説明

電波吸収体及びその製造方法、並びに電波暗室

【課題】 低コストで、輸送体積が小さく、短い長さで低周波から高周波まで良好な電波吸収特性が得られ、偏波面特性差が無いか若しくは少なく、軽量で構造強度の強い、製造や施工が容易な電波吸収体を実現する。
【解決手段】 電波吸収体10は、一面開口の中空四面体20の4個を、中空四面体20の開口面に対向する面20aが中空角錐22の側面を形成するように連結した形状を有する。電波吸収体10は薄板状の電波吸収材からなり、該薄板状の電波吸収材は少なくとも1枚のシートが導電性材料を含む段ボール構造であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗室等の用途に好適に使用可能な電波吸収体及びその製造方法、並びに電波暗室に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器から放射される電磁波ノイズの測定や、外来電磁波ノイズに対する電子機器の耐性評価を行う試験場としてEMC用電波暗室が広く実用化されている。また近年、放射ノイズ測定用のアンテナを校正する場(CALTS = Calibration Test Site)として前記電波暗室を用いる動きがある。
【0003】
EMC用電波暗室の天井、壁には電波吸収体が設置され、床面(金属面)以外からの電波反射が極めて小さい空間を実現している。EMC用電波暗室の天井、壁に使用する電波吸収体としては、図20のように磁性損失材料からなる電波吸収材としてのフェライト焼結体1と、導電性材料を含む電波吸収体2とを組み合わせた複合型電波吸収体が現在多く用いられている。
【0004】
導電性材料を含む電波吸収体としては、発泡ポリスチロールや発泡ポリウレタン等の基材(低誘電率誘電体)にカーボンやグラファイト等の導電性材料を保持させ、ピラミッド形やくさび形としたものが従来からよく用いられている。この電波吸収体の長さは通常0.5〜2m程度であり、大型で高性能な電波暗室ほど長いものが用いられる。このため、電波吸収体の体積がかさばり、輸送コストや施工コストが高いという問題がある。
【0005】
そこで、材料減による低コスト化、輸送体積減、軽量化、施工容易性のために、上記電波吸収体を、導電性材料を含む薄板状の電波吸収材からなる中空構造とし、薄板状態で輸送し、現場で組み立てる電波吸収体が提案されている。
【0006】
上記中空構造の電波吸収体としては、図21(A),(B)の中空ピラミッド形や、図22(A),(B),図23(A),(B)の中空くさび形がある。図21、図22及び図23中、1はフェライト焼結体、2はその前面に配置された中空の導電性材料を含む電波吸収体である。図23(A),(B)の中空くさび形は側面(三角形面)が開口面となっている。
【0007】
下記特許文献1,2は中空の導電性材料を含む電波吸収体の公知技術の例である。
【特許文献1】特開平11−87978号公報
【特許文献2】特開2000−216584号公報
【0008】
また、下記特許文献3,4のように、四角筒状の電波吸収体や、電波吸収板を十文字に交差させた電波吸収体も開示されている。
【特許文献3】特開平2−97096号公報
【特許文献4】特開2001−127483号公報
【0009】
ところで、前記くさび形電波吸収体は到来電波の偏波面に対して異方性を有するために、到来電波の偏波面による特性差が生じる。特に薄板状の電波吸収材からなる中空くさび形の場合、偏波面特性差が非常に大きく、電波の偏波面に対してくさび形の稜線が垂直の場合の高周波特性が極めて低いという問題がある。偏波面による特性差の問題を解決するため、壁面取り付け時に、隣り合う電波吸収体のくさび形の稜線が互いに直角となるように配列し、電波の偏波面に対してくさび形の稜線が平行の場合と垂直の場合の平均的な特性となるようにする方法がある。しかし、高周波においては一方の特性(電波の偏波面に対してくさび形の稜線が垂直の場合)が極めて低いため、平均的な特性もやはり低くなってしまう。また、側壁面に上記のごとく配列する場合には、くさび形の稜線が水平となるように配置される電波吸収体が半数存在するが、この配置の場合、長さが長くなるとたわむ等の強度上の問題がある。これらの問題は、コストや製造性、施工性ではより有利な図23(A),(B)の側面開口タイプにおいてより顕著となる。
【0010】
一方、中空ピラミッド形の場合、偏波面特性差がなく強度的にも強いためよく用いられるが、中空くさび形に比べ30〜100MHzの低周波特性が劣るため、吸収体長さを長くする必要があるという問題があった。
【0011】
そこで、偏波面特性差がなく、30〜100MHzの低周波特性が良好な電波吸収体として中空の錐状体の先端に開口を設けた形状が本出願人から下記特許文献5として提案されている。
【特許文献5】特願2004−161112号
【0012】
しかし、特許文献5に示した中空の錐状体の先端に開口を設けた形状の電波吸収体の問題点として、高い周波数においては、電波が開口部を通り抜けてフェライト焼結体に到達するが、1GHz以上の高周波ではフェライト焼結体の吸収性能は低いため、反射が大きくなる。従って、高周波特性改善のため底部に電波吸収体を付加する必要があり、薄板状としたメリットが十分活かせない。
【0013】
同様に、特許文献3の四角筒状のものや、特許文献4の電波吸収板を十文字に交差させたものについてもフェライト焼結体が露出しているため高周波特性が良くないという問題がある。高周波特性改善のためには、四角筒の目開きを小さくしたり、十文字の電波吸収板の底部に小型電波吸収体を付加する必要があり、やはり薄板状としたメリットが十分活かせない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、低コストで、輸送体積が小さく、短い長さで低周波から高周波まで良好な電波吸収特性が得られ、偏波面特性差が無いか若しくは少なく、軽量で構造強度の強い、製造や施工が容易な電波吸収体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、上記電波吸収体を用いることで、低コストで施工が容易で電波吸収性能の優れた電波暗室を提供することをもう一つの目的とする。
【0016】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、第1発明に係る電波吸収体は、一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有することを特徴としている。
【0018】
第2発明に係る電波吸収体は、一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有することを特徴としている。
【0019】
第3発明に係る電波吸収体は、第1又は第2発明において、前記中空角錐の外側に形成されたくさび形部分の先端側稜線の長さは、前記中空角錐の底辺の長さの半分よりも短いことを特徴としている。
【0020】
第4発明に係る電波吸収体は、第1、第2又は第3発明において、前記中空四面体が4個連結した形状であることを特徴としている。
【0021】
第5発明に係る電波吸収体は、第1、第2、第3又は第4発明において、薄板状の電波吸収材からなることを特徴としている。
【0022】
第6発明に係る電波吸収体は、第5発明において、前記薄板状の電波吸収材は少なくとも1枚のシートが導電性材料を含む段ボール構造であることを特徴としている。
【0023】
第7発明に係る電波吸収体は、第5又は第6発明において、前記薄板状の電波吸収材の基材が難燃性または不燃性を有することを特徴としている。
【0024】
第8発明に係る電波吸収体は、第1、第2、第3、第4、第5、第6又は第7発明において、前記中空角錐の底面にフェライト焼結体が配置されていることを特徴としている。
【0025】
第9発明に係る電波吸収体の製造方法は、薄板状の電波吸収材を2箇所折り曲げて一面開口の中空四面体を3個以上作製し、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結することを特徴としている。
【0026】
第10発明に係る電波吸収体の製造方法は、一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面に対向する三角形面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体の製造方法であって、
第1の中空四面体の開口面に対向する三角形面となる第1領域と、前記第1の中空四面体に隣接する第2の中空四面体の開口面に対向する三角形面から立ち上がる逆三角形面となる第2領域とを含む第1の薄板状の電波吸収材と、
前記第1の中空四面体の開口面に対向する三角形面から立ち上がる逆三角形面を含む第2の薄板状の電波吸収材とを用い、
前記第1の薄板状の電波吸収材の第1領域と第2領域の境界位置に、前記第2の薄板状の電波吸収材を接合したものを3個以上連結することを特徴としている。
【0027】
第11発明に係る電波吸収体の製造方法は、薄板状の電波吸収材を2箇所折り曲げて一面開口の中空四面体を3個以上作製し、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結することを特徴としている。
【0028】
第12発明に係る電波暗室は、室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に第1発明から第8発明のいずれかに記載の電波吸収体を配設したことを特徴としている。
また、第13発明に係る薄板状電波吸収材は、三角形面となる部分の境界線に沿って折り曲げる場合に、一面開口の中空四面体となるようにしたことを特徴としている。
第14発明に係る薄板状電波吸収材は、左右対称の台形の上辺又は底辺から、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を切り欠いた形状、又は左右対称の台形の上辺又は底辺に、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を足した五角形状を有している、又は取り出し可能に配置したことを特徴としている。
第15発明に係る薄板状電波吸収材は、二等辺三角形と、当該二等辺三角形の二等辺を共有する2つの三角形とを当該二等辺において折り曲げ可能に連結した形状を有する、又は取り出し可能に配置したことを特徴としている。
なお、第13、14又は15発明の電波吸収材において、嵌め合わせのための切欠又は突起が設けられていてもよい。
第17発明に係る電波吸収材は、一面開口の中空四面体形状であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る電波吸収体は、一面開口の中空四面体の3個以上を連結した形状であって、薄板状の電波吸収材を折り曲げて形成可能であり、薄板状の電波吸収材として輸送することで輸送体積を小さくできる。また段ボール構造で低コストの電波吸収材を用いることが可能であり、軽量で構造強度を強くでき、製造や電波暗室等に対する施工が容易となる。
【0030】
本発明に係る電波吸収体の製造方法によれば、薄板状の電波吸収材の折り曲げ加工及び両面接着テープや接着剤等による連結加工によって電波吸収体を組立可能である。組立に際して特殊な用具、部品は不要であり、電波暗室等への施工が容易である。
【0031】
また、本発明に係る電波吸収体の外観形状は、角錐の外側にくさび形部分を設けたものに相当し、ピラミッド形に比較して低周波から高周波まで良好な電波吸収特性が得られ、前記くさび形部分は角錐の角(稜線)に沿って3個以上設けられるため偏波面特性差が無いか若しくは少ない特性となる。
【0032】
本発明に係る電波暗室によれば、上記電波吸収体を用いることで、低コストで施工が容易であり、電波吸収性能も優れたものとすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、電波吸収体及びその製造方法、並びに電波暗室の実施の形態を図面に従って説明する。
【0034】
図1乃至図12を用いて本発明に係る電波吸収体及びその製造方法の実施の形態1を説明する。図1は電波吸収体10の外観を示し、図2(A)のように四角形(長方形等)の薄板状電波吸収材11を2箇所折り曲げて、同図(B)のような一面開口の中空四面体20を4個作製し、中空四面体20の開口面に対向する三角形面20aが中空四角錐22の側面を形成するように連結一体化した同図(C)の形状となっている。前記三角形面20aが二等辺三角形を成していれば、前記中空四角錐は正四角錐のピラミッド形となる。前記中空四面体20の三角形面20aに対して折れ曲がって立ち上がった逆三角形面20bは一辺20cにおいて互いに突き合わされ、接合されてくさび形部分21を成すものである。従って、図1、図2(C)の中空四面体20を4個組み合わせた状態では、くさび形部分21は中空四角錐の外側の角(稜線)に沿って4個形成されることになる。
【0035】
図1の電波吸収体の製造方法を考えた場合、図2のように4個の中空四面体20を先に作製し、これらを開口面外向きで組み合わせて連結一体化する方法が最も解り易いが、図2(A)の折り曲げ部分が連結部になるため接着代(糊代)が設けにくい。そこで、図3に示すように隣接する中空四面体20同士を連結する連結部材25を用いる方法がある。あるいは、図4(A)に示すように電波吸収材11の一部に切れ目26,27を入れておき、図4(B),(C)のように折り曲げて中空四面体20の作製時に突部28とスリット29を同時に形成し、一方の中空四面体20のスリット29に他方の中空四面体20の突部28を差込み、その部分(差し込まれた突部)を接着代(糊代)とする方法がある。なお、図3及び図4において、図2と同一又は相当部分には同一符号を付してある。
【0036】
また、完成状態において4個の中空四面体20を連結一体化した構造となればよいから、図5及び図6の製造方法も可能である。この場合、第1の中空四面体20−1の開口面に対向する三角形面20a−1となる第1領域13と、第1の中空四面体20−1に隣接する第2の中空四面体20−2の開口面に対向する三角形面から立ち上がる逆三角形面20b−2となる第2領域14と、連結のための接着代(糊代)15とからなる第1の薄板状電波吸収材12を用いるとともに、第1の中空四面体20−1の開口面に対向する三角形面20aから立ち上がる逆三角形面20b−1と連結のための接着代(糊代)17とからなる第2の薄板状電波吸収材16を用いる。
【0037】
そして、図6のように、第1の薄板状電波吸収材12の第1領域13と第2領域14の境界位置に、第2の薄板状電波吸収材16を接合したものを4個作製し、それらを連結一体化することで図1の完成状態の電波吸収体10が得られる。各々の薄板状電波吸収材12,16の連結は接着代15,17に接着剤を塗布する、あるいは両面接着テープを貼り付けること等により行うことができる。
【0038】
図5及び図6の製造方法は、連結部に接着代(糊代)が設けられる上、隣接する中空四面体20の一部までを平板の薄板状電波吸収材12で構成しているため、図1の状態に組み立てたときの強度を大きくできる利点がある。
【0039】
図7及び図8は上記実施の形態1で用いることができる薄板状電波吸収材として、段ボール構造の電波吸収材を示す(特開2004−253760号で提案されている)。図7及び図8(A)は両面段ボール構造の電波吸収材30であり、平面シートのライナ31間にコルゲート加工(波形に屈曲加工)したシートである中芯32を介在させて積層一体化したものである。波形に屈曲加工された中芯32の頂部と谷部とは、それぞれ上下のライナ31に接着剤を介して接着されている。ライナ31、中芯32のうちの少なくとも1枚のシートは導電性材料を含んでいる。例えば、ライナ31、中芯32の一方又は両方に導電性材料(カーボン、グラファイト、導電性繊維等)を含むシート、好ましくは炭素繊維の混抄紙等が使用できる。段ボールを構成する混抄紙等の基材として難燃性または不燃性を有する材料を使用することも出来る。
【0040】
なお、両面段ボール構造の電波吸収体の他に、図8(B)の1枚のライナ31に、コルゲート加工した中芯32を貼り合わせた片面段ボール構造の電波吸収材、同図(C)の両面段ボールに片面段ボールを接合した複両面段ボール構造の電波吸収材、同図(D)の複両面段ボールに片面段ボールを接合して3段としたトリプルウォール構造の電波吸収材を薄板状電波吸収材として使用することが可能である。
【0041】
上記図7や図8(A)〜(D)の薄板状電波吸収材は中空構造であるため、軽量であるとともに、波形の中芯32を内在することで適度の剛性を具備し、電波吸収体に組み立て後においても良好な形態保持性を維持できる。また、平面状のシート状態で保管や運搬ができるため、かさばらず、低コストで輸送することができる。
【0042】
図9(A)はフェライト焼結体の前面に配置された四角筒の電波吸収体の開口形状を示し、四角筒の対向する壁面を近づく方向に傾けて開口を閉じる方向に変化させたとき、さらに図9(B)の本発明に係る実施の形態1の電波吸収体形状(2つのくさび形を交差させた形状)としたときに、電波吸収特性における高周波特性が改善されることを以下に説明する。
【0043】
図10は図9(A)のフェライト焼結体の前面に配置された電波吸収体が四角筒形状のときの反射減衰量(dB)の周波数特性(GHz)であり、約1GHz以上で電波吸収特性が低下している。
【0044】
図11は四角筒形状の対向する一対の壁面(電波吸収材)を閉じて1つのくさび形を形成した場合で、くさび形の先端綾線が到来電波の電界に垂直なときと平行なときの反射減衰量(dB)の周波数特性(GHz)をそれぞれ示す。一対の壁面を閉じて1つのくさび形を形成した場合、くさび形の先端稜線が電界に平行な場合には高周波特性に大きな改善が見られた。しかし、くさび形の先端稜線が電界に垂直な場合には改善効果は小さい。
【0045】
そこで、両偏波に効くように両方向(二対)の壁面を閉じてくさび形としたような形状、つまり図9(B)の本発明の電波吸収体形状(2つのくさび形を交差させた形状)とした。このときの反射減衰量(dB)の周波数特性(GHz)を図12に示す。図10や図11の特性に比べて特に1GHz以上の高周波特性が大幅改善されている。また、形状の対称性から偏波面による特性差は生じないことがわかる。
【0046】
この実施の形態によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0047】
(1) 電波吸収体10は、一面開口の中空四面体20を4個連結した形状であって、薄板状電波吸収材を折り曲げて形成可能であり、薄板状電波吸収材として輸送することで輸送体積を小さくできる。また段ボール構造で低コストの薄板状電波吸収材30を用いることで、軽量で構造強度を強くでき、製造や電波暗室等に対する施工が容易となる。
【0048】
(2) 薄板状電波吸収材の折り曲げ加工及び両面接着テープや接着剤等による連結加工によって電波吸収体10を組立可能である。組立に際して特殊な用具、部品は不要であり、電波暗室等への施工が容易である。
【0049】
(3) 電波吸収体10の外観形状は、2つのくさび形を交差させて設けたものに相当し、ピラミッド形に比較して低周波から高周波まで良好な電波吸収特性が得られ、前記くさび形は互いに直交するように交差させて設けられるため偏波面特性差が無い特性となる。
【0050】
(4) 図9(B)のように電波吸収体10の中空四角錐22の底面にフェライト焼結体が配置された複合型電波吸収体構造とすることで、低周波での電波吸収特性を改善できる。
【0051】
図13は本発明に係る電波吸収体の実施の形態2を示す。この場合も、4個の中空四面体20の開口面に対向する三角形面20aで中空四角錐22が形成されるが、その中空四角錐22の外側に形成されたくさび形部分21の先端側稜線21aの長さLが、前述の実施の形態1に比べて短縮されている(図中の点線斜線部が除去されている)。つまり、中空四角錐22の底辺をLとしたとき、
2L<L
となっている。
【0052】
なお、その他の構成は前述した実施の形態1と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
この実施の形態2では、くさび形部分21の先端側稜線21aの長さLを調整することで、電波吸収特性の微調整が可能である。
【0054】
図14乃至図16を用いて本発明に係る電波吸収体及びその製造方法の実施の形態3を説明する。図14は電波吸収体40の外観を示し、図15(A)のように四角形(長方形等)の薄板状電波吸収材11を2箇所折り曲げて、同図(B)のような一面開口の中空四面体20を4個作製し、中空四面体20の開口面が中空四角錐42の側面を形成するように連結一体化した同図(C)の形状となっている。前記開口面が二等辺三角形を成していれば、前記中空四角錐は正四角錐のピラミッド形となる。前記中空四面体20の開口面に対向する面は三角形面20aとなっており、この三角形面20aに対して折れ曲がって立ち上がった逆三角形面20bは一辺20cにおいて互いに突き合わされ、接合されてくさび形部分41を成すものである。従って、図14、図15(C)の中空四面体20を4個組み合わせた状態では、くさび形部分41は中空四角錐42の外側の角(稜線)に沿って形成されることになる。
【0055】
図16は図14の電波吸収体40を製造するために用いる薄板状電波吸収材50を示し、中空四面体20の開口面に対向する三角形面20aとなる第1領域51と、三角形面20aから立ち上がる2つの逆三角形面20bとなる第2及び第3領域52,53と、連結のための接着代(糊代)54とからなっている。
【0056】
そして、薄板状電波吸収材50を各領域51,52,53の境界線に沿って折り曲げ加工し、接着代54を利用して中空四面体20を作製し、作製された4個の中空四面体20を、中空四面体20の開口面が中空四角錐22の側面を形成するように接着代54を利用して両面接着テープや接着剤等で連結一体化することで、完成状態の電波吸収体40が得られる。
【0057】
この実施の形態3に示す電波吸収体40の外観形状も、2つのくさび形を交差させて設けたものに類似し、前述の実施の形態1とほぼ同様の電波吸収特性が得られる。その他の作用効果も前述の実施の形態1と同様である。
【0058】
図17は本発明に係る電波吸収体の実施の形態4であって、電波吸収体60は一面開口の中空四面体20の3個を、中空四面体20の開口面に対向する三角形面20aが中空三角錐23の側面を形成するように(開口面が外向きとなるように)連結した形状を有する。
【0059】
図18は本発明に係る電波吸収体の実施の形態5であって、電波吸収体70は一面開口の中空四面体20の3個を、中空四面体20の開口面が中空三角錐24の側面を形成するように(開口面が内向きとなり、三角形面20aが外側となるように)連結した形状を有する。
【0060】
これらの実施の形態4及び5の場合、中空三角錐23,24の外側に形成されたくさび形部分21が3方向を向いており、従来のくさび形の電波吸収体に比較して到来電波の偏波面に起因する偏波面特性差が少ない特性となる。その他の作用効果は前述の実施の形態1と同様である。
【0061】
なお、実施の形態4,5は中空四面体を3個組み合わせた形状であるが、中空四面体を5個以上組み合わせた形状としても良い。つまり、一面開口の中空四面体の5個以上を、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体、あるいは一面開口の中空四面体の5個以上を、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体であってもよい。
【0062】
また、実施の形態3〜5の場合においても、図13の実施の形態2と同様に中空角錐の外側に形成されたくさび形部分の先端側稜線の長さを、前記中空角錐の底辺の長さの半分よりも短く設定してもよい。
なお、中空四面体を構成するための薄板状電波吸収材は、図24(A),(B)の形状であってもよい。図24(A)は左右対称の台形の上辺又は底辺から、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を切り欠いた形状である。また、図24(B)は左右対称の台形の上辺又は底辺に、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を足した五角形状である。いずれの形状であっても、三角形面となる部分の境界線に沿って折り曲げたときに、一面開口の中空四面体の電波吸収材を構成することが可能である。
換言すれば、二等辺三角形と、当該二等辺三角形の二等辺を共有する2つの三角形とを当該二等辺において折り曲げ可能に連結した形状を有する、又は取り出し可能に配置した構成である。
なお、それにの電波吸収材において、電波吸収体組立時の嵌め合わせのための切欠又は突起がさらに付加されていてもよい。
【0063】
図19は本発明の電波暗室を示す実施の形態6であって、前記実施の形態1で述べた電波吸収体10を用いたものである。図19において、電波暗室の内壁面を構成するシールドパネル(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)80の室内側の面にフェライト焼結体(フェライトタイル)81が敷設され、その前面に電波吸収体10が相互に隣接して多数配置固定されている。通常、電波暗室の側壁面及び天井面を図19の構成とする。
【0064】
この電波暗室の構成によれば、実施の形態1に示した電波吸収体10を用いることで、施工が容易で、低周波から高周波まで良好な電波吸収特性とすることが可能で、低コストで高い電波暗室性能を実現可能である。
【0065】
なお、図7及び図8の段ボール構造の電波吸収材は実施の形態2〜5に示した電波吸収体にも適用可能であることは自明である。
【0066】
また、電波暗室を示す実施の形態6において、実施の形態1に示した電波吸収体を用いたが、他の実施の形態に示した電波吸収体も使用可能であり、一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体、あるいは一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体を用いることができる。
【0067】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1であって、電波吸収体を示す斜視図である。
【図2】実施の形態1に示した電波吸収体の構造及び製造方法を示す説明図である。
【図3】実施の形態1に示した電波吸収体の製造方法の一例を説明する斜視図である。
【図4】実施の形態1に示した電波吸収体の製造方法のもう一つの例を示す説明図である。
【図5】実施の形態1に示した電波吸収体の製造方法の他の例に用いる薄板状電波吸収材の形状を示す平面図である。
【図6】図5の薄板状電波吸収材を用いた製造方法を説明する分解斜視図である。
【図7】実施の形態1に示した電波吸収体に用いることが可能な段ボール構造の電波吸収材を示す斜視図である。
【図8】実施の形態1に示した電波吸収体に用いることが可能な段ボール構造の電波吸収材を示す断面図である。
【図9】電波吸収体の測定試料であって、(A)はフェライト焼結体の前面に四角筒形状の電波吸収体を配置した場合、(B)はフェライト焼結体の前面に実施の形態1に示したくさび形を交差させた形状の電波吸収体を配置した場合をそれぞれ示す斜視図である。
【図10】図9(A)のフェライト焼結体の前面に配置された電波吸収体が四角筒形状のときの反射減衰量の周波数特性図である。
【図11】四角筒形状の電波吸収体の対向する二辺を閉じて1つのくさび形を形成した場合で、くさび形の先端綾線が電界に垂直なときと平行なときの反射減衰量の周波数特性図である。
【図12】2つのくさび形を交差させた形状、つまり本発明の実施の形態1の形状の場合の反射減衰量の周波数特性図である。
【図13】本発明の実施の形態2であって、電波吸収体の斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態3であって、電波吸収体の斜視図である。
【図15】実施の形態3に示した電波吸収体の構造及び製造方法を示す説明図である。
【図16】実施の形態3に示した電波吸収体の製造方法に用いる薄板状電波吸収材の形状を示す平面図である。
【図17】本発明の実施の形態4であって、電波吸収体の斜視図である。
【図18】本発明の実施の形態5であって、電波吸収体の斜視図である。
【図19】本発明の実施の形態6であって、電波暗室の部分断面図である。
【図20】複合型電波吸収体の一般的構成を示す側面図である。
【図21】中空ピラミッド形の複合型電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図22】中空くさび形の複合型電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図23】側面開口を有する中空くさび形の複合型電波吸収体であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図24】本発明で使用できる薄板状電波吸収材であって、(A)は薄板状電波吸収材の1例を示す平面図、(B)は他の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0069】
1,81 フェライト焼結体
2,10,40,60,70 電波吸収体
11,12,16,30,50 電波吸収材
20 中空四面体
22,42 中空四角錐
23,24 中空三角錐
25 連結部材
28 突部
29 スリット
31 ライナ
32 中芯
80 シールドパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項3】
前記中空角錐の外側に形成されたくさび形部分の先端側稜線の長さは、前記中空角錐の底辺の長さの半分よりも短いことを特徴とする請求項1又は2記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記中空四面体が4個連結した形状であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の電波吸収体。
【請求項5】
薄板状の電波吸収材からなることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記薄板状の電波吸収材は少なくとも1枚のシートが導電性材料を含む段ボール構造であることを特徴とする請求項5記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記薄板状の電波吸収材の基材が難燃性または不燃性を有することを特徴とする請求項5又は6記載の電波吸収体。
【請求項8】
前記中空角錐の底面にフェライト焼結体が配置されていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の電波吸収体。
【請求項9】
薄板状の電波吸収材を2箇所折り曲げて一面開口の中空四面体を3個以上作製し、該中空四面体の開口面に対向する面が中空角錐の側面を形成するように連結することを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項10】
一面開口の中空四面体の3個以上を、該中空四面体の開口面に対向する三角形面が中空角錐の側面を形成するように連結した形状を有する電波吸収体の製造方法であって、
第1の中空四面体の開口面に対向する三角形面となる第1領域と、前記第1の中空四面体に隣接する第2の中空四面体の開口面に対向する三角形面から立ち上がる逆三角形面となる第2領域とを含む第1の薄板状の電波吸収材と、
前記第1の中空四面体の開口面に対向する三角形面から立ち上がる逆三角形面を含む第2の薄板状の電波吸収材とを用い、
前記第1の薄板状の電波吸収材の第1領域と第2領域の境界位置に、前記第2の薄板状の電波吸収材を接合したものを3個以上連結することを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項11】
薄板状の電波吸収材を2箇所折り曲げて一面開口の中空四面体を3個以上作製し、該中空四面体の開口面が中空角錐の側面を形成するように連結することを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項12】
室内側側壁面、天井面の少なくとも一面に請求項1乃至8のいずれか記載の電波吸収体を配設したことを特徴とする電波暗室。
【請求項13】
三角形面となる部分の境界線に沿って折り曲げる場合に、一面開口の中空四面体となるようにしたことを特徴とする薄板状電波吸収材。
【請求項14】
左右対称の台形の上辺又は底辺から、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を切り欠いた形状、又は左右対称の台形の上辺又は底辺に、前記上辺又は底辺と等しい長さの底辺を持つ二等辺三角形を足した五角形状を有している、又は取り出し可能に配置したことを特徴とする薄板状電波吸収材。
【請求項15】
二等辺三角形と、当該二等辺三角形の二等辺を共有する2つの三角形とを当該二等辺において折り曲げ可能に連結した形状を有する、又は取り出し可能に配置したことを特徴とする電波吸収材。
【請求項16】
請求項13、14又は15の電波吸収材において、嵌め合わせのための切欠又は突起が設けられていることを特徴とする電波吸収材。
【請求項17】
一面開口の中空四面体形状であることを特徴とする電波吸収材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−67395(P2007−67395A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215125(P2006−215125)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】