説明

電波を用いた震動測定方法および装置

【課題】測定対象物の振動を、レーザー光を用いずに非接触で測定すること。
【解決手段】本発明にかかる振動測定方法においては、測定対象の物体にマイクロ波をホーン型アンテナで照射する第1の工程と、前記ホーン型アンテナから照射されるマイクロ波を、前記ホーン型アンテナの前に配設された櫛型アンテナで受信する第2の工程と、前記ホーン型アンテナから照射されたマイクロ波が前記測定対象の物体で反射した反射波を、前記第2の工程と同じ櫛型アンテナで受信する第3の工程と、前記櫛型アンテナで受信した反射波信号を取り出して前記測定対象の物体の特性を解析する第4の工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いて物体の振動を非破壊かつ非接触で測定する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば機械装置などの物体の振動を測定するときには、加速度ピックアップなどの振動センサを前記物体に接触させて振動を検出して測定することが行われていた。しかし、例えば果実などのように柔らかい物体や、接触することで特性が変化するような物体を測定する場合には、振動センサを接触させて測定することは不適切であるので、非接触で測定することの可能なレーザードップラー装置などが用いられる場合がある。
なお、果物などの青果物の振動特性を測定して共鳴周波数のフーリエ解析などを行うことによって、その青果物の内部品質を評価することが可能であるので、このような振動測定技術は種々の物体の非接触評価などに有効な技術である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者は、特許文献1(特許第3062071号)において、レーザードップラー装置を用いることにより、青果物などの内部の品質を評価する技術を提案した。
特許文献1の装置によれば、青果物にレーザー光を照射し、その反射光を分析することによって青果物の振動を測定し、その振動に含まれる第2、第3、第4共鳴周波数の信号強度の相対的な変化に基づいて、当該青果物の内部の品質を評価することを可能とし、従来に比較して簡単で安価な装置を用いて、青果物の内部の品質を客観的に評価する技術を提案した。
しかし、レーザードップラー装置は、測定対象の物体がレーザー光を反射する特性を有している場合には適しているが、レーザー光を反射する特性を有していない場合には適していない。
【特許文献1】特許第3062071号
【0004】
そこで、本発明は、レーザー光を反射する特性を有していない場合でも、非接触で振動の測定が可能な技術を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる振動測定方法の請求項1においては、
測定対象の物体にマイクロ波をホーン型アンテナで照射する第1の工程と、
前記ホーン型アンテナから照射されるマイクロ波を、前記ホーン型アンテナの前に配設された櫛型アンテナで受信する第2の工程と、
前記ホーン型アンテナから照射されたマイクロ波が前記測定対象の物体で反射した反射波を、前記第2の工程と同じ櫛型アンテナで受信する第3の工程と、
前記櫛型アンテナで受信した反射波信号を取り出して前記測定対象の物体の特性を解析する第4の工程と
を含んでいることを特徴としている。
請求項2では、
前記マイクロ波の周波数は、1GHz〜100GHzとした。
請求項3の装置は、
測定対象の物体にマイクロ波を照射するホーン型アンテナと、
前記ホーン型アンテナから照射されるマイクロ波を受信するとともに、前記ホーン型アンテナから照射されたマイクロ波が前記測定対象の物体で反射した反射波を受信するように、前記ホーン型アンテナと前記測定対象の物体との間に配設された櫛型アンテナと、
前記櫛型アンテナで受信した反射波信号を取り出して前記測定対象の物体の特性を解析する解析手段と
を含んでいることを特徴としている。
請求項4では、
前記櫛型アンテナの各エレメントは、前記ホーン型アンテナの放射軸に直交するように配設されている。
請求項5では、
前記櫛型アンテナを2組の櫛型アンテナで構成し、それぞれの櫛型アンテナを放射軸上で1/4波長ずらして配置し、前記2組の櫛型アンテナの出力を直列接続して反射波信号を取り出すように構成した。
請求項6では、
前記解析手段は、反射波信号から対象物の振動信号を取り出すとともに、前記振動信号を高速フーリエ解析して対象物の振動スペクトル分布を得るように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明にかかる振動測定方法、および装置によれば、対象物にマイクロ波を照射して、その照射波と反射波とを同じ櫛型アンテナで受信することによって、対象物の特性を解析することができるので、対象物の特性を非破壊、非接触で測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明にかかる振動測定方法に用いる振動測定装置の最良の形態を示した図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には本発明にかかる振動測定装置の構成図を示した。
この図において、1は10GHzの電波をX方向へ出射する電磁ホーン、2はX方向からの反射波を受信する平板アンテナである。前記電磁ホーン1の基部には10GHzの発振器11が備えられており、この発振器11には10GHzの電波を出射するようにドライブ回路12が接続されている。前記電磁ホーン1と前記平板アンテナ2はほぼ同軸上に配設されている。
【0008】
前記平板アンテナ2は、図2に示したようなアンテナパターン22が形成されて、ショトキーバリアダイオードを用いた検波素子21を用いてX方向からの10GHzの反射波を検出するように構成されている。前記平板アンテナ2の検波素子21で検出された反射波信号は出力線3を介して受信回路4へ入力されるように構成されている。
5は振動分析装置であり、前記ドライブ回路12を介して前記電磁ホーン1から10GHzの電波を所定のタイミングで出射するとともに、前記平板アンテナ2にて受信された反射波信号を受信回路4を介して取り込んで、FFT処理などの周波数分析処理を行うように構成されている。
【0009】
前記平板アンテナ2は、図2に示したように、複数の櫛型エレメントからなる第1エレメント群22と、同様の複数の櫛型エレメントからなる第2エレメント群23とが、背中合わせの状態で配設されており、例えば絶縁性の基板上に銅パターンなどで形成されたものが使用できる。
なお、反射波信号の出力低下を防止するために、前記平板アンテナ2は前記電磁ホーン1の内部に入れないように配置する。
前記第1エレメント群22と第2エレメント群とを、X軸方向に若干(例えばλ/4)位置をずらせて配置し、各エレメント同士が横並びの直線状に配置されないように構成してもよい。このような構成によって、前記平板アンテナ2と測定対象の物体との距離が変わっても、反射波の受信信号の強弱変化を軽減することができる。なお、前記第1エレメント群22と第2エレメント群23との相対的なずれを微調整する微調整機構を備えてもよい。
また、前記櫛型のエレメントは、前記X軸と直交する方向で同一平面上に配置して十分な特性を得るように構成する。
【0010】
また、各エレメント間の距離dは、使用する周波数の波長の半分(d=λ/2)とする。このような構成の平板アンテナ2によれば、前記電磁ホーン1から放射された電波を受信するとともに、X軸方向に放射される。
放射された電波はX軸方向に配置されている測定対象の物体に照射され、前記物体にて反射したX軸方向から反射波は前記平板アンテナ2にて受信される。このように、同一の平板アンテナで照射波と反射波とを受信するので、照射波と反射波との位相差が弁別されて位相差情報を含んだ信号を前記検波素子21にて得ることができる。
なお、マイクロ波としては1GHz〜100GHz程度のものを用いる。
また、前記平板アンテナ2の第1エレメント群22と第2エレメント群23は、それぞれ4本のエレメントを備えたものを用いたが、4本に限定されるものではなく、何本でもよい。そして、各エレメント間の距離dは、使用する周波数の波長の半分(d=λ/2)に限らず種々の長さ(d=λ、d=λ/4)が可能である。
【0011】
前記振動分析装置5は、前記ドライブ回路12を介してマイクロ波の照射タイミングを制御するとともに、受信した反射波信号を受信回路4を介して取り込んで測定対象の物体の振動の周波数スペクトル分布を解析する機能を備えている。この周波数スペクトル分布の解析にあたっては、例えば高速フーリエ変換(FFT)処理などの手法を用いることができる。
【実施例1】
【0012】
実施例1では、前記振動測定装置で人為的な振動を測定し、その結果を図3に示した。図3に示されているように、人為的な120Hzの振動と、1000Hzの振動とで対象物を振動させた場合に、いずれも、反射電波の強さで前記対象物の振動が測定されている。
【実施例2】
【0013】
実施例2では、前記振動測定装置を用いて対象物としてのリンゴの振動特性を測定した。この実施例2では、図4(a)に示されているように、測定対象の物体としてのリンゴの果実Tをぶら下げ、この果実の一方を振り子のような打撃体で叩いて果実に振動を与え、果実の他方に軸方向を向けた電磁ホーン1と平板アンテナ2で、果実の振動の特性を測定した。すなわち、前記電磁ホーン1から照射したマイクロ波が果実から反射されると、その反射波を平板アンテナ2で受信し、前記振動分析装置5で、反射波から抽出した振動信号の周波数スペクトル分布を得た。
得られた周波数スペクトル分布は、図4(b)に示されているように、800Hz、1200Hz、1600Hz付近にピーク(第1、第2、第3共鳴周波数)が観察された。
これらの第2共鳴周波数は、図5に示されているように、果実の硬度との間で高い相関関係があるので、前記振動測定装置を用いることによって、果実の硬度などの品質を非接触、非破壊で検査できるのである。
打撃体で振動を与えることに代えて、圧電振動素子などの振動手段を用いて前記対象物に振動を与えてもよい。その場合、与える振動の周波数を低い周波数から高い周波数まで掃引し、そのときの反射波から得られる振動周波数の信号強度を高速フーリエ解析などの手法で解析することによって、図4(b)に示したような周波数スペクトル分布特性を得ることができる。
図4(b)に示したような周波数スペクトル分布特性が得られるので、複数の共鳴ピークが観測される場合には、低周波側から数えて2番目の共鳴ピークの周波数(第2共鳴周波数)に基づいて、予め実験により求めた相関関係を参照して、果実の硬度などの特性を知ることができる。
【0014】
また、果実などの青果物の内部品質は、第2共鳴周波数に対する第3、第4共鳴周波数の信号強度の相対的な低下の程度に相関することも判明している。
また、果実の内部状態によっては、第3共鳴周波数が明瞭に検出できない場合があるが、このような場合には、第3共鳴周波数を第2共鳴周波数の1.3倍〜1.5倍の周波数に設定し、その周波数領域の中央の周波数の信号強度、もしくはその周波数領域の平均の信号強度を、第3共鳴周波数の信号強度として評価に用いることが可能である。
なお、測定対象の青果物のポアソン比は実験によって0〜0.5の範囲であることが確認されているので、その場合の第3共鳴周波数と第2共鳴周波数との比率は1.3〜1.5であり、第4共鳴周波数と第2共鳴周波数との比率は1.8〜2.0であることが数値解析によって得られたので、第4共鳴周波数が明瞭に検出できない場合には、第4共鳴周波数を第2共鳴周波数の1.8倍〜2.0倍の周波数に設定し、その周波数領域の中央の周波数の信号強度、もしくはその周波数領域の平均の信号強度を、第4共鳴周波数の信号強度として評価に用いることが可能である。
【0015】
なお、品質を評価するための相関関係のデータベースとしては、測定対象の青果物の種類や品種や大きさ等に応じた評価基準を予め実験等によって求めて解析装置のコンピュータなどに登録しておき、種類や品種に応じて前記評価基準を参照して、評価するとよい。
また、前記第2共鳴周波数の信号強度と前記第3共鳴周波数の信号強度との比率だけを利用してもある程度の評価が可能である。
また、第3共鳴周波数の情報は利用せずに、より簡便には、前記第2共鳴周波数の信号強度と前記第4共鳴周波数の信号強度との比率だけを利用してもある程度の評価が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、青果物に限らず、樹木、木材、コンクリートなどの建築構造物などの物体の内部の劣化状況や構造などの諸特性を非接触、非破壊で検査する技術にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる評価方法に用いる装置の実施形態の構成図である。
【図2】前記方法に用いる平板アンテナの構造を示す図である。
【図3】実施例1における人為的な振動の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2の説明図である。
【図5】共鳴周波数と果実の硬度との間の相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
1 電磁ホーン、
2 平板アンテナ
21 ショトキーバリアダイオードを用いた検波素子
22 第1エレメント群
23 第2エレメント群
5 振動分析装置
T 測定対象物の物体、青果物、果物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の物体にマイクロ波をホーン型アンテナで照射する第1の工程と、
前記ホーン型アンテナから照射されるマイクロ波を、前記ホーン型アンテナの前に配設された櫛型アンテナで受信する第2の工程と、
前記ホーン型アンテナから照射されたマイクロ波が前記測定対象の物体で反射した反射波を、前記第2の工程と同じ櫛型アンテナで受信する第3の工程と、
前記櫛型アンテナで受信した反射波信号を取り出して前記測定対象の物体の特性を解析する第4の工程と
を含んでいることを特徴とする振動測定方法。
【請求項2】
前記マイクロ波の周波数は、1GHz〜100GHzとしたことを特徴とする請求項1に記載の振動測定方法。
【請求項3】
測定対象の物体にマイクロ波を照射するホーン型アンテナと、
前記ホーン型アンテナから照射されるマイクロ波を受信するとともに、前記ホーン型アンテナから照射されたマイクロ波が前記測定対象の物体で反射した反射波を受信するように、前記ホーン型アンテナと前記測定対象の物体との間に配設された櫛型アンテナと、
前記櫛型アンテナで受信した反射波信号を取り出して前記測定対象の物体の特性を解析する解析手段と
を含んでいることを特徴とする振動測定装置。
【請求項4】
前記櫛型アンテナの各エレメントは、前記ホーン型アンテナの放射軸に直交するように配設されていることを特徴とする請求項3に記載の振動測定装置。
【請求項5】
前記櫛型アンテナを2組の櫛型アンテナで構成し、それぞれの櫛型アンテナを放射軸上で1/4波長ずらして配置し、前記2組の櫛型アンテナの出力を直列接続して反射波信号を取り出すように構成したことを特徴とする請求項3、4の何れか1項に記載の振動測定装置。
【請求項6】
前記解析手段は、反射波信号から対象物の振動信号を取り出すとともに、前記振動信号を高速フーリエ解析して対象物の振動スペクトル分布を得るように構成されていることを特徴とする請求項3、4、5の何れか1項に記載の振動測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−198787(P2007−198787A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14994(P2006−14994)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(596027988)学校法人帝塚山学園 (3)
【Fターム(参考)】