぞれ構成されている。
【0031】
正極23は、例えば、正極集電体23Aと、正極集電体23Aに設けられた正極活物質層23Bとを有しており、正極活物質層23Bの側が負極活物質層12と対向するように配置されている。正極集電体23Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0032】
正極活物質層23Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどのバインダーを含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、一般式Lix MIO2 で表されるリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。リチウム含有金属複合酸化物は、高電圧を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を図ることができるからである。なお、MIは1種類以上の遷移金属であり、例えばコバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方が好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム含有金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
【0033】
なお、正極23は、例えば、正極活物質と導電材とバインダーとを混合して合剤を調製し、この合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に分散させて合剤スラリーを作製し、この合剤スラリーを金属箔よりなる正極集電体23Aに塗布し乾燥させたのち、圧縮成型し正極活物質層23Bを形成することにより作製することができる。
【0034】
セパレータ24は、負極10と正極23とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ24は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0035】
セパレータ24には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、炭酸エチレン,炭酸プロピレン,炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
電解質塩としては、例えば、LiPF6 ,LiCF3 SO3 あるいはLiClO4 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
この二次電池は、例えば、負極10、電解液が含浸されたセパレータ24および正極23を積層して、外装カップ21と外装缶22との中に入れ、それらをかしめることにより製造することができる。
【0038】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極23からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極10に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極10からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極23に吸蔵される。その際、負極活物質層12には構成元素として酸素が含まれており、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも上述したように多くなっているので、充放電に伴う負極活物質層12の膨張・収縮、特に負極集電体11の近傍における膨張・収縮が抑制される。よって、負極活物質層12が負極集電体11から脱落することが抑制される。
【0039】
本実施の形態に係る負極10は、次のような二次電池に用いてもよい。
【0040】
図3は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、リード31,32が取り付けられた電極巻回体30をフィルム状の外装部材41内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0041】
リード31,32は、それぞれ、外装部材41の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。リード31,32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0042】
外装部材41は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材41は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材41とリード31,32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム42が挿入されている。密着フィルム42は、リード31,32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0043】
なお、外装部材41は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0044】
図4は、図3に示した電極巻回体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、負極10と正極33とをセパレータ34および電解質層34を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ36により保護されている。
【0045】
負極10は、負極集電体11の片面あるいは両面に負極活物質層12が設けられた構造を有している。正極33も、正極集電体33Aの片面あるいは両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有しており、正極活物質層33Bの側が負極活物質層12と対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33Bおよびセパレータ34の構成は、それぞれ上述した正極集電体23A,正極活物質層23Bおよびセパレータ24と同様である。
【0046】
電解質層35は、保持体に電解液を保持させたいわゆるゲル状の電解質により構成されている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液あるいは高温における膨れを防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩)の構成は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。保持体は、例えば高分子材料により構成されている。高分子材料としては、例えばポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0047】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0048】
まず、負極10および正極33のそれぞれに、保持体に電解液を保持させた電解質層35を形成する。そののち、負極集電体11の端部にリード31を溶接により取り付けると共に、正極集電体33Aの端部にリード32を溶接により取り付ける。次いで、電解質層35が形成された負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ36を接着して電極巻回体30を形成する。最後に、例えば、外装部材41の間に電極巻回体30を挟み込み、外装部材41の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、リード31,32と外装部材41との間には密着フィルム42を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0049】
この二次電池の作用は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0050】
このように本実施の形態では、負極活物質層12における平均酸素含有量を40原子%以下とし、かつ集電体側の平均酸素含有量Aの方を表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bを4原子%以上30原子%以下とするようにしたので、特に負極集電体11の近傍における負極活物質層12の膨張・収縮を抑制することができる。よって、負極活物質層12が負極集電体11から脱落することを抑制することができ、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0051】
特に、負極活物質層12における平均酸素含有量を、10原子%以上とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0052】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例では、上記実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0053】
(実施例1−1〜1−6)
図3,4に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。まず、銅箔よりなる負極集電体11の上に、スパッタリング法により、ケイ素のターゲットを用いてケイ素を含む負極活物質層12を形成した。その際、放電ガスには、成膜開始時から負極活物質層12の厚みの半分まではアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、後はアルゴンガスとした。放電ガスの流量は50cm3 /minで一定とし、実施例1−1〜1−6で成膜初期における酸素ガスの流量比を変化させた。
【0054】
また、正極活物質である平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2 )の粉末と、導電材であるカーボンブラックと、バインダーであるポリフッ化ビニリデンとを、コバルト酸リチウム:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン=92:3:5の質量比で混合し、これを分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンへ投入して合剤スラリーとした。そののち、この合剤スラリーをアルミニウム箔よりなる正極集電体33Aに塗布して乾燥させ、加圧して正極活物質層33Bを形成し、正極33を作製した。
【0055】
負極10および正極33を作製したのち、これらの上に、炭酸エチレン37.5質量%と、炭酸プロピレン37.5質量%と、炭酸ビニレン10質量%と、LiPF6 15質量%とからなる電解液30質量%に、重量平均分子量60万のブロック共重合であるポリフッ化ビニリデン10質量%と、混合溶剤である炭酸ジメチル60質量%とを混合して溶解させた前駆溶液を塗布し、常温で8時間放置して炭酸ジメチルを揮発させることにより電解質層35を形成した。
【0056】
電解質層35を形成したのち、電解質層35を形成した負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層し、長手方向に巻回して最外周部に保護テープ36を接着して電極巻回体30を形成した。セパレータ34にはポリプロピレン製フィルムを用いた。そののち、アルミラミネートフィルムよりなる外装部材41の内部に電極巻回体30を挟み込み封入した。これにより、実施例1−1〜1−6の二次電池を得た。
【0057】
実施例1−1〜1−6に対する比較例1−1として、負極活物質層12を形成する際の放電ガスに酸素ガスを混合しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−6と同様にして二次電池を作製した。また、比較例1−2,1−3として、負極活物質層12を形成する際の放電ガスにおける酸素ガスの流量比を変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−6と同様にして二次電池を作製した。
【0058】
作製した実施例1−1〜1−6および比較例1−1〜1−3の二次電池について、25℃の条件下で充放電試験を行い、2サイクル目に対する101サイクル目の容量維持率を求めた。その際、充電は、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで行ったのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2 に達するまで行い、放電は、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで行った。なお、充電を行う際には、負極10の容量の利用率が90%となるようにし、負極10に金属リチウムが析出しないようにした。容量維持率は、2サイクル目の放電容量に対する101サイクル目の放電容量の比率、すなわち(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100として算出した。得られた結果を表1に示す。
【0059】
また、作製した実施例1−1〜1−6および比較例1−1〜1−3の二次電池について、1サイクル充放電を行った後に解体し、負極10を取り出して炭酸ジメチルで洗浄し、乾燥させて、集束イオンビームにより負極10の断面を切り出した。そののち、切り出した断面について、オージェ電子分光法のライン分析により、負極活物質層12における酸素含有量を測定した。酸素含有量は無作為に抽出した5箇所について測定し、その平均値を算出した。これらの結果についても表1に示す。また、一例として、図5に実施例1−1のオージェ電子分光測定の結果を、図6に比較例1−1のオージェ電子分光測定の結果を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示したように、集電体側の平均酸素含有量Aと表面側の平均酸素含有量Bとの差A−Bが4原子%以上30原子%以下の範囲内である実施例1−1〜1−6によれば、それ以外の比較例1−1〜1−3に比べて高い容量維持率が得られた。また、負極活物質層12の平均酸素含有量および集電体側の平均酸素含有量Aと表面側の平均酸素含有量Bとの差A−Bを増加させると、容量維持率は向上したのち低下する傾向が見られた。
【0062】
すなわち、集電体側の平均酸素含有量Aと表面側の平均酸素含有量Bとの差A−Bを4原子%以上30原子%以下の範囲内とするようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。また、負極活物質層12の平均酸素含有量を10原子%以上とすればより好ましいことも分かった。
【0063】
(実施例2−1〜2−5)
負極活物質層12を形成する際に、放電ガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、酸素ガスの流量比を成膜に伴い徐々に低下させると共に、酸素ガスの流量比を実施例2−1〜2−5で変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−6と同様にして二次電池を作製した。また、実施例2−1〜2−5に対する比較例2−1,2−2として、放電ガスの酸素の流量比を実施例2−1〜2−5と変えたことを除き、他は実施例2−1〜2−5と同様にして二次電池を作製した。
【0064】
実施例2−1〜2−5および比較例2−1,2−2の二次電池についても、実施例1−1〜1−6と同様にして充放電を行い、容量維持率を求めた。また、実施例1−1〜1−6と同様にして、負極活物質層12における酸素含有量を測定した。それらの結果を比較例1−1の結果と合わせて表2に示す。また、一例として、実施例2−2のオージェ電子分光測定の結果を図7に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示したように、負極活物質層12の平均酸素含有量が40原子%以下であり、集電体側の平均酸素含有量Aと表面側の平均酸素含有量Bとの差A−Bが4原子%以上30原子%以下の範囲内である実施例2−1〜2−5によれば、それ以外の比較例1−1および比較例2−1,2−2に比べて高い容量維持率が得られた。すなわち、負極活物質層12の平均酸素含有量を40原子%以下とすると共に、集電体側の平均酸素含有量Aと表面側の平均酸素含有量Bとの差A−Bを4原子%以上30原子%以下の範囲内とするようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0067】
(実施例3−1〜3−4)
負極活物質層12を電子ビーム真空蒸着法(EB蒸着法)により形成したことを除き、他は実施例1−1〜1−6と同様にして二次電池を作製した。その際、実施例3−1,3−2では成膜開始時のみ酸素ガスを導入し、実施例3−3,3−4では成膜に伴い酸素ガスの流量比を徐々に低下させた。また、実施例3−1〜3−4に対する比較例3−1,3−2として、酸素の流量比を変えたことを除き、他は実施例3−1〜3−4と同様にして二次電池を作製した。なお、比較例3−1は成膜開始時のみ酸素ガスを導入し、比較例3−2は成膜に伴い酸素ガスの流量比を徐々に低下させた。
【0068】
実施例3−1〜3−4および比較例3−1,3−2の二次電池についても、実施例1−1〜1−6と同様にして充放電を行い、容量維持率を求めた。また、実施例1−1〜1−6と同様にして、負極活物質層12における酸素含有量を測定した。それらの結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示したように、実施例3−1〜3−4についても、実施例1−1〜1−6,2−1〜2−5と同様に、比較例3−1,3−2に比べて高い容量維持率が得られた。すなわち、負極活物質層12を他の製造方法で作製しても酸素含有量を上述したようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0071】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電解質の保持体として高分子材料を用いる場合について説明したが、窒化リチウムあるいはリン酸リチウムなどの無機伝導体を保持体として用いてもよく、高分子材料と無機伝導体とを混合して用いてもよい。
【0072】
また、上記実施の形態および実施例では、負極集電体11に負極活物質層12が設けられた負極10について説明したが、負極集電体と負極活物質層との間に他の層を有していてもよい。
【0073】
更に、上記実施の形態および実施例では、コイン型、または巻回ラミネート型の二次電池について説明したが、本発明は、円筒型、角型、ボタン型、薄型、大型、積層ラミネート型の二次電池についても同様に適用することができる。また、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した負極を用いた二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した負極を用いた他の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した電極巻回体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】実施例1−1のオージェ電子分光測定の結果を表す特性図である。
【図6】比較例1−1のオージェ電子分光測定の結果を表す特性図である。
【図7】実施例2−2のオージェ電子分光測定の結果を表す特性図である。
【符号の説明】
【0075】
10…負極、11…負極集電体、12…負極活物質層、13…被膜、21…外装カップ、22…外装缶、23,33…正極、23A,33A…正極集電体、23B,33B…正極活物質層、24,34…セパレータ、25…ガスケット、31,32…リード、30…電極巻回体、35…電解質層、36…保護テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、この負極集電体に設けられ、負極集電体との界面の少なくとも一部において負極集電体と合金化している負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層は、構成元素として、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含み、
前記負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、
前記負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下である
ことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記負極活物質層における平均酸素含有量は10原子%以上であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
負極集電体と、この負極集電体に気相法、溶射法および焼成法からなる群のうち少なくとも1つの方法により形成された負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層は、構成元素として、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含み、
前記負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、
前記負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下である
ことを特徴とする負極。
【請求項4】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、負極集電体との界面の少なくとも一部において負極集電体と合金化している負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層は、構成元素として、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含み、
前記負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、
前記負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下である
ことを特徴とする電池。
【請求項5】
前記負極活物質層における平均酸素含有量は10原子%以上であることを特徴とする請求項4記載の電池。
【請求項6】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、この負極集電体に気相法、溶射法および焼成法からなる群のうち少なくとも1つの方法により形成された負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層は、構成元素として、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含み、
前記負極活物質層における平均酸素含有量は、40原子%以下であり、
前記負極活物質層を厚み方向で2分割した集電体側の平均酸素含有量をA、表面側の平均酸素含有量をBとすると、集電体側の平均酸素含有量Aの方が表面側の平均酸素含有量Bよりも多く、その差A−Bは4原子%以上30原子%以下である
ことを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−114454(P2006−114454A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303376(P2004−303376)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】