説明

電池

【課題】初回充放電効率を向上させることができると共に、保存特性を向上させることができる電池を提供する。
【解決手段】正極21と負極22とがセパレータ23を介して積層されている。負極22には、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料が含まれている。この負極材料は、黒鉛の表面の少なくとも一部が、C=OまたはC−Oで表される構造を含むグルタミン酸ナトリウムなどの高分子化合物により被覆された構成をしている。電解液には、LiPF6 と、LiN(CF3 SO2 2 あるいはLiN(C2 5 SO2 2 などのイミド塩とが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛を含む負極材料を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(videotape recorder),携帯電話あるいはラップトップコンピュータなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型化および軽量化が図られている。それに伴い、これら電子機器のポータブル電源として、電池、特に二次電池について、エネルギー密度を向上させるための研究開発が活発に進められている。中でも、正極にコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属複合酸化物を用い、負極に黒鉛を用いたリチウムイオン二次電池は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池あるいはニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため、非常に期待されている。
【0003】
しかし、黒鉛を負極に用いたこのリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の還元分解反応により初回充電時における不可逆容量が高くなってしまう。
【0004】
そこで、黒鉛表面を、リチウムイオン伝導性の高分子化合物により被覆することにより、電解液の分解反応を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−168433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イオン伝導性の高分子化合物は、一般に吸湿性が高いので、高分子化合物に付着した水分と、例えば電解質塩であるLiPF6 とが反応してフッ化水素(HF)が生成してしまい、正極活物質の溶出などにより、保存特性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、初回充放電効率を向上させることができると共に、保存特性を向上させることができる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解液を備えたものであって、負極は、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OまたはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料を含有し、電解液は、LiPF6 と、イミド塩とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池によれば、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OあるいはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料を用いるようにしたので、イオン伝導性の低下を抑制しつつ、電解液の分解反応を抑制することができ、初回充放電効率を向上させることができる。また、電解液にLiPF6 とイミド塩とを含むようにしたので、電解液のイオン伝導性を向上させることができると共に、フッ化水素の生成を抑制し、保存特性を向上させることができる。
【0009】
更に、核材に対する被覆部の割合(被覆部/核材)を0.1質量%以上2質量%以下とするようにすれば、初回充放電効率をより向上させることができると共に、負荷特性を向上させることができる。
【0010】
加えて、電解液におけるLiPF6 およびイミド塩の濃度を0.7mol/l以上1.5mol/l以下とし、かつLiPF6 の濃度を0.05mol/l以上0.3mol/l以下とするようにすれば、初回充放電効率および保存特性をより向上させることができると共に、負荷特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施の形態に係る二次電池の一構成例を分解して表すものである。この二次電池は、正極リード11および負極リード12が取り付けられた巻回電極体20をフィルム状の外装部材30の内部に収納した構成を有している。
【0013】
正極リード11および負極リード12は、外装部材30の内部から外部に向かい例えば同一方向にそれぞれ導出されている。正極リード11および負極リード12は、例えば、アルミニウム(Al),銅(Cu),ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0014】
外装部材30は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のラミネートフィルムにより構成されている。外装部材30は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体20とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。
【0015】
なお、外装部材30は、上述したラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0016】
図2は、図1に示した巻回電極体20のII−II線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体20は、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ24により保護されている。
【0017】
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、この正極集電体21Aの両面あるいは片面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。正極集電体21Aには、長手方向における一方の端部に正極活物質層21Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に正極リード11が取り付けられている。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。
【0018】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、例えば電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。
【0019】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物,リチウムリン酸化物,リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、2種以上を混合して用いてもよい。特に、エネルギー密度を高くするには、一般式Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表されるリチウム複合酸化物あるいはリチウムリン酸化物が好ましい。なお、式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属を表し、例えば、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn),鉄(Fe),アルミニウム,バナジウム(V),チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種が好ましい。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10の範囲内の値である。Lix MIO2 で表されるリチウム複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 ,LiNiO2 ,LiNi0.5 Co0.5 2 ,LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、あるいはスピネル型結晶構造を有するLiMn2 4 などが挙げられる。また、Liy MIIPO4 で表されるリチウムリン酸化物の具体例としては、LiFePO4 ,LiFe0.5 Mn0.5 PO4 などが挙げられる。
【0020】
負極22は、例えば、負極集電体22Aと、この負極集電体22Aの両面あるいは片面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。負極集電体22Aには、例えば長手方向における一方の端部に負極活物質層22Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に負極リード12が取り付けられている。負極集電体22Aは、例えば、銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。
【0021】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、例えば電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。
【0022】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成された高分子化合物よりなる被覆部とを有する材料を含んでいる。黒鉛は容量が高く、エネルギー密度を高くすることができるからである。また、被覆部を有することにより、負極22における電解液の分解反応を抑制することができるからである。黒鉛は、天然黒鉛であってもよいし、人造黒鉛であってもよい。
【0023】
被覆部を構成する高分子化合物は、C=OまたはC−Oで表される構造を有しており、これらの両方の構造を有するものであってもよい。これらの構造を有することにより、イオン伝導性が向上しており、核材に対するリチウムの吸蔵・放出反応を円滑にすることができるからである。なお、高分子化合物には、塩も含まれる。また、被覆部を構成する高分子化合物には、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0024】
このような高分子化合物について具体的に例を挙げれば、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン、アミノ酪酸、アミノ安息香酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、または酢酸澱粉,リン酸澱粉,カルボキシメチル澱粉あるいはヒドロキシエチル澱粉などのヒドロキシアルキル澱粉、またはプルランあるいはデキストリンなどの粘性多糖類、またはカルボキシメチルセルロース,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースあるいはヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体、またはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩あるいはカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩などの水溶性セルロース誘導体の塩、またはペクチン酸あるいはアルギン酸などのポリウロニド、またはアルギン酸ナトリウムあるいはアルギン酸カリウムなどのポリウロニドの塩、または水溶性アクリル樹脂,水溶性エポキシ樹脂,水溶性ポリエステル樹脂あるいは水溶性ポリアミド樹脂などの水溶性合成樹脂等がある。
【0025】
核材に対する被覆部の割合(被覆部/核材)は、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。被覆部の割合が少ないと、電解液の分解反応を抑制する効果が十分ではなく、被覆部の割合が多いとリチウムの吸蔵・放出反応の円滑性が低下してしまい、負荷特性が低下してしまうからである。
【0026】
このような負極材料は、例えば、これらの高分子化合物を溶解させた水溶液に、核材となる黒鉛粒子を投入し、プラネタリーミキサーなどにより混練したのち、乾燥することにより製造することができる。その際、水溶液の濃度などを調整することにより、高分子化合物の被覆量を調整することができる。
【0027】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、これらの負極材料に加えて、他の負極材料を含んでいてもよい。他の負極材料としては、例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素,熱分解炭素類,コークス類,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,繊維状炭素,活性炭あるいはカーボンブラックが挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0028】
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0029】
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電解液は、例えば、非水溶媒などの溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含有している。
【0030】
溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ビニレン、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステルなども挙げられる。溶媒には、いずれか1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0031】
電解質塩は、LiPF6 を含んでいる。これにより、高いイオン伝導率を得ることができるからである。
【0032】
また、電解質塩は、LiPF6 に加えて、イミド塩を含んでいる。上述した被覆部は、極性が大きなC=OまたはC−Oで表される構造を含み、吸湿性を有しているので、製造工程上で水分が吸着され残存してしまう。この水分によりLiPF6 が分解してフッ化水素を生成してしまうが、イミド塩を含むことにより、フッ化水素の生成を抑制して保存特性を向上させることができるからである。
【0033】
イミド塩としては、例えば、イミドリチウム塩が挙げられ、具体的には、LiN(CF3 SO2 2 あるいはLiN(C2 5 SO2 2 が好ましく挙げられる。イミド塩には、いずれか1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0034】
LiPF6 およびイミド塩の濃度は、電解液において、合計で0.7mol/l以上1.5mol/l以下であることが好ましい。LiPF6 およびイミド塩の濃度が低いと、電解液のイオン伝導性が低下して負荷特性が低下すると共に、初回充放電効率が低下してしまうからである。また、LiPF6 およびイミド塩の濃度が高いと、電解液の粘度が上昇してしまい、負荷特性が低下してしまうからである。更に、LiPF6 の濃度は、電解液において、0.05mol/l以上0.3mol/l以下であることが好ましい。LiPF6 の濃度が低いと、充放電性能が低下してしまうからである。また、LiPF6 の濃度が高いと、水分との反応により生成するフッ化水素の量が多くなり、保存特性が低下してしまうからである。
【0035】
電解質塩としては、また、これらのLiPF6 およびイミド塩に加えて、他の電解質塩を混合して用いてもよい。他の電解質塩としては、例えば、LiAsF6 ,LiBF4 ,LiClO4 ,LiB(C6 5 4 ,LiCH3 SO3 ,LiCF3 SO3 ,LiC(CF3 SO2 3 ,LiC4 9 SO3 ,LiAlCl4 、LiSiF6 、LiClあるいはLiBrなどのリチウム塩が挙げられる。他の電解質塩には、いずれか1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0036】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0037】
まず、例えば、正極材料と、導電材と、結着材とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。
【0038】
また、例えば、上述した負極材料と、結着材とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。
【0039】
次に、正極集電体21Aに正極リード11を取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード12を取り付け、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層し、巻回して巻回電極体20を形成する。
【0040】
次いで、巻回電極体20をラミネートフィルムよりなる外装部材30の間に挟み込んだのち、外装部材30の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とする。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材30の外部に導出させる。
【0041】
続いて、外装部材30の内部に開放辺から電解液を注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、外装部材30の開放辺を貼り合わせる。これにより図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0042】
この二次電池では、充電を行うと、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して、負極活物質層22Bに吸蔵される。また、放電を行うと、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。ここでは、負極22に、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OあるいはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料が含まれているので、核材に対するリチウムの吸蔵・放出反応が円滑になると共に、負極22における電解液の分解反応が抑制される。また、電解液には、LiPF6 とイミド塩とが含まれているので、電解液のイオン伝導性が向上すると共に、フッ化水素の生成が抑制される。
【0043】
このように本実施の形態によれば、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OあるいはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料を用いるようにしたので、イオン伝導性の低下を抑制しつつ、電解液の分解反応を抑制することができ、初回充放電効率を向上させることができる。また、電解液にLiPF6 とイミド塩とを含むようにしたので、電解液のイオン伝導性を向上させることができると共に、フッ化水素の生成を抑制し、保存特性を向上させることができる。
【0044】
更に、核材に対する被覆部の割合(被覆部/核材)を0.1質量%以上2質量%以下とするようにすれば、初回充放電効率をより向上させることができると共に、負荷特性を向上させることができる。
【0045】
加えて、電解液におけるLiPF6 およびイミド塩の濃度を0.7mol/l以上1.5mol/l以下とし、かつLiPF6 の濃度を0.05mol/l以上0.3mol/l以下とするようにすれば、初回充放電効率および保存特性をより向上させることができると共に、負荷特性を向上させることができる。
【実施例】
【0046】
更に、本発明の具体的な実施例について、図1,2を参照し同一の符合を用いて詳細に説明する。
【0047】
(実施例1−1〜1−4)
まず、四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを、コバルト:リチウム=1:1(モル比)となるように混合したのち、空気中において900℃で焼成してコバルト酸リチウム(LiCoO2 )を作製した。得られたコバルト酸リチウムを乳鉢で粉砕して粒径が15μmの粉末とし、これを正極材料とした。
【0048】
このコバルト酸リチウム粉末94質量%と、導電材としてケッチェンブラック3質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量%とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤を溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散して正極合剤スラリーとし、厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製した。そののち、正極集電体21Aに正極リード11を取り付けた。
【0049】
また、核材となる球形化処理した黒鉛粉末と、被覆部となる高分子化合物を溶解した水溶液とを、プラネタリーミキサーにより混合したのち、120℃で12時間以上乾燥することにより、黒鉛よりなる核材の表面に被覆部を形成し、負極材料を作製した。その際、高分子化合物は、実施例1−1,1−2ではグルタミン酸ナトリウムとし、実施例1−3,1−4ではカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とした。また、水溶液の濃度を調整して核材に対する被覆部の割合が1質量%となるようにした。被覆部の割合は、得られた負極材料を400℃で1時間加熱し、質量減少分より求めた。更に、負極材料の平均粒径は20μmとした。
【0050】
続いて、得られた負極材料92質量%と、負極活物質および導電材である炭素材料3質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン5質量%とを混合して負極合剤を調製した。続いて、この負極合剤を溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散して負極合剤スラリーとし、厚み15μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、一定圧力で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製した。そののち、負極集電体22Aに負極リード12を取り付けた。
【0051】
正極21および負極22を作製したのち、厚み25μmの微多孔性ポリエチレン延伸フィルムよりなるセパレータ23を用意し、負極22、セパレータ23、正極21、セパレータ23の順に積層し平たく巻回して巻回電極体20とした。
【0052】
次いで、巻回電極体20をラミネートフィルムよりなる外装部材30の間に挟み込んだのち、外装部材30の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とした。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材30の外部に導出させるようにした。
【0053】
続いて、外装部材30の内部に開放辺から電解液を注入し、セパレータ23に含浸させたのち、外装部材30の開放辺を貼り合わせ、図1および図2に示した二次電池を作製した。電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを、1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 およびイミド塩を溶解したものを用いた。その際、イミド塩は、実施例1−1,1−3では、LiN(CF3 SO2 2 とし、実施例1−2,1−4ではLiN(C2 5 SO2 2 とした。また、電解液におけるLiPF6 の濃度を0.1mol/lとすると共にイミド塩の濃度を0.9mol/lとし、LiPF6 とイミド塩との濃度の合計が1mol/lとなるようにした。
【0054】
実施例1−1〜1−4に対する比較例1−1〜1−3として、高分子化合物よりなる被覆部を形成しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−4と同様にして負極を作製し、二次電池を作製した。その際、比較例1−1では、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを、1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/lの濃度となるように溶解した電解液を用いた。また、比較例1−2では、実施例1−1,1−3と同様の電解液を用い、比較例1−3では、実施例1−2,1−4と同様の電解液を用いた。
【0055】
更に、比較例1−4,1−5では、イミド塩を用いなかったことを除き、他は実施例1−1,1−2、または実施例1−3,1−4とそれぞれ同様にして負極を作製し、二次電池を作製した。具体的には、被覆部を形成する高分子化合物を、比較例1−4ではグルタミン酸ナトリウムとし、比較例1−5ではカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とした。また、電解液は、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを、1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/lの濃度となるように溶解したものとした。
【0056】
作製した実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−5の二次電池について、初回充放電効率および保存特性を調べた。
【0057】
初回充放電効率は次のようにして調べた。まず、23℃の恒温槽中で、上限電圧4.2V、電流0.2C、総充電時間6時間とする定電流定電圧充電を行ったのち、電流0.2C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行った。初回充放電効率は、このときの充電容量に対する放電容量の比率、すなわち、(放電容量/充電容量)×100(%)から求めた。結果を表1に示す。なお、0.2Cは、理論容量を5時間で放電しきる電流値である。
【0058】
また、保存特性は次のようにして調べた。まず、23℃の恒温槽中で、上限電圧4.2V、電流1C、総充電時間3時間とする定電流定電圧充電を行ったのち、電流1C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行い保存前の放電容量を求めた。また、23℃の恒温槽中で、上限電圧4.2V、電流1C、総充電時間3時間とする定電流定電圧充電を行ったのち、60℃の恒温槽中で、1カ月間保存した。保存後、23℃まで放冷したのち、電流1C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行った。そののち、23℃の恒温槽中で、上限電圧4.2V、電流1C、総充電時間3時間とする定電流定電圧充電を行ったのち、電流1C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行い、保存後の放電容量を求めた。保存特性は、保存前の放電容量に対する保存後の放電容量の維持率、すなわち、(保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100(%)を求めた。結果を表1に示す。なお、1Cは、理論容量を1時間で放電しきる電流値である。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示したように、被覆部を設けた黒鉛を負極材料として用いると共に、電解質塩としてLiPF6 とイミド塩とを用いた実施例1−1〜1−4によれば、被覆部を設けなかった黒鉛を用いた比較例1−1〜1−3よりも、初回充放電効率が向上し、また、イミド塩を用いなかった比較例1−4,1−5よりも、保存後の放電容量維持率が向上した。
【0061】
すなわち、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OあるいはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料を用いると共に、電解液にLiPF6 とイミド塩とを含むようにすれば、初回充放電効率および保存特性を向上させることができることが分かった。
【0062】
(実施例2−1〜2−4)
LiN(C2 5 SO2 2 の濃度を変化させ、LiPF6 とイミド塩との濃度の合計を変化させたことを除き、他は実施例1−2と同様にして二次電池を作製した。その際、電解液におけるLiN(C2 5 SO2 2 の濃度は、実施例2−1では、0.5mol/lとし、実施例2−2では0.6mol/lとし、実施例2−3では1.4mol/lとし、実施例2−4では1.5mol/lとした。なお、電解液におけるLiPF6 とLiN(C2 5 SO2 2 との濃度の合計は、実施例2−1では0.6mol/lであり、実施例2−2では0.7mol/lであり、実施例2−3では1.5mol/lであり、実施例2−4では1.6mol/lである。
【0063】
作製した実施例2−1〜2−4の二次電池について、実施例1−1〜1−4と同様にして初回充放電効率を調べた。結果を表2および図3に示す。また、実施例1−2,2−1〜2−4の二次電池について、次のようにして負荷特性を調べた。まず、23℃の恒温槽中で、上限電圧4.2V、電流1C、総充電時間3時間とする定電流定電圧充電を行ったのち、電流0.2C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行った。また、23℃の恒温槽中で、同様にして定電流定電圧充電を行ったのち、電流3C、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行った。負荷特性は、0.2Cによる放電容量に対する3Cによる放電容量の比率、すなわち、(3Cによる放電容量/0.2Cによる放電容量)×100(%)から求めた。結果を表2および図3に示す。なお、3Cは、理論容量を20分で放電しきる電流値である。
【0064】
【表2】

【0065】
表2および図3に示したように、電解液におけるLiPF6 とLiN(C2 5 SO2 2 との濃度の合計を0.7mol/l以上1.5mol/l以下とした実施例2−2,1−2,2−3において、初回充放電効率および負荷特性について共に高い値が得られた。
【0066】
すなわち、電解液におけるLiPF6 およびイミド塩の濃度を0.7mol/l以上1.5mol/l以下とするようにすれば、好ましいことが分かった。
【0067】
(実施例3−1〜3−4)
電解液におけるLiPF6 の濃度を変化させたことを除き、他は実施例1−2と同様にして二次電池を作製した。具体的には、電解液におけるLiPF6 とLiN(C2 5 SO2 2 との濃度の合計を1mol/lとし、電解液におけるLiPF6 の濃度を実施例3−1では0.4mol/lとし、実施例3−2では0.3mol/lとし、実施例3−3では0.05mol/lとし、実施例3−4では0.04mol/lとした。
【0068】
実施例3−1〜3−4に対する比較例3−1として、LiPF6 を用いなかったことを除き、すなわち、電解質塩としてLiN(C2 5 SO2 2 のみを用い、電解液におけるLiN(C2 5 SO2 2 の濃度を1mol/lとしたことを除き、他は実施例3−1〜3−4と同様にして二次電池を作製した。
【0069】
作製した実施例3−1〜3−4および比較例3−1の二次電池について、実施例1−1〜1−4と同様にして初回充放電効率および保存特性を調べた。結果を表3および図4に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3および図4に示したように、電解液におけるLiPF6 の濃度を0.05mol/l以上0.3mol/l以下とした実施例3−2,1−2,3−3において、初回充放電効率および保存後の放電容量維持率について共に高い値が得られた。
【0072】
すなわち、電解液におけるLiPF6 の濃度を0.05mol/l以上0.3mol/l以下とするようにすれば、好ましいことが分かった。
【0073】
(実施例4−1〜4−4)
被覆部となる高分子化合物を溶解した水溶液の濃度を調整して、黒鉛よりなる核材に対する被覆部の割合を変化させたことを除き、他は実施例1−2と同様にして二次電池を作製した。具体的には、核材に対する被覆部の割合は、実施例4−1では0.05質量%とし、実施例4−2では0.1質量%とし、実施例4−3では2質量%とし、実施例4−4では2.1質量%とした。なお、高分子化合物はグルタミン酸ナトリウムである。
【0074】
作製した実施例4−1〜4−4の二次電池について、実施例1−1〜1−4および2−1〜2−4と同様にして初回充放電効率および負荷特性を調べた。結果を表4および図5に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4および図5に示したように、核材に対する被覆部の割合を0.1質量%以上2質量%以下とした実施例4−2,1−2,4−3において、初回充放電効率および負荷特性について、共に高い値が得られた。
【0077】
すなわち、核材に対する被覆部の割合を0.1質量%以上2質量%以下とするようにすれば好ましいことが分かった。
【0078】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、正極21および負極22を巻回する場合について説明したが、正極と負極とを複数積層するようにしてもよく、また、折り畳むようにしてもよい。更に、本発明は、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの形状を有する電池にも適用することができる。
【0079】
また、上記実施の形態および実施例では、電解液をそのまま用いる場合について説明したが、電解液を高分子化合物などの保持体に保持させて、いわゆるゲル状とするようにしてもよい。この高分子化合物としては、例えばポリフッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデンの共重合体が挙げられ、その共重合体モノマーとしてはヘキサフルオロプロピレンあるいはテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらは高い電池特性を得ることができるので好ましく、中でも、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体は特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図2】図1に示した巻回電極体のII−II線に沿った構成を表す断面図である。
【図3】電解液におけるLiPF6 およびLiN(C2 5 SO2 2 の濃度と、初回充放電効率および負荷特性との関係を表す特性図である。
【図4】電解液におけるLiPF6 の濃度と、初回充放電効率および保存特性との関係を表す特性図である。
【図5】被覆部を構成するグルタミン酸ナトリウムの割合と、初回充放電効率および負荷特性との関係を表す特性図である。
【符号の説明】
【0081】
11…正極リード、12…負極リード、20…巻回電極体、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、23…セパレータ、24…保護テープ、30…外装部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記負極は、黒鉛よりなる核材と、この核材の表面の少なくとも一部を覆うように形成され、かつC=OまたはC−Oで表される構造を含む高分子化合物よりなる被覆部とを有する負極材料を含有し、
前記電解液は、LiPF6 と、イミド塩とを含む
ことを特徴とする電池。
【請求項2】
前記核材に対する前記被覆部の割合(被覆部/核材)は、0.1質量%以上2質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記電解液におけるLiPF6 および前記イミド塩の濃度は、0.7mol/l以上1.5mol/l以下であり、かつLiPF6 の濃度は、0.05mol/l以上0.3mol/l以下であることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項4】
前記イミド塩は、LiN(CF3 SO2 2 およびLiN(C2 5 SO2 2 のうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−149440(P2007−149440A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340354(P2005−340354)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】