説明

電池

【課題】電池電圧を高く設定しても、高温特性および低温特性を向上させることができる電池を提供する。
【解決手段】正極21と負極22とがセパレータ23および電解質層24を介して積層されている。完全充電時の開回路電圧は4.25V以上4.50V以下の範囲内である。電解質層24は、電解液とフッ化ビニリデンを成分として含む重合体とを含み、ゲル状となっている。電解液には、炭酸ジエチルが15質量%以上35質量%以下の範囲内で含まれている。これにより、高容量で、優れた高温特性および低温特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極,負極および電解質をフィルム状の外装部材の内部に備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR、携帯電話、あるいはノートパソコンなどの携帯型電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。これらの電子機器の電源として用いる電池、特に二次電池は、これらのキーデバイスとして、エネルギー密度の向上を図る研究開発が活発に進められている。中でも、リチウムイオン二次電池は、従来の鉛電池あるいはニッケルカドミウム電池などの水系電解液二次電池に比べて大きなエネルギー密度を得ることができるので、広く用いられている。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウム、負極活物質として黒鉛が使用されており、作動電圧が4.2Vから2.5Vの範囲内で用いられている。このように単電池において、端子電圧を4.2Vまで上げられるのは、非水電解質材料やセパレータなどの優れた電気化学的安定性によるところが大きい。
【0004】
このリチウムイオン二次電池では、電池電圧を高くすることにより、正極活物質から更にリチウムイオンを引き抜くことが可能であり、言い換えれば、同じ正極活物質からより多くの電気量(電荷量,電池容量)を引き出すことが可能である。実際に充電時の電圧を4.25V以上にすることにより高エネルギー密度化が実現することが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、これらのリチウムイオン二次電池では、高分子化合物に電解液を保持させたゲル状の電解質を用いられており、しかも電極と電解質界面が固定されているので、電池素子自体に自己支持性がある。これにより、液漏れの問題がなく、しかもフィルム状の外装部材を用いることができるので、一層の小型化,軽量化および薄型化を図ることができることが知られている。
【特許文献1】国際公開第WO03/019713号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電池は、冬の北欧などの極寒冷地やスキー場などで使用されることもあり、低温特性を向上させることが求められており、例えば、溶媒として鎖状の炭酸エステルを用いることが検討されている。
【0007】
しかしながら、高エネルギー密度化が実現する目的で電池電圧を上げると、正極の酸化能が増し、特に高温においては、鎖状の炭酸エステルは酸化されてしまう。このため、ガスの発生により、例えば、フィルム状の外装部材を用いた場合には、膨れてしまうという問題があった。よって、電池電圧を高くし、かつ低温特性を向上させることは難しかった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、電池電圧を高く設定しても、高温特性および低温特性を向上させることができる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V以上4.50V以下の範囲内であり、電解質は、フッ化ビニリデンを成分として含む重合体と、溶媒を含有する電解液とを含み、溶媒は、炭酸ジエチルを15質量%以上35質量%以下の範囲内で含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電池によれば、完全充電時における開回路電圧を4.25V以上とするようにしたので、高い容量を得ることができる。また、溶媒に炭酸ジエチルを15質量%以上含むようにしたので、低温特性を向上させることができる。更に、炭酸ジエチルの含有量を35質量%以下とすると共に、完全充電時における開回路電圧を4.50V以下したので、高温特性を向上させることもできる。よって、高容量で、優れた高温特性および低温特性を得ることができる。
【0011】
また、フィルム状の外装部材を用いた場合には、膨れを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施の形態に係る二次電池の一構成例を分解して表すものである。この二次電池は、正極リード11および負極リード12が取り付けられた電池素子20をフィルム状の外装部材31の内部に収納した構成を有している。
【0014】
正極リード11および負極リード12は、それぞれ例えば短冊状であり、外装部材31の内部から外部に向かい例えば同一方向にそれぞれ導出されている。正極リード11は、例えばアルミニウム(Al)などの金属材料により構成されており、負極リード12は、例えばニッケル(Ni)などの金属材料により構成されている。
【0015】
外装部材31は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリプロピレンフィルムをこの順に張り合わせた矩形状のラミネートフィルムにより構成されている。外装部材31は、例えば、ポリプロピレンフィルム側と電池素子20とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。
【0016】
外装部材31と正極リード11および負極リード12との間には、正極リード11および負極リード12と、外装部材31の内側との密着性を向上させ、外気の侵入を防止するための密着フィルム32が挿入されている。密着フィルム32は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料により構成され、例えば、正極リード11および負極リード12が上述した金属材料により構成される場合には、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されることが好ましい。
【0017】
図2は、図1に示した電池素子20のII−II線に沿った断面構造を表すものである。電池素子20は、一対の正極21と負極22とをセパレータ23および電解質層24を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ25により保護されている。
【0018】
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、この正極集電体21Aの両面あるいは片面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。正極集電体21Aには、例えば長手方向における一方の端部に正極活物質層21Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に正極リード11が取り付けられている。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されている。
【0019】
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な正極材料の1種または2種以上を含んでおり、必要に応じてのグラファイトなどの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んで構成されている。
【0020】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物,リチウムリン酸化物,リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素(O)とを含むリチウム含有化合物が好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、化1,化2あるいは化3に示した層状岩塩型のリチウム複合酸化物、化4に示したスピネル型のリチウム複合酸化物、または化5に示したオリビン型のリチウム複合リン酸塩などが挙げられ、具体的には、LiCoO2 ,LiNiO2 ,LiNi0.5 Co0.5 2 ,LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 ,LiMn2 4 ,LiFePO4 あるいはLiFe0.5 Mn0.5 PO4 などがある。
【0021】
(化1)
Lif Mn(1-g-h) Nig M1h (2-j) k
(式中、M1は、コバルト,マグネシウム(Mg),アルミニウム,ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄,銅(Cu),亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。f,g,h,jおよびkは、0.8≦f≦1.2、0<g<0. 5、0≦h≦0. 5、g+h<1、−0. 1≦j≦0. 2、0≦k≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、fの値は完全放電状態における値を表している。)
【0022】
(化2)
Lim Ni(1-n) M2n (2-p) q
(式中、M2は、コバルト,マンガン,マグネシウム,アルミニウム,ホウ素,チタン,バナジウム,クロム,鉄,銅,亜鉛,モリブデン,スズ,カルシウム,ストロンチウムおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種を表す。m,n,pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0. 005≦n≦0. 5、−0. 1≦p≦0. 2、0≦q≦0. 1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、mの値は完全放電状態における値を表している。)
【0023】
(化3)
Lir Co(1-s) M3s (2-t) u
(式中、M3は、ニッケル,マンガン,マグネシウム,アルミニウム,ホウ素,チタン,バナジウム,クロム,鉄,銅,亜鉛,モリブデン,スズ,カルシウム,ストロンチウムおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種を表す。r,s,tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、−0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、rの値は完全放電状態における値を表している。)
【0024】
(化4)
Liv Mn2-w M4w x y
(式中、M4は、コバルト,ニッケル,マグネシウム,アルミニウム,ホウ素,チタン,バナジウム,クロム,鉄,銅,亜鉛,モリブデン,スズ,カルシウム,ストロンチウムおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種を表す。v,w,xおよびyは、0.9≦v≦1.1、0≦w≦0.6、3.7≦x≦4.1、0≦y≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、vの値は完全放電状態における値を表している。)
【0025】
(化5)
Liz M5PO4
(式中、M5は、コバルト,マンガン,鉄,ニッケル,マグネシウム,アルミニウム,ホウ素,チタン,バナジウム,ニオブ(Nb),銅,亜鉛,モリブデン,カルシウム,ストロンチウム,タングステンおよびジルコニウムからなる群のうちの少なくとも1種を表す。zは、0.9≦z≦1.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、zの値は完全放電状態における値を表している。)
【0026】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、これらの他にも、MnO2 ,V2 5 ,V6 13,NiS,MoSなどのリチウムを含まない無機化合物も挙げられる。
【0027】
負極22は、例えば、正極21と同様に、負極集電体22Aと、この負極集電体22Aの両面あるいは片面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。負極集電体22Aには、例えば長手方向における一方の端部に負極活物質層22Bが設けられず露出している部分があり、この露出部分に負極リード12が取り付けられている。負極集電体22Aは、例えば、銅などの金属材料により構成されている。
【0028】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されており、必要に応じて正極活物質層21Bと同様の結着材を含んで構成されている。
【0029】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料が挙げられる。具体的には、熱分解炭素類,コークス類,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,炭素繊維あるいは活性炭などの炭素材料などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。また、黒鉛は、天然黒鉛であってもよいし、人造黒鉛であってもよい。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。
【0030】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、リチウムを吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0031】
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、マグネシウム,ホウ素,アルミニウム,ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ,鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛,ハフニウム(Hf),ジルコニウム,イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0032】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素およびスズの少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素およびスズは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0033】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、更に、他の金属化合物あるいは高分子材料が挙げられる。他の金属化合物としては、酸化鉄,酸化ルテニウム,酸化モリブデン,酸化タングステン,酸化チタンあるいは酸化スズなどの酸化物、硫化ニッケルあるいは硫化モリブデンなどの硫化物、または窒化リチウムなどの窒化物が挙げられ、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0034】
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0035】
電解質層24は、例えば、電解液と、この電解液を保持する高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。電解液は、例えば、非水溶媒などの溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含有している。
【0036】
溶媒は、炭酸ジエチルを含んでおり、その含有量は、15質量%以上35質量%以下である。炭酸ジエチルをこの範囲で含むことにより、低温特性を向上させることができると共に、高温においても分解反応を抑制することができるからである。
【0037】
溶媒としては、炭酸ジエチルに加えて、他の溶媒を混合して用いてもよい。他の溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ビニレンなどの他の炭酸エステル、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランあるいは2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル、γ−ブチロラクトン、γ−ヴァレロラクトン、δ−ヴァレロラクトンあるいはε−カプロラクトンなどの環式カルボン酸エステル、アセトニトリルなどのニトリル、スルフォラン、リン酸類、リン酸エステル、またはピロリドン類などの非水溶媒が挙げられる。他の溶媒にはいずれか1種を用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
電解質塩としては、例えば、LiAsF6 ,LiPF6 ,LiBF4 ,LiClO4 ,LiB(C6 5 4 ,LiCH3 SO3 ,LiCF3 SO3 ,LiN(CF3 SO2 2 ,LiN(C2 5 SO2 2 ,LiC(CF3 SO2 3 ,LiAlCl4 ,LiSi2 6 ,LiClあるいはLiBrなどのリチウム塩が挙げられる。電解質塩にはいずれか1種を用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
高分子化合物は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを含む共重合体を含有している。高い酸化還元安定性を得ることができるからである。このような高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとモノクロロトリフルオロエチレンとの共重合体、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとモノメチルマレイン酸エステルとの共重合体が挙げられる。高分子化合物にはいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてよい。
【0040】
この二次電池は、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上4.50V以下の範囲内になるように設計されている。この二次電池では、例えば、同じ正極活物質であっても、開回路電圧が4.20Vの電池よりも、リチウムの放出量を多くしており、この放出されたリチウムが析出しないように負極22が設計されている。これにより高いエネルギー密度が得られるようになっている。また、完全充電時における開回路電圧が4.50V以下に設計されているので、高温においても、炭酸ジエチルの分解反応をより抑制することができるようになっている。なお、「完全充電時」とは、「標準の充電器で充電して使用する際の満充電電圧」を指し、「標準充電」とは、23℃において1C,所定の電圧で充電時間の総計が2.5時間に達するまでの定電流定電圧充電のことを指す。なお、1Cとは、電池の定格容量を1時間で放電させる電流値である。
【0041】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0042】
まず、例えば、正極活物質と結着材と導電材とを混合して正極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより正極合剤スラリーを作製する。次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aの両面あるいは片面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し正極21を作製する。続いて、例えば、正極集電体21Aに正極リード11を、例えば超音波溶接あるいはスポット溶接により接合する。そののち、炭酸ジエチルを除いた電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を用意し、正極活物質層21Bの上、すなわち正極21の両面あるいは片面に塗布し、混合溶剤を揮発させて、電解質層24を形成する。
【0043】
また、例えば、負極活物質と結着材とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次いで、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aの両面あるいは片面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。続いて、負極集電体22Aに負極リード12を、例えば超音波溶接あるいはスポット溶接により接合すると共に、負極活物質層22Bの上、すなわち負極22の両面あるいは片面に、正極21と同様にして電解質層24を形成する。
【0044】
そののち、電解質層24が形成された正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ25を接着して電池素子20を形成する。
【0045】
次いで、電池素子20をラミネートフィルムよりなる外装部材31の間に挟み込んだのち、外装部材31の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とする。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材31の外部に導出させる。
【0046】
続いて、外装部材31の内部に開放辺から炭酸ジエチルを注入し、電池素子20に含ませる。そののち、外装部材31の開放辺を貼り合わせる。これにより図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0047】
この二次電池では、充電を行うと、正極21からリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して、負極22に吸蔵される。次いで、放電を行うと、負極22からリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して正極21に吸蔵される。その際、電解質層24には、炭酸ジエチルを15質量%以上35質量%以下の範囲内で含む溶媒が含有されているので、低温特性が改善されると共に、高温における炭酸ジエチルの分解反応が抑制される。
【0048】
このように、本実施の形態では、完全充電時における開回路電圧を4.25V以上とするようにしたので、高い容量を得ることができる。また、溶媒に炭酸ジエチルを15質量%以上含むようにしたので、低温特性を向上させることができる。更に、炭酸ジエチルの含有量を35質量%以下とすると共に、完全充電時における開回路電圧を4.50V以下したので、高温特性を向上させることもできる。よって、高容量で、優れた高温特性および低温特性を得ることができる。
【実施例】
【0049】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0050】
[電池の作製および評価]
(実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4,比較例1−1−1〜1−1−3,1−2−1〜2−2−3,1−3−1〜1−3−3,1−4−1〜1−4−7,1−5−1〜1−5−7)
まず、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2 )95質量%と、導電材としてカーボンブラック4質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン6質量%とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤を溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとしたのち、アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、プレスして正極活物質層21Bを形成し正極21を作製した。正極21は42.5mm×455mmの形状とした。そののち、正極集電体21Aにアルミニウムよりなる正極リード11を取り付けた。
【0051】
また、負極活物質として黒鉛90質量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデン10質量部%とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤を溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとしたのち、銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレスして負極活物質層22Bを形成し負極22を作製した。その際、正極活物質の量と負極活物質の量とを調整し、完全充電時における開回路電圧(すなわち、電池電圧)が、実施例1−1−1〜1−1−4では4.25Vとなるように、実施例1−2−1〜1−2−4では4.35Vとなるように、実施例1−3−1〜1−3−4では4.5Vとなるように設計した。また、負極22は44mm×460mmとした。そののち、負極集電体22Aにニッケルよりなる負極リード12を取り付けた。
【0052】
続いて、溶媒として炭酸エチレンと炭酸プロピレンとを、炭酸エチレン:炭酸プロピレン=4:6の質量比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/kgとなるように溶解して電解液を作製した。
【0053】
次に、この電解液と、高分子化合物としてヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの共重合体とを、電解液:高分子化合物=6:1の質量比で混合し、更に混合溶剤として炭酸ジメチルを添加して溶解させゾル状の前駆溶液を作製した。共重合体におけるヘキサフルオロプロピレンの割合は、7質量%とした。
【0054】
得られた前駆溶液を正極21および負極22のそれぞれに塗布し、混合溶剤を揮発させてゲル状の電解質層24を形成した。
【0055】
そののち、電解質層24をそれぞれ形成した正極21と負極22とを、厚み12μm, 気孔率35%の多孔質ポリエチレンよりなるセパレータ23を介して積層し、平たく巻回して電池素子20を作製した。
【0056】
得られた電池素子20をラミネートフィルムよりなる外装部材31に挟み込んだのち、、外装部材31の外縁部同士を一辺を残して貼り合わせ袋状とした。その際、正極リード11および負極リード12を外装部材31の外部に導出させるようにした。
【0057】
続いて、外装部材31の内部に開放辺から炭酸ジエチルを注入し、電池素子20に含ませ、図1および図2に示した二次電池を作製した。その際、炭酸ジエチルは、溶媒における炭酸ジエチルの含有量が、実施例1−1−1,1−2−1,1−3−1では15質量%となるように、実施例1−1−2,1−2−2,1−3−2では20質量%となるように、実施例1−1−3,1−2−3,1−3−3では30質量%となるように、実施例1−1−4,1−2−4,1−3−4では35質量%となるように注入した。なお、各実施例において、電極長は変えないようし、電池の厚みが3.75±0.05mmとなるようにした。また、定格容量は800mAhとした。
【0058】
実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4に対する比較例1−1−1,1−2−1,1−3−1として、炭酸ジエチルを注入しなかったことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4とそれぞれ同様にして二次電池を作製した。
【0059】
また、比較例1−1−2,1−2−2,1−3−2として、溶媒における炭酸ジエチルの含有量を10質量%としたことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4とそれぞれ同様にして二次電池を作製した。
【0060】
更に、比較例1−1−3,1−2−3,1−3−3として、溶媒における炭酸ジエチルの含有量を40質量%としたことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4とそれぞれ同様にして二次電池を作製した。
【0061】
更にまた、比較例1−4−1〜1−4−7では、正極活物質の量と負極活物質の量とを調整し、完全充電時における開回路電圧が4.2Vとなるよう設計したことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4と同様にして二次電池を作製した。その際、溶媒における炭酸ジエチルの含有量は、0質量%,10質量%,15質量%,20質量%,30質量%,35質量%または40質量%とした。
【0062】
加えて、比較例1−5−1〜1−5−7では、正極活物質の量と負極活物質の量とを調整し、完全充電時における開回路電圧が4.55Vとなるよう設計したことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4と同様にして二次電池を作製した。その際、溶媒における炭酸ジエチルの含有量は、0質量%,10質量%,15質量%,20質量%,30質量%,35質量%または40質量%とした。
【0063】
作製した二次電池について、容量,低温特性および高温保存特性を調べた。結果を表1に示す。
【0064】
なお、容量は、23℃で、電流0.15C、充電上限電圧を表1に示すようにして定電流電圧充電を、充電時間の総計が12時間に達するまで、あるいは電流値が0.002Cに減衰するまでのいずれか早い方まで行い、引き続き、23℃で電流0.2Cの定電流放電を終止電圧3.0Vまで行い、このときの放電容量を求めた。なお、0.15C,0.002C、0.2Cは、それぞれ定格容量を20/3時間,500時間,5時間で放電させる電流値である。
【0065】
また、低温特性は次のようにして求めた。まず、23℃で、電流0.15C、充電上限電圧を表1に示すようにして定電流電圧充電を、充電時間の総計が12時間に達するまで、あるいは電流値が0.002Cに減衰するまでのいずれか早い方まで行い、引き続き、23℃で電流0.5Cの定電流放電を終止電圧3.0Vまで行い、23℃における放電容量を求めた。また、23℃で、電流0.15C、充電上限電圧を表1に示すようにして定電流電圧充電を、充電時間の総計が12時間に達するまで、あるいは電流値が0.002Cに減衰するまでのいずれか早い方まで行い、引き続き、−20℃で電流0.5Cの定電流放電を終止電圧3.0Vまで行い、−20℃における放電容量を求めた。低温特性は、(−20℃における放電容量/23℃における放電容量)×100(%)から求めた。なお、表1では低温特性が40%以上のものを○とし、40%未満のものを×として示した。また、0.15C,0.002C、0.2Cは、それぞれ定格容量を20/3時間,500時間,5時間で放電させる電流値である。
【0066】
更に、高温保存特性は次のようにして求めた。まず、23℃で、電流0.15C、充電上限電圧を表1に示すようにして定電流電圧充電を、充電時間の総計が12時間に達するまで、あるいは電流値が0.002Cに減衰するまでのいずれか早い方まで行い、保存前の電池の厚みを測定した。続いて、充電状態のまま、60℃のオーブンで1ヶ月保存した後、保存後の電池の厚みを測定した。高温保存特性は、保存後の電池の膨れ量、すなわち、(保存後の電池の厚み)−(保存前の電池の厚み)から求めた。なお、表1では、保存後の電池の膨れ量が0.5mm以下のものを○とし、0.5mmを超えるものを×として示した。
【0067】
【表1】

【0068】
(比較例2−1−1〜2−1−7,2−2−1〜2−2−7,2−3−1〜2−3−7,2−4−1〜2−4−7,2−5−1〜2−5−7)
炭酸ジエチルに代えて、炭酸エチルメチルを用いたことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4,比較例1−1−1〜1−1−3,1−2−1〜2−2−3,1−3−1〜1−3−3,1−4−1〜1−4−7,1−5−1〜1−5−7とそれぞれ同様にして二次電池を作製した。
【0069】
作製した二次電池について、上述したようにして、容量,低温特性および高温保存特性を調べた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
(比較例3−1−1〜3−1−7,3−2−1〜3−2−7,3−3−1〜3−3−7,3−4−1〜3−4−7,3−5−1〜3−5−7)
炭酸ジエチルに代えて、炭酸エチルプロピルを用いたことを除き、他は実施例1−1−1〜1−1−4,1−2−1〜1−2−4,1−3−1〜1−3−4,比較例1−1−1〜1−1−3,1−2−1〜2−2−3,1−3−1〜1−3−3,1−4−1〜1−4−7,1−5−1〜1−5−7とそれぞれ同様にして二次電池を作製した。
【0072】
作製した二次電池について、上述したようにして、容量,低温特性および高温保存特性を調べた。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
[考察]
表1から分かるように、充電上限電圧を4.25V以上4.50V以下とし、溶媒における炭酸ジエチルの含有量を15質量%以上35質量%以下とした実施例において、容量が高くすると共に、低温特性を40%以上、高温保存後の膨れ量を0.5mm以下とすることができた。
【0075】
一方、表2から分かるように、炭酸エチルメチルを用いると、炭酸ジエチルを用いた場合によりも、高温保存後の膨れ量が大きくなった。炭酸エチルメチルは、炭酸ジエチルよりも沸点が低く、またメチル基側が酸化分解されやすいと考えられるからである。
【0076】
また、表3から分かるように、炭酸エチルプロピルを用いると、炭酸ジエチルを用いた場合よりも、低温特性が低下した。炭酸エチルプロピルは、沸点は高いが分子量が大きいので、電解液の粘度が上昇して低温特性が低下したと考えられる。
【0077】
すなわち、完全充電時のおける開回路電圧を4.25V以上4.50V以下の範囲内とすると共に、溶媒として炭酸ジエチルを15質量%以上35質量%以下の範囲内で含むようにすれば、高容量で、優れた高温特性および低温特性を得られることが分かった。
【0078】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、巻回構造を有する二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明は、正極と負極とを積層しつづら折りにした電池素子を備える場合,あるいは正極および負極を積層した他の積層構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。
【0079】
また、上記実施の形態および実施例では、フィルム状の外装部材31を用いる場合について説明したが、缶の外装部材を用いてもよい。その場合、形状は円筒型、角型、コイン型、あるいはボタン型などどのようなものでもよい。
【0080】
更に、上記実施の形態および実施例では、電極反応にリチウムを用いる場合を説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属,またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。また、負極活物質としてリチウム金属を用いてもよい。
【0081】
加えて、本発明は二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明一実施の形態に係る二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図2】図1に示した電池素子のII−II線に沿った構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
11…正極リード、12…負極リード、20…電池素子、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、23…セパレータ、24…電解質層、25…保護テープ、31…外装部材、32…密着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V以上4.50V以下の範囲内であり、
前記電解質は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを含む重合体と、溶媒を含有する電解液とを含み、
前記溶媒は、炭酸ジエチルを15質量%以上35質量%以下の範囲内で含む
ことを特徴とする電池。
【請求項2】
前記正極,負極および電解質をフィルム状の外装部材の内部に収納したことを特徴とする請求項1記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−258076(P2007−258076A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83150(P2006−83150)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】